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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
アフター・ウォーズ

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787/811

787. エルク・ガルタの婚約発表

菫とエルク・ガルタの婚約式が終えると、里の生活は元通りに戻りつつある。人々は久しぶりの明るい話題に会話しながら、仕事に励んでいる。そして里に負けないぐらい、スズキノヤマでもしばらくの間、二人の婚約式が話題になった。


何にせよ、エルク・ガルタは一度失敗したからだ。結婚前提で付き合った姉の百合は、なぜかその護衛官だったファルマンと結婚した。ついでに、そのファルマンが子爵という位を与えられて、今は厚生大臣としてエフェルガンを支えている。けれど、人々はやはりエルク・ガルタの動きに興味を示している。なぜなら、彼は戦いに破られても、帰国しなかったからだ。


その理由も明白だった。侯爵になったエルク・ガルタは、エフェルガンの命令に従い、海外空軍基地の将軍となって、里で修業してきた。


そして約二年間、エルク・ガルタについて音沙汰もない時が流れていて、人々を驚かせた突然の婚約式の発表だった。しかも、その相手はダルゴダス家の三女、菫だ。


長女のローズはエフェルガンの妃となって、次女の百合はファルマンの妻に、そして三女の菫はエルク・ガルタの婚約者に・・。三姉妹を揃って、スズキノヤマへ嫁ぐことになった。そのことで、スズキノヤマでは大変な話題になっている。





「じゃ、エルク・ガルタは首都で屋敷を買ったのね」

「はい」


中庭で休んでいるローズが聞くと、フォレットはうなずいた。フォレットは毒味役アマンジャヤにそのお茶を差し出して、安全性を確認するように、と合図を出した。アマンジャヤはそのお茶を確認してから、そのお茶をローズに差し出した。ローズはうなずいて、ゆっくりとお茶を飲んだ。


「場所はどの辺り?」

「宮殿から東側辺りでございます」

「町の中?」

「はい」


フォレットがうなずきながら、侍女からお菓子の箱を受け取った。これはフェルザが絶賛したお菓子であって、欅の大好物だ。ズルグンの働きによって、今回は試験的にスズキノヤマで発売することになった。


「大きな屋敷だから、しかも町の中となると、値段はきっと高いでしょう?」


ローズはそう言いながらお菓子を一枚を取って、口に入れた。懐かしい味だ、と彼女はそう思いながら食べた。


「ガルタ家はお金持ちでございます。エルク・ガルタ様は軍事だけではなく、資産家でも有名な話でございます。それに、ガルタ家は昔からの貴族ですから、それなりに財産をお持ちでしょう」


フォレットが微笑みながら箱を机に置いた。


「それに、その辺りの屋敷は長い間、ずっと買い手が付かなくて、価格も少し安くなった、という話も聞いております」

「そうなんだ。前の持ち主も貴族だったんだ」

「はい」


フォレットがうなずいた。


「前の持ち主は誰のだったの?」

「レンドラ家でございます」

「あら・・」


ローズは瞬いた。その名前は知っている、とローズは静かにお茶を飲んだ。彼女はあの日のことを、今でも覚えている。レンドラが謀反を起こして、彼女を毒殺しようとした。それだけではなく、魔法陣で彼女を魔石に閉じ込めようとした。けれど、あの時、ローズの護衛であるエファインの働きによって、ローズを救った。しかし、代わりにエファインが魔石に閉じ込められてしまった。


「もうあそこは大丈夫なの?」

「はい」


ローズの不安を察したか、フォレットは微笑みながらうなずいた。


「もうあの時のような魔法陣などがございません。ご安心ください」

「うむ、はい」


ローズはまたお茶を飲んで、考え込んだ。レンドラの襲撃を受けて、彼女だけではなく、彼女の護衛であるリンカも毒で倒れてしまった。その記憶が強く残ったからか、ローズはしばらく沈黙した。


「それに、あの時の建物はもうすでに更地にされております。残ったのは本屋敷であって、住まいだったと聞いております。物がほとんどなく、空っぽの建物でございます」

「じゃ、支払ったお金はどこへ入るの?レンドラ家へ?」

「国庫へ入ることになっております」

「あ、そうなんだ」


ローズが瞬いた。


「でも、あれってレンドラ家の物件でしょう?」

「いいえ、国が没収したので、国の物でございました」


フォレットは丁寧に説明した。


「それに、レンドラ家はもうございません。いたとしても、彼らはレンドラ家として名乗りませんでしょう」

「なんで?謀反したから?」

「はい」


フォレットがうなずいた。


「陛下はレンドラ家をお取り潰しなさいました」

「そうなんだ」


ローズがうなずいて、机の上にあるお菓子をとって、うなずいた。彼女はしばらくフォレットと会話をしてから、部屋に入った。


「ちょっと休みたいから、夕餉の支度の時間に教えて」

「はい」

「下がって良いわ」

「かしこまりました」


侍女達がローズの寝室から出て行った。けれど、侍女たちが外へ出て行ったものの、部屋の中にはハインズとエファインが残って、応接室の近くに座っている。部屋の前にも、数人の護衛官らがいる。ローズを一人にしないというエフェルガンの命令は絶対だ。


ローズはそんな護衛官らを見て、ため息ついて、机に向けて、考え込んだ。鈴の言う通り、彼女がこの国へ来なければ、多分彼女はエフェルガンと深く関わることもなかったでしょう。彼女がスズキノヤマに来たことによって、ことが急激に動き出した。ローズは目を閉じて、あの日のことを思い出した。憎しみ、裏切り、陰謀、暗殺、謀反・・、そして戦争。彼女はもううんざりするほど、体験した。悲しみや苦しみも味わった。


けれど、その中で、人々の希望が見えた。そして、彼らとともに乗り越えた。


乗り越えたから、今がある。


「ハインズ」


ローズが立ち上がって、応接室へ向かった。


「はい」


ハインズとエファインが揃って立ち上がって、ローズを見ている。


「出かけたい」

「どこへ?」

「トキアへ」

「・・・」


ハインズは答えなかった。なぜなら、トキアは首都スズキノヤマから遠いからだ。


「陛下に許可を取らなければなりません」


エファインが答えると、ローズはうなずいた。


「任せるわ」

「はい」


ローズは魔法を唱えると、輪っかが現れて、彼女はそのままその中へ入った。慌てたハインズは輪っかの中へ飛びかかって、そこはトキア町の別荘だった。


突然ローズが現れたからか、執事のバユタマが驚いて、急いで走って駆けつけて行った。


「皇后様!」

「あ、バユタマ。ごめんね、突然来てしまって」

「あ、いいえ、お帰りなさいませ」


バユタマが挨拶すると、ローズが微笑んで、うなずいた。ハインズはバユタマを見て、険しい顔でうなずいただけだった。


サーッ!


「ローズ様!」

「あら、カール・・、ソラまで」


ローズがトキアへ着いた間もなく、いきなりカールが現れた。その次にソラが現れた。非番だったからか、ソラは私服で現れた。


「ローズ様、急に出かけるのはやめていただきたい。もしも私はお風呂中でしたら、大変なことになりますよ?」

「ごめんね、カール。畑が気になっただけなの」

「何の畑ですか?」

「あそこにある畑よ」


カールは微笑みながらローズに聞いた。そしてカールが手を伸ばすと、ローズはカールの手をとって、二人が畑に向かった。それを見たハインズとソラは険しい顔で二人を見ている。けれど、二人は何もなかったように笑いながら会話した。


龍神の言う通り、カールは事前に離れると言わなければ、ローズと遠くへ離れることができないようだ、とハインズは思った。どうやら強制的に、カールはローズの近くにいるようになった。


「ローズ様!」


彼女が開けた輪っかからエファインや他の護衛官が現れて、駆けつけて行った。


「もう・・、ただ畑を見に来ただけなのに、みんな大げさだわ」


ローズがブツブツと文句を言いながら畑に向かって歩いた。ローズの仕草を見たカールは軽く笑って、周囲を見渡した。


「何の畑ですか?」


カールが興味津々でローズの隣で歩いて、青々としている畑を見渡した。


「青ビッツとマシタードなの」

「へぇ・・、美味しいのですか?」

「うん」


ローズはうなずきながら成長した植物を満足そうな表情で見ている。彼女は葉っぱを触れて、植物の成長を確認した。


「これね、種を潰して、肉料理と一緒に食べると、とても合うんだ」

「そうですか・・。ぜひ食べてみたいと思います」

「市場でも結構売られているよ。後で買ってこようか?」

「ぜひ。私がこの国の食べ物はよく知りませんので、どれが美味しいか、教えてください」

「うん!きっと好きになるよ」


カールが興味津々で言うと、ローズは笑った。


「ローズ!」


しばらく経ってから、エフェルガンらが輪っかの中から入って来た。


「あら、陛下。すぐ戻るのに、わざわざ・・、忙しいでしょう?」


ローズがにっこりと笑いながら言うと、エフェルガンはすぐさま彼女を抱きしめた。


「会議があった。だが、もう終わった。輪っかを閉じても構わない」

「そう?」

「ああ」


エフェルガンはうなずいた。ローズの近くで立っているカールとソラを見て、エフェルガンはすぐさま理解した。二人とも龍神と風龍に召喚されたようだ、とエフェルガンは思った。


「どうしていきなりトキアに?」

「畑が気になっただけだった。でも、見ての通り、とても元気に育っているわ」


ローズが言うと、エフェルガンはローズを少し離して、畑を見渡した。連絡を受けた畑の担当者らが急いで来て、エフェルガンの前で頭を下げた。


「良く育ててくれた。大義であった」

「もったいないお言葉でございます」


エフェルガンが言うと、彼らは揃って頭を下げた。その後、エフェルガンはローズの手をにぎりながら、バユタマに声をかけた。そして二人は図書館や市場を視察してから、その日の内に首都へ帰った。


その日の夜、宮殿の食卓には庶民定番の骨スープがあがった。トキアの市場でローズがラハッドの骨スープを見て、食べたいとねだった。エフェルガンはうなずいて、ラハッドの骨スープを全部買うことにした。鍋は後日返すということで、鍋ごと宮殿へ運んだ。それだけではなく、串焼きや焼き芋など、その市場の屋台の売り物をまとめて買って、宮殿へ送った。





「美味しいか?」

「うん。懐かしい味だわ。ありがとうございます、陛下」

「エフェルガンだ」


エフェルガンは串焼きを食べながらローズの言葉を指摘した。


「二人だけのときに、陛下ではなく、エフェルガンで呼んで欲しい、と前にも言ったはずだ」

「うむ、はい」


ローズは焼き芋に手を伸ばして、考え込んだ。


「ねぇ、エフェルガン」

「何?」

「今日はトキアまで来てくれて、ありがとう」

「どういたしまして」


エフェルガンは串焼きをもう一本をとって、辛いたれをかけた。


「別にどこへ行くことに咎めるつもりがないが、できるだけ事前に言ってくれ。視察もあるから、その辺りを調整したい」

「分かった」


ローズはうなずいて、焼き芋を味わって食べる。


「そういえば、ガルタ将軍はレンドラ元公爵の屋敷を買ったと聞いたわ」

「ああ。先月辺りに購入を検討して、僕に相談してきた。彼のような重要な人材はできるだけ首都に屋敷を構えて欲しいと言う僕の願いも一致して、購入を許した」


エフェルガンは串焼きを食べながらローズを見ている。


「フォレットから聞いたけど、もう魔法陣はないって?」

「その通りだ。僕は直々にその屋敷と庭ごとを術破壊の魔法をかけた。だから心配するな、もう怪しげな術など、ない」

「ありがとうございます」

「問題ない」


エフェルガンは微笑みながらうなずいた。


「工事はもうすでに始まったから、菫令嬢がエルク・ガルタと結婚するときにもうきれいな状態になるだろう」

「そうなんだ。じゃ、問題ないのね」


ローズはうなずいた。彼女は次の芋を取って、皮を丁寧に剥きながら、考え込んだ。


「んー、でも、ガルタ将軍って、とてももてるでしょう?ガルタ将軍愛好会というか、彼のことが好きだ、という令嬢達が多いと聞いたけど」

「そうだな。令嬢たちだけではなく、この国の女性ら半分以上は彼のことが好きだと思っても過言ではないほどの人気ぶりだ」


エフェルガンは笑いながら答えた。


「うむ。以前百合さんと結婚前提のお付き合った時、死人が出た事件があったでしょう?今回は大丈夫なの?また同じような事件があると、困るけど」

「問題ないよ」


エフェルガンは即答した。ローズはエフェルガンを見ながら、焼き芋を食べている。


「婚約式の一週間前から、宮殿は正式に二人の婚約を発表した。このことを全国に発表された」

「ふむふむ」

「それに、今回も皇后の妹君である菫令嬢の婚約式だから、とても喜ばしいことだ」

「百合さんの時もそうだった?」

「そうだよ」

「そうなんだ」


ローズは白湯を飲んで、エフェルガンを見つめている。


「ちなみに、ローズとの結婚披露宴も正式な知らせを出したよ」

「あの時の?里での結婚が?」

「そうだよ」


エフェルガンは微笑んだ。


「おかしくないの?私たちが二回も結婚したということなんだけど?」

「何がおかしい?文化が違うのだから、そうするしかない、ということにした」

「うむ」

「それに、ダナで行われた僕らの結婚式と披露宴は、皇太子の結婚にしてはとても地味で、規模も小さかった、という意見もあった。僕もそう思った。宮殿で結婚披露宴でもしようと思ったが、複雑な事情があったから、できなかっただろう?」

「うん」

「その後、またいろいろあって、・・」


エフェルガンは言葉を詰まらせて、グラスを見つめている。


「・・終いに、ローズを失った」


エフェルガンはため息ついた。あのころは彼にとって、とてもつらい時期だった。


「うむ」


ローズは複雑な目でエフェルガンを見ている。


「だが、戦争が終わって、なんとかそなたがこの手に戻った」


エフェルガンは優しい口調で言った。「手に戻った」というよりも「奪い返した」の方が正しいかもしれない、とローズは思った。モルグ戦争の後、スズキノヤマ軍は着々とアルハトロスの周囲を囲んだ。たった数ヶ月だけで、彼らはいつでも攻撃可能な体制が整えた。それを思うと、ローズはとても複雑な気持ちになった。なぜなら、すでにロッコと再婚した彼女は、そのことで別れなければならなかったからだ。


どうしようもない離婚だった。


「・・しかも、立派な皇子らを産んでくれて、感謝する」

「うむ、はい」


ローズは複雑な気持ちで、うなずいた。エフェルガンの特徴がとても強いエフェリュー達は紛れもなく、エフェルガンの子どもたちだ。


「ローズ」

「はい」

「一つ提案がある」

「はい」


ローズは姿勢を正しくして、うなずいた。


「週に一度、今日みたいに、どこかへ行こう」

「え?良いの?」


ローズは耳を疑った。


「はい」

「でも、さっき事前に言わないといけないって・・」

「僕に言えば良い。僕が一緒に行けるときは二人で行こう。皇子らがいるときにも、一緒に行こう。短時間なら、どこへ行っても問題ない」

「わー!ありがとう!」


ローズの顔に笑顔が現れた。


「この国は広い。家臣任せだけだと、見落とす問題もあるだろう。無論、何もなければ、それもまた良し」

「はい」

「それに、無人島に散らばったそなたの神殿もいくつかがある。手入れはさせているが、本当に手入れされているかどうか、たまに確認しないとまずい。疎かにされて、いきなり海龍様が怒ったら、大変だ」

「うん、確かに・・」

「それに、たまにエルゴタニエアにもお参りしないといけない」

「うむ、はい」


ローズはうなずいた。唯一に存在している闇龍の神殿はスズキノヤマの南にある島、エルゴタニエアにある。エフェルガンの剣である「闇龍(アルテア)の剣」もその神殿で手に入れた。


「エルゴタニエアに行くなら、事前にダルスクマイネ殿とソラに暖かい服を着るように言わないといけない」

「うん」


ローズはうなずいた。彼女自身もその理由を理解している。エルゴタニエアはとても寒いからだ。


「あ、エフェルガン、カールを受け入れてくれて、嬉しかった。ありがとう」


ローズが言うと、エフェルガンは動きを止めて、ローズを見て微笑んだ。


これだけはどうしようもない、と彼は理解している。龍神の紋章を持っているカールは何しても排除できない。受け入れるしかない。


「そなたを守るためなら、僕は何だってするよ」


例え気に入らない相手でも・・、とエフェルガンはそう思いながら微笑んだ。


「さて、串焼きと焼き芋がまだ少し残った。冷めないうちに食べよう」

「うん」


ローズがにっこりと微笑んで、うなずいた。その夜、二人が遅くまで会話をしながら、ゆっくりと時を過ごした。


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