779. 襲撃の真相(42)
「栄光なるモルグ・・」
その言葉の後、シルマンタ・フォルテと名乗ったロッコは気を失って、そのまま魔石へ入れられた。そして、ロッコの魔石はガーマン・ダブウェストへ届けられた。
「これはシルマンタ・フォルテの魔石なのか?」
ガーマンは目の前にある箱の中身を見て、瞬いた。
「間違いなく、シルマンタ・フォルテ様のご魔石でございます」
「なんと・・」
ガーマンは息を呑んだ。今まで見たこともない美しさだ。魔力が高いとされた自分の母親の魔石でさえこのような姿ではなかった。シルマンタ・フォルテの魔石は七色の輝きを放つ上に、その魔石もキラキラと自ら輝いている。
途轍もなく、大きな魔力を意味することだ。
「シルマンタ・フォルテの最後の様子はどうだった?」
「大変ご立派でございました。眠り薬入りの紅茶を召し上がって、これで最後だという覚悟と言いましょうか、彼は「栄光なるモルグ・・」と仰って、お眠りになりました。私どもが、彼のような立派な御仁に出会ったことは初めてでした」
その男性が言うと、ガーマンは魔石に向かって、無言で立ち上がって、頭を深く下げた。しばらくすると、その日に届けられた魔石を見て、それぞれの情報を確認した。その後、ガーマンは一人の配下と一緒に王の下へ向かった。
「素晴らしい」
国王はその魔石を見て、息を呑んだ。
「この魔石の持ち主は、どこの誰だったか?」
「シルマンタ・フォルテ、私の遠縁でございます」
「ほう?これほどの魔力があれば、将軍にでもしたのに・・」
「私もそう思います。ですが、彼がここに来るのは少し遅かった・・」
ガーマンはため息ついた。
「この戦争が終わったら、彼を取り出す方法を考えよう。以前本国では、大王陛下が大王妃様を魔石から取り出した、という話を聞いた」
「はい」
国王はそう言いながら、光り輝く魔石をなでた。
「だが、まず、この戦争に勝たなければならない」
「この魔石で、勝つには当然なことでございましょう」
「そうだな」
国王はガーマンの言葉を聞いて、うなずいた。
「彼の種はカリニアに託しました」
「しっかり育てよう。可能ならば、何人かに増やして欲しい。シルマンタ・フォルテのような人材はなかなかいないからだ」
「かしこまりました。戻りましたら、早速担当の者にそう伝えましょう」
「頼んだぞ」
「お任せを」
ガーマンは頭を下げてから退室した。
「素晴らしい・・」
国王は再びその魔石を見て、息を呑んだ。
「シルマンタ・フォルテという名前は始めて聞いた」
「ガーマン・ダブウェスト殿の遠縁だと聞いております。昨夜その方の歓迎パーティが行われておりました。私の屋敷にも招待状が届いたが、ちょうど留守で出席できませんでした」
国王が言うと、一人の従者は近づいて、言った。
「ほう」
「魔法省からの報告によると、シルマンタ・フォルテが昨日一束の巨大雷鳥の札をお作りになった、とか」
「その時点で、彼の魔力の大きさですぐに分かるだろう。なぜ余に言わなかった」
「連絡は午後ぐらい宮殿に届きましたが、それから確認したところで、魔法省から返事がまだない、と。恐らくもう夜だから、帰ってしまうのではないか、ということでした」
「仕方がない」
国王はうなずいた。
「そういえば、確か、ガーマン・ダブウェストの母方の家はフォルテ家だな?」
「はい」
国王は会話しながらその魔石を自分の胸に設置した。
「話から聞くと、フォルテ家は昔から優れた魔力を持っていると伝えられます」
「ふむ」
国王は報告書に載っている情報を読んで、確かめた。
「エルカモルグのメルケ島出身・・?」
国王は少し考え込んだ。
「もしかすると、アート・フォルテと関係あるのか?」
「ご子息だと書かれております。・・ですが、陛下はアート・フォルテ様のことをご存じですか?」
「無論、知っている」
国王はうなずいた。
「彼ほどの人を、知らない方がおかしい。モルグ本土なら誰でも彼のことを知っていた」
「そうでございましたか。彼は英雄だと父から聞いております」
「英雄か・・。そうだな、彼は英雄だ」
国王はため息ついた。
「余は本国で彼と出会った。聡明な人でね、魔力も高く、剣術も素晴らしい人だった。彼がエルカモルグに配属されて、旅立った日を最後に余と最後に酒を飲み交わした。いつかまた、と言っておったが、・・こんな形で彼の形見と出会うとは・・」
国王は悔しそうに言った。
「あの国はスズキノヤマに滅ぼされました。原因は大王妃様に関する問題だと伺いました」
「エルカモルグは大王妃様を救いたかったからだ。どうしても大王妃様を助けたかったが、やり方はあまり賢くなかった」
「・・賞金首ハンターに依頼したと伺っております」
「それがダメだ。相手はあの鬼神だぞ?」
国王はため息ついた。
「鬼神は賢い。スズキノヤマ皇帝は恐らく鬼神からの依頼を受けて、エルカモルグを滅ぼしただろう。あの国の軍事力は世界一だからだ」
「依頼を受けて、その報酬として、大王妃様があの皇帝に差し上げられた、ということでしょうか?」
「そうだ」
「かわいそうに・・」
「それは負けた側の運命だ」
国王が言うと、その配下はしばらく無言になった。
「では、この戦いは勝たなければなりませんね」
「当然だ。だからこんなにも細かい計画を立てた。スズキノヤマをまともに相手にするなど、余は愚かではない。わざわざエルムンドでこの計画をしたのも、そのためだ」
「はい」
その配下はうなずいた。
「もしも、この戦争で我々が大王妃様を奪い取るができたとしたら、陛下は何をなさるのですか?」
「とりあえず、何もせず、そのまま魔石にする。魔石のままだと移動しやすいだけではなく、安全だ。そうだな、家宝にするのも良い」
「家宝・・?」
その配下の男性は首を傾げた。
「余の冠の宝石にでも良いと思う」
国王はうなずいた。
「とにかく、大王妃様にはこれ以上の苦しみを与えてはならない。あの皇帝の子どもを産むなど、そのような侮辱を耐えながら生きていくなんて、どれほど苦しいか、想像絶することだ」
「子ども・・」
「三人も産んだらしい」
「三人も?三つ子でございますか?」
「多分。だが、かなり奇妙な生き物だと聞いている。恐らくあの皇帝の悪趣味で、実験体か魔法で子どもを成したのであろう」
「・・・」
「が、その子どもたちの魔力はとても高いらしい」
奇妙な生き物とは、どんな人種か、とその配下は首を傾げた。
「彼らを手に入れることができれば、種馬として使えるがな」
「より良いモルグ人のために?」
「そうだ」
国王はうなずいた。
「大王陛下は正しかった。だから余も迷わない。この戦いを勝たなければならない。大王陛下の無念、そして余の友であるアート・フォルテの無念も、彼らの仇を討たなければならない」
「仇・・」
「そうだ。それに、この戦いもシルマンタ・フォルテにとって仇を討つ、ということでもあろう?」
「仰るとおりでございます」
その配下はうなずいた。国王は立ち上がって、剣を取って、腰に付けた。
「よし、行くぞ!」
「はい」
二人は部屋の外へ出て行った。ここはエルムンドの一番東にある島で、エルムンド側との話し合いでモルグが使っても良い場所だ。もちろんモルグ側は莫大なお金を包んで、この交渉が成功した。
ここは無人島、住民がいない島だ。
代えて、その方がモルグにとってもやりやすい。モルグ側の参謀の指示で、彼らは事細かく罠や結界を島の至る所に設置した。
「エルムンド側の攻撃に合わせて、我々はここで待機すれば良いか、と」
「そういう作戦だったのだな」
「はい」
その配下はうなずいた。
「ですが、そんなに簡単に罠に引っかかるのでしょうか?」
「彼らは意外と単純だ。想像も付かない裏切りも想定していないだろう?」
「裏切り、ですか?」
その配下は戸惑いながら聞いた。
「そうか。聞いていなかったのか」
「私どもは作戦について、ここで待機すること以外、何も伺っておりません」
その配下が言うと、国王は一瞬彼をみて、微笑んだ。
「そうか」
国王はうなずいた。
「それは、カンタ・フィデルが情報の流れを徹底的に管理してくれたからだ」
「ですが、陛下の安全をお守りする役目の我々にも情報を共有しないと、困ります」
「まぁ、許せ」
国王は戦闘準備をしているエスティナモルグ軍の兵士らを見ながら言った。
「あれは余の命令だったからだ」
「あ、はい」
国王は走って来た一人の男性を見ながら言った。
「申し上げます!陛下、鳥が罠にかかりました!」
「良し、結界発動せよ!」
「ははっ!」
国王が言うと、兵士は敬礼して、再び走り去った。
「行くぞ!」
「はっ!」
国王は立ち上がって、配下とともに戦場へ向かった。
エスティナモルグ軍はいくつかに別れて、スズキノヤマ軍を向かい撃つことになった。地上にいる魔法師らが巨大な術を発動させて、罠に落ちたローズ達を困らせた。主に脱出できないように、念入りに術の妨害を行って、思った通りローズ達は逃げることができなかった。
「撃って!」
「発射!」
下から見える光り輝く人はローズだった。実に分かりやすくて、狙いやすかった。下から放たれた光が命中して、彼女を一瞬にして、魔石にした。けれども、同時に、別の方向から別の光が現れて、その魔石に当たった。
「なんだか大きい」
国王が言うと、兵士らがその武器を確認した。
「故障かもしれません。確認致します!」
「そんな暇はない!次の攻撃に備えろ!」
「はっ!」
上空を見ると、とても慌ただしい状況が分かる。武器と武器のぶつかり音や、悲鳴や罵声が聞こえている。そして先ほどよりも人が増えた。結界が破れている様子も明らかだったから、エスティナモルグ側が武器の交換をする暇がなかった。
「撃って!」
「発射!」
再び光が放たれた。エスティナモルグ軍の将軍は次々と発射命令をした。いくつか命中したものの、機械がついに壊れてしまった。
「予備を持って来い!」
「はっ!」
国王の命令が響くと、兵士らが急いで走って去った。彼は次々と指示を出すと、兵士らが急いで壊れかけた結界を直した。
なんとか場所移動の魔法を防ぐことができた。
「うるさい!」
突然子どもの声が聞こえた。国王はその声がした方向へ見上げると、突然地面の中から枝が現れて、結界を直しているエスティナモルグ軍の兵士らを串刺しにした。
「第三部隊、第四部隊、第五部隊、出撃せよ!」
国王が命じると、待機した部隊が次々と結界内へ入った。
「余も行く」
「ですが、危険でございます!」
「戦場では、安全な場所などない」
国王が上空を見つめながら言った。
「例え余が命を失っても、余の変わりにモルグを導く者はきっといる」
「・・はい」
「栄光なるモルグ!」
「栄光なるモルグ!」
国王は特別部隊と一緒に上空へ上がって、結界の中に入った。
やはり子どもたちは奇妙な姿をしている、とモルグ人達が柊達を見て、驚いた。それ以上に、龍の紋章を持っている人々、そして鬼神でさえ、一人の男の前に倒れ込んで動けない様子を目の当たりにした。国王は微笑んだ。
これなら勝てる、と彼が嬉しそうにうなずいた。けれども、一人の子どもが大きな声で叫んだ。
明らかに風に声を乗せた、と国王は思った。まだ幼い子どもなのに、そこまでできると思うと、将来勇猛だ。
欲しい、と国王は思った。
「俺はエフェリュー・クリシュナ、スズキノヤマ帝国の皇太子だ。お前は名を名乗れ!」
「これは失礼。余はエスティナモルグ王国、国王アクバー・モーガン・二世だ」
国王は名乗った。彼の周囲にいるモルグ人らはその王子を見て、微笑んだ。けれども、和やかな雰囲気がすぐに終わってしまった。子どもたちが激しく抵抗して、エスティナモルグ側に大きな被害になった。終いに、国王の周辺にいる護衛官らもその幼い子どもの一人に切られて、死んだ。
「ほほう」
国王は子どもたちを見て、ますます興味を示した。
欲しい。何しても、一人でも良いから、欲しい。
「どうやら大人よりも、子どもたちの方が危険だ」
国王は手の平から丸い玉を出した。彼の手の平に術式が書かれているから、シルマンタ・フォルテの魔石でそのままその術式から玉を出せる。その玉は圧縮された魔力で、広い範囲で魔法の効果をもたらす。
「結界発動!」
国王が言うと、魔力の玉が消えて、結界が一瞬にして直った。けれども、モルグ人らの喜び顔が現れた。しかし、一瞬にしてその喜びが消えた。なぜなら、柊は国王の真似をして、結界を解除したからだ。
「余は子どもの相手にする暇がないと言ったはずだ!」
苛立った国王は覇気を出して、フェルザの攻撃を応戦した。覇気を気づいたフェルザは急いで後ろへ下がった。けれども、別の方向で、大きな鳥に乗り込んだ別の子どもは大きな声を吠えた。そして、そのためで、スズキノヤマ軍の士気が一気に上がった。
状況が良くない。
国王は急いでその場を離れて、結界の外へ出て行った。彼は部隊を立て直そうとした。
けれども、次の瞬間、結界内にいるエスティナモルグの兵士らが全員気を失って落ちてくる事態になった。
しかし、同時に、フェルザも魔力を失って、そのまま落ちている。木の精霊であるフェルザにとって、魔力切れは命を落とすことを意味する。けれど、計算を間違っていたフェルザは為す術もなく、そのまま落ちて行く。国王はとっさに落ちてくるフェルザを受け取ろうとした。
けれども、次の瞬間、どこからか白い煙が彼を囲んだ。
ザッシュ!ザッシュ!ザッシュ!
「あ・・」
国王はその言葉を最後にして、目を開いたまま死んだ。そして落ちてくるフェルザは誰かの手の中に落ちて行く。
「うう」
「大丈夫か?」
フェルザが目を開けると、見慣れた顔が心配そうに彼を見ている。
「ロッコ先生?」
「そうだよ」
ロッコはうなずいた。
「で、あんたは大丈夫なの?」
「うーん、分からないけど、多分魔力が切れた、と思う」
「そりゃまずいね」
ロッコはため息ついて、フェルザを持ち直して、地面に落ちている国王の首を拾って、踏み台魔法で上へ目指した。
「まさかと思うけど、エフェリューも、柊も、来てるの?」
「うん」
「まったく、おまえらは無茶ばかりしやがって・・本当に母ちゃんにそっくりだ」
ロッコが文句を言いながら柊の元へ行った。柊がバリアーを開くと、ロッコはそのままフェルザを柊の元へ投げ込んだ。
ほい、と。
「そこにいて、おとなしくしろよ、フェルザ」
「はい、先生」
フェルザは口を尖らしながらうなずいた。そして、「龍神」の元へ行ったロッコを遠くから見ている。
「ロッコ先生って、すごい人なんだね」
「うん」
柊が言うと、フェルザはうなずいて、そのままエグランドが差し出した魔力回復薬を受け取って、飲み干した。
「あの首は、さっきの男だろう?国王とか名乗った人」
「うん」
柊が言うと、フェルザは2本目の魔力回復薬を飲みながらうなずいた。
「ロッコ先生はどうやって首を執ったの?」
「いきなりもこもこもこと煙が出て、ザッシュ!ザッシュ!と音がして、気づいたらもう死んじゃった」
「へぇ、すごいね」
「うん」
フェルザがうなずいた。向こうではロッコと龍神の話し終えた様子が見えた。
「あの龍神と話せるなんて・・」
「うん」
二人は目を疑うほどだった。龍神が消えると、今度は透明な状態のテアが見えた。ロッコが上に飛び込んで、そのまま彼女を捕まえた。
「あれは母上・・?」
「うん」
柊が言うと、フェルザはうなずいた。エグランドも二人を見ている。
人ではない皇后だからか、人の力を超える皇子たちになった。エグランドは二人の皇子らをチラッと見てから、人の姿になったテアを見つめている。
「母上は大丈夫かな・・?」
「分からない」
フェルザが聞くと、柊は首を振った。しばらくすると、エファインが飛んで、彼らの無事を確認してから、ともにアルハトロスへ向かった。
アルハトロスに戻ると、女王鈴がもうすでに宮殿の前にいる。ソライヤもいて、眠っているローズをそのまま里へ送った。彼らが里に戻ると、置いて行かれた三つ子の護衛官らは心配そうな様子でエフェリュー達の無事を確認した。
「皇母は?」
「皇后様は今医療師が見ております」
「大丈夫かな?」
「分かりません」
フェルザが不安そうな様子で言うと、護衛官ラマは首を振った。
「きっと大丈夫でございましょう」
連絡を受けたズルグンは丁寧に頭を下げてから、ローズが入っている部屋を見ている。部屋の外でファリズが呼び寄せた護衛隊が厳重に守っている。しばらくしてから、ソノダやトダ、そしてガレーが出て行って、部屋の中にいるハインズに話をしてから外にいる柳とファリズに診察結果を告げた。ファリズはうなずいて、不安そうな目で見つめている三つ子を見て、微笑んだ。
大丈夫だ、と。
エフェリュー達が安堵した表情を見ると、ファリズは三人を連れて、フレイがいる部屋に送った。結局その日、エフェリュー達は疲れのあまり、遅くまで眠った。
「ロッコ殿は?」
「消えました」
「・・・」
アルハトロスに帰って来たエフェルガンはダルゴダスの会議室を借りて、部下から報告を聞いている。エフェルガンがパトリアに聞くと、パトリアは首を振った。途中からエルク・ガルタ将軍が来て、報告した。どうやら空軍らが護衛官トニーを見つけて、そのままアルハトロスに連れて帰った。話を聞くと、なんとトニーは大怪我しながら、なんとか魔石にされた仲間を見つけて、そのまま木の上で息を潜めた。ケルゼック達の魔石が机の上に並べられた。
「アナフ殿は残念ながら殉職致しました」
「そうか、・・他は無事か?」
「はい。残りの護衛官らは怪我を致しましたが、命の別状がありません」
「彼らを頼む」
ジョルグから報告を受けたエフェルガンはうなずいた。彼はその後、次々と将軍らからの報告を受けて、うなずいた。エルムンドはもう完全に押さえた。エルムンドからずっと東にあるエスティナモルグには、暗部隊が先駆けて行った。
けれども、数日後、オルカからの報告がエトゥレに届いた時、エトゥレは瞬いた。そして、その内容についてエトゥレがエフェルガンに報告すると、エフェルガンは耳を疑った。
「エスティナモルグが、消えた?」
「はい」
エトゥレがうなずいた。
「海に沈んだのか?」
「いいえ」
エトゥレが息を呑んだ。
「暗部隊がエスティナモルグに到着したとき、国そのものが、もうすでに炎に呑まれて、その・・」
エトゥレが戸惑った。
「その何だ?」
エフェルガンが苛立って、声を荒げてしまった。
「その、ラタロスモルグとそっくりで、・・跡形も無く、燃えて、滅んでしまいました」
エトゥレの言葉を聞いたエフェルガンは瞬いた。昔ラタロスモルグという国は、エフェルガンの体を乗っ取った闇龍によって滅ぼされた。
けれど、エフェルガンはアルハトロスにいる。もしかすると、あの時の龍が滅ぼしたのかもしれない、とエフェルガンは思った。ダルゴダスはあの龍のことを「龍神」と呼んだ。
ということは、龍神がエスティナモルグを滅ぼしたのか?
しかし、なぜか、彼の勘は違うと言っている。
龍神なら世界そのものを滅ぼすだろう、とエフェルガンは考え改めた。そして彼は息を呑んだ。
やはり、闇龍しかいない。
しかし、闇龍は死んだとされた。ローズ自身もなんども闇龍が死んだと告げた。
けれども、もしも、本当は闇龍が死んでいなかったら?
エフェルガンは不安になった部下達を見て、彼らの気持ちを理解した。エフェルガンは立ち上がって、うなずいた。
「報告、ご苦労だった」
エフェルガンは柔らかい声で言った。
「これから神殿へ向かう。龍神様に感謝を言わなければならない。供え物は、とりあえずある物だけで良い」




