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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
アフター・ウォーズ

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778/811

778. 襲撃の真相(41)

「お祖父様・・」

「開けてやれ、柊」

「はい。・・バリアー解除!」


柊はローズが入っている魔石のバリアーを解除した。カールは頭を下げてから、その魔石に近づいた。柳やハインズが見つめている中、カールは手を伸ばして、その魔石を触れた。


明らかに反応した、とハインズは思った。カールが触れると、魔石は光り出した。


カールは周囲を見て、兵士らにうなずいた。彼らは何らかなの結界を施して、灯りを灯した。そして、カールは跪いて、魔石に口づけた。


「ローズ様・・、いや、テア様。この命に替えても、あなた様をお助け致します。どうか、私を信じてくださいませ」


カールは愛しそうにそう言いながら魔石を抱きしめた。けれど、その瞬間、魔石から無数の光が現れてカールの体を突き抜いた。


「がはっ!」

「カール殿!」


ミレーヌが血を吐いたカールに駆けつけた。けれど、彼女は弾かれて、カールに近づけなかった。


「こんな気持ちは久々ですね、テア様」


カールは口から血を吐きながら言った。


「だが、私は諦めませんからね」


カールは目を閉じて、歌を歌い始めた。愛の歌で、とても切なく甘い歌だ。その場にいる全員はただただ瞬いただけだった。異変に気づいたエフェルガンは近づいて、バリアーの外から無言でカールを見つめている。


「テア様、例えこれで私が命を落としても、あなた様さえ無事に出られるのであれば、それで良いと思っております」


カールはまた優しく魔石に向かって言った。ミレーヌは必死に回復魔法をカールに向かって送った。けれど、次の瞬間、魔石からまた光が現れて、ミレーヌと灯りを持っている兵士らの体に突き抜いた。


「がっ!」


ミレーヌとレネッタの兵士らが踏み台魔法の上に倒れ込んだ。


「ミレーヌ様!」


ラウルが言うと、ミレーヌは首を振って立ち上がった。


「灯りを守れ!」


突然カールは大きな声で言った。すると、ソラやハインズ達が素早くその灯りを倒れた兵士らの手から取った。エファインは素早く柊達をダルゴダスの後ろに連れて行った。


「柊、余を入れろ!」

「はい」


エフェルガンが言うと、柊はうなずいて、バリアーを一部解いた。エフェルガンと護衛官らが入ると、彼はまたそのバリアーを閉じた。


「ミレーヌ姫、余がその灯りを持つ」


エフェルガンが言うと、ミレーヌはうなずいて、灯りをエフェルガンに渡した。


ハインズ、ソラ、ラウル、そしてエフェルガンがそれぞれの位置について、灯りを守っている。そんな様子を見たカールは微笑んだ。


「テア様、ほら、龍の紋章を持っている人々が必死にあなた様を呼んでおります。みんなの心の叫びが聞こえていますか?」


カールがまた声をかけた。すると、大きな魔石から亀裂が現れ始めた。


「テア様、私はあなた様を愛しく思っています。だから、会いたい・・。どうか、元気なお顔を見せて下さいませ」


カールが言うと、亀裂がますますくっきりと見えてきた。


「俺もあなたのことを好きだ、ローズ!」

「俺も、ローズ様が好き、いいえ、愛しています!」


柳が言うと、ソラも大きな声で言った。すると、エフェルガンもハインズも大きな声でローズを呼びかけた。


「聞こえたでしょう、テア様」


カールが愛しそうにその魔石を抱きしめた。


「がはっ!」


再び魔石から光が現れて、カールの体を突き抜いた。けれども、カールはその魔石を離さなかった。夥しい血が魔石を赤く染めた。


クラック!


ついに魔石が粉々に割れた。けれど、今度は小さな魔石が見えた。ミレーヌ達が見慣れた形の魔石だ。その七色に光り輝く魔石こそ、ローズを封印した魔石だ。


バーン!


大きな爆発が突然起きた。血だらけで倒れ込んだカールが起きて、落ちてゆくローズの魔石をつかんで、抱きしめた。柳たちが突然後ろに飛ばされて、結界が消えた。近くにいるダルゴダスは険しい眼差しでカールを見ている。血で赤く染まったカールは美しく光り輝く魔石を抱きしめたものの、びくっと動かない。


そして、カールの上に、一人の男性がいる。多彩の色に光り輝くその男性は上空にいる。エフェルガンはその男性を見上げて、気づいた。その男性は若々しく、神々しい光に包まれている。今まで出会ったことがない人だ、とエフェルガンは気づいた。


いや、人ではなかった。


龍だ。


「龍神!この茶番をやめろ!」


ダルゴダスが大きな声で言うと、その男性は無言でダルゴダスを見ている。


「ローズをわしに返せと言ったはずだ!」


ダルゴダスが怒りを示しながら言った。けれども、その男性は何も言わずにただ手を柳達にかざした。


ズン!


途轍もない大きな力が龍の紋章を持っている4人にのしかかった。


「陛下!」

「パトリア!・・エフェリュー達を・・外へ!」

「ですが!」

「早く!」


エフェルガンがのしかかった圧力に身動きができないまま、そのエフェリューと柊をかばっているエファインを見て、そのまま近くにいるパトリアに向かって指示を出した。パトリアは頭を下げてから、急いでエファインに向かって走った。けれど、次の瞬間、光りがパトリアの体を突き抜いた。パトリアは血を吐きながら、倒れ込んだ。


「エファイン、行け!」


ダルゴダスが言うと、エファインはうなずいて、両手で素早くとエフェリューと柊を抱きかかえて、飛び立とうとした。けれど、「龍神」は手をエファインに向かって手をかざした。


その時だった。


ダルゴダスは上へ飛び込んで、「龍神」に向かって剣を振り降ろした。けれど、ダルゴダスよりも早く、誰かが彼らの間に入って、「龍神」の顔に蹴りを入れた。


「フェルザ!」


気づいたダルゴダスがびっくりして、手を止めた。危うしその剣でフェルザを斬るところだった。


「お祖父様は後ろに下がって!」

「だが、そなたは・・」

「エフェリューと柊を守って!」


フェルザがそう言いながら「龍神」に向かって無数の蔓を放った。蔓は次々と「龍神」を襲って、龍神が後ろに下がるほどの勢いだった。その様子を見た誰もが目を疑った。


「母上を返して!」


フェルザは手に持った鞭で「龍神」を激しく攻撃した。けれども、その男性はフェルザの攻撃をすべて交わした。終いに「龍神」の一振りでフェルザを遠くへ飛ばした。フェルザが見えなくなると、その男性が素早く手を振り降ろした。


「がはっ!」


今度はダルゴダスとエファインに光に突き抜かれた。エファインが落ちて行くと、エフェリューと柊が急いで構えて、「龍神」を睨みつけた。けれど、「龍神」はただ無言で彼らを見て、そのままゆっくりと降りて踏み台魔法の上に倒れているカールに近づいた。


「この野郎ーーーー!」


凄まじい早さでフェルザがまた現れて、そのまま「龍神」を攻撃した。


その戦いの最中に、突然結界の外側から謎の光がレネッタ軍やスズキノヤマ軍に向けられた。突然攻撃されたから、戦場が騒然となった。


「うるさい!」


怒ったフェルザは突然振り向いて振り払うと、地上から突然無数の枝が現れて、結界の外側に隠れているエスティナモルグ軍を串刺しした。そしてフェルザは再び「龍神」を攻撃した。





一方、穴だらけになった結界の隙間からスズキノヤマ空軍が入り込んだ。すると、別の方向からエスティナモルグ軍も結界内に流れ込んで、彼らを向かい撃つ構えをしている。


互いに負けられない戦い。


「キーーーーーーー!」


敵が突然大量に増えたために興奮してしまったダルセッタは、上空に旋回しながら地上へ向かって口から光りを放った。当然ながら、敵も素直にダルセッタに撃たれるつもりはない。数人のエスティナモルグ軍の兵士らが上空に上がって行くと、それを阻止しようとしたスズキノヤマ軍とレネッタ軍がいる。激しい戦いが起きて、武器と武器のぶつかり合う音が罵声や悲鳴に交えて、戦場に響いた。





一方、「龍神」を攻撃しているフェルザは、またもや飛ばされてしまった。けれども、エフェリューと柊が素早く動いた。フェルザを受け止めた柊は、自分の後ろにバリアー魔法を唱えた。柊がフェルザの体を受け止めたと同時に、エフェリューは柊の背中とバリアーの間に風を起こして、衝撃を和らげた。


「がはっ!」

「柊!」

「俺は平気だ!それよりも、フェルザは大丈夫か?」


柊はそう言いながらフェルザを抱き抱えた。エフェリューは心配そうに二人を見ている。


「俺は平気だ」


フェルザはそう言いながら、うなずいた。


「だが、あいつは強い!」

「あいつは龍神だというらしい」


フェルザが言うと、エフェリューは龍神を見ながら答えた。


「龍神って、母上のお父上でしょう?」

「そうだよ」

「でもなぜ母上を虐めている?」

「分からない」


けれど、フェルザははっきりと分かっていることがあった。龍神は彼らを傷つけるつもりはない。遠くへ飛ばされても、彼はほとんど無傷だった。


「多分、龍神は俺たちに失せろ、という意味でここから追い出したかもしれない」

「多分?」


エフェリューは険しい顔でフェルザに言った。しかし・・。


「バリアー!踏み台魔法!フェルザ、動かないでよ。今、敵が現れたから」

「・・・」

「バリアー!」


柊が踏み台魔法から、離れたところにいるエフェルガンたちにバリアー魔法をかけた。


「陛下は今、何もできない。このままだと危険だ」

「うん」


柊はエフェリューの言葉を聞いて、うなずいた。


「だからといって、向こうに行くのも自殺行為だよ、エフェリュー」


柊は次々と現れた敵軍を見て首を振った。彼自身も自分のバリアーはどのぐらい攻撃に耐えられるか分からない。非情に危険だ、と柊は思った。


「これは、これは・・。誰だか知らないが、スズキノヤマのエフェルガン陛下を倒してくれて、感謝しないといけないな」


突然近くに一人の男性の声が聞こえている。フェルザ達がその男性を見ると、その男性も三人を見て、にこっと微笑んだ。


「三人の子どもたちのことを心配しなくても良いですよ、エフェルガン陛下。余は彼らを大切にするからだ」


その男性はそう言いながら、合図を出した。すると、周囲から一斉にエスティナモルグの軍隊が集まって、エフェルガン達を囲んでいる。その数がスズキノヤマ軍とレネッタ軍を上回って、この時点になると、勝敗が決まったような雰囲気になった。


「ふざけるな!」


突然エフェリューは風に声を乗せて叫んだ。彼の声が戦場の至る所で聞こえている。


「俺はエフェリュー・クリシュナ、スズキノヤマ帝国の皇太子だ。お前は、名を名乗れ!」


エフェリューが言うと、「余」と名乗った男性が顔色を変えず、エフェリューを見ている。


「これは失礼。余はエスティナモルグ王国、国王アクバー・モーガン・二世だ」


その人は名乗った。彼の隣に数人の護衛官らや位が高い人がいて、無言でエフェリュー達を見ている。


「残念だが、今は子どもの相手にする暇ではない。そなたらの相手はモルグ宮殿の姫君達だ。ぜひその優れた魔力をモルグに分けて下さい」

「・・・」

「ははは、子どもにはまだ早いか」


アクバー・モーガン・二世が笑った。彼の周囲にいる位の高い人達もクスクスと笑った。


「これから強さとは何か、としかとその目で見るが良い」


アクバー・モーガン・二世がそう言うと、手で合図した。エスティナモルグ軍は一斉に武器を抜いて、次の合図を待っている。アクバー・モーガン・二世が手を下へ下ろすと、彼らは一斉に真ん中にいるスズキノヤマ軍とレネッタ軍に向かって攻撃し始めた。その動きがとても速く、逃げ遅れた兵士らが彼らの餌食となった。


「バリアー! かまいたち!」


柊は突然兵士らをバリアーで囲んでから、攻撃魔法を放った。全員、びっくりした様子で柊を見ている。押しつぶされているエフェルガンでさえ、目を疑った。怪我しているダルゴダスも、ミレーヌも、瞬いた。


けれども、次の瞬間、彼らは信じられない光景を目の当たりにした。


「雷!」


ドーン!


ズサッ!


ザッシュ!ザッシュ!ザッシュ!


エフェリューが雷を唱えると、フェルザは至る所から鋭い枝を召喚して、敵を刺した。そして目で見えない早さでフェルザはバリアーを抜けて、アクバー・モーガン・二世を囲んでいる護衛官らを斬り捨てた。


けれども、あと少しでフェルザの短剣がアクバー・モーガン・二世に届くところで、他の護衛官らが気づいて、フェルザの攻撃を応戦した。一瞬の判断でフェルザが後ろの下がったところで、エフェリューは遠くから剣を振り降ろした。


風による、遠距離攻撃だ。


ズサッ!


複数の護衛官らがエフェリューの攻撃を受けて、遠くへ飛ばされて、フェルザが放った枝に刺さった。


実に連携が取れた攻撃だ。


「フェルザ、大丈夫?」

「うん!」


エフェリューが聞くと、フェルザはうなずいて、柊が唱えた踏み台魔法に着地した。


「ほほう」


アクバー・モーガン・二世は子どもたちの動きを見て、関心した。


「どうやら大人よりも、子どもたちの方が危険だ」


アクバー・モーガン・二世がそう言いながら手の平から丸い玉を出した。


「結界発動!」


アクバー・モーガン・二世がその呪文を唱えると、広い範囲で魔法を封じる魔法が発動した。エフェリューが魔法を試すと、やはり不発した。


「そうやって魔法を封じたんだ」

「注意しろよ、柊」

「うん」


エフェリューが言うと、柊はうなずいた。自分たちと離れているフェルザもなぜかうなずいた。まるで柊とエフェリューの会話が聞こえるようだ。


「行くね、エフェリュー」

「うん」


柊が言うと、エフェリューはうなずいて、フェルザを見ている。フェルザがうなずくと、柊はうなずいて、ポケットからビー玉を取り出した。


それはロッコがフェルザにあげたビー玉だ。そしてフェルザはそれを柊に託した。


柊はそのビー玉を見てから、手の平に載せた。


「結界解除!」


柊が言うと、エフェリューが素早く動いて、柊が開けたバリアーの一部に出て、素早く上へ目指した。


「ダルセッタ!お願い、俺を乗せて!」

「キュル、キュル、キュイーーーーーーーーー!」


ダルセッタが凄まじい早さで下へエフェリューを迎えに行った。エフェリューはダルセッタに乗り込むと、柊は急いでバリアーを強化した。


ザッシュ!ザッシュ!ザッシュ!


エフェリューの動きに見とれてしまったアクバー・モーガン・二世とその護衛官らがもっとも注意すべき人からの攻撃に気づかなかった。


フェルザが消えて、次の瞬間、いきなりアクバー・モーガン・二世の前にいて、その短剣で襲いかかる。驚いた彼らは為す術もなく、そのまま切られて、あっという間にアクバー・モーガン・二世以外、全滅した。


ズサッ! ズサッ!


フェルザの体から無数の蔓が現れて、激しくアクバー・モーガン・二世を攻撃した。


「余は子どもの相手にする暇がないと言ったはずだ!」


アクバー・モーガン・二世は覇気を出して、フェルザを追い出した。柊は素早くフェルザの足下の踏み台魔法を設置した。同時にダルセッタの背中にいるエフェリューが手を大きく上げて、大きな声で吠えた。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


すると、先ほどまで後ろに下がって集まっているスズキノヤマ軍は一斉に手を上げて、吠えた。エフェリューが上空から攻撃を行うと、スズキノヤマの空軍兵士らも一斉に攻撃を(おこな)った。


その中、柊はまたかまいたちで敵軍の動きを阻んだ。怒った敵軍が一人でいる柊を狙ったけれど、彼のバリアーを突破することができなかった。


「相手は子ども一人だけだ!何して・・」


ザッシュ!


一人の兵士の言葉が終わる前に、フェルザの蔓が彼の息を止めた。そして同時に、フェルザがまた素早く動いて、柊を囲んだ敵兵を片付けた。


「大丈夫か、フェルザ?」

「うん」


フェルザはうなずいた。柊がフェルザを見上げて、うなずいた。けれど、フェルザの表情は硬い。魔力がかなり減ってしまったからだ。フェルザは柊を見て、なんとなく柊もきついだろう、と思った。その時、敵軍に囲まれて、必死にフェルザ達の方へ飛んでいるスズキノヤマ兵士一人がいる。彼の手には肩掛けカバンがある。


「殿下!回復薬でございます!」


その兵士は自分のカバンをフェルザの方へ投げた。フェルザはそのカバンを拾って、うなずいた。そして、敵に囲まれているその兵士を見て、そのまま無数の蔓を放った。その兵士を囲んだ敵は、一瞬にして、消滅した。


「ありがとうございます、殿下!」

「うん」


フェルザはカバンを開けて、その中にある回復薬を一本取った。残りは柊に渡した。


「あなたはここにいると危ないよ」

「私は殿下をお守りします!」

「うーん」


薬を飲んでいるフェルザは周囲を見ながら考え込んだ。


「俺よりも、上にいるエフェリューの方が危ないと思うよ。柊もいるから、ここは全然問題ないよ」


フェルザは空になった瓶を捨てて、周囲を見渡した。


「けど、それでもここにいたいなら、柊と一緒にいて」

「はい?」

「するなら、早くしてね」


フェルザが言うと、柊は魔力回復薬を飲みながらバリアーの一部を開けた。すると、その兵士が入り込むと、柊は急いでバリアーを閉じた。


「おじさんの名前は?」

「第17空軍部隊、エグランド・キフィヤ中尉でございます」


彼はフクロウから降りて、柊達に敬礼した。


「じゃ、エグランド・キフィヤ中尉殿、柊を頼んだよ」

「へ?はい!」


フェルザがそう言って、いきなり消えた。エグランドは周囲を見ながら、フェルザを探している。


「フェルザがどこにいるか、探しても見つからないよ」


柊がそう言いながら、二本目の魔力回復薬を開けた。


「失礼ですが、殿下は・・」

「俺たちは普通の5歳児だよ」


柊はそのまま飲んで、バリアーを更新した。そして父親らがいるバリアーも更新した。「龍神」と呼ばれる人はまだ何もしないで、黙っているだけだ。


不気味だと思えば、不気味だ、と柊は思った。


「エフェリュー! 全員、上へ!」


柊は突然風に声を載せて、エフェリューに言った。上空にいるエフェリューはうなずいて、彼らに上へ行くようにと命じた。フクロウに乗っている兵士らは一斉に上に避難した。けれど、何が起きるか分からないレネッタ軍もいるから、柊は逃げ遅れた人々をバリアーで囲んだ。


「今だ!」


柊が言うと、突然、エスティナモルグ軍の兵士らは広い範囲でそのまま意識を失った。アクバー・モーガン・二世はその異変に気づいて、急いで戦場から姿を消した。


「何が起きたのですか、殿下?」


エグランドが震えながら聞いた。エグランドはいきなり敵兵らが落ちて行く姿を見て、何が起きているか分からない。


「うーん、多分フェルザはまた空気を消しただろうね」

「空気を・・消した?!」

「うん」


柊は周囲を見ながらうなずいた。柊自身はフェルザがどうやって空気を消したかが分からない。


「でも、フェルザは回復薬が一本しか飲んでいなかったよね?」

「あ、はい」

「うーん、大丈夫かな?」


柊は不安そうな顔で見渡した。けれども、フェルザがどこにいるかも、柊は分からない。


その技が大量の魔力を消費しているぐらいは柊が知っている。だから心配だ。しばらく周囲が静かになった。不気味なほど静かで、誰もが息を呑んだ。


「まったく、おまえらは無茶ばかりしやがって・・本当に母ちゃんにそっくりだ」


突然どこからか声が聞こえた。柊とエグランドがその声がする方向へ視線を向けると、そこに現れたのはロッコとフェルザだった。ロッコはフェルザを荷物のように持って、もう片手は生首を持っている。


その生首はさっきまで偉そうに言った「アクバー・モーガン・二世」だった、と柊は気づいている。けれど、柊は何も言わなかった。ロッコは柊の前に行って、口を尖らせているフェルザをそのまま柊の方へ投げ込んだ。


ほい、と。


「そこにいて、おとなしくしろよ、フェルザ」

「はい、先生」


ロッコはまっすぐにフェルザに向かって言った。そしてロッコは生首を持ったまま、ダルゴダス達がいる方へ向かった。


「バリアー解除!」


柊がバリアーを解除すると、ロッコは振り向いて、微笑んだ。


「来たよ。何、この有様は?」


ロッコはまだ血がポタポタと落ちている生首を持って、呆れた様子で周囲を見てから、上空にいる「龍神」を見ている。


『おまえは寝るんじゃなかったの、龍神(アルトゥニウン)?』

『テアが危ないから』

『そりゃこの有様を見れば、分かるよ』


ロッコがそう言いながら、まだ動けないエフェルガンの前に生首を置いた。


『けどよ、彼女の護衛の者までこのようにされっちゃ、ダメだろう?』

『役に立たない護衛だ』


龍神が言うと、ロッコは苦笑いながらまっすぐに龍神を見ている。


『確かに彼らは役不足だと思う』


ロッコは静かに言った。


『けどな、彼らは人でありながら、できることをやってるんだ』

『ふん!』

『あんたが呼んだあの鬼神まで怪我をさせて、どうするつもりなの?テアが知ったら、泣くよ?』

『テアは永遠に我とともにいる』


龍神がゆっくりと降りて、カールが強く抱きしめた魔石を奪い取った。


『テアが我の元へ戻れば、彼女を苦しめることはなくなる』

『本当にそれで良いの?』

『我は・・』

『彼女の嘆きを、ずっと聞いてしまうよ?眠れるのかあんた、そんな状況で?』

『・・・』


龍神は戸惑った。


『あんたはおとなしく寝ろよ。彼女のことは俺に任してくれ。必ず守るから』

『前も同じことを言ったじゃないか?その結果、これだ』

『まぁ、今回ちっと状況は複雑だった。が、必ず彼女を解放するさ。今だって、こうやって来たんじゃねぇか』


ロッコは手を出して、ローズが入っている魔石を要求する。しばらくすると、龍神はその魔石をロッコに渡した。


『我はそなたに彼女を任したくなかった、闇龍(アルタイル)

『ふん!何を今更・・。結局、一番彼女のそばにいるのも俺じゃねぇか』


ロッコはその魔石を受け取って、ため息ついた。


『あの鬼神の里であんたの神殿を建てるよ。彼女がわざわざ他の町の神殿へ行かないようにするから、安心しな』

『任せる』


龍神は手を振ると、エフェルガン達を押し潰した何かが消えた。光に突き抜かれた血を吐いた人々も一瞬にして治った。


「龍神様」


後ろから鈴の声がした。彼女は着地して、頭を下げた。


「神殿はきれいになりました。ですから、戻りましょう、龍神様」


鈴が言うと、エフェルガン達は一斉に頭を下げた。相手は龍神となると、どうしようもない。


『神殿ができたら、あんたに報告するよ』

『分かった』


龍神はロッコが持っている魔石を見て、歌い始めた。


けれども、その歌はとても寂しく悲しい歌だった。


憂いの歌だ、とロッコは思った。


『彼女が元気になったら、あんたを会いに行くように言うよ』

『ああ』


ロッコが言うと、龍神はうなずいて、消えた。


「龍神はもうここにいない。彼はもう帰ったから、あんたも帰りな、女王陛下」

「分かったわ」


ロッコが言うと、鈴はうなずいて、座り込んだダルゴダスを見て、軽く頭を下げてから、踏み台魔法を上って、ダンテの輪っかをくぐった。


「さて、ローズ、そろそろ戻らないとね」


ロッコが言うと、魔石は強く光って、突然粉々になった。


けれど、中身はない。


ロッコは見上げると、そこに女神状態のローズがいる。


『なぁ、テア』


ロッコは手を伸ばした。けれど、テアは何も反応しない。ロッコが突然上へ飛び込んで、半透明で光っているテアを捕まえて、抱きしめた。ロッコが愛しくテアの唇に口づけすると、テアは目を開けた。


闇龍(アルテア)だったのね』

『今はロッコだ』

『ロッコ・・』

『そう。そしてあんたも、今はローズだ。だから、忘れてくれ』


ロッコが言うと、二人が眩しい光に包まれた。あまりにも眩しかったからエフェルガン達は思わず目を閉じた。再び目を開けると、目の前に抱き合った二人がいる。


「ローズ・・」


エフェルガンが言うと、ロッコはローズを抱きかかえながらエフェルガンの前に降りて来た。


「彼女は疲れたから、今眠っている」

「はい」

「あんたに任せても良いのか?」

「当然だ。ローズは余の妃だ」

「そうだね」


ロッコはため息ついて、うなずいた。


「まぁ、とりあえず戻ろうか。子どもたちはもう限界だよ」


ロッコが言うと、エフェルガンはうなずいた。エフェルガンはハインズにローズを任せたあと、輪っかを開けた。すると、次々と出て来たのはスズキノヤマ軍と将軍たちだ。


これからはエルムンドとエスティナモルグを押さえるための戦争だ。

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