765. 襲撃の真相(28)
ことはあの日から始まった。
ロッコがファリズと一緒にエルムンドの首都、エルムンディアで行動を起こしてから、次々とエルムンドの防衛システムである魔法塔を破壊したことで、エルムンドの防衛力は大きく下がった。
あの時、ロッコが「地獄の神官ヴァニッシュ」を召喚したことによって、エルムンド全土にある魔法塔に不思議な神官姿の「何か」が現れて、そのまま魔法塔の中にある術式を一瞬にして破壊された。破壊した後、その「何か」が消えたため、エルムンド側が調査をすることもできなかった。
その結果、エルムンド全土、防衛塔が使用不可になった。
普及するまで、最低でも6時間がかかるらしい。なぜなら、その術式の周辺にいる魔法師らも、術が破壊された時と同時に、ほとんど死亡したからだ。
エルムンド側が混乱している間に、ロッコは素早く移動して、暗部本部へ乗り込んだ。
慌ただしい。
そのせいか、暗部本部にいる誰もがロッコの存在に気づく人がいなかった。ロッコはそのまま中へ入って、資料室へ向かった。目的は「マラ」という暗部だ。マラは里の至る所で里の急所を知って、襲撃に関わっている人だ。ロッコが里の暗部でありながら、そのマラという人がいろいろなところで活動したことに気づくことができなかった。恐らくこの襲撃は長年に計画されて、念入りに準備されたに違いない。里とアルハトロスの集中がササノハに向けられたときに、襲撃が実行されただろう、とロッコは思った。
里の暗部の目があるから、恐らくあの時だろう。ローズの結婚、百合の結婚、そして最後にエルムンドから正式に使節団が派遣されたときだ、とロッコが暗部隊員らの名前の資料を静かに開けて、目を通した。
どこにも載っていない。
ロッコがため息ついて、資料を置いた。
『出でよ、地獄の暗部、ゼルミウス』
ロッコの前に、突然黒い衣服の人のような者が現れた。
『マラと呼ばれる奴を調べてこい』
『御意』
ロッコがため息ついた。時間がないというのに、手がかりがない。
『あ、待って。地獄にいる人の一人がたしかマラを知っている。まだ生きていると思うが、奴らの記憶から絞り出して、探してこい。だが、殺すなよ。彼らの死はあの鬼神の手に任せているから』
『御意』
『行け。分かったら、俺の頭の中にその情報を入れな』
その黒い服した者が消えていくと、ロッコがしばらく暗部本部にある別の部屋に入って、物色した。途中で部屋に入ってしまったエルムンドの暗部は、ロッコの拳をもらって、そのまま床に倒れて、動かなかった。
「エスカンダリアか・・」
ロッコが一枚の書類を見つけて、確認した。そしてポケットから手帳を出して、確認した。
エスカンダリアはエルムンディアの北にある町だ。距離がかなりあって、行くとしても数日がかかりそうだ。
けれど、そのエスカンダリアにはマラと関わりのある名前が記されている。
ラフィオの華。
ラフィオとは、この地方で知られているきれいな花の名前だ。香りが良いけれど、猛毒だ。その名前をちなんで、その名前を付けたのは暗殺ギルドだ。しかし、エスカンダリアはエルムンディアから遠いけれど、行くしかない、とロッコは思った。
『エスカンダリアへ』
ロッコが言うと、彼は一瞬にして消えた。現れた場所はエルムンディアからかなり離れた場所にある町、エスカンダリア。
町の感じはさほどエルムンディアと変わらない。ここも大きな町で、人々に賑わっている。ただ、所々、軍人らしい人々が慌ただしく塔の方へ走っている。
全国にある魔法塔がやはり突然壊れたから、警備隊も緊張した様子で町の外へ向かって走った姿も見える。
ロッコは周囲を見渡しながら歩いている。忙しい人々が彼のことなど、誰一人も構う人はいない。ロッコが市場に足を運ぶと、そこはとても賑やかな市場が広がっている。
ロッコは市場の奥へ進んで、その奥にある飲み屋へ入った。
明らかに普通の人が入っているような場所ではない。数人の男らが無言でロッコを見て、酒を口にした。
「いっらっしゃい」
店員が言うと、ロッコはにっこりとうなずいた。
「ここは初めてだ」
「そう?」
店員が微笑んで、ロッコにカウンターの席を手で示した。ロッコがうなずいて、その席に座った。
「何にしますか?」
「何がある?」
「弱い酒、まぁまぁ飲める酒、強い酒、そして特別の酒だ」
店員が言うと、ロッコは笑った。
「特別酒にしてくれ」
ロッコが言うと、店員は微笑みながらうなずいた。
「前払い、金20枚だ」
「良いだろう」
ロッコは20枚の金貨を出して、置いた。店員がそれを受け取って、奥へ入った。そして古い酒を持って、戻って来た。
「20年物だ」
「お、良いね」
店員がその酒をグラスに注いだ。そしてロッコに差し出した。ロッコがそれをとって、迷わず飲んだ。
「美味しい」
ロッコが空になったグラスを置いた。
「美味しいけどよ、この町の酒は毒入りなのか?」
ロッコが聞くと、店員は微笑んだ。
「毒と知りながら、それでも飲んだのか?」
「まぁ、な」
ロッコが笑った。
「俺に毒なんて効かないだ」
「ほう」
「だから、俺に毒殺しようとしても無駄だ。後ろの奴らも、俺の背中を的にして刃物を投げようとしたけど、・・逆に死ぬよ、あんた?」
ロッコが微笑みながら言った。すると、店員は何かの合図を出した。
「ここは始めてと聞いたが?」
「そうだよ。ついさっき到着した」
「へぇ。どこから?」
「エルムンディアだ」
ロッコは瓶の中身をグラスに注いて、ゆっくりと飲んでいる。
「目的は?」
「マラと言う奴を会いに来た」
「マラ?知らんな」
店員が首を振った。
「そうか、残念だ」
ロッコが店員を見ている。そしてロッコはカウンターにまたお金を置いた。
金貨20枚。
店員は何かを知っている、とロッコの勘が教えた。
「彼のことは、些細なことでも良いから、教えて」
ロッコが小さな声で言った。すると、店員はさりげなくお金を取って、他の酒を提供した。
「ラフィオの華所属だけど、この間大きな仕事をして、しばらく引退した。奴は二重スパイだ」
「へぇ」
店員が小さな声で言った。
「本名はイブラヒム・ジョナス、この間イスタの町で家を買った」
「女でもいるのか?」
「らしい。俺はそこまで知らん」
店員が言いながらサンドイッチを作って、ロッコに差し出した。
「二重スパイって、もう一つの国はどこ?」
ロッコはサンドイッチを取って、食べながら聞いた。
このサンドイッチにも毒が入っている。先ほどの毒よりも数倍も強い。普通の人なら数分で呼吸困難になって、死ぬだろう、とロッコは思った。
「エスティナ・・、確かに今はモルグになったと思ったけど、俺はそこまで詳しくない。ずっと東にある国だ。遠い」
「なるほど」
ロッコがうなずいた。エルムンドはモルグと組んでいた、ということだ。
「俺が知っているのはそれだけだ」
「十分だ」
ロッコが毒入りのサンドイッチを食べ終わらせて、残りの酒を飲んだ。
「一つだけ聞いても良いか?」
ロッコは店員を見て、聞いた。
「何だ?」
「この情報は信用できるか?」
「さぁ、どうだろう」
店員がまっすぐにロッコを見ている。あんなに毒を塗ったパンを食べて、酒を飲んだのに、まったく効かなかったと知った店員が緊張した様子でロッコを見ている。
「ただ、俺は情報屋だ。金額と同等な物を提供するのは俺の商売だ」
「なるほど」
真実を語って、そして殺す。恐ろしい商売だ、とロッコは思った。
「馳走になった。じゃ、な」
ロッコが立ち上がって、そして周囲を見てから、飲み屋の外へ出て行った。ロッコはゆっくりと道を歩いて、適当に路地裏の道へ入った。ロッコがしばらくその路地裏で歩いて、足を止めて、振り向いた。彼の後ろに、あの飲み屋の客が二人いる。
「なんか用?」
ロッコが聞くと、彼らはにやっと笑った。
「金を出しな」
「情報と交換するなら良いよ」
ロッコがにっこりと微笑んだ。
「お前はどんな情報が欲しい?」
二人の客の中に大きな男が聞いた。
「マラと言う奴の情報が欲しい」
「マラ?知らん」
「そうか?じゃ、金はなしだな」
ロッコが言うと、あの二人組は懐から短剣を取り出した。
「マラは知らんが、持ち物を出せば、命だけは助けてやろう」
「嫌だね」
ロッコが首を振った。そして彼は素早く相手を蹴った。当然な結果、二人とも地面の上に転がってしまった。
「大丈夫、あんたらは殺さないよ。だけど、人生を変えな」
ロッコがそう言いながらその場所から去って行った。彼はまた転移魔法でイスタへ移動した。
イスタの町はエルムンドの最北にある町だ。港町だけれど、規模が南にある港町よりも小さい。どちらかというと、とてものどかな感じがした。
しかし、この町はロッコが行ったこともない町だ。なのに、彼はためらいなく歩いて、周囲を見渡した。
ロッコは周囲を見ながら、市場を歩いて、近くの屋台に入った。屋台で売られた食事を注文してから、彼は椅子に座って、白湯を飲みながら人々の動きを観察した。
「お待たせしました」
「お、美味しそうですね!」
「ははは、どうぞ」
屋台の主人はロッコが注文した食事を運んで来た。ロッコがゆっくりと熱々のスープの中にスプーンを入れて、食べ始めた。里を出発してからまだ数時間しか経っていないのに、なんだか時間がとてもかかったような気がした、と彼は思った。考えてみると、今はお昼時だ。
屋台の客が次々と現れた。エルムンディアとエスカンダリアの慌ただしい雰囲気と違って、このイスタはとても穏やかだ。
「あれはまた壊れたらしい」
「へぇ」
ロッコの隣で二人組が来て、白湯を飲みながら会話し始めた。屋台の主人が料理を運んで来て、次々と彼らの前に料理を並べてからまた次の客の注文を受けた。
「いつになって普通に起動してるんだか」
「まぁ、お役人様の仕事だから、期待するなよ」
「本当に、まったくだ」
二人がそう言いながら料理を楽しんだ。
「兄ちゃん、この辺りの人じゃないな。船乗りか?」
突然、ロッコの前に座っている男が聞いた。ロッコが彼を見て、にっこりと微笑んだ。
「そう、今朝着いたから、ちょいとぶらぶらして、土産物を探しに・・」
「へぇ、どこから?」
「エスティナモルグです」
「随分と遠い所から来たな」
「まぁ、妻子の飯のために、頑張らないといけませんのでね」
「妻子持ちか。そりゃ、大変だろうな」
「はい」
ロッコが微笑みながら答えた。彼らはうなずいて、再び食事を口に運んだ。
「あんたはモルグ人か?」
一人の男はロッコの目を見て気づいた。
鮮やかな赤だ。
「はい」
「ここなら良いけどさ、南の方だといろいろと厄介だから気を付けて」
「はい」
その男はそう言いながら食事をまた続けている。
「モルグ人は何もしなかったのにな」
彼の仲間が来て、ロッコ達の会話に加わった。
「僕たちはただ生きていたいだけなんですけどね」
「そうさ。悪いのはアクバー・モーガンだ。あんな怖い物を発明したからいけないんだ」
「その通りです。彼のために、世界中のモルグ人が大変なことになってしまった・・」
ロッコがため息ついていながら言うと、彼らはうなずいた。
「まぁ、でもエルムンドがモルグを否定しないから、問題ないよ」
「はい、ありがたいです。おかげで貿易もできるようになりました」
ロッコがうなずいて、ゆっくりと白湯を飲んだ。
「さっき、土産物を探すと言ったよな?」
「はい」
「ジョナスというお店では、何でもあるよ」
「ジョナス・・?」
もしかすると、イブラヒム・ジョナスと関わっているのか、とロッコは思った。
「その店はどこにあるのですか?」
「市場の北側だ。その周辺はちょっとおしゃれな服屋がいくつかある」
「ありがとうございます。後で行ってみます」
ロッコが嬉しそうにうなずいた。
「ジョナス店は昔からあるお店ですか?」
「昔と言えば、昔だけど、昔のジョナス店は普通の履き物屋だった。二年ぐらい前に、いきなり店を大きくなって、立派に立て直したんだ」
「へぇ」
「今は主に土産物を売っているお店だ。エルムンド全土からいろいろな名物品も取り扱っている」
「すごいですね。お店の主人は頑張っていますね」
「そうだね。息子嫁もその店で手伝っているから、繁盛しているよ。何しろ、めちゃ美人だからね、ははは」
彼が笑いながら言うと、彼の仲間達も笑った。
「息子は品物を仕入れて、全国に飛び回っているさ。彼は魔法ができるからね」
ロッコの前に座っている人が言うと、他の人もうなずいた。
「教えてくれて感謝します。ありがとうございました」
「良い土産を買って上げてね」
「はい」
ロッコは立ち上がって、彼らに頭を下げてから屋台を出て行った。彼らが言った方向へ足を伸ばしたロッコがジョナス店を見つけることができた。大きな店だ、とロッコは思いながら、店の中に入った。
「いらっしゃいませ」
一人の店員がロッコに声をかけた。
「何かお探しですか?」
「土産物が欲しいでね、この店が一番だ、と市場で親切な人に教えてもらったんだ」
「ありがとうございます」
店員がにっこりと微笑んだ。営業スマイルだ、とロッコはその店員を見て、思った。
「エルムンド全土のお土産が揃っております。何でもございますよ」
店員がロッコを案内して、展示された品々を見せている。
「かんざしはあるか?」
「もちろんでございます」
店員がかんざしを展示された場所へ案内した。ロッコがいくつかそれらのかんざしを見て、考え込んだ。
「もっと、こう、質が良い物が欲しい」
「それはございますが、価格がこれらの品と違って、数倍も高くなりますが・・」
「お金はある。妻に特別な物を贈りたいんだ」
「承知致しました。少々お待ちくださいませ」
店員が丁寧にうなずいて、一人で奥へ向かった。しばらくすると、一人の女性が現れた。彼女の後ろにその店員が箱を持ちながら歩いている。
「いらっしゃいませ、私はこの店の主人、メリサでございます。お客様はかんざしをお探しと聞いておりますが?」
「そうだ」
ロッコがうなずいた。メリサは恐らくジョナスの妻だろう、と彼は思った。
「どうぞおかけください」
メリサはにっこりと笑みを見せながらロッコに椅子を示した。店員は箱を机において、開けた。
「これらの品は特注品で、一点物でございます」
「なるほど」
「職人さんが一つ一つと丁寧に作っております。例えば、このかんざしをご覧下さいませ。本物の宝石を使っております」
メリサはロッコにかんざしを持って、丁寧に説明した。
「青い宝石はあるのか?」
「青いは・・、はい、こちらでございます」
「ふむふむ」
ロッコがメリサの手から青い宝石と透明な宝石で飾られたかんざしを見つめている。そのかんざしにはきれいなピンク色の薔薇の花がある。
ローズに似合いそうだ、と彼は思った。
「これを下さい」
「価格はこのぐらいですが・・」
「そのぐらいなら大丈夫だ」
ロッコは財布からそのかんざしの代金を出して、机に置いた。
「お買い上げ、ありがとうございます。少々お待ちください」
店員が丁寧に頭をさげて、店の奥へ行った。
「このかんざしはどこの特産品?」
「これはエルカ地方の特産品でございます。その周辺の町々では高品質の宝石がたくさんございます」
「南の方だね?」
「よくご存じで、はい、その通りでございます」
メリサは驚いた顔を見せた。そして彼女は再び来た店員が持って来た化粧箱の中にそのかんざしを丁寧に入れた。保証書も入れて、きれいに包んだ。
「はい、こちらになります。他には、お探し物がございますか?」
メリサはその箱をロッコに差し出した。
「子供用の物があるのか?ペンとか」
「もちろんございますよ」
大金持ちの客と知ったメリサたちはあれこれとロッコに商品を勧めた。結局ロッコが同じ色のペンを三つ選んだ。大金を使った後、ロッコはメリサが差し出したお茶を飲みながら、それらのペンを作った職人の話を聞いている。
「これほどエルムンド全土からの品物が揃っているのに、仕入れるのに大変だろう」
「はい、主人が頑張って下さいました」
「ほう。まさしくおしどり夫婦だ。一度だけでも、会いたくなった」
「ありがとうございます」
メリサがにっこりと笑った。
「ですが、残念ながら、主人は今仕入れ中で、ここにはおりません」
「そうか、それは残念だ。またいつか会えると良いな。この店を覚えるよ。エルムンドに来た時にも、同僚達にも、この店を勧めるよ」
「ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」
「じゃ、お茶を馳走になった。ありがとう」
ロッコが立ち上がって、大事に買い物した品々を持って、店を出て行った。メリサと店員が丁寧に頭を下げて、店の外まで見送った。ロッコがその近くの宿に入って、部屋を一つ借りることにした。ロッコは魔法を唱えて、荷物をそのまま里にある彼の家に置いてから、再びその宿へ戻った。窓から店の様子が見える。ロッコがさりげなくその店をしばらく見張った。
あれから何人かの客がいた。ほとんど外国人らしい姿の者ばかりだった。夕方になると、ロッコは魔法で里へ帰って、変化を解いてから、そのままダルゴダス邸へ向かった。現時点までの報告をしてから、彼は食堂で食事した。
「ロッコ殿」
「お、エッゼル殿。どうだった?」
エッゼルが食堂へ入って、ロッコに声をかけた。
「順調です。すごいですね、そう簡単に入れたなんて」
「ははは、そうか、まぁ、うまくできて良かった」
ロッコがうなずいた。魔法塔が破壊されたからファリズ達がエルムンディアへ無事に入った。そしてエッゼルも楽に出入り可能になった。
「これから何を?」
「あ、お弁当を調達しようと思って、ここに来た。敵陣にいるファリズ様はやはり敵が提供した物を口にしてはいけないと思って、ミレーヌ姫殿下に相談したら、レネッタの弁当よりも、ここの食堂の料理長が作った弁当の方が一番良いと仰いましてね」
「ああ、それは確かだ。あの料理長に、ファリズ様とその配下らのための弁当だ、と言えば良い」
「分かった」
「あ、ついでに、あんたもここで食事しな」
「良いのか?」
「良いって。今任務中だろう?ダメなら、俺の名前を言えば良い」
「はい」
エッゼルがうなずいて、そのまま厨房へ行った。料理長に用件を伝えた後、エッゼルは自分の食事も頼んだ。ロッコは立ち上がって、エッゼルに手を振ってから、食堂を後にした。屋敷の外へ出て行くと、遠くからローズが歩いている姿が見えた。護衛官らに囲まれている彼女は、やはり近づきにくい存在だ。
それでも、愛しい。
ロッコはローズが見えなくなるまで見つめた。そして、再び魔法の輪っかを開いて、イスタの町へ戻った。




