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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
アフター・ウォーズ

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764/811

764. 襲撃の真相(27)

「ふむ」

「被害はそこそこあるな」


ローズとダルゴダスはダルセッタの上から周囲を確認してから首都へ向かっている。


「やはり市場の向こうにある住宅街は防衛的に弱いね」

「ああ、そこは新しくできた住宅街で、警備隊を置こうとしたところだったが・・、間に合わなかった」


ダルゴダスは燃えている建物を見て、ため息ついた。ローズは直ちに雨を降らして、火を消した。


「敵は壁の一部を壊して、中へ侵入したのね」

「ああ、北側と西側が特にひどい。南は暗部とレネタ軍がいるおかげで、被害が大幅に押さえられた。北側はリンカとタケルがいるが、彼らが到着する前に家々と数カ所の設備が破壊されたようだ」

「あの二人が組んでいるの?」

「ああ、どうやら良いペアになりそうだ。ミライヤがレネッタに行ってから、リンカのペアがいなくなってしまったが、これで安心だ」


ダルゴダスが安堵した様子でうなずいた。けれど、確かにタケルはまだ幼いはずだ、とローズは思い出した。急激に成長したのか、と彼女はそう思いながら周囲を見渡した。


ローズは上空からリンカが見上げている様子が見えて、手を振った。隣にいる青年も彼女たちを見上げている。すると、二人とも同時に手を振った。


「あの人はタケル?」

「そうだ」

「大人と変わらないじゃないですか?」

「そうだな。不思議だろう?」

「うん」


ダルゴダスが笑った。この世界に来てから不思議なことがたくさんあるから、もうこれ以上彼は驚かない。それに、タケルよりも、もっとも不思議な生き物は彼の前にいるから、なおさらだ。


「彼らはなんとかうまくできるだろう」

「うん」


ローズがうなずいた。


「そういえば、エフェルガンは空軍と一緒に西側で戦っているわ。首都に着いたら、呼んでくれと仰ったの」

「ああ」

「ガルタ将軍も西側で頑張っているよ」

「それはありがたい」


戦いが終えたら、エルク・ガルタと菫の婚約が正式に発表されるから、そのぐらい頑張ってもらわないと困る、とダルゴダスは思った。


「東側には国境警備隊とヒョーの弟子らがいるから、比較的に被害が少なかった」

「うん、ソラも空中で戦ったから、ほとんどその周辺で壊れた建物がないわ。でも潜伏する敵がいるかもしれないから、後で確認した方が良いと思う」

「無論、そうする。そのようなことは常識だ。暗部がやってくれるから、問題ない」

「ロッコがいなくても、大丈夫なの?」

「問題ない。最初から彼は自由行動にしている」

「そうなんだ」


ローズが言うと、ダルゴダスはため息ついた。


「本当は、・・、いや、何でもない。忘れてくれ」


ダルゴダスがまたため息ついた。彼は何かを言おうとしたけれど、言葉が続かなかった。けれども、ローズはダルゴダスが言いたいことを分かっている。


ロッコの存在だ。


「うん、分かっている。でも、父上は、本当は戦争をしたくなかったでしょう?」


ローズが言うと、ダルゴダスはその質問を答えなかった。彼は無言で前を見つめている。ローズがエフェルガンの元へ嫁ぐことについて、今でもダルゴダスにとってあまり喜ばしいことではなかった。


しかし、もしもあの時はローズがエフェルガンと結婚を拒んでしまったら、争いは起きるだろう、とダルゴダスは思った。彼女を産んだ子どもたちを巡って、戦争が起きてしまう、と誰もが予想できる。なぜなら、皇帝であるエフェルガンは後継ぎが必要だからだ。


ローズと子どもたちのために、スズキノヤマ側はためらいなく、武力を使うだろう、とダルゴダスは思った。


実際のところ、アルハトロスの周りの国々には、スズキノヤマの空軍基地がある。けれど、そのおかげで、今回のエルムンドの襲撃に対して、スズキノヤマ軍の対応が速かった。ガルタ将軍とズルグンが空軍を動かしただろう、とダルゴダスが思った通りに、彼らの動きは実際に早かった。


ダルゴダスはまた周囲を見ながらため息ついた。被害が押さえられたとはいえ、まったくないではなかった。


ダルゴダスは前を見つめて、いろいろ考え込んだ。しかし、なぜか頭の中に出て来たのは屋敷にいる子どもたちと孫達だった。何もなければ良いが、とダルゴダスは思った。


三人の孫達のことを思えば、ダルゴダスの孫であるエフェリューはミミズクフクロウ人族の特徴がとても強く出ている。顔はローズにそっくりものの、エフェリューの目や翼などがエフェルガンにそっくりだ。間違いなく、エフェリューはエフェルガンの息子だ。他の二人もローズにそっくりだけれど、彼らの性格はロッコと柳に似ている。けれど、やはりあの二人もエフェルガンの目と頭の羽耳があるから、エフェルガンの主張を覆すことができなかった。それに、何があっても、エフェルガンはローズを離さないと宣言したから、ダルゴダスが複雑な気持ちで、二人を見守ることにした。


戦争はもうこのぐらいにしてもらいたい。もうこれ以上ローズに苦しんで欲しくない、とダルゴダスはダルセッタを操縦しているローズの後ろ姿を見て、思った。


「うむ、父上はエルムンド側に損害賠償を求めるの?」


ローズは無言になったダルゴダスに尋ねた。


「当然だ。壁や住宅街、市場、職人街など、いろいろと壊されたから、きっちりと弁償してもらわないと困る」

「高額になりそう」

「ふん!知るか!」


ダルゴダスはため息ついた。


「家々と壁を直して、壁の強化も必要だ。警備隊の配置も見直さないといけない。課題が山積みだ」

「うん」


ローズがうなずいた。ダルセッタが旋回し始めて、都の中心にある神殿と宮殿が見えた。宮殿の周辺にレネッタ軍が休んでいる様子が見えた。ローズが愛の歌うと、ミレーヌは空を見上げて、手を振った。


ローズは歌に回復魔法を載せたから、その戦場にいる人々が突然元気になった。傷でさえ、治った。それを気づいたレネッタ軍の兵士らが一斉に頭をさげた。ミレーヌはローズ達が建物の影に見えなくなるまで、ずっと見つめていた。


ローズ達は宮殿の中に着地して、そのまま宮殿へ入った。彼らはそのまま謁見の部屋に案内された。その部屋に、玉座に座っている女王鈴がいる。ダルゴダスとローズが頭を下げてから女王に挨拶した。


「土産だ」


ダルゴダスが不機嫌な顔で女王鈴の前にエルムンド王の首を衛兵の一人に渡した。衛兵がその首を受け取って、女王の前に置いて、包みを開けた。鈴は地面に広げられた包みの上にある首を見て、ため息ついた。


「案外、普通の男なんだね」


鈴が言うと、ダルゴダスは思わず笑った。


「首だけとなると、そうだな、普通の男だ」

「本当、このような男が宰相と一緒にあのような卑劣な作戦を考えたなんて、今でも信じられないわ」


鈴はうなずいた。


「ああ、兵士らが哀れだ。敵とはいえ、そのような使い方となると、哀れすぎる。あの宰相は絶対に、楽に死なさん」

「任せるわ。処刑したら、見せしめに彼の首を広場にでも晒してちょうだい」

「首だけなら、誰かにここへ送ろう」

「要らない。その王の首だけで良い」


鈴はきっぱりと拒否した。そして彼女は兵士らに囲まれている一人の男性に視線を移した。


「エルムンド王国、新王サルマ・ザフレナ・ド・エルムンド殿、どうぞこちらへ」


鈴が言うと、一人の男性が現れた。ダルゴダスは鋭い視線で彼を無言で見ている。けれど、明らかにダルゴダスのオーラがメラメラと大きくなった。


「はい」


サルマは緊張した様子で前に出て来た。地面の上に、彼の父親の首があった。


「サルマ殿、紹介するわ。青竹の里、領主のダヴィード・ダルゴダス公爵殿。そしてその隣は、アルハトロス王国、第一姫の薔薇・ダルゴダス・クリシュナ姫よ。彼女もスズキノヤマ帝国の皇后でもあるわ。彼女の後ろには彼女の兄である柳・ダルゴダス公爵令息、そしてスズキノヤマ帝国の護衛官の者たちよ」


鈴が涼しい顔で二人を紹介した。サルマは緊張した様子で二人を見ている。二人の後ろには柳たちが無言でサルマを睨んでいる。


「初めまして、サルマ・ザフレナ・ド・エルムンドと申す」

「ダルゴダスだ」


ダルゴダスが機嫌悪く言った。


「さっそくだが、戦争をやめてもらいたい」

「私もそうしたかったが、残念ながら彼らを止める術はない」

「貴殿は王だろうが!」


ダルゴダスがいうと、サルマが難しい顔で地面に置かれている首に視線を移した。


「昨日王になったばかりが・・、それに、私は王であっても、権力がない」

「それだと、王の意味がないだろう」


ダルゴダスがため息ついた。本当にこの人と交渉しなければいけないのか、とダルゴダスはサルマを鋭い目で見ている。


「それなら問題ないわ、サルマ殿。お国の方には、貴族がもうほとんど残っていないから、エルムンド王国の権力はあなたの手の平にあるわ」

「・・・」


鈴が微笑みながら言うと、サルマはうつむいて、息を整える。


裸の王様の気分だ、とサルマは思った。


「分かった。だが、どうやって現場にいる兵士らに私の命令を伝えるのか?」

「その鏡に陛下の手を触れて、言いたいことを言えば良い。声はアルハトロスとエルムンド全土に伝わりますわ」


鈴は玉座(ぎょくざ)の上から優しい口調で言った。


「本当にできるのか?」

「ええ、もちろんよ」


鈴が即答した。


「龍神様がそう言ったから、間違いないわ」


鈴が言うと、サルマは耳を疑った。冗談に聞こえているけれど、鈴の神々しい姿を見ると、彼はしばらく考え込んだ。


鈴が嘘つくはずはない、とサルマは思った。


この国は龍神の国だと古い書類で知った。けれど、本当に龍神がいるとは知らなかった。ならば、とサルマは部屋の中に設置された鏡を触れた。すると、先ほどまで何も映っていない鏡が突然光出した。鏡には、エルムンドの首都、エルムンディアの町並が映った。宮殿の前には数々の人の首が並べられた。


その中に、サルマが知っていた顔も多数あった。


あまりにも恐ろしかったから、サルマは目を閉じて、意識を整えた。そして彼は目を開けて、ゆっくりと口を開けた。


「私は、エルムンド王国、新王、サルマ・ザフレナ・ド・エルムンドと言う。これにて、前王、アグリア・ゾルメイン・ド・エルムンド国王陛下が崩御したことを発表する。そして、我々は、アルハトロス王国に、負けを認める。今、アルハトロス国内にいるエルムンド軍に告ぐ、直ちに、武器を捨て、戦争をやめ、アルハトロス軍とアルハトロス王国の同盟国の軍に従ってください。繰り返し、アルハトロス国内にいるエルムンド軍に、武器を捨てて、戦争をやめ、・・」


サルマの目から涙が流れた。あまりにも悔しくて、そして自分の口からエルムンドの降伏(こうふく)を告げなければならなかった。けれども、それはその立場にいる彼の役目だ。別の部屋にいる彼の妹、エメリンダが兄の言葉を聞いて、泣き崩れた。


「ローズ、そなたは外に出て行った方が良い」


ダルゴダスが言うと、鈴はうなずいた。


「そうね。これから難しい話をしなけれなならないから、あなたは少し休憩してから、神殿へ行きなさい」

「うむ、はい」

「そうそう、さっき私が焼き菓子を焼いたのよ。侍女に言えば、出してくれる。とても美味しいよ」


鈴が優しい声で言った。ローズは立ち上がって、頭を下げた。なぜなら、これは命令だ。鈴とダルゴダスはローズに知られたくない話をこれからしなければならないからだ。


「柳、ローズを頼んだぞ」

「はい」


ダルゴダスが言うと、柳がうなずいて、そのまま彼はローズの隣に歩いて、退室した。





「少し休憩するか?」


柳は優しい声でローズに聞いた。謁見の間を出て、しばらく歩いていたら中庭に足を伸ばした彼らは足を止めた。柳は鈴とダルゴダスの命令の意図を理解している。ローズに聞かれたくないことを、これからエルムンド側にしなければならないからだ。慈悲深い彼女がそれらの話を聞くと、心を痛めるだけだ。


「うん。その東屋で少し休もう。ソラも疲れているし」


ローズは中庭の東屋に行って、椅子に座った。数人の侍女らが来て、ローズのためにお茶やお菓子を差し出した。けれど、ソラは早速とそれらの食事を毒味した。侍女達が唖然とした様子を無視して、ソラは次々と毒味してからうなずいた。安全だ、と彼が言うと、ローズはにっこりと微笑んだ。


「いつもありがとう、ソラ」

「役目ですよ、ローズ様」


ソラはにっこりと微笑んだ。彼はずっとローズのそばにいて、周囲を見渡した。


「ここは大丈夫だと思う。昔は危険だったけど」

「危険とは?」


ハインズが聞いた。ローズの安全に関することとして、聞き捨てならないことだからだ。


「うむ、昔ね、私がまだ小さかったけど、宮殿の庭で侍女に毒に盛られて、死にそうになったの」

「・・・」


それを聞いたローズの護衛官らの顔が一斉に険しくなった。


「俺はあなたを置いてしまったせいだ」


柳が悔しそうに言うと、ローズは柳を見て、笑った。


「もう昔のことよ、兄さん。今は私に毒を盛る人がいたら、みんなにボコボコにされるでしょう?」


ローズは鈴が焼いた焼き菓子を取って、口に入れた。確かにほんのりと甘くて、美味しい。


「その時、護衛官が一人もいなかったのですか?」

「うーん、いなかった。あ、でも、ロッコが来て、私を助けたの。解毒をくれたから、なんとか生き延びたの」

「そうですか」


ローズはまた焼き菓子を口に入れた。ハインズはしばらく彼女を見て、周囲をまた見渡した。


「やはりローズ様のそばに、毒味役や毒味の知識を持つ者を置くべきだと思います」

「同感だ」


ハインズが言うと、柳はうなずいた。


「俺が常にそばにいないから、くれぐれも毒に気を付けてよ、ローズ」

「うん」

「あなたは時に何も考えずに物を食べるからだ。心配だ」


柳がそういうと、護衛官ら全員がうなずいた。その通りだ、とエファインとソラもうなずいた。


「うむ、一応気を付けているんだけどね」


ローズが言うと、なぜか誰も信用しなかった視線を送った。けれど、その後、ソラは微笑んで、ローズを見つめている。


「大丈夫ですよ、ローズ様。この命に替えても、私が必ず御身の安全をお守り致します」

「うむ、あなたが死んでしまったら困るけど」

「もちろん、私だって困ります。だから、死なないようにしています」


ソラが言うと、ローズはソラを見て微笑んだ。けれど、そのせいでハインズと柳は口を尖らせながら二人を見ている。


「ローズ様、そろそろ陛下を」


エファインは周囲にちった嫉妬の火花を気づいて、ローズに言った。他の護衛官らがうんうんとうなずいた。


「うーん、分かった」


ローズはうなずいて、立ち上がった。中庭でエフェルガンを呼ぶわけにはいけないから、彼らは宮殿の前に移動しあ。ローズは魔法の輪っかを唱えると、その中からエフェルガンが現れた。


「遅いよ、ローズ」

「うーん、ごめんなさい。お菓子を食べたから、つい・・」

「そうか」


エフェルガンが微笑んで、ローズに口づけした。ケルゼック達も現れると、エフェルガンは合図を出して、ローズに輪っかを閉じてもらった。


「これから神殿に行くけど、あなたは女王陛下とエルムンド王と会談する?」

「そうだ」


エフェルガンがうなずいた。


「うん、分かった。終わったら、神殿に迎えに来て」

「無論、そうするよ」


エフェルガンが微笑んで、うなずいた。


「神殿まで気を付けるんだぞ、ローズ」

「大丈夫よ。すぐそこだから」


ローズが笑って、宮殿の横にある神殿を手で示した。距離もとても近かったから、問題ないはずだ、とローズは言った。


エフェルガンと護衛官らが宮殿に入って、女王とエルムンド王との会談をしに行った。エフェルガン達を見送ってから、ローズと柳達は歩いて、神殿へ向かった。


「ローズ様」


突然ソラはローズの前に行った。神殿のすぐそこに、突然見知らぬ部隊が現れた。明らかに彼らは敵対する様子だ。


「全員早く神殿へ走れ!その間、俺が彼らを滅ぼしに行く!」


柳は大きな声で言った。この所で敵が突然現れたことを考えると、彼らはかなり計画的に襲撃を考えているのだろう、と柳は思った。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


柳は剣を抜いて、敵のど真ん中に突っ込んで行った。覇気とともに剣を振り降ろしたため、一瞬にして敵の部隊が半分になった。


柳が戦っている間に、ソラは急いでローズを抱きかかえて、素早く走って行った。ハインズ達は彼らを追って、走り出した。


バーン!


「きゃー!」

「がはっ!」


突然神殿の前で爆発が起きた。ローズとソラが数メートル先に飛ばされて、二人とも地面に叩き落とされてしまった。けれど、ソラは一瞬の判断でローズをかばった。下敷きになったソラは動かなかった。


「ごほごほ!」

「ローズ様!」


ハインズはローズの元へ急いで駆けつけて行った。ローズは咳き込みながら身を起こしたけれど、足と頭が痛く感じた。どうやら地面にぶつけた時に傷付いたようだ。けれど、彼女をかばったソラと比べると、ずっと軽い。ソラはまだ反応していない。ハインズはローズの状態を確認して、すぐさま彼女を抱きかかえた。


向こうで、エファイン達も急いで走って、ローズの元へ行った。煙の中でトニーが動いた姿が見えたけれど、もう一人の護衛官アナフはビクッと動かなかった。トニーはふらふらしながら剣を拾って、また走って、ローズの元へ駆けつけた。


「ローズ様、一先ずここから出ましょう!」


ハインズは言うと、ローズがうなずいた。ソラは突然咳き込んでから、身を起こした。ハインズがローズを抱きかかえながら、すぐさまエファイン達に護衛態勢をするようにと命じた。


ハインズは周囲を見渡した。彼らの周囲には複数の気配を感じた。けれど、柳の気配ではないことだけがはっきりとした。


「ハインズ殿、ここは神殿ではない」

「ああ」


エファインは緊張した声で言った。あの爆発で彼らはここへ飛ばされたのか、とハインズは瞬時に状況を理解した。極めて悪い、と。


「ソラ殿、大丈夫か?」

「はい」

「転移魔法の準備ができるか?」

「やって見る」


ソラがうなずいた。正直に言うと、かなりきつかった。けれど、彼はそのことを言わなかった。傷付いたローズを抱えている彼らは、とても状況が良いとは言えない。


「ごほごほ!」


ソラがまた咳き込んだ。彼は息を整えて、ローズとハインズの前に立って、呪文を読み始めた。


キーン!


エファインの剣がソラを攻撃した人の剣に当たった。ソラはエファインを見て、また呪文を読み続けている。


きつい、とソラは思った。


しかし、次の瞬間、近くでまた爆発が起きた。


「守りの風!」


ソラは呪文を中断して、瞬時にバリアー魔法を唱えた。ローズ達を守るのが彼にとって最大のことだ。けれど、そのために彼の魔力がほとんど残っていない。


ザッシュ!


エファインが相手を斬って、すぐさま後ろへ下がった。


「大丈夫か?」

「ああ」


エファインがソラに聞くと、ソラはうなずいた。けれど、エファインはその様子を理解した。ソラは魔力切れだ、と。


「これを飲んで」

「かたじけない」


エファインが素早くカバンから魔力回復薬を二本取り出して、ソラに渡した。ソラがすぐさまそれを飲んで、周囲を見渡した。


「あれは・・」


ソラが言うと、ハインズたちがソラが見た方向へ視線を移した。


「いや・・、うそよ・・」


ローズが目を疑って、首を振った。けれど、ハインズ達の顔がますます険しくなった。


上空に、二頭のハゲタカの足に、紐で吊られている姿のロッコがいる。彼の両手が紐でそれぞれのハゲタカの足に繋がれている。そして次の瞬間、ハゲタカが別の方向へ飛んで、ロッコの両手を大きく左右に引っ張られている。


「いや、いやよ・・、ロッコ!いやああああああああ!」


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