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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
アフター・ウォーズ

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748/811

748. 襲撃の真相(11)

オスダがダルゴダスと会った後、ロッコに連れて行った場所はダルゴダス邸の食堂だった。夜勤で働いている人にとって、夜の食事が大事だけれど、開いている屋台が少ない。なので、この食堂は里で働いている暗部や警備隊の隊員たちにとって、とても重要な場所だ。職員の休憩所にある手を洗うための水場の隣に扉があって、そこから食堂の出入り口がある。ロッコはその扉を開けて、中へ入った。


「おや? ロッコ様じゃないか?」


料理長のセティが厨房から現れた。


「やぁ、セティさん。まだ寝ていないのか?」

「これから宿舎に帰るが、食事か?」

「ああ。二人分なんだけど、こいつは新人でね、皿がないんだ」

「そう?分かった」


セティがうなずいた。


「自己紹介します。元アーチバルド王国の剣士、オスダ・ガーランドと申します」

「どうも、ご丁寧に。料理長のセティだ。よろしくな」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「まぁ、好きなところで座って」

「はい!」


セティが笑って、うなずいた。ロッコは並べられた皿を見て、自分の名前が書かれている皿を取り出した。


「こうやって、ここで食事するときに、自分の皿を探す」

「なるほど」

「まぁ、これも職員の特権かな、ははは」


ロッコが笑って、そのまま絨毯の上に座る。オスダが不慣れながらロッコを真似て、絨毯の上に座る。


「青竹の里では、このように食事することは普通なのか?」

「普通だよ。ここは親方様の支配地だからね。まぁ、里では貴族ぐらい椅子に座って食事するよ」

「へぇ」

「向こうの部屋では重要な客か、奥様やその娘たちの食事処があるけどよ、一般の職員は使用禁止だね」

「なるほど」

「だからここで、こういう食べ方を慣れた方が良い。まぁ、屋台やお店なら椅子や机があるけどな」


ロッコが言うと、オスダがうなずいた。


「だから机の脚が低いのか」


オスダが言うと、ロッコは笑っただけだった。数人の職員が入って、お皿を取ってから、厨房に顔を出してから、開いている場所に座った。ロッコを見かけると彼らは丁寧に挨拶した。ロッコは微笑んで、手を振っただけだった。


「ロッコ殿は偉い人なんだね」

「ははは、なんでそう思うの?」

「なんとなくそんな感じがしたから」


オスダが苦笑いした。ロッコは笑って、うなずいた。


「まぁ、ちょっとだけ偉いかな?」

「ロッコ殿は暗部?」

「そうだよ」


ロッコはうなずいた。


「確かに、私は暗部の仕事が向いていない。ロッコ殿の言う通り、私はバカ正直だから、秘密が多い暗部には向いていない」


オスダが天井を見て、ため息ついた。たった一晩、彼はすべてを失った。


「まぁ、あんたはこれからいろいろな仕事に挑戦すれば良い。腕を磨き直すのも良い。あるいは今までやっている趣味を極めて、仕事にすれば良い。仕事しながら修業することもあり。学園に顔を出して、自分ができることをするのも良い。また何かを勉強することも構わない」


ロッコは優しく言った。


「ここでは学園があるのか?」

「あるよ」

「貴族もいるのか?」

「貴族は親方様一家だけだ。ついでに言うと、学園は里の住民なら無料で利用できる。病院もね」

「すごい」

「まぁ、小さな里だからできるけどな。何にせよ、人口が千人もいないからな」

「千人もいない・・」

「そうだよ」


ロッコがうなずいた。


「だけど、それなりに強いと思うよ」

「ロッコ殿を見れば、分かる」

「ははは、そうなの?」

「はい」


オスダはうなずいた。


「俺は弱いさ。親方様の方が強いよ。それに親方様の周囲にいる人々もめちゃ強いよ。ちなみに気づいたと思うけど、あの料理長も強い。恐らく、あれは世界一強い料理人だろうな」

「・・・」

「ついでに言わないといけないのは、この屋敷にいる女性らも強いから、あまりちょっかいを出さない方が良い。あの王子のことが分かると思うけど、彼は触れてはいけない菫様の手をつかんだ。だから、大怪我しただろう?」

「はい」


オスダがうなずいた。


「姫様たちは、料理長のように大きいのか?」

「いんや」


ロッコは首を振った。


「親方様の娘さんたちは、あんたより小さいぐらいで、美人でかわいい女性たちだよ。とても優しくて、頭も良い。けど、まぁ、鬼神の子は鬼神だから、そのかわいい外見と違って、彼女達の覇気だけで、敵軍が倒れるほどの強さを持つ」

「覇気・・」


オスダは息を呑んだ。良く本で書かれている強い武人の姿があった。覇気だけで敵が倒れる、と。けれども、オスダの周りで覇気を出す人が一人もいなかった。要するに、アーチバルドでは覇気のことはただの伝説だ。


「ついでに言うと、長女のローズ様は、普通に巨大雷猪を狩るぐらいの腕前だ」

「巨大雷猪?!」


オスダはあの猪が図鑑でしか知らない。とても凶暴で、国を滅ぼせるほどの強さで、大変危険な動物だ。


「雷猪が大好物だってね、一突きで倒した。ははは、面白いよ、彼女は親方様に怒られるかと思って、こっそりと妹君の菫様と一緒に山に行って、巨大雷猪を一人で倒した」

「・・・」


オスダが瞬いた。次元が違いすぎるの話だ。


「まぁ、おかげで俺たちがその夜、ご馳走を食べた。ははは」

「美味しいのか?」

「うまかったよ、めちゃくちゃ美味~♪」


ロッコは笑ってうなずいた。


「お、来た。ありがとうよ」

「ごゆっくり」


一人の使用人が二人分の料理を持って、机に並べた。今日の料理はご飯と焼いた鶏肉と野菜炒めと漬物だった。とても美味しそうな匂いがした、とオスダは思った。


使用人はオスダの前にきれいなお皿を置いた。銀でできた皿だ。オスダはロッコの皿を見て、理解した。


この食堂では、銀のお皿は普通に使われている。毒対策だろう、とオスダは思った。


「ありがとう」


オスダがうなずいた。使用人がうなずいて、再び厨房へ戻った。


「頂きます」


ロッコが手を合わせて、食事し始めた。オスダがその仕草を真似すると、ロッコは微笑んだ。


「食べる前に頂きますを言う。食べた後、ご馳走様でした、を言う」

「それはこの里のやり方?」

「そう、覚えた方が良い」


ロッコがうなずいた。


「感謝は料理を作ってくれる人にだけじゃなくて、その材料になる鳥や牛にも感謝する。命を頂く、という意味だ」

「深い・・。私は今まで考えたことがなかった」


オスダは鶏肉を口に入れた。


うまい、うますぎる・・、とオスダは瞬いた。


「まぁ、ここで生活すれば分かるよ」


ロッコは微笑みながらうなずいた。オスダがうなずいて、また食事を口に入れた。


「これらの料理を全部食べても良いよ」

「いや、でも」

「良いって。俺はもうおなかがいっぱいなんだから、残したらもったいない」

「では、お言葉に甘えて」

「ああ、食べな」


ロッコが白湯を飲んで、ガツガツと食べているオスダを見ている。オスダ自身も信じられないぐらい、こんなにも食べてしまった。上品に食べるつもりだったけれど、手が止まらない。


これらの料理は美味しすぎるからだ!鶏肉も、野菜炒めも、漬物も・・美味~♪


「これらの料理は、今まで食べる中で一番美味だった」

「それは良かった、ははは」


ロッコが笑ってうなずいた。オスダは恥ずかしそうに笑って、すべての料理を食べた。そして彼はロッコを真似て、両手を合わせて、食事に感謝した。


食事を終えると、ロッコとオスダがまた夜道を歩いて、宿に向かった。途中で何人かの警備隊員と会って、挨拶した。


「ロッコ殿がやはり偉い人だね」

「ははは」


ロッコが笑った。一人の暗部隊員が現れて、合図を出した。


「まぁ、そんなもんだ」


ロッコが微笑んだ。


「オスダ殿、俺はこれからまた仕事しなきゃいけないから、今夜はここでお別れだ」

「はい」

「これからはここにいる俺の部下、ゼンジがしばらくお世話する。いろいろと生活が変わってしまって、大変だろうけど、頑張れよ」

「何から何まで、感謝致す」

「良いって」


ロッコがうなずいた。


「いろんな仕事に挑戦してな」

「はい」

「新しい住まいが決まったら、見に行くよ」

「ありがとう」

「では、お休み」

「お休みなさい」


ロッコが手を振って、近くの暗部隊員にうなずいて、そのまままた夜道に消えた。


オスダはゼンジという暗部隊員を見ている。若い、とオスダは思った。年は恐らく十代後半ぐらいで、男でありながらきれいな顔立ちだ。彼の首の後ろに鮮やかな赤い色の鱗が見えた。


「ゼンジです。よろしくお願いします」

「オスダ・ガーランドです。お世話になります。こちらこそ、よろしくお願いします」

「はい。どうぞ、中へご案内します」


オスダがうなずいて、ゼンジに案内を受けた。ゼンジが部屋を開けると、オスダはうなずいた。


小さめの部屋だけれど、きれいだ。荷物が机の上に置かれている。白湯が入っている魔法瓶とカップが並んで置かれている。寝室の隣に扉があって、開けると風呂と洗面台がある。その洗面台の隣にトイレがあって、清潔な感じがした。


全体的に良い部屋だ、とオスダは思った。


「今夜はごゆっくりとお休みになって下さい。明日、朝餉の後、里をご案内します。その時、お荷物をここに置いても問題ありません」

「分かりました」

「あ、私に敬語が必要ありません。どうぞお気楽に話をかけて下さい」

「あ、はい」


オスダがうなずいた。


「朝餉はやはり先ほどの食堂へ?」

「そう望むならできますが、面倒なら宿でも食事ができます。宿の食堂で食べるか、お部屋までもお届けすることできます」

「じゃ、宿で、食堂で食べる」

「分かりました。手配します」


ゼンジがうなずいた。


「魔法瓶に白湯が入っています。毒が入ってない、と確認しました。どうぞご安心下さい」

「あ、はい」

「寝間着はその椅子に置いて来ました。また洗浄油や清潔用品などは、風呂場で揃えています。他には何か必要な物がありますか?」

「今の所は大丈夫だ」

「分かりました。では、また明日にお伺いします」


ゼンジが頭を下げた。


「あ、ゼンジ殿、一つ聞いても良いか?」

「はい」

「ロッコ殿は、暗部の隊長なのか?」

「はい」


ゼンジがオスダを見て、答えた。


「彼はとても強かった」

「そうですね。恐らく、暗部の中では、最強だと思います」

「そんな強い人が、隊長なの?将軍ではなく?」

「はい、隊長です」


オスダは首を傾げた。アーチバルド軍なら将軍になる可能性もある。いや、アーチバルドだけではなく、恐らく他国ではあの強さの欲しさに、彼を引き抜くために女性や貴族の位も与えられるだろう。


「私はまだこの里のことが分からない。これからもいろいろと聞いてしまうかもしれないが、よろしくお願いします。もし知ってはいけないことがあれば、言って下さい」

「はい、分かりました」


ゼンジがにっこりと笑みを見せた。


「では、お休みなさい」


ゼンジが頭を下げて、退室した。オスダが窓を開けて、しばらく夜空を楽しんだ。新たな自分がこれから始まる、と彼は空に明るく光る月を見て、微笑んだ。





夜空を楽しんでいるオスダと違って、仕事場に戻ったロッコはミリナ班からの報告を読んで、しばらく考え込んだ。そしてロッコはレネッタのエッゼルからの報告も目を通して、最後はファリズとエトゥレの報告を読んだ。


「明日、スズキノヤマからエルムンドへの抗議文が送られます」

「分かった」

「ついでに、女王陛下からもエルムンド使節団を捕らえるようにと命じられました」

「了解」


ロッコが補佐官の報告を聞きながら、報告書を読んでいる。


「使節団員ら全員の居場所は把握している?」

「はい。ですが、使節団の代表は、サマルディ王子が怪我したことで、かなりお怒りを見せたようです。戦争するかどうかを言ったらしい、と彼らの見張り役のアシガラ殿から聞きました」

「正式に戦争すると宣言してくれた方が、こちらにとって好都合だけどな」


ロッコが報告書を読み直して、考え込んだ。


「あのおっさんはもう退院した?」


おっさんとはズルグンのことだ。


「いいえ、しばらく入院される予定です。上からの命令だそうです」

「ふ~ん」

「好ましい状態ではないことをアピールするためだと思います」

「まぁ、政治はそんなもんだ。その方が都合が良いからな」


ロッコはうなずいた。


「青竹屋敷の襲撃について、エルムンドに直接探る必要がある、とミリナ様からの伝言を預かりました。その役目はロッコ様に任せる、と」

「あいよ」


ロッコはうなずいた。


「ちびたちは、今でもダルゴダス邸にいる?」

「いいえ、もう屋敷へお帰りになりました」

「フェルザも?」

「はい」

「分かった。もう下がって良いよ。ご苦労さん」

「はい。では、失礼します」


その部下が退室すると、ロッコがしばらく窓から部屋の外へ見つめている。


ファリズとエトゥレの報告からは、ほとんどエルザ・マイヤーの口実通りだった。かと言って、スズキノヤマの大使であるズルグンをアルハトロスで殺そうとした行為は許されるはずがない。いくら縁談の邪魔とはいえ、一国の大使を攻撃すること自体はマナー違反だ。


戦争を覚悟して行った行為だ。モルグ王国が滅んだ後、この世界では、大きいな国が指で数えられるほど少ない。その一つはエルムンドだ。北半球の大国であるエルムンドはこの行為で南半球の大国スズキノヤマと戦争したら、犠牲者も多いだろう。


アルハトロスは難しい立場にある。ダルゴダスもそれを理解している。そして女王も、十分理解している。


スズキノヤマの皇帝であるエフェルガンがアルハトロス第一姫であるローズと結婚したことで、アルハトロスとスズキノヤマの関係は極めて良好だ。そしてダルゴダス家の次女、百合もスズキノヤマへ嫁いだことで、両国の関係はますます親密になっている。


民の願い通りの平和だ。


ローズもこの平和を永遠に続くようにと願っている。そして誰よりもそれを知ったロッコの心に痛みを感じる。またこの平和を壊すのか、とロッコはため息ついた。


ロッコはまたミリナからの報告書を取って、読み直した。シルマの星という暗殺ギルドの情報がずらりと書かれている。しかし、どれもエルムンドとの関わりがなかった。


ガビルタ・セルジョという男の情報もなかった。拷問であの名前が出て来たものの、情報が全くなかった。


今の所、エルムンドがズルグンの襲撃に関わっていることはイズミルやアーチバルド国王からしかない。けれどこれだけだと不十分だ。戦争するには、もっと強い証拠が必要だ。エルムンドが否定したら、それで終わり。すべての罪はアーチバルドが負わなければならない。実に汚くて、巧妙な戦略だ。


ロッコはもう一つの報告書を取った。レネッタの暗部、エッゼルが調べた結果、イズミルは複数の魔法師を依頼したことが分かった。それぞれの国の情報や経路まで細かく書かれている。たった一日で、良くここまで調べた物だ、とロッコは彼の報告を読んで、思った。


そして里の場所を覚えた魔法師の名前も分かった。


テオドール・フォンテン。ロッコがその男は知っている。その男は良く商人らに依頼された人だ。荷物を送るために、やはり魔法があった方が便利だからだ。けれど、誰にでも頼まれてしまうことが良くなかった。里の安全がそれで脅かされてしまったからだ。ロッコがその名前の下に書かれている文字を読んで、ため息ついた。暗殺済み、と。


エッゼルはロッコの指示通り動いた。長い間内戦に悩まされたレネッタはやっと最近平和になった。行方不明だった王も生きて、今はアルハトロスの宮殿で静養している。すべてローズのおかげだ、とレネッタの者らは口を揃えて言った。


だからレネッタの人々は、ローズのためならためらいなく、何でもするだろう。例えそれは人殺しでも・・。レネッタの人々は恐らく、世界のどの国よりも、スズキノヤマや自国のアルハトロスよりも、ローズを心から愛しているだろう、とロッコはそう思いながら報告書をめくって、目を通した。


報告を読み終えると、ロッコは暗部本部から出て、ゆっくりと夜道を歩いて、自分の家に戻る。途中で出会う警備隊の人々に軽く挨拶してから、彼は屋台に寄って、そばを注文した。


素朴な味だ。けれど、それで良い、とロッコは箸を取って、熱々のそばを食べた。


この里はいつまでもこのような平和でいて欲しい、とロッコは思った。そばを食べ終えると、ロッコは手を合わせて、食事に感謝した。


「俺も一つくれよ。あと白湯をもう一杯くれ」

「あいよ」


ロッコは隣に座った人を見て、笑った。


「やぁ、ファリズ」

「やぁ、ロッコ。遅かったじゃねぇか」


ファリズがそう言いながら店主から追加の白湯を受け取った。


「まぁ、いろいろあったからな」

「ふ~ん」

「報告書を読んだよ」

「まぁ、とりあえず、明日抗議文を送ることになる」

「使者でも送るの?首、敵に刎ねられるぞ?」

「俺がその使者だ。彼らが俺の首を執れるとは思えん」

「まぁ、とにかく気を付けろよ」

「ああ」


ファリズがうなずいて、店主からできたそばを受け取った。彼はそばを食べ始めると、しばらく二人は静かになった。


「俺も明日エルムンドへ行く」

「何しに?」

「ローズを攻撃した奴らを見つけるためだ」

「危険だ」

「問題ない」


ロッコが白湯を飲んで、空になったグラスを見つめている。


「スズキノヤマはエルムンドと戦争するのか?」

「場合によって、そうするかもしれない」

「そうか」


ロッコが店主にお酒を頼むと、店主が嬉しそうにうなずいた。店主がお酒を持って、ロッコの前に置いた。


「飲むか?」

「良いのか?」

「良いよ。おごってやるよ。店主、あと一本をくれ!」


ロッコが言うと、店主がうなずいて、もう一本を持って来た。夜中に熱燗は格別だ、とファリズが言うと、ロッコは笑った。


「頂きます」


ファリズがうなずいて、ロッコからお酒を受け取った。


「レネッタ側から、何か手伝えることがないか、連絡が来た」

「ミライヤ様から?」

「ああ」


ファリズが言うと、ロッコはゆっくりとお酒を口に入れた。


「なら、しばらくローズの周りを、厳重に警備してくれと頼んでくれ」

「そんなことなんだけど、弟が彼女の警備のために、ここに部隊を増やそうとしたが、女王は反対した」

「あの女王か・・。面倒な奴だ」


ロッコが言うと、ファリズもうなずいた。


「まぁ、この里がスズキノヤマの植民地なのか、と疑う人もいるぐらいからな」

「人が少ないことは事実なんだから、その辺りもちゃんと考えて欲しいものだ」

「ああ。なので、そのことでミライヤに相談したところ、レネッタ特殊部隊なら問題ないだろう、と彼女が言った」

「ふむふむ」

「警備以外は何が必要か、何か手伝えることはないか、と彼女が聞いたけど、弟はまだ考え中だ」


ファリズが空になったロッコのグラスに酒を注いだ。


「ありがとうよ」

「良いさ」


ファリズがうなずいて、また酒を楽しんだ。


「レネッタの暗部は優秀だ」

「そうだな」


ファリズが言うと、ロッコはうなずいた。


「会ったのか?」

「会議で会った」

「そうか」

「奴の説明を聞いた。確かに優秀だ」


ファリズがうなずいた。


「エルムンドの事情を探るために、あのレネッタの暗部を使うと良い。彼は強いから、心配要らねぇ」

「随分と彼を高く評価したな」

「そりゃそうだ」


ロッコが笑った。


「奴はローズが認めた暗部だからな」

「ほう?」

「紋章持ちだ。彼はあの赤い(やつ)の配下の一人だ。彼の力はかなり特殊らしいよ」

「なるほど」


通りでたった一日で、良くアーチバルドの魔法師らの逃げ道を探ってきたわけだ、とファリズは思った。火龍の加護というものか、と。


「けどな、このことはあの鳥皇帝に言わなくても良い。あいつが嫉妬すると、面倒な争い事になるから」

「そうだな。分かった」


ファリズがうなずいた。


「明日、一緒にエルムンドへ行こうか?」

「いや」


ロッコが首を振って、立ち上がった。


「俺は別行動する。あんたはあのレネッタの暗部と一緒に行け」

「あいよ」

「死ぬなよ」

「おまえもな」

「ああ」


ロッコが微笑んで、うなずいた。


「ご馳走さん!あいつの飲み食い分もこれで足りると思う。釣銭(つりせん)は要らねぇ」

「ありがとうございます!」


店主にお金を支払った後、ロッコが手を振って、夜道の暗闇に消えた。


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