738. 襲撃の真相(1)
「またシルマの星・・か」
ロッコがもう死んだ魚の目のような暗殺者を見ている。この暗殺者はヒョーの息子であるライガが捕まえた人だった。
「他の人を聞いて見ますか?」
「うーん、そうしようか」
エトゥレが言うと、ロッコがうなずいた。すると、エトゥレは床に倒れている暗殺者を乱暴に引っ張り出して、外へ出て行った。そして、再び入って、他の暗殺者を連れて来た。
皇帝の命令は絶対だ、とエトゥレはその暗殺者の手や足に鎖をかけた。何しても、青竹屋敷を攻撃した奴らの情報を聞き出さなければならない。エトゥレはチラッとロッコを見て、再びその暗殺者を見ている。
ロッコが怖い、とエトゥレは感じた。拷問だから怖い顔しなければいけないことは理解したけれど、それと別に、やはり何かが怖い。エトゥレ自身もうまく説明できないけれど、ロッコが放つ殺気がやはり冷たくて、恐ろしい。
味方であるから良かった。もしも自分がその暗殺者の立場になれば、多分同じ運命に辿り着いてしまうだろう、とエトゥレは思った。つまり、死。
「はぁ~」
ロッコはため息ついた。
「もう面倒だね。これで何人目だ?なぁ、答えろよ。お前が依頼したのは誰だ?」
「言うもんか!」
「そう言うと思った」
ロッコは素早く動いて、相手のアゴを掴んだ。そしてもう片手には大きな針があった。
「お前を聞き出すのが面倒だから、さっさと白状しな」
ブスッ、とロッコが持った針で暗殺者の頭を刺して、そのまま眼球まで辿り着いた。凄まじい痛みを感じた暗殺者が必死に暴れ出そうとしたけれど、鎖で彼が何もできなかった。それどころか、ロッコは彼のアゴを掴んだから、大きな悲鳴でさえ言うことができなかった。その様子を見たエトゥレは息を呑んだ。
「痛いだろう?毒を塗ったんだ。これね、あんたが死ぬまでじわじわと痛み出す特製の毒なんだよ。ありがたく思いな」
ロッコが針を手でぐりっと回した。暗殺者は震えながらロッコを見ている。
「早く死んだ方が楽だと思っただろうけどよ、俺がそうは許さねぇよ?回復」
ロッコが回復魔法を唱えた。そしてまた針をぐるっと回した。暗殺者の目から血が流れている。それを見たエトゥレはただ瞬いただけだった。
「言う、言うから・・」
ロッコが手を外すと、その暗殺者は震えて、痛みを耐えている。
「俺たちは、シルマの星に所属した冒険者・・」
「嘘つけ」
ロッコは近くにある椅子に座って、彼を見ている。
「はぁ、はぁ、本当、です」
「暗殺者と違うのか?」
「ぼ、冒険・・」
彼の言葉は続かない。強烈の痛みが彼の全身を襲った。暗殺者が激しくもがいて、口から泡を出ている。
「回復」
ロッコが回復魔法を唱えた。
「殺せ・・」
「まぁ、最終的に殺すけどさ」
「今すぐに・・殺せ」
「暗殺者の分際で、俺に命令するな」
ロッコが呆れた様子を見せた。
「で、冒険者とか、暗殺者とか、俺はどちらでも良いと思ったけどさ、依頼は誰が出したんだ?」
「知らない、知っても、教える訳には・・」
その言葉を終える前に、彼はまた強く震えている。強烈な痛みをまた襲って、大きな悲鳴が聞こえた。
「回復」
「はぁ、はぁ・・」
「で、誰が依頼した?」
「団長・・」
「団長は誰から依頼を受けた?」
「知らな、・・・あ、あ、・・」
「回復」
「セルジョ、ガビルタ・セルジョ・・」
「何者だ?」
「殺せ・・」
「回復」
ロッコがまた回復魔法を唱えた。
「ガビルタ・セルジョは何者だ?」
「殺せ」
「後で殺してやるから、先に言え!」
「今すぐに、殺せ!」
「しゃないな」
ロッコが立ち上がって、もう一本の針を出した。そして彼がためらいなく、暗殺者のもう片目に刺した。大きな悲鳴が外まで聞こえた。
「あんたは、犯してはいけない罪をしたんだ」
「はぁ、はぁ、はぁ」
「あの屋敷にいる女性は、この世に、誰よりも、何よりも、大事な人だ」
ロッコがその針を回すと、暗殺者がまた大きな悲鳴を出した。
「殺せ・・」
「今すぐは嫌だね。自害しても無駄だよ。あんたの舌にバリアー魔法を付けたから、噛んでも死なないよ?」
「・・・」
「あんたが知ったことを、すべて俺に明かしたら、さくっと殺してやるさ。だから、言って、ガビルタ・セルジョは何者だ?」
ロッコがまたその暗殺者から離れて、扉に向かった
「はぁ、腹減ったし、面倒だ。おい、飯食うか?」
「いや」
ロッコがエトゥレに聞くと、エトゥレは首を振った。食欲を失った、と。
「分かった。おい、弁当一箱をくれ!」
ロッコが扉を開けると、外にいる人が返事した。ロッコがまた扉を閉めて、椅子に座った。
「あんたの弁当がないと勘弁してな。規則で、取り調べが終えるまで、食事がないって書いてあるからな」
「・・・」
「で、ガビルタ・セルジョは何者だ?」
扉がノックされた音がすると、エトゥレが扉を開けた。外から弁当と飲み物が届けられた。エトゥレがそれを受け取って、そのままロッコに差し出した。
「ありがとう。あんたも食えば良いのに」
「いや、今は良い」
「そう?」
ロッコが微笑んで、弁当箱を開けた。
「わ!今日は豪華だね。頂きます!」
ロッコが食事しながら、相手から目を離さなかった。
「で、喋ろよ」
「もう殺せ」
「嫌だと言ったけど?」
「これ以上俺を拷問しても、何も出て来ない」
「どうだろう?毒がそろそろ反応すると思うけど?」
ロッコがまた弁当を食べた。暗殺者は急に激しく震えて、息苦しそうにもがいている。それにしても、ロッコが顔色を変えずに弁当を食べている。
「甘い物が弁当の中に一袋があるけど、食うか?」
「いや・・」
エトゥレは首を振った。正直に言うと、彼は食欲を失った。なぜなら、彼は朝っぱらから連続して拷問したからだ。
「しゃない。俺はあまり甘い物を食わないけど、入っているから食べないと食べ残しになる」
ロッコは弁当に入っている包みを開けて口に入れた。そして呑み込んでから、魔法瓶から白湯を注いで飲んだ。
「ガビルタ・セルジョ・・」
暗殺者は喋り始めた。
「依頼を、外交官から受けた」
「どこの国だ?」
「分からない。ただ・・」
「ただ?」
「彼は、ギルドの仲介者だ」
「言うことはそれだけか?」
「・・・妻子に、愛している、と言いたい」
「妻子がかわいいと思うなら、最初からこんな仕事を受けなければ良かっただろうが?」
「そう、だな」
「悪いけど、あんたの最後の願いは叶えられない」
「分かっている」
助かったとしても、彼の視力がもうない。
「殺せ」
「良いだろう」
「感謝する」
「言わなくても良い」
その言葉を最後に、ロッコがうなずいて、もう一本の針で彼の首に刺した。暗殺者がそのまま崩れ落ちた。ロッコが彼の手と足の鎖を外した。
「この里では、親方様とその家族を襲った人の罰は死しかない。愚弄することも、禁じられている。文句や問題があった場合、直接領主に向かって、ちゃんと言わないといけない」
ロッコはもう息がない暗殺者を見て、エトゥレに言った。
「我が国でも、・・そうですね」
エトゥレがうなずいた。そして彼は手を伸ばして、その暗殺者を引っ張り出した。エトゥレは扉を開けて、遺体になった暗殺者を投げ出した。
「とりあえず、残りは後にする」
ロッコは弁当箱を持って、取り調べ室から出て行った。空になった弁当箱は机において、その近くで遺体になった暗殺者を見て、その向こうに彼を見ている数人の暗殺者らを鋭い目で見ている。
「彼のように、痛みを伴った死で、最後の迎えたことをしたくないなら、さっさと白状しな。そこにいる人にでも良いからな」
ロッコが近くに立っている暗部隊の人を手で示しながら言った。そして彼は地下室を後にして、筆書が作成した紙に目を通してから、拷問の結果を加えた。
「これを大至急、親方様へ届けてくれ」
「はい!」
ロッコはその報告書を筆書に渡してから、エトゥレと一緒に外へ出て行った。
「これから、どこへ?」
「あのおっさんを会いに行く」
「おっさん・・?」
エトゥレは首を傾げながらそのままロッコの隣で歩いている。学園の近くになると、たくさんの警備隊がいる。ロッコたちはそのまま学園に入って、病院へ向かった。
「やぁ、ヘイガ」
「やぁ、ロッコ。隣はエトゥレ殿かな?」
「そう」
ロッコはうなずいた。ヒョーの息子の一人、ヘイガが扉を開けると、中にいる人がビシッと立っている。
「やぁ、コーガ。ちょっとだけ外してくれるか?」
「あいよ」
コーガはうなずいて、部屋の外へ出て行った。外で人の会話を聞こえてから、静かになった。
「あれはリンカの兄貴だ。外にいるヘイガもね」
「へぇ」
エトゥレがうなずいた。
「ついでにいうと、あの二人は双子だよ」
「へ?」
「似ていないだろう?」
「はい」
エトゥレが不思議そうな目でうなずいた。コーガがしんなりと細い体をしているけれど、ヘイガがかなり筋肉質でがっちりとした体だ。顔や瞳の色はそっくりだ。けれど、毛の色が正反対だ。コーガが黒いにベイジュのしましま模様があったけれど、ヘイガはその逆だ。ベイジュに黒いしましま模様があった。そしてワイルドな雰囲気のコーガと正反対に、ヘイガがとても誠実な雰囲気だった。
「性格も似ているのですか?」
「うーん、多分、二人ともあの黒猫に似てるかな」
「大変ですね」
「ははは、そうか」
ロッコが笑って、ズルグンのそばに行った。
「リンカさんの兄君でしたか」
「そうだよ、ズルグン殿」
「お顔がとても似ているのですね」
「ははは、あのツンツンの頭じゃなければ、そっくりだろうな」
ロッコはにっこりと微笑んだ。
「具合はどうだ?」
「皇后様が治して下さったから、大丈夫です」
「なら良かった」
ロッコはうなずいた。
「でな、あんたはなぜおとなしく敵にやられたんだ?」
「おとなしくやられた訳ではありませんよ?」
「このたぬきおっさんめ」
ロッコが言うと、ズルグンは笑った。
「たぬきですか?私はフクロウですよ?」
「あんたの腕だと、奴をそう簡単に倒せるだろうが」
ロッコが言うと、ズルグンはにっこりと微笑んだ。
「ご存じなんですね」
「まぁ、な」
ロッコはうなずいた。
「相手は市場から私を追っていました。一応、フェルザ皇子殿下が住んでいるロッコ殿の家の郵便受け箱の中にお手紙をこっそりと入れてから一刻も早くロッコ殿にお目にかかりたく移動しましたが、間に合いませんでした」
「大きな声で言えば良いんじゃねぇか?助けて~、とか」
「そのようなことをしたら、実行する前に逃げてしまって、犯人が捕まりません」
ズルグンは首を振った。
「相手は二人いて、一人は私の身動きを魔法で封じたのです。そして、もう一人は素早く脇腹を刺しました」
「あのガムルと言う奴が刺した方か?」
「そうだと思います」
「動きを封じた奴は?」
「名前は知りませんが、顔に傷がありました」
「傷ねぇ」
「私がとっさに彼の頬をつかんだからです」
「なるほど」
ロッコはうなずいた。
「でも良く無事で」
「はい、皇后様のおかげでございます」
ズルグンはうなずいた。
「もし、あの時に彼女がこの里にいなかったら、あんたは死ぬよ?」
「皇后様がここにいらっしゃらなければ、私がきっと抵抗するでしょう。私だって、まだ死にたくありませんから」
「だろうな」
ロッコはうなずいた。
「だが、そうすると、攻撃する相手の情報も分からないでしょう」
「ふむ」
ロッコは考え込んだ。
「どこの国が絡んでいるか、見当は付くのか?」
「はい。しかし、証拠がありません」
「ふむ」
確かに証拠がない、とロッコは思った。
「ですが、彼らの本当の狙いは、私ではありません」
「へぇ」
「まだ推測ですが・・ごほごほごほ」
ズルグンが突然咳き込んだ。エトゥレが素早く動いて近くにある魔法瓶から白湯を出して、ズルグンに優しく飲ました。
「すみません、咳き込んでしまいました」
「問題ない」
ズルグンが謝ると、ロッコは微笑んだ。
「で、どこの誰が襲撃したか、分かってるの?」
「どこの誰だと言われると、その答えはシルマの星しかないでしょう」
「襲撃を実行したやつらね」
「はい。ですが、本当の依頼者は分かりません。しかし、この状況を考えると、恐らく・・」
「エルムンドか?」
「私はそう思っていますが、先ほども言ったように、証拠がありません。ですが、エルムンドではない可能性もありますが、なんとも言えません。それに、私がただの踏み台に過ぎないでしょう。彼らの本当の狙いは菫様か、あるいは皇后様か、この時点では、なんとも言えません」
ズルグンはため息ついた。
「なぁ、ズルグン殿、あんたは知っているかどうか分からんが、昨夜、青竹屋敷が襲撃されたんだ」
「何?!」
ズルグンは驚いたあまりにロッコの手をつかんだ。
「皇后様は?皇子たちは、ご無事ですか?!」
「無事だよ。しかも、無傷だよ」
「良かった・・本当に良かった・・」
ズルグンがホッとした様子でロッコの手を離した。
「手を強くつかんで、申し訳ありませんでした」
「気にしないさ。本当に知らなかったんだ」
「はい」
「驚かせて、すまなかった」
「いいえ」
ズルグンは首を振った。
「教えて下さって、ありがとうございます」
「良いって」
ロッコは微笑みながら首を振った。
「犯人は?襲った奴らを捕らえたのですか?」
「リンカの兄貴が捕まえたんだ。おかげで、少し情報を得ることができた」
「ほ?先ほどの御仁ですか?」
「あれの上の兄だ。ライガという奴だ」
ロッコはうなずいた。
「元気になったら御礼を言わないといけませんね」
「まぁ、それは元気になってからな」
ロッコはうなずいた。
トントン、と扉がノックされた音がした。はい、とロッコが返事すると、扉が開いた。現れたのはファリズと護衛官のトダだった。
「やぁ、ファリズ」
「やぁ、ロッコ。元気してるか?」
「まぁ、な」
「相変わらず若々しい面しているな」
「あんたもね」
ファリズは笑ってうなずいた。
「ファリズ様」
「もう元気になったか、ズルグン殿」
「皇后様のおかげでございます」
ズルグンはうなずいた。
「早速だが、父上が俺に協力を要請する理由はたった一つだ。犯人を捕まえろ、ってな。失礼するよ」
ファリズはズルグンの寝台の隣にいて、ズルグンの額を触れた。
「おまえを襲った奴らのことを思え」
「はい」
ズルグンがうなずいた。
「大丈夫でしょうか?」
「ばっちりだ」
「それだけで良いのですか?」
「ははは、そうだよ」
ファリズはうなずいた。
「俺は地獄の王と言われる理由もそこにあるんだ」
ファリズがうなずいて、手をズルグンの額から離した。
「出でよ! 地獄の番犬、ケルズ!」
ファリズが言うと、もこもこと黒い煙が出ている。そしてその中から一頭の奇妙な犬が現れた。全身黒い犬だけれど、奇妙な赤い模様がある。ファリズは自分の手をケルズの頭に付けた。
「こんな感じの奴らだ。分かるか?」
「ガルルルルルルル」
「遠いか?」
ケルズがうなずいた。
「出でよ! 地獄の番人!」
次に出て来たのは半透明の人らしき者が現れた。
「ケルズが行きたい場所へ案内せよ」
『御意』
その半透明の人がうなずいて、そのまま魔法の輪っかを開いた。ケルズが入ると、ファリズはロッコとエトゥレを見て、うなずいた。
「じゃな。ゆっくりと休めよ」
「はい。行っていらっしゃいませ」
ズルグンはにっこりと微笑んで、うなずいた。ロッコは手を振って、そのままその輪っかの中に入った。エトゥレも丁寧に頭を下げてから、ロッコの後ろを走った。最後にファリズが入ると、その半透明の人が消えた。
「話は聞いたことがありましたが、実際に見るのは初めてでした。不思議な者を見てしまいましたね、トダ殿」
「はい、そうですね」
トダがうなずいた。そして彼はズルグンの脈を測って、熱も確認した。
「少しお休みになれば、元気になります」
「皇后様のおかげです。死ぬかと思ったのですが、こうやって生きて、ありがたいものです」
「私もそう思っています」
トダは微笑んで、うなずいた。再び扉がノックされて、部屋に入ってきたのはコーガと医療師のソノダだった。
「ソノダ先生ですね」
「はい、そうです」
ソノダが微笑んで、ズルグンの脈を測って、記録した。
「熱もなさそうで、安全のため、少し休みましょう」
「はい」
ズルグンはうなずいた。
「先生、先日私を救って下さって、ありがとうございます」
「どういたしまして。でも、ズルグン殿を助けたのはローズ先生ですよ。私よりも、彼女に感謝すべきかと思います」
「必ず、後ほど皇后様にも御礼を申し上げます」
ズルグンは丁寧に頭を下げた。部屋がまたノックされて、コーガが扉を開けると、昼餉を運んで来た看護師がいた。ソノダはズルグンを少し起こして、背もたれに枕を置いた。
「軽い昼餉を食べて下さい。この通り、毒は入っていません」
ソノダが自分のポケットから紙に包まれているスプーンを取り出して、封を開けて、ズルグンの食事を毒味した。そう見たズルグンは驚いた。
「毒味してくださるまで、本当にありがとうございます」
「私は医療師です。患者の命を守るのは私の役目です」
ソノダが微笑んで、うなずいた。毒味に使われたスプーンをズルグンに見せてから紙に包んで、またポケットに入れた。そして彼は回復薬を机において、トダに説明してから部屋を後にした。
「ズルグン様、手伝いましょうか?」
「自分で食べます。頂きます。トダ殿は昼餉をしましたか?」
「はい。頂きました」
ズルグンは手を合わせて、机の上にあるスプーンを取った。優しい味のスープとおかゆだった。美味しい、とズルグンは思って、ゆっくりと味わった。




