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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
アフター・ウォーズ

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737/811

737. アルハトロス王国 青竹屋敷の襲撃

その日の夜に、エルムンド王国の使節団を歓迎するために、ダルゴダス邸では宴が行われている。使節団には王子を始め、経済や防衛の話をするための専門家も同行している。踊りも芸も披露されて、とても賑やかな宴になっている。


「我々の王子と菫様が結ばれたら、両国にとって、これ以上の喜ばしいことはないでしょう」


大使は微笑みながら言った。ダルゴダスが何も言わず、別の部屋で食事しているフレイと菫をちらっと見た。


「だが、アクバー・モーガンと戦争したときに、エルムンドが来なかったじゃねぇか?」


ヒョーは肉を食べながら言った。


「あの時は、エルムンドとアルハトロスとの間に、条約がなかった」

「ふ~ん」


王子が答えると、ヒョーは興味なさそうに葡萄酒を飲んだ。


「だが、これからは違う」

「どう違うのか?」

「我々がアルハトロスと同盟することで、アルハトロスがこれから発展するだろう」


王子が言うと、ヒョーが考え込んでいるダルゴダスを見ている。確かにエルムンド王国はアルハトロス王国よりも大きい。港を持っているから、町々もかなり発展している。


「そう言ってるけど、どうするの、ダヴィード?」


ヒョーが言うと、ダルゴダスは笑った。


「どうするも何も、まず王子が菫に話をかけることができるかどうか。彼女と話して、縁談に応じてくれれば、話はそれからだ」

「確かにそうだな」


ダルゴダスが答えると、ヒョーもうなずいた。


「同盟の話も、菫次第だろう?」

「それが一番理想的だと思います」


大使はダルゴダスの質問に答えた。


「わしは娘の縁談に口を出さないと決めた。が、最後の最後だけで、娘たちが選んだ結婚相手を確かめる。相応しいかどうか、な」


ダルゴダスは遠くから彼に頭を下げた菫とフレイを見て、うなずいた。その宴に出ている人々が二人の美しさを見て、息を呑んだ。


まるで天女だ。


数人の子どもを産んでもその美貌を保っているフレイ、そして母親に負けないぐらい美しい菫。二人が並べると、まるで姉妹。菫の青紫の髪の毛が風に揺れて、彼女の美しさが増していくような感じになった。サマルディ王子は瞬きせず、菫を見つめている。


「菫、この人はサマルディ王子殿下だ」


ダルゴダスが言うと、菫は彼を見て、何も言わずただ丁寧に頭をさげた。サマルディは慌てて立ち上がって、丁寧に自己紹介しようとしたけれど、菫は興味なさそうにそのまま食堂を後にした。


「無礼じゃないか!」


一人の使節団の騎士は声を荒げて言った。


「いきなり来た王子も無礼だ、と彼女が言ったがな」


ダルゴダスが言うと、先まで和やかな雰囲気が凍り付いた。


「我々は事前にアルハトロス側に通達致しました」

「だが、王子が来ることは、大使が言っていなかった」

「それは・・」

「だから、わしができることはこの一週間、王子が菫に声をかけることができるかどうか、見守るしかない」

「彼女がこの屋敷から全く出て行かなければ、二人の出会いがないではないでしょうか?」

「ふむ」


大使の反論を受けると、ダルゴダスが考え込んだ。


「ならば、わしの屋敷に泊まれば良い。今夜は無理だが、明日からなら良い。だが、護衛は一人だけだ。身の回りの世話が必要なら、後ほど侍女長に相談すれば良い」


ダルゴダスが言うと、王子と大使が顔を見合わせた。


「ありがたく幸せ。与えられた機会をちゃんと掴んで見せます」


サマルディ王子がうなずいた。王子が頭を下げてから再び座って、食事を終わらせた。大使が凍り付いた雰囲気を盛り上げようとしたけれど、最後までダルゴダスは多く語らなかった。


「ファリズが来たと聞いた」


食事の後、使節団が帰った。ヒョーはダルゴダスと一緒にリビングに行った。ヒョーがダルゴダスに尋ねると、ダルゴダスは静かなリビングに腰を下ろして、考え込んだ。


「昼前に来た。あの鳥皇帝が召喚したからだ」

「やはりズルグン殿の襲撃事件のことか?」

「そうだ」


ダルゴダスがうなずいた。


「それで?何か分かったか?」

「どうだろう。彼はズルグンを会いに来たが、その後ロッコを会いに行くと言って、病院から出て、どこかへ行った」


ダルゴダスが答えると、ヒョーが笑った。


「青蛇と地獄の王が組むのか」

「ああ。あと、あの鳥皇帝の暗部もな」

「これじゃ、犯人がすぐに分かったじゃねぇか。かわいそうに」

「ふん!その方が良い。こういう問題は早く解決した方が良いに決まっている」

「ははは、そうだね」


ヒョーがうなずいて、立ち上がった。部屋の中に猫姿のリンカが入ろうとしたけれど、ヒョーがいるから、彼女は一度足を止めて、別の方向へ行った。


「相変わらずリンカに嫌われるな、ヒョー」


ダルゴダスが呆れた様子で笑った。ヒョーも苦笑いした。


「彼女はローズちゃんみたいに、素直な子にならねぇかな」

「ローズが?素直か?」

「素直だよ。俺にとって、とても素直でかわいい姪だ」

「そうか」


ダルゴダスがしばらく外を見つめながらため息ついた。


「あいつの息子も、とても良い子だよ、ダヴィード」

「フェルザか」

「そうだよ。父親と全く違う」

「どちらの父親だ?」

「どれも。全員が厄介で、素直じゃねぇ」


ヒョーが縁側に行って、手を振った。彼の目の前で、フェルザたちと護衛官らが魔法の輪っかで現れた。


「ヒョー先生!」

「おや?じいちゃんに会いに来たのか?」

「うん」

「そうか。じゃ、良い子してな」

「うん!」


ヒョーはフェルザをなでてから、そのまま屋敷を後にした。


三人の子どもたちがダルゴダス邸に現れた。ヒョーは直感的に、何かが起きていることを感じた。


「ライガ! 早くローズちゃんの屋敷へ!」


ヒョーが屋根から屋根へ飛び移りながら言うと、途中で出会った彼の息子のライガがちょうど屋台で麺を食べている最中だった。ヒョーに声をかけられたライガは急いで丼を置いて、素早く走って、そのままモイの家の屋根に登って行った。ダルガも何かを感じて家の外へ出ている。


その時だった。


大きな爆発音が聞こえた瞬間、地面が揺れた。そして数多くの不審者が空中で現れて、屋敷に入り込もうとした。けれど、すでに待機しているスズキノヤマ海外基地所属空軍部隊とその将軍であるエルク・ガルタが激しく敵の攻撃を応戦した。ガレーも地上にいる護衛官らと一緒に敵と戦っている。


「ライガ、北側はおめぇに任せた!」

「あいよ!」


ヒョーが直ちに武器を装着しながら走って、敵を蹴った。


「エルク!ここは任せた!俺が南へ行く!」

「お願いします、先生!」


エルクは自分の部隊を指示しながら屋敷内に流れてくる敵を斬り捨てた。


それにしても、数が多い。恐らく二か三部隊以上の数だ、とエルクは思った。北側でライガが一人で戦った姿が見えた。雷と組み合わせたしなやかな彼の動きがとても印象的だった。すごすぎる、とエルクが息を呑んだ。


ガシン!


エルクが音がした方へ見ると、ガレーは一人の敵と戦った。エルクが素早く降りて、ガレーを攻撃した敵に向かって剣を振り降ろして、ガレーから引き離した。


「ガレー殿、中へ確認して下さい!」

「分かりました」


エルクが叫ぶと、ガレーはうなずいて、そのまま屋敷内に入った。元暗部の彼は潜伏している敵を見つけるには容易いことだ。ガレーが戦っている最中に、トダは部屋から出て、素早く剣を抜いた。


「トダ殿、ローズ様のお部屋に向かってください」

「皇子たちは?」

「もう避難されました」

「分かりました!」


ガレーはトダに指示を出した。トダは急いで走って、ローズの部屋に向かって中庭を通った。その中庭に狼のアッシュが敵を噛み殺した姿があった。トダは息を呑んで、そのままリビングに入って、ローズの部屋を目指した。そこにはすでにハインズ達がいて、武器を持っている。


「扉を閉めろ!」


ハインズが言うと、護衛官らが素早く中庭と縁側の間にあった引き戸を閉めた。鍵も付けて、外からは入れない仕組みになっている。


「全員戦闘態勢だ!」

「はっ!」


ハインズの命令に護衛官らが一斉に返事した。


「ローズ様は、やはり中に?」

「ああ」


トダの質問にハインズはうなずいた。


「寝ているんだ」

「どこかへ避難をなさった方がよろしいのではないか?」

「陛下のご命令だ」

「なぜ・・?」

「敵をおびき出すために」


ハインズの答えを聞いたトダは息を呑んだ。大事な皇后を餌にするほど敵が単純だったのか、とトダは思った。


しばらく外は激しい戦いの音が聞こえた。中庭にいるアッシュも激しく敵を噛んで、悲鳴が聞こえている。


けれど、数十分が経つと、その激しい音が静かになってきた。


「外はなんだか静かになった」


トダが息を呑んで、言った。ハインズがうなずいた。エルク・ガルタの声が聞こえると、複数の足音が聞こえた。


「ハインズ殿! 皇后様はご無事か?!」


閉められた扉の向こうから声が聞こえた。すると、寝室の中からソラの返事が聞こえた。ハインズがうなずいて、扉に向かって、返事した。


「ご無事だ。今お休みになられました」

「分かった。なるべく静かにする」

「頼む」


ハインズはホッとした様子だった。


「だが扉はしばらくこのままにしてください。アッシュに噛み殺された暗殺者らの遺体を掃除しなければならない」

「分かった」


ハインズがうなずいた。


「あと、可能なら、トダ殿に、医療師の応援を願いたい」

「分かった」


ハインズがうなずいて、トダに合図を出した。


「うむ、ソラ」

「起きていらっしゃいますか」

「さっきから寝ていないんだけど」


ローズが言うと、ソラは苦笑いした。


「うるさかったからですね」

「うん」


ローズがうなずいた。


「私が外に出た方が良い?医療師が必要でしょう?」

「いいえ。医療師ならトダ殿と国軍基地から来ます。ローズ様はこのまま寝ても問題ありませんよ」

「うむ」

「ローズ様の出番が明日なんです。無事のお姿を見せて、襲撃なんて「ふん!」、と軽く見せるように振る舞って下さい」

「うむ、そういう作戦なんですね」


ローズがうなずいた。


「ですから、今宵は多少うるさいけれど、安心してお休みになって下さい」

「そこまでいうなら・・。うーむ、分かったよ、ソラ。お休みなさい」

「お休みなさいませ」


ローズが言うと、ソラがにっこりと微笑んだ。


けれど、すやすやと眠っているローズと違って、ソラとエファインはずっと部屋の中で、朝まで護衛し続けていた。





「皇帝陛下が御成!」


外でそう聞こえると、ソラたちがビシッと立っている。


「皇后の様子は?」

「ぐっすりとお休みになられています」


ソラが答えるとエフェルガンはうなずいて、寝台のカーテンを開けた。


「よく我慢してくれた」


エフェルガンが眠っているローズに口付けしてから、再びカーテンを閉めた。


「ご苦労であった。しばらくこの体制を維持せよ。余はこれからダルゴダス公爵に会う」

「はっ!」


ソラとエファインが小さな声で返事すると、エフェルガンはうなずいて、また外へ出て行った。

エフェルガンは青竹屋敷を見渡してから、ローズの部屋の前に座っているアッシュを見て、微笑んだ。


「皇后を良く守ってくれたか、アッシュ?」

「ワン!」


アッシュが尻尾を振ってから、餌を持って来たラカを見て、嬉しそうに近寄った。


「このような仕草を見ると、まるで普通の犬だ」


エフェルガンが微笑みながらガツガツと餌を食べているアッシュを見ている。


「はい、普通の犬でございます。ただ、少し凶暴なだけでございましょう」


ラカは微笑みながら下男が持って来た水をアッシュの隣に置いた。


「少し凶暴か。昨夜、かなり敵を噛み殺しただろう?」

「はい。この辺りで見つけた頭の数を数えると、10人ぐらいでございます」

「中庭に?」

「はい」


ラカがうなずいた。


「上出来だ。引き続き、皇后を頼んだ」

「かしこまりました」


エフェルガンがそのまま馬車に乗り込んで、ダルゴダス邸へ向かった。


周囲の様子は大した変わらない。けれど、警備隊は結構の数で待機している様子が見えた。青竹屋敷の周辺で朝餉を食べている警備隊員らの様子も見えた。ほとんど緊張感がない。


途中で、エフェルガンはリンカの兄たちを見かけた。警備隊の制服に身を包んだ彼らは、シリアスな様子で会話している姿が印象的だった。そして、中心にいる人がヒョーにそっくりだ。恐らくその人は長男のヒョーガだろう、とエフェルガンは思った。


「お待ちしておりました」


エフェルガンが迎えに来た外務補佐官にうなずいた。二人がそのまま領主の屋敷に向かうと、朝早いにも関わらず、中庭で遊んでいる子どもたちが見えている。


「殿下達は全員ご無事でございます」

「そうか。なら、良かった」


エフェルガンがうなずいて、そのまま執務室へ入った。


「どうぞおかけ下さい」


ダルゴダスが数枚の紙を取って、立ち上がった。そして彼はエフェルガンの前にその紙を見せた。


「シルマの星の情報だ」


シルマの星はササノハ地方の暗殺ギルドのことだ。


「彼はローズを狙ったことも判明した。ヒョーの息子、ライガが生きたまま何人かを捕まえて、暗部に引き渡した。拷問した結果、その事実を知った」


ダルゴダスが言うと、エフェルガンが無言でそれらの紙で書かれている情報に目を通した。


「息子達を守って下さって、御礼を申し上げます」

「わしの孫たちだ。礼を言われるほどではない」


ダルゴダスはうなずいた。


「それよりも、ローズは無事か?」

「はい」


エフェルガンはうなずいた。


「ぐっすり眠っていた」

「まったく、あのじゃじゃ馬が・・」

「それほど彼女が疲れていた、ということです」

「こちらに連れて来れば良いのに」

「エルムンド王国の王子がここにいるのに?」


エフェルガンは首を振った。


「そのようなことを心配しなくても良い。あの王子が泊まる場所は彼女の部屋と離れておる」


ダルゴダスは首を振った。もしも泊まるとなると、ローズの部屋は離れにあるVIP室で、ちょうどミレーヌの部屋の隣だ。エルムンドのサマルディ王子は食堂の向かい側にある小さめの部屋だ、とダルゴダスは説明した。


「相手は王子なのに、そのような小さめの部屋でも良いのか?」


エフェルガンは思わず聞いた。


「ふん!アクバー・モーガンが来た時に、彼らは全然手伝わなかった。条約がないだの、なんだの、言い訳だけを並べた。わしが彼らを歓迎するとでも思うのか?」

「じゃ、なんで彼らを受け入れた?」

「女王だ。彼らが先に女王に連絡してから、ここに来た。普通の使節団だと思って受け入れたが、まさか王子まで来たとは思わなかった」


ダルゴダスはため息ついた。


「一週間だけだ。その間に菫が彼から逃げれば問題ない」

「一週間は結構長い」


エフェルガンはため息ついた。


「菫令嬢とガルタ将軍との関係は、スズキノヤマでもかなり話題になった。もう正式に婚約しても良いかと思うが・・」

「それほどに、二人が?」

「はい。手を繋いで、誰が見ても愛し合っている二人のような感じで、二人が見つめ合ったりしていました。ファリズ兄上やフレイ夫人にお尋ねにすれば分かるかと思います」


エフェルガンが言うと、ダルゴダスは考え込んだ。もうすぐ成人になる菫に婚約発表をすれば、求愛する男達が諦めるだろう、と。


「ところで、ロッコ殿から何か聞いていませんか?」

「犯人はまだ追跡中だ。今日か明日辺りに、ことがはっきりとなるだろう」

「分かった」


エフェルガンがうなずいた。


「スズキノヤマ帝国皇后と大使を攻撃されたから、我々も黙っていません。力を貸しましょう」

「ふむ」


ダルゴダスがためらった。大使が攻撃されただけでも十分戦争する理由になる。けれど、それを加えて、皇后であるローズまで攻撃を受けたことを考えると、極めてまずいことだ。これでスズキノヤマは戦争を正当化にできるようになった。それだけではなく、彼らはこれでためらいなく武力を使うことができるようになった。


「ローズはわしの娘だ」


ダルゴダスはため息ついた。


「彼女を襲われたとなると、青竹の里がためらいなく相手を攻撃することができる。が、未だに相手はどこの誰か、まだ分かっていない」


ダルゴダスがエフェルガンを見て、言葉を選んで、慎重に言った。この若き皇帝は、戦争を宣言する権利を持っている。ローズの夫である彼は、とても危険な人だ。


スズキノヤマは世界一強い国だ。


軍事力も、経済力も、世界一だ。スズキノヤマと戦争する国が、無傷でいられない。


「相手が分かったら、連絡を願う」

「そうする」


エフェルガンが言うと、ダルゴダスはうなずいた。


「そうだ、エフェリュー達は、今夜どうする?」


ダルゴダスは立ち上がって、自分の机に戻った。


「屋敷は今掃除中だが、未だに血のにおいが強い。アッシュが昨夜、暗殺者十人も噛み殺したから、その破片を取り除く作業は時間がかかる」

「あの海龍の(わんこ)か」

「はい」


エフェルガンがうなずいた。


「なので、しばらくここにいてもよろしいですか?」

「構わん。檀も喜ぶ。さっきも見たと思うが、あの4人は木を上ったり、屋根の上で走り回ったりしている。ははは」


ダルゴダスが笑いながら座って、机にある白湯を飲んだ。エフェルガンは苦笑いして、立ち上がった。


「しばらくうるさくて、許して下さい」

「構わん。子どもはそんなもんだ」


ダルゴダスはうなずいた。


「ローズがここにしばらくいたいなら、部屋を用意するが、どうする?」

「多分大丈夫だと思う。それに、私はあのエルムンド王国の者たちに、ローズを晒したくない」

「なるほど」


ダルゴダスがうなずいた。それほどまで、エフェルガンは敏感だ、とダルゴダスは思った。


「では、何があったら、そこにいる外務省補佐官、ガルティ・ソルティエンに情報をお願いします」

「心得た」

「では、失礼します」


エフェルガンらが頭を下げると、ダルゴダスがうなずいた。エフェルガンらが外へ出て行くと、ダルゴダスがしばらく考え込んだ。


しばらく考え込んだダルゴダスが立ち上がって、そのまま執務室を出て、そのままフレイがいる部屋へ向かった。


「フレイ、聞きたいことがある」

「あ、はい」


フレイは立ち上がって、うなずいた。侍女達が絨毯の上で遊んでいる撫子(なでしこ)を抱いて、外へ連れ出した。


「菫は、本当にあの将軍と仲が良いのか?」

「はい」


フレイはうなずいた。


「数回か、菫の方から、ガルタ殿に食事をご馳走したことを聞いております」

「食事?」

「はい。菫の手作り料理と侍女長から聞いております。彼女はガルタ殿とともに、昼餉を食べたらしいです」


フレイが答えると、ダルゴダスは考え込んだ。


「この前の旅行でも、二人の様子はどうだった?」

「とても良いですよ。あの二人はずっと手を繋いで、会話に夢中している様子も見えました。ですから、私もそれをあなたに言おうと思ったのですが、報告する前に、この問題があって・・」


言う機会がなかった、とフレイは言った。


「そうか」


ダルゴダスがうなずいた。


「よく話してくれた。菫に、今日からサマルディ王子が泊まりに来る、と伝えてくれ。くれぐれも、外へ出ないように、と」

「あの王子が、何か?」

「彼は菫に縁談を持ちかけている。が、わしは彼を信用していない」


ダルゴダスははっきりと言った。


「だから、可能な限り、二人が出会わないようにしたい」

「期間はどのぐらいですか?」

「一週間だ。退屈だろうが、部屋から出ない方が良い。食事は侍女長に頼んで、部屋まで運んでもらうと良い」

「分かりました。伝えてきます」

「頼んだぞ、フレイ」

「はい」


フレイはうなずいて、外へ出て行ったダルゴダスを見送った。


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