729. アルハトロス王国 医師
エフェルガンとの話し合いによって、ローズの新しい日程が改めて決まった。彼女が再び半月ほど里にいるようになって、残りの半月はスズキノヤマで過ごす。宰相やその家臣らはこのことについて、調整しなければならない。予定変更や中止など、その対応に追われている。
スズキノヤマの家臣達が忙しく走り回っているうちに、ローズは今月から再びまた里にいることになった。午前中は学校の研究や病院の仕事を熟して、昼になると学校に寄ってきた子どもたちの誰かと一緒に昼餉を食べた。今日はエフェリューと一緒に昼餉を食べることになった。話によると、柊はまだ狩りから帰っていないらしい。なので、二人は侍女達が持って来たお弁当を食べることになった。
「頂きます!」
エフェリューが嬉しそうに目の前にある弁当を見ている。お弁当と言われても、その量はかなり多い。寮の弁当だと、この量の半分もない。
「食べなさい」
ローズは笑いながら食事を口に入れた。彼女はなんとなく知っている。子どもたちは今育ち盛りだ。
「はい!」
エフェリューは笑みを見せながら、食べながらいろいろな話をした。ローズがうなずいて、食べながら我が子の話に耳を傾けている。限られた時間しか会えないので、ローズは彼らとの会話を大切にしている。一緒にいられる内に、とローズがにっこりと微笑みながら、エフェリューの話を聞いている。
「あ、皇后様」
「ん?」
「フェルザがまだ戻って来ないかな・・って、何か聞いていませんか?」
エフェリューが尋ねると、ローズが首を振った。
「元気にしている以外は分からないわ」
「どうしてフェルザが元気にしていることだけが分かったのですか?」
「んー、なんとなく」
ローズが微笑んだ。ローズの「なんとなく」になると、説明が付かない、という意味だ。まだ4歳のエフェリューでさえ、それを理解している。
「そんな皇后様はたまに不思議に思います」
「そう?」
ローズが笑った。エフェリューがうなずいた。
「皇后様、私と柊は知っています。フェルザはレベル1なんかじゃないでしょう?」
エフェリューが言うと、ローズが微笑みながらうなずいた。
「そうね」
「でも、彼の本当のレベルが分かりません」
「私も分からないわ」
ローズはにっこりと微笑んだ。
「恐らく、レベル検定した先生方も、フェルザが本当はレベルいくつなのかも分からないでしょう。再検定しても、その答えがでないと思うよ」
「どうしてそうなってしまったのですか?」
「それは彼の能力です」
ローズが言うと、エフェリューがスプーンをお皿に置いた。
「私も、彼のような能力を持っているのですか?」
「多分ないと思います」
「三つ子なのに・・」
エフェリューはがっかりした声で言った。
「でも、フェルザにない能力が、あなたにあるんじゃないですか?」
「え?」
エフェリューはローズを見つめている。
「あなたは空を自由に飛べるでしょう?」
「あ、はい。でも、なんだか・・」
「フェルザはそれができないんだ」
「翼がないから?」
「そう」
ローズがうなずいた。
「人はね、同じ人なんていないの。双子でも、三つ子でも、みんな違って、それそれができることが異なっているの」
「そうなんだ」
「ええ。三つ子であるあなたとフェルザと柊だって、皆違うでしょう?顔が似ていても、やはり何かが違う。能力も、体も、好きな物も、趣味も、得意技も、全部違うでしょう?例えば、エフェリューはその揚げミートボールが好きで、フェルザは串焼きが好物で、柊は肉と野菜の煮物が好きでしょう?」
「はい」
確かにそうだった、とエフェリューはうなずいた。
「それに剣がとても上手なエフェリュー、これから何を修業しているか分からないフェルザ、そして魔法が極端に強い柊。それぞれが強いと思うわ。さすが母の子どもたちだわ」
ローズはエフェリューを見て、微笑んだ。
「結局、フェルザはロッコ先生のところに修業するのですか?」
「そうね」
「ロッコ先生は、確か、暗部だよね」
「あら」
ローズがエフェリューを見て、驚いた。4歳の子どもが、もうすでに人々の職業を理解している。
「そうね。彼は暗部だよ」
「と言うことは、フェルザは暗部に目指しているのですか?」
「それもフェルザ次第だわ。念のため、ロッコの他には白猫のヒョーおじさんもいるよ」
「白猫のヒョーおじさん?」
「ええ。あの黒猫のリンカのお父さんだよ」
「わ!」
エフェリューが驚いた。
「猫が先生に・・?」
「そう」
「良いな~」
「そう?」
ローズが笑った。明らかにエフェリューの頭の中にヒョーがかわいい猫として想像しているのでしょう。エフェリューは黒猫のリンカがかわいい「猫」としてしか知らないからだ。
「私は黒猫のリンカが好きです。モフモフでふわふわで、とてもかわいいです」
「うん。かわいいよね」
「はい」
エフェリューがうなずいた。
「フェルザに羨ましいなぁ~」
「あなただって、これからも素敵な先生に恵まれると思うわ。エルガザー先生だって、毎日教えに行っているのでしょう?」
「はい」
エフェリューはうなずいた。元アルハトロス王国第三将軍のエルガザーは優れた剣術の先生だ。数々の戦を体験したエルガザーは剣術だけではなく、戦術も得意だ。皇太子であるエフェリューにとって、とても重要なことだ。
「時間が許すと、柊も私と一緒に剣を習っています」
「素晴らしいわ」
ローズが微笑んだ。
「殿下、そろそろお時間です」
「あ、はい」
エフェリューの護衛官のパリが声をかけた。すると、エフェリューは素早く残った弁当を食べた。ローズはそんな我が子を見て、笑った。
「ご馳走様でした!」
エフェリューは手を合わせて、食事に感謝した。
「これから何の授業?」
「はい。ガレー先生は政治の話をするそうです」
「大変ね。頑張って」
「はい!では、皇后様、またお目にかかれる日を楽しみにしております。失礼致します」
エフェリューは立ち上がって、丁寧に頭を下げてから、彼の護衛官と一緒に退室した。ローズは一人で、もうほとんどきれいになった弁当箱を見て、そのまま手を合わせて食事に感謝した。
「もうお下げしてもよろしいですか?」
「ええ、お願いね」
ローズがうなずいて、毒味役アマンジャヤからお茶をもらった。侍女達がそれらの食器を片付けて、ローズの机をきれいにした。
「ガレーが政治か・・」
ローズが言うと、ソラは微笑みながらローズを見ている。
「フィリチアの王族は、その年齢ではまだ何もできません。政治の勉強どころか、まともに会話すらできません」
「フィリチアでは、政治の勉強は何歳ぐらいから?」
ソラが言うと、ローズが彼を見て、尋ねた。
「少なくても字の読み書きができるようになってからじゃないと、難しいでしょう。早くても大体6歳か7歳ぐらいでしょう」
「ソラもそのぐらいでした?」
「そうですね」
ソラがうなずいた。
「祖母が先生を呼んで、教えに来ました。でも、私は勉強するよりも、近所で走り回った方が楽しかった。剣の修業や魔法の練習など、本に向かって勉強するよりか、ずっと楽しいと記憶しております」
「あなたらしいね、ソラ」
ローズが笑って、お茶を再び口に運んだ。ソラは男爵家で、自分と出会う前に、フィリチア王に仕えた忠実な家臣だった。自分と出会ったから、ソラの人生ががらりと変わってしまった。
「皇后様、パスカという男性がお見えになります」
「通して」
「かしこまりました」
一人の護衛官が知らせに来た。ローズがうなずくと、彼は一人の男性を連れて来た。
「パスカ先生、ようこそ。会えて嬉しいわ」
「あ、いや、ローズ様、お目にかかって光栄でございます」
「どうぞおかけ下さい」
ローズが言うと、パスカという男性がうなずいた。見た目は中年ぐらいの男性で、髪の毛が白い。彼の種族は鹿人種族なので、りっぱな角が頭にあった。鼻に眼鏡があって、杖を使っている。
「先生という呼び名は懐かしいですね」
パスカが言うと、ローズが微笑んだ。
「もう引退されたのですか?」
「はい」
パスカがうなずいた。
「ローズ様が医療制度を統一してから、魔法ができない私は医療師として仕事ができなくなりました。それに、もう年だから、やめても困る人がいないと思って、そのまま廃業しました」
「そうですか」
ローズがパスカを見て、うなずいた。彼女は医療師の条件として、魔法ができなければならない。けれど、まともに魔法を勉強したことがない人にとって、この条件がとても難しかった。だから彼女が医療制度を整えた時に、反発が多かった。
「魔法ができないから、医療師として失格でした。が、少なくても我々にも医療の心得があります。薬の知識も、少なからず、あります」
「そうですね。薬剤師として働けるのですが、それもまた新たに定められた薬草の知識に関する研修を受けなければなりませんね」
「お年寄りには難しいですよ」
「あら」
ローズが笑って、首を振った。
「パスカ先生はまだ若いですよ」
ローズは微笑みながらパスカを見ている。
「先生は今どうやって生活していますか?」
「蓄えがあったから、今里の外れに家族と暮らしております」
「なるほど」
ローズがうなずいた。
「私はパスカ先生を治せます。足や背中の痛みも、目も、全部きれいに治せますよ」
「へ?」
「でも、その代わりに、やって欲しいことがある」
「それは何ですか?」
パスカがローズを凝視した。
「ソマーレで薬剤と簡単な医療学の学校を作ろうと思ったのですが、パスカ先生はそこの学校の先生になって欲しい」
「私が?」
「はい」
ローズがうなずいた。
「ソマーレはどういうところが良く分かりませんが・・、なぜ私ですか?」
「先生は魔法ができないからです」
ローズはためらいなく答えた。
「ソマーレはスズキノヤマの中で、一番多く魔法ができない種族が住んでいます」
「まさかと思いますが、モルグ人ですか?」
「はい」
「お断りします」
パスカが首を振った。
「モルグ人に教えるような知識が一つもありません」
パスカが強い口調で言った。ローズは彼がモルグ人を嫌っている理由もなんとなく分かった。
長年、アルハトロスが戦争に悩まされたからだ。パスカも家族を連れて、里に避難してきた一人だった。やっと手に入れた平和の20年間なのに、モルグ王国によって再び大戦争が起きた。彼の知り合いや近所も、その戦争で死んだ。
だから、彼はモルグ人に対して嫌気があったのでしょう、とローズは思った。
「ローズ様だって、モルグ人に狙われているんじゃないですか?」
「そうね。今でも狙われているわ。だから、あんなにたくさんの護衛官がいる」
「でしたら・・」
「でしたら、嫌いということですか?」
ローズはため息ついた。長年の戦争で、アルハトロスの人々の心の中に深い傷がまだ残っている。
「確かに、私はモルグ人が嫌いでした」
ローズが考えながら言った。
「女子ども、年寄りから病人まで魔石に入れて、好き勝手にやって、人でなしで、・・そう思って戦った日々もあったわ」
その中にエフェルガンと自分も含まれている、とローズが言うと、パスカはうなずいた。
「死んでしまった人々も数え切れないほど、多かったわ。そう思うと、とても悲しかった」
ローズはまたため息ついた。
「でも、戦っている内に分かったの。魔石に入ったのは私たち側の人だけではなく、モルグ人も入ったのです」
「へ?」
「魔力があったけれど、子どもを産むことができくなった女性らは魔石に入れられたことは、知ってしまった。それはモルグ王国のやり方だよ」
「・・・」
パスカが言葉を失った。
「魔力がない人は?男性は?」
「男性は種を持っているから、何歳になっても生かされていたわ。もう子作りができなくなったら、魔力があれば、当然魔石に入ることになる。魔力がなければ、死ぬまで労働者として働かされる」
「・・・」
「それがアクバー・モーガンのやり方だった」
ローズはパスカを見て、静かに語った。
「でも、龍たちに滅ぼされて、この地上からモルグ王国はもう存在しないわ。その魔石の技術も消えた。もしあっても私たちが潰すから、その辺りは心配しなくても良いと思う」
「ですが・・」
「モルグ人は、なぜ魔石の技術に手を出したか、分かる?」
「魔法ができないから、です」
「その通り」
ローズがうなずいた。
「魔法ができないから、自分たちを守ることができなかった。長年、モルグ人は他種族から強いられて、奴隷になった。生ゴミ同然の扱いを受けて、長年それを受け入れなければならなかった。だからアクバー・モーガンが立ち上がって、人口魔石を作って、魔法ができなかったモルグ人に魔法を与えた」
そして人々に希望を与えた、とローズは言った。それは世界の悪夢の始まりだった。けれど、・・。
「世界が魔石を恐れているけれど、モルグ人だって、他種族からの攻撃に負けて奴隷にされることを恐れている。今まである自由が、突然なくなってしまうなんて、誰だって恐れているわ。だから互いに自衛を重ねて、戦争になった」
ローズはまたため息ついた。テアだった自分がモルグさえ作らなければ、このようなことがなかった。少なくても、魔力がない種族として存在しなかった。パスカのような魔法ができない人でさえ、全く魔力がないわけではない。パスカは簡単な魔法ぐらいはできる。けれども、医療師に求められる繊細な魔法はやはり訓練が必要だ。
「モルグ人は、私の兄弟を・・殺しました」
「それはお気の毒に・・」
ローズはため息ついた。
「ですが、彼らから見ていれば、他種族が彼らの身内を殺したことも事実です。負けたら、また奴隷にされてしまう、ということも事実です」
「・・切りがありませんね」
「そう。殺されたら、殺す。無関係な人であっても、同じ種族だから、殺す。どれかが絶滅になるまで、殺し合う。それだと、アクバー・モーガンが考えていたことと同じだわ」
ローズの言葉を聞いたパスカが考え込んだ。その通りだ。けれど・・。
「私に、モルグ人を許せ、というのですか?」
「そうは言っていない」
ローズがきっぱりと答えた。
「けれど、モルグ人だからと言って、全員先生のご兄弟を殺した、そういうことではない。それを言っているのです」
「それは、そうですね」
「アクバー・モーガンとその配下らが、戦争を勝つためには悪行と言われている方法でも、思いつく次第、何でもやった。アクバー・モーガンにとって、全種族を滅ぼさなければ、モルグ人が安心して生きることができない、と彼は言っていました」
「全種族・・」
「だけど、私はレネッタで違う光景を見たわ」
ローズがパスカを見つめている。
「レネッタですか?」
「ええ」
ローズがうなずいた。
「レネッタで、モルグ人と狐人族との間に生まれた人がいてね、うーん、彼は狐人族の姿をしているけど、背中に斑点があってね、顔も、そうね、アクバー・モーガンにそっくりの人もいたわ」
「へ?」
ローズが言うと、パスカと護衛官らが一斉に彼女に視線を送った。
「でも、あの人は、私を守ったの。アクバー・モーガンが送った刺客からね、彼は激しく抵抗してくれたんだ。それだけじゃなくて、他の人も、以外とモルグ人と結婚した狐人族ってたくさんいると知って、びっくりしたわ」
「レネッタで、ですか?」
「ええ。彼らだって、普通の人よ。普通に笑って、普通に泣いて、普通におなかが空いて、普通に食べた。何の一つも私たちと変わらない。私を守ってくれた彼も、彼の友達も、皆、私の大切な仲間だよ」
ローズが微笑みながら言った。
「ローズ様、あの人は、アクバー・モーガンとは、どういう関係ですか?」
ハインズが聞いた。
「さぁ、分かりません。ただ偶然似ているかもしれないし、親戚だったかもしれない。彼自身も分からないわ。海軍だったけど、権力争いに巻き込まれて、奴隷になった。家族も、一人も残っていなかったわ」
「そうですか・・」
「でも、彼は、海龍神殿で私のために、聖水を取りに行ったわ」
「その人はもしかすると、ラウル殿ですか?」
「いいえ、違います」
ローズは首を振った。
「ラウルと一緒に海龍神殿へ行ったのは確かです。それ以上に、彼はラウルと一緒にレネッタで戦ってくれて、ペレという人よ。今も元気に宰相をお守りしていると聞いたわ」
「そうだったんですか。割り込んでしまって、申し訳ありませんでした」
「いいえ」
ローズがにっこりと微笑んで、首を振った。
「だからモルグ人だという理由だけで、全員アクバー・モーガンと同罪だ、ということを考えてはいけない、と思う」
「確かに・・」
「だって、そうね、例えばパスカ先生と同じく鹿人族がいて、その人がモルグ人を殺した。すると、モルグ人はその家族の仇として、パスカ先生を殺そうとしたら、どう思いますか?パスカ先生はその殺人をした人とも知らないのに?」
「嫌ですね」
「そう、そういうことです」
ローズは微笑んだ。
「本当の犯人は、もうこの世にはいないの。アクバー・モーガンは柳お兄様に殺されたし、この国を攻めて来たモルグ王国も撃退されたし、そしてそもそもモルグ王国自体は、龍たちに滅ぼされたのよ」
「はい」
「私たちが勝ったんです。モルグ王国が負けて、国そのものがなくなった。戦いは終わった。けれど、人々はこれ以上争い事をして、何がしたいのかしら?世界を、すべてのモルグ人の血で赤く染めたいというのですか?」
「それは・・」
パスカは首を振った。
「先生が分かってくれて良かったわ。これ以上血を流したいと言ってしまわれたら、どうしようかと思ったの」
ローズが微笑んで、パスカを見ている。パスカは息を呑んで、目の前にいるローズを見ている。彼女の額が強く光り出した。
龍神の紋章だ。
話を聞いたことがある。ダルゴダスの娘、ローズが実は龍人の姫君だ、と。彼女がその気ならば、簡単にこの世界を滅ぼせる存在だ。何もかも、すべて、と人々の間にそう噂された。
「分かりました」
パスカはうなずいた。
「考えてみたら、そうですね。その通りです。私の心の中にあるどうしようもない憎しみは、もうそろそろどこかへ置いた方が良いですね」
パスカはため息ついた。
「ですが、お聞かせ下さい。モルグ人は再び強くなって、私たちを攻撃したら、どうなさるのですか?」
「その時は叩き潰します」
ローズが即答した。
「謀反は許しません。また訳が分からない理由で戦争を起こしても、私が許しません」
「訳が分からない、とは?」
「そうね、私を求めて、アクバー・モーガンの妃だとか、そういうデタラメなことを言う人って意外と多いわ」
ローズがため息ついた。彼女は机を見て、しばらく考え込んだ。
「ローズ様、その時は我々がお守りしますので、ご安心下さい」
ハインズが言った。ローズはハインズを見て、にっこりと微笑んだ。
「頼もしいわ。これからもよろしくね」
「お任せを」
ハインズが言うと、ローズは微笑んで彼を見ている。
「そういう訳で、どうしますか? パスカ先生」
ローズが微笑みながら、パスカを見ている。
「謹んでお受け致します」
「嬉しいわ。ありがとう」
ローズが笑みを見せた。
「ですが、先ほども言ったように、魔法ができないという理由で、私は医療師として仕事を失いました」
「ええ、そうね」
ローズがうなずいた。けれど、彼女はやはり魔法ができない人を医療師として認めない様子だった。
「医師」
ローズはパスカを見ている。
「魔法ができないから、医療師ではない。かといって、医療学の知識はある。薬も作れるし、傷の手当てもできる。普通の病気なら、魔法を使わなくても問題なく治せる。救急医療師と同じぐらいだと思うけど、やはり魔法ができないから、医療師として呼ぶことができない。だったら、医師で良いと思うわ」
「ほほう・・」
「魔法がなくても、人を助けることができる。完璧ではないけれど、いろいろな知識と方法で、人を助けるのは目的だし、十分だと思うけど・・。必要の場合、魔法ができる医療師に診てもらって、患者を助ければ良いと思う」
ローズがうなずいて、パスカを見ている。
「医師、パスカ・アルカンサ、あなたにソマーレ医学を任せても良い?」
「はい」
パスカが立ち上がって、深く頭を下げた。




