726. アルハトロス王国 憂い
その日、ズルグンがフェルザに会いに寮へ訪れたのは午後になってからだった。フェルザはズルグンと話した後、夕餉を食べて、部屋の中で待機する。
「殿下、お荷物はこれだけでございますか?」
「うん」
ズルグンが尋ねると、フェルザはうなずいて、荷物をまとめた。マトレスは寮に返すので、そのままにしている。ヤカンや生活用品はもうすでにカバンの中に入れた。
「勝手に住まいを変えるなんて、両陛下に報告しなければなりませんが・・」
「多分お祖父様が全部してくださる、と思う」
フェルザは水筒の中から白湯を注いで、飲んだ。あのナマズ料理が美味しかった。けれど、小骨がそれなりにあったから、喉に引っかかった。
「ということは、殿下は今レベルいくつになりますか?」
「分からない」
フェルザは水筒の中身を飲み干して、またフタを閉めた。
「でも、きっと私が弱すぎて、寮にとって負担しかないのかもしれない」
「そんな!」
「でも、これからはロッコ先生とヒョー先生が守ってくださって、彼らの授業も楽しみだ」
「ロッコ先生とヒョー先生・・?!」
あの二人がこの里では高レベル武人で、それぞれの分野で最強だと言われても良いぐらいだ、とズルグンは思った。そもそもロッコが弟子を取ることなんて聞いていない。確かに数人の暗部がこの里では研修を受けているけれど、弟子と言われるほどでもなかった。彼らの担当は、ロッコの部下だった。ヒョーでさえ、戦闘力があるレベル8以上じゃないと弟子を受け取らないぐらい、とても強い人だ。ズルグンがダルゴダスにエルク・ガルタのことを弟子入りを願い出た時に、ヒョーはエルクを彼の弟子に担当させた。ヒョーにとって、将軍であるエルク・ガルタの能力でさえ低い、という意味だ。
それなのに、4歳の皇子があの二人に弟子入りしたということは・・。
まさか、彼が強すぎるからだ、というのか?ズルグンはラマに水筒の水をねだったフェルザを見て、どう見てもただの4歳児だ、と思った。
トントン
扉をノックした音がすると、ラマが急いで扉に行って、確認した。
「やぁ、フェルザ殿下!」
扉からロッコが顔を出すと、フェルザはにっこりと笑みを見せた。「やぁ」とはこの里の挨拶かもしれない、とフェルザは思った。
「やぁ、ロッコ先生!」
「迎えに来ましたよ」
ロッコが微笑みながらフェルザを見た。数人の部下がいて、部屋の隅々まで確認してから荷物を運び出した。
「ロッコ殿、私どもが殿下のこれから住む場所へご一緒してもよろしいですか?」
「良いよ」
ロッコがうなずいて、レベル1の先生に合図を出して、さっさとフェルザをレベル1の寮から連れ出した。
「あれ?」
フェルザが周囲を見ている。彼が知っている道だ、と。
「お祖父様の屋敷に寄るの?」
「寄りたいですか?」
「うーん」
フェルザが悩んだ。
「いいや。お祖父様が忙しいから、また日を改めて行くよ」
「あい」
ロッコがうなずいた。
「殿下は俺の弟子になったんだから、これから普通の言葉で喋っても良いですか?ずっと丁寧に喋ると、舌を噛みそうで」
ロッコが言うと、フェルザは笑った。
「うん。先生が好きな言葉で良いよ」
「ありがてー。呼び名も殿下ではなく、フェルザで良いかな?」
「うん」
フェルザがうなずいた。
「あれ?」
彼らが青竹学園の前に行って、まっすぐと大通りに出ると、青竹屋敷が見えた。
「屋敷に帰るの?」
「いや」
ロッコが首を振った。そして彼が自分の家の前に扉を開けた。
「ここです」
「ここ?」
「そう。俺んち」
「屋敷の前に・・」
「そうだよ。狭いけど、入りな」
ロッコが言うと、フェルザはうなずいた。荷物がもうすでに置かれている。数人の隊員らが荷物を運んで、部屋の掃除もしていた。
「ラマとレスタは夜になると、どうやって護衛するの?」
「基本的に俺が家に居る間、護衛は要らない。どうしても護衛したいなら、向かい側でも良いんじゃない?」
「確かに・・」
フェルザがうなずいた。この家の前は、ちょうど青竹屋敷の門が見える。
「仕事で俺が家に居なかったら、あるいは遅くまで仕事をしたら、護衛官に泊まって護衛してもらってください。まぁ、寝る場所はあんたの部屋にあるソファしかないけどね」
「うん」
フェルザはうなずいた。
「寮の部屋よりも広い」
「家だからな。でも寝室は狭いよ」
「見ても良いですか?」
「良いよ。履き物はそこで脱いで」
「うん」
「終わったら、ついてきな」
ロッコが階段に登って、一番奥にある部屋を見せた。本当に生活感が感じられない家だ。ただ寝室の窓側にかわいいローズの人形が並べられている。
「ここはあんたの部屋だ。机も、寝台も、棚も、ソファも、全部新品だ」
ロッコが言うと、フェルザはうなずいた。窓のカーテンを開けると、目の前に屋敷が見えた。それを見た瞬間にフェルザは瞬いた。
「本当に、ここで良いの?!」
「良いさ」
「ロッコさんの部屋は?」
「あっち」
ロッコが以前書斎として使った部屋を見せた。高い寝台の下に棚と机がある。窓に小さなローズ人形があった。
「先生の部屋の方が狭い。先生の家なのに」
「俺は、家を寝るとお風呂のためだけに使っている。だから気にするな。あんたはあの部屋でちゃんと勉強ができるように、あの部屋の家具を新品にした。他に要る物があったら、後で言ってな」
「うん」
「これからも頑張れよ」
「うん!ありがとう」
フェルザがうなずいた。なんだか彼はとても嬉しそうだった。ズルグンがうなずいて、また周囲を見渡した。
「ここからだと、屋根に上がれる。行くか?」
「うん!」
ロッコが真ん中の部屋を開けると、階段があった。その階段の向こうにある扉を開けると、屋根に着いた。
「この高さから落ちると、普通に死ぬから、気をつけてな」
「うん」
フェルザがうなずいて、慎重に階段登った。ラマとズルグンも上がって、周囲を見ている。
この家は向かい側にある屋敷よりも高い。けれど、屋敷の生活はここからだと見えない。
「ロッコ殿、この辺りは全部このような構造でございますか?」
「大体な。左右を見れば、ほとんど似たような作りだ。何しろ、ここは当時の町の中心だった。アクバー・モーガンが攻めて来る時に備えて、防衛の面ではこういう建物の方が便利だからな」
しかも防火だ、とロッコが言うと、ズルグンはうなずいた。彼が住んでいる家は比較的に新しいから、このような作りではなかった。
「まぁ、というわけで、こんな家だ」
ロッコはフェルザを見て、うなずいた。そして彼がまた降りて、風呂場やトイレ、そして裏庭にある洗い場を見せた。
「家政婦は明日来る。名前はエルサだ。知っていると思うけど、エファイン夫人の母親だ」
「なるほど」
ズルグンがうなずいた。彼がエルサのことは知っている。気さくな女性で、この周囲で掃除や洗濯を預かっている人だ。
「柳様はこの隣に住んでいるが、今あちらで留学中だね」
「さようでございます」
ズルグンがうなずいた。本当に小さな町だ。こんなにも屋敷の周りにロッコや柳が住んでいるなんて、気づかなかった、とズルグンは思った。
ズルグンとロッコが一階で会話している間に、ラマが荷物を解体して、フェルザと一緒に部屋を整えた。押し入れを開けると、ほとんど空っぽだ。以前ローズの私物が多かったあの押し入れの中身はロッコが片付けて、どこかへ移した。残ったのは窓際に並んでいる数個のぬいぐるみだけだった。
「殿下、これらのぬいぐるみはどう致しましょうか?」
ラマが窓際に並べられたローズのぬいぐるみを見て考え込んだ。ロッコが片付け忘れたのかもしれない、とラマは思った。
「そのままにしてください」
フェルザがそのぬいぐるみを見て、うなずいた。母親の前の姿だ、とフェルザは分かっている。宮殿でも、頭に花があるローズの絵もあった。
「木の精霊は、若い時に体に植物の特徴があると聞いたんだ」
「殿下もそうでございますね」
「うん」
フェルザが自分の腕を見つめている。葉っぱがある、と彼は苦笑いした。
「こちらだと、さほどおかしくないでございますね」
「うん」
フェルザがうなずいた。母親の頭に花があったから、自分は葉っぱがあってもおかしくない、とフェルザは思った。
「殿下の伯父上、欅様のお体に葉っぱもございます、と他の護衛官らから聞いております。普段が見えませんが、西メジャカで戦った時に、たくさん生えた、と」
「へぇ」
フェルザは瞬いた。体に葉っぱが生えたことは、この国では何の不思議もなかった。
「伯父上はどこに住んでいますか?」
「職人街でございます」
「またいつか会いに行きたい」
「なら、後ほどロッコ先生に伺いましょう」
「うん」
フェルザがうなずいた。
「これでできた」
「お疲れ様でございます」
ラマが押し入れの扉を閉めた。
「では、私はこれにて、屋敷に帰ります。後ほどこちらへ、レスタが参ります」
「うん」
「すぐそこなので、何かございましたら、何なりとお呼び下さい」
「うん、ありがとう」
「では、お休みなさいませ。失礼致します」
ラマは頭を下げて、退室した。そして下にいるロッコと会話してから、彼はズルグンと一緒に屋敷へ帰った。
その日の夜、緊急連絡を受けたローズとエフェルガンが里に戻った。ズルグンの報告を受けたエフェルガンとローズがしばらく言葉を失った。
「余はこれからダルゴダス家へ出向く。ローズはここでいて」
「私も行きたい」
「ダメだ」
エフェルガンが首を振った。
「皇后はここで待機せよ」
エフェルガンはそう言ってローズを見ている。ローズは固まって、頭を下げた。これは命令だ。
エフェルガンが行くと、ローズはため息ついて、そのまま中庭へ向かった。
子どもたちが心配だ、と彼女は思った。けれど、彼女が何もできなかった。ローズはうつむきながら、縁側に座った。けれど、次の瞬間、彼女は頭を上げた。
歌が聞こえた。
憂いの歌だ。
ローズは立ち上がって、そのまま空へ飛んで行った。屋敷の前にある部屋の窓に、一人の子どもがいる。
フェルザだ。
「ローズ様」
ハインズが言うと、ローズがうなずいた。エフェルガンは屋敷に待機するように命じたから、それを守らなければならない。だから、ローズたちがこれから前に進んではいけない。
「どうぞ」
ソラが踏み台魔法を唱えると、ローズはその踏み台魔法に足を踏み入れた。フェルザは母親を見て、手を振った。ローズも微笑んで、手を振った。
フェルザが再び歌うと、ローズも歌い出した。
また憂いの歌だ。
それが今の二人の気持ちだ。
道を挟んで、母と子が互いに見つめ合いながら歌っている。道を利用する人々が戸惑いながら二人を見ている。けれども、二人は人の目なんて気にしなかった。
「フェルザ」
歌が終えると、ローズがフェルザの名前を呼ぶと、フェルザの頭の中に母親の声が聞こえた。
(母上?)
繋がった。ローズがうなずいた。
「大丈夫だった?」
(はい)
「怪我はなかった?」
(ありません)
「良かった」
ローズが微笑んだ。
(私も、このような方法で、母上に話をかけることができるのですか?)
「多分無理だと思う」
(残念・・)
「金の能力ができれば、可能だと思うけど」
(私の能力は何ですか?)
「風と火」
ローズが答えると、フェルザが瞬いた。
(金じゃないのですね)
「そうね、残念だわ」
(仕方がありません)
フェルザがうなずいた。金の能力があれば、いつでも愛しい母に声をかけることができるのに、と彼は思った。
(これから、この家で生活します)
「そう?部屋は?」
(この部屋を使います。ここに来た時に、ラマと一緒に部屋を整えました)
「そう・・」
ローズはうなずいた。確かに彼女の私物がまだいくつかあった。けれど、そのことをフェルザに言わなかった。ロッコがきっとなんとかしてくれるのでしょう。
「そうなると、ロッコさんはどこに寝るの?一階?」
(ううん、二階のもう一つの部屋です。昔書斎だった部屋だと言っていました)
「そうか」
あの小さい部屋か、とローズはうなずいた。
(明日、ロッコ先生と出かけます)
「どこに?」
(分かりません)
フェルザが首を振った。
(でも心配しないで下さい。悪い人を懲らしめに行くだけだから)
「あはは、悪い人を懲らしめに行くのね。誰と一緒に行くの?」
(先生とラマと、3人で行きます)
「うん。分かった。ちゃんとロッコさんの言うことを聞いてね」
ローズがうなずいた。
(うん)
フェルザがうなずいた。
(あと、帰ったら、猫先生と一緒に修業するとロッコ先生が言いました)
「あら、猫先生?」
ローズは首を傾げた。
「黒い猫?」
(黒猫のお父さんだって)
「ああ、ヒョーおじさんね」
(知っているのですか?)
「うん」
ローズがうなずいた。
「とても強い人よ」
(猫じゃないの?)
「猫でもあるよ。白猫のヒョーというんだよ」
(なんか、分からなくなりました)
「あはは。会えば分かるよ」
ローズは混乱したフェルザを見て、笑った。
(ふあ~。あ、ごめんなさい)
「もう眠いでしょう?寝なさい」
(うん、皇后様、お休みなさい)
「お休みなさい、フェルザ。良い夢を」
ローズは会話を終わらせた。窓の向こうにいるフェルザが頭を下げて、カーテンを閉めた。
ローズは見物人に頭を下げてから再び中庭に戻った。
「ガレー」
ローズは中庭の奥からガレーの存在に気づいた。ガレーは丁寧に頭を下げて、ローズの手を取って、食堂に案内した。そこにすでに毒味役アマンジャヤがいて、ガレー特製のスイーツが安全であることを宣言した。
「ローズ様はお痩せになりました」
「うむ」
ローズが戸惑った。この数週間は彼女にとって、あまり嬉しくない時期だった。
「どうぞ、お召し上がり下さい」
「美味しそうね。頂きます」
ローズが口に入れた瞬間、幸せな味が口の中に広がった。
「美味しい」
「良かったです」
ガレーが微笑んで、うなずいた。
「ローズ様は、やはり殿下たちと離れて住むことがお望みではありませんね」
「うん。だって、彼らはまだ小さいんだもの」
「ですが、宮殿では、代々と皇帝の子どもたちは離れた場所にいるのが普通でございますよ」
「うむ、もしかすると、暗殺対策?」
「さよう」
ガレーがうなずいた。
「もしも宮殿内に暗殺者が入っても、皇帝陛下ご一家が全員死なないように、そうやってばらばらに生活するのです」
「うむ、小さくても?」
「はい。大体お生まれになって数日経てば、もう母親と離れて生活するのは普通ですよ」
ガレーがうなずいた。
「当然、母親にとって、とても辛いことだと思います。しかし、この気持ちの上に、国の存続のために、一人でも多く、生きて欲しいです」
「うむ、そうね」
ローズがうなずいた。食欲がないと言っても、ガレーの甘い物には目がない。もう半分以上一人で食べてしまった。
「陛下から伺いました。来年、お国へ戻られる時に、皇子たちは別の宮殿に入るらしいですね」
「うん。気に入らないけど、仕方がないわ。でもどこに入るか、何も言っていないから、気になる」
ローズはため息ついた。
「男子ですから、アルサ宮殿だと思います。場所は本宮殿より少し西にあります」
「そうなんだ。知らないわ」
「本宮殿から遠くないから、問題ありませんよ。皇女となると、住まいはアスティア宮殿になります。場所は後宮の跡地のすぐ側です」
「なんで男子の方が遠いの?」
「皇子らを、後宮の女性らとの関係を防ぐためです」
ガレーが包み隠さず言った。
「ローズ様がご存じだと思いますが、代々スズキノヤマ皇帝陛下は、皇后の他に、側室やお手つきの者もいらっしゃいました。しかし、今の陛下はローズ様お一人しか愛していませんので、そこまで心配なさらなくても良いですよ」
ガレーが微笑みながら言った。けれど、エフェルガンの次の皇帝は分からない、とガレーが言った。皇帝が変わると、作法や法律も変わるので、なんとも言えない、と。
「後宮がないのが、歴代皇帝の中で、始めてなの?」
「はい」
ガレーがうなずいた。
「じゃ、エフェルガン以外に、他の皇子らや皇女らが多いんじゃないの?何世代前のことを考えると、そうなるよね?」
「多かったですね。ですが、直系の皇子や皇女はそこまで多くありませんでした」
「ふむふむ」
特に前々皇帝陛下は側室が数名いても、子どもが前皇后しかいなかった、とガレーは正直に言った。
「それに、スズヤマ家の謀反とともに、ほとんどいなくなりました」
ガレーが言うと、ローズは小さくうなずいた。スズヤマ家として生まれたエフェルガンがその名前を嫌って、父親の姓を名乗った。それだけではなく、エフェルガンは自分と対立した兄弟らと戦って、勝ち抜いた。今では彼らのほとんどいなくなった。死んだ、またはどこかで身分を隠して生活しているに違いない、とローズは思った。エフェルガン自身は第16か18の皇子だったらしいけれど、本人でさえ分からない、とローズは思い出した。けれど、彼の母親は皇后であるため、エフェルガンが皇太子になったわけだ。
子どもの身分は母親の身分によって決まるものだ。スズキノヤマでは当たり前で、誰もそれが不思議だと思わない。
だから、飽きるほど、暗殺者が来た訳だ。皇子たちは、互いに頂点に辿り着きたいので、邪魔の者を排除する行動に出た。
「でも、陛下はパララとヒスイ城にいたよね?」
「はい」
「それはいつの時だった?」
「始めてパララへ行ったのは恐らく5か6歳ぐらいでした。三年間ぐらい定住したのですが、9歳の時に成人になる時までまた転々と移動していました。成人になった時は、ヒスイ城を前皇帝陛下から賜りました」
そして成人の時と同じ頃に、自分の弟に罠にかけられて、モルグの魔石に入れられた。その時、始めてエフェルガンがローズと出会った。あのオオラモルグの島で・・。
「うむ、そうか」
複雑な家族関係だ。思い出すと、ローズは食欲をなくした。といっても、あんなにたくさんスイーツの中で、残り二個だけだった。
「ご馳走様でした」
ローズが手を合わせて、食事に感謝した。本当は残したくない。けれど、なぜか彼女がもう食べる気を失った。
「ガレー」
「はい」
ガレーがうなずいた。
「やはり私がしばらくここにいたい」
ローズはため息ついた。
「子どもたちと離れて生活することは理解しているけれど、やはり彼らがまだ小さい。彼らが自立するまで、私が必要だと思う」
「ローズ様、そのことは陛下とお話し合って下さい」
「うん」
ローズが立ち上がった。
「ただ、聞いてくれなかった時は、私は陛下と離婚するかもしれない。それだけは理解してください」
ローズがため息ついて、誰もいない中庭を見つめている。




