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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
アフター・ウォーズ
723/811

723. アルハトロス王国 皇子たちの遠足

「もう泣くな、エフェリュー」


フェルザがずっと泣いているエフェリューに言った。青竹屋敷から寮まで、歩いていたら大体30分ぐらいかかる。柊はずっと黙って、隣で歩いているエフェリューを見ている。


「母上は陛下の言葉に逆らうことができないんだ」

「分かっている」


フェルザの言葉を聞いたエフェリューは、口を尖らせながら即答した。


「寂しい時に、これからあの歌を歌おう」


柊が言うと、フェルザがうなずいた。


「あれは「愛の歌」という歌だ」

「ふ~ん、何語で言っているか分からないけど」

「古代言語だ」


フェルザがエフェリューの質問を答えた。


「古代言語?」


柊が聞いた。


「うん。母上の歌はほとんど古代言語だよ」

「なぜ知っているの?」

「本人に聞いたから」


フェルザが即答すると、二人の兄弟は顔を見合わせた。しばらくすると、柊が愛の歌を歌うと、さっきまでずっと口を尖らせているエフェリューも歌った。フェルザがずっと無言でその歌を聴いている。そして二人の兄弟が歌い終えると、フェルザは憂いの歌を歌い始めた。


この歌が愛の歌よりも、今のフェルザの気持ちを表せているのだ。愛しい母親から別れて、寮に戻らなければならない、悔しい気持ちがとても強かった。二人の兄弟がそれを聞くと、また二人とも歌い出した。三人の歌が、意外ととてもきれいなハーモニーになった。


「その歌が良い」

「うん」


エフェリューが言うと、フェルザがうなずいた。


「寂しい時に歌う歌だ、と昔母上が言った」

「寂しい時か。うん、分かった。これからそれを歌おう」


フェルザの言葉を聞いた柊がうなずくと、エフェリューもうなずいた。賛成だ、と彼がうなずいた。


「なぁ、フェルザ」

「ん?」


柊がフェルザに話をかけた。


「レベル4に来てよ。フェルザがいないと寂しい」

「俺はレベル1で良い」

「どうして?」

「なんとなく」


フェルザの答えを聞いた柊とエフェリューが呆れた様子でフェルザを見ている。


「フェルザ殿下、寒くありませんか?」

「ううん、大丈夫だよ。ありがとう」


護衛官ラマが聞くと、フェルザが首を振った。もうすぐレベル1の寮が見えてきたから、フェルザが笑った。


「じゃ、教えるよ」

「何?」


フェルザの言葉にエフェリューが耳を傾けた。


「二人とも気づいたかな」

「何を?」

「レベル1の寮からだと青竹屋敷が見えるんだ。母上が屋敷から出ると、はっきりと見えるよ。仕事場も部屋からだと見えるよ。ちょうど母上の診察室の窓が俺の部屋から見える」

「へ?」

「だって、こうやって歩いても、距離的にも近いんだよ」

「む!」


フェルザが言うと、エフェリューと柊は一斉に言った。気づいても遅い、とフェルザは笑った。


「では、エフェリュー皇太子、柊皇子、お先に失礼します」

「おやすみなさい、フェルザ皇子」


フェルザが丁寧に別れの挨拶をすると、エフェリューと柊も丁寧に答えた。この挨拶は彼らが幼いころから教えられた。貴族の縦社会に通じて、自分の立場を理解するためだった。護衛官らも互いに頭を下げて、別れた。部屋にやっと戻ったフェルザがベランダに行くと、まだレベル4の寮に辿り着かないエフェリューたちの姿が見えた。


「殿下、もうそろそろ寝る準備を致しましょう」

「うん」


フェルザがうなずいて、暗部本部の建物を視線を移した。窓から見えたロッコの姿がある。ちゃんと働いているんだ、とフェルザが思うと、ロッコは手にした書類を置いて、窓を見ている。


二人の目が合った。


「お休み」


フェルザが思わずロッコの口の動きを読んだ。フェルザは微笑んで、頭を下げた。そして彼は中へ入って、窓を閉めた。





あの日から週数間が経った。


幼いながら次々と任務を熟しているエフェリューと柊は、同じレベル4の仲間にとって、珍しかった。二人の護衛官らはあくまでもあの二人の護衛だから、彼らの教育に関しては何も手伝わない。


「おめぇは小せぇのに、すげぇな」

「ありがとう」


一人の青年がエフェリューを褒めた。彼らの前にはもう息絶えた大きな野牛があった。その野牛に止めをしたのはエフェリューだった。初めてと思えないほど、美しい剣の舞いだった、とその場にいる人達は思った。


「ほい! 牛を解体して、袋に入れよう!」

「はい!」


班長がそう命じると、彼らはテキパキと牛を解体し始めた。そこでエフェリューが短剣の存在がとても大事だと気づいた。獲物を解体するには短剣が最適だった。剣しか持てないエフェリューが結局その作業を断念して、仲間がさばいた肉を袋の中に入れるだけになった。


今まで考えたこともない肉だ。エフェリューはその命の重みを知って、それらの肉を丁寧に袋の中に入れた。骨や頭まで、捨てる物がないように班長が命じた。すべての作業が終えると、班長が少し肉を切って、クシに刺して、炎に炙った。体が小さいからと言って、班長は平等にほぼ同じ大きさの肉を全員に配った。


「頂きます!」


班長が言うと全員手を合わせてから肉を口に入れた。


「パリは少し食べる?」

「私は大丈夫でございますよ、殿下」


エフェリューは彼の後ろに立っている護衛官パリに聞いた。パリが丁寧に断ると、エフェリューがうなずいて、肉を食べ始めた。


美味しい。


ちょっぴりの塩味があって、とても柔らかくて、美味しい。塩は確かに班長が持っている。腰に持った革袋の中身は塩だったんだ、とエフェリューが気づいた。レベル4になると、レベル1や2と比べると自立するように教育されている。この森まで狩りも許されるようになった。もちろん、一人ではいけない。この森の先にある門を一人でくぐるためにはレベル5が必要だ。今回の班長はレベル6の人だ。


まだ食べたい、とエフェリューは思った。しかし、今日の昼はそれだけで終わりだ。仲間が荷物を分配して、全員運ぶようにした。一番体が小さいエフェリューも、例外なく、荷物を運ぶ。彼に任せられるのは野牛の頭を運ぶことだった。頭は大きな袋に入れて、ちゃんと縛ってから背中に固定する。翼がある彼は気を付けながらその牛の頭を背負って、里に戻る。


ヘトヘトの状態で里に戻ると、彼らは真っ先にダルゴダス邸へ向かった。今日狩りで得た野牛を納品してからお金をもらって、全員に配られた。そのお金はお小遣いになる、と班長が言った。


「今日は解散だ。お疲れさま」

「ありがとうございました!」


班長が言うと、全員ビシッと礼を言った。エフェリューはダルゴダス家の庭を見つめてから、無言で疲れた足で寮に帰る。


祖父の家でシャワーだけでも浴びたかった。けれど、なぜか彼の心のどこかがその考えを阻止した。


今の自分の居場所は、寮だ。


青竹屋敷にでさえ、自分の居場所がない。愛しい母はこの里にいるのも数ヶ月間に一週間だけだった。


「午後にはエルガザー先生がお見えになります」

「分かった」


エフェリューは台所で白湯を注いでうなずいた。


「パリ、革袋と塩が欲しい。あと短剣も」

「かしこまりました。後ほど手配致します」


護衛官パリがうなずいた。


「フェルザがどんな訓練を受けたのかな」

「レベル1ですから、恐らく山兎を狩るのではないでしょうか」

「山兎か・・。あいつは確かに山兎を捕まえるのがうまかった」

「はい」


パリがうなずいて、エフェリューの脱いだ服を片付けている。エフェリューはシャワーを浴びて、着替えた。寮にいてから、彼は自分の体を、自分で洗えるようになった。


「疲れた」

「少しお休みになられますか?」

「少しだけ・・後で、起こして・・」

「かしこまりました」


エフェリューがもうパリの言葉を聞く終える前に寝落ちした。一方、隣の部屋にも人が帰ってきた音がした。柊もエフェリューと同じく、狩りから帰って来た。パリはエフェリューの服を丁寧に洗ってベランダに干すと、隣の部屋の護衛官ラジが出て来た。彼もまた洗った服を干しに行った。


「柊殿下はお休みか?」

「お休みになりました。大変お疲れのご様子でした」

「そうですか」


パリがうなずいた。レベル4の教育方針はまだ4歳である二人には厳しすぎる、と彼が思った。


「エフェリュー殿下もですか?」

「はい」


パリがうなずいた。自分が4歳の時はここまで大変じゃなかった。比べるのも失礼だ、とパリは思った。自分の場合、一番大変だったのは近所の家の木を登って、その果物を盗みに行った記憶ぐらいだった。ばれて、父親に叱られて、お尻が叩かれた、とパリが笑いながら言うと、ラジも笑った。自分もそうだ、と彼がそう言いながら、柊が使ったタオルを干した。


「皇后様も、このような生活をなさったのでしょうか」


ラジが持って来た袋を出した。中身は彼の弁当だった。


「皇后様は武人ではないと聞いた。だが、彼女は身を守るために、小さい頃から武人の先生が側にいたらしい。魔法も、あのミライヤ大賢者様は彼女の先生らしい」

「すごいですね。パリ殿、少し食べますか?」

「あ、いいえ、どうぞ食べてください」


パリが首を振って、ラジの弁当を断った。自分の分がある、と彼も懐から袋を出して、その中身を食べ始めた。


「柳様は武人だと聞いた」

「じゃ、今の殿下たちと同じ教育を受けた、ということですね」

「そうだと思う」

「大変ですね」

「そうですね。ご馳走様でした」


パリが手を合わせて、食事に感謝した。


「エフェリュー殿下が午後から剣の修業がある。柊殿下は、今日の午後、魔法の授業か?」

「はい。ご馳走様でした」


ラジが手を合わせて、食事に感謝した。


「殿下は幼いながら、お言葉も達者で、文字の読み書きもできたから、大変優秀なお方でございますが・・」


パリが立ち上がって、ベランダから見える風景を見つめて、ため息ついた。


「まだ幼いですね」

「はい」


ラジもうなずいた。いくら何でも4歳は若すぎる。ローズが不機嫌になる理由も理解できる。レベル1なら、ちょうど良いかもしれない、とラジは思った。山兎や山ネズミを捕まえるぐらいなら、あの野牛よりずっとかわいい。


「まぁ、俺たちは任務を精一杯全うすれば良いだけだ」

「はい」


ラジがうなずいた。


「俺は少し休む。お前も休め、ラジ殿」

「はい」


パリが再び部屋に入った。一人でベランダにいるラジがしばらく外にいてから、中に入った。





二人の兄弟と違って、今日もフェルザが楽々と狩りを(こな)した。狩りと行っても、ただ近所で山ネズミを捕まえに行っただけだ。ネズミが袋の中に入れて、後で買いに来る人が回収する。湖に養殖される魚の餌だ、と。


「今日も大量だね、フェルザくん」

「そうだね」


フェルザが次々とネズミを見つけて袋に入れた。二人一組なので、彼の相棒の女の子がただ瞬いただけだった。仕事はフェルザが一人で熟した。


「もう袋が満杯だ」

「じゃ、先生のところへ戻ろう」

「うん」


二人が少し離れた場所で待っている先生に行った。ネズミが入った袋がパンパンだと見た先生がうなずいて、その重さを量った。記録をしてから、二人が休憩所にいて、先に弁当を食べることができた。


「何を読んでいるの?」

「これか?勇者タケル物語という本だよ」


フェルザがカバンの中から本を一冊出して、読んだ。待っている間に暇だからだ、と彼は思った。


「ローズ様が書いた本なんだね」

「うん」


フェルザがうなずいて、興味津々とみている彼女に一行ずつ読み上げた。なぜなら、彼女はまだ読み書きができないからだ。


「すごい」


彼女が瞬いた。絵で描かれている勇者タケルの勇敢な姿がまるで目の前で現れたような感じがした。


フェルザが本を読み終えた時に、他の子どもたちが次々と帰って来た。どうやら時間切れだった。前回と同じく、今回もフェルザが捕まえたネズミが一番多かった。まだレベル1になったばかりで、しかもとても若いのに、と先生達が褒めた。全員昼餉を食べてから、この近くの湖へ行って、養殖の様子を見てから、帰る、と予定されている。


昼餉を終えると、予定通り、先生たちが子どもたちを連れて、湖へ向かった。湖が転落防止にフェンスが張られている。


「大きなナマズがいるよ」


先生がそう言いながら絵本を開いて、その絵を子どもたちに見せた。ナマズの絵だ。


「このナマズはネズミを食べます。だから、先ほど君たちが捕まえたネズミを与えると、彼らはパクパクと美味しそうに食べます」


すると、湖を管理している係人が数匹のネズミをとって、そのまま池の中に投げた。


その瞬間、湖の中から無数のナマズの口が現れた。


「大きい!」


子どもたちが驚いた様子でナマズを見つめている。係の人はナマズ一匹を網で捕ると、先生はナマズの生態について教えている。子どもたちはその話を聞きながら、実際に生のナマズを見つめている。フェルザも興味津々でナマズを見つめている。


「今日の夕餉で、こちらの養殖所から、これらのナマズをレベル1の寮に送られるから、楽しみにしてください」

「わーい!」


子どもたちは嬉しそうに踊り出した。フェルザも嬉しそうに笑って、ナマズを見ている。意外と素直だ、と彼の護衛官ラマは思った。やはり子どもは子ども同士と一緒にいた方が良い、とラマは周囲を見渡してからフェルザを見ている。


彼らはそろそろ帰る準備をしている。ここから里の中心まで歩いて、大体一時間ぐらい、と先生は言った。レベル8と9の先生方がかわいいレベル1の護衛として、とても心強いだ、とフェルザは思った。これで、ばれずにぬくぬくとか弱い子として演じることができる。


まさかスズキノヤマで岩を試しに斬った時に、ファリズに見られてしまったとは、とフェルザは焦った。けれど、こうやって、なんとか能力検定した先生方にばれずにできたことを思うと、フェルザの顔に余裕が見えた。


「では、行きましょう。全員、ちゃんと相棒の手をにぎって、先生たちの指示に従ってくださいね」

「は~い!」


子どもたちは互いの手を取り合って、先生の指示に従って歩き始めた。ラマもフェルザの近くに歩いて、周囲を見渡している。


このように、何もないところで歩くと、狙われると大変だ、と彼は理解している。彼は以前エフェルガンから聞かされたことがあった。ローズはこの広い空間で、雷鳥に襲われたことがある、と。けれども、今日の先生方はレベルが高い。恐らく、自分よりも、ずっと高いだろう、とラマは思った。


キーーーーーーーーーー!


その鳴き声が聞こえた瞬間、先生方が一斉動いた。一人が子どもたちを集めて、構えた。ラマも動いて、フェルザの前に立って、武器を抜いた。向こうの空に、黒い影が現れた。一人の先生がドーム型の結界を唱えると、もう一人の先生が非常事態の印を空に飛ばした。ラマはドームの中に閉じ込められて、近づいてくるその黒い影を見つめている。


「大丈夫だよ」


フェルザはにっこりと穏やかな声で言った。彼の相棒の女の子が不安な顔をしている。


「先生方もいるから、大丈夫だよ」

「でも、あれは巨大雷鳥だよ」


彼女が言うと、他の子どもたちも震えている。巨大雷鳥は大変危険だ、と里では一般的に知られている。高レベルの人でさえ、苦労するほど、大変凶暴だ。しかも、その空にいるのが複数の雷鳥だ。


キーーーーーーーーーー!


真上にまた複数が現れた。まさか別方向からまた現れたとは、と前に行った先生が走って戻って来た。


「バリアーを二重にしろ!」

「はい!」


今度はその先生らを含めて、バリアーの中に入った。


バーン!


一発目の雷が落ちた。子どもたちが叫んで、パニックになった。けれど、フェルザは涼しい顔で上を見つめている。彼の相棒でさえしゃがんで目を閉じて、耳を手で塞いだ。


「殿下、どう致しましょう」

「大丈夫だよ、ラマ」


フェルザが顔色を変えずに、上で円になって飛んでいる雷鳥を見つめている。全部5羽だ、とフェルザは思った。


「援軍はもうすぐ来るから、全員静かに!」


先生が言うと、泣いた子どもたちが静かになった。


バーン!


またバリアーに雷が落ちた。この距離から見ると、とても近い。


バーン!バーン!バーン!


今度は連続した攻撃だ。けれども、バリアーを張っている先生は急に倒れた。バリアーが消えかかっているその瞬間に、地面から無数の蔓が現れて、ドームになって彼らを覆う。


「先生の様子を確認して、ラマ」

「はい!」


バーン!


また雷が起きた。けれど、全く外の様子が見えなかったから、誰も騒がなかった。


「これは、毒・・」


レベル9の先生が言った。レベル8の先生の背中に細い針があった。


暗殺者が近くにいる、とラマは一瞬にして危険を感じた。


バーン!バーン!バーン!


雷が連発して放たれた。急に隠れている獲物が見えなくなったのか、雷鳥たちが当てずっぽうに雷を放った。


「殿下、お気を付けて、暗殺者がいるようでございます」

「うん」


ラマが緊張した様子で小さな声で言うと、フェルザがうなずいた。暗殺者はきっと自分を狙ってくるでしょう、とフェルザは思った。


彼は弱い、と周囲に知られているからだ。もしかすると、戦略が間違っているかもしれない、とフェルザは思った。このまま弱い者に演じれば、間違いなく、彼は暗殺者に狙われているでしょう。かと言って、彼は目立ちたくなかった。アルハトロスの玉座は柊に任せると決めたのに、とフェルザは息を整えた。


「殿下・・」

「静かにして、今風を読んでいるの」

「風・・ですか?」


ラマが瞬いた。けれど、彼がまた周囲を見渡した。暗闇なら、フクロウ人族である彼の方が強い。蔓でできたドームの中は暗い。なので、彼が暗殺者を見つけることができれば、・・。


すー・・


ズサッ!ズサッ!ズサッ!ズサッ!


重たそうな音がドームの外で連続して落ちている様子だった。援軍が来たかもしれない、と誰もが嬉しそうに耳を傾けた。


ズサッ! ズズズ・・


「あ!」


フェルザの隣にいる女の子が固まった。フェルザの蔓が彼女の手を縛った。


「あなただったんですね」

「・・・」

「俺をやるなら、いくらでもその機会があったけど?」

「・・・」


彼女は自害しようと思った。けれど、またもや数本の蔓で止められた。


「死なせないよ」


フェルザが優しく言って、しゃがんだ。護衛官ラマは彼女の手を見て、驚いた。けれど、フェルザがラマを止めた。


その女の子の手には、毒針があった。


「ばれてしまって、仕方がないわ」


彼女が一瞬にして煙になった。けれど、フェルザは彼女を逃がさなかった。


「俺からは逃げられないよ」


フェルザは言った。そして次の瞬間、どこかで人が倒れた音がした。


「第二暗部隊の隊長タイチ・アルカドだ!外はもう安全だから、守りを解いてくれ!」


外から声が聞こえると、地面に生えている蔓が消えた。急に光りが現れると、子どもたちは一斉に泣き出した。


「殿下、お怪我は?」

「ない」

「あー、良かった」

「うん。ラマも怪我はない?」

「ございません」


ラマが安堵した様子で互いの無事を確認した。暗部隊員らが顔を隠しているからか、ラマはまだ警戒している。けれど、次に現れた人を見ると、フェルザは微笑んだ。


あの男性だ。フェルザを毎日応援しているあの男性が来た。けれど、彼の顔にも布で隠れている。


「大丈夫か?」

「うん」


彼はフェルザを気づいて、尋ねた。


「先生が倒れた」

「毒でやられたらしい」


フェルザが言うと、ラマも言い加えた。


「分かった。確認するよ」


その男性がうなずいて、いくつか合図を部下に出した。急に倒れた人も確認されてから、今日は全員寮に戻るようにと指示された。全員馬車で帰る、と。


「殿下、後ほど話を伺います」


その男性が馬車に乗っているフェルザの前に行って、まっすぐにフェルザを見ている。


「うん」

「でも無事で良かった」


彼は優しい口調で言った。そして馬車の運転手にまた指示を出した。


「レベル1の全員、指示が出るまで、寮の出入りを禁ずる。先生を含めて、全員おとなしく寮で待機するように。第三暗部隊、彼らを任せる!」


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