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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
スズキノヤマ編

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60/811

60. スズキノヤマ帝国 狩り

スズキノヤマに来てから数週間が経って、ローズは少しずつ生活に慣れてきた。


留学のことだが、まだ資料を読んでいる段階にいる。あまりにも多いため、どの学校にするか、迷っている最中だ。全部見て回っても良いけれど、見学するだけでも、二年かかりそうだ。それに、ヒスイ城から遠く離れている学校もエフェルガンがダメだと言った。通学時間30分以内にするようにと護衛官のエファインと相談しながら場所の確認をしている。町の地図を広げながら住所を確認して、距離を測る。ちなみに通学には移動用フクロウを使うため、当然あの大きなフクロウたちのための休む場所が必要だ。だから比較的に広い庭がある学校が望ましい、とエファインが言った。


ちなみにエフェルガンは一度も学校に行ったことがない、とエファインから聞かされた。ほとんど先生が宮殿や城に来て、教えに来た。里と都で生活していた時のローズと同じだった。エフェルガンの個人的な意見だと、やはりできれば城からでないで、先生を呼び寄せたいと言ったけれど、これでは留学する意味がない。前世で普通の学校へ通っていた彼女にとって、学校は楽しい場所であった。しかし、何を学んでいたか覚えてない。前世の記憶は断片的な記憶しかなく、不完全である。


エファインと相談した結果、長いリストからなんとか半分に絞り込んだ。あとは資料を読んで、詳しい情報を教育省と各学校に問い合わせしたいと思う。けれど、これも、エフェルガンの許可が必要だ。公務から帰ってきたら、聞いてみよう、とローズは思った。


エフェルガンは定期的に宮殿に行って、皇帝と仕事の話をする。最近はほぼ8割以上の仕事を任されているけれど、その成果や途中経過の報告もしなければいけない。また貴族同士の付き合いや大臣達との会談などで、彼はとても忙しい毎日を送っている。朝早く起きて、訓練してから身支度して、朝餉終えたらすぐに公務のために城を出る。帰りは夕餉辺りか、時には夜遅くに帰ってくる。夕餉は、基本的にローズは先に食べても良いということになっている。先週まで夕餉を一緒に食べることができたけれど、その後、不定期になった。


夕餉の後、エフェルガンはほとんど執務室で遅くまで仕事をしていた、そして昨日は遅くなると出かける前に言って、今日になってもまだ帰ってこない。


今日もローズは一人で夕餉を食べた。その後お風呂に入り、普段着に着替えた。寛ぎの部屋に入ると、エフェルガンがいた。帰ってきたんだ、とローズは思った。護衛の者は見当たらないけれど、多分近くにいるでしょう。エフェルガンはソファで寝ている。疲れているのでしょう、とローズが思った。ローズは静かに彼の前に跪いて、彼を見つめている。


・・いや、観察しているの方が正しいかもしれない、とローズは思った。彼の寝顔を見ると、なんだか、とてもかわいく見える。


ローズは彼の頭にある羽根耳を触りたくて、仕方がないけれど、怒られそうだから我慢した。ロッコの背中の鱗を触った時にも、かなり変に思われたから、恐れ多く一国の皇太子殿下の頭を触るなど失礼なことなんでしょう、とローズは思った。


「ローズか。ただいま」

「お帰りなさい。ごめん、起こしてしまった?」

「いや、ちょっと目を閉じただけだった。さっきから僕の頭を見ていて、何か付いているの?」

「いや、何も、あはは」


言えない。羽根耳が気になって触りたいなんて、言えない、とローズは首を振った。


「正直に言わないと、このまま朝まで、僕の抱きまくらにするぞ」


エフェルガンは体を動かし、片手をローズを彼のおなかに乗せた。


「む」

「じゃ、答えを聞かせて」

「うむ。でも、怒らないでね」

「正直に言うなら、怒らない」

「えーと・・、エフェルガンの頭にある羽根耳なんだけど」


ローズが戸惑いながら言った。


「ん?それがどうした?」

「なんかかわいい」

「え?」

「触っても良いかな・・、と思ったりして」

「ぶっ!はははははははははは・・あああ、苦しい」


エフェルガンは思い切り笑った。


「うむ。やはり変?」

「そんなに気になるのか?」

「うむ。あれはどんな感じかな。猫の耳みたいなものかな・・」

「そうか、ローズは知らないか。まだお風呂に入ってないけど、触りたいなら触っても良いよ」


エフェルガンがうなずいた。


「じゃ、お言葉に甘えて・・、失礼します・・」


ローズは恐る恐るとエフェルガンの頭にある羽根耳を触った。なんだ・・普通の羽根だった。ピンと飛び跳ねている感じの鳥の羽だった。しかし面白い形だな。で、耳はどうなっているんだ・・?


「耳じゃなかったのね」

「そうだよ。耳は頭の横にある」


本当だ、とローズが触れると、耳があった。エフェルガンの耳が髪の毛に隠されているのだ。


「何のための羽根なんでしょう?」

「さぁ、それは神様に聞かないと分からない」

「そうか」

「ローズの頭にある花は、何のためにあるかということと同じかもしれない」


エフェルガンがローズを抱きつきながら言った。良い香りだ、と彼は思った。


「うむ、昔頭の上になんで花があるかと聞いたことがあるの」

「答えは?」

「頭に花があるとかわいいって・・たったそれだけの理由だった」

「なるほど。確かにかわいい。良い香りもする。そしてとても個性的だ」

「でも朝になると花びらがまくらの上に散らばってしまう。たまに髪の毛の間に花びらが入ったりして、最悪の場合、トゲでまくらに穴が空いてしまうこともある」


ローズが文句を言いながら、エフェルガンの頭の羽耳をもう一度触った。本当に、ただの「羽根」だった。頭の上にピンと上に上がった羽根だった、とローズは思った。


「それは大変だ。でもローズのまくらに穴が空いてしまったら、侍女が直してくれるから、大丈夫だ」

「うん、ありがとう。裁縫が下手で、直すどころか、ダメにしてしまいそうだ」

「無理にやらなくても良い」

「はい。あ、羽根耳を触らせてくれてありがとう」


ローズがうなずいて、礼を言った。


「問題ない。正確な名前は羽角(うかく)だそうだ。まぁ、羽根耳でも別に良いよ」

「へ~」

「そうだ、明日一日休みだから、どこか行きたいところがあるか?」

「学校の情報が欲しい。もっと詳しい資料がないかと、明日教育省か学校に聞いてみようと思っている。でもエファインは、エフェルガンの許可がないとダメと言ったの」

「なるほど。じゃ、明日一緒に行こう。終わったら、聖龍の神殿に行って挨拶しよう」

「はい。ありがとう」

「明後日は皇帝陛下は狩りをするそうで、ローズも招かれている。服装は動きやすい服で良い。防具はまだできていないから、別に使えなくても良いが、念のためにある物を使おう。ドイパ国の防具だけど、仕方がないな、それを使おう」

「はい。武器は?」

「剣か短剣、使い慣れた武なら何でも良い。万が一に備え、身を守る程度で良いよ。護衛官もいるから、女性はほとんど見ているだけだが・・ローズは参加したいなら特別な許可をもらうよ」


エフェルガンがそう言って、ローズを見つめている。


「うん。参加したい。宮殿から、他の女性も行くの?」

「妹達と側室は何人か見学に来るらしいが、人数はあまりよく分からない。貴族と領主の奥方達とその娘達も来るそうだ」

「エフェルガンも皇帝になったらたくさんの奥さんに囲まれそうだね」


それを聞いたエフェルガンが首を振った。


「僕はローズ一人で十分だ」

「まだ結婚すると言ってないよ?」

「ローズがその気になるように、努力する」

「うむ」

「僕のこと、嫌いか?」


エフェルガンがまっすぐに彼女に訊いた。


「嫌いじゃない。でも・・」

「嫌いじゃないなら、まだその希望がある」

「私は難しい立場にある」

「女王様が反対しているか」

「うん」

「時間をかけて、理解してもらえるようにしよう。その前に聖龍様が味方になってくれるようにお願いしよう」

「良い導きがあるとい良いね」

「そうだね。僕はローズを妃にしたい。それを正直に女王様に言ったら、彼女はものすごく嫌な顔をしていた。皇帝陛下への親書でローズに委ねると書かれていたけど、恐らく事実とは違うと思う。ローズはここに来る前に僕と結婚しないようにと言われただろう?」

「うむ。なんで分かった?」

「女王様は僕とローズの手紙のやりとりを邪魔していたからだ、多分。ローズとの縁談の話をした時、女王様は僕とローズの関係に反対したんだと気づいた」

「うむ」


ようやく分かった。ローズにエフェルガンからの手紙が届かなかったのは、女王の命令だった、ということだ。


「でも僕は諦めないよ」

「正直に言うと、私はまだ結婚を考えていない。まだエフェルガンのことも知らない。エフェルガンも私のことを知らない。そしてお互いの国も文化も知らない」

「これからお互い知るようにすれば良い」

「時間をかけても良い?焦らずにしたい」

「無論。二年間もあるから、これからゆっくりとお互いを知ろう」

「はい」

「先ほどのように、気になることをなんでも言ってくれ」

「うん。また変なこと言っても怒らない?」


ローズが聞くと、エフェルガンは微笑んだ。


「例えば?」

「エフェルガンって大きな鳥に変身できるかどうか・・ 」

「基本的に、できる」

「そうか。どのぐらい大きい?」

「どのぐらいと言われてもなぁ・・、あの巨大フクロウより小さめぐらいかな」

「じゃ、上に乗れないんだ」

「乗りたいのか?」

「うーん、ほら、ジャタユ王子のような大きな鳥になれると上に乗れるじゃないですか?でもあの移動用フクロウより小さめなら一人ぐらいしか乗れない」


ローズが言うと、エフェルガンは首を傾げた。


「そもそも種族が違う。ミミズクフクロウ種族は基本的に体が小さめだが、目と耳が優れているため夜の飛行が得意だ。音もたてずに飛べる」

「すごいな」

「でもローズが僕の背中に乗りたいなら、今度乗せてあげる。この周辺なら安全だから、良いよ」

「あはは。あまり本気にしなくても良いよ。単なる好奇心だから」


ローズが笑って、首を振った。


「その好奇心で驚かされた。他の種族にそこまで興味を示されたのは初めてだ」

「うむ、私にとって知らないことばかりだから。不快だと思ったら遠慮無く言って下さいね」

「じゃ、言おう。色々なことに興味があってなんでも良いが、他の男性に興味があると言ったら不快に思う。嫉妬するから」

「うむ。覚えておく」

「その戸惑う声を聞くのも不安だ。でもローズの好奇心が僕だけに向くように、努力するよ」

「分かった。私も目の前にいるエフェルガンのことをちゃんと理解できるように努力する」

「よし、これでお互い努力する条約が結ばれた、さて、もう遅いから、そろそろ休んだ方が良い」

「うん。お休みなさい」

「お休み、ローズ」


エフェルガンの手はローズの手をとり口づけをした。ローズは退室して、外で待機しているリンカと護衛官とともに自分の部屋に戻った。





本日は狩りの日だ。


皇帝の狩りの日で、ローズたちが招かれた。本当はもうずいぶん前から計画されていたらしい。なんとか今が開催できた、とエフェルガンが言った。ローズがスズキノヤマへ来たから、彼女がエフェルガンの関係者として招待された。侍女達に身支度を手伝ってもらって、なんとか早く準備ができた。狩りと言っても、皇帝と一緒にするから、適当な格好では許されない。ローズは動きやすくするために髪の毛を簡単に結ってもらって、三つ編みにした。少し着飾っておけば問題はないはずだ。昨日聖龍の神殿からの帰り道で、エフェルガンに買ってもらった髪飾りも髪の毛に付けた。かわいい小さな花の形をしていて、三つ編みにした髪の毛にいくつか飾りを付けて、口紅も付けた。そして防具と武器も身につけた。今日はロースがダルゴダスからもらった剣を持って行くことにした。


リンカも武人らしくして、愛用している武器を身につけている。彼女の両腕にはアサシンソードがある。黒い服で身にまとい、赤い髪紐でその長い髪の毛を簡単に束ねている。引き締まった細い体が、その美しさが城中の話題になるでしょう、とローズは思った。ただ、基本的に猫と鳥だから、美しさの基準が同じかどうか、分からない。


準備ができると、エフェルガンが待っている城の庭で護衛官達も狩り用の服を身にまとった。エフェルガンもちゃんと防具や剣を身につけている。とても凛々しい。エフェルガンはローズの手に口付けてから、フクロウの上に乗せた。全員の準備ができたと確認して、いざ出発!、と。


ローズたちは皇帝陛下の狩り場へ向かった。そこは住民がいない一つの島で、動物や猛獣もいる。狩りに招かれたのは皇太子を始め、数人の皇子らと、数名の上位貴族と、全領主達と、そして優れた武人達だった。皇帝は数人の側室も連れて来た。兵士達は貴婦人達のための休憩所の警備に配置されている。


皇帝は全員の前でローズをエフェルガンと結婚前提の相手として紹介した。そう思うと、立場がますます苦しくなっているローズである。否定することもできず、ただ何も言わずに微笑むだけだった。政治的に思いっきり利用された気分だ。けれど、これは現実である。鈴もローズを政治的に利用しているのだ。


リンカの美しさを初めて目にした人たちも数多くいて、釘付けになってしまった殿方もたくさんいた。スズキノヤマでは武人姿の女性がいないと言われても過言ではないぐらい、とても希だ。リンカが身につけている武器にも興味を示している武人らがいた。ただ、立場的にリンカはローズの護衛官であるから、他人が気軽に声をかけられる者ではない。


皇帝の側室や領主の夫人達は休憩所でおしゃべりをしている。ローズは興味がないので、近づかないことにした。彼女がずっとエフェルガンにくっついている。


「ローズ姫は本国では狩りを参加したことがありますか?」


一人の武人が尋ねた。とても立派な身なりで、きっとえらい人だ、とローズは思った。


「はい、2-3年ぐらい前は狩りをしていたけれど、その後は多忙でなかなか行けなくなってしまいました。ですが、本日久しぶりに参加できてとても嬉しく、わくわくしています」

「ほう? それは頼もしいですね。どんな獣を狩ったのですか?」

「鳥か猿ぐらいかな」

「ほう? どんな鳥? キジやカモのようなものですか?」

「雷鳥です」

「へ?」


その会話を聞いている武人達は固まってしまった。この国でも雷鳥の恐ろしさを知る者がいるのか、と彼女が思った。


「危険クラスの雷鳥ぐらいなら一人で倒せます。さすがにSクラス、要するに巨大な雷鳥になると、ペアで倒した方が無難か、と思います。なぜなら、私がまだ剣を習ったばかりで、弱いんです」

「よ、弱い・・ですか?」


彼がローズを見て、息を呑んだ。


「はい。アルハトロスでエフェルガン皇太子殿下と親善試合で負けてしまいました。か弱い私は、皇太子殿下の敵ではないのです」

「か弱い?!ほ、本当ですか、エフェルガン殿下?」


聞かれたエフェルガンは思わず笑ってしまった。


「ははは、ローズ姫、それは褒めすぎですよ」

「いいえ、事実を申し上げただけですよ」


さー、どうする、エフェルガン?ふふふ。このようなことを考えている自分は、実は腹黒い女かもしれない、とローズはニヤニヤとしながらエフェルガンを見ている。


「か弱い姫が一人で狩りをすると危ないので、私としっかりとペアを組むしかないな」

「おほほ、楽しみですわ、殿下」


ローズが笑って、うなずいた。


「お二人、とても仲が宜しいですな」


「年内に婚約発表に待ち遠しでございます」


そう見られてしまった。でも狩りのためならなんて言われようとも、気にしない。エフェルガンも楽しそうで、とりあえず問題ない、とローズは思った。


護衛官達は基本的に狩りに参加しない。ただ、ピンチの時に限り、必要だという時に参戦する。また狩り中に、たまに暗殺者が紛れ込んでいることもあるため、周囲の動きにも注意する必要があり、とても大変な仕事になる。


しかし、あくまでも、この狩りの主役は皇帝である。さりげなく勝利を皇帝に譲るのもマナーである。そこで、気を使うようにしている。ローズがそれを理解して、エフェルガンの後ろで歩いた。


鳥人族の殿方達は翼を広げて、皇帝の合図を待つ。皇帝はアルバトロスからの贈り物の剣を手にして、上に上げていくと、全員武器を手にして、大きな声を出す。キョロキョロとしているローズは慌てて剣を抜いて出遅れた。安全のため、やはりエフェルガンはローズのペアとして組むことになった。


狩りが開始されると、ぞれぞれ獲物探しから始める。鹿や熊の小物クラスの獲物を倒して、直ちに駆けつけて来た兵士達に運ばせて、調理場に届けられる。やはり殿方は大きな獲物を探している。この島のどこかでSクラス以上がいるかもしれないと、エフェルガンが言った。もしいないなら、召喚術師が猛獣を召喚するそうだ。結局ミライヤがやっていることとほぼ同じだ。しかし、ローズは召喚術のことが分からない。今度習おう、とローズは思いついた。


一人の武人が獰猛な狼を発見した。昔その猿に食べられそうになった苦い経験があった。しかし、今は負けない、とローズは思った。殿方達は一所懸命その狼と戦っていて、皇帝にトドメを刺してもらった。ローズは大した働きをしなかった。ただ、あの狼が暴れないように、と足を茨で縛った。


そんな遠慮しながら狩りを参加しているローズにエフェルガンが気づいた。気にせずに参加すれば良い、とエフェルガンが小さな声でローズの耳にささやいた。


その直後、空中で突然黒い雲が現れた。空を見上げると、殺気で現れたのは雷鳥だった。しかも、これは巨大雷鳥である。けれど、これは自然発生ではない。明らかに誰かが術で召喚したのだ。一人の術師が慌てて来て、術の読み間違いだったと報告した。読み間違いで片づけられるものではない。このクラスになるとSかSSクラスになる。かなりの被害も予測できる。ましてや、この近くに休憩所がある。戦闘能力がない貴婦人達に被害がふりかかる可能性がある。


ローズは急いでエフェルガンにリンクをかけた。リンカにもかけた。護衛官にもかけたいが、4人以上になるとかなり辛い。まず、あの雷鳥が休憩場に近づかないように、地面にバリアー系の魔法を唱えた。これは囲むための結界である。術師や魔法職の者達は皇帝や自分たちの主にバリアーやエンチャント魔法をかけた。エフェルガンも自分自身にエンチャントかけた。どうやらエフェルガンは魔法が得意ようだ。だったらローズはリンカの支援と自分自身に集中すれば良い、とローズは思った。リンカは空を飛べないので、今木の上にいる。


「リンカに金のバリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」


そして自分自身にもかけた。この距離であの巨大な鳥なので、剣は不利だから鞘に戻した。


「自然よ!ローズが命じる:我に力を与えたまえ!」


ドーン!


凄まじい力が彼女を包み込んでいる。ダルゴダスと喧嘩して以来、ローズはそのような大きな力を使っていない。けれど、以前よりも、力が増している。体が光っている。空に飛んでいながら、光ってしまった。


ローズの怪しさが雷鳥と良い勝負だ。何人かの武人や領主は驚きのあまり、口が開いたまま、固まってしまった。エフェルガンは自分の契約した魔法を発動した。凄まじいパワーだ。頼もしい、とローズは思った。リンカは武器をセットして、万全な体制になった。


「エフェルガン、龍神の姫、存分にやるが良い。余が許す!」


遠くから皇帝の声が聞こえてきた。そう言われたら、遠慮する必要がない。行くぞ!、とローズは言った。


ローズは手の平で特製の茨の鞭を召喚した。黒くて、トゲがびっしりしている鞭だ。これは魔力による武器なので、形や性能もすべて自由自在だ。


パン!、と乾いた鞭の音が周囲に響いている。


「すごいな、ローズ」

「あなたこそ、強いわ」

「じゃ、あれを倒そう。魔力や大きさ的に、あれは巨大雷鳥だ」

「巨大雷鳥か~♪わーい♪初体験で、なんか、とてもドキドキしている~♪」

「そんなモジモジしながらで言わないでくれ。僕がドキドキしてしまうんだ」

「あ、はい。ごめんなさい」


エフェルガンは思わず苦笑いした。


「二人とも、雷鳥、来るぞ」


リンカの注意した後、巨大雷鳥が突っ込んできた。しかし、ローズの鞭の方が早かった。今、重さ標準で属性エンチャントなしとなっている。意外と結構破壊力がある、とローズは思った。毎日武術をやっている結果はこんなところで現れている。


「火の輪!」


リンカが遠くから突っ込んだ雷鳥に火の属性攻撃をした。エフェルガンも自分の武器にエンチャントして、攻撃をした。彼は手の平から魔法をぶっ放した。護衛官も近距離から雷鳥を斬りかかったけれど、大したダメージにはならなかった。本当にかたい敵だ。


「火属性エンチャント!強さ5倍!」


鞭にめらめらと燃えている火のオーラが現れた。オオラモルグだと、これが両手で持っていかなければいけなかった。しかし、今のローズだと、片手で持っていけるようになった。


バサバサ、と雷鳥が構えている。これは雷を出す前の気配だ。なん度も雷鳥と戦っていたローズは、この雷鳥の習性を十二分も覚えている。雷が落ちたら、広い範囲で被害がでる。それをする前にこの雷鳥の注意力を妨害しなければいけない。今すぐに詠唱妨害しなければいけない!


「ハアアアアアア!」


ローズは素早く鞭で雷鳥の顔や首を叩きまくっている。それを見たエフェルガンも雷鳥の後ろへ飛んで魔法で攻撃する。護衛官達も参戦して、ばたばたと暴れて雷鳥を上から攻撃してくる。


キーーーーーーーーー!


突然雷鳥が高い鳴き声をしてパチパチと集中して・・。


「まずい! 雷が出る!」


エフェルガンは大きな声で叫んだ。


「エフェルガンにシールド!リンカにシールド!」


二人に急いで雷耐性のバリアー魔法の盾をかけた。


「瞬間移動!」


ローズは急いで皇帝の前に飛んで行った。


「バリアーシールド!」


ドーン!


爆発音とともに周囲に凄まじい雷攻撃が発動された。バリアーにかかっていなかった者たちは感電し次々と倒れ、地面に激突された。リンカは急いで、近くに落ちてきた護衛官ハインズを助けた。


(大丈夫!生きている!)


良かった。


「姫、余も大丈夫だ。気にせずとも良い。戦いに集中せよ」

「はい!」


ローズが助けた皇帝は大きな声で言った。ローズはうなずいて、目から雷鳥を放さなかった。


「金のバリアーエンチャント!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!雷耐性エンチャント!」


続いて、・・。


「火属性エンチャント!強さ10倍!」


ドーン!


鞭が重くなった。両手で握って突っ込んでいく!


「エフェルガン、そこから離れて!」

(了解!)

「ランス!」


鞭の形を念じて長い槍となった。めらめらと燃えている火のオーラで、その通常の強さ十倍もある茨のランスが雷鳥の頭を貫いた。大きな鳴き声が周囲に響いた。


キエーーーーーーーー!


そのランスとなった鞭をひっぱり抜いて、再び鞭にして今度はトゲを大きくして、再び雷鳥の頭や首を叩いた。右から左、上から下、ローズは早いスピードで叩きまくった。雷鳥からの血の飛沫が小雨のように降ってきた。


「エフェルガン、トドメを!」


ローズが大きな声で言うと、エフェルガンがうなずいた。


「ハアアアアアア!」


エフェルガンはとても強い魔法を両手から放した。凄まじい破壊力で空中の雷鳥がもがきながら地面に激突した。


(大丈夫だ!下に落ちた者全員を助けた!)


リンカはローズの心配を理解したかのようなリンクで報告してくれた。良かった。下敷きになってしまったら、無事では済まされない。ぺっちゃんこになるからだ、と彼女が思った。


まだ動いているあの雷鳥に物理的な攻撃も必要だと思ってローズは、その雷鳥の首を刎ねるようにとリンカに指示した。リンカは直ちに動き、さくっと燃えているあの雷鳥の首を切り落とした。焼けた雷鳥から香ばしいにおいが漂ったけれど、ローズはその鳥の味がまずいと昔ダルガと柳が言ったのを思い出して、美味しそうと言うのをやめた。


ローズは地面に降りて、魔法でエフェルガンの火で燃えている雷鳥の頭を消した。


「何をするの?」


エフェルガンは不思議そうな目で地面に降りてローズの近くにきた。


「巨大雷鳥の目玉の中に雷鳥石があるんだ。とても貴重で美しい」

「そうなんだ」

「でもちょっと取りにくいからどうしようかな」

「兵士にとってもらえれば良い」


エフェルガンはリンカが助けた兵士の一人を呼んだ。その兵士はまだ腰をぬかしているようだけれど、エフェルガンの命令に従うしかなかった。剣で目玉を切ると、その切り目から兵士が手を突っ込んだ。石らしいものに当たればひっぱり出すように指示した。


「おおお!大きな雷鳥石だ!」

「それは高価なものか?」

「ええ。大陸では、この大きさの物なら広い屋敷と農地が買えるほどの価値だ。小さな国家だと一年間の予算となるぐらいだという高価な物だ」

「ほほ・・」

「磨くととても美しい色の宝石になるよ。とても希なものなので、その石でできた宝石は大変貴重な物となる」

「ほうー、あとで職人に任せよう」

「うん」


エフェルガンがそのべとついた石を見ている。


「じゃ、もう1個の目も頼む」


兵士は指示通り残りの目から石を取り出した。今回は、左の方が大きかった。職人に磨いてもらって、どのような色になるかとても楽しみだ。


まだ上にいる皇帝と彼の周囲にいる殿方達は不思議そうな目でローズたちの作業を見ている。


「もう死んだのか?」


上から一人の武人が尋ねた。


「はい!もう大丈夫です!雷鳥は死にました!」


ローズが返事したら陛下は大きな笑みで拍手した。そこにいる人々も揃って、拍手して、祝った。


「良くやった!エフェルガン、龍神の姫よ。二人の戦いは素晴らしかった」

「ありがとうございます」


ローズとエフェルガンは同時に言った。


「あ、かぶった」


ローズが言うと、エフェルガンが笑った。


「ははは。もたもたせずとも良い、すぐに結婚すれば良いのに。何を待っているんだ、エフェルガン」

「姫の心をまだ完全につかんでいません。もう少し時間が必要です」

「夜這いをすれば良い」

「そんなことをしたら、私の首はあの雷鳥の首と同じ結末になります」

「ははは。まぁ、良い。必ず姫の心をつかみとれよ」

「心得ています」


エフェルガンが皇帝の言葉を受けてうなずいた。


「うむ」

「どうした、姫?」

「いや、ううん、なんでもない、あ、失礼しました」

「まぁ、楽にするが良い。ところで、あれはなんだ?」

「雷鳥石です。これを磨くと、とてもきれいな宝石になります。大陸ではこの雷鳥石でできた宝石が大変貴重で高価なものです。簡単に手に入れることができないため、この大きさになると、とても希です」


ローズが答えると、皇帝がうなずいた。


「ほー。気になる。エフェルガン、一つおまえにやろう。余は片方もらおう。楽しみじゃ」

「ありがとうございます」

「では休憩にしよう」


皇帝の命令で、全員それに従い、休憩所に向かった。雷鳥石は水で洗い、大切に保管された。今日の戦利品だ。


幸い、大変な怪我した者がいなかった。リンカの早い判断で地面に落ちてきた者たちは全員助かった。軽い打撲や軽い傷ぐらいで済んで良かった。


ローズはアルハトロスという国でさえ知らない人たちは、目の前で武器を持って暴れて雷鳥を倒した女性をみて、どんなことを思っているか、気になるらしい。


姉上、ごめんなさい。これで、アルハトロスの女性は皆が凶暴であるという噂がたったら、きっとその原因は私である、とローズは苦笑いながら、鈴を思った。


休憩の時、ローズは婦人達がいる所で食事をとって、リンカと一緒に一休みした。エフェルガンは向こうで殿方達とともに、女性の心についての伝授されるらしい。どんな内容か、ローズは知らない。


貴族や領主の若い娘たちは着飾って、狙いの皇子たちと独身の貴族や武人達にアピールしまくっている。どうやらこの狩りのイベントは出会いの場所でもあるようだ。もちろんエフェルガンの妹たち何人かも参加しているらしいけれど、どの女性か知らない。側室達は皇帝の周りに集まってきた。個人的には、居心地が悪い場所である、とローズは思った。


「ローズ、少し散歩でもするか」


声をかけてくれたエフェルガンは見えてきた。どうやら解放されたらしい。


「うん」


ローズとエフェルガンは近くにある川の周辺を歩きながらきれいな景色を見ている。あの出会いの場所から解放されてほっとした。また貴婦人の会話についていけなかったから、つまらなかった。護衛官達はさりげなく後ろで距離を取りながら歩いている。


「ローズの魔法の武器、初めてみた」

「結構怖いでしょう」

「当たると痛そうだ」

「痛いと思う。あれでオオラモルグの王を倒したんだから」


ローズがうなずいた。


「やはりすごいな」

「こんなあぶなかしい女性はいや?」

「その逆だ。とても頼もしく思う」

「なんで?」

「強いローズがそばにいれば、僕は安心して背中をローズに任せることができる。ローズは、僕に背中を任せてくれるかどうか分からないけどね」


エフェルガンが微笑みながら、ローズを見ている。


「強いあなたが私の背中を守ってくれるなら私も安心して、前を見ることができるわ」

「僕のペアになってくれるか?」

「戦いのペアなら喜んで」

「今はそれで良いと思う。時間があるときに一緒に狩りでもしようか」

「はい!」

「よし、これで防衛条約が結ばれた」

「うむ」

「やはり変だった?」

「うん。でもエフェルガンらしいな」

「らしい・・か」

「ん?」

「なんでもない」


その日から、ローズのペアはエフェルガンである。不安とともに、確実にエフェルガンと同じ方向に歩み出している。柳と別れてから二年数ヶ月、アルハトロスと遠く離れているこの地で、再び心に喜びを感じているローズである。


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