54. アルハトロス王国 龍神の都 皇太子の訪問(2)
本日、王国の訓練場にて、アルハトロス王国とスズキノヤマ帝国の武人達の親善試合が行われる。エフェルガンも参加するという試合らしい、とローズは侍女から聞いた。
ちなみにローズも、防具を装備している姿で訓練場に来た。女王鈴も暗部時代の軽装備姿で来ている。もちろん鈴が女王のマントを付けているけれど、久しぶりの凛々しい姿を見て暗部の護衛達の様子は違っている。特に男性隊員達が、目の輝きが違う。きっと鈴の美しさに引かれているのでしょう、とローズは思った。暗部時代の鈴はとても人気が高く、簡単にいうと、暗部の花と呼ばれる存在だった。ただ彼女の隣にいたのは、いつも無表情な影丸だったから、誰も近づく者がいなかった。
ローズは相変わらずドイパ国で作ってもらった防具を身につけている。なかなか丈夫で軽いからとても愛用している。しかし、最近胸辺りがきつくなっている。胸がまた少し大きくなったようだ。侍女達にも何枚も新しい下着を作ってもらった。体が痩せているのに胸だけが成長しても困る。身長も伸びてほしい。胸があまり大きくなると、動きづらいし、肩も凝る。
ローズは清々しい顔でスズキノヤマ選手団入場を見ている。彼女の髪の毛は簡単に三つ編みに束ねた。昨日エフェルガンからもらった髪留めを使っていたら、侍女達にかわいいと言われて、ローズの機嫌が良い。自分の剣はないので、訓練場の練習用の剣を借りることにした。この前ローズはダルゴダスにねだっていたのだけれど、そう早く手に入れるものではないことも分かっている。いつか自分だけの剣を手に入れたい。
「おはようございます、エフェルガン殿下」
「おはようございます、ローズ姫。その姿は?」
「私も出るんです。親善試合に」
「ほう、それは楽しみですね」
「まだ剣を習ったばかりなので、スズキノヤマの武人には、勝つことができないかもしれない」
ローズが恥ずかしながら言った。
「そんなことはないと思うよ。アルハトロスの武人のレベルの高さは南の方まで聞こえているよ」
「そうなんですか。では、手加減なしでお願いします。私はバリアー魔法使うので、怪我にならないと思います。だから存分に戦うようにとお伝え下さい」
「そうですね。念のために、僕もバリアー魔法を使うよ。何が会ったらお互い様困るからね」
エフェルガンが微笑んで、うなずいた。
「うん」
「しかし、武人姿のローズ姫も美しいね」
「そ、そう?」
ローズがドキッとした。
「そうだよ」
「エフェルガン殿下も凛々しい姿で格好良いですよ。その鎧はスズキノヤマのですか?」
「そうですね。この鎧も結構気に入って、昔から使っているんだ」
「そうなんだ」
「ローズ姫の防具はアルハトロスの?」
「いいえ、これはドイパ国の防具で、ジャタユ王子から頂いたものです。最近ちょっと小さくなったから、今度また作り直さないといけない、と思って」
ローズがそう説明すると、エフェルガンはうなずいた。
「ドイパ国のか。サイズが分かれば、スズキノヤマの帝国御用達鎧を送りたいが、僕はローズ姫の体の採寸をするわけにはいかないから、難しいね」
「あはは、そうですね。まぁ、しばらくこの防具で頑張ります。では、準備をしますね」
「はい、試合、頑張りましょう」
ローズたちはそれぞれのチームの場所に向かった。試合相手はくじ引きによる方式で決められた。箱の中に番号が入っている札を一人ずつとり、順番が来るまで誰にも見せない。チームは5人メンバーである。勝ったチームには女王と皇帝からのプレゼントがあるという。またフェアのため、将軍クラスの武人は、参加禁止になり、王家参加者であるローズとエフェルガンにはバリアー魔法が認められている。
基本的に武人になると性別は関係ないので、同等な立場で戦うことになる。ローズは武人ではないが、アルハトロスには王子がいないため、王家の代表として、ローズが参加しているわけだ。
第一試合はアルハトロス代表のダミアット対スズキノヤマ代表のオレファだ。ダミアットは里の出身で、武人レベル6だ。彼は国軍に入ったのは二年ぐらい前だと聞かされた。時期的にちょうど都の襲撃の後ぐらいだった。ダミアットは山猫人族で、毛の色はキジ虎で、尻尾が短い。体は筋肉質で、とても強そうだ。使う武器は練習用の剣だった。
一方、スズキノヤマ代表のオレファは鳥人族で、兵歴20年というベテラン護衛官だ。体がとても強そうで、体の至る所で傷あとがある。使う武器は練習用の剣だ。経験的にオレファの方が豊富だけれど、体力的に若いダミアットの方が有利だ。けれど、勝利の女神はどちらに微笑んでくれるのか、これからが楽しみだ。
試合開始と同時に、両者が激しい斬り合いになった。一つ一つと剣の重みがあるダミアットに対して、素早く交わすオレファの方が有利になった。けれど、ダミアットは体術が使える。これもまたすごく良い流れになった。さすが元傭兵、戦いの動きや流れを計算しながら、無駄のない動きになった。しかし、経験豊富な護衛官オレファも強い。修羅の道をくぐり抜いたその動きは、とても鮮やかに見える。一旦攻められて、危うい体制になったにも関わらず、なんとか立ち直り、逆に今ダミアットの方がピンチだ。素早い剣の裁きでダミアットの急所を狙っている。いくら練習用でも当たると、かなり痛いのだ。そして最後の一振りで、ダミアットの首に剣を当てた。勝負あり!すごいよ、オレファ、とローズが手を振った。審判はそこまでと、オレファの勝ちとなった。
第二試合はアルハトロス代表のエルセオ対スズキノヤマ代表のモカベだ。エルセオは兵歴10年で、木の精霊種族だ。彼は都の警備隊長として仕事している。とても穏やかな顔をしていて、優しそうな人だ。しかし、その優しそうな顔で、とても力の持ち主だ、と他のチームメンバーに聞かされた。
一方、相手のモカベは鳥人族で、体付きはジャタユのような人で、筋肉質もほど良いぐらいの体格である。兵歴7年で、荷物の護衛部隊の隊長をやっている。ローズはこの隊長同士の戦いにわくわくしている。エルセオは木製棍棒を使うことに対して、モカベは練習用剣を使って戦う。試合開始という合図が出された瞬間、モカベが先に動いた。素早い動きで体が大きなエルセオを攻めている。しかし、エルセオはとても冷静だ。すべての攻撃を棍棒で受け止めている。木製とはいえ、金属でできている練習用の剣の攻撃をそこまで受け止められるのがやはりすごい技だ。力の受け流し方法を熟知しているエルセオはモカベの攻撃を見切った。そして長い武器のぶつかり合いの末、疲れを見せ始めたモカベにコンボの一突きがモカベの胸に命中し、そのすごいパワーで数メートルまでモカベを飛ばした。そこまで!、と審判の判定にエルセオの勝ちとなった。
第三試合はアルハトロス代表のルバ対スズキノヤマ代表のボジョルシアノだ。両者が暗部出身だそうだ。使う武器も練習用短剣だった。レベルいくつか、兵歴何年か不明だ。恐らくこの二人は偽名を使っている。そして戦い始めると、正直いって、分からない。早すぎて、何か何だか、どうなったか、いきなり二人とも倒れてしまい、戦闘不能になった。はい、終わり。両者で戦闘不能になったため、引き分けとなった。現在のスコアは一対一だ。
第四試合はアルハトロス代表のガイル対スズキノヤマ代表のケルゼックだ。ガイルは練習用の剣を使う。この超ベテラン教官は兵歴何年か本人ですら分からないという。対するケルゼックは兵歴10年の護衛官である。ケルゼックも練習用剣を使う。年齢的にケルゼックの方が若いから体力がある。でも毎朝若い兵士と共に訓練を励んでいるガイルも負けてはいないと思う。体力作りは兵士の基本だから、毎日欠かさず若い兵士達の体力作りを付き合っている。
試合開始の合図が出た。けれども、両者とても慎重に動いている。お互い、隙がないと見えた。下手に動き、相手の間合いに入ってしまったら、やられると両者が理解している。ガイルは足を少しずつ動かしている。それに対して、ケルゼックは剣の構えをする。両者ともとても慎重だ。と、いきなりガイルはものすごいスピードで動き出した。剣を振るかと思ったら、素早く体をひねて空いている片手をケルゼックのおなかに拳がきれいに入った。ぐは!、とケルゼックの声が聞こえて、口から泡を出して、倒れた。勝負あり!ガイルの勝ちだった。というか、ガイルは、まったく剣を使わずにケルゼックを倒した。恐るべし我が教官のガイルだ、とローズは拍手しながら思った。あとで聞いた話だと、剣を手に持って、試合すると、相手は剣の技を使ってかかってくるかと認識するらしい。実際に体術で倒すという作戦だったが、もしこれが失敗したら、剣の技で倒せば良い、とガイルが言った。でも拳一つであんなに強く入り、相手を戦闘不能にできるほどとは・・。やはりこの超ベテラン教官ガイルには計り知れない強さがあるとローズは改めて思った。
第五試合となった。そう、今度はローズの番だ。相手は、エフェルガンだ。正直言って、今は調子が狂ってしまった。激しく困ったのだ、とローズは思った。なぜなら、エフェルガンが先からずっと彼女を見て微笑んでいるからだ。どうしよう、戦意が消えてしまう、とローズは思ったぐらいだ。集中しないと負ける。というか、後がないスズキノヤマチームはせめて引き分けでも持っていきたいでしょう。その最後の希望はエフェルガンに託されている。
もう、殿下よ、その微笑みをやめてくれ。卑怯だ!、とローズは焦って、顔が赤くなった。
念のため、目を閉じて、無心にする。集中して、体が光ってしまった。気を静めて、落ち着いてきた。額のあざが熱く感じる。
「金のバリアー!」
「バリアー!」
二人とも自分自身にバリアーを唱えた。
「始め!」
合図が聞こえたら、いきなりエフェルガンは素早い動きでかかってきた。ローズよりも体が大きなエフェルガンは剣で襲ってきた。しかし、ローズも剣で受けた。
えいっ!負けるものか!、とローズはその剣を受けて、流した。
第三将軍の相手にでも互角に戦っているローズだから負ける訳にはいけない。左も右も剣を受けて攻撃を入れたりして、しばらく激しい斬り合いとなった。油断したところで蹴りが入り、なんとか回避できて、素早く体をひねて、高く飛び込みながら、エフェルガンの後ろに着地して剣を振りおろした。でもエフェルガンはそれを気づいて、体をひねて攻撃を剣で受けた。
「なかなかやるな、ローズ!」
「ええ、あなたも」
「でも僕は負けないよ」
「私もだ!」
そう言いながら、ローズは再び攻めた。最近、両刃の剣を愛用するようになり、この剣裁きが好きだ。剣は種類によって、当然技も違う。しかし、体が小さいローズには大きな剣が使えない。だから短剣より少し大きめな剣を使うことにした。両手剣は大体長くて重いから、ローズの戦闘スタイルに合わない。エフェルガンは片手剣を使い戦っている。ローズの両刃剣よりも細いため、恐らく重量も軽い。軽いから、素早く振るスタイルに適している。練習用の剣といえ、エフェルガンの剣は特注だ。一目でも分かる。とても良い剣だ。
ローズは余計なことを考えているから油断して、蹴りが入ってしまったが、何とか立ち直り足をバネにして剣を構えながら、直接エフェルガンに振り下ろす。しかし、エフェルガンもそれを応じて、剣で受け止めた。でもなんだか、彼の目が嬉しそうだ。またその笑顔だ。マジで調子が狂う、と彼女が心の中で悲鳴を叫んだ。
ローズは目を閉じて集中した。戦いながら目を閉じるなんてありえないけれど、あの笑顔をみると本当に調子が狂うからだ。まったく集中できなかったから、ローズは目を閉じて、波動を読み取りことにした。すると、頭の中に、剣や人物の動きがとてもきれいに見える。顔は見えないが、剣の動きや風の動きなどが体全身で読み取ることに成功した。目を閉じていても、エフェルガンの剣をきれいに自分の剣で受け止めた。逆にローズの攻撃もエフェルガンに受け止められていた。
またしばらく武器と武器のぶつかり合いで、激しい動きが続いていた。時間がかなり流れて、お互い疲れたかと思ったが、エフェルガンはまだ余裕そうだ。息が相変わらず、整えている。その呼吸法を真似すれば良いと思って、エフェルガンの動きを分析した。ステップをする度に、息をきれいに認識しているのだ。長時間戦えるように、本当に力の温存を訓練している。この戦いは最終的に、彼女の負けとなると分かった。ローズの力の管理ができていなかったからだ。
「負けた!」
ローズは大きな声で言った。
「えーと?そうですか?薔薇姫様?」
審判が困った顔をしている。
「うん。私の体力は彼についていなかった。姉上、ごめんなさい。私は負けたのです」
ローズが言うと、鈴はうなずいて、笑った。
「お疲れ様、ローズ。良い試合を見せてくれたわ。エフェルガン皇太子の勝ちですね」
「勝者エフェルガン!」
審判はエフェルガンに勝利を与えた。これで両チームが引き分けとなった。お互いの強さがこの親善試合で分かった。
女王と皇帝からのプレゼントは参加者全員で配られていた。女王陛下からは美しい短剣だった、青色の鞘にはいくつかの宝石が飾られていて、一目を見るだけで息を呑んでしまうほどの美しさだ。鞘にはアルハトロス王国の紋章が刻まれていた。皇帝からは金でできている杯が送られる。とても美しく、周りはいくつか光り輝く宝石がある。そしてスズキノヤマ帝国の紋章が刻まれていた。ローズとエフェルガン以外の参加者は全員絹や金貨をもらった。ローズも金貨が欲しいと言ったら、鈴に怒られた。必要ないだ、と即答された。
試合が終わると、簡単な宴が行われている。ローズは試合に疲れて、飲み物を持って、訓練場の庭にある木下で座って休んだところで、エフェルガンが近づいてきて、隣に座った。
「お疲れ、ローズ」
「お疲れさまでした」
ローズが姿勢を正しく、エフェルガンを見た。
「まさかあっさりと負けを認めたね。びっくりしたよ」
「うーん、何時間やっても負けることは見えていたからよ。エフェルガンの方が体力が余裕だと分かった」
「そう? 戦い続ければ俺は負けるかも知れないよ?」
エフェルガンが微笑みながら言った。
「私には分かるよ。エフェルガンは全然息が切れていなかったもの」
「やはりローズはすごいよ。そこまで見抜いてしまったか」
「波動を読んだ時に、エフェルガンの波動がとてもきれいで、整えていた」
ローズが説明すると、エフェルガンがうなずいた。
「俺の波動か」
「うん」
「だから目を閉じたか」
「うん」
「それだけじゃないでしょう?」
「うん」
「どうしてか、聞いても良い?」
エフェルガンが聞くと、ローズが一瞬戸惑って、彼を見た。
「笑顔だった。エフェルガンの笑顔を見ると集中ができなくなった。心のどこかで、戦いを拒みたくなって、違う感情になってしまいそうで」
「そうか。でもそれを聞いて、なぜか嬉しく思う」
「うむ」
「実は。僕はローズと戦っている最中に、ものすごく快感を感じてしまった、と思う」
「快感、ですか?」
「思いっきり、ぶつかり合って、僕と呼吸を合わせてくれた、そんな感じて、嬉しくて、仕方がなかった」
エフェルガンがそう言いながら、ローズを見つめた。
「呼吸合わせと言っても、あれは武器のぶつかり合いだったと思うけど」
「でも僕の攻撃に対して、ローズは応じてくれた」
「剣で防がないと当たるからね。当たると結構痛いよ。怪我がなくても、痛みが残る」
「ははは、そうだね。でもローズはすごいな。国が近ければ、毎日会いに行きたい。毎朝剣の練習でもしたい」
「私もエフェルガンと毎朝剣の修業がしたいな」
「そう?」
「うん。その呼吸法をマスターしたい」
「僕もローズの波動の読み方に興味がある。結構便利そうだ」
「うん、便利だよ。周りの護衛官は同じ人かどうか波動だけで分かるよ。なりすましなんてありえない」
「すごいな」
「ちなみに顔を隠していても、気配を消していても、生きている人はわずかでも何らかな波動を出している」
「なるほど」
ローズは空を見上げた。しばらくして何も言わず、ただ空を見ている。
「ねぇ、エフェルガン」
「はい」
「私はいつかスズキノヤマへ行きたいと思うんだ。無理でしょうけれど。スズキノヤマの国を見て回りたい」
ローズが諦めた様子で言った。
「そうだな。ローズをスズキノヤマに招きたい。僕と一緒に二ヶ月間、いや、半年か一年間でも、ずっと一緒に住んでも良いぐらいそばにおきたい。色々な所を連れて行って回りたい」
「姉上は絶対に否というのでしょうけどね」
「そうかもしれない。大切な妹君だから」
「うむ」
ローズがため息をついた。
「留学もダメかな」
「留学?」
「そう。他国へ学校に行って、勉強すること」
「そんなのあるんだ」
「スズキノヤマには学校がたくさんあるよ」
「へぇ。アルハトロスはないな。領主によって、教育基準が違うし、アルハトロス国の基準そのものがまだない。何しろ、滅びかけた国だったから、今すべてやり直しをしているところよ」
ローズが興味深く言った。
「戦争で大変だったね。スズキノヤマはもうすぐ建国五百年になる。すごく長い歴史を持って、長い平和が続いた。が、今はそれも怪しくなってきた」
「うん。戦争は怖いよ」
「ローズはスズキノヤマの教育の仕組みを学びに行けば、アルハトロスに教育の改善ができるかもしれない」
「うん・・行けたら良いな」
「魔法の勉強も、料理も、踊りも、色々な知識を学ぶことができる学校たくさんあるよ」
「そうなんだ。いつか行ってみたいな」
「行けたら、僕の屋敷で部屋を与えるよ。もちろん護衛も侍女も用意するから手ぶらで来ても構わない。必要なものをすべて用意するから」
エフェルガンはそう言いながら、ローズを見つめている。
「私は一人でアルハトロスから出られるわけがないと思うけどね」
「そうだな。ローズの付き人のためにも部屋を与えるよ。僕の屋敷は結構大きいけど、ほとんど空っぽで、いるのが付き人と侍女、そして護衛官ぐらいだ」
エフェルガンがそう言いながら、ローズの隣で座り直した。
「料理人もいるの?」
「いるよ。僕の乳母だったが、料理はとても美味しい。空いている時間に、いつもあの飴玉を作ってくれるんだ。だから毒がないと分かった」
「そうなんだ」
「僕の生活も、ローズとはさほど変わらない」
「籠の中の鳥か」
「はい」
彼がうなずいた。
「最近やっと力が身について来たのだから、少しずつ自由が手に入れた」
「政治的な話しになると難しいよね」
「そうだね」
「私が普通の人なら、ここまでは孤独にならないかもしれない」
「僕も同じことを考えている」
「どこかに、思いっきり遊びたいね。誰もいない小さな島でも思いっきり走って、空を飛んで、笑って、遊びたい」
「二人でか。夢のような話しだね」
「うん。護衛感なしで・・。まぁ、無理でしょうけど」
「ローズにも、僕にも、できそうにない話だね」
エフェルガンは苦笑いして、言った。
「ドイパ国でね、ジャタユ王子の島で思いっきり遊んだの。楽しかった」
「スズキノヤマは、名前通り、高い山が多い地域だ。でも、海もあるよ。僕の屋敷は高い山の上にあって、その山の向こうには海があるんだ。断崖絶壁だけどね」
「えっ、そうなんだ。断崖絶壁か。海で遊べないんじゃ?」
「まぁ、その近くの島まで飛べば遊べるけど、白い砂の島だ」
「へぇ、あるんだ」
「小さいけどね」
「行ったことがある?」
「あるよ、小さい時に」
エフェルガンが微笑んで、言った。
「誰か住んでいるの?」
「誰もいない。あそこは毒蛇が多いからね」
「それもやだな。日光浴できないんじゃ」
「だね。寝てしまったら、気づいたら蛇のおなかの中にいるかもしれない」
「あはは。私は美味しくないぞ、と蛇に言い聞かせる」
ローズが言うと、エフェルガンは笑った。
「蛇が聞いてくれると良いね。でも日光浴したいなら、僕の屋敷の庭でも十分かと。一年中暖かいから、結構気持ちが良いよ」
「そうか。ここで日光浴したら、皆が心配するかもしれないね。人々がそういうのは慣れてないから」
ローズがそう言いながら、苦笑いした。
「ローズは水着を持っているの?」
「うん、ドイパ国で買ったの」
「いつかローズと買い物がしたい」
「うん。でも買い物なら都でもできるけど、護衛が物々しいから落ち着かないよ」
「慣れれば問題がないけど、でもローズはそういうのが苦手か」
「うん、落ち着かない」
「時間の調整がとれたら、またローズの部屋に遊びに行っても良いかな?おみやげも買いたいし、外出許可が取れたら、ローズと一緒に買い物がしたい」
エフェルガンが言うと、ローズはうなずいた。
「私は構わないけど、むしろ嬉しく思う。しかし、姉上がどう判断するか分からない・・」
「女王陛下を説得することを約束する。残り少ない滞在期間なので、有効に使いたい」
「うん」
「僕は、ローズと一緒に空を飛びたい。競走でもしたい・・と思っている」
「飛ぶ専門であるエフェルガンは勝ちますよ」
「ならばローズが先に飛べば良い。そのあと、僕がローズを追い、先に空を飛んだローズを捕まえたい」
「捕まえてどうするの?」
「どうするかな。考えてない」
「良かった」
ローズが笑って、エフェルガンを見た。
「どうして?」
「捕食者の目線じゃなくて・・」
「それも良いね」
「げ!私は美味しくないよ?」
「ははは。面白いな」
「あはは」
エフェルガンが笑った。案外、あんなに笑った彼が良い顔をしている、とローズは思った。
「じゃ、これから女王陛下と会議があるから、仕度をしなければいけない。またローズと会う機会を作って、会いに行きたいと思う」
「うん。またね」
エフェルガンはローズの手を取って、口づけをした。そして、彼が立ち上がって、遠くで待っているズルグン大使の所へ行った。彼は一度振り向いて、手を振った。




