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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
薔薇の姫君

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49/811

49. アルハトロス王国 龍神の都 引っ越し

「ローズ、気分はどう?」


リンカの声が聞こえた。ローズは目を開けると、黒猫の姿のリンカがいた。その冷たい鼻で彼女の頬にキスして、リンカはローズの頭の隣で箱座りしている。


「ここは?」

「医療棟の病室よ」


そうか、と彼女が思った。彼女は助かったんだ。あの夜、侍女のサイラに毒を盛られて、ロッコに助けられた。彼女は生きているということは、ロッコがくれた解毒が効いたということだ。


「ロッコは?」

「隣の病室にいる」

「え? なんで?」


ローズが驚いて、リンカに聞いた。


「ローズを助けた時に、背中がナイフで刺されたんだ。そのナイフも毒が塗られていたらしい。体内にある解毒で対応していたらしいが、毒の周りがかなりひどかったから、大事を取って、入院している」

「状態は?」

「良好よ。ローズの方が危なかった」


リンカがそう言いながら立ち上がって、あくびしながら体をストレッチした。


「そうか」

「ローズはどうなの?どこかまだ痛む?」

「頭がまだ痛い。喉も」

「じゃ、少し休んで。医療師を呼んで来るから」

「うん」


リンカは寝台から降りて、人型に変身した。彼女は病室の外に出て、医療師を呼びに行った。数分後、医療師が来て、熱を測ったり、脈を確認したり、色々な検査をした。薬を飲ませてから回復魔法をかけて、また休むように、と指示された。


薬のせいか、ローズはまた眠ってしまった。目覚めたら、すでに日が沈んでいた。ローズは寝台に身を起こして座ると、暗部の者が来て、お粥と白湯を差し出した。この者はロッコの部下で、里でいつもローズと一緒に朝運動していた人だ、と彼の波動で分かった。顔が布で隠されていても、個体によって特徴が違っているため、区別ができるのだ。


「ありがとう。ご馳走様でした」

「いいえ。では、失礼します」

「あの・・」


ローズが彼を止めた。


「はい」

「名前を聞いても良いですか?」


ロッコの部下は驚いた目をしていて、そして頭をさげた。


「申し訳ありません。私は名乗る許可を頂いておりません」

「そうか。ごめんね。ありがとう」

「はい。では、失礼します」


暗部もいろいろと大変だ、と彼女が思った。名乗ることも許可がいるのだ。やはり上下関係がはっきりとしている組織だ。


昼間と比べたら、気分が良いので、ローズは寝台から降りた。部屋を抜けて、隣にいるロッコをお見舞いしよう、とローズは思った。助けてくれた御礼も言わないといけない、と彼女が部屋を覗いたら、ロッコはうつぶせで寝ている。背中に包帯で手当をされている。傷口は完全に閉じていなかったようだ。


「ヒール」


ローズは細胞再生と傷口周辺の毒の掃除を念じて魔法をかけた。これはダルガとミライヤがモイの毒治療の時に使っていた魔法だった。簡単な毒消の魔法だけれど、細かい神経にかなり必要とされる魔法だった。ミリ単位の細胞一つ一つの中の毒を体の外に出す作業だ。大変だが、これができると、あとは細胞再生と魔力を注入すれば、早く治ると分かった。ロッコが寝ていると見たローズは、静かに作業をした。30分間ぐらい魔法をかけて、ローズの気をロッコの体内に送った。これでロッコは早く治る、と彼女が思う。


しかし、こんなにやっていても、ロッコがまだ寝ている。やはり具合が悪いか、とローズは思った。


ごめんね、ロッコ。私のために怪我してしまった、とローズは思った。


ローズは寝台にもっと近づいて、ロッコの青い鱗を触ろうとした時に、ミリナが病室に入った。


「あら、ローズ様。ロッコのお見舞いに?」

「うん。御礼も言おうと思って」

「御礼?」


ミリナが首を傾げて、聞いた。


「ロッコは私を助けてくれたから、そのための御礼です。念のために回復魔法もかけた」

「ローズ様も今お怪我をなさっているから、まだ回復の途中でしょう?魔法をかけたら、具合が悪くなりますよ。それにロッコは暗部として当然なことをやっただけですよ。そこまで気をかける必要はありません」


ミリナの言葉で、ローズが納得いかない様子だった。


「ミリナさんはなんでそんなことをいうの?」

「え?」

「ロッコは私を守るために怪我をしてしまったのよ。あの怪我をした背中は痛いと思う。いくら私よりも訓練されている体でも、痛いものは痛い。具合が悪いからこうやって休んで、体を癒やしているんじゃないですか?」


ローズがそう言いながらミリナをまっすぐに言った。


「でも大丈夫ですよ。すぐ回復するから。ロッコは強い暗部だから」

「それも分かっている。ロッコは強い。でもロッコも人で、痛い時は痛いと、口に言わなくても周りがなんとなくでも理解をしないとダメだと思う。誰も理解してくれないなら、私がロッコに、気にかける」


ローズの言葉を聞いたミリナが一瞬言葉を失った。けれど、彼女がまた反論した。


「ローズ様は、暗部の者の命は使い捨てだということも理解をしているのですか?」

「はい。だから誰も泣いてくれないなら、私は彼らのために泣きます。誰も彼らの無事を祈ってくれないなら、私は祈ってあげます。私の祈りが届くかどうか分からないけど、でも少なくても自分の中で、ロッコやこの部屋の外にいる暗部達ももちろん、ミリナさんのことも気にかけているよ。さっきロッコと同じように、もしミリナさんが怪我をしたら、私はミリナさんにも回復魔法をかける。まぁ、ミリナさんは強いからそう簡単に怪我はしないでしょうけどね」


ローズがそう言って、またロッコを見た。まだ眠っているんだ、とローズは思った。


「ローズ様はとてもお優しい方ですね。ロッコはきっと早く治ります。暗部の代表として、御礼を申し上げます」


ミリナの言葉に、ローズは首を振った。


「逆よ。御礼を言うのは私の方です。命を助けて頂いて、ありがとう。いつも影で私を守っている暗部達にも伝えて下さい」

「ローズ様・・」

「あ、そうだ。ミリナさん、ロッコが元気になったら、私と昼餉の約束があるから、宮殿から出ないようにと足止めをお願いします。任務は極めて重要だとロッコが言ったけど、私とのお昼も重要だからね!」


ローズがにっこりと言った。ミリナが驚いた顔をして、眠っているロッコを見ている。


「そんな約束があったのですか?」

「うん。飛行船が山にぶつかる寸前に言った約束だから、ちゃんとやらないとダメだからね」

「なるほど。分かりました。元気になったら、ローズ様とお昼を一緒に食べるようにとロッコに追加任務を出します」

「あはは。ミリナさんって面白い人ですね。ありがとう。では、私は自分の部屋に戻らないといけないので、これで失礼します」

「はい」


ローズが自分の部屋に戻ると、リンカがすでに待っていた。鈴が呼んだと伝えて、ローズは鈴の執務室まで案内してくれた。服装はまだ寝間着だったけど、問題ないと言われた。


執務室に到着すると、何人か将軍や大臣がいた。鈴の机の上にたくさんの書類があって、読むだけでも一晩じゃ終わらない、と彼女が思った。


「ローズ、もう大丈夫ですか?」


鈴はローズを見て、椅子から立ち上がって、彼女の元に行って、ぎゅっと抱いた。頭もなでてくれた。


「ご心配をおかけしてしまいました。申し訳ありませんでした」

「敬語は要りません。ローズは私の妹です」

「はい」

「まさかあの侍女がオオギと関わっていたなんて、思ってもいませんでしたわ」


鈴は再び自分の椅子に戻った。ローズは用意されていた椅子に座るようにと指示を受けた。


「でもロッコが助けてくれたから、なんとか元気になった」

「ええ、ことを目撃した衛兵から知らせを受けて、びっくりしたわ。またかと思った」

「私の衛兵はどうなりましたか?」


ローズが聞くと、鈴が近くにいる大臣を見て、聞いた。


「ローズ様の護衛官三人とも無事でした。薬で眠らされていただけだったが、これは重く受け止めて、失態として処理し、彼らはローズ様の衛兵役から外されることになりました。侍女ニナもです」


近くに立っている大臣は説明してくれた。せっかく名前を覚えたのに、また変わる。


「でもこれではっきりと分かりました。ローズはやはり狙われているんですね」


鈴は腕を組んでローズを見ている。


「女王様こそ、護衛官がいなかったじゃないか?」

「姉上とお呼びなさい」

「はい、姉上」


ローズが少しドキッとして、うなずいた。


「よろしい。そうですね。私の護衛官はオオギが用意すると言ったが、本当にいたかどうか、忙しい毎日で気づかなかったわ。それは私の失態だった。まぁ、ミリナに暗部出身の女性暗部二名ほど私の警護に頼んだ。あとは基本的に今までの体制を大きく変えます。新しい将軍を選び、あとは領主に相応しい人物選ばなくてはいけませんね」

「姉上は忙しくなりますね」

「そうですよ。ことを早く治めてくれたローズに感謝を言わないといけないわ。大変助かりました。当時はばたばたしてなかなか会えなかったが、もう落ち着いたかと思ったら、今度は毒を盛られたなんて・・」

「ごめんなさい」

「いいえ、悪いのはローズではなく、あのサイラという者よ」


鈴がローズを見て、うなずいた。


「サイラは今どこに?」

「もうとっくに死んだよ。体が・・真二つに」

「ロッコか」

「恐らく、そうでしょう。でも気にしなくても良いわ。今度はローズにつく侍女や衛兵たちは厳選するから、安心してね。また護衛官一人は暗部出身にしますわ」

「ありがとうございます」


ローズがうなずいた。


「あの部屋がお嫌になったのなら、新しい部屋に引っ越しても良いですよ。私の隣の部屋でも構いません」

「いや、今ので良いんです」

「そう?気分転換したいなら、ちょっと離れた所に部屋があるんですよ。それは池に囲まれてきれいな二階建ての建物だよ。ローズが好きな星空も屋根の上から良く見えると思うわ」

「おお、見ても良いですか?」

「もちろんよ。明日行っておいで。気に入ったらいつでもその建物を使って良いわ。その周辺の庭園も自由に使っても構いません。あれは先王が趣味の部屋として作られたそうですが、完成してまもなく先王は戦争で崩御してしまわれたわ。だから比較的、新しい建物よ」


鈴は笑いながらローズに言った。


「そうですか。じゃ、明日見てから決めます」

「そうですね。もう夜が遅いから、病み上がりですし、部屋に戻りなさい。リンカと暗部三名に頼んであるから、今夜は安心して休みなさい」

「はい。お休みなさい、姉上」

「お休みなさい、ローズ」


ローズは鈴に礼をして、そこにいる皆にも礼をしてから退室して、自分の部屋に戻った。暗部以外は誰もいない部屋だった。本当に物々しい雰囲気だ。今夜は黒猫のリンカと一緒に寝台で寝ることにした。





翌朝。


朝餉を終えたら、昨夜鈴が言った建物を訪れた。壁に囲まれて、そこに扉がある。衛兵がローズを見ると、扉を開けた。すると、そこには美しい庭園があった。庭園の小道を歩くと、とても大きな池がある。その池のど真ん中に大きな建物がある。何とも言えないほどの美しい建物だった。


建物に行くための赤い橋を渡ると、柱に龍や花の彫り物で飾られている建物の入り口がある。建物に入ると、すぐに大きな階段があって、2階へ続く。2階には広い居間があって、そこからはまた階段がある。3階には小さめの部屋がある。その部屋から、その気ならば屋根に登れる。池の周りはほとんど木々や庭園なので、灯りの邪魔を受けずにきれいな星空が見えるのでしょう。


建物の中は空っぽだけれど、きれいな状態だ。下の階には階段の横にある通路から少し歩くと、侍女部屋二つとキッチンがある。二階は部屋が二つあって、それらの部屋の前にベランダに面する居間がある。風呂場は基本的に各部屋の中にある。建物の門の近くに衛兵用の建物がいくつかある。その建物をみたローズはとても気に入ったので、この日の内に引っ越しを決めた。


使用人達はローズの荷物や家具を運んできた。宮殿の中にある居住区域の部屋より小さめだけど、庭がとても広いので、気に入った。それに、とても見晴らしが良いところが素晴らしい、とローズは思った。寝台も部屋の大きさに合わせて、どれもとても素晴らしい作りで、きれいだ。


先王の贅沢な趣味は見えてしまったかもしれない、とローズは思った。鈴はそこまで興味がなかったから、この建物を使わなかった。ほったらかすると壊れるだけだから、ローズに使わした訳だ。


新しい部屋ができて、ローズがとても満足した。鈴に引っ越した後の完了と御礼を言いに、執務室に行ったら、ミリナからロッコが全治したという知らせを受けた。鈴に昼餉の約束の話をしていたら、彼女が昼餉の料理の作り方を教える約束した。やはり心に込めた料理の方が喜ばしい、と鈴は言った。


食事の場所はローズの新しい庭園付き部屋で。そして特別に、人払いまで許可してくれる。


嬉しい!明日の昼餉、楽しみにしている!、とローズは微笑みながら眠った。


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