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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
薔薇の姫君
43/811

43. アルハトロス王国 龍神の都 女王の妹

翌朝。


ローズは都行きの王宮用の馬車に乗って都へ出発した。同じ馬車に乗ったのは女王陛下の補佐の努めているオオギ、人の姿のリンカ。そしてミリナという女性だ。ミリナは暗部の総隊長であり、里の暗部の一番トップだ。彼女の武人のレベルはSSだ。ミリナは蛇人族で、黒い鱗に赤、緑と青鱗が少し混ざっている感じの色をしている。彼女の髪の毛は腰まで長く、黒い波のように美しく、後ろで束ねている。顔はとてもきれいで、赤い口紅を付けていて、まぶたが二重でセクシーな大人の女性の雰囲気がある。けれども、彼女はとても凜々しく、格好良い。暗部はやはり蛇人族が多いようで、ミリナに聞いてみると、蛇人族は毒に詳しいからだ、と答えた。もちろん他の種族もいるけれど、毒関係になるとやはり大半生まれながら毒を持っている蛇人族の方が自然に暗部の仕事になじむ。


ローズは旅に動きやすい服装をしている。長めの赤い絹のワンピースの上着で、中はワイン色のズボンだ。服に百合が作った刺繍で美しく施されている。ピンクと白い薔薇の花々で、とても鮮やかな色をしている。柳からのブローチもさりげなく胸元に付けた。腰に皮のベルトと短剣を付けている。リンカは黒い服で統一している。彼女が簡単な防具と腕に武器を付けている。ミリナは暗部らしく、黒い服に軽装備していて、赤いマフラーをしている。腰辺りに斜めに付けている剣がある。ミリナは馬車の中ではなく、馬車の外で運転手の隣に座っている。


旅が順調に進んでいて、昼餉の休憩に皆でお弁当を食べる。なんと料理長は兵士らの分までお弁当を作ってくれた、とローズがリンカから聞いた。簡単な携帯食だったけれど、とても美味しかった。デザートに甘い果物が香る蒸しパンで、絶品だった。指に付いたパンのかけらがもったいないぐらいと思って、指を口に入れたりした。オオギが笑って、やはり同じように指でそのパンのかけらを取って食べた。美味しいものは美味しいと笑いながら言った。リンカもミリナも、兵士達まで、全員お弁当を残さず、きれいに食べた。料理長、ご馳走様でした!


旅を続けると、しばらくの道なりだった。途中でミリナがの指示でとある魔法陣を馬車を走らせていくと、あっという間に都に着いた。


ローズは、初めて見た時の感じ都と今の都が全然違うことに気づいた。初めて都を見た時は、都がモルグ人の襲撃を受けていた時で、至る所で壊れた建物と黒煙が上がっていた。けれど、今はきれいになって、新しい建物がたくさん建っている。宮殿もきれいになって、あの化け物が壊した屋根や壁まできれいに修復された。やはり青竹の里の技術部はすごい。仕事が速くて、きれい。父上が誇らしげに褒め称えたことも理解できる、とローズは思った。


馬車は宮殿に着いて、ローズたちが中へ案内された。見覚えがある噴水や部屋もあった。あの時、悲惨な光景がもう残ってない。すべてきれいになって、美しい宮殿になった。


女王陛下が待っている女王の間に案内された。扉が開くと中へ入るようにとオオギが手で合図した。中に入ると、玉座に女王鈴が座っている。とても神々しい、とローズが一瞬戸惑った。美しい着物で身を包み、頭に光り輝く小さな冠をしている。神籍になったからか、オーラがとても神々しく、うっすらと光っている。額にローズと同じく赤いあざがある。それが龍神の紋章だ、とローズが気づいた。それにしても、鈴がとても美しい。


「ご苦労、オオギ。そしてようこそ、ローズ、リンカ、ミリナ」


凛とした声でローズたちを歓迎した。ローズたちは女王の前に跪いて、敬を表し、参上の挨拶をした。


「ローズ、あなたは私と唯一同じ金の能力の持ち主です」

「はい」

「あなたは私の妹にする。称号は姫。しばらくここで私の妹として過ごして下さい」


鈴の言葉でローズが首を傾げた。


「え?」

「言葉通りですよ。あなたの部屋も、衣服も、侍女もすべて用意しました。作法や習い事も普段通り、教えてくれる先生方も付けます。でも心配しないで、ローズがきらいな刺繍のお勉強はありません」


鈴が笑いながら言うと、ローズがホッとした顔になった。


「うむ、武術の勉強も?」

「あなたが望むなら、ありますよ」

「でもなんでわざわざ私がここに?」


そもそも、彼女を「姫」にするのもおかしい、と彼女が思った。


「ローズはとてもきれいで、賢いから、きっと欲しいと思う殿方は現れるでしょう。武人でもない以上、縁談やお見合いを断る理由も難しいと思います。領主の三女の立場になるとなおさらです。だから私の妹になれば、そう簡単に縁談を進めることができません」

「縁談って、私はまだ3歳でしょう?早すぎませんか?」


ローズの言葉を聞いた鈴が笑った。3歳なのに、言葉が大人だ、と鈴は思った。


「3歳でも、縁談は縁談です。この世界には生まれてすぐに縁談が決まった者もいます。貴族同士には普通に行われています。ローズはお父上からなにも聞かされてなかったのですか?」

「何を・・ですか?」


ローズが首を傾げた。


「あら。ローズ宛の縁談の申し出がたくさん来ていることですよ」

「え?」

「ふふふ、この様子だと、すべてダルゴダス殿が片っ端から断ったようですね」

「うむ」

「まぁ、ともあれ、しばらくここで私の妹になりなさい。私の妹だから敬語は必要ありません。リンカも猫としても、人としても、どちらでも楽な姿で過ごしても良い」


鈴がそう言うと、リンカがうなずいた。


「はい」


リンカが答えた。


「ミリナには少し頼みたい仕事があります。オオギ、ローズとリンカに部屋と宮殿の案内を頼みます。お疲れでしょうが、終わったら私の執務室まで来て下さい」

「はい」

「では、下がって良い」

「失礼します」


ローズたちは礼をして、退室した。とても若くて美しい女王はものすごく大変な仕事を背負っている。ミリナとはどんな仕事の話かが分からない。けれど、元上司と部下で、今は逆の立場になったが、あの二人は多分これからも互いに変わらない信頼をしているのでしょう。


オオギは快く宮殿の案内をした。ローズは女王が住んでいる住居区域の一角の部屋に与えられた。とても広くてきれいな部屋だ。部屋の前に、広い中庭があって、その中庭から女王の部屋が見える。前の王は家族と一緒に住んでいたので部屋数が多かった。けれど、今の女王様は独身のため部屋が余っている。ちなみに神籍になったため、事実上、生涯独身となる。神と同じ立場になったので、婚姻はしないし、年も取らず、病気もせず、何よりも普通に死なない。もちろん普通にお食事や寝たり休んだりはするけれど、別にそれらがなくても問題なく生きていける。


部屋まで案内してくれたオオギは再び女王の元へ行った。ローズは女王の妹なので、「様」を付けずに呼びすても良いと言われたけれど、さすがにそこまで勇気がなかった。


部屋に入ると、三人の侍女がいた。侍女長のアルネッタは自己紹介し、二人の侍女を紹介した。アルネッタはメガネを付けていて、体が大きく、年令は中年ぐらいだった。種族は木の精霊の種族で、母と同じだ。二人の侍女の一人目はサイラという、草花の精霊種族で、モイと同じだ。髪の毛が短く、可愛らしいストレートな茶色の髪である。とても若そうにみえる。二人目はミランダという人で、年はサイラより少し上だと感じる。種族はサイラと同じく草花精霊種族だった。体はサイラより大きく、髪の毛が短めだが、波がある赤目の茶色の髪だった。基本的にサイラはローズのお世話係で、ミランダは外側からのサポータとしてやるそうだ。例えば台所からお茶やおやつを部屋に運んだりするのはミランダの役目である。要するに、ローズは住居区域から出なくても良いようにしている。また宮殿の中に出歩きたい場合、部屋の前に立っている兵士の3人の中から一人を連れて行けば良いと言われた。


リンカとミリナはローズの寝室の隣にある部屋をもらった。リンカ達の寝室とローズの寝室には繋ぎの扉があって、いつでも互いの部屋から出入りをすることが可能となっている。とても便利だ。寝室から直接中庭まで出られない。寝室の前には大きな居間あって、リビングとして使う。また勉強の部屋はその隣の居間に設置されている。勉強するための机や本棚が揃っている。また居間も勉強部屋にもふかふかな絨毯が敷いてある。とても美しく快適な部屋だ。リビングの扉から出ると小さめの居間があって。ここで客人の訪問を受ける場所だ。その部屋の左右に扉があって、簡単なキッチンと水場と侍女達の部屋がある。またお風呂は基本的に各寝室に設置されている。客間から扉があって、その扉の向こうには衛兵三人が立っている。


衛兵が立っている廊下から中庭に通じる扉がある。またその廊下には大きな窓が一定の間隔にある。とても美しい廊下だった。おそらく隣の部屋も同じ構造をしているのでしょう。


女王様の部屋は中庭の向かい側になる。この部屋と比べると、もっと広い部屋だ、とローズが見た。その部屋から宮殿の王の間と執務室がある。中庭から女王が住む部屋まで道があるけれど、大きなフェンスがある。そのフェンスには小さな扉があって、その扉の隣に衛兵の見張り部屋がある。同じ住居区域でも、そう簡単に女王の部屋まではいけない。扉は日常的に閉まっている。やはり至る所で衛兵が立っている。


小さなローズが長旅で疲れているのではないか、と気にかけている侍女サイラとミランダは、ローズのために美味しい花のお茶を作った。あの二人はリンカが黒猫に変身した時にとてもびっくりしたけれど、理解を示した。リンカは日頃ローズの「ペット」として認識してもらうように、とローズがあの侍女達に言った。その方が警戒されずに警備も楽になる。無論猫だから、部屋の出入りも窓から、扉から、どこからでも簡単に出入り可能だ。扉の前にいる護衛官3人にもちゃんと黒猫リンカの存在を連絡して、ローズのペットとして認識するように、と伝えた。


侍女ミランダは本日の予定を読み上げた。おやつの時間まで基本的に今日はゆっくりと休む。おやつの後は荷物ほどきとお風呂、そして夕餉だ。


今日は女王と数名の家臣達と一緒に夕餉をする。そしてそれを終えたら休む。明日は龍神の神殿に行って、女王の妹になる儀式を行う。そしてお披露目パーティが行われる。当然各地の大使や領主、国外からの貴族や上位武人などが出席する予定だ。若くてきれいな女王は神籍のため婚姻しないが、妹であるローズを狙って縁談を進めたいという人がたくさん出て来ると予測される。おまけに金の能力というだけで、ダルゴダスが困っているほどの縁談の申し出の数だったとは、ローズは知らなかった。だから里では、彼女の行動範囲がとても制限された理由でもあった、とローズは理解した。


誘拐されてもおかしくないからだ。モルグ人にだけではなく、普通の国々からも狙われているからだ。どうやら各地の龍の神殿から神託も出ているようだ。龍神の娘はローズである、という神託の内容だったらしいと、昼間に宮殿を案内した時にオオギが説明した。女王としては、ローズが海外の国へ嫁いで欲しくないから、妹にするという決断をした。恐らく、あの時、ダルゴダスの執務室で出会った時に、ローズがスズキノヤマのエフェルガン皇子と文通をしていることがきっかけだと思われる。何しろ男女のことだから、文通から恋が芽生えて結婚という形になったら、ローズがスズキノヤマへ嫁いでしまうことを懸念しているのでしょう。


ちょっと考えすぎか、とローズは思った。身長1メートルしかない彼女はいくらなんでも体が大きなエフェルガン皇子と結婚することができないでしょう。そもそも柳は絶対に許さない・・。けれど、柳はどこにいるのでしょうか。柳、会いたい、とローズはまた彼のことを思った。


おやつの時間を終えて、荷物ほどきの時間になったが、ローズの荷物の少なさに侍女達が驚いた。いくら何でも少なすぎると言われたが、ここではすべて用意されていると聞いたからたくさん持って行く必要がない、と彼女が答えた。下着のことも事情を話したから、侍女たちは侍女長と相談して追加に作ってくれるそうだ。ちなみに、飾り物や衣服などが準備をするようにと言われた。明日儀式や披露宴に使う服の色や飾りなど、女王の侍女と相談して色を選ぶそうだ。同じ色の服や飾りにならないように、調整するそうだ。王宮ってこのような面倒な所なんだ、とローズが考えてしまう。


夕餉の仕度が終わって、ローズがミランダに従えて、女王と食事をする所まで案内してもらった。もちろん一人の護衛官が後ろに付いて来る。なんだか物々しいと彼女が思うけれど、宮殿だから安全のため必要だ、と言われた。宮殿なんだから安全な区域だと思うけれど、そうではなかった。


宮殿だからこそ、人の出入りも多く、敵味方もいると言われた。ちなみに、ミリナはまだ戻って来ない。女王からの仕事をやっている最中かもしれない。


ローズはゆったりとした青いドレスで食事の部屋に入った。そこに白いドレスを着ている女王様がいた。彼女がローズを待っているかのように立っている。ローズが部屋に入ると、女王が嬉しそうに迎えに来た。その場にいる大臣達や家臣の前でローズの手を取りながら、紹介してくれた。


「妹のローズです」


その言葉の後、次々と彼らは自己紹介をした。けれど、ローズはよっぽど印象が強い人でなければ、初対面でほとんど名前を覚えてない。ちなみに、明日からローズの正式の名前は「薔薇・ダルゴダス ()」となる。


ローズという名前はこの宮殿の中にいるときにしか使えないと知らされた。だから公式の場では、彼女が「薔薇姫」として呼ばれることになる。ローズにとって、その名前は違和感たっぷりの名前だけれど、それは正式な彼女の名前だから仕方がない。


夕餉に豪華な料理が次々と運ばれて来た。どれも、とても見事な料理で、香りも見た目も食欲を刺激している。いきなり女王からリンクが、頭の中に入ってきた。口で言葉にしないが、ちゃんと伝わった念の言葉だった。


(遠慮なく、全部いただいても良いのよ)


ローズが彼女を見ると、彼女がにっこりしながらローズを見ている。ローズも、念で「はい」と答えた。それは、ローズたちが金の能力の姉妹しかできない「念の会話」である。


出された料理を次から次と食べ尽くしたローズを見て、驚いた顔を示した家臣は何人かいた。小さな体なのに、良く食べると、もの珍しく思われた。しかもたくさん食べていてもおなかに出ていないのだ。ローズが痩せていて、たくさん食べる方には見えないからだ。いったい彼女の胃はどうなっているのか、ちゃんと腸で消化されているのか、消化した栄養はどこに行くのか、彼女も知りたい。


食事の後、軽く会話をしていて、何人かローズに御礼を言った人がいた。何のことかと聞いたら、彼らがあの都の襲撃の時に魔石にされた人たちだった。ローズがあの大きな化け物を倒したから、彼らが救われたと説明を受けた。都で流れた化け物の光る娘と鬼神の話は一時的に流れたけれど、将軍達によってその噂の出所や流した人々も特定されて、罰せられた、という。


ローズが龍神様の娘である神託があったにも関わらず、発表しなかった司祭にも注意が入った。状況が状況だったので、司祭のことも理解できた。噂のことだけれど、ただの面白半分なのか、柳に当てられた覇気に気を失って恥をかいて、恨みを抱いた者なのか、とオオギが言った。どちらにせよ、都を救ったローズと柳に対する無礼行為として、法に基づいて罰する対象になった。柳がこのことを聞いたら、きっと気分が晴れるのでしょう。


翌日、ローズと鈴は龍神神殿に参拝した。ローズが戦いの後、寝泊まりした時のとまったく変わらなかった。女王とともに龍神様の神託部屋に入って、祈った。姉妹として龍神様の許しを得るためだ、と女王が言った。神託の部屋を出たら、二人とも神々しく全身が光って、周りの司祭や人々が跪いて、地面に頭をつけた。


しかし、ローズはとても複雑な気持ちになった。なんだか地球を訪問している宇宙人になった気分だ、とローズは思った。


「民に向かって、笑顔ですよ!」


女王の言葉に、ローズが少し不自然な笑みをしながら家来達が担いだ輿に乗って宮殿に戻る。輿には、きれいに飾られて、まるでお祭りのような感じがする。女王に続いて、ローズの輿が見えた時、民が跪いて地面に頭をつけるなどと、こちらから見ると、とてもおかしな光景だ。都の人々はほとんどローズの光る姿を見たことがなかった。あの戦いでほとんどの住民が魔石にされていたからだ。戦いの周りにいた兵士や義勇軍なら彼女を見たことがあるかもしれない。とても怪しかったのでしょう。


宮殿に戻ると、少し休憩してから、また衣装を変えた。今度はお披露目のための衣装だから、女王に合わせて正式な貴族の衣装となった。光が収まったけれど、額のあざの色は昨日よりも鮮やかに見える。髪の毛で隠しても見えるほどだ。女王は相変わらず、うっすらと光っている。


ローズは女王の隣に歩いて、お披露目の会場に足を運んだ。頭の上に、色々な飾りが付けられて重たい、と彼女が思った。文句を言ったけれど、これは正式な格好だから、少しの間に我慢するように、と侍女たちに言われた。本当に王宮って、面倒な場所だ、とローズがため息ついた。


ローズが「薔薇姫」として紹介されると、次々と大使や領主と武人達が彼女に自己紹介した。ちなみに、ダルゴダスは来なかった。来たのはダルゴダスの補佐官の一人だけだった。彼は都で復興支援を担当している人だ。


数々な人の挨拶が終わって、やっと一人で休めるかと思いきや、今度は若い男性達が群がって来た。どこかの貴族か領主の息子でしょうか、とローズが彼らを見て、思った。彼らの服装がとても豪華だった。適当に話をして、ローズがその場から、なんとか逃げることができた。本当に落ち着かない場所だ。


彼らの目当てはローズの能力か、ローズの地位である。どれも、彼女を、一人の女性として、考えてもしないでしょう。仮面を付けている彼らの波動はとても黒く感じる。


この時に、柳がいたら、多分彼がローズを連れて、どこかに行ってしまうかもしれない。ローズはこのような集まりが嫌いだ。里の食堂のような場所で、わいわいと笑いながらと違って、ここは政治と権力の駆け引きの場所だ。色々な思惑がある場所であるから、落ち着かない。恐らくジャタユ王子も、エフェルガン王子も、同じような体験をしているのでしょう、とローズは思った。


昼餉は披露宴でビュッフェスタイルで行われた。豪華な食事で各地の客人をおもてなしする。ローズも気になる料理を取って、自分のお皿にのせて、用意されたテーブルに行って座って食べた。美味しい。都の料理は里の料理と違って、味が薄いが、使っている材料はとても良い物だから、それなりに美味しい。ゆっくりと一人で食べようと思ったが、また次から次と人々が周りに集まった。あのまともな仕事すらしないエコリア地方の領主の息子と名乗った人もいた。しつこかったから、ローズがとてもいやになった。


「私のことよりも、エコリアの治安を先になんとかしてから、出直して下さい」


彼女がそう言ったら、彼が赤い顔で帰ったらしい。機嫌が悪いローズを見て、少しずつ周りにいた男どもが離れて行った。こんなかわいくない姫だから、気軽に声をかけないで欲しい、とローズは勝利の気持ちでいた。


数時間の疲れた行事がやっと終わった。正式なアルハトロスの姫になった彼女は、これから大変な日々が待っているとため息をしながら、休むことにした。今夜もミリナは帰って来なかった。


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