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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
薔薇の姫君
41/811

41. アルハトロス王国 青竹の里 暗部の者達

今年は3歳になった。


これは、ローズがこの世で転生して、新しい体をもらってからの年月を指すことだ。彼女の本当の年齢が不明だ。なぜなら、彼女の成長も、体も、言葉も、他の種族と(こと)なって、全く違うからだ。


ローズが同じ頃に生まれたダルゴダス家の次女の菫の誕生日とまとめて、二人の誕生会が開かれた。ローズにとって、とても複雑な気分だった。


3歳になった菫はかわいくて、走りまわった。やっと言葉も上手になった。菫の身長がちょっとだけ低いけれど、ローズと大した差がなかった。問題のローズは、まったく伸びなかった。ずっと1メートルのままだ。


菫の体と違って、ローズの体が痩せている。医療師は問題がないと言った。けれど、フレイはかなり気にしている。毎日ちゃんと牛乳を飲んだのに、ちょっとだけ大きくなったのは胸である。


困った。


大人の女性のような胸を持っている3歳児は絶対におかしい、とローズは思った。彼女の姿は、間違いなく、大人だ。けれど、彼女の体のサイズは小さい。


けれども、考えてみると、体の年令が3歳でも、彼女の魂は恐らく現時点で20歳前後だ、とローズは思った。死ぬ前は高校生だったから、17歳前後だと考えて、この世界に生まれ変わり、3年が経った。そうなると、やはり20歳前後となる。このシンクロをしてない魂と体を持っているといろいろと苦労している。


ちなみに、女性のあの日は今年になってから来た。いったい彼女の体はどうなっているのか、とローズは思った。


やはり「あの日」になると魔力の調整がうまくいかない。魔法も不安定で、制御ができない。だとすると、やはり武術もちゃんと学んだ方が良い、とミライヤはダルゴダスに言った。武術に関することになると、ローズがダルゴダスに言ってもいつも拒まれた。けれども、ミライヤが言ったら、あっさりと許可された。この差はいったい何でしょう、と彼女が呆れた顔をした。やはり大魔法師という肩書きを持ったミライヤの方が説得力が高いでしょう。


というわけで、最近レベル5のグラウンドを午前中に使えるようになった。毎日二時間ぐらいの練習する。もちろん武術の先生と暗部も付いてくる。万が一、鞭が使えない場合、短剣や槍など、様々な武器を習うようにしている。また体力作りのため、毎朝レベル0の子どもたちと別コースで護衛官オルヘンスと暗部2名と走ることになった。暗部隊員は毎回変わっているから、ローズは彼らのことが分からない。どの人も顔に布で鼻と口を隠しているから顔もよく分からない。ただ、目の特徴と声を覚えるようにした。ローズは周りにいる暗部隊員達が大体男性で、声から聴くと割と若い人が多いようだ。たまに女性もいるけど、男性隊員と同じく、顔も分からない。


護衛官のオルヘンスは年令が若い。とてもガッチリとしていて、強そうだ。尻尾も長く、色は茶色で、しましまの模様がある。実際に彼が強い、とローズが思う。若くて、体力もあるから、あの重たい鎧を身につけながら、平気に数キロも走れる体力の持ち主である。暗部隊員の服装はその逆で。とても軽いと見た。動きやすく、防具も軽装備だ。腰や背中に武器を持っている。前世の記憶でいうと、彼らは東の国に存在した忍者と呼ばれる者のような格好をしている。けれども、暗部は具体的にどんな仕事をしているか、分からない。いろいろと秘密が多いようだ。


オルヘンスはとても陽気な人で、良くローズに話かけてくれた。武人のレベルは8で、ダルガと同じだ。主な仕事は屋敷の警備だけれど、最近ほとんどローズの護衛になった。外に出たら、必ずこのオルヘンスと出かけるようににしろ、とダルゴダスが言った。強くて忠実であることで、ダルゴダスの信頼も厚い。


ローズの日課は毎朝数キロの走りと武術の練習と気の練習に続いて、昼餉の休憩してから、普通のお勉強の時間となる。たまに疲れて授業中に寝てしまったけれど、料理長の特製の辛い生姜のお茶で眠気が吹っ飛んだ。同じ三歳の菫は昼寝しているのに、自分は裁縫や社会などの勉強しなければいけない。たまにローズだって昼寝したいと訴えたら、ダルゴダスに笑われた。昼寝をしたら、一晩中屋根の上に夜更かしをしてしまうんだろう、と言われた。だからできるだけ昼間に疲れさせられる訳だ。


ところで、ローズがミライヤに魔法の手紙の送り方を聞いてみたら、快く教えてもらった。しかし、魔法の手紙もなかなか柳に届かなかった。とても遠い所にいると、届くまで数日間かかるそうだ。また結界の中や特殊な場所にいると手紙が届かない。死んではなさそうだけれど、アルハトロス国内ではないのが確かだ、とミライヤが言った。一年間も何の便りもなく、心配だ。元気でいれば良いのだけれど、毎晩柳のことを思うといつも泣いてしまう。別れる悲しみを時が癒やしてくれると良く言われるけれど、ローズにはそのようなことはなかった。一人になった時は、やはり柳のことを思ってしまう。


そういえば、最近外の情勢も良く分からないから、モルグ人はいつ襲ってきてもおかしくない、とローズは思った。けれど、誰一人も彼女にそのような話をしてくれる人がいない。ローズはエフェルガン皇子に聞いたら、南の国辺りだとオオラモルグの件以来、大した衝突もなく、平和だそうだ。だが、この平和はきっと一時的なものである。モルグ人は絶対なにかと準備しているだろうと思う。だから不安だ。何よりも、ローズはこの国についても不安だ。なぜなら、王がいない国だからだ。二人の将軍が昨年の都での襲撃で命を落としてしまったので、今の守りは三人の将軍と国の正規軍だけだ。


もちろん青竹の里の武人の勢力も要になっているけれど、あくまでも青竹の里はアルハトロスの一つの地方に過ぎない。木々に囲まれている地方で、豊かという言葉から遠いが、貧しくもない。ちょうど良いとダルゴダスが言った。税金はほとんど子どもたちの教育や市民の健康と治安に当てた、とダルゴダスがローズに教えた。皆で力を合わせて、里とその生活を守ろうと努力している。


治安に関しては、里は恐らくアルハトロス国内のどこよりも安全だと思われる。里の周囲では泥棒や強盗、山賊など、存在しない。もし泥棒がいたとしても、すぐに逮捕されるでしょう。警備隊が捕まえたら運が良いとされるけれど、暗部が相手だったら、もうその命はないでしょう。暗部は命令に忠実して、容赦をしない集団だからだ。


そんな暗部達に、ローズは毎日見張られている。ローズは最近なんとなく、暗部隊員がどこにいるか分かるようになった。気の練習をすると、彼らの波動が読めるようになった。リンカの波動はまだ読めないけれど、普通の暗部隊員ぐらいなら分かる。リンカは気配を殺すのがとても上手だから、隠れるとしたらまず見つからない。あの人はレベルSの武人だから、やはり質が違う。


ローズは今夜もあまり良く眠れないから、屋根の上に登って星空を眺めている。月が新月でとてもすてきな形になっている。毛布に包み、上を見ながら屋根の上で、仰向け(あおむけ)にした。彼女の体が小さいから、毛布一枚で下に聞いてから仰向けになると、残りの毛布で体を包めばそれなりに温かくなる。


彼女は無言で星を眺めている。目を閉じると左右に一人ずつの気配を感じる。暗部か。こんな子どもの見はりをしている暗部隊員もかわいそうだ、と彼女がたまに思う。けれど、命令だから仕方がないでしょう。


ふっと気づいたら、三人目の気配を感じた。でも二人の暗部隊員が動かなかったから仲間でしょう、と彼女が思った。その気配がローズに近づいた。目を開けると、見覚えがある顔だった。


「ロッコさんだ」


ローズが微笑んだ。ローズが身を起こして、座った。始めて出会った時よりも、ロッコの身長が高くなった。髪の毛もボサボサの茶髪ではなく、短めのダークブラウンだった。顔が若干変わったけれど、ローズは彼がロッコであることを確信した。


「やぁ、お嬢ちゃん。ごきげんよう」

「ごきげんよう。お久しぶりですね」


ロッコがローズの近くで跪きながら、話をした。


「そうだね、二年ぶりかな?」

「そのぐらいだね。ロッコさんも暗部なんだね」

「ロッコで良いよ。俺が暗部だと誰に聞いた?」

「うん。兄さんが言った」

「柳か。あいつは何でも見抜いたからな」

「まぁ、ね。でも例え兄さんが言わなくても、ロッコは暗部であることぐらいは、私も気づいている」

「ほう?それはどうして?」

「他の暗部隊員が動かなかったからだ。だから仲間でしょう、と思うんだ」

「すごいな、お嬢ちゃん」


ロッコが微笑んだ。けれど、彼の心の中に、違和感がある。


「ローズで良いよ」

「呼びすてにしたら、怒られるよ」

「私たちだけの秘密にすれば良いんだよ」


ローズが微笑むと、ロッコは苦笑いした。


「怖いな、お嬢ちゃん。秘密だなんて」


彼がそう言うと、ローズも笑った。


「お兄さんの見はりから普通の任務になって、今度は私の見はりになるの?」

「ひええ、そこまで分かるんだね」


ロッコは驚いた。けれど、それも顔に出さないようにしている。この子、普通の子ではない、と彼が思った。


「ううん、何となくだけどね。こんな私ってかわいくない子どもでしょう」

「それってどう答えれば良いんだ?困ったな」

「まぁ、適当でも良いんだ。無理しなくても良いと思う。私はここから逃げないから、適当に休んでも良いよ」

「そうだね。それを聞いて安心したけど、若い女性が屋根の上に空を見て、ぼーとしてるとやはりなんとなく心配になるのが当たり前だと思うけど。話し相手ぐらいなら付き合っても良いよ、お嬢さん」

「ローズと呼んで」


ローズが自分の名前をしっかりと言った。


「はい、ローズ。これで良いかな?」

「うん」

「何かを話そうか?」

「一緒に隣に転がって。あ、でも屋根が冷たいよ」

「大丈夫。このぐらいなら平気さ。これで良いかな?」


ロッコがローズの隣に仰向けになると、ローズも笑って、一緒に屋根の上で転がっている。二人はともに空を見ている。


「今星空を見ているの」

「へぇ、天体に興味があるんだ?」

「うん。本で読んだけど、実際にその位置はどの辺りにあるかなと探しているけど、なかなか見つからない」

「俺が教えようか?」

「ロッコは星空が分かるの?」

「分かるよ。暗部にはそういう教育もあるからさ。俺は結構詳しいよ」


ロッコが微笑みながら言った。


「さすがレベル5の暗部だ。いや、今はレベル6ぐらいかな?」

「ローズって案外怖い存在かもしれないな」

「なんで?私は普通の3歳児だよ」

「ははは、まいったな。普通の3歳児は俺のレベルなんて分かるか」


ロッコが苦笑いした。


「まぁ、私は変な子だからね。あまり気にしないで」

「ここで俺がそうだねと言ったら、あとで柳に殺されそうだ。あいつはローズのことになると怖いぐらいになるからな」

「大丈夫。兄さんは今ここにいないし、もしいたとしても、そんなことを兄さんに言わない。私とロッコとその二人の暗部の秘密にすれば良い」

「秘密が好きだね、ローズ」


ロッコがそう言いながら隣のローズにちらっと見た。


「たまにはそんな気分になる時もあるよ。あ、そうだ、さっきの星空の話を聞かせて」


ロッコは笑った。指を指しながら星空の話を分かりやすく教えてくれた。まだいろいろと聞きたい話があるけど、さすがに夜がとても遅くなってしまって、眠気が出た。


「眠くなった。また今度話を聞かせてくれる?」

「俺で良ければ、いつでも」

「うん。ロッコと仲良しになれそうだ」

「それは幸栄です」

「部屋に戻る」

「送ろうか?」

「ううん、自分でできる」


ふらふらと歩き出すローズを見て、ロッコはローズの手をとった。


「やはり送るよ。ローズはあぶなかしいな」

「ありがとう」

「いえいえ」


ロッコは片手でローズを抱いて、そしてもう片手で毛布を拾って、屋根の下へ降りた。彼がローズの部屋の前にいて、扉を開けた。


「じゃ、ここまで。お休み、ローズ」

「お休み、ロッコ」


あの日以来、ロッコはたびたび屋根の上に来て話の相手になっている。恐らく、これも任務でしょう、とローズは思った。暗部は忙しいから、ローズの相手になんかよりも、別の任務の方が重要だ。けれど、ロッコのおかげで、彼女の寂しさが少しは減った。


充実した日が続く中、スズキノヤマ帝国から荷物が届いた。エフェルガン皇子からだった。ローズの誕生日祝いに、皇子が描いた絵が送られてきた。とてもきれいな色で描かれている風景で美しかった。皇子にはそんな才能があるんだ、とローズが飽きずにその絵を見つめた。こことはとても違う風景で、とてもきれいな山と海が描かれている。ローズは絵を習っているが、このような絵はまだ描くことができない。そして絵の他にも小さな箱があって、その中には飴玉が入っている。初めての贈り物にも、この飴玉が入っていた。皇子の好きな味でしょうか、と彼女が一粒を取って口に入れた。とても美味しいと前に書いたから、また送ってくれたようだ。


御礼を書かないといけないと部屋に入ったら、紙とインクがないことに気づいた。ローズはインクの瓶を持って、ダルゴダスの執務室に行った。扉が開いているから、中を覗くとダルゴダスが座って仕事をしている。ダルゴダスはローズに気づいて、中へ入るようにと合図した。


「どうした? ローズ」


ダルゴダスが聞くと、ローズはインクの瓶を見せた。


「手紙を書きたいけど、紙とインクがない。少し分けて欲しいと思って」

「そうか。ほれ、瓶を渡して、わしのインクを分けてやる」


彼女がダルゴダスの手にインクの瓶を渡した。ダルゴダスは自分のインクの瓶を開けて、少しずつローズの瓶に入れている。その時、外から声がした。暗部の鈴んと影丸だ。


「来たか鈴。入れ、ちょっと待ってね、ローズのインクが入れ終わったら話があるから、呼んだんだ」

「はい」

「影丸はちょっと外で待っていてくれ」

「はい」


ローズが鈴に挨拶をした。


「こんにちは、鈴さん」

「こんにちは、ローズさん。インクをもらって、何か書き物でもするの?」

「手紙を書くの」

「あら、誰に?」

「友達に」

「文通をやってるんだ」

「うん」

「相手は男の子?女の子?」

「男の子。スズキノヤマのエフェルガン皇子というんだ」

「良いですね。ローズさんは賢くて、かわいいからきっとあの皇子はローズさんのことが好きかな?」

「うーん、分からない。でも、私は鈴さんみたいな人に憧れている」


ローズが言うと、鈴が驚いた。


「私に?どうして?」

「きれいで、頭が良いし、能力もすごい。同じ金の能力でも鈴さんは数十人か数百人まで相手にできるのに、私は三人しか繋ぐことができない」

「ローズさんだってすごいよ。影丸さんから聞いたけど、遠距離支援や攻撃までできるなんて、すごいよ。私はできないわ」


鈴がそう言いながらローズを見つめている。


「同じ金でも違うんだね」

「ええ、だからきっとこれは天の導きよ。私たちは仲良く、皆を守るためにいるんだと思う」

「うん」

「まるで姉妹ね」

「鈴さんみたいなお姉さんがいたらすごいな」

「あら。ローズさんみたいなかわいい妹ができれば、私だってうれしいわ」

「同じ金の能力の姉妹ね」

「ええ、この国で二人だけの姉妹ですよ」


鈴はローズの両手を取って、嬉しそうに言った。


「はい、ローズ。インクを入れた。紙はどのぐらい欲しい?」


ダルゴダスはローズのインクの瓶のフタを閉めて、ローズに渡した。


「うーん、紙は2-3枚ぐらいほしい。書き損じもあると思うから」

「書き損じか。一束あげよう。封筒もセットで、ちゃんと青竹の里の紋章が入ってるから格好良いよ」


ダルゴダスは机の引き出しを開けて、一束の紙と封筒を出して、ローズに渡した。


「ありがとうございます。では、失礼します」


ローズは紙と封筒とインクの瓶を持って、執務室を出た。その後、扉が閉まり、中の会話が聞こえない。リビングを通ると影丸は座っている。影丸は暗部の副隊長で、暗部の中のえらい人だ。若くて強い、しかも格好良い。しかし、彼がほとんど無表情だ。本当に何を考えているか、分からない。


しかし、今回は違う。あまり落ち着きがないと見える。珍しい。ローズが挨拶をしたら、少しは笑みを浮かべて返事をした。けれども、話をかけづらい雰囲気なので、ローズはあまり会話しないで、そのまま自分の部屋に向かった。


しばらくして、都からの馬車が来たと兵士の声が聞こえた。部屋を出て、横庭の出入り口から見てみると、複数の兵士と都からの家臣もいる。ダルゴダスと鈴と影丸は外に出た。そして鈴と影丸はその馬車に乗って屋敷を出た。


数日後、国中に神託が発表された。アルハトロスに新しい国王が誕生した。その名は「女王、鈴」である。


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