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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
薔薇の姫君
40/811

40. アルハトロス王国 青竹の里 モイの出産

ダルゴダスと仲直りしてから数ヶ月間が経った。


外出禁止は解かれたものの、相変わらずモイの所に遊びに行く時に、必ず侍女一名と護衛官一名と暗部二名を連れて行かなければならない。ローズを守ると柳との約束でダルゴダスはとても過保護になってしまったのだ。


暗部の者はできるだけ彼女の視界から姿を見せないようにしている。これはちょっとした気遣いかもしれない。ローズがイライラになってしまったら、またダルゴダスと喧嘩してしまうのじゃないかと、周囲が異常なほど彼女に気遣っている。しかし、本当のことをいうと、その気遣いすぎるのも、彼女にとってイライラの原因の一つだ。普通にしてほしい。それで良いんだ、と彼女はたまに思った。


馬車がモイの屋敷に着いて、ローズが降りて、モイの名前を呼んだ。けれど、返事がない。心配になったもので、勝手に中に入ってみると、モイは座っていて痛そうな顔をしているのを見つけた。


「モイ、大丈夫?」


ローズが聞くと、モイが首を振った。そして彼女がまた痛そうな顔をした。


「まさか、出産するの?!」


ローズは急いで駆けつけて、モイの隣に来た。出産について、あまり知識がないので、なんとも言えない。けれど、本当に大変な状況になってしまったのかもしれない。


まずい、と思ったローズは急いで護衛のオルヘンスに医療師か産婆を呼ぶようにと命じた。


「外にいる暗部、手伝って」


ローズが大きな声をすると、二人の男性暗部隊員が現れた。


「どうなさいましたか?」


その中の一人が聞いた。


「モイが出産するの!オルヘンスが医療師を呼んだ。あなたたちも急いで、ダルガさんに知らせて!」


ローズが言うと、二人が顔を見合わせた。


「おまえがお湯を沸かせ。俺がダルガを探す!」

「了解!」


モイが出産すると伝えた。彼女がまた中に入って、もう一人の暗部隊員がそのまま台所へ向かった。今はチームとして行動しようと、全員でモイを助けないといけない、と。


ローズはモイの背中をこすって回復魔法をかけた。でもやはり痛そうだ。出産すると、女性にとって大変な痛みと伴うことになる。痛みで例えれば、骨が数十本が同時に折れたと同じぐらいの痛みだそうだ、とローズは前世でそういう話は聞いたことがあると記憶に残った。モイの顔に大きな汗粒が出ていて、リエナがハンカチで拭いた。


何気なくモイを見たら、モイの足の間から液体っぽいが出ている。羊水が出たということは、もうこれから出産か?!産婆か医療師がまだか!、とローズはパニックになった。


あたふたと困りはてたローズを見ると、逆にモイはローズの手をにぎって、大丈夫だと言った。


いやいやいや、大丈夫じゃないんですよ、モイ。なんであなたが冷静でいられるのか?、とローズは不安そうな顔でモイを見ている。


数分後、護衛のオルヘンスと医療師が来た。医療師はモイの容態を確認して、出産の準備をすると言った。暗部がお湯を沸かして、たらいに入れた。彼は家を物色して、洗面器とタオルを探した。護衛のオルヘンスも台所に手伝うように命じた。慣れてない手つきで男性2名が台所で忙しくしている間で、ローズとリエナは医療師を手伝っている。


医療師はモイに「ひぃひぃふぅ~」と呼吸をするようにと指示した。思わず、ローズも同じパターンでその呼吸をしている。回復魔法を送りながら、少しでもモイの体力になればと思い、ゆっくりと少しずつ流している。


「ううううう!」


モイは苦しそうにローズの手を強くにぎっている。とても痛そうだ。回復魔法でさえその痛みを軽減できないか、とローズが聞くと、これだけは難しい、と医療師は彼女の疑問を答えた。


かわいい赤ちゃんと出会う前に、こんなに辛い経験をしなければいけないのか、とローズは息を呑んだ。医療師はまた呼吸を整えるようにと指示した。まだ少しかかるそうだ。


外でダルガの声が聞こえた。来たか!さすが暗部、良く見つけてくれた、とローズがうなずいた。


ダルガが部屋の中に入ると、医療師はダルガが出産の立ち会いに入っても良いが、体をきれいにして着替えて来るようにと指示した。それはそうだ、ダルガの体に汗とホコリがいっぱい付いているからだ。ローズはダルガに急いで体を洗うように、と指示した。ダルガが走って、直ちに水場に行った。やはり愛しい妻が心配なんだ。暗部の一人はきれいなタオルを準備して、ダルガに渡した。


もう一人の暗部は台所からお湯を部屋の前まで運んできた。ローズは部屋の中へ戻ると、今度は侍女リエナが部屋の前にお湯を部屋の中へ運んでくれた。


体がきれいになって、着替えてきたダルガは部屋に入った。ダルガが来たから、モイは少し微笑んだ。けれど、まだ苦しそうだ。ダルガはモイの隣に座り、手をにぎる。


「はい、いきんで・・」

「うううううううう!」


モイは涙ながらいきんだら、医療師の手に一人の赤ちゃんが誕生した。足を持って、お尻を叩くと赤ちゃんが「にゃーー」と泣いた。なんてかわいい!、とローズが驚いた。


医療師がへその処理をして、用意された温かい湯に洗ってきれいなタオルで包む。ここから作業はリエナがやることになった。なぜなら、まだモイのおなかの中に赤ちゃんがいるそうだ。


「お湯が足りない。もっと湧かして!」


リエナは部屋の外にいる暗部の者と護衛のオルヘンスさんに頼んだ。使ったたらいを外に出して、きれいな湯と交換するようにと言った。3人はてきぱきと台所に向かった。多分、少し慣れてきたようだ、とローズは思った。


近所の人もやって来て、外では数名の人の声が聞こえている。やはりこのような時に、皆で助け合いしないといけないんだ、とローズは嬉しそうにうなずいた。


お湯ができた時に、2人目が生まれた。まだいると医療師が言った。いったい何人がいるんだ?、とローズが首を傾げた。


お湯を沸かす隊はものすごく驚いた顔をしながら直ちに新しい湯を沸かしに台所へ戻った。ローズはモイに回復魔法をかけている。ダルガもモイの汗を拭きながら、黙って手をにぎっている。


「この子は最後だ」


医療師は嬉しそうに3人目を取り出した。またあのかわいい泣き声が聞こえた。


「にゃあああああー!」


猫みたいだ、とローズが思った。ダルガの種族は山猫人族だから、当然子どもたちもその遺伝子を受け継いでいる。


モイは草花精霊種族だから基本的に普通の人の体と変わらない。けれど、精霊族は基本的に魔力で生命を維持する。つまり、魔力が消えていくと、生命の維持ができなくなってしまう。


すなわち、死。


個体の寿命があるけれど、精霊系は基本的に長生きする種族だ。しかし、出産になると魔力がごっそりと消えてしまう。なので、できるだけモイに魔力を送り込む必要がある、と医療師は言った。


医療師は子供のへその処理をして、胎盤など処理した。一人で三人の赤ちゃんの出産をしたモイは大変だったけれど、出産を担当した医療師も大変だった、とローズは思った。


三人の赤ちゃんは見事に山猫人族として生まれた。さすがダルガの子どもたちだ。全員長い尻尾している。一人目は男の子で、顔はモイに似ている。獣の毛の色はダルガに似ていて、黄色と黒のしましまだった。二人目は女の子で、この子もモイに似ている。獣の毛の色は白と黄色いで少し薄い黒のしましまがある。体は小さめで、とてもかわいい。三人目は男の子で、顔もモイに似ている。やはり三つ子だから、全員顔がモイに似ている。彼の獣の毛の色は茶色で黒のしましま模様がある。


みんなかわいい!赤ちゃん達のサイズはほとんど具通の人の子ども、と変わらないサイズだ。違うのは尻尾の長さだけだ。


ローズは外に出て、オルヘンスと暗部2名に無事の出産が終えたと報告した。すると、その場にいる人々がうれしそうな顔をした。やはり気になったようで、まるで身内のように喜んでくれた、とローズが彼らを見て思った。


しばらくすると、近所に住む女性達は家の中に入って、いろいろなことを手伝いに来た。彼女らは簡単な食事などを持って来て、その場にいる人々に配った。


医療師はダルガに数枚の書類を書いて渡した。これで配偶者の登録ができると言った。武人であるダルガはできるだけ早く子どもの名前を登録をしなければいけないという義務がある。なぜなら、武人は日頃危険と隣り合わせの仕事をしているからだ。万が一のことを考えると、やはりそれが必要でしょう、とローズは思った。


ローズは部屋に戻って、かわいいモイの子どもたちを見つめた。なんだかお姉さんになった気分だ、と彼女は思った。ダルガの顔からも笑顔が絶えない。ほっぺが痛くならないのかと思うほどに。


「モイ、これで私はお姉さんだね」

「そうですね。3人も弟や妹がいるのですね」

「なんか嬉しい」

「私もです。もしローズ様が来なければどうなるか、と考えると恐ろしく思います」

「きっとこれも天の導きだ」

「はい」


モイがうなずいた。ローズは微笑んで、また赤ちゃんの手を触れた。


「ダルガさん、おめでとうございます。これから大変だけど、モイをちゃんと手伝って下さいね」

「ははは、当然ですよ。念のため、今日から使用人2名を雇うことにしました。今朝、近所の人にお願いして、今日の午後に来てくれるそうです」

「うん、そうして下さい。さすがに三つ子だからモイ一人じゃ大変だ。これで、家が一気ににぎやかになるね」

「はい。いろいろと助けて頂いて、感謝します」

「なんの。私もダルガお父さんの娘だから当然なことをしたまでです」


ローズがダルガの口調を真似すると、ダルガは笑った。


「頼もしい娘を持って幸せです」


ダルガが頭を下げて、礼を言った。


「うん。私も幸せに思う。いつか皆でエスコドリアへ行って鹿肉のシチューを食べに行きたいね」

「そうですね。この子どもたちは、きっと大食いになるから、その日までしっかりと貯金をしなければいけませんね」

「そうだね。さすが私の弟と妹たちだ。楽しみだ」


ローズとダルガが笑っていたら、モイも笑った。子ども達の名前は後日、ダルゴダスの方へ報告する時に教える、とダルガが言った。楽しみだ。


その日は、少し休憩や後かたづけをしてから、屋敷に戻ることにした。ローズは暗部2人の名前が知らなかったけれど、彼らに感謝の言葉を言って、馬車に乗った。後で父と母に、今日の暗部の2人とオルヘンスとリエナの活躍を報告しなければいけない、とローズは思った。


ローズにとって、暗部は怖い集団だ。けれど、今日のことで、なんだか暗部隊員のことをそこまで恐ろしく考えなくても良いような気がする、と彼女が思った。彼らの喜んで笑った顔は彼女にとって、とても印象的だった。これからもまだ長く暗部と付き合うことになりそうだから、彼らのことをできるだけそんなに嫌わないように、努力してみるのも良いかもしれない、とローズは馬車の窓で外を見ながら思った。


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[一言] いくら何でも2歳の設定でこのストーリー展開はないでしょう?。違和感が拭えず読むの止めます
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