38. アルハトロス王国 青竹の里 親子喧嘩
ローズは気づいたのが一時間後ぐらいだった。口の中に苦い味が残っていて、多分毒消しの薬だったのでしょう。
ローズは暗部の毒にやられたのだ。
医療師が彼女に白湯を飲まして、熱を確認した。ローズは自分のような小さい子どもに容赦なく毒針を首に刺したことを考えると、腹が立つ。もう絶対に暗部に入らない。怖い集団だ。
けれど、きっと彼らも上からの命令を全うしただけだと思うけれど・・。そして、その上にいるのは、彼女の父であるダルゴダスだ。
はぁ、面倒な相手をしてしまった、とローズがため息ついた。
時間的に昼餉なので、お粥を差し出された。けれど、本当は、ローズはお弁当が食べたかった。しかし、あれからどうなったか、ローズは分からない。皆、無事で良いのだけれど、弁当が無事かどうか、分からない。暗部も来たし、あの鳥も死んだっぽいし、大丈夫でしょう、とローズが食事しながら思った。
食事を終えたローズに、また何かの薬を渡された。医療師は回復剤と言ったが、実際に飲んで見ると、味がともかく、効き目が良いものだ、とローズは思った。先まで力が入れなかったのに、少しずつ回復していることが分かった。
病室に二名の暗部らしき者が入った。ダルゴダスが呼んだから、一緒に来いと言われた。まるで自分が犯罪者かのような扱いだった。レベル1の子どもたちを巨大雷鳥から守った自分が、こんな扱いだったとは・・、とローズはため息ついた。倒してはいけないという命令ももらってないし、別に悪いこともしなかった。何がいけなかったか、分からない。とにかくローズはおとなしくダルゴダスがいる領主の執務室まで付いて行くことにした。
「入れ!」
ダルゴダスはものすごく怖い顔をしている。ご機嫌ななめだ、とローズは思った。父の怒りの雷が落ちるのだ、とローズが覚悟した。暗部2名と一緒にローズは執務室に入った。
「報告を聞いた。なんでそこまで無茶をして、あれを倒そうとした?」
「無茶はしていませんでした。あれは早く倒さないと雷が落ちて、何人死ぬことになります。それぐらい、想定したから戦っただけです」
「そなたはまだレベル0以下だぞ?」
「レベル鑑定を許可しなかったのは父上です。私は今レベルいくつかが分からない。それに、あの時は0でもそれ以下でも、そう言う問題ではなかった、と私は思います。倒さなければ人が死ぬことだ、という問題でした。それにあれを倒してはいけない、という命令もありませんでした」
「では、あの巨大雷鳥はそなたにとって余裕とでも?」
「はい、そのぐらいなら問題なく倒せると思います」
「そのぐらいか・・ずいぶんと自信があるんだな」
「別に・・」
もう口で相手にするのが面倒だ、とローズは思った。
「なんだ、その口の利き方は?」
「・・・」
「わしに不満でもあるのか?」
「あります。いっぱいあります」
「聞かせろ!」
「・・・」
「答えろ、ローズ!」
「・・・」
「なんで答えぬ?!」
バン!
怒り心頭の父は机を叩いて、割れた。あと大きな机が真二つになった。後ろの暗部がかなりびびったようだけれど、ローズは何も反応しなかったから、ますますダルゴダスの怒りが増していく。
「良かろう。言葉で言っても分からないなら、力でその答えを聞こう。外へ出ろ!」
ダルゴダスは執務室の窓から見えるレベル1のグラウンドを指さしていた。そして、その窓から一飛びで、移動した。ローズも後ろに付いて移動した。勝ち目がないと分かっていても、今のダルゴダスは敵だ。
騒ぎに気づいた警備隊と暗部の者は直ちに集まった。レベル1のグラウンドは暗部本部の隣にある、とローズは周囲を見て、分かった。当然その中にたくさんの暗部隊員がいる。
「これは親子喧嘩だ。手出しは無用!住民の避難だけを頼む」
「はっ!」
警備隊の隊長は素早くその辺りに住んでいる住民や寮生を避難させることに動いた。その間に、ローズは戦いの準備をした。全力で準備しないと、死ぬ。もうダルゴダスの周りに赤いオーラが出ている。彼が鬼神の力を解放している。怒りでこんなに恐ろしく、禍々しい力と感じた。柳の全力のような感じがした。・・いや、その上かもしれない。このレベルSSSSS・・、どのぐらいSを付ければ良いか分からないぐらい、絶対強い相手だ、とローズが覚悟を決めた。
「小娘、親に対する口の利き方を今教えてやるから覚悟しなさい」
「父上こそ、娘に対する思いやりぐらいは改めていればどうなんだ?」
「なんだと?!」
「私の意見すら聞かずに、勝手に決めて、好きでもないことを、あれこれとやらして・・私の自由まで奪って、そんなに楽しいか?!父上の分からずや!」
「わしが親だ。良いと思ったことをやらした。それが不満か?!」
「そうだ。不満だ。そんな父上が嫌い!」
「言わせておけば!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ローズは途轍もない大きな闘気を感じる。
「バリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!自然よ!ここにローズが命じる:我に力を与えたまえ!」
ローズを待たずにダルゴダスはすごいスピードで襲って来た。こういう組み手は昔ダルガと練習したけれど、ダルガの師匠であるダルゴダスはやはり強い。この迫力を見れば、ダルガはとてもかわいく見える。鎧を付けたからダメージが抑えられているかと思ったが、かなり攻撃が入った。バリアーしなければ、確実に死ぬ。一発一発の攻撃がとても重い。そして、この攻撃の早さは次元が違う。ダルゴダスは素手で戦って、このスピードだ。ダルゴダスの攻撃を防ぐために、彼女は苦戦に強いられた。
「はっ!」
「うぐっ!」
蹴りが入って、彼女は壁にぶつかった。が、全身バリアーをしたから、なんともない。壁が壊れて崩れてしまった。
「バリアー! ヒール!」
自分自身にかけた。力を集中して、全身光ってしまった。こんな姿を、里の者の前にさらしてしまった。これで、自分は化け物呼ばわり決定だ。
「ほう、やっと本気になったか?」
「・・・」
ローズは直ちに動いて、空を飛んで距離を取った。
「何が不満だ?!答えろ!」
「私は刺繍を習うのが嫌いだ!大・・大・・大嫌いだ!」
ローズは鞭を出して、思いっきりダルゴダスを襲った。
「ファイアー!」
魔法攻撃に合わせて、攻撃したが、簡単にはじき飛ばされた。ダルゴダスは後ろに下がった。
「そなたは女子だから習わないといかんだろうが!」
「女子だから、なんだと言うの?!嫌いなものは嫌いだ!それすら分かってくれない親なんて、最低だ!」
「親の言うことをちゃんと聞かない娘が悪い!」
「父上のバカ!」
「なんだとう?!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
力がまた増して行く。完全に怒らせてしまったかもしれない、とローズは思った。
ダルゴダスはまた襲って来た。その鬼神の赤いオーラが先と比べると、倍以上に上がっている。一飛びで彼女がいる空中にジャンプして殴りにかかった、手で防いだがやはり痛い、そして強い、強すぎる!
鞭に強化エンチャントしながら距離をできるだけ保って戦った。空を飛べないダルゴダスなら空中の戦闘が不向きだとローズが思った。けれど、ダルゴダスは高く飛び込んで、一度の攻撃に10発以上も殴りを入れた。とても早くて、とても大きな力で、ローズを殴りにかかった。地面にたたきつけられた彼女は、次に見た瞬間は恐ろしく拳をして、すごいスピードで向かっているダルゴダスの姿だ。死ぬ!
「瞬間移動!」
危機一髪で、自分がいたところに父の攻撃が入って半径10メートルのクレーターが地面にできてしまった。
げ!あれは当たったら死ぬわ、と彼女が息を呑んだ。
「降りて来い、このじゃじゃ馬娘!」
ダルゴダスは下から彼女を睨みつけた。いやだよ。近距離は勝てないんだもの、彼女は思った
「金の鎧!」
どこからか出た言葉で、その魔法を全身にエンチャントをかけて、上位バリアーの新スキルだ。ローズは上空からダルゴダスを睨み返した。
「サンダー・ストーム!」
上位魔法を唱えた。竜巻に複数の雷が現れた。ダルゴダスを挟んで攻撃をした。
「ギガ・ファイアー・ボール!」
ローズが連続して魔法を出して、巨大な火だるまを上空から放った
ドーン!
大きな爆発音と共にダルゴダスの周りのが火の海となったが・・。
「はあああああっ!」
すごい音とともにダルゴダスの姿があった。無傷だ。この攻撃でも無傷なのか!、とローズはびっくりした。
「バインド・ローズ!」
上空からこの技ができると、なぜか知った。なんとなく頭の中にその情報が入った。地面からたくさんのトゲが付いた薔薇の枝が現れてダルゴダスの体をしばりついた。
「ブラッディー・ローズ!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
ぐさっと鋭いトゲがダルゴダスの体に刺そうとした。けれど、その時にダルゴダスの気合で、バインドもトゲもすべてはじき飛ばされた。覇気だ。周りにいる警備隊員や暗部などが覇気に当てられて、気を失った者が見えた。
「金のバリアー!」
その覇気を弾き飛ばした。負けるものか!
「小賢しい!」
彼が構えて、下から強い衝撃波を彼女に向かって、技を放った。強力な空気の衝撃は彼の拳とともに、放たれた。
「かまいたち!」
ローズが負けずに、ダルゴダスに向かって攻撃した。ダルゴダスはそれらをよけながら、上に飛び込んで、彼女に強力な連続攻撃を放った。
「ぐは!」
一発のパンチが入って、ローズは寮の建物にまで飛ばされて、ぶつかった。
ぶつかった衝撃で建物が壊れた。けれど、その近くに倒れていた警備隊員がいたからバリアーを張って、その者を助けて、移動させた。しかし、次の瞬間、ダルゴダスの強力な攻撃が来た。
「金のバリアー!」
防いだ!急いで鞭を出して火のエンチャントして、10倍の強さにした。とても重たくなったが、この重さなら父上を止められるかもしれない、とローズが最後の力を絞って、重い鞭をにぎった。
「父上のバカァァァァ!!」
ローズは思いっきりダルゴダスに向かって両手で鞭を振り上げて、命中した。トゲに削られたその体から血が飛び散った。燃えた服から、痛々しい傷が見えた。けれど、ダルゴダスの攻撃もローズに入ってしまった。ローズはその攻撃で反対側の壁にぶつかって、壁が崩れてしまい、下敷きになった。
あの10倍の鞭の攻撃で、すべての力を使いきってしまったから、瓦礫から抜け出せない。金のバリアーのおかげで、大したダメージがないが、情けない格好になった。瓦礫のホコリで咳き込みながら、頭と両手だけが瓦礫の下からなんとか出られた。けれど、もう戦う力が残ってない。ダルゴダスはほぼ戦闘不能になったローズのところに来た。彼の胸にくっきりとトゲで削られた怪我とやけどの後が見えて、血が流れている。
「まだやるのか?」
「う、負けました」
ローズが悔しそうに言った。
「わしが勝ったんだから、わしの言うことを聞いてもらうよ、ローズ!」
「はい」
「声が小さい!」
「はい!」
ローズが叫んだ。
「わしに、二度と失礼な態度を示してはならない。わしは親だからだ。分かったか?!」
「はい!ごめんなさい!」
「そして女の子らしく、おとなしく裁縫や刺繍など習うんだ。いやとは言わせない。サボってもダメだ!」
「うう」
「返事は?!」
「はい!」
「そしてこれから一ヶ月間、外出禁止だ」
「はい!」
「そなたの周りに監視する暗部を付ける。こそこそ隠れて屋敷を抜けようとしても無駄だ。わしの許可なしでこれから外へ出ることも許さない。分かったか!」
「ううううううう」
「返事は?!」
「はい!」
「それから、こそこそと台所の隅っこで食事を取ることも許さん。そなたはわしの娘だから、食堂の中で食え!これは命令だ!」
「はい!」
ローズは思わず悔しい涙をしてしまった。ダルゴダスには勝てない。強すぎた。それ以上に外出禁止や暗部にまで見張られていることになった。最悪じゃないですか!、とローズが悔しい涙を流してしまった。
ダルゴダスは見物人に向かって、振り向いた。
「皆の者に、良く聞け!」
周りにいる兵士や暗部、警備隊員や上位武人達などがそれぞれの場所で、静かに立っている。
「この娘はわしの娘だ。彼女が化け物だと言ったら、親のわしも化け物となる。それはわしを愚弄することだ、と見なす。噂にすら許さん。異議がある者は今すぐわしの前に出ろ!」
場が静かになった。誰一人も言葉を口にする者がいない。
「分かったなら、解散だ。医療師を呼べ!そこのじゃじゃ馬娘を屋敷まで運んでやれ!」
情けないほどの姿で、瓦礫の下から救出されて、屋敷に運ばれて行った。
この日の被害は気を失った者は数十名ほどいたけれど、怪我人はローズとダルゴダス以外はいなかった。壁は数メートルが崩れて、レベル1の寮の建物一部破損で、暗部本部半壊、グラウンド二枚分全壊、半径十メートルと数メートルの深さのクレーターができてしまった。それに、木々数本折れたことと父上の執務用のテーブルが真二つになったことだった。最悪の親子喧嘩だった。




