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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
小さな魔法戦士
34/811

34. アルハトロス王国 帰還、そしてモイの結婚

「青竹の里が見えましたよ!」


レイの背中から、山々に囲まれている里が見えた。そう、ローズたちはドイパ国からアルハトロスに帰還する。ドイパ国からジャタユ、いや、今回はジャタユ王子として領主である父上と情報交換条約を結ぶために一緒に里へ行くことになった。当然王子の一行なので、数名の護衛と兵士や荷物持ちの者達とともに行動している。


上空から見える里はとても美しい。森や山々に囲まれて、所々湖や滝もあって、絵のような風景だった。里が、その自然の中でポツンとあるのだ。


ローズたちは里の入り口の近くに着陸した。当然これは騒ぎになり、警備隊や暗部まで出向かっている。けれども、ミライヤとリンカとダルガと柳が見えると、態度を改めて、出迎えモードになった。


馬車や受け入れ準備を待っている間にローズたちはしばらく里の入り口で待機することになった。その間に荷物を下ろし、行列や人選選びを行われた。選ばれた者以外は里の外で待機することになった。その代わり、休む所や食事など提供される、と警備隊の隊長が言った。


しばらく待っていたら、里から馬車が来た。一番前の馬車はミライヤとジャタユが乗ることになった。二番目の馬車リンカとジャタユの護衛の一人が乗り、三番目の馬車ではローズと柳で、そしてダルガとモイの4人だった。その他は荷荷物用馬車数台も来た。


懐かしい風景を見ながら、馬車はゆっくりと里に入る。一年前に、ローズはこの風景をみて、里を後にしたことを思い出し、とても懐かしく思った。当時のローズと今のローズは、とても姿が違うから、自分のことが覚えてくれる者がいるかどうか、分からない。目覚めてから数ヶ月間しか住んだことがないので、正直に言うと、里のことがあまりよく分からない。けれども、噂はきっとここまで流れているのでしょう。


光る化け物娘は都に血の雨を降らした、という噂だ。


柳はずっと無言だった。何を考えているかが分からない。多分彼が噂のことが気になったのでしょう。彼はずっとローズの手をにぎっていて、まるで彼女がどこかに迷子にならないようにしている。


馬車は屋敷に到着して、正門に止まった。ジャタユは色鮮やかな首飾りをつけて、肩に布をかけている。相変わらずの民族衣装で上半身が裸だけれど、この身なりはやはりとても似合っている。とても凛々しく、王子らしいの格好だった。そしてミライヤも馬車から降りようとした時、ジャタユは紳士的な態度でミライヤの手を取って、馬車から降りるのを手伝った。ミライヤも美しく着飾っていて、誰が見ても息を呑むほどの美しさだった。リンカと護衛官は直ちに降りて、ジャタユとミライヤを囲んで屋敷に入る。二人は出向かいをしているダルゴダスとフレイに挨拶した。


ローズたちも降りて順番に挨拶をした。フレイはローズを見て、涙を流しながら抱いた。


「母上、ただいま」

「おかえりなさい、ローズ。大きくなったね」

「はい」

「あとで話をいっぱい聞かせてね。柳もおかえりなさい」


フレイはそう言いながら、微笑んでくれた。


「ただいま、母上」


柳は丁寧にフレイに頭を下げた。なんかよそよそしい、とローズは思った。けれど、これは作法の一つだ。ダルゴダスは先にジャタユとミライヤと中へ入った。モイとダルガもフレイに挨拶して、ローズたちとともに屋敷の中へ入った。


ローズ達は屋敷内にあるリビングで待つようにと言われた。そこにリンカと護衛のフェレザがもうすでに座っている。ダルゴダスとミライヤたちは領主の執務室で早速の話し合いをしている。突然の訪問故、緊急性がある。フレイはローズの隣に座って、頭をなでている。本当に優しい母だ、とローズが思った。時には侍女にお茶や焼き菓子を出すようにせよと命じたりした。フェレザもお茶を飲みながらフレイの質問に答えたり、美味しい焼き菓子を食べた。


一時間ぐらい経って、やっと会議が終わって、ジャタユとミライヤが出て来た。今夜、ジャタユが離れの部屋に泊まるそうだ。ミライヤもその隣の部屋でしばらくここに滞在することになった。ちなみに護衛のフェレザも柳も客人用部屋に用意するということになった。


次はローズたち4人がダルゴダスの執務室に入った。相変わらず大きな父で、いつみても怖そうな人だ、とローズは思った。あのひげで怖い感じが増している、とローズはダルゴダスを見ている。


帰還の挨拶をして、ローズと柳は、その執務室のソファに座るようにと命じられた。ダルガはモイのことを願い届けを提出して、婚約の許しを願っていた。


「では、そこにいる侍女モイと婚約するのか、ダルガ?」

「はい」

「ふーむ」


ダルゴダスはモイを見て、ため息をついた。


「ダメだ。婚約することを認めない。わしが許さん」

「ダルゴダス様!」


ダルガは思わず驚いた顔で声を出した。モイは頭を下向きにして、とても不安そうな表情をした。


「柳、料理長とおまえの母を呼べ。今すぐに来いと!」

「はい」


柳は部屋の外へ出て、近くにいる使用人に命令を伝えた。しばらくして、台所から料理長が駆けつけて来た。フレイは柳とともに部屋に入った。その間にダルゴダスは何かを書類の書き物をしている。


「来たか。セティと柳は証人になれ」


ダルゴダスは改めてダルガとモイが前に来るように命じた。


「ダルガ、おまえとモイの婚約は認めんが、夫婦として認める。ここに名前を書け!」

「結婚するんですか?」


思わずローズが声を出してしまった。


「そうだ、今結婚式の最中だ。静かにそこで見ておれ!」

「はい、すみません」


ローズはしぶしぶとうなずいた。


「柳はここに名前を書け、その次はセティ、おまえがその隣で書け」


ダルゴダスがいうと、柳もセティは揃ってうなずいた。


「はい」

「ははは、めでたしなぁ」


柳とセティはさっそく名前を書いた。


「フレイ」

「はい、あなた」

「モイの花嫁衣装をそなたに任せた。夕餉の時間に、宴になるから、そのつもりだ。セティも今夜の王子の晩餐会とこの二人の結婚祝いになるが、大変だと思うが、よろしく頼む」

「はい」


フレイはうなずいて、微笑んだ。


「任せて下さい!ぶわははははは、久々にこんなにめでたい気分で嬉しいわい!」


セティが笑って、うなずいた。


「フレイ、モイの服はゆるやかな服で良い。あまり締め付けるなよ。ダルガの服は、話が終わったらそちらの方に行かせるから、頼んだぞ」

「あああ!はい!」


何かが分かったようなフレイの顔だった。すると、フレイはモイを連れて部屋から出て行った。料理長も退室して、早速厨房に行った。


「ダルガ、後日、妻モイの配偶者として登録せよ」

「はい・・あの・・」

「なんだ?」

「なんで、いきなり結婚になったのですか?」


ダルガが何があったか、理解をしていなかったようだ。


「婚約したら、おまえはこれから何をするつもりだった?」

「お金を貯めるために、護衛の仕事をしばらくするつもりだったが・・」

「この馬鹿者!!!!」


出た。あの雷が・・、とローズがドキッとした。


「良いか、ダルガ。だからおまえが半人前というんだ。わしがなんども言ってるのに、分からぬか?!」

「何が・・ですか?」


レベル8の武人、ダルガがダルゴダスの前ではただの小さな子どものように見える。


「モイはおまえの子どもを宿しているんだ!」

「なっ!」


ダルガが瞬いた。


「一番近くにいるおまえが気づかずにいて、どうするんだ?それが半人前だということだ!」

「はい、すみません」

「そのまま、別の町に行って、モイのおなかが大きくなって子どもが産まれたら、どうなるんだ、考えろ!」

「はい」


ダルガが瞬いて、うなずいた。


「もし、結婚せずに、配偶者にもなっておらず、おまえの身に何があったら、生まれた子どもはどうなるか、おまえが一番よく分かるはずだ。おまえと同じ苦しみを、モイの子どもに与えるな!分かったか?!」

「はい。すみません」


ダルガがうなずいた。まさか、モイが妊娠しているなんて、ダルガが知る様子もなかった。


「分かればよろしい。はぁ、ダルガ。これからおまえはどうする?」

「子どものためにも、新しい仕事を見つけようと思います。その前に住む場所も探さないといけないんだと思います」

「住む場所を与えよう。旧警備隊長屋敷があってな、今誰も住んでおらん。その屋敷をおまえにやろう。後で、使用人に掃除させよう。これはわしからの結婚祝いだ。最低限の生活用品も揃えよう」

「ありがとうございます!」


ダルゴダスはダルガに大胆の結婚祝いのプレゼントを与えた。


「なぁ、ダルガ」

「はい」

「そろそろ里に落ち着かないか?若い世代におまえの知識を分けてくれないか?」

「と、言いますと?」

「里で、傭兵や護衛希望のレベル5以上の教育係の席が空いている。傭兵の仕事よりに比べると給料が大きくはないが、これから生まれて来る子どものためにもおまえが里にいた方が良いとわしは思っておる」

「はい、やります」

「そうか、良かった」


ダルゴダスが微笑みながら、うなずいた。


「ありがとうございます!」

「あと、ローズの教育や護衛、そして世話したことで礼を言う。本来わしがやらなければならないことだが、おまえに託すしか道がなかった。ミライヤから毎月報告が届き、おまえとモイに任せて良かった、と心から思った。ありがとうよ」

「いいえ、もったいないの言葉です。役目だから全うするだけのことでした」


ダルガがうなずいた。


「そうだ、都とドイパ国での活躍もご苦労だった。すべてミライヤとジャタユ王子から聞いた。よくやった」

「はい」

「じゃ、これからおまえはフレイの所に行け。結婚披露宴のための衣装を準備するが良い」

「はい、ありがとうございます。失礼します」


ダルガは嬉しそうな顔で、部屋を出た。ダルゴダスは手を叩くと使用人の一人が現れた。旧警備隊長屋敷の掃除と生活用品のことなど、侍女長と相談するようにと命じた。使用人は頭を下げて、部屋から出た。


「さて、ローズ。近う」

「はい」

「おかえりなさい、ローズ、柳も」

「ただいま、父上」


ローズと柳が同時に答えた。


「大分大きくなったね、ローズ」

「はい、毎日牛乳を飲んでいるおかげです」

「ははは、そうか。これからも毎日牛乳を飲むようにせよ」

「はい」


ダルゴダスはローズをじっと見ている。そしてローズの腰にある短剣に気づいた。


「その腰にある短剣は?」

「柳お兄様からいただいた短剣です。修行に必要だったから、私に下さいました」

「そうか。良かろう。大切にするが良い。そうだ、そなたの部屋はきれいになったぞ、使うが良い」

「ありがとうございます。でも・・」

「また何か?」

「私は柳お兄さんのペアになりたいです」

「そなたは武人になるのか?」

「いいえ、まだ分かりません。でも魔法が好きで、料理も習いたいと思います」

「ならばセティに弟子入りすれば良い」


ダルゴダスはそう言いながら、ローズを見つめている。


「それに、そなたの母は、まだそなたをそばにおきたいと言ってる。一年間も別れた幼い娘、そろそろ帰るというところで戦争に巻き込まれて、しかも二回もだ。二回だぞ?!噂は流れてきたが、都を襲った化け物を倒したあと、南の国一つを、一人で国一つを滅ぼしただとか。聞くだけでもそなたの母が気を失ったほどの話ばかりだった。幸いミライヤからの報告があって、少しは安心したがな・・、柳のペアか。ふむ」


ダルゴダスはそう言いながら考え込んだ。


「柳はこれからどうしたい?」

「まだ、決めてない」

「おまえが里にずっといるなら、ローズとのペアを認めよう。ローズはしばらく里で暮らすことになるからだ」

「考えます」


柳がそう言って、ローズを見ている。


「うむ・・」

「どうした、ローズ。不満か?」

「はい、旅はダメですか?」

「ダメだ。これからそなたは女子のたしなみの勉強が待っているんだ。裁縫、刺繍、作法、料理、政治、経済、当然読み書きもだ」

「うううう」

「魔法の勉強は?」

「ミライヤがいる時にやれば良い」

「武術の練習や狩りは?」

「そなたは武人ではないから、そこまでやる必要があるか?」

「でも・・」

「話は終わりだ。新しい侍女を与えよう。侍女長にはあとで相談してやる」

「はい」


ローズは外に出ようとした。けれど、柳が父の前に立った。


「父上・・」

「なんだ?」

「話があります」


柳がいうと、ダルゴダスはうなずいた。


「聞こう。ローズはもう部屋に帰って休め。長い旅で疲れただろう?」

「はい。失礼します」


柳とダルゴダスを残して、ローズは外に出た。ローズは話の内容を気になったが、さすがに聞けない。


何をどうしたら良いかが分からないまま、リビングに行ったら、そこにミライヤとジャタユがいる。護衛の人やリンカは荷物の整理の手伝いに行った。ジャタユに条約の話がうまくいったと教えてもらって、少し安心した。これから飛行船の対策も行われるから奇襲の被害が減らされるでしょう。


ローズはその机にある焼き菓子に手を伸ばし食べていたら、侍女長と一人の若い侍女が現れた。口の周りにお菓子の粉が付いているローズを見ると、侍女長が優しくきれいにした。ローズはミライヤたちに失礼して、部屋に向かうことになった。半壊した建物がきれいになっている。その中の一つはローズの部屋になっている。


部屋全体はきれいな薔薇模様で、上品な色合いの寝台やカーテンで、毛布まで薔薇の花の模様になっている。棚や勉強机、ソファやテーブルまで備えられている。床には絨毯があって、とてもふかふかしている。


「これからローズ様の侍女になる。リエナと言います」


侍女長がローズの新しい侍女を紹介してくれた。


「リエナです。よろしくお願いします」

「ローズです。こちらこそ、よろしくお願いします」


リエナはとても若く見える。髪が短く、兎の耳をしている。服の後ろにかわいい兎の尻尾が出ている。肌の色は白い。ローズはリエナを見て、年はいくつでしょうと思ったけれど、聞くのをやめた。正直に言うと、この世界の年令は分からない。若そうに見えるが、実は若くない。その逆もいる。どうやら、精神年齢と能力が基準になっている。若くても能力が高い者は社会的に認められる。逆に年をとっても、なんの能力を持たない者は社会的発言力もいまいちとなっている。だから自分の2歳は、他人の目でどう見えるのがたまに気になる。


部屋を見ていたら、おなかが空いたので、侍女リエナと一緒に食堂に行った。久々の食堂で、何かの食事を頼んだ。自分のお皿はそこにあって手にとって、おとなしく絨毯の上に座った。ダルゴダスとジャタユとミライヤはVIPルームで食事中だ。扉が閉まっているからおそらく大事な話をしながら、食事会となっている。護衛のフェレザさんはもうすでに昼餉をとって、今警備隊の休憩所でリンカと会話中だった。柳は部屋で休んでいると聞いた。食事を断った、とローズが侍女から聞いた。


料理長はローズの好物の卵料理を覚えていて、作ってくれた。久しぶりに食べたこの料理はやはり美味しく、真っ先に食べてしまった。出された食事を全部食べて、料理長に話をかけようとしたが、台所の様子が異常なぐらい大忙しだった。それはそうだ。今夜は王子との晩餐会とモイの結婚の披露宴だからだ。邪魔にならないように、ローズはまた部屋に戻ることにした。


落ち着かない。自分の家なのに、落ち着かない。自分の部屋なのに、親しみを感じない。ローズは椅子に座ると、侍女のリエナはお茶を用意してくれた。けれど、その茶はローズの好きな花のお茶でなかった。それでも用意されたから飲むことにして、一人にして欲しい、と頼んだ。


一人になったローズは、床に大きな荷物に気づいた。いくつか荷物があって、開けてみた。これはローズがドイパ国で買った本や服などが入っている。旅行カバンもその中に入っている。小さくなったエスコドリアの防具も入っている。捨てられなかった。色々な意味で、とても大事なものである、とローズは思った。


なんだか、疲れを感じて、いつの間にか絨毯の上で寝てしまった。気づいた時にはもう寝台の上にいた。誰かが彼女を寝台まで運んでくれたのだ。しかも周りには誰もいない。柳からもらった短剣は寝台の隣にあるサイドテーブルに置かれていた。彼女が散らかした荷物の中身はきれいに整理された。と、誰かが扉を開けた。入って来たのは侍女のリエナだった。


「あ、起きましたか?」

「うん」

「これから夕餉の仕度なので、湯船を準備しますね」

「はい」

「モイさんからいろいろと聞きました。花茶ですが、私はお花を出すことができないが、台所の方に問い合わせをして、毎日仕入れてくれると返事をもらいました」

「出すって?」

「あら、ご存じないでしたか?モイさんは自分で花を手のひらから出して、煎じているのですよ」

「そうなんだ」

「はい。モイさんは草花の精霊種族ですから花を出せるのです。私は兎人族なので、できないんです」

「分かった。ありがとう」

「いえいえ、これからなんなりとお気楽に、私に申して下さいませ」

「うん」


ローズはうなずいて、リエナを見ている。


「さて、湯船にお湯ができたので、お風呂入りましょうか?お体を洗いましょう」

「自分でやる」

「そうなんですか?」

「うん。最近体が変わってしまって・・、他人に見せるのが恥ずかしくて・・」

「変わった・・と言いますと?」

「胸が・・、発達してしまったんだ。大人の女性のように・・」

「まぁ・・」

「うん」

「じゃ、下着を準備しないといけませんね」

「うむ」


やはり驚くところが違うんだ、と彼女がうつむいた。この世界では・・。前世の世界だと、身長1メートルの2歳児で胸が発達したら、医者に診てもらうことになる。けれど、ここだと違うんだ、とローズは思った。改めて、ローズはやはり異世界にいると認識した。


「うん、頼む」

「はい。今宵の宴に使う服を準備しますね」

「はい」


風呂に入って、体をきれいにしたら、用意された服に身を包む。下着がローズのサイズがないので、首飾りや重ね着でカバーしてもらった。髪の毛もきれいにしてもらって、髪飾りを付けた。ジャタユからもらったあの真珠の髪飾りだ。母から薔薇の花の形の耳飾りと腕輪が届かれている。ジャタユを歓迎するための晩餐会だからちゃんと正装で来るようにということだ。口紅まで付けられた。


「まぁ、きれいですね」

「うむ、ありがとう」

「もっと笑顔でいて下さいませ。せっかくの美しさに、そんな無表情じゃ王子にとって失礼にあたりますよ」

「ジャタユ王子なら平気だ。あの人は自然体が好きだから」

「そうなんですか」

「うん。じゃ、食堂に行きます」

「はい、お供します」


リエナと一緒に廊下に歩いていたら、中庭に柳がいた。正装に身を包み、とても格好良かった。柳もローズを見て微笑んだ。


「待ってたよ、ローズ」

「はい、お待たせしました」

「きれいだ」

「ありがとう。柳・・兄様・・も格好良い」

「そうか、じゃ、行こう」

「リエナはここまでで良いんです」

「はい、分かりました」


侍女リエナは頭を下げて持ち場に戻った。リエナが見えなくなってから、柳はローズの手をとり、手をにぎった。そして彼は跪いて、ローズの目に合わせて、再びじっと見つめた。


「とてもきれいだ」

「うむ、なんか恥ずかしい」

「俺は恥ずかしくないから、大丈夫だ」

「私は・・恥ずかしいよ」

「そう?でも、今夜のローズは本当にきれいだ」

「じゃ、普段はきれいじゃないということ?」

「普段のローズもきれいだ。でもこのように着飾っているローズを見るのが初めてで、とても新鮮な感じがした。心からそう思ってる」

「む、柳・・兄様・・はむちゃくちゃなことを言う」

「そうだな。認めるよ、それ。さて、行こうか」

「うん」


柳は立ち上がってローズの手をにぎったまま食堂へ足を運ぶ。もうすでに客人や里の幹部や上位の武人達が集まっている。柳とローズが食堂に入ると、ぴたっと会場が静かになったが、しばらくしたらまたざわざわと聞こえている。どんな話題にしたか分からない。でも柳は堂々と用意された場所に座り、ローズを隣に座らせた。


その後、ダルゴダスとフレイが、会場に入った。その後ろに、ミライヤとジャタユが会場に入り、挨拶した。友好の証として、祝杯をあげて、会場は盛り上がった。ジャタユは隠さずになんども美しいミライヤを見つめていた。そしてダルゴダスがダルガとモイの結婚披露宴をついでにすると言うと、ジャタユは笑顔を見せた。


新婚の二人は会場に入って、会場はもっと盛り上がった。二人はダルゴダスとジャタユの前に頭を下げて、挨拶した。そして会場に向かってまた頭を下げて、挨拶した。係の者に誘導されて、用意された場所に座った。


モイはとてもきれいだ。金の糸で刺繍された緑色の絹で作られた服に、光輝く髪飾りなどで身を包んでいる。ダルガは同じ色の衣装で照れながら周りの人々の祝福を受けた。短時間でその衣装を完成させたフレイと侍女達はすごい、とローズが素直に思った。すごすぎる。


ジャタユは祝杯をして、新婚の二人に祝いの言葉を述べた。するとダルゴダスも祝杯して宴の開始を命じた。


次々と料理やお酒が運ばれてきた。見たこともない料理に、ローズが目を大きくした。その様子を見て、柳が笑った。この人の笑う顔はとてもさわやかで、好きだ、と彼女が思った。言葉をあまり言わない人だからこそ、貴重な笑う声だった。


「どうしたの、ローズ?」

「ううん。お兄様って笑うと良い顔してるんだ、と思っただけ」

「そうか」


柳がなんだか照れている。そして彼はローズの顔についている食べ物をきれいにしてくれた。


「仲が良い兄弟ですね」


前に座っている人は声をかけてくれた。


「はい、大事な妹だからだ」

「こんなにきれいな妹さんだから、きっとこれから良い縁談がたくさん来るでしょうな」

「妹は誰にもやらない」

「あら、怖いお兄様だね、ローズ様」


その人が柳を見てから、ローズを見ながら言った。


いやぁ、実は言葉通り、本当に怖いお兄様なんだよ、とローズが言いたかったけれど、やめた。ミライヤとリンカですら柳に警戒してるぐらいだ。柳は過保護で厳しい兄だからだ。


宴は遅くまで続いた。けれど、ローズは食べ過ぎたせいか、眠くなってしまった。ローズは柳と一緒にモイとダルガに挨拶して、退室した。また後日モイの家に遊びに行くと約束をした。二人はとても幸せそうだ。ローズがとてもうらやましく思った。


ローズはダルゴダスとフレイにもお先に失礼すると挨拶した。ジャタユはローズが眠そうだから、早く寝るようにと言って、微笑んだ。ローズはうなずいて、柳に会場の外に連れていってもらった。腕に載せて、ゆっくりと中庭を歩く。


「兄様、明日欅兄様と百合姉様のところに行こう」

「ああ、そうだな」

「明日もダルガさんの屋敷に行かないといけない。約束したから」

「そうだな。結婚祝いにも何が良いかと欅と百合に相談しよう」

「うん」


柳がそう言って、夜の庭を楽しんでいる。


「なんか兄様という言葉を久々に言って、緊張した」

「ああ。俺も違和感がある。二人だけの時に呼び捨てで良いと思うが、ここだとね・・」

「うん」

「リンクかけようか。言葉を言わずに念じれば届くかどうか試したい」

「良いよ。俺もリンクできれば良いなと思っている。でも、俺には金の能力がないから、俺からはリンクをかけるのが無理だ」

「うん」


ローズは頭の中に柳と念じた。超近距離リンクだ。


「はい」


通じた。そしてローズは自分の思いを伝えた。好きだよ、と。柳は微笑んだ。


「俺もだよ、ローズ」


柳は女子部屋の前まで送った。侍女のリエナはローズを迎えに来て、ローズたちに不思議な目で見ていた。

そう、ローズは言葉を口で言わずに、柳にお休みの言葉を念で送った。柳はまた微笑んだ。


「ああ、お休み、ローズ」


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