32. オオラモルグ王国 皇子救出作戦(3)
ローズはあまりの光景に目を閉じた。けれど、彼女が肌を触れている風の流れが違っていることに気づいた。目を開けると、ここは戦場のど真ん中だった。燃えた火と黒煙に囲まれて、血のにおいや焼けた瓦礫の匂いが混ざっている。
どうやら、ローズはまた瞬間的に隣の島からこの島へ飛んでしまったようだ。そして、彼女が宙に浮いている。何の違和感もなく、空に浮いている。
周りを見たら、目の前にあのモンスターがいる。そしてあのえらそうな奴もいる。
「ローズさん、なんでここに?!」
ジャタユの声が聞こえた。彼が人の姿で、翼を羽ばたいて、空を飛んでいる。彼の背中に翼がバサッバサッと動いている。ミライヤは地上にいて、柳たちを診ている。
「大丈夫!生きているわ!二人とも!」
「回復して、ミライヤ!」
「あいよ!」
ジャタユはミライヤに指示を出した。良かった、二人ともなんとかなるんだ、とローズが安堵した様子を見せた。
「なんでここにいるか・・って?決まってるわ。あいつを倒すためよ」
「んだね。俺も同じこと考えている」
ジャタユがその答えで、同感した。とにかく、その化け物をなんとかしなければならない。
「あの中央公園まで距離が欲しい。ここだと下にいる柳たちが巻き込まれてしまうわ」
ローズがそう言いながら、周りを見ている。
「あいつが10歩ぐらい下げれば良いんじゃねぇ?」
「まぁ、そのぐらいでしょうね・・、バリアー!」
そのモンスターが手を振って、ローズたちを攻撃しようとした。ローズは片手でバリアーをして、素早くそのモンスターの攻撃を弾いた。
「んじゃ、行こうか!」
ジャタユはすごいスピードで、あのモンスターに向かって、素手で数回殴った。ローズは契約の言葉を口にして、右手に鞭を出した。今回は怒りに込めているため、普段よりトゲの質は違っている。
パン!
乾いた音が響いた。狙いはモンスターにバリアーをかけるあのえらそうな奴だ。
ジャタユの攻撃に合わせて、ローズもあのモンスターの肩に乗っている人を攻撃した。バリアーで弾かれたけれど、ずっと連続して攻撃したらバリアーの張り直すことができないことと知った。
モンスターが激しく抵抗したけれど、ハエ並に小さいローズはそう簡単に当たらないと分かったから、交わしながら鞭を強く打つ。
狙いは肩だ!
ジャタユはあのモンスターのお腹や足を狙って素手で殴りかかる。本当にこの人は、見かけによらない、すごい人だ、とローズは思った。モンスターは二歩下がった。
「ファイアー!」
ローズが魔法をモンスターの耳の辺りにぶつけてみた。そして彼女が再び鞭で、相手の方に仕掛ける。この距離なら剣よりも、鞭の方が届く。そろそろ相手のバリアー効果が消える、とローズは思った。
鞭に火属性のエンチャントだ!
燃えるトゲ付きの鞭は夜の空に光り、強く素早く相手を襲う。
モンスターの肩にいるあのえらい奴は魔法を発動しようとした。手に魔石をもっている。
させるか!、とローズは素早く動いた。
「ライトニング!」
雷魔法で呪文の中断を計った。そして、同時にジャタユの攻撃が彼のおなかに入った。
「うりゃ!」
強い衝撃とともに、あのモンスターはまた一歩下がった。
「ファイアー・ソード!」
ローズは鞭を剣の長さと堅さに調整して、相手の耳の辺りまで接近する。相手も短剣のような武器を出した。魔法の呪文を唱えることを諦めた様子だった。これで相手はバリアーをかけることができない。けれど、同時にこちらも同じ状態となったけれど、当たらなければ良いということだ。しかし、やはり少しエンチャントした方が良いかもしれない。
「バリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」
ローズが素早く自分にかけた。そして突撃する!しかし、その隙に、相手もバリアーを唱えたが、モンスターには唱える前に彼女の攻撃によって、中断された。
ローズは近距離戦闘はあまり得意ではないけれど、今はそれしか方法がない。このえらい奴を呪文を唱える前になんとか落とさないといけない、とローズは思った。けれども、敵もまたかなりの武器の使い手だ。武器と武器のぶつかり合いの音が響いた。
突然何かが見えた。それがかまいたちだ、とローズは気づいた。相手は別の手からかまいたちの技を出したけれど、バリアーと鎧のおかげで助かった。鎧がへこんだけれど、ローズにはダメージがない。前髪がちょっと切られただけだ。ローズが少し距離をとった。そして剣をまた鞭の形態に戻した。相手は風属性を使ったから、多分火属性に弱い、と彼女は勝手に思った。なぜなら、ゲームだと風属性のの弱点は火属性だからだ。鞭に再び火属性のエンチャントした。
「ファイアー・ボール!」
火だるまの魔法を丸ごとあのモンスターの顔にぶつけた。そしてそれに合わせて、鞭で素早く攻撃した。その人はバランスを崩したが、立ち直った。モンスターの手がしたばたと彼女とジャタユを攻撃しようとしたけれど、ジャタユはとても素早く、回避率が高い人だ。しかも一撃一撃の攻撃は重く、素手で敵を攻撃し続けている。また一歩と下がった。あと6歩ぐらいだ!
「えい!」
ローズは腰に持った短剣を抜きながら、鞭で相手の首を引っかけた。どうやら相手のバリアーが切れたようだ。ローズは相手の右手を刺して、相手の武器を落とした。
こんなに近距離で敵と戦うのが、実にいうと、苦手だ。けれど、この距離なら、頭突きは可能だ!、とローズは思った。
「くらえ!」
ローズの頭の上にある薔薇の花が散ったとともに、あの奴の頭が傷が見えた。トゲによって、かなり怪我になったようだ。
「行けぇぇぇぇぇぇ!」
そして右手に持った鞭で相手を引っ張って、そのモンスターの肩から引きずり落とした。鞭を下に引っ張りながら、ローズはジャタユを通過して地上に落ちる。あのえらい奴を引きずりながら、地面に!、とローズがそのまま鞭を引き下ろした。
ドーン!
彼が地面とぶつかった時の音がした。ローズはぎりぎりの所でうまく着地した。短剣を鞘に入れて、左手でを地面に当てた。
「バインド・ローズ!」
ズズズといくつかの茨の枝が地面から出て素早くその奴を縛り付けた。枝が強く食い込んで、呪文を唱えることでさえできないようにと口まで縛りついた。この人はボスっぽいだから死なせない、と彼女がそう思いながら彼を縛るための枝を確認した。絶対情報を吐かせないといけないから、生かすことにした。地面から茨の枝を解除せずに、そのまま切り落とした。そして、近くにいる兵士に、彼を生きたまま、どこかに連れて行くようにと命じた。兵士は刺々しい茨の枝を見て、恐る恐ると彼を引っ張りながらその場所から避難した。後ろを見るとダルガはもう気が付いて、座っている。ミライヤはまだ柳を回復魔法をかけている。まだ、意識が戻っていないようだ。
ローズは再び上に上がって、ジャタユの隣辺りの高さにした。どうやら、飛びたいと思えば、普通に体が浮くようになる。思いっきり怪しい自分が、不思議でたまらない。光っていて、空を飛んでしまう生き物なんて、どちらかがモンスターなのかと聞かれたら、自分も答えられないのでしょう。
「あと6歩ぐらい下がれば、大魔法が使える。トドメも刺すことができる」
「んだね。さくっととやろうか、ローズさん」
「さん付けはいらない。今はチームだ!」
「気に入った!どりゃああああ!」
そう言いながら、ジャタユがまたすごいスピードで敵の胸やお腹を攻撃した。
「ジャタユにヒール!バリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」
エンチャントが届いた瞬間にジャタユの顔に笑顔が見えた。やはり能力が上がったんだ。
ローズはあのモンスターの頭の方に行った。あのモンスターは手を素早く動かしローズとジャタユを振り払おうとした。そして口が開いた。あの高エネルギーの攻撃をしようとしたのだ。
まずい!下にいる柳たちが巻き込まれてしまう!
ローズは鞭に火属性をエンチャントして相手の顔を叩いた。何しても、口を開かさない!ここに水がないが、どうしても氷の魔法が使いたい。口の中に氷を入れておけばあの高エネルギーの攻撃が少なくても防げるんだ。しかし、この海に囲まれている島だから空気中に水分があるかもしれない。
それに、この焼け野原となっている町がかなり熱い。一か八か、空気中の水分を頼りにして・・。
「アイス!」
左手に氷の塊ができた。そしてその開いた口に突っ込んだ!
「アイス!アイス!アイス!アイス!アイス!アイス!」
ローズが連続してモンスターの口に氷の塊を入れた。入るだけ入れ!アイスでも食べなさい!、とローズは必死に大きな氷をその口へ入れた。
モンスターは2歩と下がった。あと4歩だ!
モンスターが一所懸命に口から氷を吐き出そうとしたけれど、ローズはそれを許さない。鞭でひたずらとべちべちと叩きし続けている。
ドーン!
またジャタユの強力攻撃が入った。ふらとしたモンスターはまた一歩と下がった。あと3歩だとローズが見た。中央公園も見えている。あそこなら柳たちと安全距離が取れる。
「あと3歩だ!」
「はい!」
ジャタユはそう言って、距離を見た。ローズも力を再び絞って、あのモンスターの顔を見た。口に氷がいっぱい入っていて、顔に無数の傷があった。それはローズの鞭によって付けられた傷だ。あのトゲは肌を削るからだ。正直にいうと、良い眺めではない。食欲を失いそうだ、とローズは思った。しかし、あと3歩だ。あと3歩と下がれば、この戦いを終わらせることができる。もう兵士の犠牲を出したくない、とローズは再び鞭を強くにぎって、叩き始めた。
モンスターが尻尾を後ろで振り回している。でも生きている兵士らはもうすでに安全地に移動した。聞こえてきたのはパチパチと焼けている瓦礫の音だった。臭いがきつい、とローズは鼻を腕で隠しながら攻撃した。吐き気がする、と。
「ジャタユにバリアー!ヒール!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」
そして自分自身にもかけた。ラストだ、と彼女が思った。魔力がかなり消費している。早く決着をしないといけない、と。
「火の輪!」
ローズが後ろからリンカの声が聞こえた。大きな火の輪っかは後ろから飛んできた。ジャタユは急いでその魔法を回避した。
ドーン!
大きな衝撃が起きた。敵がまた一歩と下がった。あと2歩だ!
リンカはミライヤの所に行った。彼女が無事だったんだ。良かった、とローズはリンカを見て、手を振った。けれど、柳がまだ横たわっている。当たるところは悪かったか、とローズが心配しながら、また攻撃した。
あの強い柳が戦闘不能になってしまったとは・・。ダルガも柳に回復魔法をかけているようだ。頼む!、とローズは心の中で叫んだ。
再び鞭に火属性のエンチャントをした。でも今回は違う、かけた魔法を五倍に強くした。当然魔力もそんなに残ってない彼女にとって苦しい決断だ。けれど、こうしないと、あと2歩で、彼女の方が力尽きてしまう。魔法が五倍になったから、鞭にめらめらと火が燃えている。
ローズはその鞭でモンスターの顔と首に再び強く叩いた。今度は効き目があった。当たる度に、トゲと火がモンスターを痛めつけているようだ。氷がいっぱい口からは良く分からない悲鳴が聞こえてきた。腕が痛いけれど、まだ止める訳にはいかない、と。
火属性五倍のエンチャントしたから、鞭も五倍も重くなった。それを振り回す度に、肩にかなり負担が大きい。けれど、これで確実にモンスターに痛みやダメージを与えることができる。片手で辛くなってきたので、両手で一本の鞭をにぎることにした。攻撃速度や回数が減ったけれど、一撃にかなりのダメージが入った。
また一歩と下がった!
「ジャタユ、あと一歩だぁぁぁ!」
「おおおお!」
すごく勢いでジャタユが連続して殴った。そして必殺の一撃でモンスターが大きく飛ばされて、中央公園に入った。
「よっしゃああ! 行け、ローズ!」
「はい!」
ローズは地面に降りた。
「マッド!」
地面が沼地になった。相手の足を動けなくする。
「ギガ・バインド・ローズ!」
とても太い茨の枝が地面の下からにょきっと出てきた。その刺も恐ろしぐらい鋭く見える。その茨の枝はモンスターの体を巻き付いて、強く食い込んだ。
「サンダー・ストーム!」
暴れ出したから、魔法をかけた。雷の影響で、これで少し麻痺になったようだ。けれど、尻尾がまだ動いて、ローズをなぎ払おうとした。ローズは念のために距離をとった。
「ギガ・ブラッディー・ローズ!」
複数の特大なトゲが薔薇の枝から現れて、モンスターの体をぐさっと刺さった。散った赤い薔薇の花びらのように、血の雨が公園内に降りかかる。しかし、そんな状況で、呻き声がまだ聞こえている。
「ギガ・ファイアー!」
これでとどめだ。あのモンスターがぴたっと、動かなくなった。なんとかこれで戦いが終わったんだ。あとは柳だけ・・。
「柳!」
ローズは柳を呼んで、彼の元へ行こうとした。やっと気が付いたようだ。残った魔力が少ないが、ヒールぐらいなら、彼のためなら、とローズが残ったすべての魔力を全部あげることにした。
「ヒール!」
けれども、ローズの力が突然抜けて、最後に見えたのはジャタユの顔だった。すべて暗くなって、その暗闇の中に、最後に聞こえたのはジャタユの声だった。
「ローズ!」