31. オオラモルグ王国 皇子救出作戦(2)
「伏せろ!!」
反応に遅れた柳の手にダルガがかばって、地面に伏せた。危機一髪だった。柳の長い髪の毛が三分の一ぐらいその光線攻撃に削られて、灰になった。味方の者は二名ほど、残念ながら命を落としてしまった。上半身丸ごとがなくなったのだ。何とも言えない恐ろしい光景だった。ローズは柳の無事な姿をみて、ホッとした。そしてローズがリンカと柳に回復魔法のヒールやバリアーをかけて、速度増加と攻撃力増加のエンチャントもした。
(まだ向こうに次の攻撃の準備してるようだ。早めに対処しないと)
(分かっている。でも注意しないとね)
(ええ)
リンカは柳と会話して、気配を消した。そして、彼女はとても素早く、敵がいるところに行った。リンカは敵兵3人を見つけて、迷わずに殺した。リンカの映像から見ると、あの高エネルギー武器は大きなレーザービームのようなものだった。念のため、その機械を壊した。その機械はどうやら魔石で発動して、使った魔石は一度の使用に粉々に砕けてしまった。当然、その中に閉じこめられた者も、魔石が砕き散ったことで死亡したでしょう。本当にむごいモルグ人だ、とローズは思った。人の命を、使い捨て電池のような扱っていて、非道極まりない。
(急ごう・・!)
(はい!)
リンカと柳らは半壊した建物の中に入った。そこでごちゃごちゃになった建物の中が見えて、たくさんの遺体が転がっている。モルグ人兵士だ。飛行船が落ちたときに巻き込まれたようだ。リンカは急いで魔石が保管されているところに入った。まだたくさんの魔石があった。近くに袋があったから、その中に入るだけ入れた。
(他は、余裕があったらまた助けに来る。今助けられるのがこれだけで、ごめんなさい)
リンカは山になった魔石に向かって言った。
(ここから出よう。飛行隊にこれらの魔石の救出がしたい)
(はい!)
リンカたちはその建物から出て、上陸した部隊との合流を試みている。武器と武器のぶつかり合い音が響いている中、モルグ人兵士も、スズキノヤマ兵士も、ドイパ兵士も、彼らの遺体や怪我人が至る所で見られた。なんていう光景だ。怖い!今まで映画とかドラマでしか知らなかったローズにとって、リアル過ぎるの怖さだ。けれど、リンカたちは何も言わなかった。彼らはその道を進んで、建物の外へと走った。それは武人の心得だったかもしれない。殺さなければ、殺される。戦争は命のやり合う場所であり、醜いものだ、とローズは改めて思った。
けれど、世の中はそんな甘い世界ではない。現実的に、今、自分が戦場にいる、とローズは思った。比較的に安全な所にいるけれど、現場にいるリンカや柳、そしてジャタユの目で映った光景は、ローズの頭に直接入ってしまう。フィルターなしで、恐ろしく、そのまま伝わってきた。
「ローズさん、戻ってきたよ」
ジャタユの声はローズの考えを中断した。手に持った黄色い魔石は早速ズルグンに渡した。
「おお!皇子!」
「床において、今から解放するから」
ミライヤは杖を構えてきた。ズルグンは早速その宝石を床に置いた。すると、ミライヤは何かの呪文を唱えあの黄色い魔石に魔法をかけた。
「はっ!」
パリン!
魔石が割れた。光が現れて、その光の中から一人の青年が横たわっている。見た目だと、高貴な存在であることが分かる。青年の頭にはミミズクフクロウの羽根耳がある。なんか、とてもかわいらしい、とローズは思った。美青年の顔立ちに、背中に翼がある。意識がないので、ローズは彼に回復魔法をかけた。すると、彼の指が動いた。効果があると分かったローズは引き続き回復魔法を心臓に当てた。
「うー」
エフェルガン皇子から声が聞こえた。
「皇子、エフェルガン皇子、ズルグンでございます。分かりますか?」
「ズルグンか・・」
彼がズルグンの問いかけに返事をした。
「はい」
「ここはどこ?」
エフェルガン皇子は体を起こそうとした。その時、彼の目はローズの目に会った。あのオレンジ色の瞳が、彼女の全身光っている姿を見て、瞬きせず固まってしまった。エフェルガンはびっくりしたでしょう、とローズは思った。
「龍神の姫君、ローズ様でございます。エフェルガン皇子を助けるために、力を貸して下さったのです」
ズルグンが言うと、皇子は直ちに姿勢を変えて頭を床に下ろして、土下座をした。ズルグンさんも同じ姿勢をした。
「ありがとうございます。このご恩は一生忘れません!」
「いや、あの、えーと・・、ん、まぁ・・、とりあえず元気で良かった。ちょっと今戦闘中なのでズルグンさんと安全な場所で休んで下さいね」
「はい!」
二人は別室に案内された。龍神の姫と言われてもピンとこない、とローズが思った。自分はそんなに神々しく見えるか?てっきりとお化け!、と言われるかもしれなかった。けれど、そんなおかしな自分の姿を気にする暇がない。戦場にいるリンカさん達のことを優先すべきだ。
「ジャタユさん、飛びっぱなしでお疲れでしょうけれど、リンカさんの援護をお願いします。あと、できれば革袋を数舞もって、残りの魔石を救出のも手伝ってほしいと、他の飛行部隊にもそう伝えて」
「了解した!行こう、ミライヤ」
「あいよ!」
二人は白湯を飲んでから、再び外に出て、空へ飛び立った。ローズは再びリンカの視線に戻った。リンカは飛行部隊の到着地点に行って、そこにいるドイパ兵士に魔石が入っている袋を託した。近くに袋や布、カバンなど適当に探して、再びあの軍事施設に戻った。
ジャタユは建物の前に降りてリンカに袋を渡した。どさくさの中で魔石救出がスムーズに行われた。その部屋にあった魔石が全部袋に収まって、リンカ達は外で待っているジャタユとミライヤに渡した。そして二人はそれらの袋を持って、再び空へ飛び立った。飛びながらジャタユをバリアーで守りながら攻撃魔法を落とすミライヤはすごく格好良かった!、とローズは思った。
向側から騒がしい音がした。確かに、その辺りはズズキノヤマ軍が担当している場所だ。リンカはそこに向かうと言ったため、数名のドイパ軍も付いていった。必死に逃げ出した市民らを遭遇しながらリンカ達はまっすぐにそのスズキノヤマ軍のところに向かった。そこで見たものは、スズキノヤマ軍兵士の死体の山だった。
死体の上に黒い服ののモルグ人剣士が3人いる。そしてその近くに、えらい人らしい身なりの人物がいる。その人物は、その死体の上に何かの召喚術の儀式を行っている。とても嫌な予感がする。
リンカたちがその場に到着すると、それらの剣士達はすごい早さで攻撃かけてきた。一緒に来たドイパ軍兵士らは相手にすらならなかった。ほぼ瞬殺された。
まずい、実力はレベル10かSかの剣士らだ。ローズが素早くリンカと柳にバリアーとエンチャント魔法をかけた。ダルガにエンチャントかけられなくて、本当に申し訳なく感じる。モイのためにも、ローズは彼らの無事を祈った。
それぞれの剣士はリンカ、ダルガと柳に攻撃した。素早い動きに破壊力が高い剣の動きがとても恐ろしく感じた。リンカと互角に戦っている。一方、柳は苦戦している。
ダルガは分からないけれど、多分、なんとか、互角に戦っているのでしょう。なぜなら、ダルガは伊達にレベル8の武人ではないからだ。素早い動きや強いパワーはダルガの得意とした分野だ。中年の星と呼ばれても過言ではない実力者である。
ローズはひたずらに遠距離から魔法をかけ続けている。エンチャント魔法のおかげで、リンカは有利に動いた。相手に蹴りを入れて、体を高く空中に回転して魔法を放った。
(火炎砲!)
その魔法が命中した。そして自分の武器を火属性にエンチャントして、再び相手に攻撃していく。燃えている相手に容赦なく斬りかかるリンカの姿は、本当に死神そのものだった。美しく、そして恐ろしく・・。
一方、ダルガも、なんとか相手を倒した。いくつかの切り傷が見えたが、自分自身で魔法をかけた。本当にこの人は天才の武人だ、とローズは思った。戦いながら、自分自身をバリアーや回復魔法をかけることができる。ローズの戦い方にも、ダルガの影響が大きい。本当に万能型の武人である。
問題は柳だ。攻撃力重視のスタイルは相手のスピードに追いつけなかった。相手はとても素早く動くから柳の攻撃を楽に交わしている。逆に柳は相手の攻撃を交わすのにかなり精一杯だった。その結果、体が傷だらけになった。一つ一つの攻撃は体が丈夫な柳の体にとって、それほどないダメージになる。けれど、入ってきた攻撃の数が多いとそれなりのダメージになる。出血もかなりひどくなり、ヒールやバリアーだけでは間に合わなくなる。ローズにとって、この光景はとても辛く感じる。そのピンチになった柳を見たリンカは、自分の相手を倒したから、援護しようと彼女が動いて・・その時だった。
ドーン!
爆発音とともに、その死体の山の中からとても大きな「何か」が出た。大きさは都に出たあのモンスターの三倍もあるほど大きなものだった。前世ではよく怪獣映画にでてくるようなあの大きな怪獣やモンスターに見える。不気味な人の顔で、トカゲの尻尾で、恐竜の手と足みたいな生き物だった。ローズはあれを「モルグモンスター」と名付けた。
モルグモンスターが召喚されて、衝撃にびっくりしたモルグ人剣士は思わず動きを止めた。それを気づいた柳は一突きで相手の致命所に突き、絶命させた。遠距離魔法で、ローズが急いで柳へバリアーとヒールかけた。
(これは・・まずいわ)
リンカが呟いた。そう、非常にまずい状況になったのだ。駆けつけた兵士らとリンカたち3人では、この大きなモンスターを倒すことがかなり大変そうだ。ジャタユとミライヤがまだ来ない。
何人かの魔法師部隊が来て、遠くから魔法を放ったけれど、全く効かなかった。魔法防御が高いモンスターで、非常に厄介だ。ちなみに、あのえらそうなモルグ人の大将は、そのモンスターの肩で攻撃命令をしたようだ。
モンスターは口を開けると、高エネルギーの光線が口から放たれた!遠くにいる後衛の魔法師達に命中して、爆発音とともに、彼らがちりとなった。なんていう恐ろしいモンスターだ。モンスターは前に歩き、その尻尾を一振りをした。たくさんの兵士がその尻尾でなぎ倒されて下敷きになって、踏みつぶされてしまった者もいる。また遠くへ飛ばされた者も数多くして、地獄のような光景になった。
モンスターは両手を大きく回して、リンカたちに攻撃をし始めた。飛行部隊が上空から援護して、攻撃を放ったけれど、大したダメージにはならなかった。
ローズはそのモンスターを見ている。どうやら、モンスターが自分自身の魔法防御が高いではなく、このえらい人はモンスターにバリアーをかけているからだ、とローズは思った。
リンカは攻撃を試みているが、そのモンスターの動きがとても速く、苦戦に強いられている。疲れもあって、魔力もかなり使っていたため、動きが鈍くなってしまった。そして、ついにリンカが油断してしまい、敵の一振りに、体が当たってしまった。ローズが急いでバリアーをかけたけれど、リンカは瓦礫に激突してしまった。けれど、なんとか生きているようだ。一瞬でもバリアーが遅かったら、多分命を落としてしまうかもしれない。
「リンカさん! ヒール!」
(大・・丈・・夫・・だ)
モンスターが次に獲物を見つけたかのような、ダルガと柳の方に向けた。まずい!モンスターは拳を構えて、地面に強く殴りかかる。
ダルガは必死に抵抗した。けれど、周りの地面が大きく破壊されて、二人とも羽根のように、浮いてしまった。次の攻撃が来たけれど、地面に当たって、石や瓦礫が上に飛んでいった。それらの瓦礫がダルガと柳に当たってしまった。そして二人とも、地面にたたきつけられてしまった。びくっと動かなかった。
「いやあぁぁぁーー!」




