27. ドイパ王国 男女
船は目的地であるメリリア島に到着した。この島は丸ごとジャタユの個人所有別荘島である。島の大きさは中ぐらいで、4つの建物がある。船を止める岸壁からみると、岸壁の近くに一つのシンプルな建物がある。これは使用人や護衛の者のための宿泊施設である。そこから丘を登ると大きな建物がある。見晴らしが良い場所にあって、きれいな庭に囲まれて、南国風の建物だ。島の主であるジャタユはその建物で島を訪れる時に泊まるそうだ。きれいな庭を越えたその先は小さな橋があって、また違う形の小さな建物がある。その小さな建物も形は南国風で、寝室一つと水場も完備されている。草花に囲まれて、とてもプライバシーが良い場所になっている。そして、その建物がある岡から下ると、もう一つの建物がある。
白い浜辺に建てられて、とてもきれいな景色が楽しめる場所だ。白い砂に囲まれて、一日中もここでのんびりと過ごせそうな気がする、とローズが思った。この建物も南国風で、一つの寝室と水場も完備されている。とても良い色合いの家具に備え付けられていて、落ち着いた雰囲気の部屋である。
「俺とミライヤとリンカはあの大きな建物に泊まる」
ジャタユは大きな建物に指を指しながら示す。
「ダルガさんとモイさんはその岡の上にある建物で、柳さんとローズさんはあの浜辺の建物にする」
とてもわくわくで嬉しい!、とローズが嬉しそうにうなずいた。
「夕餉まで時間があるから、海で遊ぼう!」
ミライヤははりきって、早速とその足できれいな浜辺を走って、使用人が用意したベンチで服を脱ぎ始めた。なんという大胆さだ。ジャタユも笑いながら、ベンチの近くで建てられた着替え室に入った。
リンカはすでに着替えて、手に大きなボールを持って、浜辺に走って行った。いつの間に着替えたかが分からない、とローズはリンカを見て、笑った。意外とやる気が満々なリンカだった。水着は黒いビキニで胸元にリボンがあって、とてもかわいらしい感じになっている。白い肌に、黒色はとても良く合う。黒い尻尾は意外と水着の一部のような感じになっている。
ダルガとモイはローズと柳とともに素足でゆっくりとミライヤのところに歩いている。ミライヤはとてもセクシーなビキニで身につけていて、今リンカとジャタユのところにいる。リンカとジャタユはボール遊びをしている。ミライヤが合流すると、三人が笑いながら楽しそうにボールを遊んでいる。戸惑いながら水着に着替えたダルガと柳は海に足を入れた。そう、柳には、海が初めてなんだと彼が言った。なぜなら、アルハトロスには海がないからだ。ほとんど山だから、船があってもそれは湖を渡るための船だった。
旅に慣れているダルガは海が初めてではないけれど、仕事であちらこちらに行ったから、遊ぶ機会がなかった。ローズはこの世界の海が初めてだが、前世だとなん度も海に入った記憶が残っている。
先に着替えたローズは柳がいるところに向かった。そしてモイも現れた・・。なんていうことだ!きっとこれはミライヤの知恵だ、とローズは思った。腰に布をまいて現れて来たモイを見て、ダルガが固まってしまった。そしてその布を外し・・大胆に白いビキニだった。本当に、面白いものを見てしまった、とローズが苦笑いした。あんなに動きが止まったダルガを見るのは2回目だ。まるで石化の魔法にかかったかのような姿だった。その異変に気づいたローズが柳の手を引いて、あの二人から離れるようにした。お邪魔虫は消えるんだ、と。
ローズと柳はリンカ達のボール遊びに参加するため、輪の中に入った。大きなボールを使う遊びで、リンカ達の投げたボールがなん度も彼女の顔面に直撃した。大変だったけれど、笑いがずっと止まらなかった。砂につまずいて、転んだりしても、彼女がずっと笑っていた。ものすごく楽しかった、とローズは言った。こんなに楽しいことは、ここに来てから初めてかもしれない。笑い過ぎて、疲れて休憩すると、使用人が持ってきた飲み物に手を伸ばして水分補給した。柳も砂の上に座って一緒に休憩した。
「あんなに笑ったローズを見るのが初めてだ」
「そう?」
「ああ」
「こんなに遊ぶのが初めてだから」
「そうか」
柳がローズを見て、微笑んだ。
「お兄さんはこのように、皆で遊ぶのがある?」
「小さい時はあったな。でもそれきりで、初めて鬼神になってから、今日まで一度もなかったな」
「そうなんだ」
「だから今日は、多分俺の人生の中で一番楽しかった日になるかもしれないな」
柳が手を伸ばして、ローズの髪の毛を触れた。
「それは悲しすぎるよ。けど、これからたくさんと楽しい思い出を作れば良いんだと思う」
「ローズと一緒なら毎日楽しいな」
「私も兄さんと一緒にいて楽しいよ」
ぐ~~~~~~~~~~
恥ずかしい音がお腹の中から聞こえてきた。
「お腹が空いたか」
「うん」
「じゃ、そろそろ上がろうか。もうすぐ日が沈むんだし」
「うん」
柳が立ち上がって、手を伸ばした。
「ローズ」
ローズが柳の手を取った時、彼が声をかけた。
「なに?」
「その水着はとても似合うよ」
「お兄さんも、格好良いよ」
「そうか。良かった」
柳は微笑んで、ローズを引っ張って、浜辺で魚を焼いているジャタユたちの所に向かう。
リンカとジャタユは楽しそうに魚を焼いている。ローズが食べたかったたこは、別の料理として出て来た。なんと今夜の夕餉はすべてリンカの手作りだった。実はリンカの料理スキルはレベル10だ。ただ、彼女がとても面倒くさがりのため、日頃は料理をしないそうだ。猫の姿で過ごすのが大好きだからだ、と本人が言った。猫と料理とはどういう関係なのか不明だけれど・・、とローズは思った。
夕餉にちょっと出遅れてきたのはダルガとモイだった。モイはちょっと眠そうだったが、笑顔で勧められた料理を食べている。そう、モイはあまり肉類を食べないため、ジャタユはわざわざモイのために首都島から大量な木の実や野菜と果物を船に詰め込んできたのだ。これでモイも安心して、他の人と共に食事を楽しむことができる。
柳とローズは美味しく魚の料理を食べている。ジャタユは、あの小さなローズが大量に魚を食べていることに驚いた。どこに入るんだ、と首を傾げた。
海がないアルハトロスでは海の魚がかなり高価で、普段食べられない、と柳が言った。実際にローズはこの一年間、一度も海の魚を食べたことがない。川魚や肉なら普通に食べるけれど、海の魚がなかった。やはり味が違って、美味しい、と彼女が思った。
ミライヤは使用人が持ってきたお酒を呑んでいる。いつもの調子でいて、美味しそうにリンカの料理をつまみながら、お酒を楽しむ。なんか、すごく大人の雰囲気だ。ダルガたちは食事を終えると、先に部屋に戻ると言った。やはりモイが眠そうだったから気にしていて、早めに休むように、とミライヤに言われた。ローズはなんとなく、分かったような気がした。これは大人の事情ということだ、と彼女が思った。あの二人が幸せでいれば、それで良いと彼女が思う。うらやましいけれど、彼女にはできそうもないことだ。
食べたいものをほぼ食べ尽くしたローズを見て、柳が笑った。ローズが柳と一緒に部屋に戻ったけれど、ミライヤたちはまだしばらく夜の海を楽しみたいと言った。
「今夜もジャタユさんはミライヤ先生の部屋に忍び込むかな?」
ローズはなにげなく疑問を口にした。
「忍び込むと思うよ」
「なんで?あれは犯罪なんじゃないの?」
「ここでは犯罪じゃないね。特に貴族同士では、それは作法なんだ」
「なんか変だ。どういう作法なの?」
「夜這いというんだ。この国では未婚の女性の部屋に夜中に忍び込んで、思いを遂げる。成功したら求婚できる、とどこかで読んだことがある」
「なんかめんどうくさい作法だね。女性はいやがってたらどうするの?女性の方に不利じゃないの?」
「そうでもないさ。その女性の家族は必死に抵抗することもある。護衛や番犬まで置いた家のいるらしい」
柳がそう言いながら、ローズを抱きかかえながら、歩いた。
「ミライヤ先生の場合、リンカさんをそばに置いたのね」
「ああ、猫だから、さりげなく抵抗はしている」
柳はうなずいた。
「でも先、貴族同士と言ったよね?」
「そうだよ」
「ミライヤ先生って貴族?お兄さんの従兄弟だからお兄さんも貴族?」
「ミライヤ先生は紛れもない貴族だ。母親が父上の妹君だけど、父親は紅狐人族の王家、第四王子だった。国は海を渡って、大陸の西南辺りにあるけど、色々あってアルハトロスに身を寄せている。父上の親族として戸籍に登録しているらしい」
「そうなんだ」
「俺は貴族じゃない、少なくても自分がそう思っている。父上は武人だから貴族にはならない。昔の父上の貴族の位があったけど、あまり使わない。母上は貴族だけど、女性には貴族の位を自分の子に与えることができない。それにアルハトロスには他の貴族はもういない、王家は戦争で全員死んだからな」
「そうか、これから国が大変だ」
「そうだね。新しい王が誕生したら、国がなんとかなると思うけどね。すべて龍神様次第だな」
「うん」
部屋に入ったら、もうすでに湯船が用意されている。仕事ぶりが良い使用人を持っているジャタユで、部屋の中にも飲み物や寝間着、タオルなどが揃っている。ローズたちの水着はあとで部屋の外に置いておけば、使用人が後で取りに来て、洗ってくれるそうだ。明日の朝はもうきれいに使えるようにする、と言われた。とても優秀な使用人達だ。
ローズは先にお風呂に入って、寝間着に着替えた。その後、柳もお風呂に入って、寝間着に着替えた。使った水着は部屋の外に置いた。
寝室に寝台が2台あって、どれも大きな寝台だった。ローズが寝台に横になって、すぐに眠りに落ちたようだ。けれど、変な夢で、夜中に起きてしまった。隣の寝台には柳がいないことに気づいた。けれど、灯りが全部消されていて、真っ暗だった。ちょっと寒かったから毛布を肩にかけて、外を出たら、海に向かって一人の人影が砂の上に座っているのが見えた。柳らしいと彼女が思って、近づくことにした。
「お兄さん」
「ローズか。起きたの?」
「うん」
ローズが柳の隣に座ろうとしたが、柳はローズを寄せて、膝の上に載せて、座らせた。毛布は自分の背中と彼女の前を包むようにした。とても温かくなった。
「ここで何をしているの?」
「海を見てるんだ。月がきれいで眺めているだけ」
月か。そういえば、この世界の月が二つある。サイズが違うけど位地も微妙に違う。曇りの無い夜空に星がいっぱいみえた。とてもきれいな夜の景色だ。ローズは柳の胸に頭を置いて、耳を澄ました。心臓の音が聞こえている。彼女はこの心臓の音が好きだ。聞くだけですべての不安がどこかに消える。
「悪い夢でも見たの?」
柳が優しく声をかけてくれた。
「うん」
「大丈夫だ。ただの夢なら、怖くない」
「うん」
しばらく無言で海をみて、夢を思い出してしまった。アルハトロスの都で起きた出来事で、自分たちについての様々な噂もたくさん出回っているという夢だった。夢だから、本当かどうか分からないけれど、とてもリアルに見えた。良いことから、でたらめなことまで知ってしまったという内容の夢だった。
「お兄さん、ごめんね」
「どうしたの、いきなり謝って」
「私のせいで、お兄さんがまたたくさんの人の前で鬼神になってしまったこと」
ドックン!
いきなり心臓の音が強くなった。柳はびっくりしたのでしょうか、とローズは思った。
「ごめんね、あれでまた噂になってしまったみたいで・・、本当にごめんね」
ローズが思わず泣いてしまった。彼女はしっかりとモルグ人が召喚した化け物にとどめをしなかったから、柳が仕方なく鬼神になって倒してしまった。鬼神は強いけれど、あまりの強さに人々にとって恐れられている存在でもある。小さい時から鬼神の姿になった柳は、数え切れないほどの苦労を味わうことになった。
「知ってしまったのか」
柳がはローズを強く抱きしめた。彼はため息ついて、泣いているローズの頭をなでた。
「俺のために泣いてくれたのか」
「・・・」
「俺は何に噂にされても構わない。もう気にしないんだ」
柳は深呼吸して、気持ちを落ち着かせている。
「でも俺は、ローズが、あれこれと変な噂にされることが我慢できない。ミライヤ先生も、ダルガさんも、モイさんも、ジャタユさんも、それを知って、なんとかしようとした」
柳が優しい口調で、ローズの体を包み込むようにと抱いた。
「だからローズが目覚めたすぐにここに連れて来られたわけだ」
「うん」
「俺は、ローズの悲しむ顔が見たくない。ローズは俺のために泣いてしまったことが、俺にとって何よりも辛い・・、辛いんだ、ローズ」
「ごめんね」
「いや。ローズは悪くない。謝らなくても良い」
夢の中で、人々が噂をした。化け物を退治したのは化け物の兄弟だ。兄は鬼神で、妹は光ってる化け物で、都を血の雨で染めた光る化け物娘だ。でも事実、ローズは本当に化け物だったかもしれない。自分も未だに、何者かが分からない。どの種族にも当てはまらない謎の生き物である。ローズは人の形をしている「何か」だ、と自分も考えてしまう。そして自分のせいで、人前で鬼神になることがいやがる柳を、鬼神になってしまった。自分がしっかりととどめをさえすれば、柳を苦しまないで済むのに、と。
「お兄さん・・」
ローズが柳を見つめながら、小さな声で言った。
「私って、やはり化け物なの?」
ドックン!!
「誰がそんなことを言った?」
ものすごく殺気を感じる。間違えなく、これは柳の殺気だ、とローズが瞬いた。その殺気に、体が震えてしまったほどだ。
「いや、自分がたまにそう考えてしまった」
殺気が穏やかになった。上々に消えていく。
「ローズは化け物なんかじゃない。もし誰かがそのことを言ったら、俺は許さない」
「うん」
「もうそんなことを考えてはダメだ。ローズはローズだ。俺の愛しいローズだ」
「・・うん」
「ローズ、俺たちには居場所がどこにもないなら、二人で居場所を探すしか道がない。知らないところに行って、・・俺たちのことを誰も知らないところに・・」
「うん」
「だからもう泣かないで、俺が絶えられなくなる」
「うん」
ローズは体を丸くして、両手を柳の体に回して強く抱いた。辛い気持ちを涙とともに洗い流したい、と彼女が思う。柳も彼女を強く抱きしめてくれた。しばらくして、上々に不安が減ってきた。心臓の音が穏やかに聞こえてきた。
「落ち着いたか?」
「うん」
「そうだ、ローズ、俺たちはこれからペアなんだから、俺の名前を呼び捨てにして良いよ」
「兄さんじゃなくて?」
「柳・・でいい」
「柳」
「はい」
柳がうなずいた。
「でも父上の前だとお兄さんを付けないと怒られるよ。いくらなんでも兄弟に対する礼儀なんだから」
「なら他人の前だけで兄さん付けて呼べば良い。二人だけの時に呼び捨てにしてくれ」
「うん」
「柳」
「はい」
ローズが笑った。
「なんか違和感がある」
「慣れれば違和感がなくなる」
「うーん、やはりお兄さんってめちゃくちゃなことを言う」
「お兄さんではない、柳だ」
「ごめんなさい、柳」
「はい」
「柳・・?」
「はい」
ローズが微笑んだ。
「キスをしても良い?」
「キスって?」
「唇に、口付けを・・」
「ローズがそう望むなら・・、でも・・」
「でも?」
「それをしたら、俺は自制ができなくなりそうだ」
「それはまずい」
「だね。もうその質問を考えるだけでも、今夜眠れそうにないな」
「困ったな。健全に解決をしないと・・」
「健全にね・・」
柳が苦笑いした。
「そうだ。勝負しようか、鞭で、怪我がないようにトゲをしまうから。どちらかが戦闘不能になれば良いかな」
「俺は勝つよ?」
「負けないよ、柳」
「なら、かかって来い、ローズ」
「望むところよ!」
変な展開になってしまったけれど、これもすべて今夜の安眠のために!、と。
ローズは数メートルの距離を取った。自分の鞭を出して、あのびっしりと着いたトゲを念じて出てこないようにした。薔薇だから、トゲが多い彼女の鞭は殺傷力が高い。一方、柳の鞭はとてもしんなりしていて、重い。あれはまともにあたると骨が砕かれるほどの威力がある。
「さ、来い! ローズ」
柳がそう言いながら、自分の鞭を出して、ローズに向けた。ローズは鞭を振り下ろして、同時に柳もそれを応じた。鞭と鞭のぶつかり合いの音が響いた。真っ暗のはずなのに、月の光だけで、鞭の動きが見えた。波の音でその乾いた鞭の音が消されたりした。
ローズは飛び込みながら回転して、柳の鞭を絡もうとしたけれど、やはり腕は柳の方が上だ。手の長さも、あちらの方が長いため、近づくことがほぼ不可能だった。けれども、なんとなく、手加減はしているようだ。でないと、ローズはもうとっくに死んでいる。それでも負けたくないんだ、とローズは思って、鞭を堅くして、棍棒の形にした。
棍棒ならあの鞭をからめて動きを止めることができるかもしれない。武器についてあまり詳しくないローズは、すでにレベル5の武人である柳に勝負を挑んでいても正直に言うと、勝ち目がない。それでもやってみないと分からない。ローズ自身のためにも、戦い方を教えてくれる柳がいるならやってみるしかない!
「えい!」
ローズは高くジャンプして、両手で鞭の渦を挑む。すると、柳が鞭を波のように動かし、上から下、左から右へ、隙をなくした。
「バリアー!」
自分にエンチャントした。寝間着だからリスクが高すぎるが、柳に近づかなければ朝になっても勝負が付かない。だから距離を縮める必要がある。
「あはっ!」
鞭が体に直撃した。バリアーを付けて良かった。でないと死ぬ。痛い、あばらから背中にやけどするような痛みが走る。手加減をしても、容赦はしない。リンカの言う通りだ。柳は、ためらいのない動きがやはり訓練された武人であるからだ。
「ヒール! バリアー!」
なんとか立ち直した。それでも突っ込まないと!
一瞬見えた隙があった。けれど、罠かもしれない。それでもそれをしかないと思い、高くジャンプして、動きながらもう1本の鞭を左手で瞬間的に出して、素早く当てたが、回避された。その動きを待っている!と右手に持った棍棒を短くして、剣として持ち直した、隙あり!剣の形にしたローズの鞭はすごいスピードで、柳の頭に直撃しようと思ったが・・。
「残念だったね、ローズ」
柳は、ローズの攻撃を、生身の腕で受け止めた。すごい気がその腕にまとうような感じがする、とローズは思った。
「う!」
柳は攻撃を止めた腕を素早く動かして、彼女の手首をつかんだ。そして体を素早く前に動かし、もう1本の手で彼の左手を当てて武器を落として、そのまま宙に浮いた彼女の体を、その手で自分の方に寄せた。そしてもう一本の手がローズの足を支えて、腕に乗せた。同じ目線になった。
「む。負けました」
「俺の勝ちだろう?」
「うん」
「でも戦いが上手になった。ダルガさんのおかげだね、ローズ」
「うん。柳は強いな」
「ローズも強い。魔法を使ったら、俺は勝てるかどうか分からない」
「そうか」
ローズは笑うと柳も笑う。
「まだ背中が痛む?」
「ちょっとね」
「ごめん」
「ううん、大丈夫、バリアーと回復魔法付けたから明日は治る」
「あざが残らなければいいんだが・・」
「残ったら、残ったで、問題ないよ」
「女の肌に傷を付けてしまうと色々言われそう」
「もうすでに人の顔に落書きをした人は、今になって何を言うんだ。あざ一つや二つぐらいなら痛くなければ問題ない」
「そう言われると、俺は何も言えなくなるんだけど」
柳が苦笑いした。
「はい、あなた達は何をしてるんですか、この真夜中に」
突然の声にびっくりした。なんと猫の姿のリンカがいた。ダルガまでいた。
「あ、ごめん、眠れなかったから、ちょっとした訓練で・・つい」
「いやぁ、びっくりしたよ。いきなり闘気を感じて、誰かが戦ってると慌てて見に行ったらローズ様と柳さんだったとはねぇ・・」
「あはは、ごめんなさい、ダルガさん」
「まぁ、これで良く眠れるんだろう?さっさっと寝なさい」
「は~い」
「返事を短く、伸ばさない!」
「はい、教官!」
「よろしい。お休みなさい」
ダルガはあくびしながら頭ぼりぼりして、再び自分の部屋に向かった。睡眠を邪魔してごめんなさい!
「さて、お休みなさい」
リンカさんは言ったが、次の瞬間、ミライヤたちが泊まっている建物にに振り向いた。
「しまった! ミライヤ!」
リンカがすごいスピードで建物の砲に向かい走って、消えた。
「リンカさん、どうしたの?」
「あれだろう、ジャタユさんの夜這いだ」
「あ、なるほど」
間に合うと良いね、リンカ、とローズが笑いながら思った。
「さて、寝ようか」
「うん。毛布が砂だらけになったけど、良いか」
「俺の毛布を使えば良い」
「良いよ、何とかする」
柳はローズを降ろして、地面に落ちた毛布を拾ってパンパンを砂を落としくれた。
「これで、なんとかなった!」
「うん」
その夜、戦いに疲れたローズが朝までぐっすりと眠った。柳が眠れるかどうか、ローズは分からない。
一方、ミライヤの部屋には、ジャタユが入った。
「なんだ起きてるんか、ミライヤ」
ジャタユが言うと、ミライヤが微笑んでいる。
「ええ、だって、あんなにうるさいからねぇ、ジャタユ」
ジャタユは窓際に行って、窓から外を確認して、笑った。
「あなたの従兄弟たちは面白いね」
「健気な子どもたちよ、あの二人、どうしようもないほどにね」
「んだね」
ジャタユはミライヤの方に見て、微笑んだ。月の光で照らされるミライヤの姿をじっくりと見つめた。
「ミライヤ、今夜俺の勝ちだ。もう俺に身を預けてくれても、良いんじゃない?」
「それは、どうかな?」
「なら力尽くで明日まで寝かさな・・、痛い!」
シャアー! ガブッ!
「痛い痛い痛い!なんで戻ってきたんだよ、この黒猫め!」
「シャー!」
「分かった!分かった!もう噛むな・・痛い!」
ジャタユは慌ててミライヤの部屋から出て行った。
「ふん!」
「あら、危なかったわよ」
黒猫のリンカは呆れた顔でミライヤを見つめる。
「ミライヤ、服を着なさい。風邪ひくよ」
リンカが裸の姿のミライヤを見て、呆れた。
「ふふふ、おやすみなさい」
「はぁ~、おやすみなさい」
今夜のジャタユの試みもリンカの働きによって、破れたり~。




