26. ドイパ王国 巨大たこ
「おはよう、ローズ」
柳の声でローズが目を覚ました。日差しが窓から入ってきて、まぶしく彼女を照らす。
「おはようございます。あれ、もう日が昇った。私、寝坊した?」
ローズが柳に聞いた。
「いや。ゆっくりと寝かしていて良い、とジャタユさんに言われた。まだ疲れが残ったんだろうと、今日はゆっくりとしよう」
「うん」
「具合はどう?」
「大丈夫、なんともない。起きるよ」
ローズは体を起こし、寝台に座った。柳はカーテンを開けて、まぶしい朝日が部屋中を温かく照らす。しばらくして、モイと二人名の侍女が部屋に入って、温かい湯を持ってきた。すると、柳は外へと出て行った。
「おはようございます、ローズ様」
「おはよう、モイ」
他の侍女達もローズに朝の挨拶をした。侍女達は慣れた手際で、寝間着が脱がし、彼女の顔や体を濡れたタオルで拭いた。
ローズは自分でもできると言ったけれど、主のジャタユの命令で、彼女の世話をするようにと言われた。なぜなら、龍神の都の戦いの後、ローズは一週間も寝てしまって、起きたすぐに数時間の空の長旅をして、このドイパ国に来たからだ。その彼女を気遣って、色々と配慮しているようだ。
ローズは服の準備をしているモイを見た。今日の彼女は侍女服ではなく、普通のワンピースのドレスだ。昨日の買い物で買ってきた服で、上品な花柄の服だった。今回の旅では、モイはローズの侍女ではなく、ダルガの婚約者としてここにいる。これはミライヤの決定事項なので、ローズたちが従うしかない。
と言うことは、ローズは侍女ではないモイを勝手に命令したりしてはいけない。どうしても助けが必要なら、ちゃんと「お願いします」あるいは「下さい」というお願い言葉を付けるように、と。きっとこれは、ローズを自立させるための教育でしょう。ローズはずっとモイに甘えられて、自分一人では生きていけないというように見えるかもしれない。実際に、今までやはりモイの助けがなければ、多分ローズは生きていくのに大変になるでしょう。けれど、最近は身長も伸びて、髪の毛も自分で洗えるようになっただけではなく、蔓の使い方も上手にできるようになったから、これから一人でも何とか生きて行ける、とローズは思った。後は料理の勉強していれば、完璧な異世界ライフができるでしょう。
日差しに照らされるモイを見ると、何だかとてもキラキラとしている。モイはとても幸せそうな顔をしている。先からずっと笑顔だ。昨夜、何があったかな?ダルガと愛の語り合うでもしたかな?まぁ、子どものローズはそれを聞くのがちょっと変だから、ここで黙って見守るだけにしよう、とローズはモイを見て、思った。
もうすぐモイがローズのそばから離れて、大好きなダルガと幸せな家庭を築くと思うと、嬉しいのだけれど、寂しい感じもする。もうあの花のお茶が飲めなくなるからだ、とローズは残念そうに思う。今度それの作り方を教えて、もらわないといけない、と彼女は思った。
「ローズ様、先からずっとお静かで、大丈夫ですか?お加減はいかが?」
モイはローズを見て、左手を彼女のおでこを触って、熱を確認した。
「あ、いや。何となく考えているだけだ」
「何を考えているんですか?」
「うーん、モイとダルガさんは結婚して、子どもができたら、どんな顔になるのかな?ダルガさんのような尻尾が長い子なのか、あるいは、モイのようなきれいな子なのか、と」
「まぁ・・!」
顔が真っ赤になったモイで、かわいい、とローズが思った。二人の侍女達も思わずくすくすと笑い出した。
「あはは、ごめんね、モイ。からかうんじゃなくて、本当に心からモイの幸せを願うんだ。ダルガさんはああいう恋とやら、とても不器用な男だけど、モイとうまくできて、嬉しいんだ」
「ありがとうございます」
「あ、でも、モイとダルガさんと結婚したら、私はモイと呼び捨てにはいけないな。師匠の奥さんだから、モイさんか、モイ様になるのね」
「ローズ様はモイで良いんですよ。私たちは二日や三日の仲ではないのですから」
「じゃ、結婚したら、モイは友達として考えても良い?」
「はい。うれしいです」
「友達だから、私の名前を呼び捨ても良いんだよ」
「それはなりません。私の中では、ローズ様はローズ様です」
「うーん、それはずるい」
「いいえ、ずるくありません。はい、そろそろ着替えましょう。朝餉の準備ができています」
またモイに負けた、とローズが苦笑いした。服の着替えを済まし、髪の毛もクシできれいにしてもらって、散った花びらを髪の毛の間からきれいに取ってもらって、髪を軽く結った。今日は赤い花柄の服に合わせて、ツインテールにした髪の毛にきれいなリボンで飾った。侍女たちにとって、ローズが着せ替え人形だったかもしれない。部屋を出たら、部屋の前に柳とダルガはもう待っている。
「おはようございます」
ローズがダルガに挨拶したら、ダルガは丁寧に返事した。その顔は今までと違って、大変幸せそうな顔をしている。やはりモイと何があったのかもしれない。良いことなら、心から喜ぶ、とローズは思った。
柳はローズを抱きかかえて、腕に載せた。最近身長が伸びたから、そろそろ重くなってしまうんじゃないか、と彼女は思った。けれど、二歳の子に、1メートルの身長だと、結構背が高い方じゃないか、と彼女が思った。この成長の謎が、正直に言うと、かなり変で、分からない。魔力や覚醒と関係あるのかもしれない、とローズが自分自身を見て、再び思った。
「皆、朝餉を食べた?」
「まだだよ」
柳が答えた。
「ミライヤ様とリンカさんは今朝ジャタユさんと一緒に朝餉を取りましたが、私たちはローズ様を待って一緒に食べることに決めたのです」
ダルガも答えてくれた。
「先に食べても良いのに。皆、お腹が空いたんでしょう?」
「なんの、大丈夫ですよ。ローズ様は一人で食べると、寂しいだろうと思います」
「私は・・大丈夫。寝坊してしまって、ごめんなさい」
ローズがうつむいて、謝罪した。
「深く考えるな。皆がローズのことが好きだから、こうしたんだ」
柳はローズの頭をなでながら、その足で食事所を目指した。
「ありがとう」
「なんの、なんの」
ダルガは笑いながら、モイの手を引いて一緒に食事ところに入った。
机の上に用意された食事はどれもとても美味しそうだ。昨日からたくさんの美味しいものを食べてしまい、太りそうな気がする。ちびで太る、なんかボールになりそうだ、とローズが思った。けれど、やはり美味しそうなんで、ありがたく頂きます!、と彼女が嬉しそうに手を合わせた。
「頂きます!」
楽しい朝餉を終えて、散歩から帰ってきたミライヤたちとジャタユはローズたちがいる中庭に現れた。ジャタユの手に傷の手当ての布が巻かれている。
「おはようございます」
「おはよう、ローズさん。良く眠れたか?」
「はい」
「それは良かった。昨夜、いきなり寝てしまったから、心配したよ」
「はい、ごめんなさい、ご心配をかけてしまって・・」
「気にするな。まだ疲れただろうし、あまり無理をしっちゃだめだね」
「はい」
ローズがうなずいた。彼女がしばらくジャタユを見て、首を傾げた。
「ジャタユさんって、王子様なのに、言葉使いは普通の人と変わらないんですね」
「ははは、普通か。良いね、それ。俺は気楽な生活が好きなんだ。日頃街に出て、普通の人と触れ合って、生活するのも良いと思ってるんだ。でも、あの三人はいつも付いてくるから、やりにくいんだよな。でも、こうして友達がここに来ると嬉しくって、嬉しくって、ははは」
ジャタユが豪快に笑った。
「まぁ、日頃いつも仕事をサボっているんですよ、この王子様は」
ミライヤはジャタユのほっぺに指をつついた。本当に仲が良い、とローズが思った。
「仕事って、どんなお仕事なんですか?」
「まぁ、いろいろ。例えば、ミライヤみたいな美女の護衛とか・・」
え?と思った時にミライヤがジャタユのお腹を指でつついた。本当に仲が良いんだ、とローズは思った。
「なるほど。すごいお仕事ですね。あ、一つ尋ねても良いですか?」
「良いよ。美女の質問ならなんでも答える」
なんかこの王子、とても陽気な人だね、とローズが思わず笑った。
「その手はどうしたのですか?」
「あ、これか?良く気づいたね。心配してくれてありがとう」
「傷なら直せます」
ローズが言うと、ジャタユは苦笑いながら、首を振った。
「良いんだ、大丈夫。これはねぇ、かすり傷だけなんだから、心配ない」
「あれはねぇ、昨夜、リンカに噛まれた傷なのよ」
ジャタユが言うと、ミライヤは小さな声でローズの耳に言った。リンカは聞かないふりをして別の方向を見て、庭の方に歩いた。
「え?噛まれた?」
「あ、いやいやいや、何もないんだ」
ジャタユは慌てて手を振った。
「まさか、また先生の部屋に忍び込んだの?」
ぎくっ!、とジャタユは一瞬にして、固まった。
「部屋の鍵をかけてないよ、と言っただけなのにな。忍び込んで来てね♪、とは言ってませんよ、ジャタユ」
おい、先生。それって、誘っているんじゃ?何を考えているんだとこの大人達が、とローズは呆れた様子でその二人を見た。
「ミライヤ、子どもの前に、それ言っちゃまずいんじゃ?」
ジャタユが言うと、ミライヤが笑った。
「大丈夫。ローズちゃんは体が小さいだけ。中身は小さくないんだ。ねぇ、ローズちゃん?」
「ねぇ、と言われてもねぇ・・」
ローズが言うと、ミライヤがまた笑った。
「ほら、見て、二歳の子はこんな会話についていけないのよ」
「なるほど」
この会話をずっと聞いている柳はローズを見ている。
「聞いても良いか? ローズ」
柳が突然近づいて、ローズに問いかけた。
「何?」
「この世界に生まれて来る前に、ローズは何歳ぐらいだった?」
「うーむ、年はそんなに覚えてないけど・・」
「そうか」
「でも大体、柳兄さんとそんなに変わらないかもしれない。多分、ちょっと年下かなぁ~、そこは記憶がない。自分もどんな姿で、どんな顔だったのも、覚えてない。ただ、名前だけが、ローズだった。それだけが記憶に残っている」
ローズの答えで、彼がうなずいた。
「なるほど、世界には不思議なものもあるのねぇ」
ジャタユがうなずいた。
「うん。でも私はこの世界のことが何も知らない。この世界が、私が知った世界ではないから、不安がいっぱい。そして、体が小さいからか、時には小さい子どものような行動をしたりして・・自分が思ったこととやってることにも時に違和感があるんだ。二歳としての自分と、昔の自分が統一されてない、と思った時もある。だから不安だ。なんか先から不安ばかりで、ごめんなさい」
ローズが謝罪して、彼らを見ている。
「大丈夫だ。俺はローズのことを理解するつもりだ」
「ありがとう、兄さん。不安がいっぱいだから、自分のためにも、この世界をもっと見て歩きたい。もっと勉強したい。色々なことが知りたい」
「そうか。アルハトロスへ戻ったらやはり旅に出よう、ローズ。俺と一緒に」
「うん」
ローズは柳の顔を見て、そしてジャタユの顔も見た。
「でもその前に、ドイパ国のことをもっと知りたいんだ。いつまたここに来られるかが分からないから、滞在している間にたくさんと遊んで、色々なことが知りたいんだ。良いかな、ジャタユ王子?」
「無論だ。第二王子の客人として招いたのだから、身を癒やして、満足するまで、滞在するが良い」
「ありがとうございます。なんか、今は王子様っぽいです」
「そうか。ありがとう。かわいいね、ローズさん。君が大きかったら、俺の妃にでも・・」
ジャタユがローズの手を取って、その決め台詞を言うと、柳が答えた。
「却下」
「痛い痛い痛い・・」
同時にミライヤもジャタユのお腹に指でつまんだ。思わずローズが笑った。本当に陽気な人だ、と。
昼前に、ローズたちはジャタユの屋敷を出て、町を歩き、たくさん食べ歩きした。昼餉は屋台が良いと言い出したローズの提案に賛同したものの、また10人で町を歩き回ることになった。本当に屋台って面白い、見たこともない食べ物が多く、どれにするかが迷うぐらいだった。
食事を終えると、ローズたちは港へ向かった。そこに中型ぐらいの大きさの船があって、第二王子の紋章があった。
船の中に入ると数人の使用人と侍女がいて、ローズたちの荷物もきれいにまとめられた。ローズたちが一番上の階まで上がると、見晴らしの良いデッキに着いた。モイは思わず声を出して、景色を楽しんでいる。ダルガもモイの隣でいっしょに景色を楽しんでいる。あの二人がまるで、新婚旅行のようだ、とローズが思った。違いない。ラブラブな二人で、分かりやすすぎる。
ローズは柳とデッキのベンチに座った。船が動き出すと、少し揺れている。出航したのようだ。どこに向かっているかが楽しみだ。途中で一人で歩いたリンカを見かけたり、頭をぽりぽりとかいたダルガの後ろ姿が見えたりして、皆、それぞれ旅の楽しみ方をしているのだ、とローズは思った。柳は相変わらず、ローズの隣に座って、手を握っている。大きな手だ、と自分の手を彼の手にかざしたりした。柳の手は皮膚が硬くて、この強い手には、たくさんの苦労をした手だと思う。
「俺の手はどうかしたの?」
「ううん。大きいなと思っただけ」
苦労した手だと言ったら、失礼にあたるかもしれない。
「ローズの手が小さいだけだ」
「うん。でもちょっとだけ、大きくなったよ」
「そうだな」
「大きくなって、体重も重くなったでしょう?もう腕に乗せられないよね」
「大丈夫だ。ローズは軽いよ。それに、もっと大きくなったら、両手で抱っこするから大丈夫だ」
柳が微笑みながら言うと、ローズが口を尖らせた。
「え、それは恥ずかしいからいやです。お姫様だっこみたいなのはちょっと・・」
「俺は恥ずかしくないから、大丈夫だ」
「私は恥ずかしいのです」
「他人の視線なんて気にするな」
「そうはいかないよ。変な噂になると困るし。父上と母上を悲しめることになる」
ローズが言うと、柳は微笑んで、ローズの手をぎゅっとにぎった。
「そうか。・・そうだな」
「うん」
「だったら、やはり二人で旅をしないとダメだな。俺は噂など、大嫌いだ。俺たちのことが知らない所に行けば、気が楽になる」
「うん」
「俺はローズさえそばにいれば、それだけで満足する。ローズと生活に満たすものさえあれば、十分だ。仕事は、まぁ、探せばあるんだろうし。俺は武人だけど、戦う以外のスキルはなんとかなると思ってる」
「私は大食いだから、それなりの収入が無ければ破綻するよ」
「ははは、それなりの収入になるように働くさ」
「それじゃ、お兄さんが一人で苦労するんじゃ・・」
「ローズとともに笑って生けるなら、苦労とは思わない」
「ありがとう、兄さん」
「なんの」
柳がそれを言うと、ローズがまた口を尖らせた。
「む、ダルガさんの真似している」
「ははは、似てないか?」
「全然」
「そうか」
柳が笑って、ローズの鼻をつまんだ。ローズも笑って、柳を見つめている。
「兄さん・・」
「ん?」
「心臓の音、聞かせて・・」
柳は何も言わず、ただローズの手を握った左手を外し、彼女の肩に回し自分の方に寄せてくれた。言葉にならない気持ちを心の奥にしまいこんで、ローズは目を閉じて、ドクンドクンと心臓の音を聞くことにした。
ドーン!
突然、船が大きく揺れた。モイの悲鳴が聞こえて、ローズたちは急いでモイのところへ駆けつけた。そこにモイをかばったダルガが見えた。
その先にいたのは何とも言えない、巨大なたこだった。
リンカとミライヤも駆けつけた。ジャタユとその護衛達も現れた。
「なんでこんなところで巨大たこが・・」
「分からない、突然下から現れて、船を襲った」
ミライヤが言うと、ジャタユも首を振った。
「このままじゃ、船が沈没する!」
「たこか。どうやって倒そうか」
リンカは素早くそのたこの足を切りつけたが、なんとその切られたところから細胞が現れて修復した。再生能力を持つ生き物だ。
「切れば再生するんだ。あれは物理攻撃が効かない」
「じゃ、どうする?魔法?」
「魔法を使っても、たこの足がここから離れて行かないと船ごと巻き込まれるわ」
リンカとミライヤが困った顔をした。
「先生、魔法をそのたこの足に通じて体内に入れれば良いんじゃないの?」
「その手があったんだね。ありがとう、ローズちゃん」
ミライヤは手の平に魔法をかけた。そして船に張り付くそのたこの足に手を当てると、そのたこが暴れる。船を強く揺らし足下が不安定になった。ローズが転びそうになったけれど、柳が彼女の手をつかんだ。
「ローズ、ペアの初仕事でもしようか?」
柳は笑顔で提案した。やはりこの人はむちゃくちゃなことを言うんだね、と彼女が思った。
「それは良いけど、作戦は?」
「俺が頭を傷を付けるから、ローズはその傷から魔法でとどめをして、倒す」
「分かった」
「行くぞ!」
柳は剣を抜いて、火属性の魔法をエンチャントしてもらっていたら、たこを叩く。彼がたこの頭を目指して、船のデッキから海へ飛び込んだ。ローズは氷の魔法で柳の足場を作り、たこの動きを封じた。
柳がその氷でできた足場へ移動して高くジャンプした。柳の剣はたこの頭に刺さることを確認して・・。
「兄さん、手を離して、そこからちょっと離れて!」
「あいよ!」
ローズがタイミングを見て、魔法を唱える。
「ライトニング!」
ドーン!
雷系の魔法をぐさっと刺さった剣に通じて、たこの体内に入った、びりびりびりと電撃的な音をして、雷による焼けてしまった。たこの体から香ばしいにおいがで出た。柳はローズの腰に手を回し、つかんだ。そして、彼がたこの頭に刺さった剣を抜くと、匂いを嗅ぐ。
「なんか美味しそうな匂いがした。香ばしい」
「食べる?」
「どうだろうな」
柳が笑いながら言った。
「おーい、君たち、大丈夫か?」
ジャタユはデッキの上から手を振った。
「はい! 今から船に戻ります」
ローズが船にどうやって戻ろうかと考えている最中に、柳が自分の鞭を出して、船の尖った所に引っ掛けて片手で、ローズを連れて船の上に戻った。
巨大たこにびっくりしたモイは腰を抜かしたようだったけれど、怪我がない。ダルガの素早い判断と動き床に伏せたことで、海に落ちなかった。護衛の人たちは張り付いたたこの足を一所懸命に斬った。斬らないと蒸し焼きされたたこの重みに負けて、船事が海の中へ引き釣られてしまうのだ。
「結構思いきったことをしたね、あなた達は」
「いや、ペアの訓練だと思ってやってみたの。うまくできて良かった」
ローズが大きな笑みを見せながら言うと、柳もうなずいて、笑った。
「俺はローズ信じてるから大丈夫だと思った」
「良い連携した。良くやった!」
ダルガがうなずいて、タコを見て褒めた。彼がその後、モイを支えながら、近くのベンチに移動して、モイを座らせた。
ローズは切り落とされたたこを見て、ジャタユを問いかける。
「あのタコはどうするの?」
「どうするって?食べたいの?」
「いや、食べたことないから、どんな味かな?」
ローズが聞くと、ミライヤが首を振った。
「ローズちゃん、拾い食いはダメだよ」
「この大きさのたこは大味で、あまり美味しくないんだ。でも、それを餌にして、美味しい魚が良く捕れる。美味しいたこも釣れるから、それを食べよう!」
ジャタユがミライヤの意見に足した。
「賛成だ」
リンカもジャタユの提案に賛成した。使用人たちと護衛の人たちはデッキに切り落とされたたこの足をバケツに集めて、船の掃除をした。たこの本体はもう海の中に沈んでいた。
船が再び動き出した。柳がきれいな水で自分の剣をきれいしている間に、ローズは下の階で使用人達の働きを見ている。網を準備して、魚が多くとれる場所まで船を移動する、と使用人らが言った。
目指すところに着くと、使用人達は網を投げて、刻んだたこの足を海に投げた。しばらくしたら、ぶくぶくと海面が動いて、魚が集まった。柳はローズがいるところまで来て、海に落ちないように肩をつかんだ。網を上に引き上げたら、たくさんの魚が集まっていることにローズがびっくりした。もちろん、大きさがそこそこのたこもいた。どんな味がするでしょう、と彼女がキラキラとした目で網にかかっている魚を見ている。今夜のご飯、楽しみだ!




