25. ドイパ王国 海外旅行
「うわー!海だ!」
そう! 海だ。
ローズが今柳と一緒に、ジャタユの部下の背中の上にいる。龍神の都の奪還作戦が成功した、ということで、お疲れ様会兼ご褒美として、ミライヤに海外旅行をプレゼントされた。
この世界にも海外旅行ってあるんだ、とローズはそう思いながら周りを見ている。と言っても、海外旅行はこの世界では普通ではなかった。交通手段が発達していないため、やはり一般の人は気楽に海外に行くことができないようだ。
「ローズ!あまりじたばたすると、落ちてしまうよ。しっかりつかまりなさい」
柳に注意されたローズはにっこりと笑って、うなずいた。あの戦いの直後、ローズが柳に抱かれたまま寝てしまったらしく、周りが心配になった、とモイから聞いた。何しろ、柳がとても強い鬼神だから、あの影響でローズが倒れたではないか、と言う者もいた。
しかし、実はそれが覚醒をしたばかりだった。そして、戦闘で力を使い果てしまったと、ミライヤが説明した。体が小さいから、あれほどの魔力を使うと、体への負担が大きい、と龍神の神殿の司祭は言った。都や宮殿が壊滅的に破壊されたから、ローズたちはしばらく神殿で寝泊まりした。
もっとも、ローズがあれから1週間もずっと起きずに、寝っぱなしだった。やっと眠りから目を覚ましたら、涙ぽろぽろをしていたモイは嬉しそうにローズに声をかけた。柳もダルガも、黒猫のリンカもミライヤも喜んだ。それに体がもうぴかぴかに光ってないから、ローズがホッとした。声も普段通りになった。ただ彼女の額に、赤い楕円型のあざができてしまった。何をしても消えない、とモイは言った。
そう言えば戦っている最中の感覚は、何だったのでしょうか。あまりよく覚えていないけれど、感んじ的に、自分の体であって、自分の体でない、とローズは感じた。
空を飛んでいたし、リンク中だとローズは思ったけれど、実際に瞬間移動だった。体ごと、丘の上から宮殿の中に一瞬で移動した、ということだった。ダルガから聞いた話だと、ローズが急に目の前から消えた、と彼はとてもびっくりしたそうだ。それに、ローズがいきなり宮殿を突き破って、あの大きな謎の生き物と戦闘したと、またびっくりした、と。
ブラッディー・ローズという技を出して、血の雨で都を赤く染めて、おまけに鬼神が力を解放する時点で、鈴に退避指示を出すようにと言ったのもダルガだった。
いやぁ、大変だったみたい。人ごとのように聴き流すローズだったけれど、最後にダルガに頭をぽんぽんと軽く叩かれて、笑った。
都が奪還されたけれど、二人の将軍も失ったこの国は、今後はどうなるでしょうか。王がいないから次の将軍も選ぶことができない。龍神様、早く新しい王を与えてください。モルグ国はまた攻めてくるかもしれないんだ、とローズは心の中で祈った。
ついでに、リンカたちが落とした飛行船五機は、今 解析班と技術班と暗部隊が分析しているところだとダルガから聞かされた。近いうちに、おそらくミライヤに研究要請が来る、と鈴から聞いた。あと影丸から御礼を言われた。戦いの最中に助けたから、任務を全うすることができた、と。
やはり影丸の手にある敵の首はモルグ人の将軍だった。飛行船で逃げようと思ったらしく、宮殿を抜けたけれど、全機がリンカに落とされたため、こっそりと逃げようとした。けれど、探知機魔法を発動した影丸さんに見つかって、首を斬られた、という話も聞いた。影丸は暗部の中でも上位にあるから、逃げようとしたらほぼ無理な話だ。また暗部隊に入りたいなら、いつでもおいでと言われた。けれど、柳はきっぱりと断った。やはり暗部隊って怖いところなのか、とローズは思った。
ちなみに暗部本部はダルゴダスの屋敷の真横にある。毎朝の走りコースは必ずこの暗部本部の横に通った。とてもひっそりとしていて、怖い場所としての覚えがない。けれど、これからは多分違う感覚でしょう、とローズは再び思った。
魔石にされた宮殿の家臣や侍女たちと都の住民達は、ミライヤに助けられたという話はモイから聞いた。基本的に生きたまま閉じこめられたのだから、それらの封印を破壊すれば元に戻るという仕組みだった。
今は都に暗部や正規軍が治安を取り戻すために逃げ隠れた敵軍を探しに真っ最中だ。敵がまだいるかどうかを確認中だ、とミライヤは言った。里の戦力はとりあえず都の至るところで、まだ待機中だ。
そしてあれこれと色々な噂があって、ローズたちに聞かせたくない話もあるらしい。ローズも詳しいことが分からない。という訳で、ローズたちは念のため国外に疲れを癒やしながら、噂が落ち着くまでのんびりと過ごせば良い、とミライヤは言った。ダルガ班全員で行こうと提案したけれど、暗部である鈴と影丸は今がとても忙しいから断った。だから旅行するのはローズと柳、ダルガとモイ、そしてリンカとミライヤの6人だ。向かい先はジャタユの国、南国にある島々の国、ドイパ王国だ。
「俺は海外なんて初めてだ」
柳はとても嬉しそうな声で言った。それはそうだ。やっと里から出られただからだ。里の掟では、レベル5にならないと自由が制限される。だから遠くにいたローズを会いにするために、柳は必死の思いで短期間でレベル3からレベル5まで登りついた。異常な早さでダルガもびっくりした、と彼が言ったのだ。ちなみに旅に慣れているダルガは隣の鳥の背中の上で、モイと嬉しそうに会話中だ。モイが落ちないように、ダルガはしっかりと後ろからモイの体で支えている。あの二人はこの任務終わったら婚約するそうだ。おめでとう!、とローズは遠くから彼らを見ている。
数時間の旅だから、柳はいろいろな話をした。特に初めて雷鳥を食べた時の話が、あまりにもおかしくて、ローズは笑いすぎて、落ちそうになった。ローズたちを背中に乗せてくれたジャタユの部下のレイも笑ってしまって、かなり揺れた。
念のため、基礎知識として、基本的に鳥も肉食である。果物や木の実を食べる鳥も多いけれど、大半は肉食である。ちなみにジャタユらが鳥人族で、肉食である。
「見えたよ!」
レイは行った方向に見ると、大きな島が見えた。とても美しい島で、白い砂の浜辺が見えた。海がとても青く、美しい。
ローズたちがとりえずそこ辺りで買い物をしようとミライヤが提案した。この前の戦いで、なぜかローズの身長も伸びてしまって、服がきつくなった。今は約1メートルになった。一年前は約40センチぐらいしかなかった。けれど、今はやっと1メートルになったのだ。しかし、柳はもっと高いからまだ遠い、とローズが思った。せめてモイの身長まで伸びて欲しい、と彼女は密かに願った。モイはダルゴダスの屋敷の中にいる侍女達の中では一番小柄で160センチぐらいだった。侍女長が多分、小さなローズと相性が良いと判断したのでしょう。
ついでに、荷物はミライヤの屋敷から取りに行ったのはダルガとモイだった。全部を持って来た、と彼らが言った。もう三人でその屋敷に戻ることはないでしょう、と二人が認識していて、部屋もきれいにした。ちなみに柳のカバンは戦闘前にモイに預けたらしい。本はとりあえず、ミライヤの図書室に返した。必要ならまた送ってもらえれば良い、とリンカが言った。
ちなみに、ミライヤとの修業はまだ一年にも経ってないので、ローズが実家に入れてもらえないなら、ミライヤの屋敷に住めば良い、と彼女は言った。里に、ミライヤの母親の屋敷もある。完全の放置状態だったけれど、かなりの広さがあるそうだ。また柳も、ローズが実家に入れてもらわなければ、そのままローズを旅に連れて行く、と言った。ローズ自身はどれも構わない。
けれど、今は旅行中だから、楽しもう!、と彼女が笑いながらはしゃいでいる。とりあえずドイパ国の首都に行って、服が欲しい、とローズが言うと、柳はうなずいた。今身につけた服は、神殿にいる巫女服だから、動きづらい。都が焼け野原状態だったから無事の店が一つもなかった。そのため、他の服がないということで、仕方なくあるものを着るしかなかった。持って来た服も、全部使えないので、ミライヤの命令で、全部処分された。荷物が軽い方が良い、と彼女に言われた。
ローズたちはドイパ国の首都パディー島に着陸した。ジャタユたちが人の姿に変化すると、ローズはびっくりした。その姿はほぼ普通の人と変わらなかった。ただ、彼らのかかとと足が鳥の形をしている。ジャタユはとても凛々しく、かなりの美男性で、ワイルド系の風貌している。彼の胸に、色鮮やかな胸飾りをしている。見た目で、かなり身分がある人だ、とローズは思った。上半身は服を使わず、半ズボンと腰に布をまいている。三人の部下も似たような服装だったけれど、派手な飾りはしていなかった。けれど、首飾りをしている。ローズたちを乗せたレイもまだ若い人だった。
数時間も背中に乗せてくれて感謝している。ありがとうレイさん!、とローズが元気な声で言った。レイは笑って、うなずいた。
10人で昼餉をしようということで、ジャタユのおすすめの料理屋へ行くことになった。そこは、きれいな海に囲まれて、とても美しい景色を楽しみながら食事ができる場所だ。海辺だから、数多くの魚介類が食べられるし、あまり肉類を食べないモイには木の実や果物が贅沢に使われる絶品料理もあるという。
次々と運ばれている料理は、どれもとても美味しそうだった。モイでさえ出てきた南国風の果物や木の実料理に目を大きくして、驚いた様子で食事し始めた。食べ物や飲み物が大変鮮やかな色をして、机を埋め尽くしている。
「ここでは手で食べるんだよ」
ジャタユはローズたちにその国の作法を教えた。ダルゴダス屋敷でも良く手で食べたから、似たようなやりかたなんだ、とローズは思った。彼女は指示通り、手を洗ってから、数々の食事の前に座った。
「頂きます!」
ローズは大きな海老に手にして、ぱくっと食べた。とても美味しい!ぷりぷりしている、と彼女がキラキラとした目で食べた。
「美味しいか?」
ジャタユさんに聞かれると、彼女が「はい!」と答えた。ジャタユが嬉しそうに笑って、うなずいた。
モイもとても美味しそうに食べていて、時には食べ物の材料を細かくチェックしている。いつか自分も作ってみたい、という顔をしている。一口一口と味わいながら食べていて、口に入れた瞬間、幸せそうな顔をしている。それを見たダルガは思わず笑ってしまった。
柳も美味しそうに葉っぱで包まれた焼き魚を食べている。とても辛そうな料理だが、味見として一口ちょうだい!、とローズが言ったら、大きな魚をローズのお皿に置いた。ローズの口の周りにスパイスが付いてしまって、柳が笑いながら口をきれいにした。
この焼き魚は、とても美味しかった。スパイシーなのに、それほどでも辛くなかった。辛さは調整できる、とレイが言った。机に赤いペイスト状のものがあって、それは辛さを調整するためだと言われた。もっと辛くしたい時に、それをかけると良い、とミライヤに勧められた。ローズはそのペイストを少し試すと、口の中がとても辛くなってしまって、涙が出てきた。慌てて冷たいジュースを飲んで、舌に絡みつく辛さを洗い流した。
楽しい食事の後、ローズたちは町に出た。そう、目的は服を買うためだったのだ。ぴったりのサイズが無ければ、ジャタユは自分の侍女たちに作らせても良いと言った。奥さんも、家族も、他にもいないから、侍女たちは日頃暇している、と彼は追加説明をした。
賑やかな繁華街に足を伸ばすと、そこにはいろいろなお店があって、目を疑うほどの賑わいだった。エスコドリアにも、このような賑やかなところがあるのに、ここはエスコドリア以上に賑やかだ。治安も良く、町もきれいで、隅々まで整備されている。
最優先にローズの服を買いに、いろいろな店に入って、やっと気に入った服装があった。鳥人族は小柄の者もいるため、その種類の服もかなり揃っている。色が鮮やかなものから上品な色合いまであって、選ぶのにかなり時間がかかった。女性組が買い物している間に、男性組は、お店の近くの売店で休憩しながらいろいろな会話をしている。どの世界でも女性の買い物は、時間がかかるものだ。大体買い物が終わるまで一時間以上も平気にかかる、という。
ローズの服の買い物が終わると、今度は水着を買いに行く、とミライヤが言った。ローズたち6人は、誰一人も水着を持っていないので、ミライヤのおすすめの店に行くことになった。数多くの水着があって、とても地味なものから過激なスタイルのものまであって、ローズとモイはとてもびっくりした。
ダルガはモイがどの水着を選ぶのか気にしているようだけれど、柳に男性用の売り場まで手を引っ張られることになった。どうやら女性用の水着売り場はダルガに刺激が強すぎたようだ。
ローズは胸がそんなに発達していないため、少しかわいい感じの水着にした。子どもっぽくないが、青色で胸元にフリルと白いリボンがある。腰辺りに白いストライプがあって、ちょっとだけ大人の雰囲気がある。ミライヤとリンカはビキニ売り場にいるそうだ。またモイもミライヤにいろいろなアドバイスをもらってから、水着を選んだ。皆がどの水着を買ったか楽しみだ、とローズは気にしながら自分がお気に入りの水着を買い物籠に入れた。
その日の午後はジャタユの屋敷に泊まることにした。明日、目的地に行くのだけれど、日が暮れるととても暗くなるから危ないだ、とジャタユが言った。ジャタユの屋敷がとても大きく、庭も広い。龍神の都に一緒に来た三人は屋敷の敷地内にある建物に住んでいる、とローズはレイたちの話から分かった。どうやらジャタユは、この国の王家で、第二王子だ。あの三人は日頃王子の付き人で護衛も務めている。毎日王子と一緒に行動するのは、彼らの役目である。大変な仕事だ、とローズが彼らを見て、思った。戦場まで来てしまったのも役目だったのでしょう。ジャタユはミライヤと昔からの親しい友人だ、とローズはリンカに教えてもらった。親しすぎて、悩みの種でもある、とため息混じりのリンカの言葉が気になってしまう、とローズは思った。
屋敷内に入ると、天井がとても高く、色鮮やかな飾りが壁に付けられている。しかし、とても上品な色合いとなっていて、美しい。侍女たちはローズたち温かいお湯をもって来て、足を洗ってくれた。この国では、建物の中だと靴を入ってはいけない、そういう仕来りがある。だから、屋敷の入り口に履き物をおいて、足を洗うところが用意されている。
足を洗った後、彼らは広間まで案内された。その広間には絨毯が敷いてある。その絨毯の上に大きなまくらのようなものがいくつかあった。多分、あそこは座る場所でしょう、とローズは思った。ど真ん中に低いテーブルがあって。座る場所の周りには花が入っている花瓶がある。またこの屋敷の灯りは、ミライヤが発明した魔法用のランプだった。
「ローズさんって、どうみても子どもだよね」
ジャタユは笑いながらローズをみた。
「え?」
ローズが逆にジャタユを見て、首を傾げた。
「え?って。まさか子どもではないと・・」
「意味が分かりません」
ローズが首を振った。
「まぁ、良いんじゃない?ローズちゃんはローズちゃんだし」
ミライヤが混乱しているローズを見ながら笑った。
「年令的に、もうすぐ二歳の誕生日だね」
リンカも横かっら話に参加した。
「二歳か、まだ幼いね」
ジャタユがそう言いながら、ローズをまっすぐに見た。考えてみたら、ありえないことだ、とジャタユは思った。
「幼いけど、能力は半端無い強いのが確かだ。あの飛行船だという物体を、良く見抜いていたおかげで、戦闘が楽になった」
リンカがそう言いながら、机にある飲み物を取って、言った。
「分析力が良いわ。ローズちゃんは解析班に入りたいと一言あればすぐに席を用意されるのでしょうね」
「すごいね。もうちょっと大きければ俺の補佐官として仕事与えても良いが・・」
ミライヤの言葉に、ジャタユが笑いながら言った。
「却下」
柳が即答した。
「あら、怖いお兄さんがいるから、あまりローズちゃんのことをあれこれ、と言わないで下さいな、ジャタユ」
「だね。ごめんね、ローズさん」
ジャタユが謝罪すると、ローズがうなずいた。
「あ、いいえ。大丈夫です」
ローズが言うと、柳がローズの背中に手を回した。ローズは自分のものだ、と主張するような仕草だ。
「そろそろ夕餉にするか!」
ジャタユさんは両手を叩いて、侍女を呼んだ。食事を用意するようにと命令をした。しばらくして、台所担当や侍女達は色々な料理を運んできた。大きなテーブルを用意されていて、豪華な料理を準備してくれた。またモイのために、昼間と違った美味しそうな野菜や木の実の料理が用意された。焼いた肉や魚、パンや果物など、テーブルいっぱいで、どれもおいしそうだ。
「さて、改めて、ようこそ、ドイパ国へ!友情に乾杯!」
ジャタユはガラスを上げて、皆で祝杯をした。お酒やジュースなど次々と出されて、笑いが止まらない愉快な夕餉となった。またモイの幸せそうな顔を、やはりダルガはそれを見逃さない。モイはおいしそうに料理を食べて、一口一口に味わっている。
ローズは相変わらず食べまくっている。たれが顔にかかったから、たまに柳に顔をきれいにした。
食事が終えると、ゆっくりと中庭で生演奏の音楽を聴いた。
ローズはこの世界に生まれて来てから、音楽をあまり聴いたことがなかったことに気づいた。地方によって、音楽が発達しているところは違うのかな、彼女は気になって仕方がなかった。
音楽を聴いてる間に、お風呂の準備ができたと一人の侍女が現れた。ローズたちは大きな浴室に案内された。女性用と男性用があって、それぞれが違うデザインだ。温かい湯に入って、とても気持ちが良い。目の前にいる大人達のナイスボディーを見て、いつかローズも彼女たちのような良い体付きになりたい、とローズは密かに願った。
うらやましいんだ。モイといい、ミライヤといい、かなり胸が大きい。リンカはミライヤと比べたらちょっと胸が小さめだけれど、バランスの良いスレンダーボディーだ。さすが鍛えられている体で、とても引き締まった体だ。
「ローズちゃん、何をみてるの?」
「うむ、先生の胸が大きいな。うらやましいなぁと思っただけ」
「あう、ローズちゃん、かわいい♪そのうち、ローズちゃんも大きくなるんだよ。牛乳を飲むんだよ」
「牛乳で胸が大きくなるの?」
「そうよ。ふふふふ、ローズちゃんの成長データを細かく記録でもしようかな。研究対象として・・」
ミライヤが笑いながらローズの顔を見ている。
「ミライヤ、やめなさい。柳に殺されるよ」
「あの石頭か・・」
「うん」
リンカが言うと、ミライヤもうなずいた。
「あの・・お兄さんって、そんなに怖い人?」
「まぁ、ことによってね。襲って来る人には、ほぼ手加減なし」
リンカが答えると、ミライヤもうなずいた。
「襲って来るって・・、良く襲われるの?」
「彼が強いから腕試ししたい人とか、上のレベルの人の嫉妬とか、彼はいろいろと苦労しているんだ」
「お兄さんは大変だ」
「でも今は、もう誰も喧嘩を持ち込む者がいないでしょう」
リンカがそう言いながら体に湯をかけた。
「柳はローズと一緒にいる時だけ、とても幸せな顔してる」
「そうなんだ。でも欅兄さんと一緒にいる時も、普通に嬉しそうだけど」
「まぁ、仲が良い兄弟だからね。でも、やはり違うんだ」
「そうなんだ」
「でも、これだけが言える。柳のためにも、ローズはもっと腕を磨かないとダメだね。柳がいない間に、ローズの身に何かあったら、それこそ一大事になる」
「はい」
「一年前ぐらいまでなら、まだなんとかなるけど、もう完全な鬼神になった今、私でも止められるかどうか・・」
リンカがそう言いながら、風呂場から立ち上がって、風呂場の縁に座った。
「そうだね。あの戦いで、はっきりと分かった。鬼神の強さは半端ないの強さだ」
ミライヤは自分の体にお湯をかけながら言った。
「父とはどちらが強い?」
「まぁ、同じぐらいなんじゃない?親子だし」
ミライヤが言うと、リンカもうなずいた。
「年令的に柳の方が若いから、体力がある。でも経験があるダルゴダス様の方がずっと上だからな」
「そうか」
「でもローズも強いから、柳とペアを組みたいならいけると思う」
「ペアになるにはレベル鑑定しないとだめ?」
「どうなんだろう、普通は鑑定を受けるけどね。でもレベル5以上と相方がいれば、普通は誰と組んでも良い。それに女性にはそこまで鑑定に義務づけられてない。武人になる者は別だけど、彼女たちには鑑定が必要だ」
「そうなんだ」
「ローズは武人になりたいの?」
「うーん、分からない」
「ゆっくりと考えれば良いよ」
「はい」
「そろそろ上がろうか?モイさんはもう顔が赤くなってしまった」
「え?!」
モイが湯あたりにかかってしまって、ミライヤは慌てて水分補給に侍女を呼んで水を頼んだ。やっとモイが回復できて、用意された民族衣装らしい服に着替えて、浴室を出た。
女性組が浴室から出ると、男性組と合流した。彼らはもうすでにお酒を楽しみながら、大きなリビングでくつろいでいる。和やかな雰囲気で会話が弾み、時には笑い声も聞こえてきた。ローズたちがリビングルームに入ると、柳とダルガとジャタユは色違いのおそろいの格好でいる。意外と、とても似合う、と彼女が思った。柳の麦肌がやはり南国っぽいだ。考えてみれば、ローズは柳の裸の上半身を見るのが初めてだった。ローズは柳に気づかれないようにと、ちらちらと見てしまった。
「ローズ、大丈夫か?」
柳が気づいて、ローズに声をかけた。
「あ、ううん。いや、違う格好していると、本当にお兄さんかな、と思ったりして」
ローズが慌てながら言うと、柳が笑った。
「ローズも、その花柄の服でもかわいい」
「ありがとう。お兄さんも格好良いよ」
柳が手を伸ばして、彼女の手を取って、隣に座らせた。モイの格好に釘付けされたダルガはしばらく瞬きもせず、言葉もでないほど、見とれてしまった。モイに声をかけられるまで、ダルガがずっと固まった。なんていうわかりやすい男だ、とローズは呆れた顔でダルガを見た。
ミライヤはジャタユの隣に座って、リンカはミライヤの隣に座った。一人の侍女がローズにホットミルクを差し出した。ローズはゆっくりと飲んで、体が温まったと感じた。
大人達は大人の話をしている。なんか、実はジャタユは、猫の姿のリンカに噛まれたことがあるという。夜中にミライヤの部屋に忍び込んだらしく、ミライヤの寝台の上で寝ていたリンカに退治された、という面白くおかしく自分で語った。やれやれ、と彼が笑いながら言った。大人達に夜がまだ長いけれど、もう眠気に限界になったローズはミルクを飲み干した後、柳の隣で眠りに落ちた。




