24. アルハトロス王国 龍神の都奪還作戦(2)
「隊長!鈴さん!すみません。お待たせしました!」
ローズが走って、近づいた。
「すっきりしたか、ローズ?」
「はい!」
「よし、敵はここの場所に気づいたようだ。向かい撃つぞ!」
「はい!」
ダルガの言う通り、複数のモルグ人兵士はこの場所を目指して、岡を登って来ている。その数が、数十人だった。モルグ人は、見た目が普通の人のようだけれど、背中には斑点模様がある。彼らの瞳が赤い。けれど、鬼神と比べると、違う色の赤だった。鬼神は鮮やかな赤だけれど、モルグの場合、茶色に混ざる赤だった。
その兵士達は様々な武器を持っているんだが、ローズたちを狙って攻撃しようとしたのは弓や剣のような物がほとんどだ。ローズたちは鈴を守りつつ、柳らを無事に宮殿の中まで援護しなければいけない。かなり難しい仕事である。
「ローズ、左を任せた!」
「はい!」
一方、鈴はミライヤと交信中で、地面に刻まれた魔石生成の魔法陣を上から破壊するようにと指示した。その間にリンカは次々と飛行船を落としている。ジャタユの素早い動きとリンカの無駄のない動きはやはり絶大な結果に繋がって、すでに4機も地面に落ちた。残りの一機は必死に抵抗している。迎撃を必死に行ったが、リンカの素早さに敵わずに、最後に地面に激突することになった。一方、ジャタユの背中から、何回も範囲魔法を発したミライヤは再びジャタユさんの背中に戻ったリンカと位地を交代した。前に座ったミライヤはものすごく広い範囲で魔法を放ち、次々と敵の魔法陣を破壊した。
(良いわよ、鈴!)
ミライヤが指示を出すと、鈴がうなずいた。
「はい!すべての軍へ、突撃開始!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
鈴の命令で、味方軍のすべての頭の中にに入った。凛とした声が聞こえた瞬間に、彼らが大きな声を発して、味方軍の声が全体に渡り、敵軍を襲いかかる。武器と武器のぶつかり音や悲鳴や叫びが聞こえて来た。
一方、ローズを囲んだ敵軍も現れた。どうやらここは司令官がいるところだと気づかれた、と彼女が思った。隊長は問題なく、十数人の敵軍を相手にした。鈴はリンクの能力を使っている間に身を守ることができないため、その守りはローズの役目となる。
「バリアー!」
そしてローズがトゲだらけの自身の鞭を召喚した。ローズは「人」を相手にするのが二度目だけれど、一度も殺したことがない。できれば殺したくないけれど、こちらが殺されることになるから、心を鬼にして、守るべき命を守らないといけない。ここは戦場だから、生優しいところではない。モルグ人兵隊は猿だと思って、範囲魔法と鞭を組み合わせて攻撃をして、襲ってきた敵を全滅にした。後から来た兵隊を、遠距離の薔薇の枝で地面の下から串刺しにして、鈴に近づかせない。鈴の方を見ると、この状況でも次々と指示や情報交信を一人でこなしている。彼女はやはりすごい人だ、とローズが思っている。
「ローズ、そろそろ影丸たちを援護して下さい。もう少しで宮殿が見えるの」
「はい!」
ダルガがそう言いながら、ローズの隣に来て、構えた。ローズがうなずいた。けれど、彼女がそのやり方が分からない。
あの時のようなら、柳を強く思えば良いのか、と彼女が思った。柳・・、 影丸・・、と強く思う・・、強く・・、心から思う・・。
(ローズ?)
頭の中に柳の声が聞こえた。そして不思議なぐらい、頭の中に柳が、多分、見ている風景が見える。
「はい!」
彼女が嬉しそうに言った。
「通じた!」
(ローズさんだね。こちらは影丸だ。リンクできたよ)
わ!なんと初リンクが成功した!しかも二人ともと繋がっている。やるな、私!、とローズに自信が付いた。
けれども、これはまだ精一杯だけど、数十人いや、数百人かもしれないの大勢の者、と交信している鈴と比べたら、足下にも及ばない。ローズが一瞬鈴を見て、そう思った。
「調子はどう?」
(今の所は問題ないが、ちょっと宮殿周辺に妙な結界があったんだ。これを外さないと中へ入れない)
「ちょっと見せて、兄さん」
(こうか?)
柳が見るものを、ローズの頭の中に入る。彼女が見ると、見たことがあるような感じの魔法だった。本で載っていたんだ、と彼女が思った。多分その近くに術師が隠れているかも知れない。あの術は外からかけられたものだ。
「兄さん、その近くに隠れる者がきっといる。あれは外からかけられている術だ。罠かも知れないから、気をつけて」
(ああ。ありがとう、ローズ)
すると、話を聞いた影丸は探知機魔法を発動した。隠れている者をあぶり出すためだ。そして何かと見つけたように、素早くその怪しい所に動いて、一人の敵の魔法師を殺した。すると、結界が解けて、宮殿へ入る門が見えた。
「バリアー!」
ローズが柳らを思いながら魔法を発動すると、魔法は成功した。
(すごいな、ローズ。バリアーもかけてくれたんだ)
「うん。うまく届いたんだ」
(ああ。これじゃ、負ける気がしないな、影丸)
柳が嬉しそうに言った。
(ええ、頼もしい妹さんだ。是非暗部に・・)
影丸が言い終える前に何かの気配がした。
「二人ともその話は後で。敵が来るわ」
ローズが注意すると、影丸がうなずいた。
(だな。行くぞ、柳)
(ああ)
二人はかかってきた敵を次から次へと切り込んで、宮殿の入り口まで近づいた。斬り殺された敵兵士の遺体が見えた。しかし、本当に彼らの動きが鮮やかな動きだった。さすが上位武人の二人だ。
「ヒール」
二人を回復した。またバリアーもかけた。二人は入り口から入って、宮殿の様子が映った。とても静かで、敵がいない。その宮殿で働いている家臣や侍女や使用人も見あたらない。敵兵士もいない。何かが変だ。外にあんなにたくさん兵士がいるのに、宮殿内には一人もいない。罠かもしれない、と彼女が警戒した。
「気をつけて兄さん。罠かも知れない」
(ああ。気味が悪い。本当にここに大将がいるのか)
柳がそう言いながら、前に進んでいる。
(探知魔法をかける)
影丸は魔法を発動したが、伏兵がいないと分かった。
(やはりこの部屋には敵一人もいない)
(隣の部屋へ進もう!)
その時、ローズの近くに敵兵隊が現れた。一瞬でリンク切れて、防衛に移動しようと思ったが、ダルガの動きの方が早かった。
「援護続けろ!ここは私が守る!二人に集中しなさい!」
「はい」
ちらっと鈴を見たら、まったく変わらない顔色で、びくっとも動かなかった。ものすごい集中力だ、とローズが思う。
再び気を直して、柳らにリンクをかけた。
(何があったんだ、ローズ?)
柳は心配して聞いた。
「ごめん、ちょっと襲われたけど、隊長が守ってくれた。今は問題ない。続けよう」
(ああ。今王の広間に向かってる)
柳が安堵した様子で言った。
(柳、人影がいる)
影丸は素早く動きを止めた。構えながら、人影らしいところに移動し始めた。その広間のど真ん中に三人の宮殿の使用人がいた。手と足が縛られて、口にも布を詰め込まれている。彼らはまだ生きていて、一所懸命何かを訴えようとした。柳と影丸は注意深く近づいたら、何かに気づいた。
次の瞬間、彼らの周りが爆発して、縛られた三人とも横たわってしまった。恐らく命を落としてしまったのでしょう。なんてむごいことを!、とローズは怒りを覚えた。
一方、柳と影丸は爆発から逃れた。けれど、不運にも罠だらけの床に着地してしまった。また、その周囲に魔法陣がびっしりと設置されていた。
(まずいな、これは)
(ああ、間違えば、俺たちも爆発する)
二人が困っている様子だった。
(どうやって無効化にするか、数が多い)
(その上に何かを敷いておけば魔法は発動しないかな?氷はどうかな?)
(そんな可能性があるな。でも俺は水属性の魔法が使えない)
(俺もできない)
柳と影丸が回りを見て、いろいろと検討してみた。
「私はできる」
支援魔法が届くのなら攻撃魔法が届くかもしれない、とローズが思った。集中して、部屋を認識するんだ。柳が見た部屋は実際にある部屋だ。その部屋の空間を認識して、その床の上に氷の魔法を置いておけば、と彼女が見て考えた。しかし、水が必要だ。
「兄さん、そこに水がある?」
(手元にはないが、近くに噴水がある)
柳がそう答えて、ゆっくりと移動した。
「その噴水をちゃんと見て下さい。そこから発動するから、注意してね。発動したら、高くジャンプして下さい。固まるまで、ちょっと時間が必要かもしれないから、空中でなんとかして下さい」
ローズが指示を出して、いろいろと思っている。
(了解)
「私はやったことがないから、失敗したら、ごめんね」
先に謝れば、失敗したら、その時の謝る気持ちが全然違うからな、とローズは考えた。
(ああ、問題ない)
「行くね」
ローズは呪文を唱えた。頭の中に柳がいる部屋を強く認識した。噴水、水が流れている、・・その波動を感じるようにしている。体の隅々から大きな魔力を感じて、思いを通じて流れて行く。押さえきれないほどの魔力が彼女の呪文とともに、次元を越えて、思いを乗って宮殿の中へ行った。
普通はすぐに氷になるけれど、遠距離で別のところに魔法をするなんて、無謀だと思っても、今は必要だ。柳が見た映像が、頭の中に入り、部屋の床が氷に包まれていくことを想像した。少なくてもここから見える場所が玉座の部屋まで、道を作らなければいけない、とローズが思って、力をしぼって魔法を発動し続ける。
(すごいな、ローズさん)
(ああ、本当にすごいな)
(これで足の踏み場ができた!ありがとう、ローズさん!)
嬉しそうに影丸さんの声が聞こえた。その同時に、ローズは力尽きて、周りが見えなくなってしまった。ダルガの声や鈴の声がかすかに聞こえた。けれど、目を開けると、白くて、何もない空間だ。真っ白だ、とローズは思った。
「ここはどこだ?」
あの時のような感覚だ。でも今度は、自分が何をしているかが、分かる。でも自分以外は、何もなく、誰もいない。耳を澄ませば、鈴の声が聞こえた。ダルガの声も聞こえた。けれど、柳たちの声が聞こえなかった。
周りで戦いの音が聞こえた。武器と武器のぶつかり合い、爆発の音、命を落とした者の叫びも、命を奪った者の声も、聞こえた。ここは戦場だ。そして、ローズが今ここで何をしているのか、を知っている。
「私は戻らないといけない」
「どこへ?」
不思議な声が聞こえた。
「皆のところへ」
「なぜ?」
「私を必要としている人がいるからだ」
「なぜそう思った?」
「柳兄さんは私のことが必要だと言った。私を信じる、と彼が言ったんだ。だから、あの人の元へ戻らないといけないんだ」
「そなたは何ができる?」
「私の思いで、大切な人を守りたいんです。何ができると言われてもピンとこないけど、今持っているすべてを思いに乗せて、守ってやりたい」
「あの鬼神の子か」
「はい」
「ならば、ゆくが良い、龍神の娘よ。時が来たら、また会おう」
はっ!とともに、ローズは再び元にいた世界に戻った。どうやら彼女は鈴の近くに、倒れてしまったようだ。ダルガは心配そうに駆けつけてくれた。
「大丈夫かローズ?いきなり倒れた、と思ったら体中光っているから、どうしたかと思った」
(あれは覚醒だわ)
鏡の中からミライヤの声が聞こえた。
「こんなところで、覚醒するんですか?」
鈴はミライヤと交信した。
(ええ、そうみたいですね。問題がなさそうだったら、再び戦場の状況を引き続きよろしくね)
「はい!」
鈴はローズを見て確かめた。その後、彼女が一息を吸って、集中に戻った。
『大丈夫・・隊長・・』
なんか自分の声が変だ、とローズは思った。
体も変だ。
とても軽くて・・、そしてまぶしい。
ダルガは無言で彼女を見ている。けれど、ローズはそのようなことを気にする余裕がない。彼女が再び柳と影丸にリンクかけた。目を閉じて、強く思うことにした。今回はなぜかとてもスムーズになった。思っただけでもすぐにリンクができて、早い。目を開くとあの二人は目の前にいる。
そこでローズが見たものは、柳らは玉座にいる大きな何かと戦っている。二人で連携して攻撃をしても、まったく攻撃が通用しなかった。
その敵は人のような生き物で、トカゲの尻尾のようなものが後ろについている。足も動物のような形をしていて、前世で見たことがある恐竜の足のような感じがする、とローズは思った。手にも大きな爪があって、とても不気味な生き物だ。しかもその口から魔法を放ったりして、かなり強い敵だ。
苦戦している二人はいろいろな技を出したけれど、まったくダメだった。物理攻撃の防御が高いか、あるいは強力なバリアーがかかっているかもしれない。
尻尾の一振りで、影丸に命中してしまって、壁に叩きつけられてしまって、崩れ落ちた。急いで身を起こそうとしたら口から大量の血が出た。内部出血だ、とローズは一瞬で理解した。
『ヒール』
ローズが影丸に回復魔法をかけた。出血を止めて、気の回復を流す。その間、柳が必死で一人で戦っている。
あれ?
彼女が気づいた。先まで柳が見える映像だったのに、今は違う。影丸も見えるし、柳もはっきりと見える。ちなみに、部屋全体も見えるて、360度もだ。なんて不思議な気分だ、とローズは思った。まるで彼女もこの二人とともに、この宮殿の中にいる。
とりあえず、出血を止めた。回復魔法を流して、バリアーを付けた。苦しそうな顔が再び正常に戻ってきた。影丸の目が開いて、ローズを見つめて、口を開く。
「ローズ・・さん?なんでここにいる?その体は?」
何を言ってるんだ。支援するに決まってるんだ、と彼女は首を傾げながら思った。鈴がいるところからの遠距離支援すると決まっている。
『支援・・する』
やはり声が変だ。力を使いすぎて、風邪でもひいたかもしれない、とローズは思った。
さて、影丸は元気になったし、今度はかなり苦戦している柳を支援しなくてはいけない、とローズは柳を見て、手を伸ばした。
『バリアー!』
その魔法をかけたら、今度は柳が驚いた顔している。しかし、その瞬間、敵の攻撃が入った。
戦っている時に余所を見てはダメだよ、とローズは再びバリアーを唱えて、柳を支援した。
しかし、敵がまた来る。思わずローズも構えてしまって、柳をかばった。しかし、なんと言うか、敵の攻撃が全然痛くない。なんでこんなに弱い者に、皆が苦戦してるのでしょう?、とローズはまた首を傾げながら、前に向かって移動した。
「ローズ?ローズはなんでここに?」
「柳、それは後にしろ!敵がまた魔法を放つぞ!」
影丸が来た。その間、ローズが大きなバリアーを展開した。彼女は柳の体を回復した。エネルギーを注入して再び元気にする、と彼女が手をかざした。
バーン!
敵が放った魔法がローズのバリアー魔法に弾かれて、宮殿の屋根と壁を破壊した。けれど、回復を邪魔をされてたからか、ローズはとてもむかついた気分になってしまった。怒ったローズは大きな火玉の魔法をかけた。
『ファイアー・ボール』
魔法を放ったら、敵が壁を破って宮殿の外へ飛ばされた。ローズはその物を追って、飛んだ。
なんか、体がとても軽い、と彼女が感じた。
まるで飛んでいるような気がする。いや、飛んでるかもしれない。すごい、どこまでこのリアルな感覚だ、とローズは感じた。
あれ?後ろで柳と影丸もいる。じゃ、これは誰の映像なのか?、とローズが首を傾げた。
自分自身で見たものか、あるいは誰かの映像なのか、分からない。
分からないけれど、とにかくあの大きな奴を倒さないといけない。
空の見上げれば、リンカとミライヤが乗っているジャタユが見える。下に見ると、敵や味方が見える。敵も味方も上を見て、恐怖と驚いた顔になった。やはりこの化け物が怖いか。尻尾は左右に動いて、たくさんの兵隊たちをなぎ払い、そしてその足で踏みつけた。とても危険な奴で、動きを止めないとダメだ、とローズは思った。
敵軍ですら犠牲になっている。敵もまさか自分たちが召喚したあの「何か」で犠牲になるとは思ってもしなかったのでしょう。とにかく、止めないとダメだ。ローズは着地して、地面に手を当てる。
『バインド・ローズ』
やはり変な声だ。あとで、医療師に診てもらう、と彼女は思った。複数の大きな枝が地面から現れて素早い動きで獲物を捕まえて、食い込むように縛りをした。痛々しいトゲがその生き物の体を貫き、抵抗を制止する。
『ブラッディー・ローズ』
ローズは最強にえぐい薔薇の枝の技を放って、相手をおとなしくした。大きく鋭いトゲが体の中へ刺すとともに、散った赤い薔薇の花びらのように、血の雨が降った。それでも相手がまだ生きていて、口から魔法をぶっ放している。なんていう強い敵だ。それを見た敵の兵士も味方兵士も我先に逃げ出している。
『兄さん・・トドメ・・を』
ローズの言葉に理解した柳はローズの近くに立って、全力で自分の能力を解放した。
柳は鬼神になる瞬間だった。
凄まじい力がその場を包み、勝ち目がないと分かったモルグ人兵士達はその場から逃げ出した。味方の兵士達の中にも、あまりにも恐ろしい場面を目の前に起きているから、腰を抜かして逃げ出した者もいる。龍神のたたりだ、と叫んだ者もいて、戦場が混乱になった。里の者は鈴の命令を従って、ローズたちから距離を取った。かすかに聞こえている鈴の命令が頭の中で聞こえた。
「全員退避! 急いで!」
鈴がそう強く命じた。リンカとミライヤもその場を離れた。これなら思いっきりトドメをすることができる。巻き込まれる仲間がいないように祈ろう、とローズは思った。
影丸も、鈴の指示に従って、素早く避難した。彼女は相変わらずの無表情の顔で、ローズたちをずっと見ている。やはりこれは異常な光景でしょう、とローズは思った。
柳は言葉で言えないぐらいの大きな力を解放しようとしたが、何かが足りない。これ以上もっと大きな力が必要だと、ローズは柳を思って、飛んで彼に近づいた。多分先の戦いで力をたくさん使ってしまったからだ、とローズは思った。ローズは柳の肩を両手で触って、自分の力をすべて彼に託した。
力になりたい、一緒に戦いたい、身も心もすべて、柳とともに!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
凄まじいエネルギーとともに解放された鬼神の力が放たれた。地面が揺れて、その圧力が、そこにいる誰もが感じているのでしょう。その凄まじい気に当てられて、気を失った者もいた。柳は鬼神になって、緑の瞳が鮮やかな赤い瞳に変わった。彼はローズを見て、微笑んだ。そして薔薇の枝で動けないあの化け物に向かって走って、すごいスピードで走って登った。そして天辺の近くに高く飛び込んで、剣を抜いた。すべてのエネルギーを自分の剣に通じて、敵にトドメを刺すために構えた。
「はぁーーーーー!」
『行けぇぇーーー!』
同時に放たれた二人の声に共鳴したかのように、味方の声も大勢聞こえた。
柳の剣はその巨大な化け物の頭を刺して、そして凄まじい力で下まで真二つに斬った!
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
勝利の歓喜が現場に聞こえた。負けたモルグ人兵士は武器を捨てて、頭に手を置いて、降参をした。味方の兵士の中には喜びを体中から表すかのような踊り出した者もいた。相手の将軍らしきの首はいつの間にか影丸の手にあった。やはり暗部は怖い、とローズが思った。いつの間にかその首を取ったかが分からない。どさくさに紛れて、逃げようとした時に、影丸に気づかれて、斬られたでしょう。
力尽きたローズは地面に座り込んだ。すると、柳はローズの元へ駆けつけて、彼女を持ち上げて、優しく抱きしめた。
もう普通の顔の柳だ。彼はあの穏やかな緑色の目だった。優しく微笑んでくれた。ローズは微笑みながら大好きな柳を見ている。
『やったね・・兄さん』
まだ声が変だ。体もまだ光ってるようだ。
「ローズのおかげだ」
柳は優しく答えて、ローズの顔を見ている。
「私は・・ペア・・として・・合格・・した?」
ローズの声が元通りになった。
「もうとっくに合格したよ」
「良かった・・」
柳はローズの頬に口付けした。そして、その一瞬で、ローズは力尽きてしまった。体が重く感じて、物がぼやけて見えて、目蓋が重くなってしまった。ローズはそのまま柳の胸で目を閉じた。心臓の音が聞こえていて、とても居心地が良かった。そしていつの間にか、ローズが眠りに落ちた。