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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
スズキノヤマ編

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194/811

194. トルバタ王国 陰謀(4)

エフェルガンは目を疑った。スズキノヤマの大使、トリモが襲撃犯人だったとは・・。


「何かの間違いのでは?」


ローズは結界の中から出て行って、床に横たわった犯人の顔を見た。確かにトリモ・・かもしれない・・・。


「この顔は確かにトリモだ。誰かガレーを呼んでくれ」


エフェルガンはしゃがんで犯人の顔を再びみている。


「似てる・・という可能性は?」


ローズの言葉にエフェルガンはうなずいた。しかし、その前に、暗部であって、医療師であるガレーの意見が必要だ、と彼が考えている。しばらくして、ハインズがガレーとともに部屋に入った。


「お呼びですか? 殿下」


ガレーはエフェルガンの元へ歩いて、そしてエフェルガンの足の近くに転がった男を見た。


「なんてことだ」


ガレーはしゃがんで男を検査し始めた。


「とっくに息絶えたのですね」

「私が切りました」


ガレーの言葉にハインズは答えた。


「なるほど。これは即死でしたな」


ガレーは傷口を確認した。


「ガレー、この男はトリモなのか?」


エフェルガンは不安そうな様子で聞いた。この人はトリモだとしたら大問題になるからだ。


「トリモ殿に似た暗殺者です。トリモ殿ではありません」

「そうか・・よかった」


エフェルガンはほっとした表情になった。


「良くありませんよ、殿下。この男はトリモではないことをトルバタ側に証明しなければなりません。本物のトリモがいなければ、彼がライラ姫を襲撃した容疑が否定できません」

「そうだな・・探さないといけない」

「この男を私が預かりましょう。万が一トリモ殿が見つかることができない場合、この宿舎の中に警備隊が入るのでしょう。遺体を処分する必要があります。このことは他言無用でお願いします」

「分かった。この部屋にいる全員、命令だ。他言無用」


エフェルガンは全員に命令を下した。ローズも含めて、従わなければならない。ハインズは次々と敵の仮面を外した。ほとんど知らない顔ばかりだった。


エフェルガンはアッシュを呼び出し、トリモが使った寝間着とまくらをアッシュに嗅いでもらった。


「オレファ、数人の兵士を連れて、リンカの所へ行き、アミールホタの遺体を回収してくれ。必ず遠くから声をかけてからリンカに近づいて行ってくれ。でないと殺されるから」

「猫の縄張りを展開したのですね」

「恐らくな」


エフェルガンはうなずいた。


「了解した」

「終わったら、オレファはリンカとともに僕を捜してくれ、必要ならローズに繋いでもらって僕の居場所を教えてもらうと良い」

「殿下はお一人で動くことになりますが・・」

「アッシュとともにいるから大丈夫だ。いざという時に、アッシュの全力を解放する」

「くれぐれもお気を付けて下さい」


オレファはエフェルガンに心配している。


「ハインズを貸しましょうか?」


ローズが言うと、エフェルガンは首を振った。


「いや。ハインズとエファインはローズのそばにいてもらう。また襲撃されたら大変だからだ」

「私はなんとかなります」

「ダメだ。彼らの狙いはローズだと分かった以上、護衛なしで置いておくわけにはいかない」

「うむ」

「分かってくれ、ローズ」

「はい」

「彼らは何らかの理由でローズの失態を狙っているかもしれない。この宿舎もきっと見張られている。僕たち以外、使用人含めてすべて敵だと思っても良い」

「はい」

「ハインズとエファインとおとなしくここで待機してくれ」

「分かりました」

「じゃ、トリモを探しに行くから、何かあったら連絡してくれ」


エフェルガンは優しく口づけをしてから、部屋を出て行った。ガレーは兵士らに遺体の処理をするように命じた。全員仮面を付けて遺体を安置する空き部屋に運ばせた。使用人はすべて本館に入れないようにとモカベに指示を与えた。


ローズは今までのパーティを解除して、再び再結成することにした。メンバーはエフェルガン、リンカ、そしてガレー、この三人にしぼった。彼らと別の部屋にあるガレーにいち早く情報を伝えるために必要だ、と彼女は思った。またリンカにオレファ達が来ることを伝えた。


ちなみに、台所に使用人の立ち入りを禁止にしてもらった。食材だけはすべて準備して、モカベの部隊のまかない担当に料理を作らせた。念のため、すべての入口にモカベの部下の配置を命じた。また暗殺者に入られては困るので、本館全体にバリアーをかけた。その間ガレーに捕らえられた敵に情報を取り出すように、と希望を託すしかない。


「ローズ様、警備隊は面会を求めて来ました」


モカベはローズがいる部屋に入って報告しました。


「殿下が不在だから、時間を改めてあとで来てもらって下さい」


ローズがいうと、モカベは退室して外にいる警備隊長に伝えた。またしばらくしたら、モカベは再び入ってきた。


「今すぐ話したいと申されました」

「無礼だと言って、言う通りにしなさいと強く言うが良い」


ローズがそういうと。モカベは困った顔をした。ハインズはローズにうなずいて、モカベと一緒に外に出た。


「ハインズが出ても、大丈夫かな」


ローズが心配していると、エファインは苦笑いした。


「大丈夫でしょう。ハインズ殿はかなり強気の方ですから・・」

「強気というか、喧嘩になりそうな気がするけど・・」

「まぁ、この場合、人が良さそうなモカベ殿よりも、荒々しいハインズ殿の方が最適と思います」

「エファインがそういうなら良いけど・・」


ローズが心配なので、ガレーに何が起きているのかを伝えた。ローズはガレーにバリアーのことも教えた。オレファ達が戻ってきたらバリアーの一部を解くつもりなんだけど・・外にティーラ島の警備隊がいるとかなり面倒だ。しばらくしてガレーの声が聞こえてきた。ハインズにかなり「親切」なアドバイスをしているようだ。ガレーが立場的に上だから、ハインズはガレーの言うことを聞くのでしょう。


「戻りました」


ハインズはうなずきながら部屋に入った。隣にガレーがぶちぶちと何かを言っている。


「良いかハインズ殿、この場合、ボケやうざいという言葉を使ってはいけません」


ガレーはまじめな顔してハインズにアドバイスをした。


「はい」

「貴殿はこの海外任務が終わったら、殿下に貴殿の話し方の勉強を提案します」

「あちゃ・・」

「あちゃではなく、はい、と答えなさい」

「はい」

「ローズ様はお優しい方ですから、貴殿にそのような話し方を許したと思いますが、いつか皇后陛下になられるローズ様のおそばにいる貴殿は、それなりの話し方を身に付けた方が良いでしょう」

「はい」

「最低でも丁寧な言葉を身に付けてもらいたい。あとは・・そうですね、交渉術ができれば便利ですが、貴殿はそこまでできるかどうか分かりませんが、・・まず言葉の使い方を直してもらいたい」

「はい」


ガレーはあんなにがみがみと怒るのをみて、きっとエフェルガンにも同じような感じで怒ったのでしょう。


「まぁ、ガレー、ハインズが反省しているから、大丈夫ですよ」


ローズが言うと、ガレーは彼女にまっすぐに見ている。


「ローズ様は優しすぎます。これもローズ様のためにしたことですよ。私が行かなかったら、両国が戦争になってしまうところでしたよ」

「そんな・・」

「相手に向かって、聞いたかこのボケ!を言うなんて・・この問題発言は戦争の原因になりかねません」

「うむ・・ちょっとあれは言い過ぎよ、ハインズ」


ローズがハインズに言うと、彼はうなずいた。


「反省します。申し訳ありませんでした」


ハインズがかなり反省した顔にかわいそうな気がした、とローズは思った。


「では、ローズ様。もしあちら側から、また使者が来たら、私にお任せください」

「分かった。ありがとう、ガレー。忙しいところ、邪魔してしまって、ごめんね」

「いえいえ。では、失礼します」


ガレーは頭をさげて退室した。


「大変だったね、ハインズ」


ローズがハインズに労っていうと、ハインズは苦笑いした。


「あちら側が言うことを聞かずに強行突破しようとしたので、言ってしまったんです」

「私は犯人扱いされているね」

「トリモ殿のこともあるから、敵対姿勢となってしまうんです」

「でも国賓である私にそこまで強気にできるということは上の命令もあったかもしれませんね」

「それでも無礼ですよ」

「確かに、そうだな」

「警備隊長はトリモ様の引き渡しを強く要求しました」

「他国の大使にそのような振る舞いも無礼だよね」


ローズが言うと、ハインズはうなずいた。


「犯罪人は人権や身分がないと言われて、頭に来たんです」

「そこで暴言をしたんだね」

「ああ、言ってしまいました。ガレーが来たから話がなんとか通じました。ちゃんと謝罪もしたし、これから問題がないと思うんだが・・」

「ガレーの話術はすごいからな・・私も習いたい」

「俺はそういうのが苦手です」

「でも必要なんだよね・・。ガレーの言った通り、いつか殿下が皇帝陛下になられたら、ハインズもケルゼックも皇帝陛下の護衛官ですから・・立場がとてもえらくなるよ」

「・・・そうですね」


ハインズはうなずいた。


「私はあまり表舞台に出る気がないけど、一応、お茶会の対策は勉強したよ」

「ローズ様もいつか皇后陛下になられるんですよね」

「ぴんと来ないけどね。私が普通に医療現場で治療して薬を作った方がずっと役に立つだと思うけど・・ダメかな」

「恐れ多く皇后陛下の薬など、患者が震えて薬が飲めないと思いますがね」

「それは困るな。変装してもばれるかな」

「ばれますよ・・おもいっきり」


ハインズは微笑んで、ローズを見ている。


「うむ」

「ですが、救急医療なら、そこまで医療師の顔や姿を確認する人がいないだろう。大体救急に運ばれた人は大怪我して、意識がない人が多いと思います」

「確かに・・良い意見をもらったわ」

「ははは、参ったな・・言ってしまった」


ハインズはまた苦笑いした。エファインも思わず笑ってしまった。


しばらくしてモカベがまた入ってきた。


「ローズ様、アミールホタの遺体を回収した兵士らが帰ってきたんですが、宿舎の中に入れませんでした」

「あ、分かった、一部解くね。エファイン、ちょっと確認して、全員入ったら、私に連絡して下さい」


エファインにリンクをかけた。エファインはモカベとともに外へ出て、状況を細かく連絡してくれた。全員敷地内に入ったあと、再びバリアー魔法をかけた。遺体はガレーの所に運ばせた。


エフェルガンからの連絡もまだ来ないため、暇になったローズは少し休憩することにした。ハティが運んできた食事を食べて、ドイパ国から持ってきた本を読んでいたら、外が騒がしく聞こえた。モカベが慌てて部屋に入ってきた。


「何事ですか?」


ローズが訊くと、モカベは困った顔した。


「ライラ姫の配下やティーラの警備隊が屋敷の前で集結して、家宅捜索を強行しようとしたのですが、見えない壁にぶつかって中に入ることができなかったことに騒いでいます」

「放っておきなさい。殿下が戻ってくるまで、彼らはここに入ることができない。私達も出ることができませんけど」

「ですが・・」

「外の警備した兵士らにえらそうな顔をしておけば良い。大丈夫だ、誰一人もここに入れません」

「・・・分かりました」

「しつこいならガレーに言って対応してもらいなさい」

「いや・・自分が何とかします」

「じゃ、頼んだよ」

「はい!」


モカベはまた外に出た。やはりモカベもガレーのことを苦手なんだと、あの様子で分かった。


数時間が経って、夕方になってしまった。エフェルガンからなんの連絡がない。リンカもなんの返事もしなかった。外は相変わらず物々しい雰囲気になっている。


ドーン!


爆発した音が聞こえてきた。宿舎全体が揺れている。


「何事か?」


ハインズが外に確認したら、モカベは走ってきた。


「ライラ姫の命令で魔法師がここの防御を破壊しようとしました」

「面倒だ」


ローズは宿舎の中庭へ走った。


「ハインズ、憂さ晴らしなら良いよね?!」

「何を言うんですか?!」

「おいでハインズ、エファイン・・大丈夫、無茶はしないから」


ローズは笑いながら空を飛ぶことに念じた。


「ダルセッタ~おいで~」

(キュルルルル)


ダルセッタを呼ぶと、宿舎の近くにある鳥小屋が騒がしくなった。


「バリアー、上を解除!」


その開いたところから、ローズが外へ出て行くとハインズとエファインが慌ててついて行った。そして駆けつけてきてくれたダルセッタの背中の上に乗って、再びバリアーを閉じた。


ローズ達はダルセッタの上にいるから警備隊とライラ姫の配下は集結して、構えた。あの魔法師たちもいる。


「降りて来い!」


下から大きな声をした兵士がいた。


「やだ。殿下が来るまで待ってと言ったでしょうが」


ローズがそういうと、ハインズは苦笑いした。相手は怖い顔になった。


「この魔女め!」

「トルバタの者って、礼儀を知らないんだね。国賓に対する扱いがとてもひどいわ」

「あなたはこの国に招かれておりませんでしたよ!招かれたのは殿下一人だけだと聞いております」

「あ、そう?その発言はあとで直接国王陛下に尋ねるわ」

「なっ!人殺し容疑のあなたはここから出ることを許可しません!」

「私は人殺しなんてじゃない。命じてもしない」

「うそつくな!」

「良いこと?私は人を危めたいなら、他人の手を使わず、自分でやるんだ。このようにね!」


魔法師がダルセッタに向かって魔法を放ったからバリアーで弾いた。第三の目を発動して魔法師の位置を確認した。


「マルチロック!バインド・ローズ!」


ズズズズズ!、と次々と茨の蔓が地面から出てきて魔法師らをしばっていく。


「魔法師よ、おとなしくしてね。でないと、あなたたちをその蔓でにぎり潰すわ」


ローズが言うと、魔法師らの顔に恐怖が表れた。


「警備隊長、あなたはどんな命令を受けたか知らないけれど、必要以上に私に対する敵対行為を露わにして、この覚悟はできているんでしょうね?」


ローズはダルセッタの上から大きな声で言った。


「私は命令に従うだけです!」

「そう?でも私の前にいるのがあなたですから、私とやり合うつもりで来たでしょう?」

「・・・」

「アミールホタを殺したのはトルバタ側ですよね?」

「アミールホタ?」

「そう、トリモ大使の護衛官だ。海岸で遺体で発見された。それだけではなく、ジャカトトにひどい怪我をさせて、トリモを拉致して、そして私を殺すために暗殺者まで送ったとは・・よっぽど腕に自信がおありでしょうね~」

「そんなことは知らん!」

「あ、そう?じゃ、どうする?私を捕まえに来る?」

「当然だ」

「やはり最初から私が犯人だと決めつけたのね」

「あなた意外にはいないから」


本当にバカな人だ。証拠がないのに・・それでも彼女を悪く思っている。けれども、事前にローズのことについて悪い評判を聞いたなら、簡単に信じ込むでしょう。


「警備隊長、分かった。あなたは私の言うことを最初から聞くつもりがなかった。じゃ、殿下が来るまでしばらくそこにおとなしくしてね」


ローズが構えた・・魔法の応用で・・逆に使う。


「キューブ!」


警備隊長を含む、相手の兵士を含めて見えない箱型バリアーに閉じこめた。最初は大きく作った・・魔力が多く消費されるから、手で小さく調整した。ちょっと窮屈だけど、しばらく我慢してもらうことにした。キューブの中から恐怖の声や怒鳴る声が聞こえたが、無視した。


突然別の方向から飛行部隊が現れた。あの仮面の男達だ。直ちに戦闘準備をして、自分自身ももちろん、ハインズとエファインに支援魔法をかけた。ダルセッタにもバリアー魔法をかけた。


「死ねぇ!」


いきなり敵の一人が投げ槍を投げたけれど、ハインズの手が早かった。剣で弾き飛ばした。


「ローズ様、ダルセッタとともに安全な場所へ避難して下さい」


ハインズが言うと、ローズは首を振った。


「やだよ。最近暴れてないから、ずっと我慢したんだ。それに、この数日間かなり腹立つことがばかりで、憂さ晴らしがしたい!付き合えよ、ハインズ、エファイン!」

「え!勘弁してくれ!」

「戦友でしょう?!」

「もう、分かったよ。倒せば良いんだろう?」

「そうよ!その敵、5人を倒せば良い!私も混じってね!」

「殿下に怒られても知らねーよ?!」

「ともに怒られよう!」

「俺はやだよ!給料半分になってしまうからだ!」


ハインズはかかってきた敵に向かって剣で応じた。


「ハインズが悪くない!」


ローズは自分の肩掛け布を硬くして、剣にした。鞭は空中戦になると不利だし、かといって、腰にある短剣は小さい。だから肩にかけた布を武器にすれば良い!


「はっ!」


ダルセッタの上から敵に向かって飛び込むと、エファインも付いてきた。彼はローズの背中を守っている。ハインズも次々と敵を倒してローズの隣に来た。


「そんな布で敵を倒せるかよ!」


ハインズが大きな声でいうと、ローズは笑った。


「ええ!見てごらんなさい、ちゃんと相手の鎧を斬りつけたよ!」


そしてぐるっと鮮やかに剣になった布を振り下ろし、相手にトドメを刺した。


「やるね!」


ハインズが笑いながら言った。なんか5人だとあっさりと戦いが終わってしまった。けれど、ローズはまだ物足りないと思っている。


敵はほとんど地面に叩き付けられて絶命したのでしょう。


「キュルルルル」


ダルセッタが鳴いて、ローズの近くに旋回して飛んでいる。ローズは急いでダルセッタに乗って状況を確認した。北の方角から飛行部隊が見えた。


「ハインズ、あれは?」


ハインズに訊くと、彼はじっくりとその方向を見つめる。


「旗のない部隊だ。暗殺者集団かもしれないな」

「今度こそ、大変かもしれないな」


ハインズが言うと、エファインもうなずいた。


「これじゃ、給料が半分ところか、・・首にされるかもしれないな」


ハインズが言うと、エファインは無言でうなずいた。


「敵の数が約30名で、仮面男」


エファインは数えながら言った。


「一人10名で、十分だろうな」

「ああ、15ずつで良いんじゃ?」


ハインズとエファインが言うと、ローズはなんだか仲間はずれになった気がした。


「私の分は?」

「ローズ様はおとなしくダルセッタの背中に乗って下さい」

「やだ」

「殿下に怒られますよ」

「む」

「遠くから魔法を撃てば大丈夫かと」


エファインは提案した。なるほど・・、とローズは思った。


「分かった」

「でもその前に、殿下に連絡をなさって下さい」

「え?」

「でないと、私達が怒られます」

「分かった」


エファインの言うことは正しい。勝手にあばれてしまうと、絶対に怒られるのだ。


「エフェルガン~♪」


ローズがとてもかわいらしい口調で呼ぶと、ハインズは凝視した。


(何?どうしたの?)

「敵が来てるから、これから退治に行くわ~♪ちょっとだけだから、ハインズとエファインを連れて行くよ~♪」


ハインズは思わず笑ってしまった。


(待って!早まるな!安全な場所へ移動して)

「遅い~♪だってもう目の前にいるよ。30人の仮面男だけだから、憂さ晴らしにさせて♪」

(やめろ、ローズ!おい、オレファ、ここ任せた!ローズがまた襲われた)


エフェルガンが慌てて移動したらしい。まぁ、小さな島だから、すぐに駆けつけてくれるでしょう。リンカももうすでに上に動いているようだ。


「自然よ!ローズが命じる:我に力を与えたまえ!」


ドーン!、と力が湧いてきた。


「サンダーズ・ストーム!」


先制攻撃だ!空からいきなり降ってきた雷に敵がバラバラに動いたが、竜巻に巻き込まれて、乗っていた鳥たちもかなりパニックになった。


「ブリザード!」


今度は吹雪を起こした。フクロウがかわいそうだが、敵を運んでいるあのフクロウ達が次々と地面に落ちた。敵は自分の翼で飛んで、あの吹雪や雷の地帯から脱出しようとした。彼らは武器を手にして、やっとの思いを逃げてきた。けれども、逃げた先にあるのはローズたちだ。快く応戦してあげる!、とローズは嬉しそうに彼らを見ている。


30人もいたけれど、たった10人しか残らなかった。残りの20人はほとんど魔法で倒れてしまった。この月のない暗い夜に、このような戦闘は得意じゃないけど、悪くもない。しばらく戦っていたら、いきなり火花が見えた。


「火の輪」


リンカの声だ。そしてローズの前にいる相手がいきなり吹っ飛んで、火だるまになった。彼はもがきながら地面に墜ちた。


「リンカ!」

「ローズ・・大丈夫か?」


リンカは魔法陣を乗って、上に上がってきた。手には武器があって、装備している。


「大丈夫だよ。たった10人だもの」

「殿下がおかしくなりそうだよ。ダメじゃないか」


それを言いながら、猛スピードで飛んできた物体が見えた。


「ローーーーーーズ!」


あ、エフェルガンだった、とローズは彼を見ている。


「大丈夫か?!」


エフェルガンがとても心配いる顔した。彼はローズの前に来て確認した。


「うん」

「よかった・・」

「平気よ。このぐらいなら・・」

「このぐらい・・じゃない!あれほど言っただろう?!勝手に戦うな!」

「大丈夫だよ。相手は仮面男だし・・」

「それでも!」

「もう大げさ!私だって憂さ晴らしがしたいの!毎回我慢する立場にされて、言われた放題しても我慢しなきゃならないなんて、もううんざりよ」

「だからといって、このような危ないことは・・」


なんか夫婦喧嘩になった間に、ほとんどの敵はハインズとエファインとリンカに掃除されてしまった。


「もう、せっかく戦う相手がいるのに、私は一人しか倒せなかったじゃないか」


不満を口にすると、エフェルガンは怒った。


「ローズは僕の指示になぜ従わない!無理に戦うとしたら、官の命を危険に晒すことになるって、なぜ分かってくれないんだ?!」

「私は彼らにちゃんと守るようにしたよ。怪我がないように、ちゃんと支援魔法をしたよ」

「だが不要な戦いを避けるべきだ。今オレファが一人になってしまった。彼はこれから一人でトリモを救出しなければならないんだ」

「あなたが無理にここに来なくても良いのに」

「そんなことができるか!!」


彼が本当に怒っている。ハインズとエファインは黙っている。


「僕はローズを守ると約束した。兄上に、聖龍様に、海龍様に、約束したんだ。だから、何があっても必ず守ると誓った!例え敵が一人でも、僕はローズが怪我になるような戦いに参加して欲しくない!」

「分かったよ。宿舎に戻る。ふん!」


ローズはバリアーを解除して屋敷の中に入った。ハインズとエファインは無言で彼女の後ろを付いていった。エフェルガンはリンカに話をして、そのまま屋敷へ戻ることにした。リンカはオレファの所に戻るらしい。全員入ったら、再びバリアーをかけた。


すねたローズはそのまま部屋に入って寝室に入った。ガレーはエフェルガンと話しをしているようだ。内容は聞こえなかったけれど、彼らの声が聞こえている。


しばらくして、エフェルガンは寝室に入った。寝台に寝たふりのローズの隣に座った。


「言うことはない?」


彼はまだ怒っている。でも必死に冷静になろうとしている。


「エフェルガンのバカ」

「バカか・・・。なら僕も言おう。ローズの分からず屋」

「・・・」

「怒鳴ってしまって、・・許せ」


彼は必死に怒りを抑えている。波動が嘘をつかないからだ。


「勝手なことをしてしまった。ごめんなさい」


悔しかったから涙を流してしまった。決して反省しているわけではない。


「ガレーから聞いた。ローズが閉じこめたあの部隊の隊長に言われ放題されたらしい」

「魔女だと言われたよ」

「無礼な」

「でしょう?」

「でもここから出て戦ったことは褒めない」

「別に褒められるためにやったんじゃない。イライラしたからやったんだ」

「それは敵の狙いだ。ローズの落ち度を待っているんだ」

「待ってどうするの?」

「評判を落とす」

「別にもう彼らに何を思われても構わない。最初から私が悪いんだと決めつけた奴らに良い評価なんて要らない」

「それでも・・我慢しなくてはならない時もあるんだ。ローズは国を背負っているんだよ」


国・・忘れていた。完全に・・。ローズはため息ついた。


「もう疲れたよ。やめても良い?」

「何をやめるの?」

「あなたの妻や姫やもうすべて・・やめても良いかな」

「・・・やめて・・どうする?」

「適当に生きて、適当に暮らす」

「それでも暗殺者が来る。賞金首ハンターが来る。一人で・・耐えられるか?」

「里に帰れば大丈夫でしょう。ロッコもいずれ帰って来るし、問題ないと思う。それに耐えなかったら、私の人生はそこまでだと思う」

「その言葉の意味は理解しているのか?」


エフェルガンは彼女の肩を手でつかんだ。目に涙が流れている。


「なんで泣いているの?」


ローズが訊くと、彼は答えずに必死に感情を抑えている。そしてため息をつき、目を閉じてから、再び彼女を見つめている。


「ローズは世界の破滅を望んでいるのか?」

「ううん」

「僕は一人で死ぬなら構わない。だが、関係のない民が皆死んでしまうんだ・・」

「・・・」

「僕のことが嫌いになったら、構わない。でも、頼む、民を殺さないでくれ」


エフェルガンの目から涙がまた流れている。彼はとても傷ついてしまった。


「ごめんなさい・・そのつもりがなかった・・」


ローズがうつむいて、そう言うと、エフェルガンは彼女の手を強く握っている。


「ここに来てから、ローズの神経を尖らせることばかり起きてしまった。トリモが無事に発見されたら、帰ろう。もう訪問を取りやめて、帰ろう」

「うん」

「外交問題が起きてしまったことが確実だし、僕も気分良く両国のために会談をすることができない」

「うん・・トリモは無事なの?」

「分からない。洞窟の中にいるだろうと探っている最中にここに来たからだ」

「ごめんなさい」


エフェルガンはローズを抱きしめた。彼はとても悲しかった。


「僕は未熟で、ローズの愛し方が下手で、ローズに伝わらないかもしれない」

「ううん。私はわがまななだけ」

「そんなわがままなローズの性格ももっと理解すべきだった。僕がしっかりしなかったから、ローズの不満がたまった一方だったね」

「・・・本当にごめんなさい」

「もう良いんだ。謝らなくても良いんだ。僕が悪いから、許してくれ」

「あなたが正しかった。私が悪かった。だからもう怒らないで」

「僕は自分自身に怒ったんだ。ローズに・・じゃない」

「エフェルガン・・こんな私って、あなたの妻として勤まることができるの?」

「何を言う?」

「あなたはいつか大国の皇帝陛下になられる人よ。こんな私が・・本当にあなたのそばに相応しいかどうか・・自信がない」


ローズは今まで秘めた思い言った。


「相応しいと聞かれると・・僕だって自分がローズのそばにいても良いのかと考え込む時もある。今もそうだ。ローズに愛想尽かされてしまったら、僕が死ぬけど・・僕一人だけなら構わない。僕が背負っている民のことも考えてしまうんだ。護衛官達のことも、ヒスイ城の皆、パララも・・全部」

「私は・・私はエフェルガンが・・好き・・」

「僕はローズのことを愛している・・ずっと変わらない。ローズ、ずっと僕のそばに居て欲しい」

「こんなどうしようもない私でも良いの?」

「こんなどうしようもない男のそばに、いてくれるか?」

「・・・はい・・」

「ありがとう」

「仲直りしよう」

「最初から喧嘩してなかったから、仲直り必要があるのか?」

「あなたのことをバカと言った。ごめんなさい」


エフェルガンは再びぎゅっと抱きしめた。


「僕はバカであることは事実だ。だから問題ない。ローズのことを分からず屋と言ってしまった。許せ」

「それは事実だと思う」

「そうか、お互い様だな」

「うん」

「ガレー達が心配するから、外に出よう」

「エフェルガン」

「何?」


彼は微笑んでローズを見つめている。


「ハインズとエファインは悪くない。彼らは必死に私を止めていたけど、話を無視したのが私だった」

「分かった」

「給料半分にしてはダメですよ」

「ああ。分かった」

「また私から外すのもダメですよ」

「注文が多い」

「わがままだから、まとめて注文する」

「分かった。あの二人は今まで通り警護に就くよ」

「うん。ありがとう」


ローズはエフェルガンに口づけした。驚いたエフェルガンは一瞬かたまったが、笑顔になった。そしてローズの手を取って、寝室を出た。


外に出ると、安堵した表情のガレー達がいた。エフェルガンはガレーからハーブ茶をもらって、休憩したら、モカベがばたばたしながらまた来た。


「今度はなんですか?」


ガレーは呆れた顔でモカベに訊いた。モカベが焦っている様子をみると、とてもおかしく思った。


「殿下、先ほど一人の兵士が来ました・・」

「どこの兵士だ?」

「ライラ姫の・・護衛だそうですが・・」

「今度はどうした?」


エフェルガンの問いかけに、モカベが息を呑んでゆっくりと口を開いた。


「ライラ姫が・・暗殺されました・・と」


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