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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
スズキノヤマ編

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179/811

179. 記憶(2)

アカディア。


それはこの世界でも聖地と呼ばれる場所の一つである。強力な結界で守られていて、古くから誰も入ることができない場所である。人々がそれに恐れて、誰も近づかない場所でもある。


そのアカディアは彼女の誕生した場所でもある。龍達の能力や希望によって卵ができて、その卵の中から彼女が誕生した、という。けれども、彼女が誕生した話は数億年前の話しだそうだ。別世界に行って、転生を繰り返した後、再び魂がこの世界に戻って、今の彼女になった、とエフェルガンは説明した。


エフェルガンはローズの記憶を取り戻すために、アカディアに連れて行た。しかし、ここで彼女の記憶を直すため(すべ)があるかどうか、誰一人も確かな情報を持つ人がいない。海龍でさえ分からないと言った。


ローズたちは夕餉が終わってから、ガレンドラが用意した船に乗って、ゆっくりとアカディアに向かった。穏やかな波で、風があまりなく、とても涼しい夜だ。他の地方と比べると、比較的に暖かいパララだから、今夜が涼しく感じるかもしれないとエフェルガンは言った。


アカディアの近くに到着すると、どこから入れるか考えている間に、エフェルガンは迷いなく彼女を抱きかかえて、自分の翼で島の真上まで飛んでいった。すると彼の胸にある海龍の紋章が光り出して、結界が開いて、ローズたちがその結界の中に入った。二人が中に入ってくると、結界が再び閉じられた。とても不思議なことだ、とローズはそれを見つめている。


「結界が・・開いたり、閉じたりしている」


ローズがいうと、エフェルガンは微笑んだ。


「思った通りだった」

「思った通り?」

「ああ。僕は海龍様と一体化になったため、ここの結界も開くことができるかと思った。実際にその通りだった」

「そうなんだ。で、ここで私について・・何か手がかりになるようなものがあるの?」

「分からない。ただ何となく、ここに来れば、何かが分かるかもしれない・・そんな気がした」

「ふむ」


古代神殿に到着すると、エフェルガンは迷いなく神殿の入り口に歩き、念じた。額にある聖龍の紋章がとても鮮やかに光っていて、扉がゆっくりと開いている。すると、中にある灯りが光り出し、神殿の中央に向かっている。そしてあのお清めのためのプールがある。


「ローズは服を脱いだ方が良いかもしれないな」

「え?」

「でないととても寒くなるから。前回、あれで体温が奪われてしまい、大変だったんだ」

「今・・すぐに・・ですか?」

「何を今更・・夫婦なんだから・・」

「はい・・でも・・」


でも、やはり恥ずかしい。でもエフェルガンはまったく変な顔をしなかったし・・良いかな、と彼女は戸惑った。


エフェルガンはローズを下ろして、そして片手を周囲にかざすと、灯りが消えた。とても暗くなってきた。


「これなら大丈夫だろう?」

「はい」


ローズは服を脱いで、きれいにたたんだ。すると、エフェルガンはその服を取り、自分の頭の上に乗せた。二人がお清めのプールに入り、そのまま歩き、反対側まで歩いた。そして再び衣服を整えて、次の扉まで歩いた。前の扉と同様、目の前にある扉もゆっくりと開き、灯りがついた。何もない大きな中央の部屋だ。


「誰もいない」


ローズがいうと、エフェルガンは周囲を見渡す。数々の龍の紋章が飾られている。


「ここはローズが生まれた時の部屋だ」

「そうなんだ・・」

「聖龍様が教えてくれたんだ」

「それも忘れてしまったんだ・・私」

「ああ、だから見せたい。何か思い出すことがあるかな・・」

「ごめんなさい」


ローズは首を振った。


「謝らなくても良い。僕はすべての可能性を試したいだけだ」

「はい」


エフェルガンは前に進み、中央にある祭壇に向かって、跪いた。ローズも隣で、ともに跪いた。


「聖龍様、ローズの記憶を元に戻したい。どうしたら良いか教えて下さい。お願いします」

「お願いします」


二人が頭を下げてお願いすると、祭壇のど真ん中に突然光が現れた。


「鳥の子か・・」


聖龍は現れた。そして彼の隣にいるローズをみて、ぐるぐると飛び回り始めた。


「愛しい我が娘だ」

「はい、ただいま、聖龍様」

「前に父上と呼んだが?」

「・・・ごめんなさい、忘れてしまいました」

「哀れな我が娘だ」


ローズがうつむいてしまうと、聖龍様はまたぐるっと飛び回った。


「愚かな海龍のせいで、こうなってしまった。哀れだ」

「悪かった」


エフェルガンが答えたが、明らかにこれは海龍が話している。なぜなら、エフェルガンの瞳が青くなったからだ。


「鳥の子の体にいつまで入るつもりなんだい」

「いつまでも・・ローズと一緒に居られるなら、ローズの愛想が尽きるまで、ずっと」

「その鳥の子は我のものだよ」

「今は我のものだ。我の息子となった~」

「ふん!」

「まぁ、喧嘩はあとにして、ローズの記憶はどうやって直すか分かるか、聖龍?」

「その(ほう)の毒が強すぎたからだ。毒を抜く必要がある」


聖龍は文句を言いながら、ローズを見ている。


「体が元に戻ったのに、毒がまだ残っているというのか?」

「海底神殿の聖水だけでは治らん。飛龍の神殿に行き、相談すると良い」

「飛龍か・・」

「我の宮殿からでも飛龍の所へ行けるが・・どうだ?」

「遠慮しておこう。我はその方の宮殿に行く気などない」


海龍がきっぱりと断った。


「そもそも我も、その(ほう)の宮殿にも行く気がなかった。娘が泣いて、命をかけて、最後に願い出たことに気づいたから、行ったらあのありさまだった」

「だから悪かったと言ったのだ!」

「ふん!」


二人の龍がまた喧嘩している。本当に仲が悪い。板挟みになったエフェルガンってかわいそうだ、とローズは瞬いた。


「分かった。飛龍の所に行けば良いだろう?」

「その前にこの聖水をあげよう。邪気を払い、きれいな体になるように、娘に飲ませよ」


エフェルガンの前に一つの杯が現れた。その中にキラキラと光る液体がある。エフェルガンはそれを取り、ローズに差し出した。


「頂きます」


ローズはその中に入った聖水を飲んだら、すーと体の中から何かが抜けていくような感じで、ふら~とした。


「鳥の子よ」

「はい」


エフェルガンの瞳が再びオレンジ色に戻った。海龍がもうどこかに消えた。


「海龍がやったことは愚かだと思ったが、許せよ」

「はい」

「あれは娘の事があまりにも愛しくて、哀れで、たまらなくなったから故にやったことだ」

「はい」


エフェルガンはうなずいた。


「娘のことを、もし何かあってしまったら、そなたの国だけではなく、世界そのものが海龍によって再び滅ぼされてしまうから・・娘を頼んだぞ」

「はい。命に代えても必ずお守りします」

「何かあったら、我の神殿に来るが良い」

「はい」


エフェルガンが頭を下げたら、聖龍様はぐるっと飛び回って、消えた。


「大丈夫か、ローズ?」


床に座り込んでしまった私をみて、エフェルガンは背中に手を回して、支えている。


「ちょっと・・ふらふらになった」

「そうか。帰ろうか」

「はい」


エフェルガンがローズの体を抱えて、扉に向かって、飛んでいて、そのまま外へ向かい、神殿を出て行った。神殿の庭に着くと、神殿の入口の扉が閉じて、結界が開いた。彼はそのまま上を飛んで、待機した船に向かうと神殿が再び閉じられた。





あれから数日間経った。


アカディアから帰ってくる時、ローズは高熱を出して、数日間寝込むことになった。彼女は仕方なく、ガレーの苦い薬を飲んだ。けれど、ガレーは甘くて美味しいものも出した。とても美味しくて、口に入れた瞬間、ローズはさっきまであの苦い薬で吐きそうになった気持ちを忘れてしまった。エフェルガンは甘いものを食べる前に、細かく絵を描いた。理由を尋ねると、ローズの料理本のためだと答えた。レシピまでガレーに聞いて書いた。とても細かい人だ。というか、ローズは本を書いていることまで忘れてしまって、とても悲しい気分になった。


やっと熱も下がって、健康を取り戻したところで、エフェルガンを会いに客人が来た。ローズが聞くと、他の国から来た人だ。その客はエフェルガンとともに、ローズの部屋に見舞いに来てくれた。


「ローズ、彼は見覚えがあるのか?」


ローズが現れた客人を見つめる。エフェルガンのような鳥人族だけど、少し体が大きく、翼の色と形が違う。頭の羽根耳もない。


「ごめんなさい・・」


ローズが首を振ると、彼は悲しそうな目になった。


「俺のことも忘れてしまったのか」

「ごめんなさい」

「仕方がない。やはりエフェルガン殿が言った通りで、これは大変なことだ。このままでは、スズキノヤマだけではなく、アルハトロスも、青竹の里も、混乱して、大変な騒ぎになる」


その人がエフェルガンに向かって真剣な顔で話している。


「ローズはとても重要な立場にいるからな」


エフェルガンはうなずきながら言うと、その人が彼女を見つめる。とても悲しそうな目をしている。


「具合が良くなったら、いつでも来て下さい。そのまま俺の屋敷まで来ると良い。家族だからそのまま通せるように連絡しておく。俺も手紙を書くから、紙をくれ。ドイパ軍の兵士に渡せば案内してもらえる」

「感謝する」


その人がいうと、エフェルガンは頭を下げた。


「あの・・」


ローズが恐る恐る聞くと、二人とも彼女を見ている。


「はい」


エフェルガンは答えた。


「えーと・・あなたは誰?」


小さな声で言うと、彼の顔がますます悲しく見える。


「ドイパ国の第二王子のジャタユ王子だよ。ローズの将来の従兄弟だ」


ドイパ国のジャタユ王子・・、彼女のことを知っている人の一人であるけれど、彼女がその人のことが忘れてしまった。


「ローズちゃん、元気になったら俺の屋敷においで」

「はい」

「また俺の島へ遊びに行こう」

「また・・?」

「ローズが昔数日間過ごした島があるんだ。今度エフェルガン殿とともに来るから、昔ダルガさんとモイさんが使った部屋に泊まらせてあげるよ」

「ダルガさん?モイさん?」

「ローズの教育係の二人だったよ」

「そうですか・・」


ローズはそう言いながら、うつむいた。まったく覚えてない、と彼女はとても悲しい気分になった。


「エフェルガン殿」


ジャタユはエフェルガンに声をかけた。


「はい」

「やはり記憶をなくしたまま里に帰したら、彼女の両親が怒るだろう」

「ああ、考えるだけでも恐ろしく感じる。あの鬼神だから・・」

「分かる。俺もソマールにいたから、分かるよ。ミライヤにばれたら、絶対怒られる」

「はい」

「このことはアルハトロスの関係者が知っているのか?」

「リンカとファリズ兄上だけだ。大使は知られていない」

「それで良い。この状況を秘密にしておいた方が良い」

「はい」


ジャタユとエフェルガンが話しながら外に出て行った。あの二人はとても真剣な顔をしている。





ジャタユの訪問から数日後、ローズたちがパララを後にして、ドイパ国に向かって出発した。贈り物や荷物など、数人の護衛官とともに移動することになる。パララからジャタユがいる島までだと大体半日ぐらいかかるらしい。ポポの速度に合わせて、ダルセッタはゆっくりと飛んでくれている。


ローズの体調を気遣い、途中でいくつかの島で休憩した。結局ドイパ国の首都に着いたのは夕方になった。本当にゆっくりとした旅になってしまった。途中に現れてきたドイパ軍にジャタユの屋敷まで案内した。本当に賑やかな町だ。見覚えがないような場所だけれど、懐かしい感じがした、とローズは思った。とても変な感覚だ、と彼女は思うけれど、きっと記憶と別に、体がこの場所の何かに覚えているのでしょう、と。


町のはずれにある大きな屋敷に到着すると、中からジャタユが現れた。そしてもう一人、後ろに誰かがいた。


「ようこそ、ドイパ国へ」


ジャタユが笑顔で迎えにきて、ローズたちを歓迎してくれている。エフェルガンはローズを抱きかかえて、ダルセッタから下ろした。


「エフェルガン、もう下ろしても良いよ。自分で歩けるから」


ローズがいうと、ジャタユはエフェルガンに向かって首を振った。


「大丈夫だよ、ローズちゃん。長い旅だから、しばらく休んでな」


ジャタユが言うと、エフェルガンはうなずいた。


「そうだ。ほぼ一日もずっと飛んでいたから、疲れただろう」

「でも・・」


ローズが文句を言おうとしたら、ジャタユの後ろにいる人は前にでてきた。その人をみると、エフェルガンの顔に驚きの顔色に変わってしまった。


「すまん、エフェルガン殿」


ジャタユは謝罪した。


「この件は、たぶん彼女の助けが必要かと思って、相談してしまった」


ジャタユの隣にいる人は無言でローズの顔を見つめている。


「私のことが分かる?」


その人が尋ねると、ローズは首を振った。


「ごめんなさい」


そう返事すると彼女はため息をついた。


「ミライヤだよ、ローズちゃん」

「ミライヤ・・?」

「まさかこんな形で再会してしまったなんて・・」

「ごめんなさい」


ミライヤはローズの頭をなでた。


「ジャタユ、あとで古い文献への観覧許可をちょうだい」

「了解」

「この子、重傷だわ」


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