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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
スズキノヤマ編
178/811

178. 記憶(1)

「うーん・・」


彼女は唇になんらかの感触を感じた。頭がなでられた感じもした。目を開けるとオレンジ色の瞳が見えた。


「おはよう、ローズ」


ローズ?、と彼女は首を傾げた。


「ん?」


彼女は目をパチパチと目の前にいる人を見つめる。知っているような・・知らないような・・、と。


「うーむ・・」


まだ眠いけれど、この状況が分からない。眠いと思いながら体を起こして、寝台に座って、周りを見ている。見覚えがない部屋だ。ここはどこだ、と彼女は思った。


「ローズ?」


オレンジ色の瞳をした男性は心配そうな顔した。その男性の後ろに一人の男性が現れて、彼女の手を取り、脈を測り、熱も確認してくれた。とても優しそうな人で・・。けれど、彼女は彼のことが思い出すことができなかった。


「ローズ様、気分はどうですか?」

「ローズ?」

「おや・・」

「ローズって誰ですか?」


彼女は首を傾げた。


「あなたの名前ですよ、ローズ様」

「ローズ?・・うーん」


彼女はまた考え込んだ。


「記憶をなくしてしまわれたようですね」


男性は心配そうな顔で彼女の目や頭を確認している。


「私はテア・・、あなたは誰?」


彼女が自己紹介した。


「テア様ですか。私はガレーと言います。医療師です」

「ガレー?」

「はい。こちらはエフェルガン殿下で、テア様のご主人ですよ」

「主人?」

「はい」

「龍?」


彼女が聞くと、ガレーは首を振った。


「いいえ、テア様の夫でございます」

「夫?」

「はい」

「知らない。海龍(ロア)はどこにいるの?」

「ロア?」


ガレーは困った顔で聞いた。


「愛しい海の龍、海龍(ロア)

「海の龍・・、海の神、海龍様ですか?」

「そう、海龍(ロア)


ガレーは困った顔して、後ろにいる男性に何かの話をかけている。男性はうなずいて、ガレーに変わって、再び彼女の前に座る。


「記憶が・・数億年前の記憶になってしまったのか」

「ん?」


何を言ってるんだ、この人、とローズがまた首を傾げた。


「あなたは誰?」

「エフェルガンだ」

「夫?」

「そうだ。ローズと結婚して、僕たちは夫婦だよ」

「夫婦?」

「そうだよ。一人で二人、二人で一人。聞き覚えがあるか?」

「あったような・・ないような・・分からない」


彼女はまた首を傾げた。


「ローズは僕の愛しい妃だ」

「ローズ・・、妃?」

「そうだ。あなたはローズ、僕の妃だ」

「私はテア・・テアと呼ばれている」

「それは昔の・・遙か昔のローズの名前だ。今はローズという名前で呼ばれている」

「ローズ・・?テアではない?」

「そうだ。今はローズというんだ」


彼女はローズというのか、としばらく考え込んだ。


海龍(ロア)は?」

「海龍様に会いたいのか?」

「はい」

「分かった」


エフェルガンは肩かけ布を外した。その胸に見事な龍の紋章が刻まれている。青く光るその紋章に、彼女の手を当てた。すると、とても暖かい気持ちになって、安心した。彼女はこの波動が知っている。愛しい、愛しい波動だ。淡い青い光がエフェルガンを包み込んでいる。


海龍(ロア)?」

「はい」


彼女がその名前で呼ぶと、さっきまで彼女の前にいるエフェルガンが答えた。けれども、感じが違う。目の色も、オレンジではなく、海のような青い瞳だ。間違いなく、海龍の瞳だ、と彼女が笑顔でそれを見つめている。


「あなたは海龍(ロア)?」

「そうだよ~我が愛しい娘よ~」

「愛しい海の龍~」

「まだ混乱しているのか~?」

「はい」


突然あの夢を思い出した。思わず泣いてしまった。


「どうしたの~我が愛しい娘よ~」

「ごめんなさい」

「なぜ謝るの~」

「大嫌いと言って、ごめんなさい」

「思い出したのか~」

「はい」

「どこまで思い出したの~?」

「あの日の夜・・闇龍が・・」

「思い出したのか~」

「はい。あなたじゃなかった・・海龍(ロア)が悪くなかった」


女性が泣いて、愛しい彼に向かって、謝罪した。


「我はそなたのために喧嘩しても、他の龍を殺すことができぬ~」

「はい。ごめんなさい。許して」

「もう許したよ、ローズ」

「ローズ・・もうテアという名で呼ばないの?」

「今のそなたはローズだよ~」

「ローズ・・?」


彼女はまた首を振った。


「エフェルガンは夫?」

「そうだよ~この鳥の子はそなたの夫、我が息子となった~」


海龍は優しい口調で答えた。


「そうなんだよ~」

海龍(ロア)の息子」


海龍はうなずいた。


「これからともにいられる」

「ともに・・?」

「そうだよ~ローズとともに、どこへも・・」

「どこへも・・」

「そうだよ~」

「もう海から出られたの?」

「我が息子の体で、海から出られるようになったんだ~」

「良かったね、海龍(ロア)

「良かったよ、ローズ~」


彼女が笑うと、海龍も笑った。


海龍(ロア)、私はこれからどうしたら良いの?」

「記憶を取り戻さないとねぇ~」

「歌えば治る?」

「治ると良いのだがな~聖龍に訊いてみよう~」

海龍(ロア)は聖龍が嫌いじゃないの?」

「嫌いだよ~でも聖龍は鳥の子が気に入ったと印を与えたから、仲良くしないといけない~」

海龍(ロア)の息子~鳥の子が聖龍のお気に入り?」

「そうだよ~ほら、顔に印がある~」

「本当だ・・」

「ローズは龍神の印だから~他の龍には印を与えてはならないんだ~」

「私も海龍(ロア)の印が欲しい」

「ダメ~龍神に怒られるから~」

「そうなんだ」

「でも、これからこの鳥の子とともに、そなたのそばにいるから~ずっと近くにいるんだよ~」

「嬉しい~」


海龍は彼女をぎゅっと抱きしめた。そして青い光が消えて、エフェルガンの瞳が再びオレンジ色に戻った。とても不思議だ、と彼女が思った。


「ありがとう、エフェルガン」

「はい」

「彼と会話が分かるの?」

「分かるよ」

「そうなんだ」


エフェルガンをうなずいた。


「僕は一度死んだ。ローズがくれた命は、神々によってローズに戻された。しかし、僕が死んだままだと、ローズがまた命を対価にして僕を生き返らせるだろうと言われたから・・海龍様は僕に命を与えてくれた」

「そうなんだ」

「僕は、ローズとともに生きて、ローズのために死ぬことを誓った」


エフェルガンはまっすぐに彼女を見つめている。


「はい」

「僕が死んでも、ローズは死なない。でもローズが死んだら、僕も死ぬという契約になった」

「それはダメ。死なないで下さい」

「僕はただの人だ。神々から見ると、僕はただの鳥の子だ。命の限りがあるんだ」

「私もただの人・・」

「そうだね、ローズの肉体が健在している限り、ローズは人だ」

「人だから命の限りがある」

「そうだ。だから大切に守らないといけない」

「はい」

「僕のことを・・まだ思い出していない?」


エフェルガンが聞くと、彼女は首を傾げた。


「うーん、ごめんなさい。よく分からない」

「分かった。少し休んでから、聖龍神殿へ行こうか」

「はい」

「愛しているよ、ローズ」

「愛?」

「愛しい気持ちだ」

「愛しい~」


エフェルガンは優しく口づけした。彼は微笑んでいるけれど、波動が嘘をつかない。彼はとても辛い気持ちをしていることが分かった、と彼女は彼を見つめている。


エフェルガンが立ち上がると、ガレーという医療師がまた来て、何かの液体を飲ました。とても苦くて、美味しくなかった。しかし、敵意がないから、大丈夫だ、と。


その液体を飲むと、彼女はしばらくして、強烈な眠気に襲われて、眠ってしまった。


夢を見ることもなく、目を覚ますと、大きな鳥の上にいた。


「キュルル、キュルルルル」


鳥が挨拶しているのか・・。かわいい、と彼女は思った。


「おはよう、ローズ」

「おはよう、エフェルガン」

「ダルセッタも挨拶してくれたんだね」

「ダルセッタ?」

「そう、この鳥の名前だ」

「ダルセッタ。かわいい名前ね」

「そうだね。とてもかわいい鳥だよ」

「はい」


ローズはエフェルガンに抱きかかえられて、ダルセッタという大きな鳥の背中の上に乗っている。朝日がみえる景色がとても美しく、思わず歌いたくて仕方がない。ローズは喜びの歌を歌うと、エフェルガンもうなずいて、一緒に歌った。


「ありがとう」


ローズが言うと、エフェルガンが微笑んだ。彼は返事せず、ただうなずいただけだった。


「喜びの歌を知っているの?」


ローズが聞くと、彼はうなずいた。


「ああ、聖龍神殿に行くと、この歌を歌うからな。神への祈りの歌として毎回歌われるんだ」

「そうなんだ」

「元々何の歌のか分からないが・・」

「喜びの歌・・生命を与え、幸せの歌なの」

「神々の歌は色々な意味を持つんだね」

「多分・・そう聞かれると、多分そうかもしれない」

「そうか」


ローズはエフェルガンの胸に再び頭を置いた。とても居心地が良くて、彼の胸の音もよく聞こえている。


ドックン、ドックン、と良い音だ、と彼女は思った。


「まだ眠いなら休んでも良いよ」


エフェルガンが言うとローズは首を振った。


「もう起きる」

「そうか。おなかが空いた?」

「多分・・よく分からないんだ。でも何か口にしたいかもしれない」

「分かった。近くにある島で休もう。朝餉も食べよう」


エフェルガンは近くにいる人に合図を出した。するとダルセッタよりも小さい鳥に乗った人はダルセッタの前に飛び、誘導した。ローズたちはその人の後ろに飛んで、一つの島に到着して、着陸した。エフェルガンは彼女を抱きかかえて、ダルセッタの背中から下ろした。


しばらくエフェルガンに抱きかかえられたまま、数分、一つの建物の中に入った。食べ物を提供している所だで、中から良いにおいがした。


「ここで朝餉を取り、しばらく休もう」

「はい」


エフェルガンは窓の近くで彼女を下ろして、座らせた。ガレーは近づいて、また手を取り、脈や熱を測ってくれた。


「ガレー」

「はい、なんでしょう、ローズ様」

「もうあの黒くて苦い液体はいやだ」

「まずいからですか?」

「はい。美味しくなかった」

「昔、ローズ様も良く言いましたよ。薬は嫌だ、と」

「昔・・私はそれを良く口にしていたの?」

「はい。回復薬でございますから」

「回復薬・・?」

「はい」

「それでも、美味しくないものは嫌だ」

「ははは、分かりました。今度少しだけ美味しくしますね」

「少しだけじゃなくて、大いに美味しくして下さい」

「薬は美味しくなると、必要がないのに、飲みたくなってしまうのですよ。それはダメなんです」

「そうなの?」

「はい」

「分かった。少しだけ・・少しだけ美味しくして」

「はい。かしこまりました」


ガレーは微笑んで元に座った所へ戻った。彼女の近くにきれいな女性が一人いて、何も言わずにずっと見つめている。頭に猫の耳がある。黒い髪の毛で、青い瞳で、白い肌で、とても美しい。


「あなたはだれ?」

「リンカ」


その女性は短く答えた。


「リンカ・・?」

「どうした、ローズ?」


エフェルガンは聞いた。


「ううん。私は今たくさんの人々に囲まれているけど、皆が私のことを知っているのに、私が皆のことが忘れてしまった」

「仕方がなかった。ローズは大変だったからだ。こうやって元に戻って、元気になっているだけでもとても良かったと思う」

「そうだったの?」

「そうだ。思い出すと、とても辛い気持ちになってしまう」

「そうなんだ」

「だから、少しずつ、思い出せるように、頑張ろう」

「はい」


女性の隣に、エフェルガンと似たような翼を持っている人々が集まって、会話しながら、飲み物を飲んでいる。その近くに肌が黒く、大きな人がいて、目の瞳の色は赤い。彼も何も言わず、彼女を見ている。


「あの・・」

「はい?」

「あそこにいる人は?」


ローズは小さな声でエフェルガンに聞いた。エフェルガンはうなずいた。


「ファリズ兄上だよ。ローズの兄上だ」

「兄上?」

「そう。ローズの家族だよ」

「家族?」


彼女は家族とはどういうものか分からない。というか、思い出せない。記憶にないことで、よく分からない。でもそれを言ってしまうと、たくさんの人々が悲しくなる気がした、と彼女は思った。


しばらくすると、食べ物を運んできた人々が現れた。近くにいた人は立って、彼が先に食べ物を食べ始めた。お皿一つ一つに匂いを確認してから、目でみて、そして少し食べた。食べた後、彼がうなずいて、安全だと言った。不思議だ、と彼女は彼を見つめながら、思った。


エフェルガンは彼女のお皿に少しずつ食べ物を入れた。彼女にスプーンを持たせて、食べるように、と優しく言った。彼女は食べ物を一口を食べて、美味しい、と思った。


「大丈夫?」

「はい」

「美味しい?」

「はい」

「良かった。たくさん食べても良いよ。足りなかったらまた作らせるから」

「はい」


口の中に食べ物を運ぶと・・どこからか、湧いてきた食欲が彼女を支配し始めた。体が食べ物を求めるかのように食べ始めると止まらない。賑やかだった食卓が静かになって、次々と料理が運ばれてきた。ありだけの食べ物を食べ尽くしてしまった。でも心のどこかでストップをかけたような気がして、スプーンを置いてエフェルガンの真似をして、手を合わせた。


「ご馳走様でした」


それを見た周囲が安堵な顔した。自分がどのぐらい食べたか、分からないほど、たくさん食べたかもしれない。けれども、実にいうと、まだ満足していない。まだ食べたりないけれど、もうこれ以上食べてはいけない、と彼女は思った。


「ごめんなさい。たくさん食べてしまいました」


彼女が言うと、彼女の周りにいる人々が笑った。優しい人たちだ。エフェルガンは彼女の顔や手をきれいにして、再びダルセッタに乗せた。


「これからどこへ行くの?」

「パララに行くんだ」

「パララ?」

「我が家に一旦戻るんだね」

「我が家?」

「そうだね。ヒスイ城でも良いけど、今工事中だから、このままパララに行った方が良いと思っている」

「はい」


まったく記憶にない名前だ。思い出せない、と彼女は首を振った。


「弟!」


ファリズは近くに来た。


「はい、何でしょう、兄上」


エフェルガンが答えると、ファリズは一旦ローズをみてから、エフェルガンに視線を移した。


「直行であの狩りの島まで行こう。ポポも疲れているし、早く休ませたい」

「分かりました」

「ローズの様子、もう・・見てられない。一刻も早くあの光る龍に見せてあげたい」

「同感です。僕も辛い」

「ああ。準備するから、開いたら、入れ!俺が最後に行くからな。猛獣に気をつけろよ」

「はい」


ローズは瞬きながらファリズを見つめている。言ってることを理解できていないからだ。けれども、ファリズはそんな彼女を構わずにダルセッタの前に歩いた。ダルセッタをなでてから、何らかの呪文を唱えて大きな輪っかのようなものを作った。


「行け! 全員入ったら俺が行くから」

「はい!」


エフェルガンはダルセッタにその輪っかの向こうに見えた空間に入るようにと飛ばしている。不思議なことに、ここはまた別な島になっている。海流の魔法のように、彼女の部屋のカーテンの向こうにある空間もこのような感じだった。


しかし、到着した島にはたくさんの動物たちがいる。小さい動物から、大きな動物までがいる。そして目の前にいたのがとても大きな猿だった。


「三つ目猿だ。しかも巨大な猿!」


エフェルガンが言うと、近くにいた人はさーと前に動いた。そしてあのきれいな女性を乗せている鳥も前に行って、女性は鳥の上からいきなり猿に向かって飛び込んだ。女性は腕にある武器を装着して、グリップを握って、素早く大きく振った。一振りであの大きな猿が倒れた。早い!とても鮮やかに動いた。


「先に行って。あとでパララに行く」


女性はそういうと、エフェルガンはうなずいた。女性と複数の男性を残して、彼女らが先にパララという場所に向かった。あとから現れたファリズはその女性の所に向かい、猿を縛る。何に使うのでしょう、とテアが気になる様子だったけれど、何も言わなかった。


その島から、しばらくすると、海の近くにある大きな屋敷の敷地内に着陸した。屋敷の中から一人の男性が走ってきた。


「お帰りなさいませ、殿下、ローズ様!」


男性は嬉しそうな顔をした。


「ただいま、ガレンドラ。変わりはないか?」

「はい。皆元気でございますよ」

「なら、良かった。ローズは僕の妃になったので、部屋は一緒にしても良いが、とりあえず部屋に連れていく」

「妃・・!おめでとうございます!」


彼女はただ微笑んだだけ。実のことをいうと、この人は誰なのか覚えてない。エフェルガンがそれを気づいたか、再びその男に声をかける。


「ガレンドラ、ローズはちょっと今記憶喪失になってしまったんだ。エグバドールの戦争で、ソマールでモルグ人の大部隊との戦いで、負傷したんだ」

「そんな・・」


その男がショックの様子で彼女を見つめている。


「体は大丈夫だ。記憶が戻るまで、しばらく滞在する。あとでリンカとローズの兄上、ファリズが来る。彼らの部屋の準備も頼む」

「かしこまりました」


エフェルガンが彼女を抱きかかえて、庭を歩いて屋敷に向かっている。庭にたくさんの薔薇の花がきれいに咲いている。美しい。


ガレンドラという人は屋敷の扉を開けて、美しい玄関に案内した。その部屋にはたくさんの絵が飾られていて、上品な色合いの空間だ、と彼女は思った。エフェルガンは階段を上り、大きな居間に入った。そして向かい合い扉の前にいて、ガレンドラはその扉を開けた。とてもすてきな部屋だ。海のテーマをしているようで、なぜか懐かしい、と彼女は思った。


エフェルガンは彼女を寝台に座らせた。彼女はその近くにあるぬいぐるみを触れると、初めてだという感覚ではなかったことに気づいた。


「どうした?」

「うーん・・、なんだか・・変」

「変?」

「うん。初めてという気がしないんだ」


エフェルガンは微笑んだ。


「そうだよ。ここはローズの部屋だ。僕たちが結婚する前に、ローズはこの部屋を使った。僕は向かいにある部屋を使った」

「そうなんだ」

「夫婦になったから、部屋を統一しても良いが、ローズは今夜どこで寝る?」

「今夜はこの部屋が良いかな」

「分かった」

「私は・・この寝台に、屋根にある飾りが・・」


あれ?なんでそこに飾りがあると分かったのか、自分も不思議に思った。ローズは戸惑いながらふっと、周りを見ている。


「何かを思い出した?」

「うーん、よく分からないけど・・この寝台に飾りがある。キラキラ飾りがあると思う・・」


ローズは寝台の屋根に手を伸ばすと、確かにあった。ローズがその飾りを触れると、エフェルガンは嬉しそうに大きな笑顔になった。


「水場も見る? 何か思い出すかもしれない」


エフェルガンはローズの手をとり、近くの扉を開けてくれた。トイレ・・でも壁にたくさんの貝殻がある。床は小石で飾られている。


「貝殻・・屋敷の前にある海に・・潜って取ったんだよね」


ローズがいうと、エフェルガンはますます笑顔になった。


「そうそう・・僕が取った」

「それは違う・・あれ?違うよね?」

「じゃ、誰が取ってきたか分かる?」

「うーん・・名前は出てこない・・」

「でも僕じゃなかったことが分かるんだ」

「なんとなく、そんな感じがした」

「パララに連れてきて良かった」

「屋敷の中に歩いても良い?」

「良いよ」


エフェルガンは彼女の手を引いて、居間へ連れて行った。そしてリビングルームに連れて行った。そこで彼女とエフェルガンの絵がある。


「この絵は・・」

「僕たちの旅の姿で描いてもらった絵だよ」

「私達が・・旅を・・」

「そうだな。まだ旅が終わってないんだよ」

「まだ・・なんだ」

「そう。僕たちが旅の途中だ」

「そうなんだ」


ローズは周りをうろついて、楽器を見つけた。弾いてみたら懐かしい音がした。


「弾いてあげようか?」

「ぜひ」


エフェルガンはその楽器を取って、弾いてくれた。とても美しい音楽を奏でた。


「ローズも弦楽器が使えるんだよ」

「そうなんだ」

「ローズの楽器は今ヒスイ城にあると思うが、欲しいなら取りに行かせても良いよ」

「あ、良いよ。皆が疲れているから、休ませてあげて下さい」


ローズはそう言いながら、近くの打楽器をとって、叩いてみた。体のどこかがリズムを覚えているのか、手が自動的にリズムに乗って、叩いた。


「お!思い出したか?」

「分からない。でもとても懐かしい感じがした」

「ローズはよくエファインと打楽器を遊んで叩いたね。海の近くで焚き火しながら、皆でやってたよ」

「エファイン?」

「ローズの護衛官の一人だ。ほら、そこに立っている人だ」

「エファイン」


ローズはエファインという人の前に立って、見つめた。懐かしい感じがしたが、覚えていない。


「エファイン・・」

「はい、ローズ様」

「エファイン・・」

「はい」


ローズはエファインのことが思い出すことができない。けれども、とても懐かしい感じがした、と彼女が感じた。エファインの隣にある人にも視線を移し、見つめる。


「ハインズです」


その人は自分の名前を言った。ハインズというんだ、と彼女は彼を見つめている。


「ハインズ・・」

「はい」

「ハインズ・・。ハインズは・・弦楽器・・」

「お?」

「ハインズは・・弦楽器・・。エファインは打楽器」


ローズが言うと、彼らの顔色が変わった。とても嬉しそうに微笑んだ。


「思い出して下さったんだ」


エファインが嬉しそうに言うと、ハインズはうなずいた。けれども、それ以上のことが思い出せなくて、結局ローズは部屋に戻り、窓から海を見つめる。


海岸で何か人々が忙しく動いている。何かを準備をしている。彼らがとても忙しそうに動いているのに、彼女はここで何もしない。手伝いに行こうかと思ったけれど、エフェルガンにダメだと言われた。エフェルガンはガレンドラに色々な指示をして、周りの人慌ただしくと動いている。


「ローズ、少し買い物しようか?」


エフェルガンが部屋に入って、彼女を隣に来た。


「買い物?」

「そう。水着を買いに行こう。リンカと兄上の分も必要だからだ。護衛官達の分はケルゼックが買ってくれるから」

「リンカ?」

「ほら、あの猫耳の人だよ。ローズの身内であって、護衛官であって、猫でもあるよ」

「猫」

「まぁ、言えば見せてくれるよ」

「はい」

「じゃ、買い物しよう。リンカは今厨房にいるから、もう少しで一緒に行けるよ」


二人が部屋の外に出ると、階段の下でリンカがもう待っている。


「リンカ・・」

「あい」


なんか懐かしい声だ、とローズは思った。


「リンカは猫?」

「みゃ」


あ、かわいくない鳴き声だ。懐かしい。


「思い出した?」

「うーん・・なんとなく」

「焦らなくても良いよ」

「はい」


リンカは優しく言って、うなずいた。その後、彼らはパララの町に出かけて、水着を選んで買ってきた。買い物は、こんなに楽しいんだと彼女が感じた。リンカは大きなボールを買ってきた。ボール・・なんか懐かしい。なぜ懐かしいか、分からない。


屋敷に帰ると、早速買ってきた水着に着替えた。そしてリンカがるんるんとうれしそうに大きなボールを持って、海岸に向かって小走りした。海岸にファリズとハインズとエファインとほかの人も集まって、網で魚や肉を焼いている。とても良いにおいがした。あと三つ目猿が調理されている。


「ローズ、リンカとボール遊びをしようか?」

「ボール遊び?」

「やれば、思い出すかもしれないよ!」


エフェルガンは彼女の手を引いて、リンカ達がいるところに向かい走った。突然、ローズに向かって、リンカがボールを投げた。エフェルガンは急いでボールを両手で叩いて、別の方向になげた。そうやって、ボールが適当な方向に行ったり来たりして、わくわくした。


楽しい!


ローズの顔にほっぺが痛くなるほど、笑顔になった。笑い過ぎているのだ。


楽しいボール遊びのあと、ローズは魚や肉を少し食べた。今度は自制ができた気がした。皆の分もあるから、一人で食べ尽くさないように気をつけている。懐かしい味で、味わって食べた。こんな美味しいものにまで記憶をなくしてしまうととても悔しく思った。


「美味しい?」


エフェルガンは砂の上で座って食べている彼女の隣に座って、焼き魚を食べている。


「はい」

「パララにもローズの好物があるんだよ」

「好物?」

「そう。魚の揚げものだ」

「へぇ」

「作らせようか?」

「今は良いよ」

「じゃ、夕餉にそれを食べようか」

「はい」


エフェルガンはローズのお皿にある肉を一切れ取った。


「これが美味しいんだよね」

「三つ目猿の塩焼き?」

「そうだ。見た目と違って、味が本当に美味だ」

「はい」


三つ目猿・・。初めての猛獣ではなかった気がした、と彼女は思った。


「ローズ、今夜、少し出かけようか」

「出かける?」

「ああ、船に乗って、ローズにとって懐かしい場所に行こうか」

「懐かしい?」

「そうだ。ローズが生まれた場所、アカディアへ」


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