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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
スズキノヤマ編
175/811

175. 海龍神殿(3)

「謹んで・・死を・・お受けします」


エフェルガンはためらいなく頭を床につけた。


「顔をあげなさい~」


海龍の命令にエフェルガンが従った。


「口を開けなさい~」


エフェルガンは口を開けた。するとロアが自分の目から涙を落とし、手で受け取った。家臣がそれを受け取り、エフェルガンの前に持ってきて、涙の結晶をエフェルガンの口に入れた。


「飲み込みなさい~」


エフェルガンは口を閉じて、飲み込んだ。


「そなたにローズとともに死ぬことを許す」

「ありがとうございます」


海龍がエフェルガンに告げると、エフェルガンはまた床に頭を付けて礼を言った。


「頭をあげなさい~」

「はい」


エフェルガンはまっすぐに海龍を見つめる。


「聖龍にまた怒られるな~お気に入りの鳥の子を殺すことになるなんて~」


海龍は、エフェルガンを見つめて泣いているローズをみている。彼は何も言わず、またエフェルガンに視線を移した。


「鳥の子よ」


海龍はエフェルガンに声をかけた。


「はい」

「ローズの死はそなたのと違う」

「どういう意味ですか?」

「そなたは時がくれば、安らかに死ねるが・・ローズの場合、その体を失う時は凄まじい痛みとともに朽ちる」

「!」


エフェルガンはローズを見つめて、驚いた。


「だが、そなたが頑張れば、ローズの痛みを和らげることができる」

「何をすれば良いのですか?」

「そうだな・・そなたの時でいうと、三日間以内、海底神殿にある神水を汲んで、ここまで持ってローズに飲ませば、ローズが朽ちる時の痛みがなくなるのだろう」

「三日が過ぎてしまったら、どうなりますか?」

「そなたが死ぬ。ローズも痛みとともに朽ちる。別々の所でな~」


エフェルガンは信じられない様子で聞いた。


「・・・分かりました」

「海底神殿に入ることを許す。そなたに海龍の腕輪を与える。だが、神殿の中にウミヘビがいるんでな~注意するが良い。猛毒だ」

「はい」

「我の毒で死ぬか、ウミヘビの毒で死ぬか、それもまたそなた次第だ」

「はい」

「覚悟が決まったら、そこにある神水の瓶を持って、その扉から向かうが良い。ここに戻りたい時はその腕輪に向かって念じれば良い」

「はい」

「またローズと関わりを諦めて、この挑戦を止めたいなら、いつでも宣言すれば良い。そなたの体から毒が消え、そなたが王になれば、国の繁栄を約束しよう~」

「止めません」

「ならば努力するが良い。我はこれからこの場を離れる。そなたとローズの二人だけの時を許す。だが、あまり時をかけすぎると、間に合わなくなるぞ~ローズの体が壊れ始めているからだ」


海龍は泣いているローズの頭をなでた。


「我の愛しい娘の片割れは鳥の子とは・・哀れだ」

「哀れではない」


ローズは泣きながら反論した。


「ならばその片割れを見守れば良い」

「言われなくてもそうする」

「ともに神水を汲むことをねだるかと思ったが・・」

「それが可能ならそうする」

「残念、そなたに許可を与えない」

海龍(ロア)のいじわる、分からずや、わがまま」

「そう、我はいじわるで、わからずやで、わがままだ」

「なんで否定しない?」

「その通りだからだ~」

「うむ」

「では、ローズ、その鳥の子と時を過ごせば良い。あの猪の丸焼きとやら、ともに食するが良いぞ~我は宮殿に戻る」


海龍は微笑んで、青い光とともに消えた。家臣達も姿を消し、ローズたちが二人きりになった。ローズがエフェルガンの隣まで近づくと、エフェルガンは両手を広げて飛び込んだローズを捕まえて、抱きしめてくれた。


「ローズ」

「エフェルガン」


言葉にならない気持ちがいっぱい。涙とともに流れる悲しさと愛しさが二人を包む。


「会いたかった」


エフェルガンはローズの顔を手で触り、唇に口づけした。


「私も会いたかったよ、エフェルガン」

「もう二度と会えないかと焦った」

「あれからどのぐらい時が経ったの?」

「6週間だ」

「そんな・・」

「やっと神殿の場所が見つかって、海を眺めていたら、ローズの声が聞こえた」

「あの時の・・」


ローズがいうと、エフェルガンがうなずいた。


「そうだ。必死に探したが姿が見えなかった」

「私も探した。エフェルガンがどこにもいなかった」

「不思議だな」

「うん。ちなみに言うのが変だけど、私は2回眠ったの」

「本当に時の流れが違うんだな」

「うん」

「ということは、急いで神殿に行かないと間に合わなくなる」


エフェルガンは目の前に置かれた聖水の瓶を見つめる。


「エフェルガン、ごめんなさい」

「なぜ謝る?」

「私のために海龍様の毒を飲んでしまった」

「それは僕が決めたことだから、ローズのせいではなかった」

「でも・・あなたが死んでしまうと、国はどうなる?」

「父上に、もう一人の跡継ぎを頑張って作ってもらうよ」

「うむ」

「僕はローズとともに時を過ごしたい。例えそれがたった最後の瞬間でも」

「うわーん、ごめんなさい」


ローズは大きく泣いてしまった。


「泣かないで。ほら、リンカが作った美味しい猪の丸焼きだ。ファリズ兄上が巨大猪を狩ってくれたんだ」

「うん、ありがとう」

「ケルゼックたちも手伝った。皆の気持ちが入った猪の丸焼きだ」

「うん」

「食べようか」


エフェルガンはローズの手をとり、祭壇にある巨大の猪の丸焼きを短剣で切って、一切れを食べた。


「美味しい。ローズも食べる?」

「うん。頂きます」


二人で祭壇の前に座り、食べた。多分これは私達の最後の食事だろう


「痛っ!」


突然手に痛みを感じる。確認すると腕に亀裂がみえた。エフェルガンはローズの腕を見つめている。


「もう毒が働いてしまったか」

「うん」

「なぜ毒を飲まされたの?」


エフェルガンはローズの手をなでながら尋ねた。


「あなたの子を産みたいと言ったから・・海龍様に気に入らないと言われたの」

「そうだったのか」

「ごめんなさい。あなたの子が欲しいと言いながら、産める体ではなかった」

「僕こそ・・ローズに負担をかけすぎた。許してくれ」

「私達は・・一代限りなんだね」


ローズがうつむいて、小さな声で言った。


「仕方がない。それもまた運命だろう」

「ごめんね。あなたが他の女性を妃にしても良いよ」

「その気はない。それに、あと三日の命だ。今はローズのことを考えて聖水を汲みにいくことに集中したい」

「とても危険な海底神殿なんだけど、潜れるの?」

「多少・・、でもやるしかない」

「はい」

「この丸焼きはローズに全部食べてね。せっかく兄上とリンカ達ががんばって作ってくれたから、無駄にしないでくれ」

「うん。あとで残さずきれいに食べるよ」


エフェルガンは微笑んで、ローズの唇に口づけした。焼肉の味がした。


「痛っ!」


今度は首筋から痛みが走った。エフェルガンの顔色が変わっている。手で亀裂を触り、目を閉じて、息を整えた。そして目を開き、ローズを見つめる。


「じゃ、行ってくるよ、ローズ」


彼は聖水の瓶を取り、肩掛けの布で包み、腰に縛り付けた。


「お気をつけて」


エフェルガンはうなずいて、海龍が示した扉に向かって歩いた。一度彼が振り向いて、ローズを見てからまた微笑んで、そして前を向かってためらいのない姿勢で扉を開けて、その向こうにある空間に入った。


一人になった彼女が、大きな鏡の前に座り念じて、エフェルガンの様子を見せて欲しいと願った。


焼き猪を食べながら、鏡をみていると不思議な感覚になった。映画を見ている感じだ。鏡でエフェルガンの様子が映っている。彼はある海岸に着いたらしい。どこの島の海岸か分からないが、エフェルガンはその海岸が知っているような感じがした。彼はそのまま潜らないで、どこかへ自分の翼で飛んでいる。そしてしばらくしたら、街のような雰囲気の場所があって、エフェルガンが迷わず一つの建物に入った。何をしているのでしょうか。


「痛っ!」


食べる途中でまた痛みが走った。今度は背中からの痛みだ。ローズの体があちらこちらで割れかけている。怖いけど、どうしたらいいか分からないから、痛みが消えたら、気にしないことにした。


エフェルガンがまだ人と会話しているから、ローズは焼き猪に集中して食べた。


美味しい・・本当に久しぶりの味だ、とローズが思った。しばらく食事に集中して食べ尽くした。手を洗いたいと言葉で言ったら、どこからか現れた家臣が洗面器を持ってきた。手を洗って再び鏡を見ようとしたら、もう猪の骨などきれいに片づけられた。仕事が速い家臣達だ。


鏡はまた違う景色を見せた。エフェルガンはまたいつの間に海岸に戻っている。彼は正装で身につけた飾りをすべて外した。唯一身につけた飾りは海龍の腕輪のみだった。剣と短剣は腰に付けて、海に向かって祈った。そしてしっかりとした足で海に入る。


空を飛ぶ種族として生まれたエフェルガンにとって、海を潜ることが難しい事である。海鳥系の種族ならそれほど難しいことではないけれど、エフェルガンの種族はミミズクフクロウであり、体の構造や特徴から海を潜ることがかなり難しい。それ以上に、海がかなり荒い。高い波で荒い海、潜るのもかなり大変だ。それでもエフェルガンがなんども潜り直している。大変そう・・、とローズが鏡を見つめながら思った。


何度も海に吐き出されたその体に疲れが見えているけれど、エフェルガンは諦めずに、ずっと海に向かって飛び込んだ。しばらくして、疲れがピークになってきたか、エフェルガンの体が海岸に横たわっている。両手で顔を覆う姿を見ると、思わずローズが泣いてしまった。もう諦めて良いとローズは思った。


鏡に複数の人がエフェルガンに近づいた。見慣れた人たちだ。あれはケルゼックやオレファ、ハインズとエファイン、そしてジョルグ達だ。トダも来てエフェルガンに多分回復魔法をかけているのでしょう。リンカもファリズもいる。医療カバンを持ってきたガレーも慌てて走ってきた様子も見える。皆が彼に心配している様子がここからでも分かる。


皆、心配をかけてごめんなさい、とローズは涙を流しながら心の中で叫んだ。


ファリズは焚き火を作って、エフェルガンの冷えた体を温めている。リンカはどこからか持ってきた鍋と食材で調理し始めた。複数の護衛官は焚き火の近くに石で焜炉を作っている様子が見える。彼らは少しでもエフェルガンに役に立ちたいと思っているのでしょう、とローズは思った。本当に団結力が良い集団だ。


「痛っ!」


今度はおなかの方からの痛みだ。ローズの体の破壊が確実に進んでいる。ローズは、海龍が本気でローズの人の姿を破壊しようとしていることが分かった。さっきよりも亀裂が大きくなって、ひりひりと痛む。腕や首、そして背中に複数の小さな亀裂が現れ始めた。怖いけれど、何もできない。解毒がないこの毒の対処方は海龍しか知らない。


エフェルガンは再び海に潜ることになった。今度はファリズと一緒に潜っているようだ。広い海で泳ぎ慣れているファリズは、エフェルガンに泳ぐコツを教えている。しばらくして、疲れ果てたエフェルガンはファリズとともに浜辺に戻った。エフェルガンは首を振って、焚き火の前に座り、リンカからの食事を受け取った。ファリズは海の方向に指を指しながら、ケルゼック達と会話している。多分海底神殿の位置を探り出しているのでしょう。


エフェルガンが食事をしている間に、複数の護衛官は服を脱ぎ、海に潜る。ファリズも彼らと一緒にまた海に潜っている。ガレーはエフェルガンと会話しながら回復魔法をかけている様子がはっきりと見えた。


どのぐらい時間が経ったのでしょうか、空が暗く見える。ローズもさっきからずっとこの鏡の前に座って、彼らから目を離さなかった。体中が痛く感じて、あまり動きたくない。亀裂がさっきより多くなり、いつこの体がバラバラになってしまうのか時間の問題だ。顔にも亀裂ができてしまって、痛い。


海龍の心の痛みはこれよりもずっと痛かったのでしょう。何もかも忘れているローズにとって、関係ない話だと思っても、ずっと覚えている海龍にとって、地獄そのものだ。


数億年前の話なんて、どうやって思い出せるのか、誰かに教えてもらいたい。ローズの不完全な記憶なんて、ゲームやあまり役に立たない前世の一般知識ぐらいしかない。


ローズはため息ついて、自分を見つめている。何一つも満足してやれる家事などのスキルもなく、エフェルガンにとって出来損ないの妻だったのでしょう。料理もできず、裁縫もできず、政治の知識も中途半端で、跡継ぎすら産めなかったこの自分が、彼の命と引き替えるような価値なんてない、と彼女は思った。それでも彼があんなに必死に彼女を救おうとしている。せめて最後の瞬間で痛みなくこの体とお別れのために、あんな海に潜ろうとしている。


護衛官達が上がっている様子が見えた。皆の顔に疲れがみえた。リンカは暖かい食事を配り、それを嬉しそうに受け取ってきた護衛官達だ。エフェルガンもまた海から上がってきて、スープをもらってきた。しばらくして、駆けつけてきた海軍部隊が見えてきた。船で来た彼らは海岸にテントを作り始めてエフェルガン達に休む場所を作っている。やはり海底神殿のありかを探っている様子だ。ケルゼックとファリズがまた話し合って、海に何度も方向を指で示した。もう夜が暗いのに、彼らは諦めずにいる。


「ローズ、もう休みなさい」


突然後ろから海龍の声が聞こえた。もう体に亀裂だらけの彼女が返事する気力もなくなっている。ローズが頭を横に振り、断った。


「痛いか?」


海龍はローズの隣に座り髪の毛をなでた。


「痛い・・でも平気よ」

「我慢しなくても良いよ。痛みを感じないように、眠らせても良いぞ~」

「いや、要らない。最後まで耐える」

「強情な娘だ~」

海龍(ロア)に似ているからだ」

「そうだねぇ~」


海龍は彼女の腕を触り、亀裂具合を見つめている。


海龍(ロア)

「なに~?」


ローズが海龍に話をかける。


「この体、粉々になったら、その残骸はどうするの?」

「さぁ~考えていない」

「うむ」

「何かにして欲しいの?」

「里の父上のところに送り返して欲しい」

「あの鬼神のところか~」

「うん」

「そこは海から遠いから面倒だな~」

「それでもして欲しいんだ。父上と母上が作ってくれた体だから、返さないといけないんだ」

「考えておく」

「そのまま適当に処分したら怒るよ。私は廃棄処分のゴミじゃないんだから」

「分かった」

「痛っ!」


会話の途中、また痛みが走った。今度は首から耳に向かっての亀裂ができてしまった。髪の毛が変な具合になってしまった。


「もう無理をせず、眠りなさい~その方が痛みも感じないで済むよ~」

「やだ。エフェルガンを最後まで見たい」

「神殿の入り口すら見つけられない彼らは2日後に間に合うかどうか・・ねぇ~」

「きっと見つかる」

「どうしてそんなに彼らを信じる?」

「どうしてと言われても・・私が彼らを信じたかったから、信じただけよ」

「そんな確信がないことを~人は他人を平気に裏切る生きものだぞ~」

「確かに、そんな人もいる。でも、そうでない人もいる」

「そう~なら信じてあげれば良い~」

「うん、そうする」

「もし裏切られたら、ローズはどうする?」

「その時は、おとなしく朽ちていく」

「彼らを滅ぼそうか?」

「いや、しなくても良い。信じるか信じないか、それは私が勝手にしたことだから」

「そう~分かった~」


海龍がそう言いながら、ローズを見つめている。


海龍(ロア)、私が耐えられなくなってしまったら、私の代わりに彼に御礼を言って欲しい」


ローズが言うと、海龍は不思議な目で彼女を見つめている。


「御礼?」

「うん。頑張ってくれて、ありがとう。今まで、ありがとう、と」

「分かった」

「あと、海龍(ロア)・・」

「はい?」

「今まで、ごめんね。あなたの気持ちを知らずに、勝手なことばかりして。記憶がまだ戻っていないけれど、恐らくこれから先は戻るかどうか怪しいけれど、・・私が悪かった。ごめんね」


海龍はローズをぎゅっと抱きしめた。


「愛しい娘よ~もう眠るが良い」

「嫌だ」

「わがままだ~」

「うん、わがまましてごめんなさい。でも眠りたくない」

「そなたがもう限界だと判断したら、その時あの鳥の子を待たずに、眠らせるぞ~」

「やだ」

「そのわがままは許さない」


海龍は優しく口づけして、消えた。


あれから数時間後、鏡に映った空は朝日で照らされている。まだ海底神殿の入り口が見つからないようだ。エフェルガン達の過労とともに、ローズの体の状態が良くない。亀裂がひどくなって、もう立ち上がることができなくなってきた。いよいよこの体とお別れするのか。明日・・いや、今夜、もう完全に朽ちてしまうかもしれない、とローズは思った。


ローズは海龍の家臣が出したご飯も食べられなくなってきた。座ることもできず、ローズは床に横たわっている。鏡の中で映った空はもう黒く、夜になったそうだ。エフェルガンはまだ必死に泳ぎ続けている。3日という期限はいよいよ明日になる。ローズが朽ちて、エフェルガンも死ぬ。なんていう短い人生だ。神体に生まれ変わっても、今まで体験してきたことを記憶に残るかどうか、分からない。ローズは楽しかったあの頃のことを思い出して、力をしぼり、歌い始めた。


エフェルガンが最後に聞かせてくれた歌だ。せめて最後にこの歌だけを彼に届けたい。心を込めて、心からの愛を彼に届けたい。


聖龍様、最後でも良いから、彼の味方になって、私の歌を届けて欲しい、とローズは願った。わがままはもう言わない、最後にこれだけでも良い、と。そして今まで、ありがとうと目を閉じて、エフェルガンの顔を考えて。歌う。父上、母上、柳、欅、百合、菫姉、リンカ、料理長、ファリズ、ミライヤ、ダルガ、モイ、ジャタユ、ハインズ、エファイン、・・ガレー、ケルゼック、オレファ、あと・・ミルザ、パトリア、トダ・・ジャワラ・・えーと・・誰だ・・思い出せない・・、とローズは記憶を絞って、いろいろな人の名前を思い出している。もう・・鏡もうまくみえなくなってきた。目に亀裂が入ったようだ、とローズは思った。


聖龍様、エフェルガンを助けて、私とともに死ななくても良いんだ・・あの人は国にとってとても重要な人だから、守ってやって下さい。最後の願いだ、・・あの人を助けて・・。命に替えても、あの人を助けて、とローズは願った。


けれど、彼とは誰のことなのか、思い出せなくなった。自分でさえ、今、何をしているんだ。思い出せなかった。


ローズはこの体を失ったら、多分すべての記憶がなくなるのでしょう。自分が神となり、彼らと深く関わらなくなるのでしょう。


ローズは目を閉じた。もう鏡で映ったものがみえなくなった。痛みがもう感じなくなった。さっきまで強烈な痛みで、体が引き裂かれたような感じがしたけれど、今はもう痛くない。というよりか、もう何も感じなくなってきました。彼らの顔はまだうっすらと記憶にあったのに、もう名前が出てこない。愛するあの人の名も出てこない。さようなら・・皆、ありがとう、とローズは最後の涙を流して別れを告げた。


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