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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
スズキノヤマ編
174/811

174. 海龍神殿(2)

「毒?」


ローズは耳を疑い、信じられない気持で海龍を見ながら、尋ねた。


「そうだよ~毒だよ~」


海龍は微笑みながら答えた。


「なんで・・?」

「気に入らないからだ。我は数億年もそなたをずっと待ち続けていたのに~。ここから出たまま帰ってこなかったそなたが悪い。我が涙がどれほど流れていたか、そなたに理解してもらう~」

「でも・・」

「我はずっとそなたを愛して、ずっとそなたのことを思って、帰りを待っていた。待ち飽きて、眠りについたら、今度はそなたの悲しい歌で起こされた。やっと帰ってきたそなたは、我よりもあの鳥の子を気にかけた。それでもそなたの願いを叶えて、あの鳥の子を助けた」

「・・・」


記憶にない、とローズは思った。


「やっとここに帰って来て、我とともに楽しい歌をしている時、そなたの心の中に我ではなくあの鳥の子だ。子孫まで与えようとした、そんなの気に入らない~」

「私は海龍(ロア)のことを、記憶にあったかどうか分からなかった。今でもよく思い出していない。やっと歌のことを思い出しただけで、・・それ以上のことがまだ・・」


ローズが反論しようとした。けれど、海龍は彼女を見つめながら、首を振った。


「その体を失ったら、そなたは我とともに、ずっとここにいられる。我が愛しい娘~ずっとここにいられる~」

「嫌です。あなたはひどい!私の気持ちをちっとも考えていない、身勝手でわがままだ」

「その言葉をそっくりと返すよ。そなたはひどい、我の気持ちを考えず、身勝手でわがままだ。そうだよ、言われた通り、我もまた身勝手で、わがままだ。そなたは我に似てわがままな娘だけど、我にとって愛しい娘だ」

「私は・・私は・・」


ローズがなんだかとても悲しい。自分の記憶には海龍のことがまだ完全に思い出していない。数億年前の記憶なんて、分からない。ずっと待ち続けていた海龍にとって大変だったかもしれないけれど、・・ローズは自分の人生がある。やりたいことだってある、と彼女は思った。


海龍(ロア)なんて、・・大・・大・・大嫌いっ!」


ローズが涙ながら、大きな声で言うと、海龍はまっすぐに彼女を見つめている。


「それはここから出た時のそなたの言葉だった」

「・・・」


数億年前・・何があった?ローズは首を傾げた。


聖龍によると、雄達に追われて怖くなったローズが別の世界に逃げたとしか教えなかった。でも今の海龍の言葉になると、もっと何かがあったはずだ、と。


「数億年前・・何があった?」


本人に聞いた方が早い、とローズは思った。


「それも忘れたのか?」

「ごめんなさい。長い年月の中で、色々な事を忘れすぎました」


海龍は近づいてきた。その青い瞳に悲しみが映った。彼は優しく抱きしめ、口づけした。


「もう休め。休めば記憶が戻ってくるのだろう~」

「嫌です」

「わがままな娘だ~」


海龍は彼女の額に手を触れると、すべてが一瞬で闇となり、意識を失った。


目を覚ましたら、ローズはあの貝殻の寝台にいた。飾り物や羽衣などはすべて近くにある大きな貝殻の中に入っている。服装は寝間着になっている。


ローズの回りには誰もいなかった。毒を飲まされたと分かったけれど、痛みもなく、苦しみもない。体の異変もない。海龍は嘘をつくのか、と思った彼女が首を振った。海龍である彼が、嘘をつくはずがない。


けれど、これからどうしよう、とローズここの時間の流れが分からない。それに、エフェルガンのことを思えば思うほど、彼女の胸の奥に苦しくなってしまって、思わず泣いてしまった。


ローズはしばらく一人で泣いていたら、音楽が聞こえている。涙を拭いて、部屋の外に出たら、今まで海の中がみえる空間が変わっている。その空間は砂浜になり、目の前に地平線と海が広がっている。素足で歩くと、白い砂浜の感触がとてもリアルだ。触ってもやはり砂だ。ぱらぱら・・。海を触り、濡れている。


ここはどこなんだ・・、とローズが周囲を見つめている。知らない浜辺だ。けれど、とても美しく、心が安らぐ風景が広がっている。しかし、この浜辺にも自分が一人だ。自分以外は誰もいない。リンカもいない、エフェルガンもいない、ハインズも、エファインも、ガレーも、皆、いない。


会いたい。


ボール遊びも、焼き魚も、貝殻集めもしたい。飛び道具の練習もけり合いと練習も、ただの日なたぼっこもしたい。ローズが浜辺に座り、海を見つめている。パララで習った歌を涙ながら歌い、思いを風に乗せ、楽しかったあのころの事を思い出している。とても切ない気持になって、涙が止まらない。


寂しい・・、と彼女が思いっきり泣いた。


皆に会いたい。エフェルガン、会いたい、と彼女は思った。


(ローズ?)


どこからか聞こえているエフェルガンの声だ。


「エフェルガン・・あなたなの?」

(ローズ?!ローズなの?!)

「はい」

(どこにいるんだ・・今どこにいるんだ?ローズ!)

「海龍様の宮殿にいるんだけど、・・場所が分からないの」

(僕は・・僕はずっと・・ずっと・・ローズを探している)

「エフェルガン・・」

(会いたいよ・・今すぐに、ローズがいるところへ行きたい・・迎えに行きたい)

「私も・・でも・・」

(僕は諦めない。必ず探し出して、迎えに行くから)

「はい」

(ローズ・・やっと声が聞けて・・良かった)

「はい、私も・・」


エフェルガンは歌い始めた。ローズの耳元にいつも歌ってくれているあの愛の歌を・・優しく歌っている。ローズも口を合わせて歌って、互いの声を心に刻む。


「エフェルガン」


再び声をかけると返事が来ない。もうリンクが切れてしまったのか・・、と彼女は思った。


エフェルガンはずっと自分を捜していると言った。あれから、どのぐらいのずっとなのか?一日二日の「ずっと」なのか?あるいはそれ以上の時が流れていたのか?ローズはここに来て、2回寝て、1回食事をした。その間、ローズとロア以外の者、誰一人も見ていない。家臣がいると聞いたけれど、姿が見えない。本当に家臣がいるかどうか、分からない。


誰もいない浜辺から貝殻一つを拾って、再び自分の部屋に戻る。不思議に、砂だらけの足が部屋に入った瞬間きれいになった。貝殻はそのまま手に持って、消えなかった。その貝殻をローズの装身具が入っているあの大きな貝殻に入れた。首飾りや髪飾りなど・・記憶にないものばかりだった。一つ除いて・・どこかで見かけた一粒の石、・・確か・・どこかで見た気がした。


その石を手にして、じっくりと観察してみた。飾りとしては、とてもお粗末な作りだ。紐に繋いで、ベルトに付ける物だった。けれど、きっとこれも神の誰かが送ってくれた物だった。海龍が名前を言わなかった神の誰かだと思うけれど・・。なんとなくそのような感じがした。女の勘だ、とローズはその石を見つめて、思った。


思い出すことができなかったから、その石を髪紐にした。忘れては困るから、身につけていれば思い出すことがあるかもしれない、と。


再びカーテンをめくると別の場所にいた。これってどうなっているんだ。ローズの部屋の外側が、毎回違う世界になっている。海龍がわざと見せた世界なのか、あるいは元からこのような仕組みになっているのか、分からない。


ローズが寝間着のままで歩き続けている。ここはどうやら小さな島だ。ぐるっと歩いて、元の場所に戻った。無人島なのか、誰もいない。島のど真ん中に、何かの遺跡が見えているから、足を伸ばして歩くと砂利を践んでしまって、痛かった。ローズは裸足で歩いているからだ。


「裸足で歩いているからだ~」


後ろから海龍の声が聞こえた。


「うむ」


海龍は怪我した彼女の足を見て確認した。手を触れると傷が消えて、痛みもなくなった。そしてローズの足に履き物をつけた。


「ありがとう」


海龍は何も答えず、ただ微笑んだだけだった。そして彼女の手を引いて、遺跡のど真ん中に歩いた。


「昔、ここでローズの神殿だったんだ~」

「私の神殿?」

「丘の上に、美しく花々に囲まれて~宝石で飾って、キラキラときれいにかざっていたんだ~」


海龍がそう言いながら、周囲を見ている。


「ここは無人島だよ?」


丘の上だとみえない。海に囲まれている小さな島だ、と・・。


「昔は山だったんだ~ここは山の上で美しい島だった~」

「なぜ・・なぜこんなに小さな島になったの?」

「知りたい~?」

「うん」

「我が破壊したんだ~海で大陸ごと沈めた~」

「・・・」

「びっくりした?」

「うん」

「怖くなった?」

「うん、なんで破壊したのか・・聞いても良い?」


海龍は足を止めた。そして遺跡の壁に手を触れた。すると遺跡が突然きれいな建物になった。


「ローズは我を捨て、出て行ったからだ~」

「なぜ私が海龍(ロア)を捨てたの?聞いても良い?」


ローズが聞くと、海龍はしばらく周囲を見て、ため息ついた。


「なぜなのか、そのうち思い出すでしょう~」

「うむ」

「その後、我はローズを泣かした者たちを滅ぼした~」

「滅ぼした・・って」

「そうだよ~世界のすべての生きものを滅ぼしたんだ~」

「すべて?!」

「そうだよ~まぁ、生き残ったものもいたけれど、少なかった」

「私が・・いなくなって・・ロアが怒って・・全部、滅ぼした?」

「だって、悲しかった~とても寂しかった~愛したのに、愛しいと思ったのに~」

「ごめん・・」


どう反応すれば良いのか、困った、とローズが心の中で思った。


「我はずっとそなたの帰りを待っていた~世界の隅々まで、そなたを捜した~どこにもいなかった~」

「聞いても良いかな・・ なぜ彼らは私を泣かしたの?」


どうしても記憶にないことを言われても困る。数億年前の話なんて・・覚えていない。、とローズは思った


「そなたをものにしたい雄達が殺し合っていたからだ~神を殺すための武器まで作ってしまった~」


ここは聖龍が教えてくれたことと同じだ。


「そんな彼らに、私が怖くなって逃げたのか?」

「いや」

「違ったの?」

「今は教えない~そなた自身の記憶で思い出して欲しい~」

「うむ」


海龍はローズの手を取って、魔法をかけた。ローズが自然に浮いてしまい、彼の目の高さまで目をあった。


「そなたは愛しい~だから、もう苦しませたくない~」

「だからこの体を破壊しようと?」

「そうだよ~その体があるからローズが悲しんで、苦しんでいる。だったら、もうなくした方が良い~」

「嫌です。苦しくても、私がこの体のおかげで色々な幸せを感じた」

「その体のために、今でもそなたが雄達に狙われているのだろう?」

「うむ」

「我は神だ。すべてを見通す~」

「この体は龍神様からいただいたものです。勝手に壊されたら困る」

「我は龍神の一部である。だから龍神も我の考えを知っている」

「龍神様はそう命じたなら従う。けど、これは海龍(ロア)の独断なら、従わない」


ローズは海龍を睨みながら言った。


「そなたは体を失い、我とともに暮らすか、そなたを泣かしたものすべてを滅ぼすか、どちらかを選んでも良いぞ」

「どれもやだ」

「あの鳥の子に力を与えたよ~彼は別の雌を探せば国も繁栄すると思うぞ~」

「でも・・」

「別にそなたでなくても良い。そなたは彼と共に苦しまなくても良い~。彼に加護を与え、国が繁栄していれば、民が幸せだ。それで良いではないか~」


確かに、彼が言うことは正しい。けれど、それでも、ローズはエフェルガンが愛しいと思っている。


「私が・・神様になれと・・?」

「元々そなたは女神だ。我とともに、人々に幸せを与えれば良い。加護を与え、幸せを与え、人々はそれで満足する。従わないものには滅びを与えれば、人々は我らのことをいつまでも慕う」

「うむ・・・」

「我はそなたが愛しい~その愛しいそなたの涙など、もう見たくない」

「この体を失ったら、毎日ずっと泣いてやる」

「そんなことになると、すべてを滅ぼす」

「ダメ」

「他の龍が文句を言ったら、我はそなたを連れて、自ら自身を滅ぼす。我がいなくなったら海が消え、世界も消える」

「なんでそんな怖いことを言うの?」

「我はもうそなたを失いたくないからだ」

「いつかこの体が自然に朽ちてしまう。その時に私を迎えにくれれば良いのに」

「その時が来るまでずっとそなたの悲しい歌を聴け、とでも言いたいのか~?」


海龍がローズを鋭く見つめている。


「人として生活するたびに、悲しみも、楽しみも、苦しみも、幸せもすべて体験するんだ。悲しい歌があるとしたら、喜びの歌もあるんだ」

「その悲しみを楽しむのか?」

「楽しまないよ。海龍(ロア)は数億年間悲しんで、それを楽しんでいたのか?」

「そうだねぇ~泣き疲れたから、そのまま眠った」

「じゃ、ロアは数億年間・・ずっと眠っていたの?」

「そうだねぇ~たまに起きて、適当に加護や滅びを与え、またローズを探して、飽きたらまた眠った~」

「・・・」


なんていい加減な神だ。大丈夫か、世界は?!、とローズは瞬いた。


海龍(ロア)、私と一緒に世界を歩かないか?」

「我は人の姿になれても、人にはなれず」

「海から出られないの?」

「そうだな~このような小さな島や短時間なら問題がないが、長時間は他の神の領域に入ることになるからダメだねぇ~」

「あれ、大陸ごと滅ぼした時、他の神様に怒られなかった?」

「怒られたよ~」

「反省しているの?」

「まさか~我はそなたのためなら反省などせぬ」

「反省して下さい」

「嫌だねぇ~」

「わがままだ」

「そうだよ~」


本当に面倒な神だ。ならば・・。


「父上!」


ローズの言葉に海龍の顔に戸惑いが表れた。


「父上?」

「そう。私はあなたの娘なら、あなたは私の父上だよ」

「我はそなたの父上?」

「うん、そうだよ」

「父上か。父上とは、何をする者?」

「娘を守り、導いて、幸せのために努力するの」

「面倒だ」

「でも、ロアは私の父上でしょう?」

「ローズは我の娘」

「うん。だから、ロアは私の父上になる」

「なぜそうなる?」


海龍はローズを見つめながら、首を傾げた。


「それはこの世界の摂理なの」

「聞いたことがない」

「ロアが長く寝ていたからだ」

「そうなのか?」

「そうだよ。信じないなら聖龍様に聞きに行こうか?」

「いや、必要ない。我は聖龍が苦手だ~」

「いっぱい怒られたから?」

「面倒な神だからだ」


それはあなたのことでしょう・・と言いたかったけれど、やめた、とローズは思った。


「ねぇ、父上」

「その呼び名をロアに」

「ダメよ。失礼になるから・・」

「失礼になるのか?」

「そうだよ。父上は尊敬される存在だから、ロアと呼んだら、(ばち)が当たる」

「誰に?」

「誰にだと聞かれても分からない。多分この世界の摂理を作った龍神様に怒られるかもしれない」

「我は龍神の一部だ。ロアと呼ぶだけでローズに怒らない」

「分かった、じゃ、海龍(ロア)をそのまま呼ぶのね?」

「そうだねぇ~ずっとロアと呼んで~」


ローズが両手を彼の首に回した。


海龍(ロア)、甘えても良い?」

「もちろん。ローズは我の愛しい娘だから」


ローズは頭を彼の肩に置いた。


海龍(ロア)・・この体を失ったら、私はこうやってロアを抱くことができない。体がない私はロアをむぎゅっと抱きしめなくなる」

「神体になれば、互いを触れるよ?」

「でも違う感触」

「それはそうだよ、全然違う~」

「私が今のままで良いかな」

「わがままだ~」

「うん、あなたに似てるでしょう?娘なんだから」

「そうだねぇ~」

「でね、この世界では、婚姻を結んだ娘の相手は息子になるんだよ?」


出た、腹黒いの私だ、とローズは思った。


「息子?」

「そう。私はエフェルガンと結婚したの。だからエフェルガンはロアの息子だよ?」

「あの鳥の子が?!我の息子だと?!」

「うん、そうだよ」

「なぜ?」

「だって結婚すると、二人が一人、一人が二人になるんだよ」

「そうなるのか?」

「うん」

「いつから?」

「ロアが長く寝ている時からよ」

「それは知らぬ」

「だったら聖龍様へ聞きに行こうか?」

「いや、行かない」


海龍は首を振った。


「意外と、海龍(ロア)が知らなさすぎるね。海の神なのに・・」

「我は寝過ぎていたのか」

「多分ね」

「その原因はローズであるぞ」

「うん、分かってる。私が悪かった。海龍(ロア)を一人にして、寂しかったよね。本当にごめんなさい。反省しているの」

「そう、そうなのか?」

「うん」

「そうか、分かってくれたのか」


海龍は微笑んで、ローズを優しい眼差しで見ている。


海龍(ロア)の涙、あんなにたくさんあって、全部飲んでもロアの悲しさが治まらないよね」

「全部飲んだら、そなたが消滅する」

「でもそうしないと、海龍(ロア)の悲しみを癒やすことができない」

「ローズは我のそばにいれば十分だ」

「でも、離れてしまった私の片割れが泣いてしまう」


ローズの言葉に海龍は考え込んだ。


「そうだな」

「そうなると、私の悲しくなり、泣いてしまう」

「その鳥の一族を滅ぼしてもか?」

「当然。ロアが彼を滅ぼしたら、私がとても悲しむ。だって私の片割れであって、ロアの息子だよ?」

「そうなるのか?」

「うん」

「難しい話になる」

「うん」


ローズは海龍の髪の毛を遊びながら、甘える。


「ローズはどうしたい?」

「私の片割れと話し合って下さい」

「ここに呼ぶということか?」

「ロアが好きなように。しばらくともに滞在しても良いし、定期的に海に行って、会いに行っても良い。私達は親子で、これから未来へも、それが変わらない」

「そうだな」

「会いたい時に会いたい、と伝えれば良い。もちろん、私が海に行ったら、必ず海龍(ロア)に挨拶をする」

「共に歌って踊るか?」

「うん、だって親子だもの」


ロアは考え込んでいる。


「数億年よりも、人の時は短い。しばらくの間だから、海龍(ロア)にとって、長くないはずよ」

「そなたが悲しい歌をしたら、我は必ず行く」

「そうしてくれるの?」

「そなたは我の愛しい娘だからだ」

「ありがとう。海龍(ロア)も私の愛しい父上だよ」

「だが、遠くの陸にいたら、我は行けない場合もある」

「仕方がないよ。その時に彼と力を合わせて自分でなんとかする」

「彼はそなたを守れるのか?」

「まだ非力だけど、毎日頑張っているよ。海龍(ロア)からもらった力をちゃんと使いこなせるように・・」

「それでも心配だねぇ~」


ロアはローズをぎゅっと抱きしめた。そして離して、手を遺跡に触れた。遺跡から円が現れてそこから別の空間に繋がっている。それはヒョーとファリズが使う技だ。


「ねぇ、海龍(ロア)

「どうした~?」

「今度その技を教えて」

「どうして~?」

「いつでも海龍(ロア)に会いに行けるようにしたい」

「そなたはまだ時間が必要だよ~」

「今すぐにはダメ?」

「ダメ。そなたの記憶がまだ戻ってこないから、すべての能力が完全に解放されていない~」


やはりダメか、とローズは苦笑いした。


「いつになってできる?」

「記憶が戻ったら、できるよ~」

「そうか」

「我の悲しみや苦しみを思い出してしまうとローズは悲しくなるだろうが、それもまた真実だから」

「うん」

「真実と向き合えるようにして欲しい~逃げずにね~」

「はい」

「我が愛しい娘よ、その片割れを召喚しようか」

「本当に?」

「そなたの笑顔のためだ」


ローズは海龍と一緒にその空間に入ると、これはまた別の神殿になる。


「神託を送ろう。神殿に来るように。ローズは何か欲しいものがあるか?」

「エフェルガンに持ってこさせるの?」

「そうだよ~」

「うむ、猪の丸焼きで」

「そのようなもので良いのか~?」

「うん」

「我は食べないが・・」

「美味しいのに」

「ふむ」

「じゃ、ロアが好きな物でも良いよ」

「今回だけ絹と猪の丸焼きにするか~」

「神様って便利だね」

「今度ローズの神殿を直そう・・」

「いや、良いよ。私が本格的に神になってから、あなたにたくさんとねだるから」

「わがままな娘だ~」

「うん。だって、海龍(ロア)にそっくりだもの」


海龍は神殿で神託を放った。鏡の向こうにある司祭は慌てて神託を受けいる様子がみえる。こんな感じなんだ・・。神々はこうやって神託や願い事を聞いたり、加護を送ったりするのだ。初めて知って驚いた。人々をそうやって管理されている。逆に神殿がないところだとどうやって管理されているのか、興味深い。


あれから数日後・・だと思う。時の流れが分からないため、多分数日後だ、とローズは思った。海龍はローズを着飾って、召喚の儀式の宮殿へ連れて行った。


宮殿に到着すると、この宮殿に来てから初めて見た海龍の家臣たちだ。人の形であって、人ではない。家臣もすべて彼が作り出した存在であって、忠実なしもべである。家臣達は彼らを迎え入れて、儀式の準備をする。大きな鏡があって、向こうにある様子が見える。そこに供え物を持ってきたエフェルガンが見えている。後ろにケルゼックやガレー、リンカもいる。ファリズがいない。エフェルガンは正装をしていて、腰に皇帝陛下からもらったアルハトロスの剣がある。彼らの顔をみると、緊張した様子が分かる。司祭の歌が終わると、ロアは手で鏡を示し、一瞬で鏡の向こうにある供え物とエフェルガンが消えて、ローズの前に現れた。


「エフェルガン!」

「ローズ!」


ローズが走って、エフェルガンを抱きしめると、エフェルガンは強く抱きしめた。


「ごほん」


家臣の一人は咳き込んだ。ローズたちは慌てて離れて、海龍の前に跪いた。


「スズキノヤマのエフェルガンでございます。お招き、感謝致します」


海龍は何も言わず、彼を見つめている。


「ローズ、こちらへ」


海龍はローズを呼んで、自分の方に来るように命じた。ローズがその命令に従って、海龍の隣に行った。


「あれはそなたの片割れで間違いないか?」

「はい」

「以前より違ってきたねぇ~」


確かに、エフェルガンの気も力も、以前と比べられないほどとても強くなっている。


海龍はエフェルガンを見つめていて、笑った。


「なるほど。聖龍に味方を付け、鬼神に力を付けたか~」

「はい、仰る通りでございます」


エフェルガンはゆっくりと答えた。額の光がとても鮮やかに見える。


「我の娘に聖龍のお気に入りの鳥の子が片割れとなったのか~やっかいな~」


海龍は顔色を変えずに、エフェルガンを見つめている。


「鳥の子よ」

「はい」

「我はローズに毒である我の涙を飲ました。どう思う?」

「毒・・。その毒で、ローズが死んでしまうのでしょうか?」

「もうじき今の体が朽ちて、粉々になる。そうなるとローズは今の苦しみから解放され、神となる」

「ローズは・・ローズはそれを望んでいるのですか?」

「望んでいない~」

「その体が朽ちて、神になったら、祟らないでしょうか?」

「祟るだろうな~ローズ」


海龍はローズの手をにぎって、微笑んだ。


「うむ」


エフェルガンはローズを見つめている。


「僕に・・私に・・私にもその毒を飲ませて下さい」


エフェルガンは震えている声で願い出た。


「なぜ?」


海龍はエフェルガンを尋ねた。エフェルガンは息を整えて、そしてゆっくりとロアを見つめている。


「私はローズと最後までともに朽ち果てます。そうすれば、彼女は寂しくないで済みます。祟り神にならずに済みます」


エフェルガンの言葉を聞いた海龍は一瞬驚いた。しばらく考えてから、彼がうなずいた。


「なるほど。良かろう、そなたにも毒を与える。ともに死んでゆくが良い」


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