表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
スズキノヤマ編
172/811

172. スズキノヤマ帝国 エグバドール奪還戦争(11)

エフェルガンの剣が真二つに折れた。金属疲労で折れたのか、敵の攻撃で折れたのか、ローズは分からない。けれど、今はそのようなことを心配している場合ではない。剣が折れたことをエフェルガンにとって死活問題だ。それでもエフェルガンはその折れた剣を捨てないで、折れた剣で敵の猛烈な攻撃を必死に耐えている。バリアーが効いているので、今のところでは怪我がないけれど、痛みがあるでしょう。


(殿下!私の剣をお使い下さい!)


ケルゼックが急いでエフェルガンのそばに移動したけれど、がケルゼックの相手はケルゼックを追って攻撃をやめなかった。オレファも必死にエフェルガンの近くへ移動しようとしたが、敵はこれがチャンスだと思っているのか、攻撃のスピードを上げている。相手にとって、早く終わらせたい戦いでもあるようだ。この島に長くいると、モルグ人勢力にとって不利だと分かったからだ。


(無理するな!相手に集中しろ!)


エフェルガンがケルゼックに言った途端、相手の蹴りはエフェルガンのおなかに入ってしまった。エフェルガンが数メートル後ろにぶっ飛ばされてしまった。それをみた瞬間、オレファは素早くエフェルガンの前に移動した。敵の攻撃が入ったそうで、頭にくっきりと赤い線がみえた。バリアーで怪我を防ぐことができたけれど、相当痛い、とローズは思った。


「エフェルガンに、ケルゼックに、オレファに、ヒール!バリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」


エフェルガンは立ち上がってそして構えし直した。彼の気がすごいレベルになって、折れた剣に込めている。しかし不利の状況が変わらない。極めて不利だ。


(ローズ! 弟に武術に切り替えろ、と伝えて)


上空にいるファリズが指示を出した。かなり無茶な要求だ。でもきっと考えがあるのでしょう。


「エフェルガン、ファリズからの指示、武術に切り替えろと」

(えっ?!はいっ!)


エフェルガンは折れた剣を鞘に収めた。そして気を込めて両手に力を集中する。両手が光り出した。やはりこの技がジャタユ王子も使っていた。凄まじい破壊力の拳になるが、果たして剣の相手に通じるのか。ましてや相手は不死、傷を付けないと魔法が通らない、ダメージですら与えられない。


「マルチロック! 速度減少!」


こちらができることは支援と聖属性の攻撃魔法である速度減少だけで、本当に役に立つかと思うと疑問がある。


エフェルガンは構えて、前に出た。


(オオオオオオオオオオオオオオオオ!)


エフェルガンは気合を入れながら敵を接近戦に持ちかけようとしたけれど、敵もバカじゃない。一定の距離を保ちながら猛烈な攻撃を繰り返して、状況が変わらない。というよりか、さっきよりも厳しい状況にみえた。それでもエフェルガンは前に進み、敵の攻撃を腕で受け止めた。


「エフェルガンにバリアー! ヒール!」


数秒間隔で支援を行うことにした。三人の命を保証できるのがローズだけだからだ。けれど、このままでは、彼が味わう痛みが増すばかりだ。武術が達者なエフェルガンにとって、今回の相手は想像以上の高位者だ。技も力もスタミナもかなり高い。しかも速度減少の魔法にかかっていてもまだ猛攻撃ができるほどの達人だ。恐ろしい。


一方、ケルゼック達もかなり苦戦している。敵大将の側近の二人の連携技がとても鮮やかで極めて危険だ。二対二の戦いなのに、ケルゼックとオレファペアがかなりピンチになっている。ケルゼックとオレファがエフェルガンに気をとられた時、相手の剣がケルゼックの胸に当たった。ケルゼックが後ろにぶっ飛ばされて、木にぶつかり、倒れた。オレファは後ろに下がり、ケルゼックを庇う。


(大丈夫か?!)

(ゴホゴホ!)


オレファがケルゼックに声をかけたが、ケルゼックが咳き込んだ。とても痛かったでしょう。


「ケルゼックにヒール! バリアー!」


支援をもらった瞬間ケルゼックが立ち上がって剣を再び構えた。


「オレファに、ケルゼックに、速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」


そして・・


「マルチロック! 速度減少!」


今度はオレファの目を使って側近ペアに聖属性の魔法攻撃した。


「エフェルガンにバリアー! ヒール!」


神様、自分が助ける方法がもうないのか?、とローズは心の中で叫んでしまった。


ローズは座り直して、祈りの歌をし始めた。彼女は龍神の都の神殿で習った歌だけれど、なぜか昔から知っている歌のような気がして、毎回歌うととても懐かしい感じがする、と感じた。ローズの体が光り出して、ただ彼らの無事を祈り続けている。祈りながら目を鏡から離さない。すると、なぜか護衛官達は集まってきて、ともに祈りの歌をしていた。彼らも自分と同じ気持ちだ、とローズは思った。苦しんでいるエフェルガンとケルゼック達を助けたいという気持ちの表しなのか・・とても抑えられない気持ちになった。


ローズの目から暖かい涙が流れ出した。祈ることしかできない自分が悔しい。彼らのことがこんなに心配しているのに、手伝いに行くことができない。なぜなら、これはエフェルガンが乗り越えられなければならない問題だからだ。ローズを守ることができる、とファリズに証明をしなければならない。


『愛しい娘よ~我が娘よ~なぜそんなに悲しい歌をしているのか~』


突然どこからか聞こえてきた声で、ローズは周囲を見渡す。誰もいない。さっきまで護衛官達に囲まれて鏡をみて歌ったのに・・。


「誰? 聖龍様?」


ローズは歌を止め、姿なき者に声をかけた。


「我は海龍と呼ばれている」

「海龍様?」


ローズが言うと、護衛官らも歌を止めて、声の持ち主を探している。しかし、彼が現れず、声だけが聞こえている。そして青い光がローズを包んでいる。


「我が眠りから、その悲しい歌で起こした訳を聞かせるが良い~」

「眠り・・。起こしてしまって、ごめんなさい」

「そなたを失ってから、我はずっと~ずっと~待ち続けていたが~いつの間に長い~長い~眠りに~」

「ごめんなさい。やっと戻ってきました。ただいま、海龍様」

「愛しい~愛しい~我が娘~やっと帰って来た我が娘よ~」


若い男性のような声だが、姿が見えない。しかし、とても暖かく、優しさでいっぱいの気持ちに包まれているような感覚だ。


「悲しい歌の訳は~あの鳥の子か?聖龍の印をした鳥の子か~?」


必死に戦っているエフェルガンが見える。バリアーがもうすぐ切れる。更新しなければいけない、とローズは思った。


「エフェルガンにバリア! ヒール!」


ローズは海龍様の前で構わず支援してしまった。


「あ、失礼しました。彼が心配で・・つい」

「ほう~その鳥の子がそなたの心を射止めたのか~」

「はい」

「聖龍も物好きのね~あの鳥の子~小さな鳥の子に紋章を付けたとはねぇ~」

「彼は聖龍様に約束したの。私を守ると、痛みを受け取ってくれるって」

「ほう~あの鳥の子が~?我が娘にそのようなことを~?」

「はい」

「そなたはどうしたいのか~?」

「助けたい」

「なら助けに行けば良いのでは~?」

「それができないから悲しんでいる」

「あの鬼神の子か~」


海龍と名乗った「声」は言った。


「はい」

「ならば、我はそなたの代わりにあの鳥の子を助けよう~」

「本当ですか?!」

「ただし、条件がある」

「条件・・ですか?」

「戦いが終わったら、そなたとしばらく過ごしたい~」

「どのぐらいですか?」

「我が気持ちが治まるまで。ずっと~ずっと~愛しい我が娘を待ち続けているこの寂しさが癒えるまで~」

「でもあまり時間が長すぎると彼が悲しむ」

「わがままな娘だ~本当に、我に似てわがままだ~」

「うむ」

「分かった。ほんの一時なら、どう~?」

「一時なら・・はい、参ります」

「戦いが終わったら、迎えに行くよ~愛しい我が娘よ~」


ローズの意識が再び結界のど真ん中に戻った。けれど、周りは離れていて、跪いている。皇帝陛下まで跪いている。ローズが上を見ると、青い光の龍がぐるぐると飛んでいる。それが「声」の正体だった。


「あの鳥の子に使えそうな剣はあるか~?」


ローズの口からえらそうな言葉が出た。というか、それは自分の声じゃない!乗っ取られたのか、体が・・?!、とローズは焦っている。


「私の剣をお使い下さい」


皇帝陛下が丁寧な言葉で自分の剣を腰から外して、両手でローズの前に持ってきてくれた。あれは、アルハトロスからの贈り物で、里の武器職人が作った剣だ。鞘が変わっているけれど、他の部分の特徴がはっきりと分かる。皇帝陛下にとってお気に入りの剣になったのか。


「では、聖龍のお気に入りの鳥の子の元へ持って行くぞ~」


青い龍は体でぐるっとあの剣を回り、ポン!と消えた。


「あ・・」


体を取り戻したローズが、慌てて鏡を見ている。彼らは今ちょうどピンチ状態になっている。


「エフェルガンに、ケルゼックに、オレファに、バリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」


皇帝陛下と護衛官達がまた近づいて、鏡を見つめている。


(ローズ! これは?!)


エフェルガンの声が聞こえている。目の前に皇帝陛下の剣が現れた。そして青い龍もうっすらとみえた。


「考えるのが後で良い! その剣を使って、相手を倒してください!」

(はい!)


エフェルガンは剣をとり、鞘から抜いた。青い光に帯びている剣はとても鮮やかに光る。


(武器強化~)


頭の中に言葉が出ている。


「いにしえの力なる神、海龍の名の元に、ローズが命じる:我に力を与えたまえ!」


ローズがなぜか海龍様の呪文が分かる。初めて接触した龍なのに、彼女はなぜか昔から知っているような、と感じた。ローズは目を閉じて、息を整える。そして再び鏡を見つめる。


「エフェルガンに、ケルゼックに、オレファに、武器強化!」


ブワーっと彼らの武器に青い光が現れた。でも相手は不死、その強化された剣だけでも切れるのか?


(能力増加~)


また頭の中に海龍様の声が聞こえている。


「エフェルガンに、ケルゼックに、オレファに、能力増加!」


今度は彼らの体に青い光が表れている。


(ローズ! これは?!)


エフェルガンがびっくりしたようだ。ケルゼック達もびっくりしている。


「あとで説明するから、まず倒してからにして」

(あ・・あ、分かった)


エフェルガンは戸惑いながら剣をにぎって、構えた。次の瞬間彼らはさっきまでと違って、とても素早く、強く敵を攻撃できるようになった。


うわー、まるでゲームで祝福のスキルを与えると、一気に能力が上がるような仕様じゃないですか?!、とローズが鏡を見つめて、一人で驚いた。


「マルチロック! 速度減少!」


相手に再び聖属性の攻撃魔法を送った。


(聖属性を武器に~)


再び海龍様の言葉が頭の中に聞こえた。


「エフェルガンに、聖属性武器エンチャント!」


今度は青い光がとてもまぶしく光り出した。強化された武器の能力に加えて聖属性を乗せる感じになった。


エフェルガンは気を武器に纏い、光がさらに強くなっている。さっきまでと違って、今の彼がとても強い。技も強さも、そして何よりも勝ちたいという気持ちが強くなっている。彼が分かったかのような、遠く離れていても、ローズがいつも彼のそばにいて、ともに戦っているのだ。


(僕は必ず勝つ!必ずローズの元へ帰る!)

「はい!」

(負けない!負ける気がしない!ローズと一緒なら、必ず勝てる!)

「はい!頑張って!」

(オオオオオオオオオオオオオオオオ!)


気合を込めたエフェルガンの一振りですべてが決まった。エフェルガンの剣が下から上に向かって敵の胴体から肩へかけて当たり斬りつけて、そして素早く逆方向斜めへ敵の首を刎ねた。同じタイミングでケルゼックもオレファもそれぞれの相手を斬りつけた。勝負あり!


(オオオオオオオオオオオオオオオオ!)

「オオオオオオオオオオオオオオオオ!」


エフェルガンの叫びに近くにいる護衛官達も一斉に叫びだした。勝利の叫びだ!ハインズも、エファインも、ミルザも、ジャワラも・・全員も、嬉しいあまりに叫んでいる。皇帝まで嬉しそうに笑って、ガレーの肩をぽんぽんと叩いた。


忘れるところだったのがジャタユ王子のことだ。あの潜水艦1隻がまだ残っているはずだ。


鏡を確認したら、ジャタユ王子の目線に映ったのは木に覆われている潜水艦だ。


「ジャタユ王子、残りの潜水艦は?」

(もう全部破壊した)

「え!」

(空に龍が現れて、祈ったら、なんだか力が湧いて来た。試しに種玉を撃ち試したら、一発で穴が開いてさ・・木が生えた)


木が段々大きくなっている様子が見える。


「良かった。これで勝ったよ!エフェルガンは敵の大将の首をとったよ!」

(本当?!すごい!)

「うん!お疲れ様でした!」


ジャタユ王子達も喜びに包まれて、兵士らは抱き合って勝利の喜びを表している。


(弟がやり上がったな。多少ローズの助けを得ただろうが、まぁ、ここまでできれば十分だろう)


ファリズもうれしそうに言った。ダルセッタもうれしそうに旋回して、エフェルガン達を迎えに低空飛行していく。エフェルガン達がダルセッタの背中に乗り、ローズたちがいる島へ戻る。


皇帝は将軍に、生き残ったモルグ人兵士らをすべて殺すようにと命じた。エフェルガン達と反対方向に、国軍兵士らはソマールに向かって出陣した。これから敵全滅にかかるのだ。戦いはまだ終わっていない。暗部たちもフクロウに乗って、一斉に動いた。また生存者の救出もしなければならないため、医療師チームも出動している。


ローズは急いで焼き兎を食べて、魔力の補充をしている。しかし、エフェルガン達の方が早かった。まだ顔中に焼き兎の脂がついていて、はしたない格好だったのに、エフェルガンはダルセッタの背中から飛び降りて、まっすぐに彼女の所に来た。そして迷わず抱きしめた。ローズは焼き兎を手に持ったまま抱かれてとても変に感じがした。けれど、エフェルガンは構わず笑った。そしてローズの手から焼き兎をとって、食べた。


「うまい」

「うん」

「ただいま」

「おかえりなさい」


ぼろぼろだ。なんども切られて、蹴られて、殴られて、飛ばされて、痛かったでしょう。苦労したのでしょう、とローズは思った。でも毎回立ち上がって、頑張ってきたんだね。えらいよ、エフェルガン、とローズが微笑みながら思った。


「エフェルガン」

「はい」


ローズはエフェルガンの首に手を回した。


「なんだか・・あなたの子どもが欲しい」


あ、何を言ってるんだ、私!、とローズは自分が今何を言ってしまったことに気づいて、恥ずかしく思った。ローズはエフェルガンの首から慌てて手を外して顔を両手で隠した。恥ずかしい、と。


「へ?」


エフェルガンの顔が赤くなった。手から焼き兎が落ちてしまった。


「大胆だ・・」


「ひぇ・・」


「なんと・・」


「うわー、積極的だ」


「俺の妻に一度だけでもそう言われたい」


「さすが・・」


周囲の人々が二人を見てざわめいている。ガレーが頭を手で隠した。ハインズがにやっと大きく笑った。エファインも苦笑いした。リンカはエフェルガンが落としてしまった焼き兎を拾って処分した。皇帝陛下が大きく笑っている。


「元気があってよろしい。子作り励めよ、エフェルガン」


その言葉を聞いた二人はあまりの恥ずかしさに顔を赤くなってしまった。


「いや、その、あの・・ああ、恥ずかしい」


ローズはあたふたと言い訳を言おうとしたが、結局顔を隠すことしかできなかった。


「あ、うん。いきなり言われて、びっくりした、はは、ははは」


切れが悪そうなエフェルガンの笑いで、周囲がますます賑やかになった。ジャタユ王子達も笑っている。ファリズはリンカが焼いた鹿に興味がありそうな顔している。リンカは鹿の太ももを骨ごと切って、ファリズに渡した。生の鹿肉をもらったダルセッタと仲良く座って食べている。


「父上、ただいま戻りました」


エフェルガンは改めて、皇帝の前に跪いて挨拶した。そして皇帝の剣を両手で持って返そうとした。皇帝がその剣をとって、鞘から抜いた。元々なかった龍の模様がくっきりと剣に刻まれている。


「これは余の剣ではない。もうその方の剣だ。大切に使うが良い」


皇帝は再び剣を鞘に収めて、エフェルガンに返した。エフェルガンはその剣を受け取り、頭を下げた。


「ありがとうございます」


エフェルガンが御礼を言って、剣を腰に付けた。あの折れた剣は近くにいる護衛官に渡した。ケルゼックは敵の大将の首を皇帝の前に置いた。


「よくやった。ご苦労であったな」

「はぁ!」


エフェルガン達がびしっと皇帝に敬礼した。皇帝は敵の大将の首をみて、足で践んだ。


「勝利!」

「オオオオオオオオオオオオオオオオ!」


陛下の言葉で全員また大きく吠えた!皆喜びに満ちる歓喜の声をあげている。


リンカは焼いた肉を切って持ってきてくれた。また複数の兵士も森でとれた果物を持って、葉っぱの上に並べてくれた。全員皇帝の周りに座り、休憩して、焼いた肉と果物を食べる。ガレーはエフェルガン達の怪我や具合を確認している。また元気になった護衛官トダはジャタユ王子の怪我した手を治療している。ローズも手伝おうとしたけれど、ガレーに断られ、休むようにと指示された。エフェルガンはローズの肩に手を回し、自分に寄せた。


「そういえば、あの青い光の龍は?」


エフェルガンはローズに問いかけた。


「うむ・・海龍様なの」

「海龍様?」

「うん。龍の父上の一人なんだけどね・・」

「龍の父上・・」

「うん」

「海龍神殿はこの近くにあるのか?」

「分からない」

「探さないといけないな。御礼を言わないと」

「うん」


エフェルガンはまたぎゅっとローズを抱き寄せた。皇帝は焼き鹿を食べながら会話を聞いている。


「ローズの父上は多いな」


皇帝の言葉に、エフェルガンは笑った。


「その通りです、父上。これからのお参りは大変です。大切な娘を嫁にしたから、ちゃんと挨拶をしないと無礼になりますから」


エフェルガンが言うと、皇帝がうなずいた。


「その通りだ。相手は鬼神と龍神の神々で・・全部何カ所あるんだ?」

「分かりません」

「これからゆっくりとお参りすれば良い」

「はい」


陛下とエフェルガンが話している最中に、ローズが落ち着かなくなっている。


「どうした?」


ローズの様子にエフェルガンが気づいた。


「うむ・・実は・・」


説明しようと思ったが、遅かった。海の方から凄まじい力を感じて、ローズは海の方に見る。海の上に、大きな龍が現れた。あの青く光る龍だ。


「約束通り、迎えに来たぞ~」

「はい」


ローズはエフェルガンの隣から立ち上がって海の方に歩いていく。


「ローズ? どこへ」


エフェルガンは立ち上がって、彼女の手をつかんだ。


「ごめん、約束したんだ」

「誰に?」

「海龍様に。しばらく海龍様の所へ行くことになっているの」

「僕も行く」


エフェルガンの顔に不安が見えた。ローズは首を振った。


「ほんの一時だと言われた」

「でも心配だ」

「父上の所に・・ほんの一時と顔出しに行くだけだから・・大丈夫よ」

「嫌だ。離さない」

「エフェルガン・・大丈夫。私が必ず帰ってくるから・・ちゃんと神殿を見つけて、迎えに来て」

「ローズ・・」

「これも試練なんだ。得た力の対価ですから・・お供えを持って、御礼もちゃんと言って」


エフェルガンはつかんだ手を離した。そして海龍様の前で跪いた。


「海龍様、お助け頂いて感謝致します!ですが・・ですが、どうかローズを・・ローズを僕から引き離さないで下さい。お願いします!お願いします!」


エフェルガンは海に向かって平伏した。龍は何も答えず、ローズの体をぐるっと周り、海の上まで連れて行った。


皇帝陛下や護衛官達や兵士らがエフェルガンのそばに駆けつけて平伏した。


「お願いします!ローズ様をお返し下さいませ!」


彼らの声が聞こえている。斧をもって駆けつけてきたファリズとリンカも見えたけれど、・・ローズがもう海岸から遠くへ離れてしまった。青い龍は彼女を包み、そしてまぶしい光とともに、エフェルガン達の前から海龍が住む場所へ。だが、まだ頭の中にエフェルガンの叫び声が聞こえている。彼はローズとリンクに繋がったままずっと彼女の名前を呼び続けている。


(ローズ!ローズ!返事をして、ローズ!どこにいるんだ?!ローーーーーズ!)


ローズの涙とともに、リンクがぽっつりと切れた。新たな力を得たとともに、対価が発生したのだ。


ローズとエフェルガンの新たな試練は始まっている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ