171. スズキノヤマ帝国 エグバドール奪還戦争(10)
ファリズはタルセッタに乗って、ローズとリンクで繋がっている。
エフェルガン、ケルゼック、オレファ、ジャタユ王子、ダルセッタ、全部ローズのパーティになる。念のため、鏡が欲しいとローズが言ったら、皇帝とともに戻ってきたポポの貨物籠の中に彼女の鏡セットが入っていた。
早速護衛官らに鏡のセットをお願いして、設置してもらった。食べ物はリンカと護衛官ファルマンとパトリアが近くの森で狩った獲物だ。リンカは今その獲物の肉を焼いている最中だ。とても香ばしい匂いがする。
皇帝はローズの後ろに座って、鏡を見ている。空軍の兵士らはさっき作ったカタパルトを手にして、種玉を袋に入れて突撃タイミングの指示を待っている。
敵は空を飛ぶフクロウ隊とダルセッタに気づいて、迎撃態勢にある。敵の飛行船はほとんど墜ちたため、残りの戦力は戦艦と潜水艦、そして陸に上がった敵の陸軍と大将だけだ。ダルセッタは上空からすべて見せてくれている。とても優秀な鳥である。
「ダルセッタ、その調子でお願いしますね」
(キュルルルルルル)
「かわいいな」
(キュルル、キュルルル)
ダルセッタは空に大きく旋回しながらソマーレの町の様子を見せている。悲惨だ、とローズは思った。
モルグ王国は最初から皆殺しにするつもりで来たのかもしれない。普通は回りくどい魔石で国民全体を閉じこめてから攻めるパターンがあったのだけれど、今回は違った。魔石にせず、そのまま焼いて滅ぼした。彼らは多分エスタバールで大量に作られた魔石をあてにして、今回の大規模な攻撃に決めたのでしょう。しかし、残念なことにクライワがそれらの魔石を運び出す前に、エグバドールは南半球の国々の連合軍に堕ちた。モルグ側にとって、とても計算違い戦いになってしまったのでしょう。
だからきっと彼らも必死だ。エフェルガン達にとっても、モルグ兵士らにとっても、死にたくない戦いである。生き延びたいなら、この戦いに勝つこととしか道がない。ローズは鏡を見つめながら、息を整えた。
「エフェルガンに、ケルゼックに、オレファに、バリアー!攻撃力増加エンチャント!速度増加エンチャント!」
(ありがとう)
エフェルガンの声が聞こえた。とても穏やかな声だ。これから戦場に向かうのに・・、とローズは不安の気持ちでいた。
「お気をつけて」
(愛してるよ、ローズ)
「はい」
(征ってくる)
「いっていらっしゃい」
二人の会話を聞いて、皇帝は顔色を変えずにずっと座って、鏡を見つめている。数人の将軍と近衛も周りにいる。けれども、陛下の周りにいた貴族らは見あたらない、とローズは気づいた。なぜここにいないか、とても気になったけれど、ローズは聞かないことにした。
エフェルガンは一人で自分の翼で敵の港に着いた。迎撃されているのでしょうけれど、ローズは鏡に通じて、エフェルガンの周りにバリアー・シールドを張って、敵の攻撃を封じた。
(ハアアアアアアアアアアアアアアア!)
エフェルガンは気を高く解放した。凄まじいパワーだ。今まで感じたことがない力だ。
いつの間にこのような技ができるようになったのか・・、たった数週間の修業で大分上達した、とローズは思った。
ローズは柳が解放した力とほぼ同じだった、と感じた。けれど、今の柳はどうなっているか分からない。元気にしていると良いが・・、とローズは柳を思った。
ローズは首を振って、再び鏡に集中した。余計なことを考えてしまったから、再び気を静めて、戦いに集中する。エフェルガンの気が段々と上がってきて、そして一定レベルになると突然と周囲に向けられて放たれた。
ズーン・・・!
突然時間が止まったかのような瞬間だった。音が消えて、一瞬で静かになった。覇気だ。
「バリアー・シールド解除!」
エフェルガンは一人で、一瞬でかたまった敵の軍勢を突破して、港を切り抜けた。覇気に当てられて、立ったまま気絶した敵軍が大量に倒れた瞬間、ケルゼックとオレファはすごい早さで主の元へ駆けつけた。3人で覇気に耐えた軍勢と壮絶な戦いをしている。
「エフェルガンに、ケルゼックに、オレファに、風属性エンチャント!」
びりびりと電気がエフェルガン達の剣に帯びて降るだけでも周囲の敵に感電し、攻撃している。
「ジャタユ王子、港にある敵の船を完全破壊して下さい。誰一人も逃がさないようにして下さい」
(了解)
「また潜水艦には上にある出入り口のハッチを開ける必要があります。あれは海に潜って逃亡できるから要注意です」
(海に潜る?!)
「はい、そういう船なんです」
(魔法は?)
「ほぼ効かない。物理攻撃で破壊するしかない」
(了解)
「カタパルトを気で強化し、種玉を貫通させれば破壊可能ですが・・」
(俺はまだその技を身につけていないよ、ローズちゃん)
「じゃ、この戦いが終わったら、ドイパ国で一緒に練習しましょうね」
(良いね。期待してるよ、ローズちゃん)
「では、健闘を祈ります!」
(了解)
「ジャタユにバリアー!攻撃力増加エンチャント!速度増加エンチャント!」
ジャタユ王子は空軍部隊に潜水艦のハッチを開けようとしたけれど、なかなか外からでは簡単に開けられなかった。とても硬い金属でできていて、剣ややりでは傷一つも付けることができなかった。ジャタユ王子は気を取り直し、両手に力を集めて光り出した。そして凄まじく潜水艦に殴ったら、すこしへこんだ。けれども、彼の手が怪我をしてしまった。
「ジャタユにヒール!素手で殴るな!怪我をしてしまったんじゃないですか?!」
ローズが怒ると、ジャタユ王子は苦笑いした。
(すまん、なんとかなると思ったけど、硬い)
「当たり前だ。金属だもの。あれが海深く潜れるんだから、とても頑丈に作られているものよ」
(なんでそんな事まで知ってるの?)
「遙か昔の記憶だ。とにかく、今はそれがどうでも良いと思う。その潜水艦を後回しで、先に他の船を種玉で撃って下さい。木材ならそのまま付着すれば木が生える。でも絶対遠距離からにして下さいよ!」
(了解)
ジャタユは潜水艦を諦めて、敵の戦艦に向かった。周囲に倒れた敵兵士がたくさんいた。これはエフェルガンの覇気に当てられて気を失った敵兵士だ。しかし戦艦の中にいる兵士らはかなりの数で耐えた。戦艦についている武器でジャタユ王子達を迎撃している。空軍の兵士らは攻撃を交わしながら上から種玉を撃ち、戦艦の甲板の上にかなりの数に付着した。
しかし、攻撃が当たって、命を落としてしまった味方の兵士もいる。悲しいことだ。戦争とは殺し合いの現場だから、ローズにとってとても辛い場所である。敵に討たれて墜ちてしまった兵士らを助けることができない。植物が生長し、敵兵ももちろんなんだけど、墜ちた兵士らも栄養にされてしまう。改めて、種玉は恐ろしいバイオ兵器である。
敵の潜水艦が動き出そうとしている。気づいたローズはその潜水艦を止めないといけないと思ったけれど、このような暖かい海だと氷山を作ってもすぐに溶けてしまう。しかも魔力がかなりかかるから、できるだけ魔力を使いたくない。無駄使いはしたくない、と。
植物に覆われて完全に動けなくなった敵艦隊と違って、敵潜水艦は活発に走り回っている。迎撃して、空軍兵士らが次々と海に墜ちていく。連合軍の海軍が来ても、あの硬い金属でできた潜水艦に歯が立たなかった。苦戦に強いられたジャタユ王子達である。これからは魔法以外で武器の開発も必要だ。あの金属を貫く強さの武器が必要だ、とローズは思った。
空中にいるファリズは何も言わずに戦いの行方を見つめている。ファリズなら戦斧で潜水艦をぶった切るでしょうけれど、今のジャタユ王子達は誰一人もそのような技を身につけている人がいない。
一方、エフェルガン達もかなり苦戦している。減らしたとはいえ、数がまだ多い。しかも、これらの敵は柳が苦戦した敵剣士ばかりだった。
「エフェルガンに、ケルゼックに、オレファに、ヒール!バリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」
引き続き・・。
「マルチロック! 速度減少!」
エフェルガンの目を借りて敵の速度を落とすために、聖属性の攻撃魔法を放った。あれで少し戦いが楽になるはずだ。しかし、敵も速度が落ちたとはいえ、とても優秀な剣士だ。はっきり言って、とてもランクが高い。魔法が使えない多くのモルグ人は、戦いに負けないように様々な武器を開発しただけではなく、技を磨いて、とても優れているのだ。昔の柳が負けてしまったぐらい、敵は素早く、技ありの剣さばきで、とても美しく、鮮やかだった。日頃暗殺者に襲われていたエフェルガン達にとって展開の早い戦闘に慣れてはいるけれど、やはり数があるとかなり苦戦する。
「エフェルガン、武器に気を乗せて!」
(やっている)
「まだ足りない、とお兄さんがさっきからぶつぶつと文句言ってる」
(分かった)
そう、ローズの頭の中にファリズの声が聞こえている。あ~だ、こ~だ、かなりうるさい。
エフェルガンは走って、敵の技を応戦して、回転したり、剣に力を込めて、調整しながら戦っている。かなり厳しいけれど、なんとか一人、また一人と敵を減らしている。ケルゼックに敵の蹴りが入って、かなり遠くへ飛ばされてしまった。それをみたオレファは力を剣に込めて、相棒をかばいながら敵の攻撃を剣で受け取り、交わした。
「ケルゼックに、オレファに、エフェルガンに、ヒール!バリアー!」
なんとかピンチを逃れたケルゼック達だけれど、敵が仕切り直し、再び構えて動き出した。剣を素早く振りながら、敵が回転して破壊力を増やして、ケルゼック達を襲っている。ケルゼックもオレファも技のすべてを引き出して敵の攻撃に応戦している。激しい武器と武器のぶつかり合いで、己を信じて、戦っているケルゼック達である。
「マルチロック! 速度減少!」
ケルゼックの目を借りて、目の前の敵に聖属性の攻撃魔法を送った。かなり効果があるが、やはり技もあるから、なかなか簡単に勝つことができない。
ローズの周りの護衛官達も息を呑んで自分たちの隊長の戦いを見つめている。ハインズ達の顔に汗も出ているぐらい、とても緊張している。
緊迫した場面にいるのがケルゼック達だけではなく、彼らの主であるエフェルガンも同じだ。エフェルガンもかなり苦戦して、敵の激しい攻撃を必死に交わしたり、武器で受け止めたり、技のすべてを出している。敵は魔法耐性があるためか、電気ショックの攻撃があまり効果がなかった。
ローズはそれに気づいて、その効果が終わっても魔法を更新しない。エフェルガン達に支援魔法だけを集中して遠距離から送っている。
苦戦しているエフェルガンから目を離して、今度は敵の潜水艦に苦戦しているジャタユ王子達だ。空軍の多く、敵艦隊を全滅させるために動いている。一方、ジャタユ王子と海軍は逃げ回りながら迎撃している潜水艦にかなり難しい立場にある。彼らの攻撃に通らなかったのだ。
「兄さん、私も戦場に行っても良い?潜水艦を撃ち抜くだけなんだけど」
(ダメだ)
「けち」
(なんでも言え。彼らはこれからどうするか彼ら自身が答えなければならない。全部ローズ任せになってしまったら、彼らはローズなしで戦うことができなくなるからだ)
「うむ」
(これは、これから先の未来のためだ。我慢しろ!)
「はい」
ファリズは正しい。でも苦戦している海軍とジャタユ王子達を見ると、かわいそうに見える。
「ローズはどう思っている?」
突然後ろに座って見ている皇帝が声をかけた。
「どう・・って?」
「あのセンスイカンという船だ。あれをどうしたら破壊できるのかの考えがあるかどうか、と聞いている」
「うむ。個人的な意見なんですけど、破壊する方法は3つあります」
「ほう?」
「一つは気で強化された武器で貫通させて種玉を植え付ける」
「それは今の彼らでは無理だ」
「はい。練習が必要です。これから先の課題とします」
「よかろう。次は?」
「魔法で船をひっくり返して、中にいる敵兵を気持ち悪くなるぐらいの嵐を起こす。欠点は、潜水艦は深く海の中に潜ったらその方法ができない」
「なるほど」
「最後はあの金属に貫通するほどの武器開発が必要だと思う」
「今は手元にその武器がない」
「はい」
「では、どうする?」
どうすると聞かれても・・、難しい話である。
「とても危険なのは一つありますが・・」
「聞かせろ」
「網で・・潜水艦の後ろにある回ったプロペラを絡めて動けなくする。動けなくなったら、潜水艦が封じられるけれど、まだ迎撃武器がある。基本的に外を見るための鏡が潜水艦にあると思うけれど、その鏡を壊し、敵が外の様子が見えなくする必要があります」
「ほう」
「そうすると、敵が狂ったように無差別に攻撃をしてくると思うんだけど、当てずっぽで、どこに狙うか予測できません」
「なるほど」
「そうなると大変危険なんですが、勝つ機会でもあると思います。例え硬い金属でも、中に入っているのは生身の体なので、空気が必要です。潜水艦が動けないとき、その起動力であるプロペラを破壊し、完全に動けなくしてしまえば、どうにもならないと思う。武器を破壊して、その壊れた武器から穴が開けば種玉を入れる事ができる。できなければ、重石でも付けて海の中に沈めば空気がなくなることを待つだけで、勝手に死んでくれます」
「どのぐらい空気がなくなるのか分かるか?」
「ごめんなさい、そこまで詳しく分かりませんが、恐らく数時間かかると思います」
「時間がかかりすぎる」
「はい」
「爆発に耐えられるのか、その船は・・」
「魔法による爆発なら効果がないと思いますが、物理攻撃による爆発なら効果があると思います」
「物理攻撃の爆発とは?」
「爆薬によって爆発を起こすことです」
「ほう」
「化学の勉強で分かったのは、薬の調合する時、分量が間違ってしまうと、爆発を起こします。大怪我の恐れがある、と教科書で書かれています」
「その薬で分量を大きくすれば、大きな爆発が作れるのか」
「多分。試したことがありません。とても危険なので」
「ふむ」
「でも道具と材料があれば・・作れると思います」
「ふむ。何が必要?」
ローズは頭の中で覚えた薬品の名前と試験管を皇帝陛下に伝えた。こんなにも物覚えが良くて、本当に神に感謝している、とローズは思った。なぜなら、この頭と記憶の良さは前世にはなかったものだ。ただの庭人形だったこの体はどうやってこんなに勉強ができるようになったとは・・、本当に龍神様の力ってすごい、とローズは改めて思った。
材料を聞いた皇帝陛下はしばらく黙っている。ローズが再び鏡を確認して、エフェルガンやケルゼック達の戦闘状況を確認して、回復や支援魔法を更新した。ジャタユ王子にも更新して、潜水艦の動きの止め方を教えた。ジャタユ王子は網を調達するようにと兵士らに命じた。
一人の暗部がガレーに声をかけた。ガレーはうなずいて、そして自分のカバンを持って、皇帝の前に置いた。その中からガレーが大切に使っている薬を調合するための道具を出した。
「私の道具です。どうぞお使い下さい」
「薬品があるのか?」
皇帝はガレーを見つめている。
「暗部の道具の中で似たような物がありますが、成分が近い。少し調整をすれば使えるかと思います」
「その船を壊すほどのものが作れるか?」
「今の手持ちではせいぜい穴をあけるぐらいしかありませんが・・」
「破壊できなければ意味がないだろう」
皇帝は暗部達が並べた材料とガレーの道具を見つめている。
「あの・・」
ローズが言うと、皇帝は顔をあげた。
「なんだ?」
「穴を開けることができれば、あとで種玉に残りの仕事を任せれば良いんじゃないかな」
「ほう・・そうだな」
「はい」
「できるか?」
「やってみます」
ローズは火の気がない所へ移動した。しばらく鏡の前に誰もいないけれど、映像がずっと流れている。エフェルガン達の苦戦がまだしばらく続く。
ガレーと暗部達に手伝ってもらって、慎重に薬の調合を行う。念のため、ローズたちにバリアー魔法をかけた。誤って爆発したら大変だからだ。
半時ぐらい調合したら、できたのが二つの爆薬だ。三隻の潜水艦には足りない数だけど、うまく二隻を壊せば、残りの一隻の破壊する方法をまた考えることができる。逃げないようにしっかりと見張っておけば、大丈夫だ、と。
爆薬ができたことを皇帝に報告した。皇帝は爆薬を暗部がジャタユ王子の所まで持って行くように命じた。
「ジャタユ王子、こちらから爆薬二つを送るよ」
(爆薬?)
「ええ。とても危険なものです。まず止まった潜水艦に武器を破壊して下さい。やり方は飛行船と同じようにと考えれば良いけど、とても危険なので、気をつけて下さい」
(了解)
「場合によって武器が爆発するかもしれないから、行く前にこちらからバリアー魔法をかけるから行く者を私に見せて下さい」
(了解、ローズちゃん。こんな感じで良いか?)
「はい。マルチロック!バリアー!攻撃力増加エンチャント!速度増加エンチャント!」
(ありがとう。お、届いた)
「じゃ、まず、潜水艦を網に絡めて、絡まったプロペラを破壊して下さい。そのあと武器の破壊にしてから、その爆薬を上にあるハッチの上に投げてね」
(ハッチってなんだ?)
「えーと、出入り口らしいみたいな物かな。その船の上に丸い形の物があるでしょう?」
(あるね)
「それはハッチというんだ」
(なるほど。で、プロペラってあのぐるぐると回っている水車みたいなものか?)
「はい」
(了解。んじゃ、頑張ってくるよ)
「はい。お気をつけて下さい」
ジャタユ王子の合図で海軍兵士らが網を持って海に潜る。ジャタユ王子の目から彼らの動きを見ることができる。皇帝らも息を呑んで、海兵隊の動きを見守っている。当然敵も警戒して、攻撃し続けている。船に命中したり、また海の中から光線攻撃があった。恐ろしい性能の潜水艦だ。これって十数体で襲われたら、スズキノヤマの海軍が数分で壊滅するのでしょう。やはり対策が必要だ、とローズは思った。そのことを見ている皇帝らも同じ事を考えているようだ。
(絡まった。三隻、全部だ)
「はい。プロペラを破壊して下さい」
(了解)
ジャタユ王子は海軍兵士らに破壊活動開始の合図をした。すると兵士らが持っている武器で地道にそれぞれの潜水艦のプロペラを破壊し始めた。当然のことだが、潜水艦の中にいる敵兵もパニックになって、当てずっぽに攻撃し始めている。空軍兵士らや海軍の船など、その場を離れて、比較的に安全な場所まで下がった。まだ海に潜りながら兵士らが大変頑張っている。彼らこそ勇者だ、とローズは思った。
(合図が上がった、水車が破壊できたそうだ)
「はい、では船の覗き穴のようなものと武器の破壊をして下さい。大変危険なので、後ろから慎重に上がって進んで下さい」
(了解)
ジャタユ王子はまた海軍兵隊に指示を出した。
「マルチロック!ヒール!バリアー!攻撃力増加エンチャント!速度増加エンチャント!」
ジャタユ王子の目で映った兵士らに支援をかけ直した。これからが大変だからだ。兵士らは船の上に上がって、自力に武器を壊し始めた。攻撃に当たったり、武器が爆発して当たってしまった兵士もいたけれど、幸いバリアー魔法が効いたようで、怪我がなさそうだ。ローズは再び彼らにバリアー魔法をかけた。皇帝も目を離さず、兵士達の仕事を見つめている。仲間を手伝おう、と他の海軍兵士らも海に潜り始めた。幸い、ジャタユ王子の目も優秀で、彼らを見ることができて、支援を送ることができた。本当に鳥人族の目はとても良い、とローズは思った。
「ローズ、魔力の補充に」
リンカは焼いた兎と鹿の肉を持ってきてくれた。とても香ばしくて、美味しそうだ。
「リンカありがとう」
「あい。まだあるから、足りなかったら言って」
「はい」
ローズは鏡から目を離さないでリンカが焼いてくれた肉を食べる。
「余も欲しい。くれるか、リンカ?」
皇帝がリンカに頼むと、リンカはうなずいた。
「あい。取ってくる」
相性のない答えだ。リンカらしいだ、とローズは苦笑いながら思った。
「数ある女人の中で、彼女は唯一余にそのような返事をした人だ」
皇帝は苦笑いして、ローズに言った。リンカは向こうで、皇帝のために肉を葉っぱで包む作業している。
「うむ、ごめんなさい」
「かまわん。新鮮に感じる」
ローズが返事すると、皇帝は微笑んだ。リンカを見つめる皇帝の目は変わってきているように見える。リンカを欲しがる目に見える、とローズは思った。オレファ、強力なライバル出現しているよ・・、とローズは心の中でオレファを思った。
しばらくしてリンカが戻ってきた。
「はい。陛下の分の肉です。足りなかったら、声をかけて下さい。まだあるから」
「ありがとう、リンカ」
「あい」
リンカはそのまま即席厨房に戻って、また肉を焼き始めた。近くにいる兵士らが枝や狩った動物を持ってきて、リンカに渡した。リンカの周りで、葉っぱ探し隊と枝探し隊と獲物狩り隊ができたのだ。ある意味、リンカの影響力が絶大だ。
「あのリンカは、好きな男がいるのか?」
皇帝はジャタユ王子やエフェルガン達の戦いを見ながら焼き兎を食べる。
「仲良くなった兵士や護衛官達が多いけど、特に好きというのが聞いていません。人との付き合いが面倒だと思っている人だから、正直に言うと、分かりません。興味がなさそうだし・・。というか、アルハトロス国内で非公式リンカ愛好会が存在しているぐらい、人気の美女ですよ。アルハトロス国内だけで千人も超える男達はリンカのことが好きだそうです。が、リンカは見向きもしません」
「なるほど。実に言うと、余は彼女に興味がある。側室ではなく、妃にしても良いと思うが、ローズはどう思う?」
「それはリンカと話し合って下さい。多分、断られると思うけど・・」
「ほう。それはなぜだ?」
「リンカは複数の妻を持つ男性が大嫌いだから」
はっきりと言わないとあとで怖いから、とローズは思った。
「そうか。残念だ。権力があっても、ダメか?」
「猫に権力の話をしても興味がないと思いますよ」
「猫か」
「はい。里にいる父上の屋敷では、リンカの役職は家猫です。日頃猫の姿で日なたぼっこして、屋敷の屋根の上や縁側で昼寝するんですよ」
「あの強さでただの家猫扱いか・・。その方の実家は恐ろしい」
「鬼神一家ですから・・、ちなみにリンカのお父さんはめちゃくちゃ強い人ですよ」
「ほう・・ローズの父上とどちらが強いか?」
「多分同じぐらいだと思う。ちなみに、彼は父上の配下ではなく、友人ですから」
「そうか。分かった」
皇帝は残念そうにリンカを見つめながら兎肉を食べる。そして再び戦いに集中した。
ローズはさっさと食べ終わらせて、再びエフェルガン達に支援を送った。彼は大分と前に進んで、街の方面に入って、宮殿に向かっている。宮殿の前に大きなテントがあったから、多分敵の大将がその辺りにいる。
(ローズちゃん、三隻のすべての武器が破壊されたよ)
突然ジャタユ王子から連絡が入った。
「意外と早かった。すごいな」
(海軍の者達が頑張ってくれたんだよ。後でちゃんと褒めてやってね)
「はい。では、全員がそれらの潜水艦から離れて下さい」
(了解)
ジャタユ王子が撤退合図を出したら、武器を壊しにきた海軍兵士らが直ちに海に潜って場を離れた。
「爆薬が2つしかないから、外さないで狙って下さいね!」
(了解)
ジャタユ王子が命中率が高い弓兵士らにその爆薬を託した。矢にぐるぐる巻きにして、各兵士に一本ずつ渡した。兵士らが弓を引いて、しっかりと狙って・・。
「撃って!」
ドッカーン!
凄まじい爆発が起きた。その潜水艦の周りには黒煙があがって、船の上に穴が見えた。
「今だ! 種玉を撃って!」
ローズの指示に会わせて、ジャタユ王子はカタパルトで種玉を狙って撃った。潜水艦の中から必死に出ようとしたモルグ人兵士らが見てきたが、弓兵士らは彼らを見逃さなかった。矢で射て、敵兵士らがほとんど息絶えて、植物の栄養になった。
(すごいな・・)
「良かった!」
(残りの一隻はどうするかな)
「逃げられないように、見張って下さい。思いついたら、また知らせます」
(了解)
ローズは爆薬の効果が良くて良かったと思う。残りの一隻はもう少し考える。
「あの爆薬の分量や作り方をあとで書いてくれ、ローズ」
皇帝は満足そうな表情でジャタユ王子達の戦場の様子を見つめている。
「はい」
ローズは鏡から目を離さないで短く答えた。
「ガレー、その方の薬品計量器はもう薬に使うな。新たな品を買うと良い。予算は問わぬ」
「仰せのままに」
ガレーは使い慣れた道具を見つめながら、別れを告げた。もうこの道具は爆薬製造器となってしまった。暗部の一人はそれを理解したのか、ガレーからその道具をもらって、別の所に持って行った。
エフェルガンはやっと敵の司令官の場所にたどり着いた。体に返り血がかなりあって、大変な戦いをしていたことにはっきりと見える。
「エフェルガンに、ケルゼックに、オレファに、ヒール!バリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」
崩れかけてきた宮殿から一人のモルグ人剣士が出た。服装が今までと違って、とても気品が溢れるもので、明らかに身分が高い者である。その人の周りに側近のような者が二人いる。彼らの手にソマールの国王の首があった。死んだのか・・あの失礼な王様は・・、とローズは思った。
エフェルガン達が彼らの前に武器を構えた。相手の敵大将とその側近らも武器を抜いて、構えた。そしていきなり切りにかかってきた。
「マルチロック! 速度減少!」
ローズはエフェルガンの目を借りて、相手に聖属性の攻撃魔法を行った。それでも敵の強さが半端なく・・強い。エフェルガンの攻撃がまるでおもちゃになでられるような感じだった。もしかすると・・。
「不死だね」
リンカの声が聞こえた。彼女はまた焼いた肉を持ってきた。
「なんで不死だと分かったの?」
「オーラが見える。ほら、黒っぽい」
「そうか」
「ローズは眩い光だから聖属性。あの人は黒っぽいで、不死。ファリズは赤い炎だから、火」
「色で分かるんだ」
「ええ。覚えておくと便利よ」
リンカは再び厨房に向かって行った。
「エフェルガン、敵は不死だ」
(不死?!あの化け物と一緒か?)
「うん。これから聖属性の武器エンチャントするね」
(ああ、頼む)
「エフェルガンに聖属性武器エンチャント!」
エフェルガンの剣が光り出している。それを見た敵大将は警戒して、構えを変えた。不死の自分が聖属性のエンチャントされた武器で切られると死ぬのだから。
一方、ケルゼック達はそれぞれの相手に苦戦している。やはりレベルが高い。でも側近の方は逆に無属性だ。だから普通の武器でも十分だ、とローズはそう判断した。
聖属性のエンチャントを受けたエフェルガンの剣は相手の攻撃をなん度も受け流した。数々の戦いのあと、やっと辿り着いた敵の大将はまさしくラスボスだと呼ばれる存在だ。
エフェルガンは敵大将と互角に戦って、激しく斬り合っている。武器と武器のぶつかり合いで火花が出ている。互いを譲れない激しい戦いに、ローズの周りにいる人々が言葉を失って、息を呑んだ。
ローズはタイミングを失わないように三人の状態に合わせて支援を送っている。と、そのとき、相手の一振りで、状況が変わってしまった。なんと、エフェルガンの剣が折れてしまった!




