169. ススキノヤマ帝国 エグバドール奪還戦争(8)
ソマーレの町が短時間で焼け野原となった。モルグに攻められて、たった数十分の間だけで、ソマール国の首都ソマーレが壊滅状態になった。
突然現れてきたモルグ王国の飛行船の大部隊に誰も気づかなかった。音も立てず気配もなく突然現れた敵に為す術もなく、ソマーレの町が滅びていく。さっきまで活気に溢れた町に逃げ回ってパニックになった人々が遠くからでも見える。翼があるものが飛んで逃げようとしたら光線の餌食になり、墜ちていく。恐ろしい光景だ。震えているローズに、エフェルガンは優しく抱きしめた。怖い。
しかし、これからその勢力はエフェルガンたちの戦い相手となる。ソマール王国の滅亡の目撃者になったローズがどう戦えば良いのか、知恵を絞って考えている。魔法が効かないあの飛行船に、どう落とせば良いか。その数がまた増えるのでしょうか、敵の戦力がそれだけなのか、色々なことを考えながら遠くから敵をみている。
「自然よ!ローズが命じる:我に力を与えたまえ!」
ドーン
力が沸いてきた。
「何をする?」
エフェルガンは心配した声で聞いた。
「火を消さないといけない。雨を降らすの」
「無茶をするな・・」
「無茶をしなければ・・たくさんの人が焼け死ぬよ」
「彼らはローズを侮辱したのに、それでも助けるのか?」
「民は悪くない」
「しかし・・」
「女神にならないから、大丈夫よ。雨を降らして、聖属性を乗せるだけだ。これ以上、魔石を増やすわけにはいけないし」
「分かった。でも何があったら、僕はローズを止めるよ」
「うん」
ローズは風を起こし雨雲を集めている。彼らが気づいているかどうか知らないけれど、とにかくできるだけ広い範囲の雨雲を集めて、重ねて、重くする。雲が黒くなっていて、ぽつんぽつんと雨が降り始めた。
「ホリー・レイン!」
雨粒に聖属性の魔法を与えて、汚れた大地を浄化しつつ火を消す。
ローズはダルセッタに乗って、飛行船よりも高く飛んでいるため雨が飛行船の上に設置された術式を消している様子がみえる。
「敵が私たちに気づいたかも・・」
「そのようだな」
「海の方から戦艦の大部隊が見えるわ」
「この人数で、全部相手にすることができないな」
「氷を落とせば船がなんとかなるけど」
「ダメだ、ローズ。今食料がないから、あまり魔力を使いすぎるとまた気を失ってしまう」
「うむ」
エフェルガンがそう言いながら、周りを見ている。
「とりあえず向かってきた飛行船を落とすから、ローズはダルセッタに乗って安全な場所にいて」
「ハインズとエファインは?」
「あとで行かせる」
エフェルガンが言って、敵軍を見つめている。
「高度を落とす?」
「必要ない。彼らはこのぐらいの高度なら飛べる」
「うむ、分かった」
「くれぐれも無理をしないでくれ」
「うん。あなたもお気を付けて」
エフェルガンはローズをぎゅっと抱きしめてからダルセッタの背中から飛び降りた。
「エフェルガンにバリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」
エフェルガンが行動を開始したから、騎士団の者と護衛官、そして空軍たちも動いた。ジャタユ王子とその配下達も動き始めた。
「ダルセッタ、私達もがんばろう!エフェルガン達を狙っている飛行船に攻撃しっちゃいましょう!」
「キュルルルルル」
「ダルセッタにバリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」
ダルセッタはローズの言葉の意味を理解しているのか、大きく旋回してそして口から光線を放った!
バーン!
なんと、ダルセッタの口から出た光で船も飛行船に当たると、大きな爆発音とともに粉々に破壊された。
すごいよ!、とローズは驚きながら、思った。
「ダルセッタ、えらい!えらいわ!大好きよ!♪」
「キュルルル、キュルルルル」
ローズはしばらくダルセッタと一緒にグルグルと旋回した。ハインズが見えてきたから少し高度を落として、向かいに行った。ハインズがダルセッタの背中に乗ると、ダルセッタは再び空を大きく旋回する。
「毎回思うんだけど、この鳥はすごく賢いですね、ローズ様」
ハインズはローズの後ろに座るダルセッタの操縦紐を取って、にぎる。
「うん。ダルセッタはえらいよ。とてもお利口さんだ」
「キュルルルル」
褒められたと分かって、ダルセッタは嬉しそうに体を揺らす。
一機の飛行船は高度を上げて、ローズたちの高さまで近づいた。そして高熱線の攻撃を放ったけれど、ローズの魔法の盾の方が先に発動して攻撃を防いだ。
「バリアー・シールド!」
ダルセッタは危険を察知したか、もっと高く飛んでいく。しかし、高度が高くなると空気が薄い。
「ダルセッタ、あまり高く飛ぶと、私が酸欠で意識を失ってしまうんだ。あの飛行船に攻撃させないからさっきの高さで大丈夫だよ」
「キュルルルルル」
理解してくれたか、ダルセッタは高度を落として攻撃態勢になった。飛行船は再び攻撃しようとした。今度は飛行船の上に銃のような武器を持つ敵が数人いる。彼らはダルセッタに向かって攻撃したけれど、バリアー・シールドでほとんど攻撃が弾かれた。
ローズはポケットから袋を取りだした。
「ローズ様、それは?」
「土なの」
「土?」
「うん、土だ。普通の土。最近考えたんだ・・土を持っておけば、空中戦でも土属性の魔法が使えるんだと思う。魔力消費が一番少ないんだ・・土属性って」
「そうなんですか」
「ハインズの属性は何?」
「私は風属性です」
ハインズがそう答えながらダルセッタを操縦している。
「じゃ、かまいたちもできるんだね」
「パララでローズ様が殿下に教えた技ですよね?」
「うん」
「まだそこまで上達していません。私は魔法よりも武器の方が得意ですから」
「今度練習しよう!かまいたちができると遠距離攻撃が有利になるからね!」
「了解!」
「で、ハインズ、普通に喋っても良いんだよ。ハインズも敬語苦手でしょう?」
「ははは、そうですね。じゃ、お言葉に甘えて、そうさせて頂きます!」
「殿下の前だとまずいけど、今は二人と一羽きりだから」
「その表現が変だ」
「ダルセッタも計算に入れないとダメだからね」
「ははは。了解」
ローズが言うと、ハインズは笑った。
「キュルルル」
ダルセッタも笑ったように見える。ローズは袋の中から一つまみの土を取りだして、念じてからぱらぱらと飛行船の周囲にまいた。
「バインド・ローズ!」
ズズズズズ!
土粒の中からいきなり現れて来た茨の枝が飛行船の上にいる敵兵士らを襲いかかる。飛行船の上で付着すると茨の枝が飛行船を巻き付いて、人の存在を探して、窓を破り中にいる敵兵を襲う。空中でやったのが初めてだが、ある意味、怖い技だ。
「ひぇ・・ここまで効果があるとは思わなかった」
「結構不気味な技なんだね」
「うん。我ながらそう思う」
茨の枝に縛られた飛行船は不気味な感じになった。ぐるぐると巻かれている。飛行船が傾いている。
「でも効果がよさそう。今度、豆か薔薇の種を持ってこようかな」
「良いですね。蔓系ならうまくいきそうだ」
「うん!」
ローズは再び土をばらまいた。
「ストーン・ピラー!」
今度は氷と違って、土粒に氷柱のような形にして、飛行船の上に落とした。しかし、結果がいまいちだった。狂った枝よりも、命中率が低かった。
「うむ」
「当たらなかったね」
「うん」
「でも敵の船の上に当たると効果が良いね」
ハインズは沈没した敵の戦艦を見つめている。
「でも撃ち落とされたものが多かった」
「船には嵐や氷の方が効果的かもしれない」
「うん」
再び土一つまみを手にとって念じた。今回はぎゅっと握ってみた。
「あれ、種が混ざっている」
「何の種だろう?」
「分からない。植えてみるか?」
「空中で?!」
「飛行船の上にか、今縛られている敵の体にでも・・」
「ローズ様、今さらりっと怖いことを口にしたよね?」
「あはは、冗談よ」
「冗談に聞こえないけど」
「まぁ、気にしないで!えいっ!」
さぁ~種よ。どこへ付着するのか分からないけど、行け!、とローズはそれを敵の船に投げた。
種は飛行船の上に付着していたようで、芽生えた。そしてすごい早さで、ズズズズズズズズと根っこを張って、枝や葉っぱがたくさん出て大きな木になった。その木の栄養は、・・その飛行船に乗っている敵兵のようだ。葉っぱの色が・・赤い。
「怖い・・」
「・・・」
「でも木の重さで飛行船が傾き始めたね」
「はい」
「悪夢になりそう?」
「そう、ですね」
ハインズは目をパチパチと木を見つめている。苗はまだ成長しているようです。多分・・。まだ飛行船の中で栄養になるような敵兵士らがあるからだ、とローズは思った。
飛行船本体に魔法が効かないけれど、中にいる人は成長している根っこで窓から逃げ出すことができず、栄養として吸われている、・・じわじわ、と。あの飛行船はおそらくもう墜ちるのでしょう。
「薔薇の花ならきれいな赤い花が咲くかな」
「俺は普通のピンクの薔薇の花で良いと思う。多分、一生、赤い薔薇をみるたびに、ローズ様の怖い技を思い出してしまう気がする」
「うむ・・」
木に喰われた飛行船は結局為す術もなく海の上に墜ちた。
(ローズ! 何を遊んでいるんだ?)
エフェルガンの声が聞こえた。
「エフェルガン、見てたんだ・・」
(見たよ。さっきから変な魔法ばかりで遊んでて、・・しまいに木が生えていて、・・あれはなんだ?!)
「木」
(だから、なぜ木が飛行船の上に生えた?!)
「持って来た土に種が混ざっていたから植えてみただけよ。適当にエスタバールでとって来た土だったから、木の品種なんて分からない」
(・・・)
「今度きれいな花か実がなる木の方が良い?」
ローズが聞くと、エフェルガンからの返事がない。ハインズは笑ってしまった。
「殿下はびっくりしたのだろう」
「うん。かなりびっくりしたみたいよ」
「ははは、見たかったな、・・殿下の顔」
「うむ。多分呆れた顔でしょうね」
「だね」
また一つまみの土を取った。雑草が混ざっている。しかも根っこ付きだ。これはどうなるか分からないけれど、とりあえずぎゅっと握って、念じた。
よく育ちますように!
「えいっ!」
「今度はなんですか?」
ローズが土を真下にある飛行船に向かって投げつけるとハインズは楽しそうに聞いた。彼は実験に付き合ってくれている助手のような存在だ。
「雑草を投げてみた」
「どうなるんだろう」
「さぁ・・・これからの楽しみだと思う」
雑草は飛行船の上に付着した。根っこを張り始めて、そしてすごい早さでぶわーっと飛行船の上に芝生ができた。
すごい!快適そうな芝生で、青々としている。でも止まらない・・、草が生長し続けていて、尾翼や下にある操縦質まで浸食し始めている。一人の兵士が窓から上にあがってきて、尾翼に着いている草を一生懸命取ろうとしている。でも取れば取るほど、草が生長し続けている。飛行船全体に草だらけになって、草の長さも段々長くなっていて、窓から草も見えている。
「草もあんなに脅威になるとは・・」
ハインズが草の生長を見守りながら、観察している。
「うん。兵士の服装にまで生えてしまうんだね」
「俺はそんな草を自然界で見たことがない」
「私もないよ」
「草の名を改めて・・ローズ草だね」
「うむ・・」
「気に入らない?」
「あれは雑草だからな・・」
「あれを大量生産できれば敵の飛行船の妨害にできるかもしれない」
「でも安全性をもっと考えないといけないな。間違って草が畑に付着したら大変だ」
「時間に決めて、付着してから数分で成長して、枯れて死ぬというのはどうだ?」
「良いね!ハインズ、あなたは天才だ」
「ははは。天才か」
「うん。その点がある。植物武器の開発に貴重な意見だ。今度一緒に作ろう!」
「良いね!」
草に覆われている飛行船はコントロールを失い結局その大きな飛行船も海に墜ちてしまった。ただ何人かの乗組員が脱出できたそうだけど、服装に草だらけになった。
「キュルル、キュルル」
ダルセッタが何かを知らせている。ふっとまわりを見たら、エファインがカバンをもって上がってきた。
「わー、エファインだ。そのカバンは?」
エファインは大きなダルセッタの背中の上に乗って、カバンをハインズに渡した。
「リンカさんからの食料です」
ハインズはカバンを受け取って、中身を確認して笑った。
「大量だ。何か食べますか?」
「パンが良いかな」
「はい」
ハインズは袋に包まれているサンドイッチを差し出した。袋をあけて、食べた。美味しい。袋があると汚れた手でも安心して食べることができる。
「でもリンカはエスタバールにいたけど、もうここに到着したの?」
ローズが食べながらながら敵の様子をみている。どうやら彼らは数々の珍攻撃にかなり警戒しているようだ。エフェルガン達が順調に飛行船を落としている。
「はい、ファリズ様は同じところで再び魔法の扉を開けて下さったおかげで、エスタバールにいる部隊全軍がここまで駆けつけることができました。この場所に到着したリンカさんはこれらの食料を私に託してくれました」
「そうか。リンカは今どこに?」
「ファリズ様とともに敵艦隊を破壊しています」
エファインは海上にある敵艦隊の方に指で示した。海水面の上になんらかの術で、あの二人は走って、甲板に上がって、暴れて、破壊して、また次の船へ移動して、繰り返している。
怖い・・。あのペアがすごすぎる。敵の迎撃がまったく当たらないような何らかの魔法で防いだか、あるいは交わしているのか、ローズは分からない。とにかくあの二人は強い、とローズは上空からそれを見つめている。
「リンカ、ファリズ、返事をして」
念のためかけてみた。
(あい)
(おう!面白いことしてたね!ははは!木が生えた!おもしれぇー)
リンカとファリズからの返事が来て、繋がった。
「あはは、ちょっと実験してみただけなの」
(でも良いぜ、妹。敵も、味方も、皆びっくりしたぜ)
「ですよね・・変だったから」
(期待してるぜ。今度も何木を植える?)
「うーん、さっきはたまたま混ざっただけだったから、まだ種があれば良いんだけどね」
(まぁ、あまり無理すんな。弟のためにも、ほどほどにな)
「はい」
(俺は、毎回辛い顔した弟を見ると、つられて辛くなるからな)
「はい。ごめんなさい。今度気をつけます」
(おう!)
ファリズはエフェルガンに気遣っていることを知ったローズがうなずいた。
「ファリズに、リンカに、バリアー!ヒール!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」
ローズはその二人に支援魔法をかけた。それからエフェルガンにもかけた。
「マルチロック!ヒール!速度増加エンチャント!攻撃力エンチャント!」
ジャタユ王子達や護衛官達にもかけた。ローズは空中でパンを食べながらダルセッタの上で下を見物しただけで、あまり戦闘に参加せずに、役に立たなかった。
パンを食べ終えると、ハインズはみかんを取り出した。エスタバールの街周辺で採れたみかんだ、とエファインは言った。昨日リンカとオレファが収穫したらしい。ローズはみかんをハインズとエファインにも分けて食べた。思った以上に、すっぱかった。けれども、大量の種を手に入れた。袋の中にある土に混ぜて、種玉を作った。そして念を込めて、おまじない・・大きく育って~、とローズが種に愛情を込めた。
「ハインズ、空中栽培実験が始まるよ!」
「はい!」
ハインズがにやっと笑いながら嬉しそうに下にある飛行船を示した。ローズはその飛行船に届くように、風で種が入っている土の玉を投げた。ちょっと変なところで付着した。ぎりぎりと飛行船の先方に付着したけれど、問題ないでしょう。
ポン!と葉っぱが出た。エファインもハインズもわくわくしながら、その苗を見つめている。
ズズズズズと根っこが飛行船の周囲にはり、栄養を求めている。そして根っこが操縦室に侵入して、大きくなり、窓をふさいでしまったようだ。中はどうなったか知らない、怖いから想像もしたくない、とローズは首を振って思いを消した。
みかんは大きくなって、成長したみかんの木に花が咲いた・・赤い花だ。
普通は白い花なんだけれど、とローズは首を傾げながら思った。確か柑橘系の花は白い、と彼女の記憶にある。けれども、この魔みかんの花は赤い。しばらくして、木が大きくなった。飛行船が操縦不能となって、傾いて墜ちて行くけれど、みかんが実った!きれいなオレンジ色のみかんがいっぱい実った。でも、ローズはそれらのみかんを食べたくない・・。でも、面白い。
「おお!みかんになったよ!」
「ははは! 面白い!」
ローズとハインズが嬉しそうに笑うと、エファインは苦笑いした。悪質なみかん栽培ペアだ、とエファインは思った。
「ローズ様、もし俺がその種を投げたら、同じ効果が出るのか、試しても良い?」
ハインズが言うと、エファインはびっくりした。しかし、ローズもその効果があるかどうかも気になるから、種入り土玉をハインズとエファインに渡した。
「ちゃんと狙って、投げて!」
「おおお!当ててやるぜ」
ハインズは嬉しそうに言った。
「私もやるんですか? ローズ様」
エファインは不安な顔で手の平にある種玉を見つめている。
「もちろん!」
ローズの答えで、エファインは苦笑いした。
「はい。頑張って投げます」
「うん!せーの!投げて!」
合図をするとあの二人は比較的に近くにある飛行船に向かって投げた。ハインズが投げたものはちょうど真上に付着した。エファインが投げたものは尾翼のフラップの方に付着した。ゆらゆらと不安定だけど、付着下だけでも良いと思う。そしてしばらく見守っていたら、ポン!と葉っぱが出た!
「おおおお!」
ハインズは興奮した。エファインもドキドキしながら自分が投げていた方に目を離さないで見ている。
「お!私が投げた方にも芽がでましたね!」
エファインは嬉しそうに言った。そしてしばらく観察している。
「今度、木の枝でカタパルトを作りましょうか。その方が狙いやすいと思います」
エファインの意見にハインズもうなずいた。カタパルトはY型の枝で作るもので、たまにパチンコと呼ばれることもある。
「そうだね。それだと普通の空軍兵士でも使えるのだろう」
「問題は種玉の大量生産ですね」
ハインズとエファインの意見は重要だ。これからの防衛問題をこれで解決できるなら、何よりだ、とローズは思った。
「土属性の人であれば作れると思うよ」
ローズの意見にハインズはうなずいた。
「ではこの戦いに勝ったら、本格的に計画しましょう」
エファインは嬉しそうに自分が植えたみかんの木の成長を見つめている。
「でも敵がまだ多いな」
ローズがソマーレの街を破壊しまくっている飛行船をみた。まだ数十機がある。ローズたちが相手にしているのがほんの一部の飛行船だ。敵艦隊はもうほとんどリンカとファリズに滅ぼされた。
「残りの種玉は10個ぐらいかな」
「足りませんね」
「うん。それにこれは町の上に使用したら危険な気がする。念のため十分間成長したら、枯れるように調整してみたんだ」
「まぁ、十分になる前に、ほとんど海に墜ちたね」
ハインズがちゃんと時間を計っているんだ。
「じゃ、あの飛行船をいくつか釣りに行こうか?」
ローズの提案にハインズとエファインが難しい顔した。
「危険だ。それはダメ」
「そもそもどうやって釣るのですか?」
エファインの疑問はごもっともだ。どうやって釣るんだ・・。
「キュルルル」
ダルセッタは何か方法を思いついたようだ。
「良いよ、ダルセッタ。あなたに任せるわ。10機ぐらい来てくれればありがたいな」
「キュルルルル」
ダルセッタは大きく旋回し、町の上に飛んでいった。他の国に入ってしまったけど、もう政府そのものが崩壊したのでしょう。あのえらそうで不埒な王様も多分宮殿のがれきの下敷きになったのでしょう。
ダルセッタは飛行船に向かって無差別に光線を放った。そして自分の存在を知らせるようにわざと飛行船の前に行った。もちろんダルセッタにも、ローズたちにも、バリアー魔法を付けた。ダルセッタには速度増加と攻撃力増加のエンチャントを付けた。
予想通り、ソマーレの街を焼き飽きたのか、複数の飛行船が動き始めた。光線から攻撃を放ちローズ達を追っている。陸から離れて、海の上にいたら、ダルセッタは上を遠く飛んでいって旋回している。
(ローズ! 何をしている?!)
エフェルガンの声が聞こえている。愛しい妻が10機以上の飛行船に囲まれて心配したのでしょう。
「釣り」
(釣り?!)
ローズの答えで、エフェルガンがまた驚いた感じの反応だった。ハインズがくすくすと笑って、エファインは苦笑いした。
「うん。これからみかん栽培するの。10個しかないけど、残りの飛行船はあとであなたに任せるわ」
(危ない事をしないでくれよ)
「前線にいるあなたよりもずっと安全だよ。ダルセッタはとても優秀な鳥だから」
(頼むから、気をつけてくれ)
「うん。あなたも怪我しないように気をつけてね」
相変わらず変な妻を持つエフェルガンは苦労しているのでしょう、とハインズは思った。
気を取り直して、ローズはハインズ達に種玉を三個ずつ渡した。そして狙い定めて、一個ずつ狙って投げた。ハインズの命中率が高い!毎回ちょうど飛行船の真上に付着した。すごい、やはり武器に詳しい人だ。エファインが投げた玉も全部付着したが、ぎりぎりの所で付着した。でも全部当たったから、大丈夫だ。ローズは1個外してしまった。一つの飛行船に2個も当たったから、玉の数が足りなくなってしまった。残りの玉はハインズに渡して投げてもらうことにした。
「わー! 生えた!」
ローズはケラケラと笑い出した。なぜなら目の前に、不思議な光景だ。空中に青々とした魔みかん畑が実現された。
面白い!
(みかん・・)
リンカの声が聞こえた。
(ガハハハハハハハ!)
ファリズが豪快に笑った。
(みかんだ・・)
エフェルガンの戸惑う声が聞こえている。飛行船を落とし終わった海軍とジャタユ王子も動きが止まってしまった。全員、空飛ぶみかんの木を見つめている。指さした人もいた。そしてそれらのみかんの木が海に墜ちた。
「さて、残り数機とソマール国周辺に十数機がある。どうするか」
ローズが言うと、ハインズは難しい顔をした。
「土はもうないかな」
「使い終わった」
ローズは袋を逆さまにした。もうほとんど土がなかった。
「近くの島に行って、また土を補充しよう」
ローズが下を見渡し、ファリズとリンカがいる島に目を付けた。
「兄さん、その島に土と植物がある?」
(あるよ。どうした?)
ファリズが返事してくれた。
「土と種が終わったの。またカタパルトも作ってみたいな。狙いやすくするために」
(じゃ、ここまで降りてこい。作ってやるから。種は適当にリンカに頼んでみる)
「ありがとう」
ローズはダルセッタにファリズがいる島に移動するようにとお願いした。複数の飛行船がローズたちを追ってきたけれど、エフェルガン達が駆けつけて攻撃してくれている。
島に到着すると、リンカが色々な植物の種を集めてきた。リンカはそれらの種が葉っぱに包まれて渡した。エファインがダルセッタの隣にしゃがんで土を袋の中に入れた。ファリズは切った枝でゴムで3個分のカタパルトを作った。
「兄さん、このゴムひもはどこから?」
ローズが聞くと、ファリズがリンカを見ている。
「リンカの髪紐だ。俺がズボンの紐で良いと言ったが、怒られた。不潔だって。ふーん!」
「あはは。でも作ってくれてありがとう。リンカ、あとで新しい髪紐を買ってあげる」
リンカはうなずいた。
「ほい、妹とその子分二名分のおもちゃができたぜ」
ファリズが嬉しそうにできあがった手の平サイズのカタパルトをローズにあげた。
「わーい」
ローズは嬉しそうにそれらをハインズたちに見せた。まるで小さな子どもがおもちゃをもらった時と同じ様子だった、とファリズは笑った。ローズの様子を見たリンカも笑った。
「じゃ、今玉を作るわ」
種と土を混ぜて、一つ一つと念を込めてぎゅっとかためた。
敵の数に合わせて少し余分に作った。ハインズとエファインに15個ずつの玉を与えた。パンを包んだ時の袋に入れて、分けた。
リンカはダルセッタに大きなトカゲの肉を与えると、ダルセッタは美味しそうに食べている。ファリズもおなかが空いたそうで、リンカは作ってくれたパン一袋をあげた。
「ファリズ、海の上にみかんがいっぱい流れているよ」
「遠慮する・・」
リンカの提案がファリズに即答された。人を栄養として成ったみかんだから、人が食べても大丈夫なのか、分からない、とファリズはローズを見て、苦笑いながら首を振った。けれど、しばらくしたらみかんが枯れて、乾いてしまった。やはり生命期限によって、すべて枯れてしまう。
ダルセッタも食べ終わって。ローズたちは再出発して、再び釣りに行った。その結果、ほぼすべての飛行船がローズを追っている状態になった。
ハインズがカタパルトで種玉を攻撃して、狙った。ハインズもエファインも子どもに戻ったかのように、とても嬉しそうに次々と種玉を撃った。芽が生えて、これもまた面白い。リンカが適当に集めた種だったから、何の植物の種が分からない。
木、果物、そして花、肉食の花も・・あれ・・? 肉食の花?!
「げ!サイズが大きくなると怖い!」
「はははは!これが良いですね!」
ローズもダルセッタも不思議な目で、そのぱくぱくとした口を開いて餌を求める花を見ている。念のため、ダルセッタが安全距離を測って、離れて飛んでいく。肉食の花は操縦席からその蔓で次々と敵兵をしばり、口に入れた。えぐい・・。
しかし、あれは危険だからボツだ、とローズは思った。敵も味方も喰うから、危険すぎる。
「エフェルガン、その肉食の花は危険だから近づかないで」
念のためエフェルガンに連絡した。
(本当に変な実験をしているんだな)
「あははは、でも効果的よ!」
(そうだな。空軍将軍から質問が来たぞ。いつ正式な武器として採用するのか、って)
「わーい。今検証中だからしばらく待っててね。戦いに勝ったら考えると答えて」
(そうだな・・。気をつけるんだよ)
「はい!」
次々と空中で変な植物が生えていた。大きな木も小さな木も花も草も生えていた。ハインズとエファインが話し合いながら結果を見ている。どんな木が一番良かったか、彼らに任せたい、とローズは思った。
そろそろ最後の飛行船が海に墜ちた。しかし、ソマーレの港に停泊している大きな船がある。あれは潜水艦だ。モルグの技術力がこんなに高いとは・・、とローズは息を呑んだ。敵として怖い相手だ。
潜水艦から大量の兵士が町に入った。次の潜水艦も浮上して、港に向かっている。次々と浮上して、その数は10隻だった。サイズが大きい。そして、上に向かって攻撃し始めた。
「バリアー・シールド!」




