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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
スズキノヤマ編
168/811

168. スズキノヤマ帝国 エグバドール奪還戦争(7)

()でよ! ケルズ!」


ファリズは地獄の番犬ケルズに、ガレーが持ち帰ったエテロの剣についた血の匂いを覚えさせた。きれいに拭いても、血のにおいが残るものだ、とファリズは言った。だから毎日の手入れが欠かせない、とローズはダルガの言葉を思い出した。


「ガルルルルルルル」


ケルズは耳をピントと立てた。そして突然一番高い建物の上に登った。ファリズはケルズ見つめている。


「いけるか、ケルズ?」

「ガルルルルルルル」

「行け!奴を見つけろ!」


ファリズの命令でケルズは牙を見せながら一つの方向を見つめて、そして突然走り出した。ローズとエフェルガンは素早くダルセッタに乗ってケルズを追っている。ファリズはポポに乗って、ゆっくりと後ろから追っている。ケルズは自分の主人を待ちながら前を進んでいる。ガレー達も、空軍も、騎士団も、ジャタユ王子とともに動いている。


ケルズは犬なのに、水の上にも走れる。すごすぎる、とローズは思った。ケルズは犬だといっても、普通の犬ではない。地獄の犬という使い魔で、とても凶暴で攻撃的である。しかもケルズの鼻から逃げられる者がいない、とローズはファリズが言ったことを思い出した。


ケルズはしばらく走って、前に進んでいる。いくつかの島を通り、かなり走り回っている。数時間間も走ってエグバドールの南にある島の山のてっぺんに止まった。ケルズが見つめた先に海の向こうにある島だ。それはダマールという島で、ソマール王国の領土にある島だ、とローズはエフェルガンから聞いた。


「あれがアジットだ。どうする?」


ファリズはエフェルガンに尋ねた。


「ソマール王国は連合の国ではないから勝手に入ってしまったら問題になる。ひとまず、国王に会って、話し合ってからにする」

「じゃ、俺はここで見張っている」

「了解した。兄上と軍はこの島で待機して下さい。この島ならまだエグバドールの領土だから問題ありません」


エフェルガンの提案にファリズがうなずいた。ポポと軍は着陸して、ファリズと空軍兵士達はケルズとともにそのアジットを見つめている。


エフェルガンとローズと護衛官達はソマール王国の首都ソマーレに向かって飛んでいる。突然の訪問にソマーレの街の人々がパニックになってしまった。大きな鳥、ガルーダのダルセッタを見てソマールの空軍兵士らは警戒している。しかし、皇太子の首飾りをしているエフェルガンとローズを見た瞬間に、彼らは丁重にエフェルガンを宮殿まで誘導してくれた。


二人はダルセッタから降りると、将軍や宰相が宮殿の中から現れた。用件を聞かれて、エフェルガンは緊急事態の用件で国王と直接話し合いたいと答えた。宰相は再び中に入り、国王に確認すると言った。


しばらくして、宰相はソマール王からの面会の許しを得たようで、二人が中に案内された。ともに中に入れる護衛官は3人のみだった。ここでケルゼックとジャタユ王子の護衛官フェレザとローズの護衛官ハインズが一緒に入ることになった。他の者は宮殿の前で待機している。


ソマール宮殿に入ると、ローズは驚いた。なぜなら、ソマールではモルグ人も普通に宮殿の中にいるからだ。見たところでソマールの人々の多くは精霊系の種族が多く、兎人族と鳥人族のツバメ種族の他にもモルグ人種族がいる。この国ではモルグ人種は敵として見なされていないようだ。


豪華な宮殿に入ると、宰相は国王が待つ居間まで案内してくれた。その王の部屋に豪華な玉座に座っているソマール国王がいる。宰相がローズたちを国王に紹介してから、彼らは丁寧に挨拶をした。


エフェルガンは早速事情を説明して、クライワとその部下達の引き渡しを要求した。また行方不明になっているエグバドールの国王の妃と王女たちの保護も求めている。


「皇子、嘘はいけませんな」


突然国王はエフェルガンの話を中断した。


「私は嘘などを申していません」


エフェルガンは否定した。


「パリニ王妃と王女たちは我が国に来て保護を求めてきた。国はスズキノヤマに攻められて、国王が殺されたと王妃が申したぞ」


国王は機嫌悪く言った。


「それは事実ではありません。我々が到着したとき、国王と王子達はすでに殺されたのです」


エフェルガンが説明したが、国王が信じようとしなかった。


「私も証人になります。エフェルガン皇子の言葉に真実であると宣言します」


ジャタユ王子は国王に向かって言った。


「ドイパ国はスズキノヤマ国の同盟だから、ともに攻めただろう?」


国王は吐き捨てたかのような言い方をした。


「それは、こちらが先に攻撃されたから確認したところで、モルグの飛行船はエグバドールから来たという確かな情報があった。大使に確かめて、実際にエグバドールに行ったら、我々の大使が首を切られて届けられた。その挑戦を答えてエグバドールに征ったらエグバドールがすでにモルグ人勢力に取られたのです」

「エグバドールが先にスズキノヤマを攻め込んだという証拠でもあるのか?」

「白黒の証拠はないが、調査情報で分かったのはスズキノヤマに入ってきた飛行船はエグバドールから来たということだった。それにエグバドールでは、モルグ人以外の人種の住民はほとんど魔石に閉じこめられてしまったのです」

「そんな嘘八百を並べられても信じるわけにはいかないな。国民全体を閉じこめるほどの魔法はこの世に存在しない」

「でも、それが事実です」

「余は信じぬ」


エフェルガンがなかなか国王を説得することができない。


「あの・・」


ローズが前に行って言うと、国王陛下は不機嫌な顔をした。


「なんだ」

「パリニ王妃か王女達と合わせて下さいませんか?」

「女はひっこんでろ」

「失礼ね」


ローズは国王の言葉に思わず本音を言ったしまった。


「その(ほう)こそ、女のくせに政治に口を出すなど・・。女人は政治に関わらないのは常識だろう」

「それはこの国の常識でしょう?我が国のアルハトロスでは国のトップは女王陛下です」

「はぁ、ろくな国ではないだろうな。その方の言葉に聞く耳を持たない」


失礼もほどがある。この国王は最初から敵対姿勢をしている。わざとけなすなど、腹が立つ、とローズは思った。しかし、エフェルガンの顔を立ててここで我慢する。エフェルガンはローズの様子をみてから、息を整えた、そしてまっすぐにソマール国王の顔を見つめる。


「国王陛下、一つだけ忠告しておきましょう。我が国と敵対するおつもりなら、我々はこの国と武器を交える覚悟があります」


エフェルガンは険しい顔で言った。


「エフェルガン皇子、ソマール国はモルグ国の傘下に入ったので、それは十分理由になりましょう。連合国と同盟国に通達して、エグバドール王国の滅亡に加担したソマール王国を皆でお仕置きをするのも良い、と私が思います。我々にとってモルグは共通の敵であるから、ドイパ国もスズキノヤマとともに戦います」


ジャタユ王子はためらいなく意を伝えた。


「待って、ソマールはモルグの傘下などではない。ましてやエグバドールの滅亡に加担したなどしておらぬ」

「主犯をこの国にかくまった時点で加担したと見なされました」


エフェルガンは言った。しばらく不穏な空気が漂っている。戦争になれば、ソマール国単体だけだと連合軍には勝てないだろう・・後ろ盾がモルグ王国だと、状況は怪しくなる。


「陛下、ソマールを戦場に巻き込みたいのですか?」


ローズは涼しい顔で尋ねた。陛下はすごく機嫌悪くなってしまった。


「女は黙ってろ」

「いいえ、黙りません。私はエフェルガン皇子の妃であり、アルハトロス国第一姫であり、そして龍神の娘でもある。これ以上、罪なき民が苦しみに堕ちてしまうことを見たくありません」


ソマール国王はローズを見つめている。


「今なんと? 龍神の娘だと?」


国王は小さな声で尋ねた。ローズは意識を集中して体が一気に光り出した。それを見た国王の顔色が変わった。


「そうです。国王陛下、一つ尋ねますわ。あなたは何を背負っているのですか?」


ローズの質問に国王陛下の顔が青くなっている。


「余は・・余は・・余はこの国を背負っている」

「その中にソマールの民も含めているのですか?」

「無論・・余は民を守らなければならない。守る義務があるのだ」

「ならば、真実をその目で確かめる必要がある。エグバドールのパリニ王妃とその王女達に面会することを要求します。直ちにここへ連れて来て下さい」


ローズの言葉を聞いて、ソマール国王は兵士に命じてパリニ王妃とその王女達を連れてくるようにと命じた。数分後、兵士らは彼女たちを連れてきた。しかし彼女たちの身なりをみて、ローズたちは絶句した。とても王妃や王女には見えないほどの・・とてもみだらな姿だった。


「ソマール国王陛下・・これは・・陛下は隣国の王妃や王女を保護したということですか?」


ジャタユ王子は鋭い質問をした。ソマール国王は汗を拭きながら言い訳を考えている様子だ。


「か、彼女が・・彼女たちが・・えーと・・余の後宮に入ると申した」


見苦しい言い訳だけど、ローズは何も言わなかった。それよりも、彼女たちが他人の前にその姿で晒されてもまったく恥ずかしい様子がなかったから気になる。もしかすると幻術にかかっているのかも知れない。


「いにしえの聖なる神、聖龍の名の元に、ローズが命じる:我に力を与えたまえ!」


聖属性の起動条件が整えた。


「聖なる光で、汚れ無き体に戻れ!ピュリファイ!」


パリニ王妃とその王女達に幻術の影響を消し去ると、我に戻ったかのような、自分たちの身なりに気づいて、必死に体を隠そうと恥ずかしく、しゃがんでしまった。ハインズとケルゼックは自分の肩かけ布を外し、王妃と王女達に差し出した。あまりの恥ずかしさに、彼女たちが泣き出してしまった。


「ソマール国王陛下・・これはどういうことか、説明していただけますか?」


エフェルガンは怒りを満ちた声でソマール国王陛下に尋ねたら、国王は首をぶるぶると振った。


「知らぬ。余は知らぬ。その者たちのことを知らぬ」

「見苦しいですね」

「さっさ連れて行け。もう二度とこの国に足を踏まないでくれ」

「言われなくてもそうします。しかし、もう一人の犯人も引き渡してもらいたいが・・?」

「好きにするが良い。余は無関係だ。海軍!ダマールに潜んでいる海賊どもを追い出せ!」


ソマール国王が慌てて海軍に命じるとエフェルガンは眉をひそめた。


「おや?我々が追っている者がダマールにいることをなぜ分かったのですか?ダマールについて、一言も申しておりませんでしたが?」


エフェルガンの口から皮肉に満ちる言葉だ。エフェルガンに嘘をつくとやはり怖い、とローズは思った。


「知らぬ!余は知らぬ!さっさと出て行け!余の宮殿から出て行け!」


ローズたちは頭をさげて、エグバドールの王妃とお王女達を連れて宮殿から出て行った。外で待機している護衛官達が王妃たちを自分のフクロウに乗せて、彼らがソマール宮殿を後にした。


ダマールの向かい側にある島まで飛んでいくと、ファリズ達が迎えに来た。話し合いの結果を待っていたら、エフェルガンはありのままに報告した。しばらくしたら、ソマール海軍はダマールに向かってクライワ達を攻撃し始めた。一方的な攻撃でクライワとその部隊が慌てて船や飛行船に乗ってダマールを後にした。エフェルガンが合図を出して、全員戦闘準備に入った。クライワ達がソマール国の領土から出て行った瞬間、連合軍の空軍の兵士らが一斉に攻撃し始めた。地獄の犬ケルズは突然動き出して、一つの大型飛行船に向かった。


「クライワはその中にいるぞ!」


ファリズがいうと、ガレーは素早くケルズを追って、その飛行船に向かって飛んでいく。


「ガレー、返事して!」

(ローズ様!我が父の敵を討たせて下さい)


ガレーの返事をエフェルガンに伝えたら、彼がうなずいた。


「構わんと、ガレーに伝えて」


エフェルガンの言葉をそのままガレーに伝えた。


「ガレーにバリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」


ガレーに支援をしてから、エフェルガン達にも支援をした。


「ローズはダルセッタと一緒にいて!ハインズ、ダルセッタの背中に乗って、上でローズの護衛を頼む!」


エフェルガンがいうと、ハインズが素早く自分のフクロウを捨てて、ダルセッタの上に乗った。相棒のエファインはハインズのフクロウを回収して、比較的に安全な位置に移動した。エフェルガンと空軍の兵士らは飛行船より上に飛んでいったが、そのまま上陸せず、エフェルガンの指示を待っている。エフェルガンは術破壊魔法を唱え、敵部隊の飛行船の上に付けられた魔法陣を破壊した。術が破壊された時の音が大きく、パチパチと遠くにいるローズにも聞こえてきた。


ガレーはケルズが示した飛行船に乗り込んで、中にいるクライワとその部下達との激しい戦いになった。ガレーが今まで見せたことがない技の数々、鮮やかに決まっている。怒りに満ちる目でありながら、一流の暗部としての冷静さが、彼の理性を制御している。ローズは、ガレーと一緒に飛行船に入ったエフェルガンの目で見た映像だったけれど、戦闘の凄まじさが分かる。エフェルガンも、ガレーも、ケルゼックたちも、敵のと激しい斬り合いの後、やっと船を奪うことができた。


ガレーは激しい戦いの後、大怪我したクライワを生きたまま捕らえることができた。ファリズはケルズを帰した後、ガレーの毒によって気を失ったクライワを縄で縛った後、袋に入れて、ポポの貨物籠に詰め込んだ。ガレーは親の仇を取りたかったらしいけれど、どうしてもクライワの情報も必要だとしたから、クライワを生かした。


多分ガレーがものすごく我慢している、とローズは思った。


奪われた飛行船は、上に乗って破壊活動した兵士らによって、バランスを失って、結局炎に包まれて海に墜ちた。一件落着だと安心したところだったけれど、ハインズが示した方向を見ると、ローズは一瞬で息が止まった。エフェルガンに知らせなくてはならない。


「エフェルガン!ソマールが攻撃されている!」


さっきまでローズたちがいたソマールの国の首都ソマーレから黒煙が見えている。かなり破壊されて、ソマール軍の抵抗も意味がなかった。


「ソマールが?」


エフェルガンは降下したダルセッタに乗り移った。ハインズは相棒のエファインが連れてきたフクロウの上に飛び移った。


「あれは・・」


エフェルガンの言葉が止まった。目の前にはっきりと紋章が見えている。モルグ王国の紋章だ。ソマール王国は為す術もなく、モルグ王国によって短時間で壊滅状態になった。その数は今までみたこともない数だ・・50機を越えた大部隊で、強力な光線を放って町を焼いている。モルグ王国の大飛行部隊が東の空から現れて、雲に隠れて移動したようだ。


ローズ達はそのままファリズのところへ戻った。


「兄上、そのクライワと王妃達をエスタバールまで送って下さい。お願いします。僕たちはここにいます。何してもあれを食い止めなければならないのです!ここの次はエグバドールとスズキノヤマかドイパに行くのだろう」


エフェルガンがファリズにお願いすると、ファリズはうなずいた。


「任せろ!応援も呼んでくる」

「ありがとうございます!」


エフェルガンはファリズに手を胸に当てた。これは敬意を示すためのもので、死ぬ覚悟でもある。ローズはただ黙って、ファリズを見つめている。


「弟、無理するなよ。しばらく俺の妹を頼んだぜ」

「はい」


エフェルガンはうなずいた。しかし、彼が分かっている。今の状況は今までとは違う。モルグの大部隊を目の当たりにして、やはり簡単に倒すことができないと判断したのだろう。騎士団の者や護衛官たちの顔にも死の覚悟が見えている。


「神よ、我々に勝利を与えたまえ!」


ジャタユ王子は両手を上にあげて、祈った。それを見たファリズは少し考え込んでから、一人の兵士を呼んで、兵士がポポの上に乗るように命じた。王妃達もポポに乗せて、ファリズは兵士に何かの伝言を託して、あの移動するための魔法を唱えた。光の円が現れると、兵士がその中に入って消えた。あのパララが攻撃されていた時の夜も、ファリズは同じ魔法で彼らをメジャカからパララまで送った。一瞬で場所の移動ができる恐ろしい魔法だ。


「俺は弟と妹と従兄弟を失う訳にはいかねぇ!ともに戦うぞ!」


ファリズが大きな声で言うと、エフェルガンの顔に笑顔が現れた。


「皆!絶対勝つぞ!」

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


エフェルガンの言葉に、兵士たちが一斉に大きな声を出した。ローズも、食料なしでも頑張って、この戦争に勝つ!、と思っている。


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