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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
スズキノヤマ編

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158/811

158. スズキノヤマ帝国 権力と政治(11)

発動した魔法陣の上にいたエファインが消えた。


その魔法陣の上に一個の魔石があった。


エファインのだ!


ハインズが部屋に入ろうとしたけれど、ミルザが素早くハインズを制止した。


「ハインズ!そこにいて!」

「ローズ様!」

「良いから、そこにいて!来ないで!」


落ち着くんだ、とローズは自分自身に言い聞かせた。彼女のために、エファインがためらいなく魔法陣のど真ん中に飛び込んで、彼女を救った。彼女の大切な盾であるエファインは今、魔法陣のど真ん中にあって、その赤い魔石の中にいる!


まず、あの魔石を取らないといけない。何かあったら、彼を救うことができないのだ。けれど、武器は短剣しかないから届かない。ローズは魔法の武器である鞭を出して、硬くした。


けれど、その瞬間、ローズが気づいた。これは基本的にファリズがあのハンカチで硬くした技と同じだ。


念じれば、どんな物でも硬くできるのではないかとローズが思う。けれど、今そのようなことを関心している場合ではない。エファインを救出するのが先だ、とローズは蔓をにぎって、思った。


硬くした鞭をゆっくりと魔法陣の中に入れた。バリバリと焼かれた音がする。魔法に反応したのかもしれない。けれど、あの魔石をなんとか陣の外へ出さないといけない。息を呑んで、慎重に手を動かし、ゆっくりと・・ゆっくりと・・動かして、なんとか・・あと少しだ。ハインズもミルザもジャワラも、息を呑んで、エファインが入っている魔石を見ている。しかし、外で騒がしい音がした。他の護衛官達は戦っているような声がした。護衛官パトリアと護衛官タスディックの声が聞こえて、危険を知らせてくれた。


なんとか、やっとエファインの魔石が陣の外へ出た。ローズの身長でそこまで行くには少し難しいから、再び鞭を動かしてゆっくりとこちらに寄せている。


「モルグ人剣士がいる!ハインズ殿、ローズ様はまだか?!」


護衛官タスディックの声が聞こえた。なぜここにモルグ人剣士がいるのか、分からない。ここは宮殿とほぼ目と鼻の先の距離なのに、とハインズも焦った。


「エファインをとった!ハインズ、今からそちらに行く!」

「ローズ様、危険です!」

「分かってる、でもここからでないと、この煙にやられる」

「では、どうしたら・・」

「術破壊をしないといけない・・ゴホゴホ」


ローズは袖で鼻と口を隠し、煙をふさごうとしたけれど、あまり効果がない。エファインの魔石をなくすと困るから懐へ入れた。


しばらくそこで我慢して、エファイン。後で必ず助けるから!、とローズが思った。


「そうだ、殿下だ!誰か殿下に連絡しろ!」


ハインズの命令に、護衛官ジャロットが返事して、直ちに屋敷の外へ出て行った。外はどうなっているのか、ローズは分からない。リンカもどうなったか分からない。かといって、扉の前にあんなに大きな魔法陣が設置されると逃げられない。窓がないこの部屋は出入り口はその扉しかない。瞬間移動でさえ、あれに引っかかるから、今が無理。術破壊をしないといけないが、煙で息が苦しい。扉が開いたおかげで少しマシになったけれど、まだ気分が悪い。咳が止まらない。


術がまだ発動している。ハインズが焦って他の方法を考えている。そして彼はパトリアを呼んで、壁を爆破するように頼んで、パトリアを攻撃しているモルグ剣士にハインズが相手になり変わった。


「ローズ様!今から壁を破壊するから、絨毯の後ろに隠れて下さい!」


パトリアは壁に何かを施し、術を構えている。そのパトリアを阻止しようとした衛兵や屋敷の者に、ジャワラとミルザが応戦してパトリアを守っている。


ドーン!


大きな爆発音とともに、壁のがれきが中に飛んできた。ローズは絨毯の後ろに隠れたから、飛び散った破片に当たらずに済んだ。でも煙とともにホコリも舞う。


「ゴホゴホゴホ」

「ローズ様、大丈夫ですか?!」

「あ、うん、ゴホゴホゴホ」


苦しいけれど、なんとか大丈夫だった、とローズが思った。彼女が四つ這いをしながら、絨毯の後ろからパトリアがいるところを目指して移動した。パトリアとジャワラは慎重に壁を壊して、パトリアが壁から入って手を伸ばしてくれた。良かったことにそこは魔法陣の外側で、ローズ達が安心していけるようだ。


「ロース様、再び絨毯の後ろに隠れて下さい。壁の穴を広げます!」


ジャワラがそう言いながら、パトリアと交代した。ローズは言われた通り、掛けられた絨毯の後ろで隠れた。


バーン!バーン!ドッカーン!


護衛官ジャワラの拳が壁を破壊した。手に怪我をしているけれど、ジャワラの手に魔法をかける余裕がない。壁の穴が広がったから、パトリアが部屋の中に入って、絨毯の後ろで隠れて四つ這いしているローズを見つけた。


「ローズ様、失礼します!」


パトリアはローズを抱きかかえて、急いで部屋の外に出た。外に出るとハインズ達は激しい戦いの最中でかなり苦戦している。ジャワラはこの場所から移動しようとしたけれど、ローズが阻止した。どこかに他の魔法陣が設置されている可能性があるからだ。リンカとアマンジャヤの安否も分かっていない今は油断ができない。


「ゴホゴホ!マルチロ・・ゴホゴホ!」


まともな呪文すらできない。集中できなくて、ハインズを助けることができない。


「ローズ様、今無理をしてはいけません。煙から離れて、居間に移動しましょう」


パトリアの提案にジャワラが賛成した。彼はローズの前に立って、ハインズにローズが無事であることを告げて、移動を試みている合図を出した。ハインズがそれを理解して敵を抑えようとしたけれど、敵もこの奥の部屋周辺からローズ達を出すつもりがなさそうだ。


バーン!


別の部屋から爆発音が聞こえた。ふっとみると虎サイズの大きな黒猫がいた。


リンカだ!無事でよかった、とローズがホッとした。しかしリンカの背中に倒れているアマンジャヤがいる。彼がびくっと動かなかった。


「ローズ、無事?」


大きな黒猫のリンカが近づいた。


「うん。リンカとアマンジャヤは?ゴホゴホゴホ」

「私は大丈夫だけど、アマンジャヤは意識不明よ。毒にやられたようで、早く解毒を飲まさないと、死ぬわ。もう体が冷たくなってきてるから」

「ゴホゴホ、それはまずいよ」

「ここを長くできないわ。誰かアマンジャヤを運んで」


リンカの言葉で、ジャワラがリンカの背中からぐったりとしているアマンジャヤをとり、アマンジャヤのおなかを肩に乗せた。アマンジャヤの両足をしっかりと支えて固定した。リンカは再び人の姿に戻りスカートを手で裂いた。そして足に隠した武器を両腕に装着して、剣のグリップをしっかりと握った。


「行くわよ。準備は良い?」

「はい!」


リンカの質問にジャワラとパトリアが揃って答えた。そして凄まじく冷たい殺気を出して、一瞬の早さで次々と敵を切り裂き、道をあけた。


居間に着くと護衛官レザと護衛官ファルマンが戦っていることをみて、リンカの合図に合わせて素早く交代した。そして、リンカは敵の首をざっくりと切った。リンカの動きがとても素早く、鮮やかで、言葉通りの美しい死神の舞いである。居間から屋敷の外へ通じる扉が閉まっていて、開かないから、アマンジャヤの体をファルマンに任せてジャワラが再び扉破壊に試みている。もうその拳は血だらけなのに、痛々しい。


バーン! バーン!


扉を叩いたら、なんと外側から先に扉が破壊された。居間に現れたのはあの人だった。


「エトゥレ!」


エフェルガンの暗部、エトゥレが駆けつけて来た。


「ローズ様! さぁ、出ましょう!」


奥からハインズとミルザ達が駆けつけて合流した。エトゥレに案内されて、ローズ達がやっと屋敷の外に出た。けれど、外は敵だらけだ。


少なくても味方に見えない人たちだ。ともにお茶会をしている貴族達だと思ったが、違ったかもしれない。どうみても、その構えは殺し屋の構えだ。最初からこのお茶会はローズを殺すための罠だった。


後ろから凄まじい早さのリンカが駆けつけて、飛び込んだ。そして両手で巧みに技を連発して、次々と庭にいる暗殺者を切っている。男でも女でも、立ちはだかる者すべて、リンカは構わず、斬り殺した。とても鮮やかに動いて、思わずローズが見とれてしまう。本当に一瞬の早さで、人の首って簡単に飛んでいくものか、と疑問に思ったぐらいだった。


「ローズ!」


屋敷の外から声が聞こえている。エフェルガンだった。彼は庭の中に入ろうとしたが、何かに弾かれた。


「結界が張られている!」


エフェルガンが大きな声で知らせてくれた。彼は大魔法を構え始めた。あの術破壊の大魔法だ。


「皆、大魔法が来るよ!」


ローズが叫ぶと、ハインズ達は彼女の周りに来た。リンカはまだ攻撃している暗殺者達と戦って、激しく斬り合っている。


エフェルガンは呪文を唱え終わり、空中に大魔法の陣が現れた。魔法陣はゆっくりと下へ降りて、パチパチと音をしながら屋敷全体の術を破壊している。地面に到達すると、物が壊れたようなパチパチの音をした。ローズをかばってくれたパトリアとジャワラが周りを見て、確認した。敵の術が敗れた瞬間、エフェルガンが急いでそばに来て、オレファ達にリンカの手伝いを命じた。ガレーも見えてきて、ローズの具合確認したけれど、ローズはアマンジャヤが優先だと言った。ぐったりと動かないアマンジャヤを見ると、ガレーの顔色が変わった。そして首を振った。そんな・・。


「さっきまでまだ生きているんだよ?」

「ですが・・もう脈がありません。息もあありません」


ローズは力をしぼって、パトリアの手から降りて、庭の地面の上に横たわったアマンジャヤを診て確認した。確かに脈も息がない。でも・・まだ死んでない・・多分。確信がないけれど、今ならまだ救える気がする、とローズは思った。


「ガレー、心臓マッサージをして」


ガレーは言われた通りにしてくれるけれど、アマンジャヤの体が冷たい。毒が回ったのだ。毒を追い出さないとならない、今すぐに!


ローズは第三の目を発動し、力を集中した。アマンジャヤの唇が青くなっていく。まずいと思って、アマンジャヤの足から気を流して、無理矢理血液を体内に回す。


「ローズ! もう無理をしないで」


エフェルガンが心配して駆けつけてきた。


「今無理しなければ、アマンジャヤが本当に死ぬ!手伝えるなら、回復魔法をかけて下さい。パトリア、火属性の気を流してちょうだい」


ローズの指示に、パトリアが動いて、冷たくなってきたアマンジャヤの体に火属性の気を流し始めた。エフェルガンは周囲に突撃の命令をしてから、パトリアの隣で回復魔法をかけた。


体内で止まってきた血液が動き始めた。ガレーはまだ一所懸命アマンジャヤに心臓マッサージを行っている。動き始めたから少しずつ、毒成分を体内から出さないといけない。アレイヤの時よりも、今回はそんな単純な毒ではなさそうだ。かなりきつい。でもやらないと、アマンジャヤが死んでしまう。もし彼を救うことができないと、きっと自分がとても悔しくなるでしょう、とローズはそう思いながら必死にアマンジャヤに魔法を送った。


「ゴホゴホゴホ」


ローズが咳き込むとエフェルガンが心配した目でみている。


「ローズ、もう無理をするな」

「ダメ、ゴホゴホゴホ、絶対に助ける!」


毒が・・もう回っている。もっと集中しないといけない。ミリ単位の細胞の一つ一つ毒を見つけて追い出す、それをしながら気で血液を回す。もっと集中しないと・・、と彼女が思った瞬間、体が恐ろしく光り出している。自分がまぶしくなるぐらい分かっている。もっと毒を出さないといけない・・強く念じて、アマンジャヤの口から黒い血か液体か出ている。


「誰か、アマンジャヤの頭を横にしてその毒が外へ流れるようにして」


ローズがいうと、ガレーが素早く動いてアマンジャヤの顔を横に向いているように調整した。そしてまた心臓マッサージをする。


「心臓が動いた」

「・・おえええっ!」


アマンジャヤの口から大量の黒い液体が流れてきた。血が混ざって、とてもくさい匂いだった。


「全部吐き出して!」


ガレーがアマンジャヤの向きを変えて、吐き出せるように背中をさすりながら手の平から回復魔法を送っている。ローズはひたずらアマンジャヤの体内から毒を追い出して気を送り続けていて、とても細かい作業をしている。


「うぐ」


今度まずい状況に墜ちたのがローズである。口から血を出してしまった。ローズも毒に犯されているのだ。


「ローズ、もうやめろ。アマンジャヤはもう生き返ったんだ、もう魔法をやめろ」


エフェルガンはローズを止めようとした。だが、まだ・・。


「ローズ様、これから毒消しを飲ますから、もう魔法をやめても大丈夫ですよ」


ガレーは優しい声で私を止めた。


「でも・・」

「アマンジャヤの一族は毒とともに生きているのです。彼らの体に毒に対する免疫力が高いので、大丈夫ですよ。これから一族の長を宮殿に召喚するから、毒消しを作ってもらいます」

「できるの?」

「はい、ですからもう心配は要りません」

「良かった」


ローズは魔法を止めた。


「ゴホゴホゴホ」

「それよりも、ローズ様も毒にかかっています。リンカさんもです。早く解毒を飲まないと、大変なことになります」

「リンカも?!」

「はい、あの汗は何よりの証拠です。彼女は痛みを耐えながら、戦っているのです」


それを聞いたエフェルガンは剣を抜いて、リンカを呼びながら、敵を相手にした。


「リンカ、もう休め!ローズと一緒に毒消しを早く飲め!」


エフェルガンの呼びかけにリンカはうなずいて、直ちにローズの近くに来た。ガレーの言ったとおり、すごい汗だった。服もぼろぼろで、無惨な姿だ。


「大丈夫か、リンカ」

「ええ、なんとか」


ガレーはハインズ達に直ちに宮殿へ戻るように指示した。エフェルガンとケルゼック達は次々と暗殺者を片づけて、暗部や兵士を命じて、屋敷を制圧するように、と。本当は聖属性の浄化の雨を降らしたいが、ローズの体力も、魔力も足りない。


「ハインズ、エファインは?!」


エフェルガンはエファインの存在がいないことに気づいた。ハインズは首を振った。ハインズの答えで、エフェルガンの顔に怒りが表れて、次々と敵を殺し、魔法で複数の敵をぶっ飛ばした。


ローズと護衛官らとリンカとアマンジャヤはガレーと一緒に宮殿に向かって、そのまま医療棟に運ばれた。慌ただしい医療師と看護師達は、ぐったりとしているアマンジャヤと素早く寝台に寝かされる。嫌々と寝かされたリンカを囲んで、看護師らは靴や帯を解いた。


ガレーの命令でアマンジャヤの一族の長が現れて、アマンジャヤとリンカとローズの血のサンプルをもらって、分析した。毒に強いアマンジャヤがそこまで死にそうになったことで、今回の毒が特殊である可能性が高い、と彼が言った。


毒の特定と解毒の作成ができるまで、しばらくの間、ローズが寝台で横になる。隣のベッドにリンカが機嫌悪そうに横になって、顔に汗がたくさん出ている。リンカの隣の寝台で、アマンジャヤがずっと胃の中身を吐き出している。


親戚のアマンジャヤが毒にやられたという話が広がって、ハティが見えてきた。彼はとても心配そうにローズ達を見てから、アマンジャヤの顔をタオルで拭いた。皇帝陛下の毒味役達も、数人が見えてきた。彼らが全員親戚なんだ、とローズは驚いた。ある意味、すごい家業だ。一人が毒にやられたということは、彼らもその毒にかかる可能性もあるということだ。新種類の毒に対する情報が必要だ。毒味役にとって、命に関わることなので、とても真剣に受け止めた。


皇帝陛下も駆けつけて、見えてきた。心配してくれたのか、ローズの状態を医療師達に聞いて説明を受けた。ガレーと毒味役の長が解毒を作っていることを聞いてうなずいた。


皇帝はローズの近くに来た。ホコリまみれ顔に、血の痕もあって、しかも光っている。相当怪しかったのでしょう。皇帝は寝台に座って、無言で手をにぎっている。そして服がぼろぼろになったリンカを見て、黒い液体を吐いているアマンジャヤに視線を移した。


一人の男性が現れてきた。彼の服装から見ると暗部だとローズは思った。皇帝に近づいて、耳打ちをした。皇帝がうなずいて、ローズの頭をなでてから、無言で部屋を出た。


しばらくして、ガレーと毒味役の長が来た。ガレーはローズにできたばかりの毒消しを飲ました。苦いというレベルを超えた。激まずくて、苦い。それを飲むと、涙が出たぐらいだった。ローズはあまりの味にめまいがした。白湯がとても美味しく感じた。一人の医療師がリンカに毒消しを飲まして、リンカに毛布をかけた。多分、激しい戦闘によって服装がぼろぼろで、太ももが見えるぐらいスカートが上まで裂かれていて、周囲に障りがある、と思われるでしょう。それにリンカの名誉を守るためでもあるようだ。


アマンジャヤはやっと落ち着いて、長が作った毒消しを飲み、横になった。看護師らが、アマンジャヤが吐いたものを慎重に片づけてから清潔なタオルでアマンジャヤの顔や体に拭いてゆっくりと寝かせている。


次は護衛官達の体の傷の手当てだ。ジャワラの手に傷だけではなく、骨折とひびが入ったらしい。連続して、壁を破壊したためからだ。手にぐるぐると包帯で巻かれている。ハインズやミルザ達も、無事だけど、無傷ではなかった。彼らの体にも針で縫いつけられた傷や包帯、布宛など、とても痛々しく見えた。そう言えばエフェルガンを知らせに来たジャロットはどうなったか、とローズがハインズに尋ねたら、別の部屋で治療を受けて、今寝ているという。ジャロットの背中に矢が刺さって、その状態のままで偶然にも近くに通ったエトゥレと出会って、助けられた。矢が背中に刺さったまま、エフェルガンに会って、状況を説明したことを、ハインズがローズに説明した。その矢に毒が塗られたため、ジャロットが一時的に意識を失ったらしいけれど、毒消しが効いたようで、意識が戻った。本当に助かって良かった、とローズは思った。


しばらくして、エフェルガンが医療棟に入ってきた。体に返り血の後がたくさんあって、結構怖い雰囲気だった。


ガレーの説明を受けて、エフェルガンがうなずいて、近くに座っている。隣のリンカのベッドにオレファがいて、リンカと会話している。


「気分はどう?」


エフェルガンは優しい声で問いかけた。


「さっきよりもずっと良くなったと思うわ」


エフェルガンは優しくなでてくれた。ローズの体の光が段々と治まってきて、消えた。


「良かった」


エフェルガンはローズの顔をなでてくれた。


「エファインのことなんだけど・・」


ローズが言うと、エフェルガンは悲しそうな顔した。


「遺体を探したけど、見つからなかった。ハインズによると、魔石にされて、あのどさくさに行方しれず、恐らくもう割れてしまったかって・・」

「うん、だから・・」

「エファインは優秀な護衛官だった」


エフェルガンは悲しそうな顔している。目に涙が見えている。


「うん、だから・・」

「エファインまでやられたとは・・」

「だから、話を聞いて!」


ローズが言うと、エフェルガンが見つめている。


「はい」

「エファインは多分死んでいないと思う」

「何?!」


エフェルガンは驚いて、大声を出した。周囲が二人を見つめている。


「だからさっきから言おうとしたのに、あなたはちっとも話を聞いてくれない」

「どういうことだ?」


ローズは身を起こして、寝台に座った。そして彼女は自分の胸の谷間から一つの魔石を取り出した。あの状況で、どの場所よりも確実にクッションになる所は胸の谷間だけだったから、そこに入れた。その魔石をエフェルガンに渡した。


「なんか生暖かい魔石だ。エファインがずっとローズの胸の間にいたのか?さっきから?」


エフェルガンは嫉妬している顔で、その魔石を見つめている。ハインズとケルゼックが思わず苦笑いした。


「うん。だって壊れてしまったら困るから、一番安全な所に置いただけよ」

「なんか、聞くだけでこの石を池に投げたくなるが・・」

「ダメよ。私の大事な盾だから、そんなことをしたら怒るわよ?」

「分かったよ。出せば良いんだろう?出せば・・」


口を尖らせるエフェルガンをみて、ハインズが視線を別の方向に向けて、にやっとした。ケルゼックも笑い出さないように必死に堪えている。二人のやり取りを聞いた医療師も、看護師も、毒味役達も、リンカも、護衛官達も、ローズとエフェルガンを見ている。呆れた顔した人がいれば、にやっとした顔をした人もいる。くすくすの声も聞こえている。


エフェルガンは魔石を床において、呪文を唱えた。そして破壊された魔石からエファインが現れた。弱っているけれど、怪我がなさそうで、そのまま医療師が別の部屋に連れて健康診断をする。


「ありがとう」

「どういたしまして」


エフェルガンは返事しているけれど、まだ口を尖らせている。


「うむ・・まだ嫉妬してるんだ」

「想像してしまったからだ。・・ローズの胸の間にエファインがいたと・・」

「考え過ぎよ。あれはエファインのせいじゃなかったし、そもそもエファインは私を守るために魔石にされたんだから、御礼を言うべきなのは私の方だよ」

「そうだな。あとでエファインに礼を言うよ」


エフェルガンはうなずいた。彼はもう嫉妬していないとローズは思うけれど、ちょっと心配だ。エフェルガンは優しく口付けして、そして立ち上がって、ハインズに指示を出した。その後、彼はケルゼック達と一緒に部屋を出て行った。


それからローズは宮殿の中にある個室に移動されて、ガレーの薬で数時間も眠った。


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