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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
スズキノヤマ編

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149/811

149. スズキノヤマ帝国 権力と政治(2)

公爵。


それはこの国の貴族位の中で皇家の次に高位の貴族である。権力も、財力も、そして領地の広さを表している名誉の証しでもある。中間位の伯爵と比べものにならないほどの影響力持つ位である。


今まで田舎貴族やみかん伯爵と呼ばれているモトレアにとって、公爵の位は夢の中でも考えたことがない事である。宮殿からの使者が帰った後、モトレアがまだしばらく石化状態で、話をかけられても反応しない。


「フォレット、どうしましょう」


ローズがフォレットに相談を持ちかけた。


「どうしましょうか、ローズ様」

「よく分からないけど、まず服装を準備する必要がある。公爵に相応しい服装はある?」

「少々古い服装ならあります。状態が良いだと思いますが、確認する必要があります」

「うん。今の内にお願いします。必要なら衣服問屋に来てもらう」

「かしこまりました」


フォレットは頭を下げて退室した。やっと我に戻ったモトレアは青い顔して、瞬いている。


「大丈夫?」


ローズが聞くと、彼はうなずいた。


「びっくりしてしまいました」

「うん。見事に石化したね」

「・・・」

「白湯を飲んだ方が良いかと」


毒味役のアマンジャヤと使用人が持ってきた白湯を差し出した。彼は白湯を飲んだけれど、なかなか喉に通らないようだ。


「落ち着いた?」

「はい。少し・・」


モトレアがうなずいた。


「モトレア公爵、おめでとうございます」

「あ、ありがとう・・ございます」

「そんな震えている声で答えたら、新しい称号が増えるよ。堂々と胸を張って返事をして下さい」

「はい!」

「よろしい。おめでとうございます」

「ありがとうございます!」

「よし!その調子だ」

「ありがとうございます!」

「うむ」


モトレアが完全に緊張して、かちかち状態だ。彼は気を失う寸前だったかもしれない。仕方ないので正気を取り戻さなければならない。買ってきたアルハトロスの焼き菓子を開けて差し出した。彼は一枚を取って、口に入れた。


「美味しいですね」

「うん。落ち着いた?」

「はい」

「もう一つどうぞ」

「頂きます」


美味しい焼き菓子を食べて、落ち着いてきたようだ。


「私はまだ信じられませんが、自分の位がこんなに上がってしまったことに、どうしたら良いのでしょうか」

「どうしたら良いかと聞かれてもねぇ・・」


ローズが椅子に座って、首を傾げた。


「そうですね・・」

「こうなった以上、やるしかないと思うけどね」

「はい・・」

「私だって、育ての親である領主の娘から、いきなり国の第一姫となった時はびっくりしたけれど、なんとかなった。そしてこの国に来て、勉強したら色々があって、その流れで旅をして、途中でまさかエフェルガン殿下との婚姻と結んでしまったことに・・。まぁ、皇太子妃になってしまった今、できることをするしかないよね」

「そうでしたか」


ローズの話を聞いたモトレアがうなずいた。


「陛下はモトレア公爵をエフェルガン側に置きたいと思ったから、このような行動に出たのではないかと思う」

「ローズ様、どうか今まで通り、呼びすてにして下さい」

「じゃ、人前だけ殿をつけようか」

「はい」

「でも、公爵で呼ばれることも、これから慣れないといけないね」

「はい・・」

「一応、フォレットに明日の晩餐会で使う服装を準備してもらっている。多分モトレアは貴族会に使う服装を持ってきてないと思うから」

「仰るとおり、この服と同じ服が二着ぐらいしか持って行きませんでした」

「うん。目的は報告だったからすぐ戻るつもりだったんでしょう」

「はい」

「モトレアはもう公爵だから、堂々と振る舞った方が良いと思う」

「ですが・・」


モトレアがまた戸惑っている。


「モトレアは何を背負っているの?」

「背負う・・」

「そう。自分が何を背負っているのか、と問う。私はアルハトロスの民を背負っていて、そしてスズキノヤマの民も今背負っているの」

「私はメジャカの民を背負っていて、そして・・それを加えてティカの民も・・」

「堂々と答えなさい」


ローズが言うと、モトレアがビシッと座って、息を整えた。


「私はメジャカとティカの民の両方を背負っています。この国を背負っています」

「よろしい」


ローズが微笑んで、彼を見ている。


「背負うものですか・・確かに今の言葉で私は我に戻りました。ありがとうございます」

「うん。ティカが消滅してメジャカの一部になったが、権力が変わっても、民の生活そのものは変わらない。領主が変わっても、農民は農民で今まで通り変わらない。商人も商人のままだ。それらの民を導くために努力するしかないんだね」

「はい」

「一つだけお願いしたいことがあるんだ」

「なんなりと」

「公爵になっても、今までと変わらないように、ありのままのモトレアでいて欲しい。みかん公爵と言われても、気にしないで特産品であるみかんを売って、売って、売りまくって下さい。メジャカの布も、これから新しい特産品があると思うから、惜しみなく努力して宣伝して欲しい。港もあるから、貿易がもっと自由にできるようになり、民も潤い、国も潤い、民の幸せを導いて下さい。ダナの元領主やキヌア島の元領主のような贅沢な生活をせず、今まで通りの生活をすれば、気分良く眠れるんだ」

「はい」

「賄賂しに来る人たちが出てくるけど、できるだけそれらの人たちを相手にしない。配下も数多くなるから、これから監督責任も大変になるんだけどね・・」

「はい」


モトレアがうなずいた。


「ダナで賄賂で滅んでしまった高位貴族がいたよ。結局彼らは首だけの姿になって、広場で見せしめのために晒されてしまった。自分が気をつけないと、そうなるんだと改めて緊張感をもって日頃忠実に仕事をすることが大事だ」

「はい」


モトレアがまたうなずいた。


「あぁ・・えらそうなことを言って、ごめんなさい。モトレアの方が仕事に詳しいのにね」

「いいえ、ローズ様の言った通りです。すべて真実だから、その通りです」

「理解してくれて、嬉しい。あとは、そうだな。子ども達にもちゃんと教えないといけないんだ。親の権力は自分の権力ではないと。キヌア島の前領主は自分の息子の行いで首を失ったんだ。だから、気をつけないといけない」

「はい」

「ダナの領主も母親の行いで首を失った。身内にも、ちゃんと目を配らないといけないんだ」

「そうですね。これからが大変ですね」

「うん。言いたくないのも一つあるんだ」

「はい?」

「こんなに早く出世したから、嫉妬する貴族も出てくると思うんだ。暗殺者も多分襲ってくると思う」

「それは困ります」


モトレアが困った顔をして、首を振った。


「うん。だからそれなりに腕が立つ護衛官をそばに置いた方が良いかも」

「はい」

「その立場になると、味方よりも、敵の方が多いんだ。悲しいけど・・皇帝陛下でさえ、宰相に裏切られてしまって・・」

「そう、ですね」

「うん。だからモトレアがこんなに仲良くなってくれたことに、殿下も喜んでいるんだと思うよ。遠征する前に、モトレアのことを色々と気にかけていたんだ」

「そうですか。大変幸栄に思います」


モトレアはまた焼き菓子を食べた。しばらくしたらフォレットが来て、数着のズボンと肩かけ布を持ってきた。とても質の良い服だけど、問題はサイズが合うかどうか、と。これらの服はエフェルガンの服ではなく、元々この城にあった服だった。昔の城主の持ち物だったと説明されて、きれいに保管されている。ローズは美しい青いズボンと肩掛け布をとって、モトレアに合わせてみた。結構合うと思うけど、どうだろうな、とローズは思った。


「モトレア、この服を試してみて」


モトレアはうなずいて、別の部屋でフォレット一緒に着替えに行った。しばらくしてフォレットが戻ってきて、首を振った。


「小さすぎました」


「あらま。こうしよう、フォレット、衣服問屋を呼んできて。モトレアのズボンを一枚借りて、その大きさのズボンと同じ大きさをありだけ持ってきて欲しいと」

「かしこまりました」

「布の種類もできるだけこれと同じぐらいで。金糸があるものが望ましいけれど、なければ仕方がない」

「分かりました。伝えてきます」


フォレットは頭を下げて退室した。モトレアは戻ってきた。


「もう無理をしなくてもよろしいですよ、ローズ様。私は自分の服で明日の晩餐会を挑みます」

「それは最後の選択ですよ。これから衣服問屋が来るので、モトレアのズボンの大きさに合うものがなければ、そうするしかない」

「恥ずかしいですが、もう払うお金がありません・・」

「お金は心配しなくても良い。エフェルガン殿下の命令もあるから、できることをやりましょう」

「ならば、あとで支払います」

「うーん。こうしましょう、私たちはいつかメジャカに行くので、その時メジャカの服や布で払って下さい。また美味しいみかんも欲しいからご馳走して下さい。メジャカの美味しい料理もまた食べたい、鶏肉のくし焼きとか」


それを聞いたモトレアは笑顔になった。商談成立だ、と彼がうなずいた。


その日の午後、荷物を持ってきた衣服問屋が来た。なんとか上品な服装一式があって、色合いも気品も良く、モトレアの肌色に合って、その服装にした。フォレットもそれに合わせて、きれいな履き物も買ってきた。これで、明日の準備ができた。ちなみにローズのための準備は元々この城にある服で済んだ。





翌日。


ローズはファリズと一緒にあの狩りの島に行った。雷鳥を探したけれど、なかなか大きな鳥がいなかった。仕方ないから、召喚術で呼ぶことにした。そう、ローズも召喚術ができるようになったのだ。エフェルガンの図書室で召喚術の本があるから、彼女がそれを勉強したのだ。なんとか術式を二枚用意できて、ファリズと一緒にゲオ島に出かけるわけだ。ハインズ達も一緒に来たけれど、突然のことでびっくりした。リンカは呆れた顔をしたけれど、何も言わなかった。


術を発動したら、巨大な雷鳥が現れた。ファリズは嬉しそうに、それをみて一人でさくっと倒した。そして雷鳥の目玉から雷鳥石を取り出した。二枚目の召喚は巨大三つ目猿だった。これもファリズがさくっと倒して解体して、リンカが調理した。数時間をかけて、やっと本日のご馳走ができた。召喚すること以外なにもやることがなかったローズが不満だったけれど、ハインズはとても安堵した様子だった。片づけが終わると、ローズたちは早速ヒスイ城へ戻った。


ファリズは雷鳥石を持って武器手入れの研ぎ石を借りて、ポポの隣に座り、その石を研ぎ始めた。モトレアは明日ここから発つため、ファリズは何かを作りたかったかもしれない。昼餉はさっき調理した三つ目猿の肉をそばにおいて、もぐもぐしながら石を研いでいる。


ローズは三つ目猿の肉をもって、城で荷造りをしたモトレア達と昼餉を誘った。モトレアも配下の二人も当然だけれど、三つ目猿という猛獣を見たことがない。しかし、要注意猛獣の図鑑では載っている、とモトレアが言った。ローズが机の上にある料理が三つ目猿の肉だったと教えた時、彼らはびっくりした。震えた手で恐る恐る一切れをとって、食べたら、一瞬で頬がゆるんだ。


「美味しい・・」


彼らは今日の昼に食べたものを一生忘れない味になるでしょう。ファリズからの祝いご馳走だ、とローズが言った。


午後になって、高位貴族らしくなったモトレアは城の庭に現れた。そして少し遅くなったローズも準備ができた。エフェルガンからもらった短剣とあの雷鳥石のベルト飾りも付けた。皇太子妃の首飾りも着けた。リンカは護衛官の服装で一緒に行くことになった。今日の護衛官の数が多く、10人もいるだ。モトレアの配下も入れると12人になる。日が暗くなるため、どうしてもこのぐらいの体制でないと危険だとハインズとジョルグが判断した。


ヒスイ城から宮殿に行く道は順調だった。ローズたちは無事に宮殿に到着して、晩餐会場へ案内された。ローズたちの他には他の貴族も多数出席した。でも本当のことを言うと、ローズは誰が来たか、さっぱりと分からなかった。貴族会に出たことがないので、誰一人も知っている人がいなかった。パララの領主パレマンタはパララのこともあって、大変忙しいから欠席したと聞かされた。


「あらやだ、疫病神が現れたわ・・」

「シッ!聞こえたらあなたの首が飛びますわよ」

「あら、怖い怖い・・」


どこかに聞こえているヒソヒソな声で、ローズを噂にしている。


疫病神か・・、とローズはため息ついて、聞いていないふりをした。ダナの貴族達が彼女のことを疫病神だ、と噂にしていた。リンカは不機嫌な顔になったけれど、ハインズがリンカに抑えるようにと耳打ちした。


「あのみかん貴族が公爵になったって・・きっとあの疫病神に賄賂を送ったのよ」

「賄賂?みかんで?」

「他にはないでしょう?」

「そうですわね。あなたもみかんを送ったら公爵になられるかもしれませんよ」

「そうだな。どこのみかんが良いか、あとで調べよう」


また下らない会話が聞こえている。今度はモトレアが目を閉じて、自分を冷静にしよう、と努力している。


「ローズ様、申し訳ありません・・私のためにそのような噂にされてしまわれて・・」

「ううん、気にしない。それ以上のひどい噂もあるから、あのぐらいはかわいい方だよ」

「そうですか・・」

「モトレア殿こそ、大丈夫か?」

「はい」

「堂々として下さいね」

「はい」


会場に案内されて、ローズは用意されている椅子に座って、皇帝陛下を待っている。飛び交う噂を耳にしながら、何もなかったかのような笑顔で、挨拶に来た人たちに振る舞った。本当に仮面を被っているような感覚だ。これは政治のやり取り場だから、ローズはエフェルガンの代わりに出席したのだ。首飾りでローズの立場を一瞬で見抜いてしまった貴族達はまた噂をしている。公式発表がないから、ますます変な噂になってしまった。それでも、聞かないふりをしているのが大人の対応だ。図々しくエフェルガンの側室に娘を送りたい人もいたけど、エフェルガンの言いつけ通り、必要ないと答えた。毅然と振る舞って、ローズはただ微笑みながら前を見ている。エフェルガンが戦場にいる今、ローズは彼の代わりに今政治的な戦いを挑んでいる。


皇帝陛下が見えてきて、全員頭を下げて敬を表している。挨拶の場を設けられ、ローズは微笑みながら、玉座に座っている皇帝の前に挨拶した。


「父上、晩餐会のお招き、ありがとうございます」


それを聞いた皇帝は大きな笑みしてローズを見つめている。


「ローズ、エフェルガンの留守中に大変だろうが、困ったことがあったら、余に相談するが良い」

「はい、父上。いつも気にかけて下さって、感謝致します」

「良い、良い。今宵は大いに楽しむが良い」

「はい」


そんな短い普通の親子の会話だったが、会場が一瞬で凍り付いた。さっきまでローズの悪い噂をした人々が、言葉を失ったかのように静かになった。


次々と貴族達が挨拶して、最後に名前が呼ばれていたのはモトレアである。モトレアは緊張した様子で挨拶をしたら、皇帝は立ち上がって、自分の剣を抜いた。モトレアは皇帝の前に跪いて、忠誠を誓った。すると、皇帝はその剣をモトレアの頭の上に置いて宣言した。


「モトレア公爵、本日付でその方は新メジャカ地方の支配と管理を任せた。その権力で、メジャカの民を頼んだぞ。この国のためにも励めよ、モトレア」


皇帝がその言葉を言った後、モトレアは息を整えてまっすぐに皇帝を見ている。


「はっ!命に代えても必ず役目を全う致します!」

「ふむふむ。良い。期待しているぞ」


皇帝はその剣を再び鞘に収めた。


「さぁ、皆の者、新公爵のモトレアに祝いをするが良い」


皇帝が言ったら、貴族達は拍手をして、おめでとうと祝った。所々ざわめきが聞こえているけれど、モトレアは微笑みながら手を胸にあてて、感謝を表している。当然、不満な声もひそひそと聞こえている。


「そうだ、モトレア」


皇帝は玉座がある所からモトレアに近づいて歩いている。


「メジャカのみかん、うまかったぞ」

「ありがとうございます。メジャカの農民たちが、陛下のお言葉を聞いたら、大変喜んでくれるのでしょう。とても幸栄でございます」


皇帝はうなずきながら笑って、食事の準備されていた所へ足を運んだ。各椅子に名前があって、使用人たちが彼らを案内した。ローズの椅子は皇帝の隣にあって、モトレアの椅子はその机の向い側にある。


数々の料理が運び出されて、毒味役も忙しく仕事をしている。安全宣言だされて、陛下は祝杯を高くあげて乾杯をした。ローズはお酒を呑まないので、代わりにジュースで祝杯をした。モトレアもお酒をあまり呑まないように気をつけているようだ。こんなところで失言でもしたら、身を滅ぼしてしまうからだ。


隣の貴族はモトレアの服装をとても気品が溢れるものだと褒めた。モトレアは照れながら感謝の言葉を言うと、その貴族がモトレアにその服装をみかん何袋で買ったかと尋ねたら、モトレアは微笑んだだけだった。そして逆にそこまでみかんのことが気になるなら、後でメジャカから送っても良い、とモトレアは答えた。近くに座ったローズは、モトレアが怒ってしまうかと心配したけれど、彼は本当に忍耐強い人だ。嫌みの言葉は彼にとって、大した問題ではなかった。もう慣れてしまったかもしれないけれど、彼は何が大事なのか、分かっているようだ。背中に背負う民を思うからこそ、そのぐらいの嫌みは痛くもかゆくもないでしょう。隣に座っている皇帝は、その会話を見ているけれど、何も言わなかった。


食事をしながら、貴族達が楽しんで料理のおいしさを褒めながら、会話を楽しんでいる。時には謀叛の話題をする人もいて、この間の事件を真剣に話し合う貴族達がいる。またローズとエフェルガンの結婚について、なぜ正式な発表がないという話題もあったけれど、皇帝はまだ調整中だと答えた。ローズが聞かないふりしながら食事を楽しんでいるけれど、皇帝はそれを気づいた。たまに声をかけながら料理をすすめてくれた。


食事の時間が終わり、音楽に合わせて踊る貴族もいる。皇帝は自分の玉座にもどり、何人かの貴族と会話している。ローズはおとなしくソファに座り、音楽を楽しんでいる。ここでもまたエフェルガンの側室として娘や姪を送りたいと言った貴族達がいる。ローズはうんざりしたけれど、顔に出さずに笑顔で対応した。要らない、と。本当に疲れた、とローズがそう思いながら、微笑んだ。


皇家であるスズヤマ家はこれからが大変だと意見をした人がいる。哀れだと言った人もいて、お家断絶になるかもしれないと言った人もいて、わざとローズに聞こえるように言った。ハインズはかなり険しい顔になったけれど、何も言わなかった。リンカも黙っている。このような難しい立場にいるとエフェルガンはどのような対応をするのでしょう、とローズは思っている。


少しうつむいてしまったローズの元に、一人の年老いた男性が現れた。名前はレンドラ公爵だ、と彼が自己紹介した。名門貴族で、かなり大きな影響力を持つ人物だと後からハインズに教えられた。レンドラ公爵はアルハトロスの焼き菓子が好きだと言って、親しげに話をかけてくれた。アルハトロスの事に興味があると言って、家業である絨毯の商売をアルハトロスでの販売の可能性を探っている。確かにスズキノヤマの絨毯がとても質が高い。色もきれいで、ふかふかしている。日頃絨毯の上で生活しているアルハトロスの人々にとって、絨毯はとても大切なものである。しかしあまり値段が高いと、一般市民は買えないと答えた。アルハトロスでは貴族がほとんど滅んでしまったため、王家はもう存在しない。最後のアルハトロス王朝はローズの母であるフレイだけだ。異世界から来たローズの父であるダルゴダスは日頃武人だと言った。経済力もばらつきがあって、お金持ちは大体商人か大臣ぐらい、とローズは丁寧に説明した。レンドラ公爵はうなずきながら、物価調査をしてから商売を検討したいと言った。レンドラ公爵は別れる前に、またいつかゆっくりとお茶を飲みながら会話がしたいと言った。とても紳士的な人だ、とローズが思った。


数時間後、やっと長い晩餐会が終わって、ローズはモトレアとともに陛下に挨拶して、ヒスイ城へ帰ると告げた。皇帝と別れて、宮殿の外に出ると、護衛官達が真剣な顔で警護している。もう夜が遅いから、大変危険だとジョルグが言った。


エファインとともにフクロウに乗り、移動して、首都に出たあたりで、ハインズが険しい顔で、隣に飛んで来た。


「ローズ様、暗殺者です。囲まれています」


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