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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
スズキノヤマ編

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141/811

141. スズキノヤマ帝国 ティカの罠(2)

ティカの首都、カラトアが見えている。


しかし、ローズたちはこれ以上動かない。なぜなら、ローズがエフェルガンにストップをかけて、これから雨を降らすからだ。すでに雨雲を集めているから、後少しで雨が降る。黒くなった雨雲に雷も出始めた。そしてカラトアの町の上にぽつぽつと雨水が落ちてくる。


「いにしえの聖なる神、聖龍の名の元に、ローズが命じる:我に力を与えたまえ!」


聖属性の起動準備が整えた。


「ホリー・レイン!」


雨水の一粒一粒に聖属性を乗せて降らす。これは町の中にあるすべての魔法陣や術式を消して無にする浄化の雨だ。雨が降ることとともに、フクロウの上からエフェルガンは術を破壊する大魔法を唱え始めた。すると空中に町を丸ごとすっぽりとふたをするような大きさの魔法陣が現れた。その魔法陣がゆっくりと地上へ降りていく。浄化の雨とともに、術破壊魔法がカラトアの町を包み、すべての魔法の罠を消していく。


これらの魔法がローズとエフェルガンしかできない大技だ。聖龍様の加護を受けたエフェルガンの魔力も最近強さが増している。このような大きな町を包むような大きな魔法陣を唱えられるほどの強さだから、彼の魔法のレベルは間違いなく世界でも高位に入るのでしょう。


術破壊魔法が町の建物に触れる瞬間、パチパチと大きな音がした。数キロの距離からでもはっきりと聞こえた。どれだけ町の中に罠が仕掛けられていたか、その音を聞くだけでも分かる。恐ろしい音だ。兵士らは息を呑んで、この異様な光景をみている。地上にいる陸軍でさえ動かない。大きなパチパチな音とともに術破壊の魔法陣が地面に到達した瞬間、地面がかなり揺れた。恐ろしい。


雨がまだ激しく降っているが、カラトア町の人はどうなったか、気になるローズであった。ここからでは遠すぎて見えない。しかし、やはり何の動きがなかった。これほどの大きな衝撃でも動きがないということは、町が無人状態か、無人になってしまったか・・あるいは事前に民をどこかに移動された、ということも考えられる。一番考えたくないのは、もうすでに魔石にされてしまったことを、そういう可能性も否定できない。この最後の可能性をできるなら考えたくないのだ。


「エフェルガン、町に人が慌てて混乱する様子が見える?私の目よりもあなたの目の方が良いから見えるなら教えて」


リンクで前にいるエフェルガンを連絡した。


(何も・・、そのような様子がこちらからでも確認できない)

「おかしいね。やはり無人なのか?」

(その可能性がある。かと言って兵士の命を危険にさらすわけにはいかない)

「その通りだね。どうする?」

(カラトアは無人で、罠があると考えた方が良いだろう。もうすぐ暗くなるから明日また調査するか。我々はこのまま北へメジャカとの境町レトネアへ征く!)

「分かった」


エフェルガンが合図を出して、ローズたちは方向を変換して北へ進む。途中で探知魔法も発動して確認したが、潜伏した部隊が見あたらなかった。本当に不気味だ。


上空からレトネアが見えている。念のため、また雨を降らし、聖属性の魔法で浄化の雨で汚れた大地をきれいにした。エフェルガンも術破壊魔法を落とした。レトネアは小さな町だからそれほど大きな魔法陣が必要なかった。ここでは住民達がパニックになった様子が分かった。やはりカラトアと全然違う。この反応を見るだけで、カラトアが無人であることが分かった。


エフェルガンは将軍にトロッポの国軍部隊とレホマの国軍部隊に連絡をするように命じた。どうやらリリトではなく、今夜はこのレトネアかメジャカで野営をする可能性が出てきた。


30分間に雨が降り続けた後、きれいな虹がでてきた。雨が止んだこととともに、ローズたちはこのレトネアの町に着陸した。レトネアに着陸すると、まったく抵抗がなかった。


予想通りだ。ローズたちが見えてくると、町の人々が隠れてしまった。皇帝陛下の旗が見えたとき、一人の中年男性が現れて、震えながら濡れた地面に跪いて平伏した。町長だそうだ。町長は忠誠を誓い、町へ案内したけれど、エフェルガンはローズに探知魔法の発動を頼んだ。早速かけたが、武装した者が見当たらなかった。本当にこれが謀叛している地域の人々なのか、疑いたくなるほどの実態だ。


ローズたちはレトネアの町広場まで足を運んだ。雨でぬれている町だけれど、とてものどかで、美しい町だ。ここはメジャカとの境にある町だけれど、基本的に農民が多い地域だから、町は農地に囲まれている形になっている。町の中心で広場があって、市場もある。町役場は市場の反対側にあり、古い建物だが整備されている建物だ。またメジャカに通じて道があって、これも整備されている道だ。ティカ側からメジャカに行く道は広く、きれいに整備されている。ただ今メジャカ側から道が封鎖されて、誰も通ることができない。領主モトレアが見えると、メジャカの地方兵士達が道をあけてメジャカの兵士達は自分たちの領土へ戻った。エフェルガンは暗部にガレーへの連絡を取るように命じて、暗部ボジョルシアノと数人の兵士がフクロウで飛び立った。またエフェルガンは数人の暗部に、浄化されたカラトアの町を見張るように、と命じた。


メジャカ領主モトレアはローズたちにティルタという町へ招いた。レトネアからフクロウでたった10分の距離で、彼の別邸があるから、今夜その別邸で過ごすことを提案した。また兵士達とフクロウ達のために食事や餌を用意すると申し出た。エフェルガンはモトレアの提案を快く受け入れた。もちろん毒味役のハティと護衛官達も一緒に来ることになる。大部隊はレトネアにおいて、野営することになる。リンカはローズと一緒に行くので、皿洗い隊の兵士らが残念そうな顔をしていた。


メジャカ地方のティルタは、水に囲まれている美しい町だ。ローズたちが夕暮れの時間に来たので、湖や水田に映った夕焼けの空がとても美しかった。本当に美しい風景だ、とローズが思った。ちなみに朝や昼にも違う美しさが見える、と領主モトレアが誇らしげに説明してくれた。彼の別邸は山に囲まれた湖のそばにあって、とても美しい建物だ。古い建物だったけれど、とても整備されているのだ。突然の訪問にもかかわらず、別邸の執事と使用人達が快く迎えに来た。


ローズたちは用意されている部屋で少し休んだ。お風呂などの夕方の支度を終わらせて、別邸の居間に行くと、エフェルガンらとモトレアが話し合っている。彼らがとてもシリアスに話し合っていると見て、ローズは邪魔しないようにこっそりと入った。けれど、エフェルガンが気づいて、ローズも話し合いに参加してくれるように声をかけてきた。


「ローズ妃殿下、カラトアの町はどう思いますか?」


モトレアが聞いた。


「うむ、探知魔法をかけてないから分からないけど、潜伏した敵がいなさそうだね。今夜が分からないけど・・。できれば明日カラトアに行きたい。もしかすると町の住民が魔石にされてしまったかもしれない」

「あんな大きな町でも住民全員魔石にできるのですか?」

「可能ですよ。実際にトピアもそうだった。ちなみにモルグ人の手先であるメギケルはティカ地方に向かっているところで捕まったんだから、多分魔石を回収に行く途中じゃないかな」

「それはとても困ったところですね」


モトレアはため息ついた。彼の領土はティカ地方と近隣の地方だから、いつ自分の領土が侵されてしまうか時間の問題だ、と理解している。領主として、領民を守らなければいけない義務がある。


「メギケルは捕らえたので、今取り調べ中だ。明日ガレーがどんな情報を持ってきてくれるのか、カラトアに行く人とモルグ人の進入を防ぐ人を分けなければならない」


エフェルガンは国の地図を見ながら、距離を計算している。


「ここからだとすぐに行けない距離とすると、北方向か東か・・」


将軍フェルカサも地図を見ている。


「東ならトロッポ国軍部隊とレホマ国軍部隊が対応できるんだな。北部だと、パララ国軍部隊がタマラにいる。ダナ国軍部隊も今タマラにいるから難しいだな」


エフェルガンが指で地図を示すと将軍が考え込んでいる。


「やはり可能性としては北部の地域だろうか」


将軍がそう言うと、エフェルガンがうなずいた。


「僕の勘も、そんな気がする。首都からそんなに離れないから緊急事態を首都にすぐ知らせることができるから、軍を動かし安い。近いからすぐ戻れるという心の余裕も感じる」


エフェルガンが言うと、全員うなずいた。


「問題は、我々が先かモルグ人が先か・・首都を空にしてはいけないと分かっても、他国の侵略を許すわけにはいけないから、陛下もためらいなく軍を使わうことになるでしょう」


将軍フェルカサが言った。


「我々はメジャカからダナへ移動すればその距離を縮めることができるが、ティカをほったらかせてはいけない。カラトアの住民が心配だ」


空軍将軍がいうと、全員考え込んだ。


「あの、カラトアの住民の確認は我々がやっても構わないなら、喜んで引き受けます」


領主モトレアが恐る恐るエフェルガンに言った。エフェルガンは答えず、ローズを見ている。


「ローズはどう思う?」


エフェルガンが問いかけた。


「うむ。モトレアは魔石の破壊ができる能力を持っているから、任せても良いんだけど、・・問題は機械的な罠や仕掛けに対応できるかどうかと」


ローズが言うとエフェルガンが考え込む。


「殿下、我々陸軍はそのような仕掛けならなんとか対応できます」


陸軍将軍がいうと、エフェルガンがうなずいた。


「分かった。では、明日、モトレア伯爵とメジャカ地方部隊は陸軍の後に付いて行って、カラトアに入ってくれ。くれぐれも注意してくれ」

「はっ!」


エフェルガンの命令にモトレアと陸軍将軍が同時に返事した。


「住民が魔石になってしまったら、全部回収してくれ。安全な場所で魔石の解除をすることだ。また医療師や受け入れ体制ができてからにすることだ」

「はい!」


モトレアが力強く返事した。彼がとても頼もしく感じた。やはり人って必要とされていると分かると、目の輝きが変わるのだ。


「トロッポ国軍部隊とレホマ国軍部隊は今夜自分たちの持ち場に戻るように命じた。事実上、ティカ地方にいる戦力は我々のみとなっている。またトテティとリリトにはメジャカの地方部隊のみとなっている。何もなければ良いが・・」


エフェルガンの言葉で全員理解している。非常に厳しい状況にいるということだ。


全員が深刻な顔をしている間に執事が食事の準備ができたと知らせに来た。食堂に行くとハティが毒味終えたところで、安全だと宣言した。机の上に数々の料理が並ばれていて、どれも見たことがない料理ばかりだ。水に豊富なメジャカ地方は、野菜や果物が豊富で、湖でとれた魚が主な食料となっている。海がないこの地域は海魚よりも川魚や湖の魚が一般的に食べられる。また獣の肉よりも、鶏肉が一般的である。鶏肉のくし焼きがあって、味がとても美味しかった。ぴりっと辛くて、とてもスパイシーだ。くし焼きは葉っぱで包んだ麦の蒸し料理と合わせて食べるととても美味だ。あの赤い辛いスパイスがあったけれど、辛そうだからローズがそれを触らないようにした。しかし、エフェルガンは自分のご飯にその赤いスパイスをたくさんかけている。彼は辛いものを好んで食べる方かもしれない、とローズが思った。また湖の魚も葉っぱで包んで蒸した料理がとても美味だった。焼いた川魚もそれなりに美味しかった。ただ骨が多くて、食べるのが大変だった。


美味しい夕餉を食べた後、エフェルガンが風呂に入っている間に、ローズはモトレアにこの地方について話を聞くことにした。メジャカは特別に豊かな地方ではない、とモトレアが説明した。けれど、なんとか領民が生活できるように、農業が主な収入源となっている。また農業以外に、織物の産業がある。メジャカの布がとても質が良く、周囲の地方でも多く取引されている。ローズがモトレアの肩かけ布を褒めると、彼はとても嬉しそうだった。明日、もし時間の余裕があれば、布の作業場を見せてくれる、と彼が言った。ちなみにモトレアの妃はメジャカの首都であるモントの町にいる、と彼が言った。今度落ち着いた時があれば、モトレアの妃と一緒にお茶が飲みたいとローズが言ったら、彼は笑顔で「はい」と答えた。


明日に備えて、今日は早めに休むことにして、エフェルガンと一緒に部屋に入った。眠りに入って数時間ぐらい、扉がノックされている音がした。エフェルガンが起きて、返事すると、ケルゼックが入った。ガレーとファリズが来ていることを知らせに来たのだ。


「分かった。これから会いに行く。ローズ、眠いかもしれないが、着替えてくれ」

「うん」


エフェルガンは直ちに着替えて、身なりを整えた。ローズはエフェルガン達が外に出た後、素早く着替えた。リンカが入って、彼女の髪の毛を整えにきた。準備ができたところで、エフェルガンが部屋に戻った。


「ローズ、今からパララに征くぞ。敵がパララを狙っていると、メギケルが自白した」


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