139. スズキノヤマ帝国 タマラ戦争(8)
「探知魔法発動!」
敵がローズたちを囲んで、その数は約50人だ。多い、とローズが思った。こちらは護衛官と将軍達と含めて30人ちょっとしかいない。
「やっと会えたな、姫」
一人の若い男性が現れた。
「どなたですか?」
ローズが尋ねると、彼は笑った。若いけれど、エフェルガンよりも年上のようだ。豪華ではないけれど、とても良い身なりをしている。彼が微笑みながら、ローズを下品の様子で見ている。
「俺は姫が欲しいな。例え人妻でも構いません。俺とともに、この国を支配しましょうよ、姫」
「申し訳ないけど、知らない相手にそのようなお誘いを頂いても、お応えできないのです」
「俺の名前がそんなに欲しいなら、姫と二人きりの時に教えるぜ」
男が笑みを浮かべると、ハインズ達はとても不機嫌になった。
「皇太子妃殿下に無礼だぞ!」
ハインズが言うと、彼が不機嫌な様子で彼をにらんだ。
「雑魚は黙ってろ!俺は今、その皇太子妃殿下と会話しているんだ」
「なんだと?!」
ハインズが怒ろうとしたけれど、先にメジャカ領主モトレアが男を威嚇した顔で怒鳴った。ローズはモトレアの手を触り、制止した。
「なら、良い。教える気がないなら、私もあなたをしつこく聞くつもりはありませんわ。そもそもあなたに対して興味もないから」
「それは手厳しいな。では力尽くでそのかわいい顔の泣き顔がみたいな」
男性が笑った。彼がとても余裕を見せている。何かの罠かもしれない。
「その男は、殿下の兄にあたる人ですよ、ローズ様」
ガレーは後ろから歩いて、ローズの隣に来た。
「兄?」
ローズが尋ねると、ガレーはローズの一歩前に進んで、右手を彼女の前に置いて、かばうように立っている。エファインとハインズはその合図を理解しているのか、ローズの左右に動いた。
「そうですな。言いたくはなかったが、その男は皇后陛下の隠し子で、まだ皇帝陛下とのご成婚の前に不埒な男と成した子でしたな、ガザレ殿」
ガレーは涼しい顔をして、淡々とした口調で事実を述べた。
「黙れ!すべては皇帝が悪い!母上を苦しめたあの男がにくい!」
「そもそも出生証明書を持たぬあなたはこの国を支配するなど、不可能な話だ。あなたは誰の子でもない、存在しない人だ。速やかにその武器で自害をすれば、我々の仕事が楽になります。どうです?死んでくれますか、ガザレ殿?」
「おのれぇ!言わせておけば!」
ガレーの言葉で、男が激怒した。
「話は終わりだ。全員殺せ。姫を生きたまま捕らえる人は、将軍にする!」
「おおおおおおおおおおおおお!」
敵軍は武器を構えていて、でも一歩も動かない。引っかかる、・・何かに引っかかる。
エフェルガン以外のリンクをすべて解除した。術破壊の魔法が発動したからこの町全体の術がすべて破壊されたはずだ。また聖属性の雨も降ったからすべて無効にしたはずだ。だとすると、術以外のものとなる。考えられるのはそれしかない・・。
「モルグ人の武器を持っているようで、全員注意して!」
ローズが言うと、全員緊張が走る。
「マルチロック! バリアー!」
ローズが言った瞬間に、高熱線の攻撃が放たれた。ガレーがとっさにローズをかばった。すると、エファインが彼女の手をひっぱって、自分の背中を攻撃がある方向に向けた。当たる!
「ガレー!」
心配して、エファインの胸から覗いていたら、ガレーが跪いた。大丈夫のか?
「はぁ・・はぁ・・大丈夫ですぞ、ローズ様。やはりあなたの愛情はすごいですな」
ガレーが立ち上がった。バリアーが間に合ったようだ。良かった!、とローズが嬉しそうな顔をした。
「ガレー、死んではいけないよ。まだガレーが作った甘い物を食べたいからね!」
「ははは、そうですな。私もそれらを作るのも、楽しくて仕方がないのです」
ガレーが立ち上がったから、全員の戦意が一気に高まった。
「ガレーにリンク開始!」
「はい!」
繋がった。
「ガレーにヒール!速度増加エンチャント!攻撃力エンチャント!風属性エンチャント!」
「ありがとうございます」
そして自分自身にも支援魔法をかけた。周りの味方を確認して第三の目を発動した。
「マルチロック!風属性エンチャント!速度増加エンチャント!攻撃力エンチャント!」
味方全員に支援をかけた。かなりきつくなったけれど、味方の武器も強力な電気がびりびりと聞こえている。モトレアと将軍も興奮している。
「エファイン、何か、食料を下さい」
「はい」
エファインは一つの袋を出してくれた。なんだろう、クッキーのような物だけれど、とローズが考えながら思った。
「うえ、まずい!これって何?」
「暗部の携帯食だそうです」
エファインが恐る恐ると答えた。
「暗部の長官に、後でこの携帯食の味の改善を要求する。ガレーに相談するように、と。セトナ、それを報告書に書いて!携帯食はまずい、と!」
「了解!」
ローズがセトナに言うと、後ろからセトナが苦笑いしながら、答えた。本当に暗部がかわいそうだ、とローズが文句を言いながら、食べた。これはまずいとはっきり言うべきだ、と。
しかし、まずくてもそれなりの効果がある。力がみなぎってきた。
第二波が来なかったが、敵が攻撃を仕掛けてきた。
「マルチロック! 速度減少!」
複数の敵に向かって聖属性の攻撃魔法を放って、敵の速度が落ちている。それを見ると、暗部の者と護衛官達が容赦なく敵を切り捨てた。将軍達とモトレアも応戦して、激しい斬り合いとなった。
しかし、ガザレが見あたらない。逃げたのか?、とローズが周囲を見渡して、彼を探した。
「火の輪」
リンカの低い声が聞こえて、ドッカン!と向こうで爆発が起きた。機械のようなものが壊れて、爆発した。
「リンカ!ありがとう!ガザレはどこにいるか知ってる?」
ローズがリンカに大きな声で聞くと、屋根の上にいるリンカは何かを投げてきた。ジャワラはリンカが投げたものを受け取ると、思わず驚いた声をした。それはガザレの首だった。
「うむ。ありがとう。もっと色々と聞きたかったが、死んだから、仕方がないね」
「ふん」
リンカは屋根の上から猫座りしている。人の姿なのに、と。やはりリンカの身も心も猫になったのか、とローズが苦笑いした。
「大丈夫ですよ、ローズ様。その者は存在しない者だから、気にする必要がありません」
ガレーはそう言いながらセトナにその首をジャワラから受け取るように合図した。他の護衛官達はローズたちの周りを戦っている。しかし、速度減少かかっている敵と速度増加がかかっている味方の戦いで勝敗がはっきりとしている。暗殺者が全員片づけられた。
「勝ったと思うな・・」
魔法師ジョンが小さな声で言った。
「どういうことだ?」
ローズが問いかけるとジョンが笑っただけだった。そして、彼が気を失った。
「起きろ! ちゃんと言え!」
セトナの部下がジョンの顔をびしばしと叩いたがジョンが動かない。
考えられるのは二つだ。この町に新たな襲撃がくるか、又は・・。
「タゴエが危ないかも・・」
「どうしてそう思うのですか?」
ローズが言うと、領主モトレアが分からない顔している。
「敵暗部は何度もゲメラの妻子を欲しがっているから、私たちがここに来ることによって、タゴエが留守番しているダナの国軍部隊しかいなくなった。それにここにいる戦力はメジャカの国軍部隊を滅ぼした戦力にしては少なすぎると思うけれど、フェルカサ将軍はどう思う?」
「まさしく、その通りですね。この町の戦力がこのような短時間で落ちることが少し疑問に思うのですが・・しまった!」
将軍フェルカサが何かに気づくと、陸軍将軍とモトレアも焦り始めた。
「エフェルガン!そちらはどうなった?」
(飛行船全機落としたよ!)
「今すぐタゴエへ向かって!大部隊がタゴエへ向かってる!ゲメラの妻子を奪いに行ったの!」
(分かった!空軍で先に征く!)
「お気をつけて!」
(ローズも、無理をしないように)
「うん!」
ローズとエフェルガンの会話を見ると、モトレアや将軍達が首を傾げた。彼らの目で見ると、一人会話のように見えるのでしょう。ローズがずっとさっきから不思議な目で見られている。
「将軍フェルカサ、殿下は空軍と一緒に先にタゴエへ向かっている」
「分かりました。我々も移動すべきかと」
「その前に、そのジョンと大量の魔法石をなんとかしなければいけないわ」
「そうですね。どうしましょう」
「陸軍はタゴエへ向かって下さい。私と騎士団と護衛官はここに残ります。将軍は殿下を追ってタゴエへ向かって下さい。領主モトレアが構わないのなら、この町で私たちを援護してくださいませんか?」
ローズが言うと、将軍フェルカサはうなずいた。彼は陸軍将軍を呼んで直ちにタゴエへ向かうようにと命じたが、彼自身がここでローズとともに残る、と。
モトレアはローズの提案に賛成して、部隊を広場に集めてくれる。メジャカ警備隊の兵士の質が良くないけれど、大量にいるから数だけが大変よかった。
「怪我人はここに運んで下さい。治療します。モトレア様、怪我人の運びもお願いします」
「分かりました。皇太子妃殿下、私は殿下の家臣ですから、様は必要ございません」
「うむ。私も敬語苦手だから、普通の言葉でお願いします」
「それは、その・・」
モトレアの困った顔に、ハインズが笑った。
「ローズ様の仰せのままに致しましょう、モトレア伯爵」
ハインズの言葉で、モトレアはぎくしゃくながらうなずいた。
「では、私の事もモトレアだけでお願いします」
「うん!分かった。では、怪我人の回収に任せるよ、モトレア!」
「はい!」
モトレアが自分の部隊の前に走って、命令を下した。
「あ、ガレー、怪我した敵兵はどうする?」
ローズがガレーに聞くと、ガレーは困った顔している。そして何かに暗部の一人に指示を出した。
「この町にいる敵兵は全員暗殺者だから殺します」
彼が言うと、ローズが心配した顔になった。
「うわー、ガレー先生は怖いな」
「ははは、彼らも私たちが油断したところで殺しにかかるから、気にかける必要がありませんよ」
「じゃ、そこは強い方々に任せるよ。か弱い私は怪我人にトドメをするような勇気がありませんわ」
ローズがいうと、将軍達が笑った。戦争はやはり軍人である彼らの方が専門だ。殺し合うことがローズにとって、負担でしかない。
「あ、そうだ。将軍フェルカサ、頼んでも良いかな?」
「はい、なんなりと」
将軍フェルカサがローズに向かって、うなずいた。
「死んだ敵軍を町の外に運んで、埋めるか、燃やすかにして下さい。殿下がいない今、もしモルグの化け物が召喚されたら、大変なの」
「かしこまりました」
将軍フェルカサはモトレアの方に行って、自分の配下と数人の兵士に指示を出した。モトレアはうなずいて、兵士達に命じた。
「騎士団の方々にも隠れている町の人々を広場に集めて、手伝って欲しい、と。また敵が潜伏している可能性もあるから注意して下さい」
「はっ!」
騎士団の隊長が力強く答えてくれた。暗部の者に大量の魔石をここに運ぶようにお願いした。その間、ガレーとトダが怪我した味方兵士らの手当をする。少しずつ町の人々が来てくれた。ローズがお湯をお願いしたら、彼らは安堵した顔で快く、兵士らのためのお湯や清潔な布を提供してくれる。また町の医療師も手伝いにきて、大変助かっている、とローズが思った。
リンカは即席焜炉を作って、近くで見つけた大きな鍋と敵軍のアジトから見つけた食料でスープを作っている。町の女性達がリンカに何か手伝えることがあるかと尋ねたら、リンカはお茶碗や食器が欲しいと言った。すると、彼女たちは自分の家から持ってきた。助かる、とリンカが嬉しそうにそれらの食器を受け取った。
「あの、・・皇太子妃殿下、・・よろしければ、スープを・・」
一人の町の女性が恐る恐るリンカが作ったスープを差し出した。エファインがそれを受け取った。
「ありがとう。ごめんね、助けに来るまで、時間がかかってしまった」
ローズがいうと、彼女は首を振った。
「いいえ、助けてくれたことに感謝しています。ありがとうございます、殿下」
彼女は頭をさげて、再びリンカがいるところに向かった。今度は将軍達に食事を運ぶそうだ。
美味しいスープを飲んだ後、ローズは再び怪我人の看病を手伝った。終えると、少し休憩してからエファインが持ってきた食料に食べてから、魔石を少しずつ解除した。護衛官のパトリアが手伝っている。
「あ、セトナ」
セトナが近くに来たから声をかけた。
「はい、なんでしょう」
「ジョンの口に布とか何かでふさいで、呪文を唱えることができないようにして下さい。魔法師はこんな遺体だらけの場所でどんなものを召喚してしまうか、分からないから怖いんだ」
「了解!」
セトナは返事して、まだ茨で縛られて気を失っているジョンの口に適当に拾ったものを口に詰め込んだ。セトナって意外とかなり適当で強引だ、とローズが彼を見て、瞬いた。
モトレアは空になったスープの茶碗を手に持ちながら、ローズに近づいた。魔石から次々と解放された町の人々を見て、何も言わずに見ている。解放されてすぐに動ける人がいれば、もう息がなくなった人もいた。護衛官の一人がモトレアの手にある茶碗を渡すように二回も声をかけても気が付かなかった。モトレアは初めてみた魔石の真実にショックを受けた。
「ローズ様・・トピアで救出された者の中に我が領民の被害者もいたと連絡を受けたのですが・・。このような感じで捕らわれていたのか?」
モトレアが尋ねると、ローズはうなずいた。
「そうだよ。トピアはメジャカの隣だから、メジャカの人もたくさんいたんだ。運悪く敵に魔石にされてしまったの。犯人はそこに縛られているジョンという魔法師だったけれど、これから取り調べをしなければいけないんだ」
「そうでしたか」
モトレアが後ろに向かって、ジョンを見てから、再びローズを見ている。
「モトレアは魔法できる?」
「少しならできますが、得意ではない。何か私にできることがありますか?」
「うーん、コロマの民の解放に手伝えるなら頼みたかったけど、難しいならそこまで負担をかけることができない」
ローズが彼を見て、迷いながら言った。得意ではないと答えられたから、無理にしてはいけない、と。
「いや、やります!コロマの民は我が領民ではないが、この時こそ助け合いが必要であろう。私にやらせて下さい・・やり方が分かりませんが・・」
「ありがとう。助かるよ、モトレア」
ローズが笑顔で言った。すると、モトレアが嬉しそうにうなずいて、ローズにやり方を教わってもらった。ぎくしゃくしながら呪文を唱えて、三回をやって、やっと成功した。
領主のことに気になるメジャカの地方部隊が集まってきた。その魔石から人が出てきた瞬間全員驚いてしまった。早速トダが確認して、生きている人を近くに運んで休ませるようにと、見物した兵士らに命じた。多分警備隊の兵士らの目で、自分たちの領主モトレアがとても偉大に見えるのでしょう。メジャカに戻ったら、噂になるでしょう、とローズはモトレアを見て、微笑んだ。
町の人々が無事に解放された身内を見つけると、泣いて喜んでいる。彼らはローズに平服して、感謝を述べた。まだ身内が見つからない人々がそわそわしながら、うろうろしている。早く助けるようにと、急かす人がいたけれど、ハインズに叱られた。
「皇太子妃殿下に無礼だ!」、とハインズが大きな声で叱ると、周囲がとても静かになった。身分がばれてしまったから、逆に恐れられてしまって、かなり重い空気が漂っている。
エファインに頼んで、見物人を少し距離をおいておくようにしてもらった。さすがにソーセージを食べている姿が見られると、はしたなさ過ぎて、変な目で見られて、食べづらい。
数時間経って、夕方になるとエフェルガンが戻ってきた。彼は早速とローズを捜しに来た。
エフェルガンが無事で良かった、とローズが彼を見て、微笑んだ。エフェルガンはリンカが作ったスープを飲んで、ローズの隣で座って休憩した。
「ローズが言った通り、タゴエの町が襲われていたよ」
エフェルガンはスープを飲み干した。茶碗の中に残った具材をスプーンでとって、きれいに食べた。
「ダナの地方部隊は大丈夫だった?」
「ああ、問題なかった。さすが兄上だ。助かったよ」
「ん?兄さんが何かをしたの?」
「一人で8割の敵部隊を壊滅に追い込んだよ。すごいな。僕も兄上のように強くなりたいな」
「あはは・・8割か・・、一人で?」
「ああ、驚いたよ。僕たちが見えると、手を振って、残り任せたよと言って町に戻って、フォレットが用意した食事を普通に食べた」
ローズが笑いながら、うなずいた。
「兄さんらしいな」
「ああ、残り2割で全滅にするまで時間がかかったのにな。進入した敵がいないかと確認してから、再びコロマへ戻れ、と言われたよ。ローズが心配だから、一人にするなと言われた」
「行ったり来たりエフェルガンが大変だったね。休みまもなく、またここに来たのか」
ローズがエフェルガンを見て、微笑んだ。
「そうだよ。まぁ、タゴエではそれなりに大変だったが、兄上がいて大丈夫だった」
「また襲われたのか?暗殺か敵暗部に?」
「そうだったらしい。全員兄上に掃除されたらしいが・・」
「ばりばりとやっているね」
「そうだな。僕の実の兄弟があんな頼もしい人がいるなら、どれだけ幸せな人生になるか・・」
エフェルガンが言うと、ローズは何かに思い出した。
「あ、あなたの兄はそこにいるよ。首だけなんだけどね・・」
エフェルガンがローズが示した方向へ見ると、ガザレの首が布にかぶって、置かれている。
「はぁ・・そうか。今度は誰だった?」
「ガザレという人で、あなたの兄と言ってたけど?」
「知らんな」
「皇后陛下の息子よ。長男だって」
「僕は長男じゃなかったのか?」
エフェルガンが興味なさそうに言った。
「あなたは次男だと判明したんだ。でもお父さんが違うけどね」
「本当に複雑な家族構成だ。考えるだけで疲れるよ」
エフェルガンがため息ついて、空になったスープの器を手で遊んだ。
「うん。その兄があなたに代わり、私が欲しいって。そしてこの国を支配すると言ってた。まぁ、首だけになった今は、その野望も無理なんだけどね」
「そんな邪な心で僕の妃に指一本でも触れたら、万死を与える」
「もう死んじゃったなんだから良いよ」
「そうだな。誰が彼の首を刎ねたのか?」
「リンカよ」
「そうか。礼を言わないといけないな」
エフェルガンが立ち上がって、スープの器を持って、料理をしているリンカにスープのおかわりをもらってきた。ローズが彼を見て、リンカと何かの会話しているようだけれど、ここからだと聞こえない。
「モトレア、もう休んでも良いよ。さっきからずっと手伝ってくれて、倒れてしまうよ」
ローズの隣にいるモトレアがかなり疲れた表情で魔石を破壊している。
「いやいや。ローズ様はこんなに大量の魔法石を壊しても疲れていないのですか?」
「私はさっきからずっと魔力の補充をしているんだ。ほら、ソーセージを食べたりしたんでしょう?」
「あ、はい。趣味かと思いまして・・」
え?、とローズがびっくりして、笑った。
「いやぁ、趣味だと、はしたないよ。ハムを丸ごと切らずに食べる人なんて、いくら何でも・・ちょっとみっともないよ」
「そう、そうですよね・・、ははは」
モトレアが苦笑いして、うなずいた。
「でも、モトレアが手伝ってくれて、とても助かる。ありがとう」
「いやいや、これも陛下の家臣としての役目ですから・・」
エフェルガンがまた来て隣に座って、スープを飲み始めた。
「モトレア殿はもうローズと仲がよくなったんだ」
「いや・・その・・」
モトレアがあたふたに説明すると、エフェルガンが笑った。
「いや、責める気ではない。ただ嬉しく思っただけだ。僕たちの味方が一人でも多く欲しい、というところだ」
「あ、はい」
「この結婚はまだ正式に発表されていないが、すでに反対だ、という声が上がっている。彼らが、ローズはミミズクフクロウ種族ではないという理由だけで反対したんだ。まったく下らない奴らだ」
エフェルガンがスープをまた飲んだ。
「あ・・そうだったんですか。あの、ローズ様は何種族ですか?木の精霊か花の精霊ですか?」
「そう思われたか。違うぞ。龍神族だ」
「龍神族って・・あの龍神様ですか?」
「そうだ。ローズは龍神様のたった一人の姫君だ。その額の印は何よりの証拠だ。あれは龍神様の紋章だ。僕のは聖龍様から頂いた印だった」
「そう、そう、なんでしょうか」
モトレアが驚いて、ローズを見て、またエフェルガンに視線を移した。
「ちなみに教えてやるよ。ローズの育ての親は鬼神だ。あの伝説の鬼神だぞ?ついでにいうと、タゴエでもう一人の鬼神がいる。ローズの兄上が、謀反軍の大部隊をギタギタにして、壊滅させたぞ?それに、なんと、あれはまだ全力ではなかったらしい。すごいだろう?」
エフェルガンの言葉を聞いたモトレアが答えずに、ただ震えている。びっくりしたか、怖かったのでしょうか、とローズは分からない。しかし、エフェルガンが大げさだ、と彼女は思った。
「うむ、でも私は普通に接触してくれたモトレアが好きだよ。これからも仲良くして下さいね。落ち着いたらメジャカに訪問しても良いかな?」
ローズがモトレアに尋ねると、彼は震えながら、うなずいた。
「も、もちろん、・・もちろんでございます・・する」
「変な言葉をやめて下さい」
「あ・・はい・・ははっ!」
「うむ」
そのやりとりを聞いたエフェルガンが笑い出した。彼がスープを飲み干して、近くにいる護衛官にその器をリンカに渡すように、と命じた。そう、リンカの周りにたくさんの兵士が集まっている。彼らはリンカを手伝いたいと申し出て、皿洗い隊ができてしまった。リンカの顔にちらちらと、見ながらお茶碗を洗って割ってしまって、怪我した人もいる。やはりリンカが美しいからだ。オレファのため息はなんども聞こえている。
エフェルガンは少し高い所に登り立って、周囲を見渡す。エフェルガンが立つと兵士達が仕事をやめてエフェルガンを見る姿勢になる。モトレアも将軍達も同じだ。これは軍人の習性なのか、分からないけれど、ローズはただエフェルガンを見ているだけだった。
「今夜はここで過ごす。明日か明後日辺り、準備を整えて、兵士が回復したら、そのままティカに遠征するぞ!」
エフェルガンが大きな声で言った。すると、兵士らが大きな声で叫んだ。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」




