138. スズキノヤマ帝国 タマラ戦争(7)
ローズたちは今トピアの町の門の入口にいる。やはり誰もいないと、かなり不気味だ。
この町できっと何らかの罠がかけられているのでしょう。でないと、町の人々が全員魔石に閉じこめられたりすることができないでしょう、と考えられる。だから、これらの罠や術式を破壊する必要がある。
ローズは浄化の雨を降らして、そのあとエフェルガンの術破壊の魔法をかければ、町の人々が安心して町へ戻ることができる。
「いにしえの聖なる神、聖龍の名の元に、ローズが命じる:我に力を与えたまえ!」
聖属性の起動準備が整えた。
「ホリー・レイン!」
事前に集めた雨雲の前で、聖属性の魔法をかけていれば、雨水の水滴一粒一粒に聖属性になり、大地の浄化になる。
エフェルガンはその雨とともに術破壊魔法をかけた。大きな輪っかのような魔法陣が町を包み、上から地面にゆっくりと落ちていく。パチパチと音がして術が破壊されている印になった。
ローズたちはしばらく雨を見つめている。この神聖な雨はあらゆる邪気を払い、至る所に書かれている術式を破壊している。救出された町の人々が心配そうな顔で見守っている。そう、二日間かけて、やっと全員助けることができたのだ。被害者はトピアの人々だけではなく、ガリカの町の人もいた。それ意外は、メジャカとコロマといくつか周囲の町や村からの人もいた。救出された被害者の中から残念ながら百名ほど命を落としてしまった。大半体が弱いお年寄りや小さな子どもだった。エフェルガンも、ファリズも、そして軍の関係者は、死亡した人々の前で言葉を失った。
ローズたちを見物したタゴエの町の人々もあまりの衝撃に、涙を流した人もいた。死亡した人々の身内の悲痛の叫びが今でもまだ聞こえているような気がした。悲しい。
一時間ぐらいすると、雨が止んだ。ローズたちは町に入って、安全を確かめる。探知魔法などで潜伏した敵がないかと確認すると、一人もいなかった。
完全に無人だ。
野良犬も、野良猫も、いなかった。本当に不気味だ。エフェルガンは安全宣言をしたら、トピアの人々が恐る恐る町へ入り、自分たちの家々に入った。泣いて喜ぶ人がいれば、金品が盗まれた人々の怒りも聞こえている。きっと、あの大部隊が犯人だろう、とエフェルガンは言った。
町役場へ行くと村長がいて、書類や貴重品を確かめにしている。またメジャカからメジャカの領主とその兵士らが現れて、エフェルガンに忠誠を誓った後、謀叛の討伐の手伝いをすると伝えた。
メジャカの国軍部隊が全滅して、またメジャカに近いトピアでこのような悪質な犯罪が起きたこともあって、メジャカ領主モトレアは自分たちを守るためにも一刻も早く謀叛しているタマラ地方領主の勢力とティカ地方領主の勢力とモルグ人勢力を制圧する必要があると考えている。ちなみにメジャカでは領主が不在のため、領民全体は武装して警戒になっている。
「モトレア伯爵、ご協力感謝する」
エフェルガンが言うとモトレアは右手を胸に当てた。
「これも私の義務でございます。一刻も早くこの実態を終止したく思います」
「同感だ」
エフェルガンはうなずいて、町役場にいる町長と会話して、再びフクロウに乗った。ローズはエファインと一緒に乗って、出発した。町の外で待機していた国軍部隊がローズたちが見えると直ちに出発した。
トピアの人々の救出と同じころに、首都から空軍や陸軍の大部隊が送られてきた。エフェルガンの手紙を受け取った皇帝は、直ちに部隊を派遣した。
パララや周辺の国軍基地からも次々と部隊が送られてきた。無論、首都は空っぽにしない。ちゃんと七割の部隊は首都で緊急配備されている。モルグ人や謀叛を企んでいる人々が皇帝を襲うことも想定されているのだ。
ローズはエフェルガンが飛んでいるフクロウの後ろにいる。ファリズはタゴエで留守番している。暗殺者や敵暗部がまた襲ってくるかもしれないからファリズとエトゥレとダナの国軍部隊がタゴエで留守番している。リンカはローズの近くで、医療師のガレーと一緒に飛んでいる。
トピアからコロマまでフクロウで飛んで約三時間の距離だ。実は、タゴエからコロマだと約二時間の距離だったけれど、トピアへ遠回りしていたため、このような時間がかかってしまう。
コロマの町が見えていると、ローズがフクロウの上から構えている。
「自然よ、ローズが命じる:我に力を与えたまえ!」
ドーン!
体がまた光り出している。そしてフクロウの上から雨雲をコロマの町の上に集める。雲を重ねて、重ねて、・・重くすると雨になる。コロマまであと三十分の距離でもう広い範囲で雨が降り始めた。
「いにしえの聖なる神、聖龍の名の元に、ローズが命じる:我に力を与えたまえ!」
聖属性の起動準備が整えた。
「ホリー・レイン!」
ザーーー!、と突然コロマの町に浄化の雨が降っている。それに合わせてエフェルガンも術破壊の魔法を唱えて発動させた。町を丸ごと上から魔法陣がゆっくりと降りてきて町中に設置された術を破壊している。遠くからでも聞こえているパチパチの音がした。
パニックになった敵兵が町から逃げ出した姿がみえた。エフェルガンは早速部隊に指示を出した。明らかに武器を持っている者は、武器を捨てない限りすべて敵だと見なされる。
「エフェルガンにリンク開始!」
(はい)
繋がった。
「エフェルガンにバリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」
そして自分自身にもかけた。
帰ってきた暗部の話によると、コロマに大量の敵兵士がいる。当然町の人々もその中にいるけれど、逃げ出そうとした市民らは、捕らわれて魔石にされた。ということは、術をする人は町にいるかもしれない。例え、いなくても、生きている人を魔石にする技術が何らかの形でこの町にあるということで、術を破壊する必要がある。でないと、これから民の救出に向かう暗部らと陸軍兵士らに危険が及ぶ可能性がある。
「門と塔に攻撃開始!」
エフェルガンが命令を出すと、将軍たちは合図をして、それぞれの部隊を命じる。またガレーは暗部隊に向かって合図を出すと、複数の暗部隊員を動き出す。
エフェルガンはフクロウの上から複数のターゲットに雷の魔法を落とした。雨の中、雷は非常に強力だ。慌ててフクロウに乗って攻撃の準備をし始めている敵軍に浄化の雨は無慈悲に降り注ぐ。彼らの体についている支援用魔法がすべて解除された。そしてエフェルガンのマルチロックの雷魔法も容赦なくフクロウごとに当たっている。
町の門を開けた暗部たちは次の目標に走っている。術式を張る人、または魔法師を見つけたら、直ちに殺すことだ。また敵対した暗部全員を殺すことだ、とガレーが事前に言った。これは暗部隊にとって、非常に危険な任務である。現場にいる暗部隊長セトナはローズとリンクで繋がっている。何があったら必ず連絡をするようにと伝えた。
(ローズ様、大量の魔石を発見しました)
セトナはローズに連絡している。
「一人で持ち運べる数なの?」
(無理です)
「分かった。誰かその部屋に待機して守ってください。敵に使われないようにして下さい」
(分かりました)
その事実もガレーとエフェルガンに伝えた。
(民はどうなっているかと聞いてくれ)
すると、ローズはエフェルガンの質問にセトナに伝えた。
(住民はまだ家や建物の中にいます。皆怖くて出られないそうです)
ローズがエフェルガンにセトナの答えを伝えると、エフェルガンは陸軍に突入命令を出した。
陸軍将軍は開いた門に突撃命令を出した。陸軍の兵士たちは前に進むと敵兵も彼らに向かって突撃してきた。雨の中、激しい戦いが起きている。
「マルチロック!風属性エンチャント!」
ローズは前衛の陸軍たちに風属性の武器エンチャントをすると、兵士たちの武器がびりびりと電気が走るような武器になって、濡れている敵にとても効果が抜群だった。兵士たちは風属性への耐性にもかかっているため、自分たちの武器を触っても感電しないのだ。
「ローズ様、お食事を」
エファインは袋からソーセージを出してくれた。これはフォレットに持たされて、魔力補充にと言われた。準備が良い!
「ありがとう」
もぐもぐしながら、ローズは戦闘状況を確認している。
「空軍!進め!」
エフェルガンの命令に空軍将軍も前に進んで飛行している敵軍と激突している。
突然ティカ地方から飛行船数機が見えた。コロマの町はティカ地方との境界にあるため、ティカ地方から飛行船がきているということは、ティカ地方がすでに敵の拠点になってしまったと考えた方が良いでしょう、とローズが思った。
エフェルガンは急遽空軍を飛行船戦闘に集中するように命じた。彼もまた飛行船を落とす準備する。
「エフェルガン、飛行船を任せる。私はこの謀反軍を相手にするわ」
(分かった。でも、ローズ、無茶しないでね)
「あなたこそ、ご武運を!」
(ああ。征ってくる)
「マルチロック!バリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」
飛行船に向かって、それぞれのフクロウから飛び立ったエフェルガン達に支援魔法を送った。彼らは自分の翼で飛行船よりも高く飛ぶ。飛行船の武器は前と下しかないため、自分よりも高い高度に飛んでいるものを攻撃することができない。だから飛行船よりも高く飛んでいるエフェルガン達の方が有利なのだ。ただ欠点がある。あくまでも自分の翼で飛んでいるため、かなり体力を消費してしまう。
空軍が飛行船を相手にしているため、敵の飛行部隊は陸軍を攻撃し始めている。メジャカの警備隊がその敵の飛行部隊を空軍の代わりに攻撃し始めた。正直に言うと、メジャカの警備隊があまり兵質が良くない、とローズは思った。しかし、戦争は数の暴力でもあるから、最後まで分からない。
「マルチロック! ライトニング!」
ローズから少しお見舞いの雷攻撃で敵の飛行部隊にびりびり攻撃が当たった。やはり濡れた体に雷はとても有効だ。ちなみに雨がもうとっくに止んだ。けれど敵兵はほとんど微少濡れ状態のままだ。誰一人も着替えていないようだ。
総合将軍フェルカサはエフェルガンの代わりに次々と兵士に指示を出している。一方、エフェルガンたちは飛行船が次々と落ちていく。やはりタゴエでの経験がかなり役に立ったようだ、とローズが思った。
首都から来たばかりの国軍兵士らはエフェルガン達の戦い方を真似て攻撃する。空軍将軍も、とても力強くに見えた、とローズが彼らを見て、思った。
陸軍が町の中心まで進入している。ローズたちが町の様子をみると、前の方向から、ローズ達に向かって槍を投げた敵軍が現れた。
「シールド!」
ローズが慌てて盾を唱えた。強力な魔法の盾で槍が弾かれて下に落ちた。騎士団達はローズたちの前に動いて、向かってきた敵の相手になった。騎士団の者達はやはり強い!、とローズが彼らを見て、うなずいた。
あっという間に敵の飛行部隊が全滅して、ローズたちは町に突入する。町の上から入ると、下での混乱がはっきりと見える。町のあちらこちらで黒煙が上がっている。ローズたちが町の中心にある広場に着陸すると、複数の暗部隊が現れた。セトナたちだ、と彼女が彼らを見て、うなずいた。そこで、セトナ達が追っている相手も明らかになった。
「魔法師ジェン?!」
ローズがいうと、その魔法師が笑った。
「ジェンは俺の双子の兄弟だ。俺はジョンだ」
そういえば、見た目が少し違う。それに、ジェンはすでに死んだ、とローズが思い出した。しかし、今はそれがどうでも良いことだ。彼は手にしたものは術式の紙だ。ここで召喚されたらたくさんの犠牲者が出る。
「魔石を作ったのがあなたなの?」
「そうだ。だから何だ?」
「許さない!」
「出でよう!」
ボーン!
彼はそれらの術式を投げると、大量の毒蛇が出てきた。
ああ、ロッコ!今すぐあなたを召喚したい!、ローズは心の中でロッコを呼んでいる。
これらの蛇らは一匹ずつ相手にするとジョンが逃げてしまう。そしてやはり、ジョンが素早くその場を逃げ出している。
「追え! 逃がすな!」
ローズが言うと、暗部達が一斉に彼を追う。しかし、やはり蛇が邪魔だ。
「瞬間移動!」
ローズが一瞬で移動して、ジョンの前に着き、素早く鞭を出した。その鞭をジョンに向かって振り下ろすと、彼がそれを交わすことができた。
なんていう奴だ。かなり武術レベルが高い人だ、と彼女が思いながら、構えている。
ジョンは懐から短剣を出した。そして彼がローズを攻撃し始めた。ハインズ達も駆けつけてきたけれど、入る隙間がない。ローズの鞭の攻撃がその短剣で受けていて、彼も激しい反撃をしている。
しかし、彼がまだダルガと比べたら全然遅い!、とローズがそう思いながら攻撃している。支援をかかっているローズの素早さと比べたら、ローズの方が早い!鞭の攻撃範囲の広さで、彼の動けるスペースが段々狭くなってきた。そこで・・。
「キューブ!」
ジョンは魔法の壁にはさまれて動けなくなった。いつもこれは自分を守るためのバリアー魔法なんだけれど、今回は動き回る敵を動けなくするために使った。そして・・
「バインド・ローズ!」
ズズズ!
地面の下からずるずると茨の枝が出てきて、彼の体に巻き付いて、ぎゅっと食い込むように縛った。鋭いトゲが体にささり、赤い血がにじんできた。
「キューブ・解除!」
これでジョンが捕獲できた。しかし、これで終わりということではない。なんだか、ローズが魔石にされた人々の苦しみを彼に味合わせないと気が済まない。
「鞭五倍、火属性エンチャント!」
ドーン!
ローズの手にある鞭がとても重たい鞭になった。彼女がその鞭で思いっきりジョンに振り下ろして叩いた。鞭についたトゲと炎にえぐられた彼の体は見るものではない。しかし、それでも怒りが治まらなかった。
「ぎゃあああああああ!」
再び振り下ろそうとしたら、ガレーがローズの手をつかんで、止めた。
「もう、良いんです、ローズ様」
ガレーはとても優しい言葉でローズの目線に合わせてみて話した。そして優しくローズの体を寄せて、抱きしめた。彼女の手をつかんだガレーの手は手から武器を外し、地面に落とした。地面に落とすと鞭が消えた。ローズが大きな声でガレーの胸で泣いた。
こんな魔法師のためで、たくさんの民が苦しんで、死んでしまったのだ。殺してもこの怒りが治まらない、とローズが泣きながらガレーに訴えた。
「その者は私達にお任せ下さい。ローズ様は、お手を汚してはなりません」
「ガレー・・うわーん!」
ローズが思いっきり泣いた。はしたないと言われても構わない。とても悔しい、と。
「はい。殿下はもうすぐお戻りになります。こんなに泣いてしまわれると私がローズ様を泣かしてしまったのではないか、と勘違いなされるのです」
エファインも近づいて、ハンカチを差し出してくれた。ガレーはエファインのハンカチをとって、ローズの顔に涙を拭いた。
「うん・・ありがとう」
ローズが言うと、ガレーが微笑んだ。
「よし、もう泣かないで下さい。まだ戦争が終わってないのですよ」
「うん。私情に負けてしまって、ごめんなさい」
「いいえ、ローズ様はとても優しい方ですから、分かります」
ガレーは微笑みながら言った。
「ガレー、あいつはガレーに任せる。トピアの民の苦しみの仇をとって」
「かしこまりました」
ローズがうなずくと、ガレーは手を離した。彼はローズを見つめてから、エファインにハンカチを返して、合図した。
エファインはローズの涙を拭いて、その場から離れるようにとハインズに言った。ハインズも周囲を確認しながら護衛官達に合図した。後から駆けつけてきた将軍達はなんとか無事だった。毒ヘビはなんとか全部片付いたようだ。噛まれた者もいるけれど、ガレーに手当してもらっている。
将軍らはローズの顔をみて、びっくりした。どこかが痛いか、怪我したかと心配してくれたけれど、ハインズが丁寧に、ローズの目にゴミが入って痛かったらしい、と説明してくれた。将軍達とメジャカ領主モトレアがそれを聞くと安堵した様子だった。
「やはり女人にとって戦場は酷な場所であろう。どうして殿下はこのような場所にローズ妃をお連れに・・」
モトレアは首を傾げながら疑問に言うと、将軍フェルカサは静かにするようにと合図した。護衛官達も暗部も急に警戒し始めた。ローズたちはいつの間にか、敵に囲まれてしまった。




