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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
スズキノヤマ編
134/811

134. スズキノヤマ帝国 タマラ戦争(3)

スズヤマ家はエフェルガンの家・・ということは・・今回の敵は身内である可能性が大きい、とローズが思った。しかもモルグ人を巻き込む裏切りとなると、ただならぬ事態であることだ。あってはならないことだ。


「どういうことなの?」


ローズが尋ねると、彼はとても悲しい目をしている。


「スズヤマ家はこの国を作った貴族の名門で、当主は代々皇帝の座に座りこの国を支配するのだ」

「今の皇帝陛下は当主?」

「そうだ」


ローズが瞬いた。


「よく分からない。皇帝陛下は私たちの結婚を望んでいると思うけど・・でもなんで私の死を望んでいるの?」

「父上・・いえ、陛下は僕たちの結婚を望んでいて、ローズの死を望んでいない。望んでいるのは恐らく母上の支持者だ」

「分かりやすく説明して」


ローズは混乱してしまった。この絡まった糸のような状況を整理したい。


「俺も詳しい説明を求める!」


扉からノックなしでオーラ全開のファリズが入ってきた。ケルゼック達は仕方なくファリズを部屋に入れたようだ。


「ケルゼック、扉を閉めよ」


エフェルガンは開いた扉を閉めるようにとケルゼックに命じた。ケルゼックは頭を下げて、外に出て扉を閉めた。


「分かりました。兄上に教えます」


エフェルガンはため息をして、ファリズに言った。どうやら、ファリズがとても怒っている様子だ。


「俺の妹に、そのようなことをした奴らを許さん!」

「僕も許しませんよ」

「貴殿の家だろうが」

「そうであって、そうでないのが現状です」

「説明しろ!」


ファリズがそう言うと、エフェルガンがうなずいた。


「先ほどのことを聞いたと思いますが、今のスズヤマ家の当主は僕の父上である皇帝陛下です。しかし、当主は代々直系血族の男子にしか受け継ぐことができないものです。婿としてスズヤマ家に入った父上にはその権利がないと反発した者もいた」


エフェルガンはため息をついた。


「ですが、前皇帝、つまり僕の祖父は、男子を一人も持たなかった。でも、前皇帝には兄弟がいた。いたが、前皇帝陛下の兄上は病弱して早く死んでしまったため、彼の弟が家を継いで、前皇帝になったわけだ」


エフェルガンがゆっくりと説明した。


「それで?」


ファリズが聞いた。


「それで、その前皇帝の兄上は正妻から一人の男子が産まれた。しかし、その皇子が大変な罪を犯し、国外追放とされてしまった。そして、その正妻でも側室でもない女性から、また一人の男子がいる。しかし、彼は権力争いから正式に辞退したと告げた。その人は僕の育ての親のズルグンだ」


エフェルガンが説明すると糸の絡まりが少しずつ解かれてきた。


「ズルグンはこの件に関わっているのか?」


ファリズが質問をするとエフェルガンは首を振った。


「関わっていません。彼は今アルハトロスでスズキノヤマ大使として仕事をしている」

「では、誰がローズにひどいことをした奴は?」

「恐らく母上の支持者だ。母上は父上のことをひどく憎んでいる。それに、政治や軍に多大な支持者を持っている父上との結婚は政略結婚であって、愛のない結婚だ」


エフェルガンがそう言うと、ファリズの怒りが少しずつ治まってきた。


「まぁ、政略結婚ではそのようなことが普通だからな」

「はい。僕が生まれた時に、母上の憎しみが増していて、何度も僕を殺そうとしていたんだ」

「自分の子なのに?」

「そうですね・・悲しいが、それは僕の真実です」

「貴殿に・・、言葉が見つからない」


ファリズはソファに座って、頭を手で覆う。びっくりしたでしょう。


「では説明を続きます」

「ああ、そうしてくれ」

「スズヤマ家の婿である父上はたくさんの子を持っている。しかし、スズヤマ家に登録されているのは僕だけです。僕は母上の実の子だから、スズヤマ家の後継者としての条件を満たされている。他の皇子らはスズヤマ家には入れない。・・父上が当主であっても、母上の了解がなければすべて婚外の子になる。側室の子であっても、その母親が側室として認められてもらなければ、生んだ子の立場はズルグンと同じになる。皇子であって、皇子でない」

「面倒なことだな」

「はい。ですから、皇子の中でも、不満が多く、その不満がほとんど僕に向けられているのです」

「分かる。そうなってしまっても仕方がない」


哀れだ、とファリズはエフェルガンを見て、思った。


「ローズがこの国に来たことによって、今まで隠した母上の命令で僕への暗殺の数々が皇帝陛下にばれてしまった。そのため、母上は今離宮に移住させられた。しかし、母上の支持者が数多くいて、母上を女帝にする計画も浮かび上がった。そのために法律の提案まで出ている」

「また面倒なことになったな」

「はい。女帝になれば、外部から来た父上・・要するに今の皇帝陛下はもう必要がなくなる」

「はぁ、だから俺は権力が嫌いだ」


ファリズがため息ついた。権力は面倒だ、と彼が思った。


「僕も嫌いだが、生き延びるために今の立場を維持する必要がある」

「分かる。それで?」

「僕を亡き者にすれば、スズヤマ家の後継者がなくなるけれど、上を登って辿っていれば数人の名前があることが分かった。しかし、彼らがほとんど遠い親戚のような感じです。家の名前は変わっているが、元を辿ればスズヤマ家であることが間違いない。その中から、ゲメラとガローがあった」

「なるほど。ここで繋がりが見えてきた」

「また母上は、・・まだ若いから、再婚すればまだ子を作ることができるだろう、という意見もあがった」

「権力のためなら、なんでもありだな」


ファリズが呆れた様子で言うと、エフェルガンがうなずいた。


「そうですね。悲しいことに、兄上の言った通りです」

「で、ローズにひどいことをした奴は?」

「まだ分かりませんが、僕の考えはいくつかあります。一つは純粋にミミズクフクロウ種族のみ一族の維持をしたい派閥の存在。ローズは龍神族なので、子どもができるとしても純血なミミズクフクロウの種族でなくなる。僕は側室をとらないと宣言したため、彼らはローズを亡き者にするしか道がない」

「・・・」

「二つ。先ほど言った母上の支持者で、僕たちを殺そうとした派閥だ。そして三つ。単純に権力を力づくで奪いたいから、その費用はローズを狙って、モルグ人に売り飛ばすことで、大金を得ようと企んでいる輩だ」

「一と二は手を組んでいる、と俺がみた」

「でもモルグ人がいるということは、恐らく三つ目の輩に知恵を吹き込んだ奴が接近したという可能性がある」


ファリズはため息をついた。彼は寝台で座っているローズを見つめた。


「ローズ、里へ帰ろう。この国はあなたにとって危険すぎる」


ファリズがいうと、ローズはただうつむいただけだった。


「兄上、ローズにとって、安全な場所はどこにもありませんよ」


エフェルガンはシリアスな顔でファリズに言った。


「アルハトロスはここよりずっと安全だ」

「そうではなかった。龍神の都でローズが襲撃されて、護衛官数人を失ったそうです」

「本当か、ローズ?」


驚いたファリズに、ローズがうなずいた。


「うん」


エフェルガンはため息ついて、ローズを見つめている。


「それに、世界中の賞金首ハンターはローズを狙っているのです。モルグ王国が莫大な賞金をかけている。生死問わずにお金を出すそうだ。生きたまま捕獲できると、その10倍の金額が出るとロッコ殿から聞きました」


それを聞いたファリズは頭を抱えた。


「なんてことだ。ローズ、あなたはいったい何をした?」


ローズはまたうつむいた。何を答えれば良いのか、彼女自身も分からない。


「ローズはただ自分が正しいと思ったことをしただけです。オオラモルグで、僕を助けるために戦場へ行った結果、一つの国、オオラモルグが滅んでしまった。それが原因で、モルグ人がローズを狙っているという話があります」

「里に行けば父上が守って下さる」

「それでは柳という人の考えと同じじゃないですか?」


エフェルガンは鋭い視線でファリズを見つめている。


「里でも、龍神の都の宮殿でも、ローズは閉じこめられた。まるで籠の中の鳥で、毎晩屋根の上で泣いていたのですよ。僕はローズを苦しませたくない」

「だが、貴殿はローズを守れなかっただろうが?この拉致事件は貴殿の失態だ」

「認めます。僕の判断が甘かった。だから二度と同じ過ちをしないと誓う」

「また護衛官を死なせるとでも?」


死ぬって・・誰が?、とローズがエフェルガンを見て、驚いた。


「兄上!」


エフェルガンは思わず声を荒げてしまった。


「エフェルガン・・死ぬって・・誰が・・誰が死んじゃったの?」


ローズは震えている声でエフェルガンに聞いた。エフェルガンは悲しい顔で目を閉じて、息を整えてから、また目を開いた。


「コータが・・殉職した」

「いや・・」

「ジャンは今手当を受けている最中だ。彼が瀕死だったが、一命を取り留めた」

「いやよ・・」


ローズが思わず泣いてしまった。また自分のために人が死んでしまった。エフェルガンは泣いているローズを優しく抱きしめた。彼も本当はとても辛かった。ファリズはただ黙っているだけだった。


「エフェルガン、コータって、唇に小さな金の輪っかの飾りをしている護衛官だよね?髪が黄色い、体があまり大きくないが、とても素早い人で・・」

「ああ、そうだ」

「あのコータが・・どうして・・?」

「毒針が不運に首の血管をやぶって・・そのまま・・」


なんてことを・・。ローズを護衛したから命を落としてしまった。コータ、ごめんなさい。自分が殺したと同じだ、とローズが思いながら、泣いた。


悲しくて、悔しくて、自分に対する怒りが湧き上がった。ローズが思わず大きな声で泣いてしまった。エフェルガンはただ彼女を抱きしめて、頭をなでてくれた。


「すまん。泣かすつもりがなかった」


ファリズが困った顔をした。全開になったオーラが静まった。


「私はやはり疫病神だ。私は死んだ方が世界が平和になる。・・私のために誰も死なないように、死んだ方が・・」


ローズが声を大きく泣いてしまった。悔しすぎて、自分の存在がこんなにきらいになってしまった。


「いや、違うんだ・・落ち着いて、ローズ。違うんだ・・」

「何が違うんだ。私がどこにいても不幸なことしか起こらない!」

「いや。ローズのせいじゃないんだ。悪いのがローズを物として考えている人たちだ。ローズに対する身が手な思いを抱く人々だ。ローズが悪くない」


エフェルガンが言っても、ローズが大きな声で泣いている。けれど、彼女は心の中にいる怒りをすべて涙に変えるしかできない。何もできない自分がきらいだ、と何度もそれを考えてしまう。


「エフェルガンの言った通りだ、ローズ」


泣いた妹を見て、ファリズは優しい声で話しをかけた。


「俺はローズのことが何も知らなかった。妹として大切だと思ったが、ローズがこんなに苦しんでいることが知らなかった。勝手なことを言って、すまんな」

「兄さん・・」

「だから自分が死んだ方が良いという考えをやめろ」

「・・・」

「それは死んだ護衛官に対して無礼極まりないだからだ」


ファリズはそう言って、ローズを見つめている。


「・・・ごめんなさい」


ファリズは立ち上がって、寝台に座っているローズの頭をなでた。


「もう泣かないで・・、皆が心配してしまう」

「う、うん」


あの大きな鬼神の手が彼女の頭をなでた。


「エフェルガン」


ファリズはエフェルガンを見て、声をかけた。


「はい」

「ローズを任せた」

「どこへ行くんですか?」

「ローズを拉致した奴を捕まえに行く」

「分かるんですか?」

「ローズの服に付着した血は犯人の血だろう?」


ファリズは無惨になったローズの服を手に持った。


「うん。トゲに刺さった時に相手の足と腰が怪我したの」


ローズが説明すると、ファリズとエフェルガンは眉をひそめた。


「トゲ?」


二人とも同時に聞いた。


「うん、・・とても怖かったから、つい全身からトゲが出てきてしまった。私の体の上に乗っていたあの人の足と股間が、大きなトゲに刺さって・・」


そう説明すると、ファリズとエフェルガンは痛そうな顔をした。


「股間か・・痛そうだな」

「痛そうですね」


ファリズがそういうと、エフェルガンもうなずいて、同情した。


「うむ」

「でもこれで手がかりができた。似たような血の匂いに辿れば犯人が分かる」


ファリズは何らかの呪文を唱えた。そして床に手を当てると床からもこもこと煙りのような出てきた。犬のような生きものが現れてきたけれど、どこかが違う。その生き物は赤い炎に包まれていて、色が黒い。鋭い牙を持ち、体に変な模様がある。


「地獄の犬だ。俺の使い魔のケルズだ。かわいいだろう?」


ローズが無言で瞬いた。いや・・あれはかわいいのか、と彼女が思った。怖いけれど、でもとりあえず挨拶だけでも・・。


「ケルズ、よろしく・・」

「ガルルルルルルルル」

「ひぃ・・」


ローズが怖がっていると、ファリズが笑った。


「はい、ケルズ。この血の持ち主を捜せ!」


ファリズは服に付着した血をケルズの鼻につけると、ケルズはすごい早さで窓から出て行った。ファリズも窓から出て行った。エフェルガンは慌ててケルゼックを呼んで、後を追うように命じた。エトゥレも数人の護衛官や暗部もファリズの後をついて行った。


「怖い犬だった」

「だな。でもこれで犯人が分かるだろう」

「うん」


エフェルガンは再びローズを見つめた。


「コータのことは残念だったが、仕方がなかった。あとで丁重に埋葬しよう」

「うん」

「ジャンはまだ意識が戻らないが、大丈夫だ。ガレーが見ている」

「見舞いにしても良い?」

「かまわんが、ガレーに許可をもらわないといけない。ローズもまだ毒にやられているからだ」

「うん」

「それにしても・・トゲが出たか。見たかったな」

「うむ、・・私が自分自身を見て、怖かった」

「服があんなになるまで相当大きなトゲだったんだな」

「うん。毒で制御ができなかった。暴走してしまったの」


ローズがうつむきながら言うと、エフェルガンが微笑んだ。


「でもおかげで助かった。ローズは薔薇の木の性質を持って、良かった」

「うむ」

「もう休め。安心して、この部屋はもう暗部に調べられて、潜伏した敵がいない。ハインズとエファインはそこのソファで見張るように命じるから、安心して眠って良いよ」

「余計に眠れないよ」

「置物だと考えれば良い」

「うむ」


置物なんて、とローズがエフェルガンを見て、瞬いた。


「部屋の外に他の護衛官を配置するから安心して」

「エフェルガン、ありがとう」

「はい」

「一つだけ聞きたい」

「何?」

「どうやって私を見つけたの?」

「波動だ。ローズの波動を辿って見つけることができた。首都でローズを探した時と同じだ」

「そうか」

「僕はローズの波動を知り尽くしている。ただ事を気づいたのが朝方で対応が遅かった。仕事でやっと宿に戻ったのが朝方になって部屋に入ると2人の護衛官が倒れて、ローズもいなかった。なんとか見つけた時に朝日が昇ってからだった。辛い思いをさせてしまった。許せ」

「そうか・・」


エフェルガンが優しくローズを抱いた。しばらくしてガレーが部屋に入って、フォレットとリンカと一緒に食事を持ってきた。遅い朝餉を食べた後、ガレーの薬を飲んで、ローズはすぐに眠りに落ちてしまった。


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