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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
スズキノヤマ編

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117/811

117. スズキノヤマ帝国 ダナ(5)

「エフェルガン、リンカ、エトゥレ、ガレーにリンク開始!」


ローズは四人を支援するのが限界だ。今回のパーティはこれらのメンバーだ。エトゥレとリンカは外で単独行動なので、状況を把握することが難しい。またガレーも三人を抱えているから支援が必要だ。当然のことだけれど、この中のメンバーから、エフェルガンが一番怪我や死んではいけない人だ。


「はい」


エフェルガンに続いて、次々と呼びかけに答えて、リンカたちも返事した。


「エフェルガンに、リンカに、ガレーに、エトゥレにバリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」


当然、自分自身にもかけた。


扉が外から破戒されたと同時にエフェルガンはいきなり大魔法をぶっ放した。豪快な歓迎だ!、とローズも驚いた。


エフェルガンの魔法と同時に護衛官達は前へ動いて、敵を向かい撃つ。そして、エフェルガンは次の攻撃を備えている。


それはマルチロックの迎撃魔法だ!、とローズがエフェルガンを見て、思った。


エフェルガンの手の平から魔法が出て、複数の敵を同時に魔法で狙い撃つ。かなり難しい技なんだけれど、エフェルガンはその技をマスターしている。パララでリンカに教えられたばかりなのに、もうマスターしているなんて、本当にこの人は戦い才能があって、天才だ、とローズは何度も思った。物理攻撃と魔法の切り替えがとてもうまい、と。


日常的に、彼を殺しに来る暗殺者を相手にしているから、戦闘に慣れている。また護衛官らも誰がどう動くかすべて把握して、連携している。


隣の部屋からは悲鳴が聞こえていて、どうやらリンカとエトゥレが攻撃し始めている。怒鳴り声と悲鳴が同時に聞こえてきて、開いている大きな扉から見えているのは、飛び散った血と空を舞うの死神リンカだ。恐ろしい暗殺技だ。


ローズはその辺りの一般の地方兵士らはリンカたちの敵ではない、と彼女が思う。かわいそうに、愚かな支配者のために、彼らが命を落としてしまう。しかし、やらなければこちらが死ぬことになるから、仕方なく相手にしているわけだ。


そのどさくさの中、四つ這いになったゲラルディーヌが見えた。彼女は何とか無事に部屋に入って、領主ゲラルドの元へ来て、縛り着いた枝を切ろうとした。けれど、オレファの動きの方が早かった。彼の剣がゲラルディーヌの首に止まった。


「武器を捨てろ!それから兵士に攻撃をやめるように指示を出しなさい。でないと、この剣であなたの首を刎ねる」


オレファの言葉に、ゲラルディーヌが震えてしまった。手から武器が床に落ちて、泣きながら兵士達に攻撃がやめるようにと命じた。兵士達はその命令を聞いて、戦闘をやめて、武器を捨てた。彼らが跪いて、手を頭の上につけて、降参した。エフェルガンは兵士達に屋敷の外で待機するようにと命じた。エフェルガンは、兵士がただ命令に従って動いただけだ、と分かったからこれ以上無駄な血を流したくないと思ったのでしょう。


しかし広間は死体だらけで、さすがに恐ろしい風景になった。エフェルガンは地方の兵士らに、怪我人や死体を外へ運ぶように命じた。ケルゼックたちも兵士が捨てた武器を部屋の片隅に集めて置いた。床に血がいっぱいついているから、滑るとハインズが言って、一人の兵士に床掃除をさせた。


「これより、ダナ家ゲラルド公爵、ダナ地方の領主の職から一時的にその権限を解くとする。皇帝陛下から賜った権限により、皇太子エフェルガンは本日からこのダナ地方において、最高支配者とする。すべての者に告ぐ、この決定事項に従わない者は反逆者と見なす」


エフェルガンはゲラルドとゲラルディーヌの前に立って告げた。そしてケルゼックはその決定事項を窓から大きな声で告げた。先ほどまで戦っていた兵士達は落胆して外でおとなしく待機している。


「最初からこのようなことをしなければ良いのに。無駄死にした兵士がかわいそうだ」


エフェルガンはため息をまじりながら、ゲラルドとゲラルディーヌの前に座った。


「私はただ・・殿下を助けたかっただけで・・」


ゲラルディーヌが泣きながらいうとエフェルガンが呆れた顔をした。


「何からだ?ローズ?」

「はい。あのような女・・」

「だまれ!」

「はひ!」


エフェルガンは機嫌悪くゲラルディーヌの言葉を切った。ゲラルディーヌはまた震えて泣いてしまった。


「ローズは私の婚約者だ。正式に発表がなくても、私にとって問題ではない。ローズのことを散々悪く言ったその方こそ、何様のつもりだ?」

「私はただ・・エフェルガン様のために・・」


ゲラルディーヌが震えながら、エフェルガンの質問に答えた。


「ローズは聖龍様の娘だ。私はその聖龍様に会って、確かめた。聖龍様にローズへの気持ちを伝えて、妃にしたいと求婚した。この額にある印は聖龍様と交わした約束の印だ」

「・・・」

「だからその方らが彼女のことをあんなに悪く言ったことを許さない。彼女が許しても、私は許さない。ローズを侮辱したということは、私への侮辱であり、この国の守り神である聖龍様への侮辱であり、この世界の創造神である龍神様への侮辱であり、そして我々の同盟国であるアルハトロス王国への侮辱でもある。自分たちの行いを思い出して、反省して、裁きを受けるんだな」


ゲラルディーヌが泣き崩れた。涙で化粧が崩れて、美しい顔が恐ろしく見えてしまった。


「また彼女への暗殺の企みや毒殺疑惑の件も調べないといけない。その方らの関わりも、徹底的に調べるから覚悟するが良い」

「暗殺・・いや、私は知らない。本当でございます!」

「調べれば分かることだ」


ゲラルディーヌは首を振って、泣きながら無実を訴える。ゲラルドも首を振った。


「そんな必要がありませんよ、殿下」


突然部屋の外から声が聞こえた。どこかに聞いたことがある声だ。


「レデナ様?」


ローズが言うと全員びっくりした顔で、声の方向へ顔を向けた。レデナは開いている扉から優雅に歩いて入ってきた。


「母上?無事だったのか?」

「お母様?どういうことですか?」


ゲラルドとゲラルディーヌが驚いて、目の前にある事実に信じられないような顔をしている。


「無事も何も、最初から毒なんてありませんでしたわ」


顔色を変えずにまっすぐにローズたちを見つめている。


「どういうことか、説明をしてもらおうか?」


エフェルガンは立ち上がってレデナに向かって言った。ケルゼックはエフェルガンのそばに動いた。


「その異国の姫さえいなければ何もかもすべてがうまくいくはずだった。忌々しい!彼女はミミズクフクロウ種族の皇家には相応しくありません」


レデナはローズに向かって指を指した。


「自分が何を言っているか分かっているのか、レデナ」


エフェルガンは呆れた声でレデナを問いかけた。


「ええ、分かりますとも。その異国の姫がいたから我が娘のゲラルディーヌとの縁談が破談になったのではありませんか?」

「お母様・・」


ゲラルディーヌは母親に信じられない顔で見つめた。


「縁談?知らんな・・」


エフェルガンは首を傾げた。


「我がダナ家は殿下との縁談を宰相と進めていたのですが、殿下はその姫に夢中で、お話すら聞いて下さらないと・・」

「記憶にない」


エフェルガンがきっぱりと答えた。


「例え、記憶があっても、ローズ以外の女性に興味がない」


そこまで言われたら、ゲラルディーヌのプライドはずたずたになってしまうのだ。かわいそうだ、とローズが思ったけれど、これはどうしようもない問題だ。政略的に良くても、エフェルガンの性格から考えると難しいでしょう。


「そうですか。どうしてもその異国の姫を妃になさるのですか?」

「当たり前だ」

「分かりました」


レデナはため息をついた。


「一つだけ訊こう。あの暗殺の件だが、あれはローズを狙ったものだと聞いたが、なぜその方の息子まで殺そうとした?」


エフェルガンは鋭い視線でレデナに答えを求めている。レデナは優雅に微笑んでいる。


「ゲラルドは私が産んだ子ではありませんでした。亡き夫が身分が低い(いや)しい草花精霊の女に生ませた子だ。だからまとめて、その忌々しい異国の姫と死ねば良いと思いました」

「母上!」

「母と呼ぶな!そなたの顔を見るだけであの女の顔を思い出してしまうのです!汚らわしい!」


ゲラルドがショックのあまり言葉を失った。彼にそんな秘密があったとは思わなかった、とローズは瞬きながら彼らを見ている。


「事情が分かった。だが、その方を許す気はない。裁きを受けるんだな、レデナ」


エフェルガンは冷たい声でレデナに言った。


「私は殿下の許しなどいりません。殿下は本日この屋敷の中で死んで頂きます」


レデナの合図で部屋の中にぞろぞろと暗殺者が集まってきた。今回は一般の兵士よりもレベルがずっと上の敵だ。油断したら、死ぬ。


「勝手なことを言うな。全員戦闘準備せよ!」


エフェルガンの指示で全員武器を構えた。レデナは後ろに下がって部屋から出て行って、代わりに暗殺者がたくさん現れた。一人の暗殺者はゲラルディーヌの手を引っ張って部屋の外へ連れて出て行った。


レデナとゲラルディーヌが部屋の外に出て行った後、暗殺者らがローズたちを襲いかかる。ガレーは一人で三人を守るのが難しいので、ローズもハティも武器を抜いて構えた。エファインはローズたちを壁の方に誘導して比較的に安全な場所を選んだけれど、敵の数が多すぎて、囲まれてしまった。


「エファインにリンク開始!」


五人を支援するのがかなり大変だ。しかし、エファインの具合が良くない。本調子ではない彼が、この状況は非常にまずい。


「はい!」


繋がった!


「エファインにバリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」

「ありがとうございます!」


支援魔法にかかったと実感したエファインは相手の攻撃を受け止めながら答えた。これであとガレーとエトゥレとリンカとエフェルガンとローズ自身の支援魔法とかけ直すつもりだったけれど、その余裕がなかった。敵が多くて、結局ローズはハティを守りながら、戦うことになった。思った以上に、戦闘しながら自分自身にバリアーと支援魔法をかけるのが大変で、精一杯だった。


ローズは第三の目を発動して、敵の動きを少し把握してきた。攻撃パターンがバラバラで、まるでかき集めた暗殺者だと感じた。


あの森で攻撃した暗殺者と別のところで依頼したのかもしれない、と彼女が思った。しかし、暗殺者はローズたちを殺しに来ているので、今は余計なことを考えないようにする、と。相手に集中するのだ、とローズが再び集中した。


縛られているゲラルドは必死に敵の攻撃をかわそうとした。顔に死ぬ恐怖が現れている。仕方がないので、ローズはゲラルドを引っ張って、壁際にいるハティに任せた。


ローズとエファインとガレーが数人の暗殺者に囲まれていて必死に応戦している。エトゥレはリンカと組んで、その二人がうまく連携攻撃をやっている。リンカはとても素早く、鮮やかな攻撃を繰り返し、敵を散らかし殺した。本当に美しい死神だ、とローズがちらっと彼女を見て、思った。


ハインズたちもエフェルガンを守り、必死に戦っている。エフェルガンは数歩と後ろに下がってマルチロックの迎撃魔法を放ち、数十人の敵を倒した。しかし、窓の外からも敵が窓を突き破って窓際にいるエフェルガンを襲いかかる。


危ない!


「バリアー・シールド!」


エフェルガンの頭に振り下ろされる剣がバリアー魔法で止めた。


「ありがとう、ローズ!」

「油断しないで!」

「分かった。すまん!」


エフェルガンは後ろにさがって、構え直して相手の攻撃を剣で応戦している。激しい戦いが再び開始された。


「エフェルガンにバリアー!速度増加エンチャント!攻撃増加エンチャント!」


ローズは支援魔法をかけて、周囲の状況を確認した。エフェルガンの魔法攻撃は風属性の攻撃魔法だった。その魔法に当たった者がほとんど倒れた。もしかすると、風攻撃が効果的かもしれない。


「風属性武器エンチャント!」


試しに自分が使ってみた。パチパチと電気が走っている剣は恐ろしいほど敵を感電して襲いかかる。剣を振るたびに電気みえて電気ショックを与えた。これなら行ける!


「リンカに風属性武器エンチャント!」

(おお!)


頭の中にリンカの喜びの声が聞こえた。


「ローズ様、私にもそれを下さい~!」


隣の部屋からエトゥレの大きな声が聞こえた。


「はい!」


エトゥレの要望通り、風属性の武器エンチャントを与えた。


「すげー!」


嬉しそうにエトゥレの声が聞こえた。


「ローズ、僕にも!」


エフェルガンも声を出した。あの人は自分で魔法を使えるのに・・、とローズがうなずいて、エフェルガンに魔法をかけた。というか、ガレーもエファインも欲しいと言い始めた。エファインもガレーも手に届く場所にいるから簡単に魔法をかけられるが、遠くにいるハインズ達は残念ながらパーティ外なので遠距離支援魔法をかけることができない。


いきなり天井裏がやぶられて、敵が降ってきた。いったいレデナは何十人の暗殺者を雇ったのか。やはりたった30人か50人程度だけでローズたちを殺すことができなかったと分かったから、今回は多めに雇ったのかもしれない。迷惑な話だ。


「ああ!」

「ハティ!」


ハティの肩に敵の攻撃が入ったが、ハティは必死に抵抗している。意外とハティは短剣の使い方が上手だ。これでもエフェルガンとともに数々の修羅場を括り抜いた毒味役だから、強い人だ。


「ハティ、下がって!」

「はい!」


ローズはハティをかばい、攻撃を応じた。彼女は回転しながら、敵の剣をたたき落として、左手に鞭を出した。その鞭で敵の頭を狙い、下から上へと鞭を振り上げた。命中した。ローズの魔法の武器は茨の鞭だ。これは木の精霊である母がくれた魔法の武器で、防衛用蔓とセットで彼女の体内に埋め込まれている。ローズは薔薇の木なので、トゲがある鞭となった。大きさも重さもトゲ具合もすべて自由に設定できるので、とても便利な武器だ。ただ魔力に依存するため、使うときに注意が必要だ。


鋭いトゲがびっしりの鞭に当たった敵は無惨な姿になった。トゲにえぐられた皮膚をみれば、食欲を失うでしょう。ローズの聞き手は右だけれど、左手をちゃんと訓練したから若干攻撃力が弱くても、右手と負けないぐらい凶器だ。しかも剣よりも鞭の方が小さいころから使い慣れているため、使いこなしている自信がある。これでも元傭兵のダルガの弟子だったから、とローズが敵を襲いかかる。


ローズが鞭を使うと分かったガレーとエファインは距離を取った。鞭の範囲攻撃を計算し、攻撃に巻き込まれないように位置を把握した。


ローズは鞭の攻撃範囲内に入る敵を容赦なく殺すと宣言したら、敵も真剣に構え直した。当然鞭にも電気ショックをエンチャントした。考えてみたら、いくら広間が広くても、室内でこんな危ない武器を振り回している自分も危険人物でしょう、とローズが思った。


ローズの右手に愛用の両刃剣と、左手に鋭いトゲの鞭を構え、息を整える。集中して、敵の動きや波動を読み取る。室内は死体だらけで動きにくい。だから早く決着をつけなければならない。


攻撃をためらっている敵はローズの獲物だ。戦い中に考えすぎてはいけない。多分この暗殺者はどこから、攻撃すれば良いのか迷っているのでしょう。ならば、先にローズの方から、近づいて彼を殺す。この暗殺者は必死に攻撃を応じていて、手がポケットに動いた。何かをばらまこうとしているのだ。ローズは急いで後ろに下がり、急遽シールド魔法を展開した。この魔法の盾はとても便利だ。ほぼすべての攻撃を防ぐことができる。


暗殺者を投げようとしたのは薬のようなものだ。シールドで何とか防げたから二度目の攻撃がまた来るだろう。ならば・・。


「バインド・ローズ!」


ズズズ・・


ローズは床から茨の枝が出てきて彼を縛り閉めた。茨の枝で縛られた彼の悲鳴が部屋中に響いた。痛かったでしょう、とローズは思った。生かすのも面倒なので、ローズは剣でとどめを刺した。彼の返り血はゲラルドの頭に降りかかり、恐怖のあまりゲラルドが気を失った。


うむ、本当に小心者だ、とローズは思った。


「ハティ、傷は大丈夫か?」


壁際に寄りかかっているハティをみたら、かなり出血がひどいと分かった。


「ガレー! ハティをお願いします!」

「はい!」


医療師兼暗部のガレーは後ろに下がって、ハティの手当をした。その間、ローズとエファインは彼らを守る。


エファインの顔に疲労が表れたけれど、ローズは回復の魔法を唱える余裕がない。それでも彼が必死に剣を振り回している。ローズが申し訳ない気分で、エファインを見て、また戦った。


足下の死体が邪魔でなかなか簡単に歩けなくなった。しかし、敵だって同じ状況だ。


「飛ぶ!」


飛ぶことを念じて、ローズは中に浮いた。小さな体だから死体だらけの床にいるよりも飛んだ方が動きやすい。しかし、飛びながら敵の相手をして、剣で戦うと意外と不便だと分かった。瞬発力が足りない、とローズは思った。


剣を鞘にしまい、両手に鞭を出した。飛びながら戦うなら、攻撃範囲が広い鞭の方が適している。ローズはこれらの鞭だけで、数人を倒した。


チーン!


鞭に何かが当たった。ローズが見ると、それは飛び道具だった。どこから来た攻撃かと、周囲をみたら天井裏から飛び道具を投げている数人の暗殺者がいた。


ハインズが飛び道具に当たって、怪我した。負傷したハインズに気づいたエフェルガンは彼を後ろに引っ張って、ガレーを呼んだ。ハティの手当を終えたガレーは素早くハインズの元へ移動した。その間エフェルガンはマルチロック魔法で屋根裏に潜んでいる敵十数人を同時に魔法で攻撃した。数人の暗殺者が屋根から雨のように落ちてきた。当たると面倒なので頭の上に大きくバリアー・シールド魔法を展開した。その魔法の盾で落ちて来た死体を受け止めてまとめて別の方向に傾けて落とした。


「ええい!たった10人の相手になぜ殺せないのか!あなた達に高いお金を払ったんだから、ちゃんと仕事をしなさい!}


レデナの怒りの声が聞こえた。でも暗殺者だって死にたくない。状況が不利だと分かって、逃げ出した者がいる。部屋の中にいる暗殺者が、残り十数人程度になった。でもリンカは彼らを逃がすつもりがなさそうだ。身のまわりの数人を切り捨てた後、リンカは高く飛んで、魔法を唱えた。


「火の輪」


低い声で、彼女の手の平から火属性の魔法が放たれた。複数の暗殺者がレデナとゲラルディーヌの目の前で火だるまになって悲鳴をあげながら、苦痛に満ちる表情でもがいて、息絶えた。あまりの恐怖にゲラルディーヌは悲鳴をあげて気を失った。怖いものを見てしまって耐えられなかったようだ。後がないレデナは自害しようとしたけれど、エトゥレが素早く動いて阻止した。彼女は裁判にかける必要があるから、今死なす訳にはいけない。


エフェルガン達も数人の暗殺者を倒した後、周囲を見渡した。念のため、ローズが探知魔法をかけた。天井裏に誰もいない。もう敵が全員倒されたようだ。


「終わったか。全員無事か?」


エフェルガンの声に次々と答えた護衛官達であった。頼もしい人たちに囲まれて、エフェルガンの顔に満足した笑みが浮かんだ。


ローズは鞭を消した。浮いている状態のままで部屋を見渡している。恐ろしい風景だ。こんなにたくさんの死体はどうやって片づけるのか、彼女が考えるだけでため息をついた。


「お疲れ、ローズ」


エフェルガンは浮いているローズの前にいて、腰に手を回してくれて、自分に抱き寄せた。彼の額の光がとても鮮やかだ。顔や体に返り血がかかっているけれど、彼自身に怪我がなさそうだ。ローズは彼の首に手を回した。


「エフェルガンもお疲れ様でした」

「ローズも無事でよかった」

「うん。ハティとハインズが怪我したけど、大丈夫かな?」

「大丈夫だ。彼らは強い。それにガレーもいるから心配はいらない」

「よかった」


エフェルガンはローズの唇に口付けした。最近彼は堂々と人前でも、ローズの許可なしに口付けをする。恥ずかしいけれど、ローズが同時満月による痛みの半分を受けてくれる人だから、良しとした。


「別の部屋で休んでも良いかな。この部屋は死体だらけで、ちょっと気分が・・」

「そうだな。少し休め。怪我人も別の部屋で休ませてあげないと」

「うん。この屋敷の部屋を勝手に使っても良いかな」

「かまわん。主なき屋敷だから、この屋敷の支配権利は今から僕が取る」

「分かった。リンカとお風呂に行ってくるね・・んー・・」


エフェルガンは返事せず、また口づけした。ガレーの手当を受けている怪我人のハインズは、ローズたちを見ながらニヤニヤと笑っている。


恥ずかしい、とローズが思った。


リンカが近くまで来ると、エフェルガンはローズをリンカに任せた。そしてケルゼックに指示をして怪我人とローズたちを部屋で休めるようにと、この屋敷の使用人の手配を命じた。


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