110. スズキノヤマ帝国 メラープ村(2)
「火山が・・噴火している・・」
「ローズ!僕を援護して、ここに降ってくる石を破壊する!」
「はい!」
エフェルガンの声で、驚いた様子から一転して戦闘モードになったローズである。これは火山との戦いだ。即時にパーティを組まないといけない。
「エフェルガンにリンク開始!」
「了解」
エフェルガンの返事でエフェルガンとのリンクができた。
「エフェルガンに金のバリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」
「ありがとう、ローズ」
エフェルガンは翼を羽ばたきながら村に降ってきた石をマルチロックの迎撃魔法で撃って破壊した。石は粉々になり、地面に落ちてきた。そうだ、リンカにもリンクをしなければいけない。
「リンカにリンク開始!」
(あい)
「リンカに金のバリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」
(ローズ、下を任せて。あなたは殿下と一緒にいて)
「はい!」
(あと、ガレーを見かけたらここへ呼んで。怪我人が多い)
「分かった!」
リンカは大きなバリアー・シールドの魔法を唱えて、周囲の人々を降ってきた石から守っている。ローズはリンカの指示通り、エフェルガンの近くまで飛んでいく。もちろん自分自身にはすべての支援魔法とバリアーをかけた。
「まずい。あの大きな石が降ってくる!」
エフェルガンの目の先に直径三メートルぐらいの大きな石が見えた。ここに落ちたら、被害が大きい。
「ローズ、僕はそれを砕くから、ローズがその破片を処理して」
「はい!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
エフェルガンは力を集中して、両手が光り出した。同時に額にある印も色鮮やかに光り出した。暗い夜なのに、あまりの明るさにはっきりと見える。
エフェルガンは両手に力を集中して、すごい勢いであの大きさ石を拳で破壊した。破壊された大きさ石がバラバラと砕き、比較的に小さな石になった。けれど、それでもあの高さから、逃げ回った人々の上に落ちれば怪我人どころか、死人が出るでしょう。だからローズが第三の目を発動して、エフェルガンの後ろで構えている。石が砕けたところで魔法で向かい撃つ、と。
「マルチロック! ライトニング!」
風属性の雷攻撃が同時に散らばって飛んできた石を破壊したが、まだたくさんある!間に合わない!
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
エフェルガン叫びながら、後ろへ振り向いて、素早く物理攻撃モードから魔法攻撃モードに切り替えた。そして彼が凄まじく同時に複数の魔法を放ち、ローズが打ち損じた石をすべて破壊した。この人は戦闘の天才だ、とローズは素直に思った。
「大丈夫か、ローズ?」
「はい!」
「なら、次に行こう!」
「はい!」
ローズの無事を確認してから、二人でまた次の石を向かい撃つ準備にかかる。二人で次々と石を破壊していて、気づいたらいつの間にかケルゼック達もローズたちの周りにいた。
「殿下!」
「ケルゼック、ハインズ、オレファ、エファイン、ハティも無事か?」
「はい!全員無事です!」
ケルゼックが答えるとエフェルガンがうなずいた。
「ハティは下でリンカさんとがれきの下敷きになった人を救出中です」
ケルゼックが報告した。
「なら、ハインズとオレファはリンカ達を手伝え!ケルゼックとエファインはローズの警護に回れ!」
「はっ!」
ハインズとオレファは直ちにリンカの元へ向かった。これで残りはあと二人の暗部の安否だ。
「ガレー、いるなら答えて」
リンクをかけてみた。しばらくしたら音信が来た。
「エフェルガン、ガレーとエトゥレが無事だ!」
「そうか、良かった」
「エトゥレがちょっと怪我したけど、ガレーが手当したから問題ないって」
「分かった。あの二人に村人の避難と救出にリンカ達とともにやれと伝えてくれ」
「はい!」
エフェルガンの指示をガレーに伝えると了解された。
噴火がますます激しくなり、飛んできた石が多く、ローズたちはひたずら破壊するしかなかった。そして、飛んできた石がやんだところで恐れられる事態が来た。溶岩が流れて来る。しかも今まで予測された方向とまったく正反対の方向に流れてきたのだ!
「このままじゃ、村が溶岩に飲み込まれてしまう!」
「考えがあるのか?ローズ」
「山の向こう側なら溶岩の流れるための道があるんだよね」
「あるよ。砂防ダムもある」
「なら、その斜面をこの溶岩がたれ込んでいるよりも低い位置にまで削れば、溶岩があちらに流れるかもしれない」
「分かった。そこは僕に任せて、ローズはあの流れる溶岩を村に到達する前になんとかしてくれ。ケルゼック、僕に付いてきて」
「はっ!」
エフェルガンとケルゼックが素早く移動した。ローズとエファインは山の斜面のぎりぎりまで近づいた。熱い!、と彼女が感じた。
エファインはローズの周りに飛んできた石を破壊してくれている。ローズは大魔法の準備をする。念のため、ローズとエフェルガンの支援をすべてかけ直した。
「自然よ!ローズが命じる:我に力を与えたまえ!」
ドーン!
大きな力が集まってきた。ローズの体が一気に光り出している。気を集中し、どろどろと流れてくる溶岩の範囲をみて、魔法を唱える。
「大地の壁・・ギガ・アース・ウォール!」
山の斜面から広い範囲で土が盛り上がり、壁を作り、溶岩の流れる動きを止める。
「続いて、氷の壁・・ギガ・アイス・ウォール!」
その熱い溶岩を止めている大地の壁の外側に巨大な氷の壁を作った。熱い溶岩に冷たい氷の壁にあたると水蒸気があがり、溶岩が固まり始めたけれど、上からまだ流れている。
エフェルガン、まだ削り作業が終わってないのか、とローズはまた山を見ている。
「アイス・ウォール!」
ローズは所々で氷の壁を作って、溶岩の動きを止めた。また流れる斜面にもかためてみる。実に熱い、と。水蒸気が上がって、すごくくさいにおいをした。また火山灰もたくさん降っている。
「バリアー・シールド!」
ローズは頭の上に魔法の盾を唱えた。これで小石や火山灰が少し防げた。
「エファイン、大丈夫か?」
「はい」
「この溶岩、どうやってうまく流せば良いか、考えがある?」
「ここで止めていても、崩落するかもしれません。向こうにある川に流れれば、無難かと」
「なるほど。良いかもしれない。じゃ、これから壁を作って溶岩を川に逃がすね!私の援護をよろしく!」
「了解!」
まだぐつぐつと煮えているような熱い溶岩が固まる表面から出始めた。ここにいるだけでも熱い、とローズは思った。絶対あれを触りたくない、と。
ローズが気を取り直して、再び魔法を集中する。
「ギガ・アース・ウォール!」
次々と広い範囲で土が盛り上がり壁になって、熱い溶岩の流れをコントロールする。氷の壁を溶かし、再び流れ出す溶岩がゆっくりと土の壁を沿って、下へ流れ出した。溶岩は村の外で流れて、ゆっくりと川へ向かっていく。山の斜面の木々が燃えているが、なんとか村への被害を回避できた。川に向かっている溶岩の動きが段々遅くなっていく。
「上からの流れが止まってきた!」
エファインが山の上を示した。確かに流れが止まった。山の向こう側がこちら側よりも低くなったのか。
「ローズ! 削ったよ!」
エフェルガンとケルゼックが見えてきた。エフェルガンはローズの隣にきて、溶岩の流れ具合をみた。
「ここもうまくいったな」
「うん、なんとか村を回避できたが、火山灰がすごいの」
「風で吹っ飛ばせるかな」
「できるけど、少し離れたところからやった方が効果的だと思う」
「分かった。行こうか!」
「はい!」
ローズたちはここから離れて、距離をおいて、構えた。
「このぐらいの距離なら良いかもしれない」
「うん・・じゃ、行くよ!」
「風!」
「ウィンド・ストーム!」
エフェルガンが風を起こしとともに、ローズは嵐を起こした。強力な風と風を巻き込み、村から山の反対側へ向かって風が荒々しく吹いている。多分この風はパララまで行くのではないかとローズが思うけれど、痛みの分かち合いということでパララの人々が火山が噴火していることに気づくでしょう。
「火山灰がここからの反対側に降っているね」
「ああ、うまくいったな」
「これってどのぐらいまで噴火するの?」
「分からない。数日間かかるかもしれない」
「じゃ、住民の避難をしないといけないのね」
「そうだね。村長がなんとかするだろう」
「うん。リンカ達も下にいるからなんとかなる。その前に川に向かっている溶岩をかためておかないとね」
ローズは川へ向かって飛んでいく。まだ熱くどろどろと周りを燃やしながらゆっくりと移動している。そんなどろどろな溶岩に、再び氷の魔法を落とした。氷の周りに溶岩が固まってきた。温度が下がったから動きも段々遅くなってきたと同時に所々で黒く固まった溶岩の表面のすき間から火柱が立った。熱い。
ローズは再び氷の壁を作った。今度はもっと厚くした。冷たい氷と熱い溶岩がぶつかる時の蒸し暑さが気持ち悪いと彼女が感じたけれど、もう少し我慢しなければいけないようだ。
「大丈夫か、ローズ」
「ちょっと・・疲れたかもしれない」
「苦労かけたな。ありがとう」
「うん」
エフェルガンはローズの隣に来た。身なりがぼろぼろだ。多分飛び散った石の破片で服や体に当たったのでしょう。いくつか切り傷があった。頭や顔に黒い汚れがたくさん付いている。
「怪我してる・・」
「大丈夫だ。このぐらいならなんとか自分で治せるよ」
「うん」
「ローズこそ、こんなに汚れると、髪の毛を洗うのに大変そうだ。水があると良いんだが・・」
「うーん、こんな時は水が貴重なものだから、髪の毛をしばらく洗えない。でも大丈夫だよ、落ち着くまで我慢するよ」
「そうだな。しばらく苦労をかけてしまう。許せ」
「ううん、エフェルガンのせいじゃないんだ。自然災害なんだから、仕方ないよ」
「そうか。理解してくれてありがとう」
エフェルガンはローズの肩に手をかけて自分に寄せる。目の前にしばらく固まりつつ溶岩を見ながら、しばらく互いの存在を認識している。でもエフェルガンは、多分、今考え中だろう。これからが大変だ。安全確保、食料の確保や調達、そして被害の確認、村の再生など、これらの課題が待っている。
ほとんどの溶岩は山の反対側に流れているため、もうこの辺りに新たな溶岩の追加がない、とローズは思った。雨さえ降らなければ、多分しばらく大丈夫でしょう。少しずつ溶けている巨大の氷の壁が大地を濡らし、山火事もおさまってきた。
「多分、もう大丈夫だと思う」
「そうだな」
「村に戻る?」
「そうしよう」
「うん」
「避難所に行って、ローズは少し休め。エファイン、ローズを頼む。僕は被害状況を確認する。ケルゼック、行くぞ」
「はっ!」
ローズとエファインが村に向かって飛んで、エフェルガンは村全体の被害確認を上空から確認している。こんな強風の中、彼は大体の状況を把握しているのでしょうか、とローズが振り向いて、思った。
村に戻ると、村長や村人達が火事を鎮圧し、救助活動を行っている。ガレー達は怪我人の手当に追われている。ハインズ達も倒壊した建物から人々を助けた。まだ光ったままの姿で戻ってきたローズを見て、村人達は驚いて、逃げ出した人もいたけれど、空中でのローズとエフェルガンの活躍を目撃した人もいて、礼を言った。ガレーの近くで避難した人々に毛布を配っているハティにローズの身分についてを聞くと、ハティはガレーに顔を見合わせてから、ハティは正直に答えた。すると、村人達が平服してしまった。ここにいると居づらいと思うから、軽く挨拶してから、エファインと一緒に別の部屋にいて、休むことにした。リンカは毛布と飲み物を持って来て、近くに置いた。ローズもエフェルガンも裸足のまま宿を飛び出したから、避難所の床が冷たく感じる。それを気づいたリンカは宿に戻って靴を取ってくると言って、再び外へ出て行った。ついでにローズはエフェルガンの履き物もリンカに頼んだ。仕事モードのエフェルガンだから、足に何か刺さるまで裸足であることを気づかないでしょう、とローズは思った。
エファインが持ってきてくれたタオルで顔や手を拭いた。かなり汚れている。白だった服が黒や灰色になった。気に入った服だったのに、ぼろぼろになった、とローズは残念そうに自分の服を見ている。しばらくすると、ガレーが入ってきて、ローズの脈や熱、そして、目のチェックまでしてくれた。切り傷を手当してから、ひりひりとやけどした肌にあのひんやりした花の香りの軟膏薬を塗った。怪我人の手当を手伝うと言ったら、ガレーが首を振って、ここで休むように、と彼が言った。エファインに細かい指示を出してから、ガレーは再び外に出て村の医療師と再び怪我人の手当する。
部屋の片隅で座っているローズにエファインが毛布をかけてくれた。そして彼はローズの隣に座った。エファインが疲れた顔しているけれど、「大丈夫か」とローズに優しい声をかけた。無口なエファインだけれど、頼りになる護衛官だ、とローズがうなずいた。
ローズ自身は連続して大魔法を使ったから、かなり疲れが出た。疲れに耐えきれず、頭をエファインの腕において、いつの間に眠ってしまった。




