105. スズキノヤマ帝国 パララ(11)
前回の狩りで、ファリズの登場で大物がすべて消えたため、エフェルガンは召喚術で獲物を呼び出そうかと提案した。
ローズが構わないと答えたら、彼は色々な術式の紙を準備すると言って、ずっと部屋に閉じこもっている。術式を書くのが難しいからだ。間違って書いてしまったら、とんでもないものが出てきてしまう恐れがある、とリンカに教えられた。
屋敷内の修復作業が完成していて、壊れた床もきれいになった。庭も見事に完成されて、植えた苗も問題なく生長している。ローズの弦楽器の腕も上がった。最近ハインズとデュエットができるようになった。打楽器もエファインとうまくコラボできて、楽しい日々を過ごしている。
最近のことなんだけれど、海軍や空軍関係者からぬいぐるみやお菓子のプレゼントが良く届くようになった。ローズがぬいぐるみが好きだという噂は、どこからか流れているらしく、すでに20個も届けられてきた。目が見えないので、指の感触でふわふわなぬいぐるみばかりで、気に入っている、とローズは笑いながら言った。お菓子は皆で食べるから、ありがたく頂いている。
剣の練習のことで、最近ハインズやエファインが相手になってくれている。エフェルガンは別メニューの練習をしているらしく、毎日かなりケルゼック達とハードにやっている。複数の暗殺者に攻撃されている場合の想定をして日頃練習をしている。ローズもそのような練習がしたいと言ったら、ガレーに止められた。まだダメだそうだ。
けれど、遅かれ早かれ、彼女を狙う暗殺者も出てくるから、ある程度の練習をした方が良い、と彼女が思う。
今夜は満月だが、二つの月の一つだけの満月だ。一つ分かったことは、この世界の人々は満月が好きだ。満月になると、大体月見のパーティをするのだ。食べる、騒ぐ、歌う、踊る、これらは定番だ。里でもそうだが、スズキノヤマでもそうだ。龍神の都の宮殿にいるときはほぼなかったけれど、ヒスイ城なら庭やベランダで軽く月見パーティやっていた。ロッコと一緒にいたあのキヌア島でもやっていた。
このパララでもエフェルガン達が昼間からパーティの準備をしていた。どこから仕入れてきたか分からないけれど、大きな猪が数頭届けられた。品質チェックが厳しい厨房の料理長とリンカは笑みを浮かべるほどの新鮮な猪だそうだ。これらの猪を調理するのは、この屋敷の主のエフェルガンだ。そう、彼はローズとの約束を果たすために、今夜料理をするそうだ。
キヌア島でエフェルガンはローズの耳を噛んでしまったことで、罰として彼女のために料理をしなければいけないということになった。一度も料理をしたことがないエフェルガンにとって料理は未知の世界だ。この数日間、魔法の召喚術の作成だけではなく、彼は一所懸命料理の知識の本を読んでいたらしい。しかも丸焼きを挑戦したいというのだから、新鮮な猪が求められている訳だ。厨房の料理長は猪の丸焼きを作ったこともないので、リンカは彼らのために特別な授業を行っている。皮の剥ぎ方から始めたこの作業がかなり大変だ。そして猪の内臓も取り出して、食べられる部位と捨てる部位を分けて行う。肉屋に頼んだらきれいな肉のみ届けられるけれど、狩りで獲物を仕留めたら当然この作業をやらなければいけない。狩り場でリンカに甘えられて美味しい料理が食べられたけれど、いつか自分たちでやる時のために、このぐらいの調理スキルがないとダメだ、とリンカに言われた。ちなみに、ローズは里の料理長の下で修業したので、獣の皮の剥ぎ方や動物の解体が得意だ。
慣れてない作業に苦戦中のエフェルガンを見て、心配したケルゼックとオレファだったけれど、厳しいリンカは彼らを手伝わせなかった。仕入れた猪が10頭もあったので、料理長とエフェルガンですべて処理してもらった。
そして味付けもだ。リンカは複数の味付けを紹介してくれた。簡単な塩味から複雑なハーブやハチミツを使うものまで事細かく教えた。あの二人は指示通りにコツコツと作業をしている。使用人や衛兵たちが興味深く見学している。ガレンドラは記録をして、細かく書いている。絵までノートに書いた。
味付けの作業が終わると、次は焚き火の準備だ。じっくりと焼くため、大きな炎はダメだそうだ。石やレンガで作った即席釜も海岸で用意されている。火を起こして、順番に焼いている。あまりにも香ばしいにおいが出ていて、ローズのよだれが出てしまった。はしたない、とリンカの指摘に、ローズが慌ててよだれを拭いた。
次々と焼き上げた猪が机に並べられた。料理長とエフェルガンは少し味見をして満足そうに笑った。
リンカも猪の内臓で料理を作ったそうだ。内臓の煮込み料理と腸の肉詰めなど、豪華な料理の数々も並べられた。あたりまえな話だけれど、リンカはこの屋敷の使用人と衛兵たちにもこれらの料理も振る舞われている。厨房で彼らの分も届けられている、とローズはオレファから聞いた。そしてこれらの料理の記録もガレンドラがしっかりとノートに書いた。
「頂きます!」
ローズは手を合わせてエフェルガンの料理を食べる。美味しい・・。初めて料理をしたのにこんなに上手にできている、とローズは頬張りながら思った。
「どう?」
心配したそうなエフェルガンに対して、ローズは大きな笑みを見せた。
「美味しいわ・・とても美味しい」
「良かった」
エフェルガンがホッとしたな声で微笑んだ。そしてエフェルガンもローズの隣で食べ始めた。ケルゼック達はリンカとオレファが切り分けた分をそれぞれのお皿に入れて焚き火の周りに座って、食べている。
「もっと食べても良いよ。今日はローズのために料理をしたんだから」
「うん、ありがとう」
「キヌア島で、初めてローズに頂きますの言葉の意味を教えてもらったけど、その時はまだピンと来なかった。命を頂いていることを・・こうやって皮を剥ぐ作業から始めると、その言葉の意味を実感した」
エフェルガンが言うと、ローズがうなずいた。
「うん」
「里ではここから教えられるのか?」
「武人の教育の一環だから、教えられると聞いた。私は屋敷の料理長の弟子だったから、その作業を毎回やらされていたんだ」
「領主の娘なのに?」
「うん。領主の娘でも、料理長の弟子なら弟子らしく、毎日皿洗いをしていたよ」
「すごい教育だね」
「まぁ、父上は武人だから、上下関係ははっきりとしているんだ」
「貴族の社会では、違うんだ」
「うん」
ローズがうなずいた。
「でも、僕もこういう教育が必要だと思う。家臣にやってもらうだけではなく、自らやっていく必要があるんだと思う」
「うん」
「ローズの兄上も料理がとても上手で、リンカもとても上手で、やはり里の教育方針は間違ってないと思う。どんな状況でも生き延びることができる術を身につけないといけないな」
「うん」
「まぁ、食べて。まだ色々な味付けがあるんだ。僕はこのハチミツの味が好きだな」
「うん、美味しい。このハーブの味も美味しいんだ」
「塩味も美味しいね・・お酒と合いそうだ」
エフェルガンが笑って、また肉を一切れを取った。
「お酒を呑むの?」
「たまにね。普段は呑まないけど、いつ暗殺者に襲われるのか分からないから、できるだけ毎日完全な状態でいられるように心がけている」
「そうなんだ。この国ではお酒が何歳から呑めるの?」
「特にそんなルールはない。が、大人と見なされる年齢は15歳なんだから、大体成人の儀式で初めてお酒を口にするのがその年齢かな」
「そうなんだ」
「里では何歳から?」
「分からない。ただ成人と見なされるのが大体レベル5だと聞いたけどね」
「年齢が若くてもレベル5ならお酒が飲めるのか?」
「多分。そこもよく分からない。婚姻もレベル5からだし」
「女性もか?」
「女性はそこまでの厳しいルールがない。男性と比べたら、ずっと自由なんだ。まぁ、里では女性もあまりお酒を呑まないから良く分からない。ミライヤ先生とリンカは葡萄酒が好きだけどね」
ローズが言うと、エフェルガンがうなずいた。
「そうか。今度美味しい葡萄酒をリンカに贈ろう」
「喜ぶでしょう」
ローズは笑って、うなずいた。エフェルガンはオレファと一緒に料理を食べているリンカを見ている。
「さあ、もっと食べて。心込めて作った料理だ。もっと食べてくれないと、またローズの耳を噛むからな」
「うむ。そうなると、次の罰は何にするか、考えるのに難しいな」
「ははは、あまり難しいことにしないでくれ」
「うむ」
「僕は、こうやって毎日ロースと過ごせて、とても幸せだ。しかし、同時に恐怖を感じる。この幸せを失ってしまったら、僕は生きていけるのか、と」
「私もだ。とても単純なことだけど、私たちにはなぜそんな単純なことができないのか・・考えるだけでも悲しい」
ローズがそう言いながら、少し考え込んでしまった。
「身分さえなければ、背負うものさえなければ・・何度も思ったことか・・」
「うん。でもだからと言って、放り投げることもできない」
「そうだな。でもいつか、二人が共に歩む道を探そう。努力するよ」
「うん」
「さて、食べよう。悲しい話はこんなにきれいな満月の夜には相応しくないから止めよう」
「うん」
楽しい満月の夜に心の不安をどこかに置いて、ローズたちは料理を楽しみながら夜遅くまで海岸にいた。
翌朝。
ローズもエフェルガンも寝坊した。まぁ、使用人達もまだ海岸のあと片づけに忙しいから、今日は朝練習がなくても良いと言われた。という訳で、朝餉が終わってからエフェルガンと二人で今日は街の散策をしている。護衛官がいるかもしれないけれど、今日はわざとローズとエフェルガンから身を隠している。ローズは彼らを探して、キョロキョロしても、分からない、と。探知魔法や波動で探せば良いのだけど、たまに気にせずに歩き回りたい、とローズが以前に言ったから、エフェルガンは笑ってローズの手を取った。
第三の目の練習でもあるから、二人で手を繋いで町に出た。朝っぱらなのに、結構人がいる。さすが大きな街だ。領主がいなくても、町が機能している、とローズが思った。
二人が結構歩いていて、反対側の街はずれまで行った。ここは産業地域であって、数々の鉱山関連産業がある地域だ。仕事を探しにくる人々も数多く集まってくる地域でもある。当然のことだけれど、生活基準が下回る人たちもいる。町の中が治安が良くても、ここまで来ると、治安維持が難しい。警備隊もあまり見えない、とエフェルガンは周囲を見ながら言った。観光地である町の中や海岸あたりは安全だけれども、この辺りだと夜歩いていたら強盗に遭いそうだ、とローズは思った。
二人で歩き疲れて道ばたにある屋台で一休みした。普通の人々と同じ格好しているため、比較的に目立たないが、やはり目のあたりに布で巻いているローズが目立つかもしれない。屋台にいた客に目について聞かれると、エフェルガンは彼女が病気で視力を失っている、と答えた。ちなみに頭の上にある花が目立つため、帽子で隠している。
屋台で休んだところで、一人の男がエフェルガンに商談を持ちかけた。なんと、ローズに売春の仕事を提案している。目が見えない娼婦が人気だと言われた。エフェルガンの答えは、想像通りの否だった。ローズは食べ物を急いで食べてから、念のために持ってきたガレー印の解毒剤を飲んで、屋台をあとにした。
歩いてまもなく、静かな路地裏辺りになると、二人は数人の男性に囲まれた。さっきの商談を持ちかけた人の声が聞こえた。今度は力ずくで、彼女を奪おうとした。これは人さらいだ、とエフェルガンは威嚇しながら言った。
「ローズ、ペアで倒そうか?」
「一人でも倒せるでしょう?」
「まぁ、たまにペアでやろうか」
エフェルガンが笑いながらローズの背中の方に回る。互いの背中を守るんだ、という合図だ。
男達は武器を構えている。ローズは即時にリンクを発動して、頭の中でバリアーと支援魔法を唱えた。これは便利だ。言葉を発することもなく、魔法を唱えることができる。こいつらを素手で倒す!、と。
男達は攻撃し始めた。狙いはやはりエフェルガンだ。しかし、日頃ケルゼック達に鍛えられたエフェルガンは軽く交わしながら反撃をした。エフェルガンが動いたところでローズの両手がエフェルガンの肩に乗せて両足を広げてエフェルガンの左右にいた敵の顔に直撃した。そのまま宙返りして、相手の後ろをとって、足払い!転んだ相手にエフェルガンの拳が命中してノックアウト!次々と軽く倒したら、あっという間に全員倒した。どうしようかと思ったところで、警備隊が来て、事情を確認した。しかし、説明しても信じてくれない。問題は身分証明書がないからだ。ローズもエフェルガンも身分証明書を持っていない。町歩きのために作ってくれれば、こんな面倒なことがないのに、エフェルガンは反省した様子だった。結局ローズとエフェルガンが暴力をした容疑で逮捕されてしまった。
地区の警備隊本部に連れて行かれて、別々の牢屋に入れられてしまった。しばらく経つとローズが牢屋から解き放たれて、身内が迎えに来たと言われた。てっきりとリンカ達かと思ったら、違う人だった。その人は先ほど彼女を娼婦としての話を持ちかけた人だ。警備隊に賄賂したか、嘘を言ったか、分からない。けれど、結果的にこの人は邪魔なエフェルガンを排除できた。
ローズが拒むと、牢屋の中にいるエフェルガンにひどいことをすると脅かされて、仕方なく従うふりをした。しかし、やはりエフェルガンはおとなしくなかった。というか・・・彼は牢屋の壁を破壊してしまった。ここまでくると、どこかにずっと隠れていた護衛官達が呆れた様子で現れてきた。
やはり全員いるか、とローズは苦笑いした。それはそうだ。皇太子であるエフェルガンは、護衛官なしで出かけること自体がありえない。慌ててきた警備隊がケルゼック達の前に相手にすらならなかった。彼らはちゃんと身分証明書を持ってきたからだ。そしてあの牢屋の壁を破壊した張本人こそ、この怖い護衛官達の主である。
人さらいの犯人を捕まえて、エフェルガンはガレーに取り調べを任した。この暗部二人の中から、実はガレーが一番恐ろしいらしい。ローズにはとても優しいガレーの別の顔は、鬼暗部だという。ガレーはローズの状態を確認してから、とても穏やかな波動で取り調べ室に入った。
ローズはエトゥレとエフェルガンに離れた所へ連れて行かれた。その場所は警備隊長の部屋であって、隊長が真っ白の顔で椅子に座っている。次は彼の番だからでしょう、とローズは思った。
部屋で待機していたリンカとともに、警備隊の外にあるベンチで座ると、エファインが飲み物を持ってきた。
機嫌が悪いエフェルガンはしばらくこの地区の警備隊長と話し合いがある、とハインズが笑いながらローズの隣に立った。なんとなく、どんな話し合いが想像が付く。牢屋の壁を破壊したまで頭に血が登ったエフェルガンだから、穏やかな話し合いではなさそうだ。そう考えると、彼はかなり短気だ、とローズは思った。
一時間ぐらいの「話し合い」が終わって、相変わらず穏やかな波動で現れてきたのはガレーだった。ローズはエファインから聞いた話だけれど、ローズを娼婦にするという言葉を聴いた瞬間、ガレーの殺気が凄まじかったらしい。なんとなく分かる、とローズは苦笑いした。
ガレーが出て行った数分後、エフェルガンも出てきた。どうやら今回の事件の真相が分かったらしい。警備隊長と賄賂に関わっている隊員以外、エフェルガン達と一緒に情報に上がって来た娼婦の館へ向かった。そこで無理矢理さらわれて、あるいは脅迫して手に入れた数十人の女性がいる。元から目が見えない女性もいるけれど、わざと目が見えないようにされた女性もいるのだという。なぜ目が見えない娼婦が人気かというと、目が見えないから相手にとって身元がばれないため、喜ばしいことだ。貴族や高位役人の間に人気だ、と娼婦の館の関係者から聞いた。なんてひどいことを、とそのことを聞いたローズは怒りを覚えた。
エフェルガンはこの事態を重くみて、パララ城の執務室に行って、すべての娼婦の館に調査を命じた。ちゃんとした手続きをしたところなら問題に問わないけれど、今回のような、人さらいや人売りで手に入れた女性たちを、娼婦にするなら違法にあたるのだ。この国では、売春は合法だけれど、人さらいや人売りや脅迫などで女性を売春に陥れることは法律違反である。なぜなら、女性にも人権があるからだ。
ローズもパララ城の執務室についていて、ソファに座っておとなしく仕事をしているエフェルガンを待っている。しばらくしたら、一人の男性がエフェルガンに面会を求めた。一人の男性が入り、エフェルガンに挨拶をした。どうやら、貴族らしい。
「殿下、私どもが運営している娼婦の館を滅茶苦茶にするのをおやめ下さい」
「カールミュヘン男爵、その理由は?」
「観光客や取引相手から苦情が出ています。いきなり警備隊がきて、パニックになって、かなりの損害を受けてしまいました。どうしてくれるのか、説明を願いたい」
「人さらいの調査のためだ。自白した人さらいの犯人は貴殿の娼婦の館がその品納めの所の一つだそうだ」
「私は違法な商売をしていません!これは・・人助けです!」
その貴族が大きな声で誇らしげに言った。
「人助け?」
エフェルガンが眉をひそめながら聞いた。
「そうだ、人助けです。哀れな盲目の女性達に仕事を与えているのです。家族の負担も減り、お金も入ります。お互い利益を得るから、良いことづくしです」
「しかし、彼女達はお金を手にしたことがないと言ったが?」
「彼女たちは私の館内ならお金が必要ありません。生活費や食事などすべて提供されている。それに家族にまとめたお金を出したから、給料はその中に含まれています」
「どうも、うさんくさい」
エフェルガンが彼を見て、言った。
「殿下、この商売で大きなお金が動いているのです。殿下の思いこみだけで、すべてめちゃくちゃになってしまいます」
「私は思いこみで動いているわけではない。実際に目の前で、あそこに座っている女性が襲われていた」
エフェルガンはローズに向かって示した。
「ただの平民に、そこまで気にかけることをすると、殿下の名誉に傷がつきますよ」
「平民はこの国の民であって法律で守られている」
「殿下は平民に騙されているのです。そのような女達に騙されてはいけません」
「貴殿は何を言おうとしているんだ?」
「だから彼女のような盲目の平民は・・」
カールミュヘン男爵という人が熱くなって、ローズに向かって指でさしたりしている。
「カールミュヘン男爵、言葉を慎め」
「だが・・」
「貴殿は今指さしたあそこの女性は、私の婚約者の薔薇姫だ」
「な・・!」
「話が終わった。下がれ!調査が終わるまでおとなしく待つと良い」
男爵が無言で外に出て行った。エフェルガン、また敵を作ってしまったか、とローズは心配した。
「うむ」
「ごめんね。これも仕事なんだ」
「うん、分かったけど、敵が増えたね」
「まぁ、想定した範囲だ」
「暗殺者がまた来るよ」
「良いんじゃない。いつものことだ」
「案外、冷静だね」
「貴族が絡むといつもこんな感じだ」
「初めてじゃないんだ?」
「そうだね。特に大きな観光地だと売春は大きなお金と繋がるから手を出す貴族も多い」
「金と権力が。難しいな」
「そうだね。ここから帰る途中に襲われるから、注意しよう」
「うん」
ローズがうなずいた。彼はとても冷静だ、と彼女が思った。
エフェルガンの予想通り、帰る途中にこちらの数よりも数倍も数が多い暗殺者に囲まれて襲われた。しかし、デートが邪魔されて不機嫌なエフェルガンと殺気に満ちるガレーとリンカ達の前で、ローズの出番がほとんどなかった。ローズはハインズとエファインに囲まれて、エフェルガンのマルチロック迎撃魔法を、第三の目で目撃することになった。




