103. スズキノヤマ帝国 パララ(9)
眠りから覚めた時は次の日の昼だった。
ガレーの薬を飲むと、いつも寝坊してしまう、とローズが困った様子だった。しかし、実はローズが朝か昼か良く分からない。両目を失ってから光を失ったけれど、暖かい日差しが当たる具合で。大体気温で分かる。パララは海のそばだから、昼間の日差しが強く、比較的に温度も高めだ。この暖かさなら、昼間だ、と彼女が思う。
ローズが身を起こそうとしたが、力が入らない。元々本調子ではなかったのと、連続して魔法を使ってしまったことで、疲れがたまる一方だった。
本当に、いつになって休めるのか、切に思ってしまったのだ、とローズはため息をついて、思った。それでもおなかが空いたから、何かを食べたい。力を絞って、やっとのことで寝台から降りようとしたら、そのまま落下した。
ドッツン!
「痛っ!」
すごい音がした、と彼女は苦笑いした。この歳になって寝台から落ちたなんて、と彼女はまたため息ついた。
まぁ、まだ5歳だから良いか、とローズは心を開き直して、そう思った。そうやってうまくいかない時や失敗した時は年齢のせいにすれば良い。
「ローズ様!」
誰かが部屋に入った。ローズは彼の方に顔を上げると、ガレーだった。
「あ、ガレーか・・おはよう」
「おはようございます。どうしたのですか?寝台から落ちたのですか?」
「うーん。おなかが空いて、起きようと思って、そのまま落下した」
「私を呼べば良いのに・・。はい、起こしますよ。食事はここで取りましょう」
「ここはちょっと熱いから少し涼しい所にいきたいな」
「熱い?おや、また熱が出ていますね」
「うむ」
「今計ります」
「多分おなかが空いたからだけだよ」
ローズが言うと、ガレーが首を振った。
「いいえ、熱が出ています。今日はやはりゆっくりと休まないといけません」
「うむ」
「ちょっと待って下さいね。白湯を取ってきます」
「うん」
ガレーは外に出て、誰かと会話した。しばらくしてごろごろの鳴る音が聞こえている。猫のリンカだ。
「おはよう、ローズ」
「おはよう、リンカ。昨夜はどうだったの?」
「あの殿下、すごかったよ」
「エフェルガンはうまく魔法できたの?第三の目の戦法で同時に魔法を放った?」
「ええ。言われた通りにちゃんとして、連続して成功したわ。やはり才能がある人ね」
「そうなんだ。見たかった」
ローズが言うと、ぷにーと肉球がほっぺに当てられた。
「あの人と一緒に行動すればまた見られるよ」
「うん。そんな気がしたんだ」
「ええ。勘だけどね」
「猫の勘って当たるかな」
ローズが言うと、リンカはまたごろごろと喉を鳴らした。
「さぁ、分からないわ」
「あはは」
「それより、留守組は大変だったね」
「うん。でもなんとかなった」
「帰ってきたらびっくりしたよ。たくさんの兵士が倒れていて、何があったと焦って、屋敷に入ると血のにおいでいっぱい」
「うん、派手にやちゃったから」
ローズが笑った。
「床にトゲがついた枝が伸びて殿下の兄が血だらけで縛られていて、何があったと思った」
「あはは、枝を切ろうと思って忘れてしまった」
「それって笑いところじゃないと思うけどね。あの殿下も焦ってローズの部屋に入ったらローズがもうぐっすりと眠っていた」
「うん、ガレーに薬を飲まされて、そのまま眠ってしまったみたいだ」
ローズがうなずいた。
「無茶はダメよ」
「無茶してなかったよ。ただ最後の最後で聖龍様の所に迷い込んでしまって、そのまま戦場に連れて言ってもらった」
「ええ、あれはびっくりした」
「私ってどんな姿だった?」
「半透明の光る娘と夜空に聳える巨大な光る龍が、ペアになって戦場に突然現れてきた」
「うわー」
「でもおかげさまで戦いが終わったよ」
「そうか。良かった」
「ローズが消えたあと、全員しばらく無言になったけどね」
「あはは、怖かったでしょう」
ローズが言うと、リンカが頭の近くで座っている。
「そうね。敵も味方もかなり驚いたからね」
「エフェルガンは大丈夫だった?」
「ええ、あれで一気にフクロウを飛ばして帰ってきたよ。帰ってきたら屋敷があのありさまで、彼が剣を抜いて入った」
「想像が付くわ」
エフェルガンがきっとそうするでしょう、とローズは思った。
「でも無事で良かった」
「うん、エファイン達のおかげだよ。侍女メイリナは裏切って敵を屋敷に入れたの」
「ええ。ガレンドラから聞いた。ガレンドラは責任問われるらしいよ。あの侍女を手配したのがガレンドラだったから」
「ガレンドラは被害者よ。彼も騙された」
「でも、それがあってはならないことだとあの殿下が言った。これからどうなるか分からないわ」
「今すぐエフェルガンに会いたい。ガレンドラの無実を言わないと・・」
ローズが言うと、突然どこからか声がした。
「ガレンドラはどうかしたのか?」
エフェルガンは部屋に入ってきた。彼が寝台に座って、ローズのおでこを触った。
「おかえりなさい」
「ただいま、ローズ」
「戦い、大変だったね」
「いや、ここと比べたらそんなに大変じゃなかった」
「うむ」
「話は全部聞いた。ガレーも、エファインも、ハインズも、ガレンドラも、使用人達も、衛兵も、すべてを報告してくれた。眠り薬で敵を倒したことがとても良い作戦だったな」
「うん」
「侍女メイリナは領主に頼んでパララ城から手配してもらったと判明した。ガレンドラはその件について無実で分かった。罪を問わない」
「ああ、良かった」
ローズが安堵した様子で言った。
「ガレンドラを助けてくれて感謝する。彼は僕の大切な部下で、今までずっと忠実に仕事をしてくれているし、これからもこの屋敷の執事として仕事を続けてもらう」
「ガレンドラの怪我はどうなったの?出血がひどかったから、心配だわ」
「昨夜ガレーが手当した。ガレンドラはもう大丈夫だ」
「良かった」
リンカはローズの顔を冷たい猫の鼻でキスしてから寝台から降りて、外に出て行った。
「リンカに大変助けられた」
「それは良かった」
「これで何回目か・・ずっと助けられたばかりだ」
「そんな貸し借りをしないから、気にしないで」
エフェルガンはしばらく黙っていて、ため息ついた。
「ローズ、兄上が暴言を吐いたそうだ。お詫びをする」
「大丈夫よ。彼はもうその暴言の代償を支払ったから」
「あのトゲで、か?」
「そうですね。あと・・」
神の目で、彼はただの鳥の子だ、とローズが言おうと思ったけれど、止めた。エフェルガンが傷ついてしまうかもしれない、と。
「鳥の子か?」
エフェルガンはことを察して、問いかけた。
「ごめんなさい」
「いや、事実だから、ローズが悪くない」
「でもその言い方だとものすごく見下す言い方でしょう?」
「神様と僕たちは次元が違う。それは誰だって理解しているんだ」
エフェルガンが優しく言った。
「うん。ガレー達が・・何か言った?」
「報告したこと以外は何もなかった」
「そうか。もし彼らの気に障ったら、ごめんなさいと伝えて下さい」
「大丈夫だ。問題ない」
「なら・・良いけど」
ローズがうなずきながら言った。
「ローズ、昨夜の姿は・・」
「おかしかったよね・・怖がらせて、ごめんなさい」
「いや、僕たちは初めて神様の存在をこの目で見て、驚いたんだ」
「私って・・やはり・・化け物?」
「・・・兄上が・・そう言ったのか?」
「・・・」
エフェルガンはローズをぎゅっと抱きしめた。
「ごめんね。またローズが大変な時に、そばにいなかった」
「大丈夫だよ」
「ローズは化け物なんかじゃない。龍神の娘だ」
「でも皆を怖がらせてしまった」
「大丈夫だ」
「本当に?」
「ああ。逆に神様に助けられたとすごく話題になっているよ。本当に助かった。それに、領主が僕をかばい、瀕死状態になった。彼を助けられないと思っていたところで神様とローズが現れて、彼を助けることができた。怪我をした多くの兵士らもあれで助かった。ありがとう」
「そうか。じゃ、良かったね」
「ああ、だから化け物なんかじゃない。化け物は人々を救わない。ローズはたくさんの人々の命を救ったんだ。ローズは神様とともに現れてきたから、疑いのない神の娘なんだ」
「そうか」
ローズが微笑んだ。本当ならば、今のエフェルガンの顔が見たい、と。
「兄上の裁きは皇帝陛下に委ねられた。将軍も自分なりの報告をするだろう」
「領主は?ガレーが謀反だと言ったけど、戦場でエフェルガンをかばって大怪我した。おかしいと思うけど」
「あれは、数週間前から兄上に、子どもが人質にされたらしい。エトゥレが救出に行って無事だったと報告をしてくれた」
「よかった。じゃ、領主が無実なの?」
「すべてが無実にならない。でも色々と配慮して、彼の偉業もあるから、なんとか罪を軽くすることも検討する」
「そうか」
「眠らされた兵士達の裁きにもちゃんと配慮するよ。彼らは仕方なく兄上に従っただけだから」
「ありがとう」
ローズが微笑んで、うなずいた。
「ローズって変わった人だな」
「どうして?」
「自分を攻めてきた敵のことを心配するなんて・・。そのことで礼を言われると、違和感を感じる」
「うむ」
「でもそれはきっと神様の優しさの表れだと思う」
「私はそこまでえらくない」
エフェルガンが笑った。彼は今どんな顔をしているのでしょう、とローズが顔を上げた。
「ローズ、この件が片付いたら、またゆっくりと過ごそう」
「うん・・」
「僕はまだ何一つもローズとの約束を果たしてない」
「無理をしないで」
「無理をしない。必ず時間を作るから」
「うん」
ローズがうなずいた。
「お待たせしました。昼餉ができましたよ」
ガレーと使用人が来て、料理を運んで来た。良い匂いがした。寝台の上に寝台用テーブルが置かれて、食べ物がそのテーブルの上に並べられた。
「美味しそうだ」
エフェルガンは笑いながら言った。
「殿下の昼餉は食堂で用意されています」
「分かっている。ただもう少しローズとここで過ごしたい」
「ローズ様は今からお食事をして、お薬を飲まなければいけない」
「ローズの食事の手伝いをしてもダメか?」
「殿下はご自分の食事を召し上がらないと冷めてしまいます」
「ここで食べてもダメなのか?」
「ここはローズ様の寝室でございますよ?」
ガレーが呆れた声でエフェルガンを追い出したい様子だ。
「うむ」
「ローズ様、殿下を甘やかしてはなりませんよ」
ガレーに釘を刺された。多分今エフェルガンの口が尖ってしまうんでしょう。
「今回だけ、その机の上にエフェルガンの食事を運ばせても良いと思うけど。私は自分のご飯を自分で食べられるから」
「やった!」
エフェルガンは嬉しそうに言って、使用人を呼んで料理を運んでくるように命じた。彼は本当に子どものようなことをする。多分これは自分とガレーの前にしか見せない顔だ、とローズは思った。
「ローズ様・・」
「良いの。心配をかけてしまったし、屋敷もめちゃくちゃになったし、たまに甘やかしても良いと思うわ。ずっと毎日が大変だから、たまに生き抜きも必要かな」
「あなたはとても優しい姫君ですね」
「うーん。それが良く分からない。さて、ご飯を食べます!頂きます!」
手でスプーンを探したら、ガレーが先にとって、ローズにスープを飲ました。薬膳スープだ。けれど、とても美味しくて、優しい味がした。スープの他にお粥や卵料理もあって、どれも美味しかった。
近くにエフェルガンが食事していることも聞こえている。色々な料理のにおいがあって、ローズのメニューと違うメニューだ。
「エフェルガンのご飯が美味しそう・・」
「美味しいよ、ローズ。食べるか?」
エフェルガンがローズを見ながら聞いた。
「ダメです」
うん・・と返事しようと思った瞬間にガレーに即答された。
「うむ」
「薬と食べ合わせが良くないからです。殿下がお召し上がりになるものを口にしたら、おなかの中で混ざり、吐き気が出てしまうのです」
「それはいやだな・・」
「はい。ですから、もう少し辛抱して下さい。元気になれば、ローズ様のためにご馳走を用意しましょう」
「うん」
ガレーは次に他の料理を食べさせてくれた。医療師は普通ここまで患者の面倒をみていない、とローズは思った。けれど、ガレーはとても面倒見が良い医療師だ。彼女限定かもしれないけれど・・。
「ごめんな、ローズ」
「ううん、大丈夫」
エフェルガンは食事を終わらせた。そして使用人にお皿の片づけを命じた。再びローズの寝台に腰をかけた。
「殿下、ローズ様の甘いものを触らないでください」
「僕の分がない」
「使用人に命じれば持ってきてくれます」
「そうか」
エフェルガンは再び部屋を出て行って使用人を呼んだ。
「あのような殿下の振る舞いは・・ローズ様の前だけですよ」
「そうなんだ」
「幼い頃から、ずっと強く凛々しく振る舞わなければいけないためか、誰一人にも甘やかされる経験がありませんでした」
「そう・・」
ローズが食べ物を口に入れて、うなずいた。
「殿下にとって愛情とはズルグン殿と私と乳母と護衛官達とのぐらいでした」
「そうなんだ」
しばらくしたら、エフェルガンがまた寝室に入った。
「おお、ガレー。これは美味だ」
エフェルガンが嬉しそうな声をしながら寝台の方に近づいて、ガレーの特製のデザートを食べている。
「殿下、座ってお召し上がり下さい。お行儀が悪いのですよ」
「そうか。分かった」
素直だ・・、とローズは笑った。
「はい。ローズ様もこの薬をお飲み下さい。少々苦いかもしれませんが・・」
「うう、苦い」
「はい、ではこれがお口直しの甘いものですよ。ご自分で食べますか?」
「うん、ありがとう」
美味しい、と一口を食べる瞬間にローズは瞬いた。今回は杏仁豆腐のような味のスイーツだった。なんていう美味しさだ。甘酸っぱい果物のソースで、口の中で絡むととても良い味がする。
美味しい!美味しすぎるよ、ガレー先生!、とローズが最後まできれいに食べた。
「ねぇ、ガレー。私はガレーの美味しい甘いものの数々を記録したい。今度レシピを教えて下さい」
「良いですよ。元気になったら、喜んで教えます」
「わーい。ガレーはいつか歳をとって、暗部の仕事を引退したら、薬膳甘いものの店を作ったら大繁盛するでしょう。私の家の近くなら、毎日食べに行くつもりだ」
「ははは。その未来も楽しそうですね」
「うん。毎日甘い物が食べられるなら、病気が治らなくても良いかなと思ってしまう・・」
「それはダメですよ。このままだと、ローズ様が魚の揚げものを食べることができませんよ?」
「うううううう」
確かに、とローズが思った。病人は揚げものを食べられない。胃もたれをするからだ。
「ですから、元気になりましょう。甘いものが食べたい時は厨房の者に声をかければ良いか、と思いますよ」
「うん」
ローズがうなずいた。
「ガレー、僕が病気した時に、一度も甘いものを作ってくれなかったぞ」
窓際に座っているエフェルガンが抗議の声を出した。
「殿下は病気だと言ってもただの風邪やかすり傷ぐらいで、大した病気ではございませんでした」
あ~あ、ガレーが呆れてしまったのか、声が変わってきた。やはり、男に厳しいか。ローズは思わず笑ってしまった。
「ごちそうさまでした」
ローズは手を合わせて感謝した。美味しかった。使用人が食器を片づけてくれたあと、ガレーは脈を確認してから退室した。
エフェルガンは再び彼女の寝台に座り、背中に手を回して自分の方に寄せた。
「熱が早く下がると良いな」
「うん」
「満月のことなんだが、2ヶ月後だそうだ」
「まだ先のことなんだ」
「あと2ヶ月で、その目を取り戻せるんだから、体調管理をしっかりとしないといけない」
「うん」
「僕は、目が見えないローズがどれほど苦労しているか、考えるだけで辛くてたまらない」
「私はまだ大丈夫だよ。いつか戻ると分かるから、希望がある」
「そうだな」
「それに、何かを見たい時にエフェルガンの目を借りれば良いし。第三の目もあるから、それほど困っていることではないんだ」
「そうか。今朝新しい侍女を手配した。今回は大丈夫だ」
「ありがとう」
ローズがうなずいた。
「風呂や服装選びなど、侍女がいた方が楽だからな」
「うん」
「楽器も今度探そう。ケルゼックに良い楽器店を探してもらっている」
「ありがとう」
「愛しているよ、ローズ」
エフェルガンはぎゅっとまたローズを抱きしめた。ローズはエフェルガンの胸に顔を寄せて、彼の心臓の音が聞こえている。とても安心して、彼の匂いがした、とローズは思った。上半身裸になると服に邪魔されず直接肌を触れることができる。しばらくしてガレーの薬が効いてきて、ローズは眠くなってしまった。エフェルガンの心臓の音を聴きながら、ローズが眠りに落ちた。
午後になり、再びガレーに起こされた。熱が下がったものの、まだ力が入らないから、今夜の夕餉も部屋の中ですることになった。なぜ自分がこんなに弱くなってしまったか、ローズは分からない。
新しい侍女を紹介してもらった。名前はメラティ、声から聞くと中年っぽいの女性だ。体が大きく、とても気さくな女性だ。これからしばらくお世話になると挨拶をしたら彼女が元気な声で答えてくれた。
「お任せ下さい!」
侍女メラティはローズの体をお湯に濡らしたタオルで体をきれいにして、服を着替えさせた。髪の毛の間にちらばった花びらも丁寧にとって、髪の毛をクシでといた。メラティはローズの頭の上にある薔薇の花が咲いていることを珍しく思ったらしい。実際に、彼女のような生き物はどこにもいないから、とローズが苦笑いしてメラティにうなずいた。
着替えた後、医療師のガレーと使用人達が食事を持ってきた。まだ病人食だ、とローズは思った。
エフェルガンがいないのかと聞いたら、パララ城へ出かけたらしい。皇帝代理として、パララ城の執務室で午後から仕事をしているとガレーが言った。またこの屋敷の海岸に、ローズの魔法で沈没された海賊船の引き上げ調査が明日から実施されるらしい。モルグ人が関わっていたから、ローズ狙いの暗殺の可能性があるということで、徹底的に調査される。当然、捕まった海賊達にも取り調べもある。多分厳しくされるのでしょう。
寝台用テーブルの上で数々の料理が並べられた。病人食とはいえ、ガレーの病人食は美味しい。薬膳スープの具材は毎回変わっている。昼餉は野菜が入っていたけれど、今は魚肉のミートボールが入っている。美味しい、と彼女は思った。
またお粥も蒸し料理もとても美味しかった。そして昼間と違う薬を処方された。今回はそんなに苦くなかったけれど、やはりガレースイーツが登場する。果物の砂糖漬けだった。丸ままの姿で、指で持って、そのまま食べるそうだ。
これは美味しい!、と彼女がそれを口に入れた瞬間、大きな笑みを見せた。
美味しそうな顔で食べているローズを見て、ガレーも侍女メラティも笑った。優しそうな人々に囲まれて、とても心が和む、とローズは思った。
食事終えたら、目の周辺の治療が行われる。ローズの目の辺りに、またあのひんやりした軟膏薬で塗ってもらって、再び布を巻いた。彼女の目の状態を初めて知った侍女メラティは思わず驚きの声を出したけれど、ガレーに注意された。目の手当の後、ガレーはまた脈と熱を確認してくれて、退室した。
まだ薬が効いてないうちに少し気分転換のために侍女メラティに頼んで打楽器を持ってきてもらった。ギターのようなものが弾いてみたいけれど、難しいからとりあえず病人でも簡単にやれる楽器にした。叩けば良いんだから、とローズが笑いながら打楽器を叩いた。
適当に叩いていたら、エファインは部屋に入って、ローズにリズムを教えてくれた。ギターのような楽器を持ったハインズも来て即席音楽会ができた。侍女メラティが民族の歌を歌ったりして、とても楽しかった。でも、ローズはやはり強力なガレーの薬に敵わなかった。動きが鈍くなると、侍女メラティがローズを寝かせて、毛布をかけた。楽しい音楽会は夢の中でも続いていたかもしれない、と彼らはぐっすりと眠っているローズを見つめてから、静かに外へ出て行った。




