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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
スズキノヤマ編

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101/811

101. スズキノヤマ帝国 パララ(7)

「討伐って・・海賊が潜伏しているところが分かったの?」


ローズが首を傾げて、ガレーに聞いた。


「海賊に遭遇した商人の船からの情報があって、空軍が探索したところで見つかったそうです」

「罠の可能性は?」


ガレーが少し戸惑ったけれど、しばらくして、彼が優しい声で言った。


「ないと言えません。が、殿下はそれでも征くとご決断をなさったのです」


そのことを聞いたローズが考え込んだ。


「うむ」

「大丈夫ですよ。リンカさんもともに征かれます」

「リンカが?珍しい」

「戦法を・・言葉で言うよりも実戦で覚えた方が早いと言ったのです」

「リンカらしい」

「はい。本当に思いきったことを実行する方なんですね」


ガレーがうなずいた。


「彼女はそれが必要だと思って行動している」

「それにしても、彼女はとても強いとは・・失礼ですが、初めて彼女とお会いしたとき、それほどの実力者だと思いませんでした」

「まぁ、私も同じく、彼女はただの家猫だと思った。良く台所でつまみ食いした猫だとね・・」

「ははは、そうでしたか」


怖い家猫だ、とガレーは思った。


「うん。かわいい家猫で、良く抱いて寝たの。でもある日、あの猫は、本当は人だったと分かってびっくりした。しかもものすごく強い人だった」

「そうだったんですか」

「リンカはレベルSの武人でね、里の上位魔法戦士なの。しかもミライヤ先生のペアなんです」

「あのミライヤ様・・?」


ガレーがその名前を聞いて、驚いた。


「そう、あのミライヤなの」

「あのミライヤ様のペアがリンカさんなんだ」

「どうかしたの?」

「いやぁ~、ミライヤ様は南の国々ではとても有名な方で、伝説の賢者だと語られるほどの実力者なんですよ」


ガレーがそう言って、うなずいた。


「あはは、そうなんだ」

「ローズ様はミライヤ様の弟子と聞いておりますが・・」

「うん。そうだよ。一歳のときに弟子入りして、二歳で卒業したの」

「そんなに幼い時から・・」


ガレーが目の前にいるローズを見て、信じられない顔をした。


「まぁ、ちょっと変わった生き物だからな・・私って。卒業試験は、モルグ人が占領した都の奪還作戦だった。何とか生き延びて卒業できたわ」

「なんと・・」


とんでもない、とガレーが思った。


「あはは。まぁ、ミライヤ先生らしいな。そんな人なんだけど、実は私の従兄弟なの」

「なんと・・」


ガレーが驚くと、ローズも驚いた。


「あれ?殿下から何も聞いてなかった?」

「いいえ・・初耳でございます」

「そうなんだ。まぁ、知ってもなんの影響がないから、別に良いけど」

「ミライヤ様とローズ様が・・従兄弟ですか・・」

「ミライヤ先生の母上は父上の妹君なの。だからミライヤ先生は半分鬼神で、半分紅狐人族だね」

「貴族だと聞いたのですが・・」

「紛れもなく貴族です。それに彼女はドイパ国のジャタユ王子の婚約者だし・・」

「なんと・・」


次から次へとローズの口から出て来たことに、ガレーが驚きを隠せなかった。


「だから私とジャタユ王子が仲が良いんだ。将来の従兄弟だからだと言われたの」

「そう・・ですか」

「びっくりしたの?」

「はい。暗部である私はこのような大事なことを知らなかったなんて・・」

「殿下は誰にも言わなかったことで驚いたけど。てっきりと皆に知らせたかと思った」

「多分、それはローズ様を守るためだと思います」

「そうなの?」

「ローズ様は、政治的な価値が大変高いと判断されたのでしょう。龍神の姫であることだけではなく、複数の国にとってローズ様はとても大切な存在であると分かると、よからぬ企みをする輩も出てくる可能性があると存じます」

「もう出たよ」


ローズが呆れた声で言った。


「カルディーズ皇子のことですか?」

「そう。あの人は無理矢理私を自分のものにしようとしたの。思い出すだけで腹が立つ。もう死んだけどね」

「彼はまだかわいい、と思った方がよろしいかと」


ガレーがそう言って、うなずいた。


「そう・・なの?」

「はい。これでも暗部として、長く皇帝陛下に仕える身でございます。数々の経験や情報を持っているのです。昔のことだったが、とある他国の貴族が誘拐され、この国で売られていたという事件があり、救出をしたが・・」

「えっ」

「悲惨でございました。救出できたものの、結局本人が自害をしてしまわれた」

「・・・」

「ですから、どうか、この話は他言無用にしてください。私も殿下と同様に、このことを他人に言わない、と誓います」

「はい」

「ローズ様は殿下にとって、大変大切な方でございます。モルグ人に狙われており、賞金首ハンターにも狙われており、殿下のご兄弟にも狙われており、また人さらいにも狙われる可能性も出てきてしまっては・・」

「考えるだけでも大変だ」


頭痛がする、とローズが思った。自分がこんなにも狙われてしまうなんて、と。


「はい」

「分かった。ガレーはエフェルガン殿下にとても優しいですね」

「役目というか、殿下とは長いお付き合いですから。私もズルグン殿と同じく、陛下の命令を受けて影でずっと殿下をお守りしてきたのです」

「そうか」


ガレーが言った。


「エフェルガン殿下の守りが大変なのに、こんな私を加わってしまったらもっと大変になる。苦労をかけてしまう」


ローズが頭を下げた。


「いいえ、私はロッコ殿とアルハトロスの暗部の方々と同様に、ローズ様を慕う気持ちが心の底から出たのです。暗部は気持ちを切り離す術を身につけているのだが、どうしても心からお守りしたいという方が希に出てきます。私の場合、敵の術にかかり絶望した自分に救いの手を差し伸べてくださったローズ様でございます」

「ガリカの時だったのね」

「はい」


ガレーが微笑んで、目の前で何も見えないローズに向かって、うなずいた。


「あまりそこまで考えなくても良いと思うよ。ガレーも、エトゥレも、ハインズも、エファインも、皆大事だから助けただけだよ」

「存じております。が、当時の私の気持ちは恐らくモルグ人に捕らわれていた殿下の気持ちと同じだったと思います。絶望した時に、頭の中に聞こえてきたローズ様の声が希望に満ちた声で、生きようと元気付けられた気持ちになりました」

「あはは、そうだったんだ。あ、そうだ、その時、リンカに噛まれたけど、もう治った?」

「はい、治りましたが、傷跡を消さないことにしたのです」

「え?」

「記念にします。これで二度と同じ失敗を繰り返さないと」


ガレーはローズの手を取って、自分の腕にあるリンカの歯形の跡を触らせた。くっきりあった、とローズは思った。思いっきり噛まれて、痛そうだ。


「リンカに噛んで、と命じたのは私だった。ごめんね」

「いえいえ。おかげさまで助かりました」

「なら、良かった。さて、夕餉を食べてから、エフェルガン殿下の無事を祈らなければいけない」

「はい。夕餉の準備もできております」

「そういえば、ガレー、なんども言ったけど・・」

「はい?」

「敬語をやめて・・」


ローズが笑って、ガレーに言った。


「これは・・その・・気持ちを自然に出てきたのですが・・」

「ガレーは私の先生なの。だから、普通に話して下さい」

「あ、はい。かしこまりました」

「それに言うのが変かもしれないけど、私は敬語が苦手なの。ロッコなんて思いっきり失礼な言葉をいっぱい言うぐらいだから、ガレーもそのぐらいでも構わないよ」

「ははは、そうでしたね」

「うん。まぁ、エフェルガン殿下の前で言いづらいなら敬語で構わないけど。こうやって二人にいる時やハインズ達と一緒にいる時に、気楽にしよう」

「分かりました。そうしましょう」


ガレーがうなずいた。


「うん。よろしくな、ガレー先生」

「こちらこそ。では、食堂まで案内します」


ローズはガレーの手を取って、食堂まで案内してもらった。食堂にガレンドラと侍女メイリナがいて、ローズの食事の世話をした。


ハインズとエファインは近くに待機していて、ローズを護衛している。リビングルームの会話を聞いたかどうか分からないけれど、彼らに元から隠すつもりはない。恐らく彼らも、ローズの警護がとても危険な仕事であることも自覚しているのでしょう。


食事を終えて、あの苦い回復薬を飲んでから、今日のガレーのスイーツを食べた。今回はカットされた果物がびっしりと入っているプリンだった。果物が砂糖で柔らかく煮たものでとても優しい食感だった。


夕餉の後、侍女メイリナにお風呂を手伝ってもらった。エフェルガンの言うように、ローズはちゃんと周りの手を取って、素直に手伝ってもらうことにした。お風呂が終わって、服を着替えて、髪の毛も乾かしてもらってから、ガレーに目の手当をしてもらった。この花の香りの軟膏薬はとても気に入った。ひんやりして、べとつかないで、とても潤う。美容クリームとして売り出したら人気が出そうな気がする。


ガレーは海賊が潜伏した場所を大体の位置を教えた。ここからほぼ北西の位置にあるコラシア諸島という場所である、ほぼ無人島で、主に漁場として使われているそうだ。ただ最近そのあたりに謎の海難事故が多く、漁師もその辺りにいかなくなったという。その事実を確認しなかった領主に説明を求められるが、エフェルガンはまずその海賊らを先に退治すると決めたそうだ。モルグ人が海賊の中にいたという事実を重くみた、とガレーが言った。


モルグ人は世界の各地にいるのだけれど、必ずモルグ王国と繋がっていることではない。普通の生活をしているモルグ人もいるので、すべて悪者ではないと以前ジャタユ王子が言った。このこともスズキノヤマでも理解されるけれど、人種の割合は8割以上鳥人族のミミズクフクロウ種族で、その他の民族が草花精霊や兎人族などがいるスズキノヤマでは、モルグ人種がとても数が少なかった。エフェルガンへの襲撃にモルグ人が関わっていたと分かった時から、国内にいたモルグ人種が国外へ追放されたという事態になった。ローズは事件に関わらなかったモルグ人もいると思うけれど、とても気の毒に思う。


ローズたちがいるパララの海岸から海賊がいるコラシア諸島まで直線でいくと約一時間の距離だ。軍用のフクロウで行く場合もっと早くなる、とガレーが言った。計算すると多分ヒスイ城から首都へ行く距離とほぼ変わらないでしょうけれど、リンクをするには結構遠い。かといって、勝手に空を飛んで見に行ってはいけない。昔は鏡で念じてみたいものを見たけれど、今はローズが鏡を見ることができない。でも第三の目でみることができるかもしれない。


ガレーに頼んで、寝室に四つの灯りを用意してもらった。机を少し移動してもらって、ガレーとハインズ達のために鏡を置いた。ふわふわな絨毯の上に4つの灯りを置いて、結界の発動をした。龍神の神殿で祈りを捧げると同じ方法で、ローズが祈り始めた。エフェルガン達の無事を祈り、気を集中した。するとローズの体が光り出した。その時鏡に手を当てると、伝わったようだ。鏡ではどう映ったか分からないけれど、ガレー達の声が聞こえた。


頭の中に出てきた映像は、激しい戦いが見えている。そして空から雷が降ったかのような映像が見えた。エフェルガンの魔法だ。近くにリンカがいて、バリアー魔法を張りながらエフェルガンを守っている。会話をしているようにみえるが、恐らく細かい指示を出している様子だったのでしょう。


エフェルガンの手の平から再び魔法が放たれた。とても細い光のような感じでロックされた敵兵に当たっている。今回はローズよりも数が多かった。


十か・・いや、二十人も同時にやったんじゃないかな、とローズは思った。


マルチロック迎撃魔法戦法の完成の瞬間だ。本当に、あの人は天才で、敵に回すと、怖い相手になるのでしょう。リンカは満足そうな顔をしていた。両目と第三の目を組み合わせの攻撃は恐ろしいほどの性能となるんだ。これが里の魔法戦士レベルの戦い方なんだ。敵から見ると、恐ろしい技である。


海賊は下から上に向かって火玉の攻撃を飛ばしたりしたけれど、夜襲に優れているスズキノヤマ空軍の前では相手にすらならなかった。また海軍も出ていて、泳いで逃げようとした海賊どもを捕らえた。


海賊基地に壊滅したかに見えた。しかし、別の方向から光が見えた。エフェルガンや空軍の数よりも多く、同じく空を飛ぶ集団である。


「ガレー、鏡で映っていると思うけど・・その軍は味方?敵?」

「はてな・・見覚えがない集団です」


ガレーが戸惑いながら言った。


「敵の可能性が大きい?」

「その可能性が大きいと思います」

「まずいんじゃ?」

「やはり罠だったかもしれませんね」

「エフェルガンがあれほど魔法を使ったから、魔力が残っているのか?」

「厳しいでしょうね。さて、空軍はどのように動くか・・」

「空軍が反乱する可能性があるの?」

「殿下のことになると、本当に敵か味方か・・どちらかというと、両方ありですからね」

「うむ」


要するに、どちからの可能性がある、と。


「殿下の無事を祈りましょう。ケルゼックとオレファもいるから大丈夫かと」

「うん、リンカもいるから多分大丈夫だろう」

「そうですね」

「ガレーもエフェルガンの元へ行きたいの?」

「いいえ、私はここでローズ様をお守りするのが役目です。ハインズとエファインと共に」

「ここも・・狙われているのですか?」

「そのようですね」

「ハインズ、エファイン、リンクをかける。ガレーもだ。ガレンドラはどうなる?」

「ガレンドラは大丈夫かと。あの執事はとても強い人ですから」

「分かった。扉をかためて下さいと指示を出して下さい」


ローズがうなずいて、お願いした。


「はい」

「敵はこの屋敷に入れないようにバリアーをする。エトゥレが帰ってきたら、誰か連絡をして欲しい」

「分かりました」


ローズは強く念じて、ガレー達にリンクをかけて、第三の目でロックして支援魔法をかけた。


「ガレー、エファイン、ハインズに同時に、バリアー!速度増加エンチャント!攻撃力エンチャント!」


ローズは自分自身にももちろん支援魔法をかけた。


「屋敷全体、バリアー・シールド!」


結界を張るような、見えない壁が屋敷を囲んだ。ローズの窓から敵軍が見えて動いているけれど、みえない壁で前に進めない。


「ガレー、これは謀反なのか?」

「謀反です」


ガレーがためらいなく、答えた。


「領主が謀反したか?将軍が謀反したなの?」

「それは分かりません。が、将軍が謀反するならパララへ行く途中でとっくに殿下を殺しに動いたのでしょう」

「なるほど。では、外の兵士はどこの所属兵士だ?」

「領主の謀反の可能性があると思います」


ガレーがそう答えた。今は唯一の頼りだ、と彼女が思った。


「では、エフェルガンは今空軍とともにいても、大丈夫なのか?」

「海軍はこちらの味方でしたら問題がないのでしょう」

「否でしたら・・まずいか」

「はい」


考え込んだローズに、エファインが来た。ガレンドラが面会を求めているようだ。面会を許し、部屋の中に入れた。


「ローズ様、状況は思わしくありません。かなりの数に囲まれているのです」

「大丈夫、敵はこれ以上ここに入れないようにしています」

「では、我々は中で防衛をかためれば良いでしょうか?」

「はい。そうして下さい」

「分かりました」


ガレンドラは頭を下げて退室した。中にいる兵士と使用人達は扉を閉めて、重いタンスや家具をおいて、外から入れないようにしている。魔法をかけているけれど、万が一その魔法がやぶられたときにすべてを備える必要がある。


この屋敷の防衛はガレーとガレンドラに任せて、ローズの護衛はハインズとエファインに任せている。ハインズは窓から敵兵がこちらに向けて、火の玉を投げていると報告した。でも今のところ、見えない壁の魔法でその攻撃を防ぐことができている。


ほとんどの敵は空を飛べるミミズクフクロウの種族なので、建物の二階にいるローズたちの存在も気づいている。しかし、バリアー・シールドの魔法がかかっている屋敷では、彼らが破ることができない。術を破る魔法を持つ魔法師がいなければ難しい話だ。しかし、それは時間の問題だ。こちらでなんとかしなければいけない。


「ガレー、眠り薬はどのぐらい持っている?」

「眠り薬はどうかしているのですか?」

「たくさん持っているならそれを使って敵を倒そうかな」

「つぼ一つぐらいならありますが・・」

「ふむ。足りるかな。敵の数はどのぐらいいる?」

「50人ぐらいならいると思います」

「そのつぼ一つで50人ぐらい眠らせることができる?」

「できますが・・ギリギリかもしれませんが」

「半分以上眠らせるなら良いと思う。その眠り薬を下さい」


ローズが言うと、ガレーが異議を唱えた。


「ローズ様、無茶をなさらないで下さい」

「無茶をしないために、その薬が必要なんだ。ガレーもエファイン達も手伝って」

「分かりました。今参ります」


ガレーは一旦部屋に戻って、つぼを持ってきた。中身は粉で強力な眠り薬が入っている。念のためにローズたちの鼻と口に水に濡らした布をかぶせてから中身を確認した。魔力的に、今戦闘になるとかなりきつい、とローズが思うので、チャンスは一回切りだ、とガレー達に作戦を明かした。バリアー・シールドも維持をしなければいけないため、派手な魔法ができない。視力がない今の彼女には、とても不利な状況だ。


「じゃ、ハインズとガレーは実行班としてうまくやってね。エファインは私の目になって、私を守って下さい」


ローズが頭を下げて、うなずいた。


「分かりました!」

「はっ!」


ガレーたちは天井裏から屋根に出て登っていく。さすが暗部、たくさんの抜け道が分かるのだ。エファインはローズの体を支え、屋根の上に出られた時に、見えない壁のふたの部分にまで運んでくれた。ローズがそのふたの部分だけ解除して、外に出た。


「バリアー・シールド!」


今度は屋敷の外側を囲んで、広い範囲の壁を作った。広さは庭の外ぐらいまで正方形の形の見えない壁で、四角いのドーナツみたいな形になった。当然、上もちゃんとふたをしている。これで敵も味方も出入りすることができない。危険な賭だけれど、魔力が少ない今の彼女にとって精一杯の防衛戦だ。


「じゃ、ガレー、ハインズ、眠り薬をばらまいて下さい。素早くね」

「はい」


ガレーとハインズは小分けした眠り薬を上から下に落とした。万遍なく屋敷の周りに落としてくれた。それを気づいた敵兵は上に飛んできた。しかし、薬を投げ終わったハインズとガレーはローズたちとともに、再び壁の後ろへ移動した。ローズは急いでその壁のふたをして、敵兵が入れなくなった。


さて、これからは仕上げだ、と彼女が思った。


見えない壁と壁の間に、敵兵と眠り薬がある。体がシールドの向こう側に出入りができなくても、実は彼女の魔法が届くのだ。だから少ない魔力で、風を起こせば、・・風に飛ばされている眠り薬が飛んでいって、勝手に敵兵を襲う。ドーナツの形になったバリアー・シールドの間に一定方向の風が吹いて、眠り薬をぐるぐると回って、舞い上がる。目の前で眠り薬を吸って眠ってしまった敵兵が面白いほど次々と倒れ込んだ。


ガレー印の眠り薬の効果が抜群だ!


「良いですね」

「ガレーの薬はやはりすごいな」

「いやぁ、こんな使い方になることを思いもつきませんでした」

「あはは」

「気持ちが良いですね」

「どのぐらい眠れるかな?」

「量がバラバラなのではっきりと分かりませんが、最低でも4-5時間ぐらいではないか、と思います」

「なるほど。殿下達が無事に戻るときまで眠ってくれれば助かる」


ガレーの言葉を聞いたローズがうなずいた。


「まだ毒の粉がありますので、殿下が間に合わなければ毒の粉を撒きます」

「えっ」

「でも殿下はきっと間に合ってくれると思います」

「うん、そう願うわ」

「はい」


ガレーが満足そうな顔でぐっすりと眠ってしまった敵兵士達をみている。エファインとハインズも笑っている。ガレーがまだ少し外にいると言ったので、ローズとエファイン達が先に屋敷に戻る。


これからエフェルガン達の戦いを見なければいけない。彼らの無事も祈らないといけないんだ、とローズが思った。


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