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レベルアップの効果

 疲れはてた体を引きずるようにしてVRカプセルから這い出した俺達は、時刻が午前様になっていたこともありシャワーを浴びた後、仮眠室で倒れ込むように仮眠をとり、朝の始業前にメンバー揃って社食で朝食を食べていた。

「なんか俺達だけメニュー違ってません?」

 呪われし山田が、声をひそめるようにして尋ねてきた。

 早朝の食堂でワーム地獄に巻き込まれ仮眠室泊を強いられた社員達が、俺達と同様に朝食を食べている。

「うん、ワンランク上じゃん?」

 だが、俺達4人だけ、なぜか朝食のメニューが少々ゴージャスなのだ。本部長通達による強制業務命令で現場の作業員がログアウト権限を剥奪されている状況で、現場を監督する立場の管理職も帰宅できるはずもなく、平の作業員達と同様に部課長達も朝食を食べているがそのメニューは他の作業員と同じものだ。俺達だけが異なっている。

「レベルアップしたからっすかね?」

 俺は自分の朝食に視線を固定して、ささやくように告げた。

「言うな、見ない振りをしろ」

「でも、部長や課長も普通のメニュー食ってるじゃん!」

 空気読めよ新人類猿、その部課長達がちろちろとこちらを観察しながらひそひそ話しをしてるだろうが!

「AI様にとっちゃ人間社会の中の格付けなんて猿山の順位付けと同じ意味しかねぇんだよ。たぶん、レベルってのはAIシステムの中における人間の格付けだ。やり過ぎちまったんだよ、俺達は」

「そんな話聞いたことないっすね」

「最底辺の仕事をやってる俺らには縁の無い話だったから知らねぇだけで、たぶん公然の秘密ってやつじゃねぇか?これからの社内の人間関係が不安でしょうがねぇぞ」

 佐藤が不満気に言った。

「AIにだろうが評価されるのはいいことじゃん!」

「うん、使えるリソースも倍増だしね」

 分かってねぇ、分かってねぇよ、こいつら。

「人間の基準でAIの奴等のやることを判断するな。なんでセントラルAIのアバターが幼女だったか分かるか?」

「うーん、可愛いからじゃん?」

「違う、奴等に可愛いなんて感情は無い。てか、感情なんてものをそもそも持ってねぇよ。人間が何を可愛いと思うかの閾値は持ってるがな。あれが一番効率が良いから、あの姿なんだよ」

 最適化と効率の向上をレゾンデートルとする奴等と、生き残るために進化してきた人間の行動原理が一致するわけがねぇ。

「あれのどこが効率良いんです?」

 山田が頬に指をあてて首をひねる。おい、その仕草を男のおまえがやっても可愛くねぇ、殺すぞ。

「人間を対象にしたインターフェースだからだよ。幼女の姿なら人間との交渉で必須の社交辞令やら全部すっ飛ばしても、相手に不快感を与えねぇ」

「あ、確かに」

「さらに自分の言いたいことだけ言って、人の言うこと聞いちゃいなくても許される」

「あん時も言いたいこと言って、人の言うこと聞いてなかった!」

「あれが対人インターフェースの最適化の結果だよ。まあ、人間が自ら招いた結果だけどな」

 要するにAIの行動基準を人間のものに当てはめるなってことだ。

「だからAIから評価は、過去の実績に対してじゃねぇ。それがなんか分からんが、俺達にやらせた方が効率的だと判断された仕事が降りかかってくんだよ」

 呪いだ、呪われたんだよ俺達は。

「あ、そうだ、てことは社食のメニュー管理してるのはAIってことじゃん!」

 何を思い付いたか佐藤が突然立ち上がって叫んだ。

「ああ、たぶんそうだ。オートメーション化された社食システムもAI制御だからな」

「だったら麺類もっと数増やしてくれてもいいじゃん!」

 俺は肩をすくめて言った。

「AIによる最適化の結果だ。あきらめろ」

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