呪われし者達
必死に走り続けても何ら小さな染みに変化がなく高揚感も薄れ始めた頃、小さな染みが何らかの個体としての形を持ち始めた。やがてははっきりと視認できるようになったその姿は、想像していた威厳ある王としてのものではなく、慈愛に満ちた聖母のような姿をしていた。
『お待ちなさい、平和を乱し、混乱をもたらす者達よ。何故にそのような暴虐を働くのです?』
威厳に満ちているがおだやかなまなざしで聖母が俺達に語りかけてきた。
後から思えばゴブリンキングと言っても人間の作業用のインターフェースとして構築された、ファンタジー系の仮想空間のアバターとしての仮の姿だ。ガーベッジ化して暴走しているが元になっているのはワーカー達の制御用AIなのだから王と言えども戦闘能力などあるはずもない。
だが、ゴブリンの駆除作業を開始してから既に10時間以上が経過し、精神的に余裕の欠片も残っていない俺達は、走る速度を落とすことなく問いかけてくる聖母に襲いかかった。
「うっさいっ!とっとと死にやがれ!こちとら疲れてんだ!」
俺のシャイニングアローを始めとして、神村のメテオ、佐藤のホーリーと続き、爆煙やら魔法攻撃の訳のわからない光で視界が遮られる中へと山田が飛び込んでいく。視界が徐々に晴れていく中、固唾を飲んで見守る俺達の目に聖母の胸のど真ん中に大剣をぶっ刺した山田の姿が写る。
『ああ、愚かな者達よ。汝らに永久の呪いのあらんことを・・・』
聖母が恨み言を言いながら光に溶け消え、そして暴走した制御用マザーAIの動作終了により、その制御下にあったゴブリン達も波が引いていくように消えていく。
俺達はしばらく無言でたたずんでその幻想的な風景をぼうっと眺めていたが、やがて佐藤がぽつんと呟いた。
「これって、うちら悪もんじゃん?」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。悪もんは山田だ。これで山田もりっぱな呪い持ちだ」
「え、待ってくださいよ。みんなも思いっきり攻撃してましたよね。呪われるんだったらみんないっしょですよね?」
「でも、とどめ刺したのは山田先輩じゃん?」
「愚か者よ、永劫に呪われるがよい・・・」
「いやいや、達ってついてましたから!愚か者達って!」
目標を達成しテンションがおかしくなっている俺達に、常にマイペースな神村が冷静な口調で言った。
「なんか変じゃないっすか?」
落ち着いて辺りを見回せば、いつの間にか俺達は会社のふかふかの絨毯が引かれた重役室のような部屋で豪奢なデスクの重厚な皮張りの椅子に座った、にこにこと笑みを浮かべている3才ぐらいの幼女の前に立っていた。
『こんにちは!ジャパンセントラルAIのアイリだよ!』
幼女が元気よく挨拶した。
「あ、ああ、こんにちは・・・」
なんなんだ、この状況は。
『みんながんばったから、ご褒美にレベル2にレベルアップしたんだよ!』
「へー、業務用仮想ファンタジーシステムにレベルアップなんてのあったんだ・・・」
山田が驚いたように呟いた。
「いや、そんなもんねぇよ。たぶんこれは別もんの話だ」
『仮想のコアアレイ、メモリーやストレージの割り当てが倍増だよ!よかったね!』
「あ、ありがとう、でもそれでなにを・・・」
『これでもっともっとがんばれるね!アイリ期待してるよ!』
「いや、だから・・・」
『じゃあ、またねっ!』
ちっ、人類をなめやがって・・・、この幼女の姿をしたアバターは効率を重視したがゆえの選択か・・・。
質問すら許されず、にこにこと手をふる幼女に俺達はぽいっと重役室から放り出されるように強制ログアウトされた。




