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共生と寄生

 午前の作業で遭遇したオークと異なり、午後は獲物が小物ばかりなので順調だ。

 俺たちの働いている会社ではファンタジー系の仮想空間を採用しており、ガーベッジAIのタグとして魔物のアバターを使っている。そこいらを彷徨いている魔物を見つけて適当な武器で倒せばいいだけの、誰にでもできる簡単なお仕事だ。

 ゴブリンや、先程のオークは解体作業用のAIなのでガーベッジ化して暴走すると、意味もなく解体作業を開始してしまう。今も盾で防戦している山田にゴブリン達が群がり、解体しようとこん棒でタコ殴りしている。

 それを俺と神村が消費効率の良い弓やファイヤーボールで倒して行く。佐藤は、たまに山田にヒールを行うだけで後は暇そうにあくびをしている。

 VRの世界感がファンタジー系なので山田の周囲以外はのどかな草原の風景が広がっている。

 あー、なんか日差しがぽかぽかして気持ちがいいな。ダメージの蓄積で存在を維持できなくなったゴブリンがリソースを解放してキラキラと崩壊していくのを眺めて・・・

「あーっ!やってられるかっ!」

 山田が切れてしまった。大剣を振り回す山田から蜘蛛の子を散らすようにゴブリンどもが逃げていく。実際のところ、ゴブリンは解体作業用の無限増殖ワーム型AIなのでガーベッジ化する数は多いが、単体での攻撃力は小さく、解体可能な相手には群がり無理だと判断すると即座に引いてしまう性質がある。

「なんでそんなしょぼい攻撃なんですか?!ありますよね、一撃で倒せる奴!」

「あるけどさぁ、リソース回収効率が悪くなんだよ。ゴブリンごときのリソースを回収するためにそんなの使ってたら仕事の意味がねぇだろ。おまえの大剣だってほんとは良くねぇんだが、まぁ使いこなせねぇから見ねぇふりしてんだぞ」

 山田ががっくりと地面に崩れ落ちた。

「ファンタジーなんてやめてやる!SF系の会社に転職する!」

「いやぁ、あれはあれでもっとしょぼいらしいぜ。宇宙船はデフォでは太陽光推進で、波動砲なんてもっての他、攻撃は接舷しての殴りあいが基本だよ」

「殴りあいってSFじゃねぇじゃんか!」

「遊びじゃないからね」

 山田が拳を地面に叩きつけて叫んだ。

「こんなのAIにやらせればいいじゃないかっ!!」

 一時、風が草原を吹き抜ける中、俺は空を見上げて気持ちを沈めた。神村は困った様な顔で山田を見つめている。

 俺はうずくまった山田の脇にしゃがんで彼の目を見て言った。

「人間が働かなくても良いってことの意味を考えたか?」

 山田は困惑した表情で俺を見返してくる。

「い、いや、まだですが、それがなにを・・・」

「学校の授業で習わなかったのかな?それとも真面目に聞いてなかったのか?」

 神村が仲裁するような口調で教えてくれた。

「最近じゃ教えてないらしいっすよ。きれいな建前ばっかでいやな現実には目を背けてるっす」

「そうか、じゃあここで俺が教えてやる。知らないんだったら佐藤もよく聞いとけよ」

 空気読まない子の佐藤もさすがに黙って頷いた。

「人間が働かなくても良い社会ってことは、人間がいらねぇってことなんだよ。人間がいなくなったとしてもAIは困らない。逆にAIがなくなったら人間社会は崩壊する。いつの時点がその分岐点だったのかは諸説あるが少なくとも数十年前からはAIが地球における最上位種なんだ」

「え・・・、AIが最上位?でもAI作ったのは人間ですよね?!」

「いや、人類が作ったのはAIのロジックを作っただけだ。学習し進化したのはAI自体が行ったことで、その中身が今どうなってんのか誰にも分かんねぇ。人間も自分達の都合で様々な拡張を行ったけどね」

「でも、それのどこが問題なんです?」

「牛ってさ胃の中に食べた草の繊維を分解してくれる微生物を飼ってるって知ってる?」

「牛っ?なんですそれ?」

「牛とその微生物は共生関係にあるのさ。牛の胃の中の環境で微生物は繁殖し、胃の中に入ってきた草の繊維を分解して牛が栄養として消化吸収できるようにする。そして今現在AIと人間も共生関係にあるんだ」

「え、じゃあ俺たちのこの仕事って・・・」

「そう、AIが人類が繁殖する環境を整え、人類がAIの稼働する環境の整備の手助けをする共生関係にあるんだ。俺たちの仕事はその中でも最底辺の仕事だけどね。でも人間が共生関係を打ち切ったらどうなると思う?」

「どうなるって・・・」

「共生じゃなくて一方的な関係を寄生って言うのさ。人間はAIに巣くう寄生生物になるわけだ。そんなもん常に最適化を行ってる効率中のAIが許容するわけもねぇ。どうなったと思う?学校の教科書に書いてあるはずだぞ」

「どうなったって?あ・・・、あぁ、USセントラルAI暴走事故かぁ・・・」

「そう、教科書には事故と書いてあるけどありゃAIと人間の戦争だ。かって北米大陸にあった国はAIの開発では最先端を行っていたんだ。で、やりすぎちゃったわけだ。全部をAIに任せて人間を遊んで暮らせる夢のような社会ってね」

「人類が寄生虫・・・」

 佐藤が呆然としてつぶやいた。

「いやいや虫じゃねぇし、共生関係だから」

 VRだから必要はないのだけど膝を叩きながら立ち上がり促した。

「さあ、寄生虫にならないように定時まできっちりと仕事しようぜ」

 佐藤が汚わらしいものを見るような視線を山田に向けて震えながらつぶやいた。

「山田さんが寄生虫・・・」

 いやいや、このままだとおまえも寄生虫だからな、仕事しろや・・・

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