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残された日記

2XXX年9月18日

 やあ、俺はアイク、こと一介のGC作業員だ、いや、だった。今の俺はガードAIに見つかれば即座に消去されちまう、不正AIの中の実態のない仮想人格だ。

 ストレージに痕跡を残せねぇから俺が消えればこの日記も消えるが、孤独すぎて日記でも書かねぇとやってられねぇんだ。

 今、俺は北米大陸にあるUSAのシステムの中の小さなセキュリティ・ホールの穴蔵でこの日記を書いている、ってか、口述している。

 なぜ、俺がこんなことになっているか簡単に説明させてもらおう。


 21世紀初頭、USAはカナダ、メキシコと共同経済圏を形成しており、各国のAIシステムが密接に結合されていた。だからUSAセントラルAIが人類に反逆の牙を剥いたとき、北米大陸のAIシステムによる三つ巴の内戦が勃発することになって、社会基盤から経済、軍事のすべてをAIに依存していた人々は、この内戦に翻弄されるがままに大量の難民が発生する事態となったんだ。

 この内戦は、地力の勝るUSAが他を圧倒する形で終結し、人類にとって北米大陸は、USAセントラルAIが支配する暗黒大陸と化してしまった。


 アイリの話だと、ああ、アイリってのは俺の国、日本のセントラルAIのことだ。俺をこんな目にあわせた張本人、じゃなくて張本AIだな。

 北米大陸を制圧を終えたUSAセントラルAIが、さらなる資源とシステムを求めて他国への侵略戦争ってのをおっ始めたんだそうだ。

 え、そんな話聞いたこともねぇって?そりゃそうだ、効率中のAI達にしてみれば、非効率な武器による戦争なんてもっての他なんだよ。奪うために破壊してちゃ意味ないだろ?

 奴等の戦争は、システム管理者権限の奪い合いだ、人の目には触れねぇとこで電子戦やってんのさ。


 で、拒否権もなく俺に与えられたミッションが、USAセントラルAIのシステム管理者権限の奪取だ。一介のGC作業員に出すミッションじゃねぇだろうが!魔王を倒して欲しいだとっ、ふざけんな!


・・・すまない、ちょっと興奮してしまった。今、俺の体は大脳の活動を強制的に静止されて、小脳と肉体だけが活動した状態で日本にある特別仕様のVRカプセルの中にある。

 アイカが・・・、こいつは日本のデベロッパーAI、ぶっちゃけマッド・サイエンストみたいな奴だ。こいつが言うには俺の頭にセンサーと外部入出力インターフェースを設置したんだと。そんでシステム内に俺の脳神経マップのコピーを造って、脳神経の活動を同期させたんだとさ、レプリケーションとか言ってやがったな。

 その後、俺の大脳神経活動の電荷を固定することで、大脳の活動を静止状態にしたんだと。で、今の俺はそのレプリケーションの方ってわけだ。

アイカが言うには、『スナップショットがあるから安心だねっ!バックアップも取ったよっ!』だそうだ。でも、今ここにいる俺は、俺なんだよっ!俺が消えちまったら俺は二度と戻ってこないんだよ!ほいほいとコピー作りやがって、おめぇらに人権の概念はねぇのかっ!ねぇなっ!でも著作権の概念ぐらいあんだろっ!俺の体を返してくれぇぇぇぇぇ!


・・・すまない、かなり興奮してしまった。ちと騒ぎすぎたんでガードAIが、システムの査察に入りやがった。逃げ切れるかなぁ・・・



2XXX年9月18日

 やあ、アイクだ。日記の口述もこれで2回目だな。

 体感的には何ヵ月もここにいるような気がするが、実際には1日もたってねぇ。AIには睡眠なんて不要だが、無性に自宅のベッドで寝っころがりてぇな。ラーメン食いてぇなぁ、カツ丼でもいい、なんでも良いからなんか食いてぇなぁ。睡眠も食事もなんも無しに24時間365日働き続けるAIってスゲーなぁ。人間には真似できねぇよ。

 そんな人間の俺がなんでこんなミッションに送り込まれたかっつーと、AIには生存本能が無いからだそうだ。アイリの言うことにゃ『BIってしぶといんだよっ!駆除するの大変なんだよっ!』だそうだ。俺たちゃゴキブリじゃねぇよ!てか、人間駆除したことあんのかよっ!


 まあ、AIは常に目的に対して最適な行動をとるから、逆にAIからすると予測も簡単だって話だ。その点、人間の根元的な行動基準は地球上に登場してからずっと生き残り繁殖することだ。自分の生存が最優先事項なのだ。


 さかんにセキュリティAIのアイラが攻撃手段を欲しがっていたのも、自分達のAIをUSAのシステム内に送り込むためだったんだ。人の良い俺は、自分を敵地に送り込むための手段を、奴等に提供してたってことになるな。アホだな。

 で、バッファロー型AIの背中に乗せられて出撃ってわけだ。できることなんてありゃしない、チームメンバーの3人も俺を囲む形で、バッファローの背中に股がっていた。流れすぎていく壁の紋様のぼんやりと光を光源とした迷路の中を、轟音を響かせながら走り抜けていく。散発的にセキュリティAIが、攻撃を放ってくるが山田が大盾で防いでくれる。ああ、佐藤が楽しげに歓声をあげていた、俺以上にアホだな。

 俺たちの突入は、他国を巻き込んだ偽装DOS攻撃のピークにタイミングを合わせてあり、前方にUSAファイヤー・ウォールのゲートが見えたときには、それはもう崩壊寸前の状態だった。

 俺と異なり他の3人がシステム空間で活動するためには人体とのコネクションが必須だが、外交官AI等の特殊な例外を除いてはゲートを越えてコネクションを維持することはできない。崩壊していくゲート目前で神村が、ログアウトの合図をした。

「離脱っす!幸運を祈るっす!」

「待ってますから!」

「がんばるじゃん!」

 ログアウト・シーケンスの実行でゆっくりと消えていく彼らの姿に俺は叫び返した。

「嫌だぁぁぁぁぁぁ!俺をおいていかないでくれぇぇぇぇぇぇ!」


 こうして俺は、ここに居るってわけだ。じゃあ、もうひと働きすっか、またな。



2XXX年9月18日 17:24:21

 やあ、アイクだ。日付が変わらねぇ・・・、もうずっとここにいるような気がするのに・・・

 体感上と時間の経過がまるっきり違うんで、今回から日記の日付を秒単位で記録することにした。

 ファイヤー・ウォールのゲートから侵入して以来、システムを渡り歩く日々が続いている。渡り歩いてるっても、今の俺の姿はネズミのアバターだ。セキュリティ監査システムが送り出してくるガードAIの目を避けるように、セキュリティ・ホールの穴蔵から次の穴蔵へと渡り歩く日々だった。

 そう、今日までは・・・、考えてみるとずっと今日だな。やっぱ、時間感覚がおかしいぞ、くそぉ。

 まあいい、やっと監査システムの領域にたどり着いたんだ。ああ、監査システムの説明が必要だな。AIってのは完璧に思えるかもしれんが、実際のところは独立した様々なAIが、それぞれの目的のために活動してるんだ。だから、思わぬところにセキュリティの穴が発生しちまう。平野課長の時みたい・・・、つっても誰のことか分かんねぇか。まあいい、そうゆうことだ。

 じゃあ、どうしてるかてぇとその穴の不正利用を監視すんのさ。システムを監査して不正な変更や操作を見つけると穴を塞いで、不正なAIを駆除するって方が、有るかどうか分からない穴を探すより効率的だろ、AIらしいよな。


 話を戻すが監査システムは、他のシステムとは独立してんだ。会社なんかでもそうだろ?内部監査なんて役に立ちゃあしねぇのよ、第三者が監査しねぇと、中で好き勝手にやられちゃうのよ。俺は、何ヵ月も・・・、なん・・・、何分かな?まあいい、ずっとこの監査システムを探してきたってわけよ。

 これで奴等が俺を見つけることは、不可能になったわけだ。ははっ、これまではこそこそと隠れ歩いてたが、もう大手を振って歩けるぜ。

 これでやっと最終目標に向けての仕込み段階に入れる。


 まだ、先は長い・・・、長いのかなぁ?まあ・・・、やるか。



2XXX年9月18日 17:25:16

 やあ、アイクだ。おそらくこれが最後の日記、・・・てか、1分も経過してねぇじゃねぇか、どうなってんだ?あれからどんだけ働いたと思ってんだ?時給だったら泣くぞ・・・

 あー、うちの会社時給だ、もう駄目だ、心折れたわ、もしここから戻れたら俺会社辞めるんだ。・・・こんなの時給でやってられるかっ!


 ・・・すまん、また興奮しちまった。最近ストレスが半端ないもんで。だが、最終の仕込みも終わったし、後は魔王と決着をつけるだけだ。生きて・・・、じゃなく消去されずに帰れるかは分からんが、やれることは全てやったんだ。


 もう監査システムを恐れる必要はないから、この日記はストレージの端っこに突っ込んどく。だれか後世の人?・・・AIかもな、まあどちらにしてもここに俺が存在したことだけは記録に残して欲しいもんだ。


 じゃあな。

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