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常識と非常識の境界

 昨日と同様に通過していくAI達をしばらく観察していたが、特に注意を引くような動きもなかった。

「駄目だな、こんなのいくら見ててもアイディアなんて出てこねぇ」

「普通に通過して行くだけっすね」

 佐藤が手すりにもたれて手をだらんと下げた姿勢でほざいた。

「めちゃ、退屈じゃんか」

 てめぇ、考える気ねぇだろ、働けよ。

「仕方ねぇ、4人でブレイン・ストーミングでもやろうぜ、なんかアイディアが出てくるかもしれねぇ」

『ブレイン・ストーミング!それ、アイラも大好きだよっ!アイラもやるっ!』

「心臓に悪いから、登場するときは何か演出いれてくんねぇか?」

 突然後ろに現れたアイラは、コテッと首を捻った。

『演出?そんなのいらないよっ!それより早くブレイン・ストーミングやろうよっ!人間にもブレインあったんだねっ!』

「てめぇ、さらっと人類ディスりやがったな。だったらBIのIは何の頭文字だってんだよ!」

『そんな酷いこと言えないよっ!本当の事でも言っちゃいけないことがあるんだよっ!』

「インテリジェンスじゃなかったんすね。ショックっす・・・」

 もう、俺はこいつらに一切の常識を期待しねぇぞ。てかAIに常識なんて概念ねぇんだろうな。

「その前にお前らに言っておくが、俺たちがAIどもの侵略戦争のアドバイザーやってるなんて、絶対に外で漏らすなよ。ただでさえ変に注目されてんだ、これ以上のトラブルは御免だぞ」

「確かに言えないっすね」

「了解です」

「えー、友達に自慢したいじゃん!」

「アイリに言ってお前のラーメン禁止するぞ」

「了解じゃん!」

『無駄話は終わった?もう、ブレイン・ストーミング初めて良い?』

 無駄話じゃねぇよ、お前らの尻拭いの話だろうが!

「分かった、誰か何かアイディアあるか?」

「AIに爆弾かなんか積んで送り込んじゃえば良いじゃん」

「不正AIだとループ対策パッチで戻ってくるだけっす」

「じゃあ、正規AIに積んじゃえば良いじゃん」

『それは駄目っ!相手国が発行したシリアライズ・マップを持ったAIが不祥事を起こしたら通商外交担当のAIに怒られちゃうっ!』

 こいつら侵略戦争している相手と普通に通商をやってやがるのか、わけ分からんなぁ・・・

「てことは、正規AIは使えないってことですね」

『うんっ!でも、ばれなければ大丈夫だよっ!』

 当然のことながら常識だけじゃなく倫理の概念もないと・・・

「それでは巨大なAIを大量に送り込んで通路を詰まらせて閉鎖しちゃうのはどうでしょう?」

 港湾を閉鎖しての、通商破壊ってやつだな。

「有効かもしんねぇ」

『でも、大型兵器持ってきてすぐに破壊されちゃうから、意味ないよっ!』

「やったことあんのか?」

『うんっ!武器も積んでみたけど、もう今はやってないよっ!』

「僕たちの考えるようなことは既にやり尽くしてんじゃないですか?」

「だろうな、正攻法じゃ無理だな」

『じゃあっ!あなたの大好きな邪道だねっ!』

 こいつの中で俺の評価がどうなっているのか、分解して確認してぇな。まあ、ここはチームリーダとして落としどころをつけるべきだな。

「まあ、評価してもらっててこんなこと言うのもなんだが、所詮俺たちごときじゃ軍事アドバイザーなんて無理なんだよ」

『そんなことないよっ!邪道に関してだけは光るものがあるよっ!』

 だけかよ!評価辛すぎねぇか?!

「わりぃなぁ、ああ、俺たちの肩には荷が重すぎるんだよ。まあ、レベルダウンも甘んじて受け入れるよ」

 アイラがしょんぼりとして言った。

『そうかぁ、残念だなぁ。やっぱ、人類って不要なのかなぁ・・・』

「ちょっと待てっ!今なんつった?!」

『うんっ!最近ねっ!人間て役に立たないよね!ってみんな言ってるのっ!』

「すまん、邪道考えるわ、ちょっと待っててね」

 チームメンバーの方に振り向いてチームリーダーとしての威厳を込めて言った。

「なんでも良いからアイディアだせっ!」

「今、さらっと人類を人質に脅迫されたっす!」

「ちょー怖いじゃん!」

「ぐだぐだ言ってねぇで、早くアイディアだせっ!人類の存続がかかってんだぞっ!」

「そんなこと言われても簡単にアイディアなんて出てこないですよ」

「じゃあ、こいつらが最近まで使ってたDOS攻撃をベースに考えよう。まだ改良の余地があるかもしれねぇ」

 佐藤がびしっと手を上げた。

「帰ってきたAIの受け取り拒否すれば良いじゃん!」

「佐藤にしてはまともな意見だなぁ、だが帰ってきたAIの受け取り拒否ってループするだけじゃねぇか?」

『うんっ!ループするよっ!』

 嬉しそうにぴょんぴょん跳ねながらアイラが肯定した。今の話に喜ぶ要素がどこにあるってんだよ。

「じゃあ、出口専用の設備を造って、それでDOS攻撃するっす」

『そんなことしちゃいけないんだよっ!非常識なんだよっ!』

 おまえらにも非常識なんて概念があったんだな。人間からするとおまえらの常識、非常識の基準が非常識すぎてわけ分かんねぇよ。

「そう言えば、出口に誘導されたAIが元の場所に戻ってくるのは何故なんだ」

『アイラが行き先と戻り先を設定してるからだよっ!』

 ふーん、AIって頭が良いのか悪いのかよく分からねぇなぁ。

「じゃあ、戻り先に別の場所を設定したらどうなるんだ?」


     ***


 上から見守る俺たちの下を大量のバッファロー型AIが轟音と共に留まることなく通過していく。その列は分岐にぶつかるたびに二つに別れ、無数の支流へと分岐していく。

 すでに戻り先を偽装したDOS攻撃を開始してから3時間が経過したが、その勢いに陰りは見えない。

『順調だねっ!』

「ものすごく非常識なことをしている気がするんだが、気のせいか?」

『気のせいだよっ!ものすごい攻撃だよっ!』

 このバッファロー型AIの行き先には様々な国が設定されているが、戻り先に設定されている国は一つだけだ。もちろんそれは日本ではない。

 アイラのDOS攻撃対策パッチを各国が実装済みの現状でそんなことをすれば、日本以外のすべての国で大規模なループが発生することになる。そして、最大の被害を被るのは、戻り先を偽装された今回の攻撃対象国ってわけだ。

 気のせいじゃなく、すっげぇー非常識な攻撃だな。関係ない第三者を盛大に巻き込んでんじゃねぇか。

「んじゃ、俺たちは昼飯食いに一旦ログアウトさせてもらうぞ」

『あれっ?!業務用カプセルだから栄養注入機能があるよねっ!』

「勘弁してくれよ、機械に燃料入れるのと一緒にしねぇでくれ。使いすぎると、胃が縮んじまって大変なんだぞ。それに休憩も取らねぇと、頭も回んねぇよ」

 アイラは、ぷくっと頬を膨らませた。

『BIって不便だねっ!改修が必要だねっ!』

「人間様が、そんな簡単に改修できるもんか。じゃあな」

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